>>736 「…ニュース見た?」
「見た見た、怖いよねー」
「犯人まだ捕まってないんだって!」
「えー、怖ーい!」
休み時間になるやいなや、クラスの女子が一か所に集まって例の事件の話で盛り上がる。
それにしても、女っていうやつはどうしてこうも猟奇殺人だとか凶悪犯罪だとかいう話が好きなんだろうか。
オレもそういうのには耐性がある方だとは思うが、それでもやっぱり事件の詳細を聞くと食欲が減退する。
…11日未明、埼玉県内で複数の男性のものと思われる手足が発見された。
今現在発見されているものだけで6体分にあたるそうだ。
頭部と胴体はまだ見つかっていない。
「おーい阿部、お前化学室にノート忘れただろ」
「あ、そうだっけ」
「2組の奴が見つけて持って来てくれたぞ。ホラ」
「わりィ」
花井から受け取ったノートをパラパラ捲る。なんだ、化学の実験があったのって先週じゃねェか。
オフシーズンに入ったからか、最近どうも気が抜けていけない。
(これじゃアイツのこと言ってらんねェな…)
先週分の書き込みの後は白紙のページが続く。当たり前のことだが。
特に意味はなくそのまま捲っていくと、最終ページまで捲った時にオレはある違和感に気づいた。
(何だ? こんなの書いてないぞ)
背表紙の裏、バーコードシールの横に見覚えのない鉛筆の走り書きがある。
全く筆圧が入っていないような薄い文字で、なんて書いてあるのかわからなかったけど、最後の一言だけはかろうじて読み取ることができた。
『…ああこひし きみ』