>>296,301
野球部の応援に来たはいいけど、早く着きすぎて試合まではまだ随分時間があった。
野球部員たちもまだ着いたばっかりらしくて話しかけに行けるような雰囲気でもない。
参ったなと辺りをブラブラ歩いていると、スポーツバッグがいくつも置かれたところでぽつんと三橋がしゃがみ込んでいた。
他の部員の姿もなく、三橋も荷物の中でぼーっとしているだけだ。見回しても誰もいない。
こっ、これは俺と三橋しかいない予感!
そもそも応援に来たのは同じクラスの三橋が投げるっていうからで、他に目当てなんてない。
一目散に駆け出すと三橋がふいと顔を上げた。
「あっ おっ 俺君!」
「どーしたんだよ三橋、一人なのか? 試合前だろ? 大丈夫か? あの、俺さ!」
話しかけたはいいが、アガりすぎて一気に言葉が溢れた。やばい、三橋が目を回しかけてる。
慌てて手をぶんぶん振って「い、いっこずつな! いっこずつ!」と訂正すると三橋はガクガクと頷いた。
「え、と 俺、荷物の番 してる んだ。みんな、荷物取りに戻ってる よ」
「三橋は行かなくていいのか?」
「う、うん……あ べくん が、怒る カラ」
「阿部かぁ……。阿部ってさ、いっつも怒ってる気ィするよ。三橋はがんばってんのにさぁ!」
教室へも何度か姿を見せたことがある、あのキャッチャーの姿を思い出して俺はいらだった。
三橋はすげー頑張ってんだ。前に試合の応援にいったとき、俺はそれがよくわかった。
なのにアイツ、えらっそーに三橋を怒鳴るわなじるわ……マジでむかつく。
バッテリーだからって当り散らしていいワケないだろ、常識的に考えて!!
けど、そんな俺を見上げて三橋はヘラヘラと笑った。
「あ、りがと 俺君。でも、阿部君 オレんこと考えて くれて、だから いいんだ」
オレの肩、とか 心配して るんだ。そんだけ、なんだよ。
三橋が後から後から言葉を続ける。信頼してるんだ、あの、クソ野郎のことを。
三橋が笑いかけてくれたのはすごく嬉しかったのに、俺は苦しくてたまらなかった。
その日の試合で勝利した三橋が駆け寄ってきた阿部に笑顔を見せた瞬間まで、俺は妬いていることに気がつかなかった。