>>325 「嘘って、んなわけねーだろ。お前はうちのエースでオレと組んでて、さんざん試合で投げてきただろ。本当に覚えてないのかよ」
「だって、オレ、高校入ったら、野球やめるつもりだったのに…それにオレがエースとか、そんなのありえない…そんなの嘘に、決まってる」
言いながら興奮してきたのか、三橋はぼろぼろと涙を流し始めた。
思い出した。初めて会った日もこいつは同じ事を言って泣いていた。床にうずくまって泣く姿が、あの日グラウンドで泣いた三橋の姿と被る。
「野球やめるって…お前、一体三星で何があったの」
ずっと今まで気になっていたことを、オレは三橋に聞いた。
だけど三橋は首を振るばかりで、何も言わない。ただ断片的にオレが悪い、とか、オレのせいでみんなが、とか、独り言のように繰り返すだけで何も話そうとはしなかった。
そう言えば、自分が三年間マウンドを譲らなかったせいでチームが負けたとか、そんなことを言っていたような気がする。
オレはそこまでマウンドに執着するのはいいピッチャーの証拠だと思ってたし、今でもそう思う。
だが自分がマウンドを独占していたことで引き起こされた結果は、オレが思っていた以上に三橋の中では大きな傷になっていたのだろうか。
あの三橋が野球をやめようと思うほどまでに。
「なあ…三星で何があったか知らねえけど、今のお前は二年前とは違うよ。お前は覚えてないかも知れないけど。三星のメンバーとも今は和解してるし」
「ちがう…そんなはず、ない…みんながオレのこと、許してくれるはず、ないよ…だって、チームがめちゃくちゃになったの、みんな、オレの せい…」
今は何を言っても無駄だった。無理もない。この三橋には、三星との練習試合の記憶がない。
あの時勝って、うちで初めて自分の力でエースとして認められて、三星の奴らにも認められて。
その記憶がないのに、口先だけで慰めようったって、そんなの不可能だ。
「立てよ。今日はもう休もうぜ。お前も疲れただろ」
うずくまったまま泣き続ける三橋を立たせて、オレは自分のベッドの真下に客用の布団を敷いた。
オレのジャージを着て、泣き腫らした目で布団にくるまる三橋は、確かにオレの知ってる三橋ではなかった。
自分に全く自信がもてない、不安だらけで怯える中学生の子供がそこにいる。
「お休み」
「…お休み、なさ い」
か細い声で返された返事に、オレはこの先三橋が本当に元に戻るのか、不安でたまらなかった。
長い一日目が、ようやく終わる。
寒いな俺ら体調に気をつけて。お休みはし。