Berryz工房のエロ小説を書こうよ!!! part3
待ち合わせの場所に彼女の姿を見つけて、慌てて小走りになる。
彼女は、いつも僕を待っている。
5分前に来ても、10分前に来ても、30分前に来ても。
女の子は彼氏を待っているもの、というのが、彼女の理想らしい。
その理想を実現するために、彼女がいったいいつから僕を待っているのか。
どれだけ早く来たら、彼女を待っていられるのか、確かめてみたいと思うことはあるけれど、怖い気もする。
彼女はにこにこと柔らかな笑顔を、僕に向けて浮かべていた。
僕が彼女を見つけるよりずっと前に、彼女は僕を見つけていたようだ。
「ごめんなさい、えりかさん。待たせてしまって」
謝ると、僕よりも少し背の高い彼女、梅田えりかさんが、微笑んだままで首を振った。
「そんなに待ってないよ。まだ約束の時間より前だし」
確かに時計は、約束した時間の5分前を指している。
僕はこの時点で、すでに自分の犯した失敗に気づいていたが、なんとかごまかせると思って、あえて触れないようにした。
「映画の時間、何時からだっけ?」
「40分からだから、ゆっくり歩いても余裕だよ」
微笑んだままのえりかさんは、いつもと変わらぬ口調で答えたので、気づかれなかったと思い、僕は胸を撫で下ろした。
しかし。
「それより」変わらぬ笑顔で、「また、さん付けしたよね?」
僕の失敗を突いてくる。
「あ、いや、そうでしたっけ……?」
「敬語も」
続けて指摘され、言葉に詰まる。
さん付け禁止。
敬語禁止。
付き合い始めたとき、えりかさんに約束させられたことだった。
身長だけでなく、歳も2つ上なので、つい敬語を使ってしまう。
もしも破ったら。
「じゃあ、わかってるよね」
瞼を下ろし、ちょん、と唇を尖らす、えりかさん。
もしも破ったら、どこであろうと、キスをすること。
それが僕に科せられたペナルティだった。
人目のないところだったらいいけれど、さすがに人通りもあるし、と逡巡する。
えりかさんはその姿勢のまま、微動だにしない。
その様子を不審に思い、視線を向けながら通り過ぎていく人たちが現れ始める。
このままだともっと増えてしまう。
熱くなる頬を無視して、唇を重ねた。
柔らかい感触に、胸が鳴る。
これは罰ゲームではなく、約束を破られて傷ついた心を慰めるためのものだ、というようなことを、えりかさんに言われた。
そうなんだ、と思うしかない。
目を開けたえりかさんは嬉しそうに、本当に嬉しそうに満面の笑みを浮かべ、腕を組んでくる。
僕の身長のせいで、少しバランスが悪い。
キスを目撃したらしいサラリーマンが、顔をしかめて通り過ぎていったが、えりかさんの目には映っていないようだった。
僕は、顔から火が出るほど恥ずかしかったけれど、えりかさんが嬉しそうだったから、それで良かったのだと思うことにする。
僕らが付き合うことになったのは、卒業式の日に、えりかさんに呼び出されたのがきっかけだった。
卒業式の朝、クラスメイトから手渡された手紙に、式が終わったら書庫に来てほしい、
という文面と、梅田えりか、という名前が書かれていた。
アイドルが同じ学校に通っていると噂になっていたので、何度か遠くから見かけたことはあったけれど、
直接の面識はなく、呼び出される理由がわからなかった。
僕をだまして、みんなで笑おうとしているんだろうか。
書庫に行くと、隠れていたみんなが飛び出してきて、僕を指差して笑う、というドッキリみたいなことを企んでいるんだろうか。
そうだとしか考えられない。
机の中に入れられていたら、気づかなかったとか、読むのを忘れていたとか、
ごまかしようはあるけれど、手渡されているので、そういった言い訳は通じないだろう。
行ったとしても、笑い話で済むだろう。
むしろ、行かなかった時の方が、みんなを盛り下げてしまって、後が怖い。
しかたがない、このいたずらに付き合ってやるか。
あの時の僕は、そんなふうに考えていた。
後に起こることなど、つゆほども知らずに。
卒業式が終わり、教室に戻ると、担任が連絡事項を伝えて、放課後になる。
教室で雑談していたり、部活に行ったり、塾へ向かったり、早々に帰ったり、
卒業生を見送りに行ったりと、それぞれ思い思いに行動している。
帰りにカラオケに行くという友人に誘われたけど、用事があると断った。
そこで、おや、と首を傾げた。
これから引っ掛けようという相手を、カラオケに誘う?
