「う、うへ うへへへ……」
「三橋、明日の本番前に汚したらどうすんだ。もうしまっとけ」
「う、うん」
姿見の前で自分のウェディングドレス姿を何度も何度も確かめていた三橋が振り返って恥ずかしそうに頷いた。
本当は式場に預けたほうが明日の荷物が少なくていいのに、どうしてもというからドレスだけは持ち帰っていた。
俺も指輪だけは肌身離さず持っているから気持ちは分からなくもない。
明日が来るのは楽しみだったが、式場を決めたり指輪を選んだりドレスを選んだり招待状を送ったり、
そういう準備をしている時間もとても楽しかった。
すべて二人でこなしながら、これからはこうやって二人支えあって生きていくんだと思うと泣けてきたりしたもんだ。
「俺君、明日 朝 ごはん、い らないんだ よね?」
「そうだよ。あっちで用意されてるからな。あ、食いすぎるなよ? ドレス入らなくなるぞ」
「うおっ! で、でも 食わないと 式のとき に、腹 鳴る……」
「鳴ったら俺がくしゃみでも屁でもしてごまかしてやるって」
「うひ、あはは はっ! オナラ、は やだ なー」
「なんだってぇ? 助けてやろうって言ってんのに!」
「うひ、や やーめーてー」
後ろから抱きついてわき腹をくすぐると、身をよじって笑う三橋とバカみたいな笑顔の俺が鏡に映った。
「なあ三橋、はやくドレス脱げよ」
「しわ に、なる もんね」
「それもそうだけど」
首の後ろのファスナーを噛んで、ジジジと少し下ろす。
俺の息が背に当たったせいか、三橋はぶるっと身を震わせた。
「結婚前夜ってのも燃えるだろ? 明日立てるかな、とか心配しながらヤんの」
「お、俺君 そ んなの、ばっかり……」
そういう俺と結婚するって決めたのは三橋だろ、と開いた背中に舌を這わせながら俺は笑った。