教師「三橋君、何故二人で座っているのかね?」

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932fusianasan
それしかすることがない

授業の合間の休み時間に三橋が泉と一緒にオレのクラスに来た。どうやら花井にノートを返しに来た泉にくっついてきたらしい。そのまま話し始めた二人を置いて、三橋がオレの席までくる。
「あ、阿部君!」
「なに」
「約束っ、覚えてる?」
約束ってなんだっけ。こいつとした約束なんて3年間オレがキャッチャーやるってのの他に何かあったか?記憶の底をさらっているうちに、三橋が少し声を落として言う。
「今日、ミーティングでしょ。その後、オレんちで見ようねっ」
「あ」
思い出した。うわ、こいつ本気だったのか。今度なって言ったのはあの場を適当に誤魔化すつもりで言っただけだった。普通だったら社交辞令みたいな物だって分かると思ってたんだが、どうやら三橋には通用しなかったらしい。
「あのさ」
何が悲しくて三橋と一緒にエロDVDなんか見ないといけないんだ。きっぱり断ったほうがいいと俺が口を開こうとした途端に予鈴が鳴る。
「三橋、戻るぞ」
「うん」
「あ、おいっ」
踵を返した三橋の背中に伸ばしたオレの腕は、虚しく空を切っただけだった。

「今日は、お父さんもお母さんも、帰りが遅いんだよ」
断ろう断ろうと思っていたのに、結果から言えばオレは三橋の家にいた。なんでハッキリ断れなかったんだろう。ここまで来る前にいくらでも断るチャンスはあった。だけど三橋があんまり楽しそうなんで、言えなかったんだ。
「ちょっと待ってて、オレ、DVD取ってくるっ」
「ああ」
三橋の背中を見送って、ソファーに腰を下ろした。もうため息しか出てこない。いや、エロビの上映会なんてものはシニアの頃にも先輩の家でやったことはあったけど、あの時はもっと大勢でバカみたいなノリだった。
だけどまだ、三橋とオレはその手の冗談を軽く交わせるほど打ち解けてはいない。三橋はき気まずくないのだろうか。そんな事を考えているうちに三橋が階段を下りてくる足音がした。
「こっ、これだよっ」
オレに向かって差し出されたDVDを手に取る。うん、成人指定マークが付いたDVDだ、しかもレズ物。オレ、レズ物ってあんま好きじゃねーんだよなぁ…。
「ふーん?」
まあ、いい。早いトコ見て帰ろう。一回付き合ってやれば三橋だって気が済むはずだ。安請け合いをした自分が悪いんだと言い聞かせながら、オレは三橋にDVDを返す。三橋はそれを受け取ると、DVDプレーヤーに向かった。