おかしいな、と違和感を感じた。
それも演技だとすれば、たいした手の込みようだ。
だけど、そこまでするだろうか。
まあいい。ともかく、書庫へ向かおう。それではっきりするはずだ。
手紙をポケットに入れて、教室を出る。
廊下を歩きながら、考えをめぐらせる。
引っ掛けようとしているのが、クラスメイトではなく卒業生たちだったら。
教師にお礼参りという話は聞いたことがあるが、生徒に対してなんて聞いたことはないし、
だいいち今時そんなことをする人がいるんだろうか。
それに、僕は特に目立つ生徒でもないはずだ。
身長はクラスでちょうど真ん中。
顔立ちは女みたいだとよくからかわれて、あまり好きじゃない。
強いて言うなら、外見と名前が女みたいだと言われるのが嫌で、小学生の頃から空手を習っているが、道場の外で使ったことはない。
思い当たるところは、全くない。
やっぱり手の込んだドッキリなんだろう。
そんなことを考えながら、階段を上り、廊下をさらに進んで、書庫の前に着いた。
図書室からも入れるけれど、まだ生徒がいるかもしれない。
無関係の生徒に見られるのは、何となく嫌だった。
開けようとするが、鍵がかかっていて開かなかった。
図書委員を除けば、普段、使うことのない場所なので当然かもしれないけれど、
開けるなり驚かされると思っていた僕は、ちょっと予想外だった。
さて、どうしようか。
そう思って迷っていると、中から鍵が開く音。
静かに、様子を窺うように、ドアが開いていく。
見つめていると、中から覗く大きな瞳と、ばっちり目が合ってしまった。
その人は、僕を見つけると、そのままゆっくりとドアを開いて、
「良かった。来てくれたんだ」と微笑んだ。
頭の中が真っ白になった。
全く想定していなかった状況だ。
僕よりも少し背が高いその人は、安心したような笑顔を浮かべていた。
卒業生の証である、百合のような造花を、胸に挿している。
遠くから何度か見かけたことがあるだけのアイドル、梅田えりかさんが、そこに立っていた。
「早く入って」
手を引かれて、書庫に入る。
呆然とした僕は、されるがままだった。
書庫は、本が日焼けしないように、厚いカーテンが引かれていて薄暗かった。
我に返った僕が、まずしたことは、他に誰かいないかという確認だった。
つまり、梅田さん本人を使って、僕を引っ掛けようとしているんじゃないか、ということを疑った。
だとすると、たいしたどころではない、ものすごい凝りようだ。
ここまで来ると、驚くを通り越して感心する。
「どうしたの?」
きょろきょろと室内を見回している僕を不思議に思ったらしく、梅田さんは首を傾げて尋ねてきた。
綺麗なお姉さん、といった容貌の梅田さんがするかわいらしい仕草は、僕を動揺させるのに充分すぎた。
「あ、な、なんでもないですっ」
声が裏返ってしまって、恥ずかしい。
僕はごまかすように、
「あの、それで、どういう用ですか?」呼び出された理由を問う。
梅田さんは、うん、と頷くと、
「ちょっと、座ろうか」部屋の隅にある長椅子を指した。
病院の待合室にあるような、背もたれつきの長椅子に、並んで座る。
1人分くらい空けて座ろうと思ったら、すぐ隣に、梅田さんが腰を下ろした。
人の体温を間近で感じて、緊張する。
シャンプーとも香水とも違う、良い匂いが漂ってきて、気持ちがぐらつく。
体の中でヘヴィメタが演奏されているように、騒がしい。
頭でギター、胸にドラム。
わけがわからなくなってきた。
落ち着かなくなって、きょろきょろと周囲を見渡した。
そのあたりで、笑いを堪えているんじゃないかと、人影を探すが、どこにもない。
図書室への扉があるが、ぴったりと隙間なく閉まっている。
「なに、きょろきょろして」
