チームメイト(巣山と三橋)
やっぱり、こんなの間違ってたんだ。こんな事、試してみようなんて言ってすることじゃない。俺が悪いんだ。キスしても嫌じゃないか試してみようなんて言って三橋にキスして。
あんなの、ただ理由が欲しかっただけじゃないか。俺が三橋にキスしたかっただけだ。それをヘンな理由くっつけて、そのあげくにこんな事になって。みっともないったら無い。
ベッドの端に引っかかってる自分のシャツを取って、腕を通す。襟口に頭を通した所で三橋が起き上がった。
「あ、あの…」
「ごめん」
「え、えっ」
眉間に皺が寄って、三橋は情けなく眉尻を下げた。
「お前は悪くないんだからそんな顔すんなよ」
さっき脱がしたシャツを差し出すけど、三橋は受け取らない。仕方がないから膝の上に置いた。
三橋は悪くない。俺が試してみようなんて言わなければ、三橋だってこんな事は言い出さなかったはずだ。
「オレ帰るわ」
「ま、待って」
思ってもなかった力で腕を引かれて、起こしかけてた腰をもう一度下ろす。
「なに」
本当は今すぐここから居なくなりたい。かっこ悪くて情けなくて、泣くもんかってガキみたいな意地でも張ってなきゃやってらんない。
「お、オレが思ってること、ちゃんと、言うから…」
「…うん」
俺が自分で聞きたがった癖に、いざ三橋にそれを言われるとなると怖くなった。胡座をかいた膝の上できつく手を握る。少し前まではこの手て三橋に触ってたのが嘘みたいだ。
「巣山君に、優しくしてもらって嬉しかった、です。それで、好きって、言われたのも、嬉しかった」
「うん」
「それで、えっと…、さっ、避けられてるっのかなって思った時は、寂しくなった。嫌われちゃったのかと、思って、怖くなった・・・」
「うん」
それっきり、三橋が黙り込む。時計の秒針が進む音と、外の雑音だけしか聞こえなくなる。沈黙に耳がじんじんして、いい加減に限界だと思った頃、三橋がぼそりと言った。
「…お、オレ、巣山君に嫌われたく、ない、です…」
「なんで嫌われたくないって思うの」
「なんで…」
「友達だから?同じ野球部だから?」
似たようなことは前にも聞いた。これで三橋がきちんと答えてくれないんだったら、それはきっとダメってことなんだろう。自分でも悪あがきしすぎだと思う。それでもしつこく聞いてしまうのは、俺の未練だ。