どうでもいい阿部詩集エピソード
※エロなし・wiki保管なし
「っしゃ、やっと五千円貯まった!」
詩集を売るようになって早何ヶ月か。
最初はひやかしや面白半分の現物ばかりだったけど、一回買ってくれた人の口コミもあって、売れ行きはみるみる内に向上した。
一部100円と言えど、普通ならたかが高校生が書いた詩にそんな価値は無いだろう。買ってくれた人達には感謝のしようがない。
授業中に書いて、部活終った後に駅前で売り渡る日々は決して楽じゃなかった。それでも、周りの人の声援があったから続けられた。
目標額の五千円貯まったから、三橋ン家のマトは晴れて新調できる。三橋もきっと喜ぶ。
「投球数、増えねえように管理が必要だな」
苦笑がこぼれた。かじかむ指に息を吹き掛けながら、終電前のロータリーを帰路に向かって歩く。
澄んだ冬空がやけに眩しく見えた。浮かんだフレーズをメモ帳に書き留めようとして、やめる。
もう、詩集を書いて稼ぐ目標は達成したから、書く意味はないんだ。
メモ帳を閉じて足を進めるスピードを早める。今まで買ったくれた人たち、一緒に声をかけ歩いたティッシュ配りの兄ちゃんの顔が浮かんで消えた。
家まであと少しというところでコンビニに寄った。
あったかいコーヒーを二つ買って、いつか同じことをしてくれた兄ちゃんに差し入れてやろうと思ったからだ。
ふと、いつも気にしないものが今日に限って気になって見えた。
レジ横の募金箱。世界中の困っている人たちを助けるための支援だ。
オレの手元には今までの総売り上げの五千円が詰まった封筒。この五千円は三橋のマトを新調する為に稼いだ五千円である。
でも、これが貯まってしまったら、もう詩集を売る必要がなくなってしまう。脳裏には買ってくれた人の顔と声援が次々に流れて消えた。
*****
「ありがとうございましたー!」
店員の声を背中に受けながら、缶コーヒーを二つ持って駅に戻る道を駆け足。
野球も詩作りも、当分先までやめられなさそうだ。
(仝ω仝)<END>