「あ、いや、なんでもないんです」
隣にいる梅田さんに向き直る。
目が合うと、顔を赤くして、照れくさそうに俯いた。
ここまで来て、全く考えてなかった可能性が、思考の片隅に浮かんでくる。
何にもないんじゃないか。
これは本当に、梅田さんに呼び出されただけなんじゃないか。
どれくらいか、そうやって俯いていた梅田さんは、ふと顔を上げて、僕を見つめる。
真剣なまなざし。
意識を失いそうになるくらい、緊張が高まっている。
「あの、君が、入学した頃からずっと……その、ずっと好きでした」
目眩がするような衝撃を受けた。上段回し蹴りをまともに食らったみたいに。
「それで、あたしは、卒業しちゃうけど……つ、付き合ってほしい、です……」
言い切ると、ふう、と大きく息を吐いた。
頬は赤いままだったけれど、伝えきったという安心感が見られる。
しかし、正確には伝わっていなかった。
言葉は頭の中に入ってくるのだが、意味として理解できないというか、
混乱というか動揺というか、とにかく、どうしていいのかわからない。
「ごめんなさいっ!」混乱したあげく、無意識にそんなことを口走っていた。「僕には自信がありません!」
梅田さんと釣りあうわけがない。
アイドルと付き合うなんて、できるわけがない。
そんな思いから出てきた言葉だろうが、実際のところ、自分でもよくわからなかった。
立ち上がろうとした僕の腕を、梅田さんがつかんだ。
振り払おうとか、止まろうとか考えるより早く、甘い香りに包まれた。
長い腕が僕の背中に回っている。
耳元が吐息にくすぐられる。
「断るなんて、いや。こんなに好きなのに……!」
柔らかい女性の体が押し付けられて、頭が破裂しそうだった。
これがドッキリなら、早くみんな出てきてくれ、と僕は願ったが、いくら見回してもクラスメイトどころか、虫の気配さえ感じられない。
「好きなの」
囁いて、目を閉じる。
疑問が浮かぶ間すらなく、唇が重なる。
柔らかくて甘い感触。
頭が破裂してしまいそうだ。
「あたしはこんなにも、君のこと好きだから、自信持って」
再び唇が重なる。
僕は力が吸い取られたように、後ろに倒れてしまう。
「私のこと、好きになって」
ファーストキスを、年上の女の子に奪われてしまった。
キスのせいでおかしくなってしまったのか、それとも動揺していたのが正常に戻ったと言うべきなのか、
梅田さんの顔を真正面から見ることが出来た。
優しく微笑まれて、不思議と落ち着いてきた。と言っても、さっきよりはマシ、という程度だけど。
本来なら、こんなにも綺麗な人に告白されて、断るなんてありえないことだ。
「僕なんかで、いいんですか……?」
気がつけば、そんな言葉が漏れていた。
「君じゃなきゃ、だめだよ」
当然のこと、と言わんばかりの、梅田さんの返事。
そして、3度目のキス。
柔らかい唇を強く押し付けられると、思わず息を止めてしまった。
2度目までは驚いて目を開いたままだったけれど、今度は瞼を下ろす余裕ができた。
少し長めのキスが終わって、梅田さんが離れていく。
ゆっくりと瞼を開けると、はにかんだ笑顔があった。
笑顔を返そうとして、突然、気づいた。
抱きしめられ、押し倒された格好になっていることに。
目の前には、彼女の笑顔。
体に重なる、彼女の体温。
呼吸に混ざる彼女の香り。
体中を全力で駆け巡っていた血液が、下半身に集まってくる。
「あ、あの、どいてもらえますか……」
このままだと気づかれてしまう。
そんな僕の気持ちは伝わらなかったようで、梅田さんはその体勢のまま、
「付き合ってるんだから、敬語は禁止ね」笑顔で言う。
「わ、わかりましたから、早くどいて下さい、梅田さん……」
「敬語禁止。それに、自分の彼女を呼ぶのに、苗字にさん付けはナシでしょ。“えりか”って呼び捨てね」
