ドレスへ着替える前にお手洗いへ行ってきてくださいねと言われ、三橋は式場のトイレへ向かった。
いよいよあと少しで結婚式が始まる。本当に俺君のお嫁さんになれるんだ、と思うと今から感動で胸が一杯になった。
手を洗い、控え室へ戻ろうとするとスーツ姿の男が部屋の前で待っていた。
「あ、修ちゃん! 来て、く れたんだ」
「これから、着替えか?」
「うん。ドレス、きれい だ、よ! あ、あと 引き出物 も、俺君 と、いいの 選んだ、し 二次会も ねっ」
「おめでとう、廉」
にこりと笑って近づいてきた叶が、そう言った。
「しゅ、う ちゃ……」
「ごめんな」
痛みは後からやってきた。腹が、熱い。痛い。みぞおちを殴られたのだと思い至ったのは視界がブラックアウトした後だった。
「う……っ」
「廉? よかった、気がついたんだな。腹、まだ痛いか? なんか飲み物とってくるな」
「しゅ、う ちゃん?」
朦朧とした意識のまま呼びかけたが、叶はばたばたと部屋を出て行ってしまった。
腕をついて気だるく重い体を起こして暗い部屋の中を見回す。
大きなベッドに本棚、立派なステレオコンポと、薄型の液晶テレビ。パソコンもある。小さな冷蔵庫と電気ポットも見えた。
30畳ほどの部屋はそれだけで独立した生活が出来そうだ。
「廉、お茶とアクエリどっちがいい?」
「あ……修ちゃん、あの オレ」
「トイレはそっちのドアで、洗面所と風呂も作らせたから好きに使ってくれ。家電で足りないのがあったら……」
「しゅ、う ちゃん!」
「好きに使っていいからな。ここはお前の家なんだから」
「な、に 言ってる の? オ、オレ 結婚式 は!? そだ、式 まだ……っ」
必死にわめく三橋を抱きしめて、叶はやさしく囁いた。
「何言ってるんだよ、廉。昔やくそくしただろ? 大きくなったら、結婚しようって」
「そ、れは……」
「けっこんしような、廉」
震える三橋の唇を奪い、叶は狂気をはらんだ目で笑った。