三橋の口唇「優しく触って」

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243fusianasan
>>163 今日中には終わらん

「ええと、三橋くん、ポジションは?」
モモカンがグラウンドのすみから引っ張って来た10人目の部員は、
おどおどしていてウザそうで、やっぱり気の弱そうな声で返事をした。
一瞬息を呑んで、目に涙をのぞかせて、言葉を吐いた。
「…投手」
ぴく、とオレの頭の右上で何かが反応する。けれどそれは、
「あら、投手が」
「でし た」

けれどそれは、そのまま宙に浮いた。
結局その日は泣き出した三橋をどうにか宥めるのに一日が終わって、
その後も女子が一人入部するに留まった。
まっさらなグラウンド、女監督、プレイ人数ぎりぎり1年生だけの部員。
それでも春は過ぎていく、ゆるやかにはやく、夏へ向かって。
244fusianasan:2007/12/21(金) 12:50:19
>>243
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夏合宿が終わり、硬式野球部はどうにかまとまってきていた。
補欠すらいない9人のプレイヤー、はっきり言って不安は隠せない。
なんと言っても肝心の投手経験者がおらず、
花井と沖でどうにか騙していかないといけないのが難点だ。

「しのーか、ポカリ足んねー!」
「わ、ごめんね。三橋くん、ポカリ買って来てくれた?」
「う、うんっ ぅあ、あ、教室 忘れた、カラ取って 来る」
いつも通りの午後練後の風景。
マネジの篠岡の方はデータ整理の際に意外な才能を見せてくれているが、
入部当日からウザかった三橋はやっぱり今日もウザいままだ。
何がって、なんとなく存在が。
あいつが最初に「投手」って言った時のオレの期待を返してくれ、
結局なんだかんだでマネジになんて落ち着きやがって。
投手経験者が全くいないんじゃなくて、いるのに投手がいないっていうのが
ムカつくのがわかんねーのか。

がしゃがしゃとわざと大きな音を立ててウォータークーラーを運ぶ。
ウォータークーラーにも三橋にも、単なる八つ当たりだなんてことは自分でもわかってる。
けれど苛立ちは止められない。
打撃はけっこういい線いってると思う。守備だってそう悪くない。
でも点を取られる、練習試合で負ける、オレの努力とは関係のないところで。


三橋はいつも通りびっこをひいて、うんと時間をかけて戻ってきた。