※子三橋には優しくしたい俺向け
本屋からの帰りにまた三橋の家を覗いてみた。
もくもくとあがっていた煙は消え、灯油缶の中を棒っ切れで慎重に探っている。
まばたきもせず真剣そのものの表情。ガサガサと燃えカスをかき混ぜる音に混じってずず、と鼻を啜る音が聞こえた。
こんな寒い日になにやってんだ?
「おーい」
塀の外側から手を振るとうおお、と叫んで三橋は後ろにひっくりかえった。
ごちんとすごい音がする。
ありゃ、声かけねー方がよかったかな。
どうしようかと逡巡していると逆回しみたいな動きで三橋が体を起こした。
じんわり涙をにじませて、地べたにちょこんと正座するとこんにちわっと返してくる。
「こんにちは。一人で何してるんだ?」
「おいっおい もっ。ややややい、た」
「イモ?」
得意げに顔を赤らめて頷く。
「いも、オレ ひ、一人で、や、やける、よー」
「……」
大丈夫なのか、って言ったら泣くかなあ。
「じ、自分でやいた いも、お、おい しいっ」
想像したんだろうか。よだれがたらん、と口から垂れた。
よく見れば灯油缶の横には濡れたバケツが転がっている。
ちゃんと準備してたんだな。それならいいや。
「食べ過ぎるなよー」
「わ かった!」
またな、と手を振ったが三橋はもう焼けたイモに集中していた。
しょうがねえなと足の向きを自分の家へと変える。
数歩進んだところで「またねー」と調子っぱずれの声に不意打ちされて
俺は思わずにやけてしまった顔を引き締めながら枯葉だらけの道を歩んだ。
終わり。