http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/eromog2/1199709621/162,167,181 一瞬、三橋の全てが凍結したように動きを止めて、俺たちの間に漂う空気は微動だにしない。
「・・・あ、のっ、阿部、くん。いま、なん、て?」
三橋が舌をカラカラにして、長い沈黙の後ようやく言葉を紡ぎだした。
「お前の右腕、一回折らせてくんない?、っていったんだけど。」
俺はあえてゆっくりと、三橋が理解できるように言い聞かせてやる。
「なんでも言うことを聞くっていったよなぁ?三橋。だから、俺が一番望んでることなんだけど。」
受けいれたくはなかった、そう言う様に三橋の表情が一気に青ざめていく。
何か喋ろうとして口をパクパクさせている三橋は、けれどもパニックからか何も声に出せないで、ただひたすら
脅えた表情を俺に向けてきた。
「なるべく・・・痛くないようにしてやるから、さっ!」
狼狽しきっている相手を壁際まで追い詰め、俺の左手で三橋の右手を掴みあげ、壁に押し付ける。
三橋はこの手を折られたら、投手としてマウンドにたつこともできなくなる。
利き腕を骨折したとして、その後治療期間、リハビリ期間そしてもとの練習メニューに戻るまでにどれほど長い時間を要するか、
捕手として俺は理解している。
そのまま勘のようなものを取り戻せずにマウンドを去った人材を何人も目にしている。
今、三橋が抱えている恐怖はそんな俺の想像を絶するものに違いない。
俺が左手に若干力を加える。
三橋はただ青ざめた表情のまま、俺に掴まれた右腕を見やった。
「・・・ぃや・・・」
小さく三橋が呟く。
その瞬間堰を切ったように三橋が右手を振りほどくべく暴れだした。
「嫌だ!右腕だけはイヤ!離して、阿部くん!」
押しつけられた右肩と右手を庇うように、乱暴に俺の手を組み解く。
−なんなんだ、これは?−
俺はえぐり返したくもないデジャヴに飲み込まれてゆく。
>>49 自分勝手で、俺のことなど的か壁にしか思っていないバッテリーがいた。
それでも俺はあいつの才能に惚れて、負けず嫌いな性格もあってか相応しい捕手になろうとしていた。
それなのに。
あいつは、榛名は「あの試合」のあと詰め寄った俺に対して、一言だけ言い放った。
「てめぇ、左肩怪我したらどうすんだよ・・・、」
「離せ!!」
「離して!」
三橋が掴まれた右腕を庇おうと必死に抵抗している。
つい先ほどまでの従順な犬奴隷から、また俺の恐れている傲慢な投手の面影が覗く。
「・・・ははっ・・・!」
俺は賭けに負けた。
自嘲の想いからか口に出たのは情けない笑い声だった。
「やっぱりな!やっぱりお前も俺のことなんて信頼してなかったんだな!ただ俺の機嫌を取るために口先だけのことを言って・・・。
俺に心の底から服従なんてしていなかった。そうだろ、三橋!?俺が・・・俺が何より大切なお前の右腕を折るなんて、
出来るわけがないのにな!それなのに、お前は俺のことを信じなかった!結局・・・お前は俺のものになんかならないんだろ・・・?」
後から後から、言葉があふれ出てきた。
もう癒せない絶望だけが俺を取り巻いている。
「あ・・・・ごめんなさい・・・ごめん、なさい!!」
掴んだ手の拘束を緩めると、三橋が青ざめた顔をして喚きだす。
ひたすら、耳障りだった。
俺は、当然だが本心から三橋の利き腕を傷つけるような真似をするつもりはなかった。
ただ、こいつを試したかっただけだった。
昨日の言葉が本心からなのか、こいつは本当に俺に信頼をよせてくれる投手なのか。
でも、全てがもう遅い。
愛玩用にさえ出来ない犬には、せめて最後に一仕事してもらおうじゃないか。
タガがはずれたかの様に、三橋に対する嗜虐心が再び、むっくりと首を持ち上げた。