花とか歴史とかよくわからんちん
何の因果か。俺の村は1晩の内に蛮族に滅ぼされ、生き残ったのは俺と幼馴染のレンとその従姉妹であるルリのみであった。
豪雪地帯であるこの山間。わずか10歳の無力な俺たちは誰かが助けてくれる事を信じ、村はずれの鶏小にて寒さを凌いだ。
昼は森から湿りのない枯葉や小枝を拾い集め、運よければ野うさぎを狩って食らい、夜は小屋の中で火を焚き3人寄り添うように固まって就寝する。
「レン、食えよ」
3人の中で一番弱虫であるレンは涙を浮かべて、ウサギの肉を食うことを頑なに拒否した。
心優しいのはコイツの長所であるが、木の実ばかりでは腹が持たないだろう。何よりこの寒さを凌いでいくには少しでも脂肪を増やしたほうがいい。
俺は食えと青い唇へ肉を突きつける。
「やだ…俺は食べない、よ。2人で食べて」
避けるように三橋は、隅の黄色いヒヨコの群れへ行ってしまう。
それを無言で見ていたルリは「レンレンは強情なんだから」と思い溜息をつき、傍らでタマゴを抱く母鳥の頭を撫でた。
生まれる命もあれば消える命もある。後者はまさに目の前の赤い肉だ。そしてそれが俺達の命を繋ぐためのモノとなる。
生きるってそういう意味だろ?優しさの前、お前が生きないと何にもならないだろ。
「レン、このウサギの命を無駄にしないで食ってくれ。」
「どうしてそこまで…オレ、食べなきゃ駄目?」
「だめだ。お前に生きてもらいたいから。」
兄弟みたいに今まで育ってきた俺たちだから、生きてもらいたい。生きていればあとはどうにだってなるんだ。
「わかった…」ピヨピヨ鳴くヒヨコを腕に抱えたまま、レンがオレの隣まで戻ってきて、恐る恐る肉を口に運ぶ。
「…おいしい」
つり上がり気味の大きな目から零れ、薄汚れた頬を伝う涙は何故なのだろうか。
レンは黙々とそれを平らげた後、両手を合わせて残った筋や骨に頭を下げた。
「うさぎさん、…ごちそうさま、でした」
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
俺とルリもレンに倣って手を合わせる。俺たちの命を繋いでくれて、有り難う。
全てを失ってから一月が経とうとした頃、偶然付近の山へ鹿狩りに来ていた貴族に俺たちは助けられた。
山の麓一帯の領地を持つその貴族はルリを大変気に入り、すぐに養子として貰う受ける。
年頃に育ち他の貴族へ嫁入りさせるまで遠くの都で文学を習得させるらしく、知らずの内に俺たちとルリは引き離されてしまった。
レンはしばらくルリを思って泣いたが、ここは他の土地であり俺たちを救う者などいない。