「うぁっ!」
隣を歩いていたはずの三橋が視界から消えた。見ると顔からこけている。
野球部の癖にどんくさい。
「おいおい・・・大丈夫か?」
手を差し出してやる。三橋は一瞬躊躇したあと俺の手をつかんだ。
「だ、だいじょう・・・ぶです・・・」
大丈夫なはずはない。
手は手袋でわからないが、ハーフパンツから見えてる膝はすりむけて血が出ていた。
「気をつけろよ。怪我なんかしたらあのたれ目になんて言われるか」
体中についた土やらなにやらをはらってやる。
「あ、阿部君は怒らない よ!」
「怒らなくても目が怒ってんだよ、あいつ」
一通りはらってやったがこんな状態じゃ買い物は無理だな。一度部屋に戻ろう。
「ほら」
「うひっ?」
「おぶされ。足、痛いんだろ」
「えっ、でも俺君汚れちゃうし、オレ重いよっ?」
「もう汚れてるから大丈夫だ。それにお前が重いとか言ったら世の中の女どもにはったおされんぞ」
「う、うお・・・」
「ほら、ほら」
「お、お邪魔します・・・」
三橋は男だからそれなりに重いけど、暖かくて気持ちよかった。
「寒くないかー?」
「俺君の背中、広くてあったかい、から平気っ!」
「馬鹿、俺が暖かいんじゃなくて三橋が暖かいんだよ」
「う、で、でも。でも、ねっ オレが暖かいのはね」
―俺君と一緒にいるからだよ―
雪が降ってきた。今夜はこれからもっと寒くなるだろう。
そうだ、今日は出かけないでずっと部屋でぬくぬくしようか。
そう言うと、三橋がうれしそうに笑う声がした。
9巻を読んで思った。俺、三橋とならこういう理想の恋愛ができると思うんだ