阿部「三橋、俺と突き合ってくれ!」

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270蝋人形
※ホラー注意。まだエロなし注意。
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/eromog2/1193920534/282

昼休み、俺は学校を抜け出して、
通学路の途中にある祠へとやってきた。
いつも見ているもののはずなのに、
祭られているものが得体の知れない何かだと思うと
途端に不気味に思えてくるから不思議だ。
(中、開けても…いい、かな)
俺は堅く閉じられた木の扉に向かって、恐る恐る手を伸ばす。
「こら、何をしとる!」
「!!」
突然後ろから声をかけられて、俺は叫びそうになった。
心臓がバクバクする。ゆっくりと息を吐いて振り返ると、
そこには麦藁帽子のお爺さんが立っていた。
手には作りたての草餅を持っている。お供えの交換に来たようだ。
「すっ、すみません」
「腹が減ったからってお供えに手を出すとは、全く最近の若者は…」
ブツブツと小言を並べつつ、お爺さんはお供えを取り換える。
「…あの、違います。お供えに手をだすつもりは」
「今作ってきたやつ一個やるから手ェだせ、ホレ」
「え、あ、ど、どうも…」
そんなつもりじゃなかったが、折角だから頂くことにする。
貰った草餅を頬張りながら、俺はお爺さんに尋ねた。
「あの、これ、この祠は、一体なんですか?」
ちらりと一瞬だけお爺さんの視線が俺に移り、そしてまた祠へと戻る。
「これはな、わしらを守ってくれとる。守り神様じゃ」
(…また神様かよ)
俺は内心うんざりした。こういう年寄りの他力本願には辟易する。
「とやさんが、こっちへ来んよう見張ってくれとるんじゃ」
(…!?)
271蝋人形:2007/11/03(土) 22:49:02
>>270

「ちょっ、今、とやさんって!なっ何か知ってるんですか!?」
「なっなんじゃ!?急に大声出して。腰抜かすわい!」
驚いた顔でこちらを向くお爺さんに、俺は少し声のトーンを落として聞き直した。
「あ、ええと、『とやさん』って何かご存じなんですか?」
「ああ、とやさんはな、悪いことの塊じゃ。近寄らんほうがええ」
「悪いこと?」
「そうじゃ。近寄ると引き込まれて、お前さんもとやさんになっちまうぞ」
それだけ言うと、じゃあなと手を振ってお爺さんは帰って行った。
(悪いことの塊、とやさんに”なる”…?)
俺は予期せず仕入れた情報を、一つずつ整理して考えた。
『とやさん』…とやさんは氏神、もしくは祟り神。だけどこの町に氏神はいなくて。
祠の守り神はとやさんから人々を守っている。こっちへこないように見張っている。
とやさんは悪いことの塊で、近づくととやさんになって…
ぞくっ…背筋に悪寒が走った。
(それじゃ、まさか、とやさんってのは…)
嫌な予感がした。だが、これ以上考えるのは危険だと頭の中で警笛が鳴る。
俺はとりあえずそこで思考を中断し、
午後の授業に遅れるといけないので急いで学校に戻ることにした。

「おー阿部ーどこいってたんだ?」
教室に入るなり花井に声をかけられたが、考え事をしていたので適当にごまかして席に着く。
(とやさん、とやさんって…だとしたら)
「どうした?深刻そうな顔して」
顔を覗きこまれているのに気づき、俺は心臓が跳ね上がるのを感じた。
「え、あ、花井、すまん。…何だっけ?」
「なんだよ、しっかししてくれよ。夏大も近いんだし」
「ああ、そう、だったな」
どうしようと俺は思った。心臓が早鐘を打つのを止められない。

(…部活終わったらシガポにでも聞いてみっか)