阿部「三橋!お前のザーメンでフルーチェ作らせてくれ」

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356あおき(めばえ)
>>354 いったんここまで

さっきから何かが足りないと感じてはいたんだが、その不足感は紅ショウガの不在がもたらしているに違いないという事実がおれの中で判明したとき、
バンカラ装束の浜田が看板を背負って教室に戻ってきた。
といっても応援団用の長ガクランにワザとボロボロに繊維を崩した学生帽と雪駄という、どことなく見慣れた風で違和感がなさすぎてつまらない。
「おつかれおつかれおつかれーー!!」と大声で叫びながら入ってきたサンドイッチマンは、なぜかマック女性定員に無意味なタックルをかまされ、
なぜか無意味に担ぎ上げられ、なぜかそのまま無意味に教室内を三周駆けめぐられ、当然のように女子二人組はキャーーーー!と悲鳴を上げながら会場を飛び出していった。
ちなみに食券前払い制なので食い逃げされたわけではない。
三周きっかりスチール机を蹴飛ばし終えてからラグビー部の主将が潰れ、太い両腕から解放された浜田はまっすぐおれのところへやって来た。
「沖、これこれ」
「な、なに」面前で公開された茶番にビビったおれは、人なつっこい笑顔を浮かべる浜田が差し出すものを、恐る恐る受け取った。
四つ折りになった紙片を広げると、それはさっきめばえちゃんのクラスメイトからもらったのと同じチラシだった。
「軽音部の講演のスケジュールが多少変更になったって、さっきそこで配ってたからもらっておいたんだ。うっかり彼女の演奏見逃しでもしたら、後悔してもしきれないもんな!」
おおぉ、さすがいい人。ありがとう、とおれはすでに情報を仕入れていたことなどおくびにも出さず礼を言った。
「あとこれ。配ってたからもらっといた」
机の上に開陳されたのは6枚のうちわだった。『3-4 バルーン迷路』といかにも高校生がパソコンで自作したらしき、のっぺりとしたCGのコピーが表面にのり付けされている。
「これで応援うちわ作ろうぜ」マジですか。
「それってアレか?あのアイドルの応援団が持ってる、名前のローマ字読みで一枚ずつアルファベットがふってあるみたいなヤツ?」泉が横から口を挟んできた。
「いいな」いいのか?!
「え、でもそういうのって、やられると恥ずかしくない?」
自分の中に全くそういう発想がなかったので、少々とまどいつつ進言したら、二人はそろって「んなことねーって!」と否定した。
奥でのっぺら腕組みしていた花井ですら、二人にうんうんと同調している。
「応援されて恥ずかしいとかねぇよ。大体舞台に自分から上がるようなヤツって目立ちたがりばっかじゃん」
「そうそう、恥ずかしいぃ〜〜!んもぉぉ〜〜!やっだぁあ〜〜ん!!って口では言いつつ、なんだかんだと嬉しがってるもんなんだよ」
なんで経験談的な語り方をするんだ、浜田。
「それにこういうのは記念だよ、記念。やらずに後悔より、やって後悔!」
後で後悔するような事柄じゃねぇよ、と心の中では突っ込みを入れたんだが、その時にはおれはすっかり乗り気になっていた。
「みんなも応援やってくれんだよな?」
おお!!もちろん!!なぜかラグビー部まで含んだ全員から男らしい雄叫びが返ってきた。
「お前らもやるか!じゃあもっと、うちわもらってくるよ。人数分だから、あといくつだ?」「うちわ、上から紙、張っつけりゃいいんだよな?部室に画用紙とマーカーあったから取ってくる」
にわかに活気づく室内に、やっぱりみんなヒマだったんだろうなぁとおれはある意味感心してしまう。
うっすうっす、と廊下からさらにヒマ人数人が参入する。まあ、確かにこういうのもいいな。