>>718 「馬鹿もんがぁっ!!」
銃の柄で思いっきり殴り飛ばされ、オレは尻もちをついた。
少し離れたところで整列している三橋が心配そうにこちらを見つめている。
(馬鹿野郎、見んな。お前も怒られっぞ)
「お前らの代わりなんぞいくらでもいるが戦車の代わりはない! 肝に銘じておけ!」
そう言って、中隊長殿は戦車隊全員をくまなく睨みつける。
言われなくたってわかっている。錆びた九七式中戦車8両、それがオレ達の命綱だった。
そのうちの一両に整備不良が見つかったのは今朝のこと。
もともとその一両はお情けで回されたような中古品、ほとんどの隊員は動けば儲けくらいにしか考えていない。
誰が見てもそんなことは明らかなのに、帝国陸軍を妄信しきった中隊長殿にそれを進言する者はいなかった。
(動いたところで砲台か歩兵の盾代わりにしかならねェってのに…)
「何か言いたそうな顔だな?」
「はい! 何も申し上げることはございません、中隊長殿!」
「そうか、ならお前は明日の朝までにそいつを直しておけ! いいな?」
「はい! 了解いたしました! 中隊長殿!」
その夜、
オレは命ぜられるままチハ車の修理に取り掛かった。
直せるあてなんかなかった。なにしろ、圧倒的に物資が不足している。
だけど、ここで何とかしないわけにもいかない。多分このポンコツはオレらに回される。
せめてエンジン部分だけでもなんとかしないと、こいつと一緒に御陀仏だ。
(ったく、どこがいかれてるんだ?)
戦車学校で習った知識をフルに活用し、部品の一つ一つを点検していく。気が遠くなる作業だった。
「あ、阿部…くん!」
小さいけれどよく通る声に呼びかけられ、思わず口に咥えた懐中電灯を落とす。
振り返るとそこにいたのはやはり三橋だった。