過疎か、過疎ね。
やあやあお久しぶりです。
俺を覚えている人はいるかな。
めっきり冬の寒さも本格的になって、年末の忙しさに俺はまた最終電車を使っての退勤路を辿っているわけです。
暖房が効いてぬくぬくとした空気の中、足元の熱さにうたた寝から目を覚ますと最寄りの駅まであと4つ。そろそろ目ェ開けとかないと、この間みたいに終点で駅員に起こされるハメになる。
明日の10時までにそろえなければならない書類を入れたかばんは重くずっしりと膝に乗っている。家のパソコンで手直しをすることを考えると、憂鬱になるが、まあなんとかなるか。
30も半ばを超えると周りがうるさくなり、俺はあさって見合いをすることになった。写真を見ると、割と清楚な感じの大人しげな人で、俺のストライクゾーンど真ん中だった。
矢田亜希子似のおっとりした顔で「お疲れ様、あなた」なんて言われたら俺は、俺はもう…!
なんて妄想に浸っていると、時間調整のために駅で止まっていた電車はいつの間にか動き出していた。
俺の乗っている車両の乗客はいないと思っていたのに、いい気分のまま顔を上げると目の前にあいつらがいた。
あいつら。
そう、黒髪のタレメンと茶髪のあいつらだ。
黒髪の方は黒のウールコートを着こんでいて、茶髪の方は白のダッフルコートを着ていた。どちらも鼻を赤くさせているところを見ると、ずいぶん外にいた感じがする。
「寒くねえか?」
「う、うん、大丈夫、だよ、顔、がちょっと、痛い」
冷えた所にあったかい空気が触れると痛い事があるよな、うんうん。
「どれ、どの辺?」
夏と違ってずいぶん優しい声で黒髪の方が茶髪の顔をのぞきこむ。やっぱり冬はピュアな気分になるよな。俺の心もだいぶ余裕ができて、男同士だけどがんばれよ、なんて温かな目で見守っている。
おじさんもあさってすげえ美人とお見合いするんだ。お前らは世間的には言えない関係かもしれないけど、仲良くするんだぞ。
「ここ、と…ここ、あと、」
茶髪は少しブサイクだけど、それも愛嬌があっていいよな。犬も猫も少しブサイクな方がかわいいもんな。
「あ、あと、口」
「よし、舐めてやるからな」