ひょっとして、僕の体の変化に気づいていて、イジワルをしているんだろうか。
とにかくここは、大人しく従っておかないと。
「わかったから、どいて。え、えりか」
搾り出すように、呼び捨てると、満足したように笑ってくれた。
けれど、その時にはすでに遅かった。
充血して硬く持ち上がったペニスが、ズボンを押し上げ、梅田さんのお腹に食い込んでいる。
布越しとはいえ、女性の体に触れているという意識が、刺激を強くする。
目を丸くして、重なっている体を見下ろす梅田さん。
気づかれてしまった。
顔から火が出る、どころか、全身が燃え上がりそうなくらい恥ずかしい。
抱きつかれてキスされただけなのに、こんなふうになってしまうなんて。
経験のない僕には刺激が強すぎる。
軽蔑されただろうか。
怖くなって目も合わせられない僕は、顔を背けようとするけれど、片手を頬に添えられて、正面を向けられる。
梅田さんの微笑。
少し頬が赤いけれど、優しい笑みを浮かべていた。
「男の子だもんね。ごめんね、気づいてあげられなくて」
なぜか謝られた。
謝るのは、僕の方だ。
口を開こうとするが、それを口付けで遮られる。
4度目のキスに戸惑っていると、梅田さんの手のひらが、いきり立つペニスの上に重ねられた。
下腹部から腰を伝って、快感が脳に流れ込む。
「うわぁっ! な、なにをッ!?」
突然のことに驚いて、立ち上がろうとするけれど、梅田さんがどいてくれない。
不安定な体勢で、しかも快感のせいで腰に力が入らなくて、起き上がれなかった。
「あんまり大きな声出すと、外に聞こえちゃうかもしれないよ」
静かな声だけど、僕を固まらせるには充分な言葉だった。
「で、でも」
小声で抗議する僕に、
「あたしは君の彼女だから。まかせて」と言って、僕の上からどいてくれた。
長椅子の脇の腰を下ろし、ジッパーを下げる。
「あ、あのっ」
体を起こそうとする僕の胸に手を置いて、押しとどめた。
「大丈夫だから」
そう言って優しく微笑んでいる梅田さん。
何が大丈夫なんだろうか。
僕は何も大丈夫じゃない。
血流が激しすぎて、目が回りそうだ。
頭の中にもう一つ、心臓ができたみたいに、鼓動がうるさい。
混乱しているうちに、梅田さんは下着の前開きから、血の漲ったペニスを取り出した。
くう、と思わずうめいてしまう。甘い感覚に、体が震える。
「おっきい……」
僕の顔と、露になったペニスとを交互に見比べながら、梅田さんが呆然と呟く。
修学旅行や空手の合宿などで、顔に似合わず大きいと、からかわれたことはある。
その時は聞き流していたけれど、女の子に言われると、とてつもなく恥ずかしい。
梅田さんがおもむろに、ペニスを握ってくる。
「ぅあっ……」
女の子の柔らかい手に触れられて、気絶しそうなくらい、気持ち良かった。
全身から力が抜け、代わりにむず痒い感覚が満ちてくる。
梅田さんの手が、根元の方に動くと、
「痛っ」ペニスの先端に軽い痛みが走った。
「あ、ごめんっ」慌てて手を止めた梅田さん。「まだ、剥けてないんだ」
亀頭は半分くらいまで、皮に包まれている。
成長とともに自然と剥けてくるらしいけれど、僕はまだだった。
肉体の欠陥を知られたような気になって、泣きそうになる。
「大丈夫だから、ね」
穏やかな声で言い、ペニスに顔を近づけて、唇の隙間から唾液を落とした。
生温かい唾液が亀頭の上に垂れて、奇妙な感覚が背筋を走る。
次々にペニスに降りかかる唾液。
ズボンにこぼれそうになると、亀頭が唾液ごと梅田さんの手に包まれた。
電流が走ったような感覚に、体を強張らせる僕。
「ちょっと、がまんしてね」
梅田さんは気遣うように言うと、亀頭と包皮の境目を、マッサージするように指を動かす。
