>>427 ※鬱注意 暴力的な表現注意 これだけ
虚ろに開いた目から、上気して薄赤く染まった頬に幾本もの涙の痕が伝い、
薄く開いた唇は、絶えず開いたり閉じたりを繰り返している。
その目は、その口は、何に喘いでいるのか、何を求めているのか、何を語ろうとしているのか。
その全てが知りたかったが、ここには何も届いてこない。
聞こえてくるのは、つけっぱなしのテレビの雑音。それだけだ。
今、ここで、何が起こっているのか。とっさには理解できなかった。
ただ、三橋が泣いている。それだけは分かった。
しばらく放心状態で、三橋の泣き顔を見ていた。それは永遠に近い一瞬。
次の瞬間には、残酷な時間の刃が、オレの呆けていた思考を切り裂いた。
目の前に広げられている光景は、夢想のスクリーンに映った映像ではなく、今、この時間に、この場所で、実際に行われていること。
その真実を、事実を、現実をつきつけられて、体中の血液が凍りついた。
世界が歪み、自分がまっすぐに立っているのかも曖昧に感じる。
ただ頭の芯だけが燃えるようにあつく疼いた。
三橋は白いカッターシャツを無造作にはだけさせ、下半身は何も身につけず、ソファに腰を下ろす男の腿の上に乗せられていた。
男とは、お兄ちゃんと呼ばれていた、あの男。
そいつが、三橋の剥き出しの腰に腕をまわし、後ろから肩のあたりに顔を埋めて、その体を抱きかかえている。
三橋の手首には、オレがはめてやった手枷のような黒いリストバンドではなく、鈍色に輝く手錠がはめられていた。
両足を広げられた姿勢の三橋の体を、男が揺らす。
その動きで、胸の前に所在なさげに固定された手首の上を手錠が掠り、赤い痕を刻んでいった。
息を吸うことも吐くことも忘れてしまいそうだった。
オレの体が庭の緑の中に溶け込んでいく。輪郭が崩れて、意識だけが感覚を失った体から離れて、鋭く研ぎ澄まされる。
眼球から送られる電気信号で、脳が焼けつきそうだった。