「三橋! どこ見て投げてんだ!」
いつものクセで、つい大声で怒鳴ると、遠目にもわかるほどビクッと身体が震えた。
イライラする気持ちを押さえきれずに、オレは早足で怯える相手に駆け寄った。
「さっきもオレが指示したとこから微妙にずれてたよな。お前、今日集中してねえだろ」
「ご、ごめんな、さ…」
語尾がかすれて、最後のほうは消え入るように小さくなって聞こえない。いつものことだ。
そしてオレと視線を合わせないのも、いつものことだった。
「三橋」
名前を呼ぶと、それとわかるくらい顔をこわばらせる。唇を固く結び、蒼白な顔色で視線はせわしなく泳ぎ、固く握り締められた指先は白く色を失っている。
「お前さ、そんなにオレが怖い?」
オレたちバッテリー組んで、もうどれ位経つと思ってんだ。なのになんでこう、いつまでも怯えているわけ?
そういやさっき、次の対戦校の配球を説明している時もそうだったな。理解の悪いこいつにキレてちょっと声を荒げたら、ずっとベンチに正座したまま震えていたっけ。
三橋、オレはいつまでお前に怯えられなきゃならないんだ。
「ご、ごめんなさ、い…ごめ ん、阿部、く…」
「別に、あやまってほしいわけじゃねえよ」
ハアッとため息をつくと、それにまた三橋が反応して震える。だからどうして、そういちいち人の言葉に過剰反応するんだ。
「こっち向けよ、三橋」
そりゃ確かにオレは口が悪いし、声もデカい。言い方だってキツイの自覚してるし、お前みたいな奴がオレのようなタイプが苦手なのもわかる。
だけど、これでもオレはオレなりにお前と上手くやろうと努力してるんだぜ?
いろいろ改善すべき点はあるけれど、でもやっぱりお前はいい投手だし、だからこそ常にお前の良さを最大限に生かした配球を考えてるつもりだし、
オレはオレに出来ることで、お前に何でもしてやりたいと思ってるよ。
なのに三橋はやっぱりこっちを見てくれない。相変わらずオレと目を合わせようとはしない。初めて出会った時と同じように。
「言いたいことあるならはっきり言えよ。そうやって黙ってたら、いつまでたってもわかんねえだろ」
つい口調が荒くなり、それにまた三橋が怯える。こんなの良くないってわかってるのに、止まらない。
なあ、三橋。オレって一体お前のなんなの。