目眩を起こすほどの快感が、頭の中で暴れまわる。
その感覚に耐えていると、亀頭が、じわり、と生ぬるい感覚に包まれる。
違和感に戸惑っている暇もなく、梅田さんの手が再び根元に向かって動いた。
ゆっくりと、包皮がめくられていく。
「あ、あぁ、あっ……」
さっきみたいな痛みはなかった。
梅田さんの手が止まり、亀頭が完全に露出した。自分でも初めて見る。
初めて触れる外気に、違和感を覚える。
「ちょっとだけ、大人の仲間入りだよ」
こんなに恥ずかしくて、息苦しいのに、まだちょっとだけなのか。
戸惑っている僕を、優しく見下ろした梅田さんの手が、上下に動く。
亀頭にまとわりつく唾液が潤滑液となって、滑らかに擦られる。
ほんの数回、梅田さんの柔らかい手がペニスを上下すると、下腹の奥の方から、堪えがたい感覚がこみ上げてきた。
「あ、あの、なんか……」
「イキそう?」
僕の言葉を遮る梅田さんに、小さく頷いた。
それを見ると、ポケットからハンカチを取り出し、亀頭を包み、その上から軽く手を当てる。
布地に亀頭が擦れると、腹の底が熱くなり、ペニスが弾けた。
「あぁっ!」
びくんっ、と脈打つペニス。
熱いものがペニスの中を駆け抜けていき、先端から飛び出す。
快感が爆発して、目の前が真っ赤になり、何も考えられなくなる。
体中の筋肉が、鉛になったように重くて、動けない。
潮が引いていくように、頭の中に満ちていた快感が小さくなっていく。
梅田さんが、脈動の収まったペニスの先端を、ハンカチで拭いてくれて、手を離した。
ハンカチの中をのぞき見て、
「すっごい、いっぱい出たよ」おかしそうに言った。
恥ずかしくなって、目を逸らす。
かわいい、と呟くのが聞こえた。
まだ硬さの残るペニスをしまいながら、
「あ、あの、それ洗って、返します……」恥ずかしさを堪えて切り出した
自分で汚してしまったので、そうするのが筋だろう。
「だめ。あたしが持って帰るぅ」
恥ずかしいことを言いながら、中身が溢れないように、慎重に畳みながら言った。
梅田さんが立ち上がったので、体を起こして、長椅子の隣を空けて座る。
そのスペースに腰を下ろして、ぴったりと寄り添う梅田さん。
「ねえ、いつも、自分でする時って、どんなもの見たりしてるの?」
主語がないので、何のことかわからなかった。
「見たり、って?」
「だからぁ、自分でする時、なに見てるの? ビデオとか、エッチなマンガとか?」
そこでようやく、オナニーのことだと理解して、俯いた。
「ちゃんと答えて。怒らないから」
何を怒るのかはわからないけれど、答えるまで終わらない雰囲気は伝わってくる。
恥ずかしさに耐えて手を握り締める。
「したこと、ない、です……」
絞り出すように、答えた。
知識としては知っていても、僕はまだ、自分でしたことはない。
「……え?」ぱちくり、と瞬きした梅田さん。「じゃあ、今のが、初めてだった?」
わずかに顎を引いて、首肯する。
呆れられただろうか。
不安になって、横目で梅田さんを窺うと、呆然としていた表情が、湧き出すように笑顔になった。
きらきらした瞳を向けて、抱きつかれる。
「かわいいっ」
今度ははっきりと聞こえる声。
これまで、かわいい、と言われるのは、からかわれているような、釈然としないものがあったが、不思議とそういう気持ちにならなかった。
胸の奥に、じわりと温かいものが、滲み出してくる感覚。
「じゃあ、あたしがこれから、いっぱい、教えてあげるね」
眼前の梅田さんの笑顔に、妖しい色が窺えた。
ドキリ、と心臓が打つ。
「これからは、自分でしたくなった時は、さっきしたことを思い出してね。あたしを想像してするんだよ。
あたし以外のことを考えながらしちゃだめ。わかった?」
