田島君考える
「なに…」
「何じゃなくて。三橋のコト好きなんだろ?」
もう一度聞くと、阿部のまぶたが少し痙攣した。こいつ、あんま喋る方じゃないけど顔に出るんだよね。
多分頭ん中でぐちゃぐちゃ色んなこと考えてんだろーなー。そんな反応しちゃってんのにいまさら誤魔化せるとか思ってんのかね。
「バカなこと言うな」
それだけ言って、阿部は黙々と球拾いを再開した。引っかかるワケないと思ってカマかけたんだけど、コレはビンゴでしょ、大当たりでしょ。
そーなんだ、こんなのにカンタンに引っかかっちゃうくらい三橋のコト好きなんだ。へー。
オレには好きとかそーいうの、あんま良くわかんねー。
「なんだよ、隠すなよ」
膝で這って行って阿部のズボンを引っ張るとうるせーって言われた。あっそ、そーゆー態度取るんだ。
「オレも好きだけどね」
ガンって音がしてバケツに入りそこねたボールが転がった。それを目で追ってから阿部の方をもう一度見ると、なんかすげー顔してる。
「田島…」
「あいつ、おもしれーじゃん」
安心しろよ、お前みたいに好きなわけじゃねーからさ。
「阿部!田島!そろそろ上がりだぞ、早くしろー!」
「おー、もう終わるーっ」
花井の声に振り返って返事して、オレはバケツを持ってベンチに戻る。
「阿部、そっちのバケツ持ってきて!」
途中で振り返ってみたけど、もうかなり薄暗かったせいで、どんな顔してたのかは分からなかった。