夏の頃までは一人暮らしもそれなりに楽しかったが
寒くなってくると殺風景な部屋に深帰宅するのはやっぱり侘びしいもんだなと感じ出した。
ホームセンターに寄ったときにふと園芸コーナーに目を向けると
チューリップの球根が段ボールに無造作に入れられ売られていた。
何の気なしに黄色いテープで巻かれた球根を1つ手に取りそのままレジに持っていったのも
寂しさから来る気の迷いだろう。
俺はアパートに帰り着くとベランダに放置していた鉢にそれを突っ込んだ。
鉢は夏の間、枝豆を育てていたものだ。
育て方が悪かったらしく遂に豆をつけることもなく枯れ果てたが。
その後すぐに友人が酒を大量に携えて押し掛けてきて宴会になったため球根のことは忘れた。
翌日、俺より先に目が覚めたらしい友人の
「ちょ、起きろよ! 大変だぞ! おまえの花が大変だ! あれチューリップ? てかおまえ花なんか植えてたの?
てか何あれ? みるちゃんきくちゃんのアレの早送りみたいで大変なんだ!」
という騒々しい声に目が覚めた。
眠い目を擦りながら、焦った様子で手招きする友人の隣に立ち、彼が窓ガラス越しに指すベランダを見遣る。
すると、確かに彼の言葉どおりに昨日のチューリップがあり得ない早さで芽を吹き、葉を伸ばし、蕾をのぞかせ、
徐々に太さを増す茎がその蕾をぐいぐいと押し上げていっている様子が視界に飛び込んできた。
俺と友人が息を飲んで見守る中でチューリップはなおも生長を続け、蕾は緑から黄緑、黄色へと色づき、
気のせいか妖艶なラインを描いて膨らみを持ち、
終いにはなぜか「ふ…ぅ」と悩ましげな音をさせてとうとうその花弁を割り開いたのであった。
花弁の中央には全裸の三橋がうずくまっていた。
花びらのごとく妖艶なラインを強調するポーズで桃尻をこちらに向け、ぷるぷると震えている。
俺と友人はベランダと部屋をつなぐ掃き出し窓を開けると同時に言った。
「三橋…なんでこんなとこにいるんだ」