さっきの“怒らないから”の意味を、ようやく理解した。
付き合うって言うのは、そういうことなんだろうか。
「は、はい。わかりました」
梅田さんでオナニーする、と宣言したみたいで、恥ずかしかった。
頷いたのに梅田さんは、ぷう、と頬を膨らませる。
「敬語はダメって言ったでしょ」
「ご、ごめんなさい、梅田さんっ」
年上には敬語。道場で叩き込まれているので、反射的に敬語を使ってしまう。
しまった、と思う間もなく、
「敬語禁止! 苗字禁止! さん付け禁止!」
立て続けに注意される。
「あの、ごめん……気をつける」
もっと砕けた言葉遣いを望んでいるのかもしれないけれど、今の僕にはこれが精一杯だった。
梅田さんは小さく溜息をつくと、ううむ、と唸ってから、何か思いついたような表情になる。
「今度から敬語使ったり、さん付けしたら、外でも、人が見てても、どこだろうとキスすること」
勝手にペナルティを取り決める。
そんなの無理です、と抗議を口にしようとした瞬間、
「まずは、今の分ね」瞼を下ろして、唇を突き出した。
石像のように固まっていて微動だにせず、僕がキスをしないと、動き出しそうにない。
バクバクと破裂しそうな鼓動で震えながら、唇を、重ねた。
瞼を開けて、
「これからは気をつけなきゃダメだよ」
「う、うん……」
僕が頷くと、嬉しそうに微笑む梅田さん……えりか、さん。
えりか、と呼び捨てるのはまだ抵抗があるので、頭の中では、えりかさんと呼ぶことにしよう。
いつか、自信がついたら、きっと、えりか、と呼ぶことができる、と思う。
それまでは……
あの日から1年とちょっと。
僕はいまだに、えりかさん、と呼んでいる。
呼び捨てにできるような自信は、いつになったらつくんだろうか。
まだ、わからない。
「ねえ、これ似合う?」
昔のことを思い出してしまっていて、不意にかけられた声に、答えられなかった。
ハンガーに吊るされていたミニスカートを腰に当てて、えりかさんが立っている。
そうだ。映画を見終わった僕たちは、ショッピングに来ていたんだった。
「あ……えっと、良いと思うよ」
慌ててしまって、そんな言葉しか出てこなかった。
「ぼーっとしてた? デート中に? 彼女の目の前で?」
目つきが鋭くなって、にらまれる。
「あ、ご、ごめんっ。あの、昔のこと、思い出しちゃって」
「昔のこと?」
「うん……告白されたときのこと」視線をずらして、「あれ、見たら」
視線の先には、百合の花がプリントされた、Tシャツがあった。
卒業式の日に、えりかさんが胸に挿していた造花を思い出させた。
えりかさんが強く抱きついたせいで、くしゃくしゃになってしまったが。
僕が言いたいことをわかってくれたようで、すぐに笑顔を取り戻すえりかさん。
しかし、さっきまで浮かべていたものとは違う、妖しい赤みが差していた。
あれ? と戸惑う僕の耳元に唇を寄せ、エッチ、と囁くえりかさん。
そうじゃなくて、と言おうとした僕を遮って、
「で、これ、かわいくない? 似合う?」と、同じ質問をする。
聞くことよりも、言うことを優先するところがある。
そんなところには、もう慣れてきた。
さっきはおざなりな返事しかできなかったが、改めて見ると、膝上というより、股下何センチというサイズだ。
脚を魅せるような、短いものがえりかさんの好みだけど、僕は複雑だ。
見たいけど、見せたくない。
「ちょっと、短くないですか?」
もっと長いものか、せめて細めのジーンズを……
えりかさんが、唇を尖らせている。
……しまった。
僕の表情の変化に気づいて、わかってるよね? と瞼を下ろした。
きょろきょろと、見ている人がいないのを確認して、唇を重ねる。
これだけは、どうしても慣れない。