田島君考える
「田島」
グラ整してたら後ろから声をかけられる。
首だけ回して振り返ったら、トンボをもった阿部が少しまわりの様子を気にしながら、オレの方に向かって歩いてくるところだった。
「なにー?」
「あー…っと、なんつーか、さ」
言いにくいコトなのか、阿部は何かを考えるみたいに地面に視線を落として顎のあたりを掻く。
「お前、もう分かってるみてーだから言うけど」
「うん」
さっき拾った小石をフェンスの方に投げると、阿部はそれを目で追った。そっちの方を見たまんま言う。
「オレ、三橋に言うから」
「そ」
ま、いんじゃね?って言ったら、阿部はなんだか気の抜けたような、意外な物を見たような顔をしてオレの顔をガン見してくる。
「なんだよ」
「いや…、お前がそんな事言うとは思ってなかったから」
「なんで?」
「なんでって、お前もあいつの事、好きなんじゃないのか」
「あー?んなワケねーじゃん」
「はぁ?」
「つか、今オレ、3年の先輩といい感じだし。知ってる?中村先輩」
「いや、しらねー…けど…」
がっくんって阿部の顎が落ちて口が開けっ放しになった。
あんまり間抜けなツラしてっから落ちた顎を下から上にひっぱたいてやると、舌でも噛んだのか阿部は眉をしかめる。
「って!」
「口あけてっからだ」
そう言うと阿部は舌打ちをして、また何かを考え込むみたいに視線を落とす。なんかに納得したのか、うんって頷いてオレの方を見た。
「あー…、うん。一応、礼言ったほうがいいか。ありがとな」
「…は?」
今度はオレの顎がおっこちる番だった。ありがとー?ありがとうだって?