チームメイト(巣山と三橋)
「日直だから先いくぞ」
「おー」
朝練が終わって、栄口は慌しく着替えを済ませて部室を出て行く。
少し遅れて俺も教室に行こうとした所で、三橋に声をかけられた。
「あのっ、巣山くん」
一拍置いて、振り返る。三橋はもう一度あの、と言って俺にすっと手を差し出した。
「なに?」
それにつられるように俺も手を出すと、手のひらに100円が乗せられる。
「これ、返すの遅くなって、ごめんね」
ああ、前に貸した100円か。すっかり忘れていた。手のひらの上の100円は三橋の体温が移っていてすこしだけ温かい。
「あ、うん」
それ以上、会話が続かない。気まずい沈黙が俺と三橋の間に落ちる。
何か言わないといけないって焦るけど、やっとの思いで言えたのは、到底長く会話が続くような言葉じゃ無かった。
「あー、早く教室いかないと遅刻するぞ」
「う、うん」
三橋は頷くけど、まだ何か言いたそうな様子でそわそわと視線を彷徨わせていた。
「うん?」
先を促すように頷いてやると、三橋はちらりと俺の顔を見て口を開く。
「あの、あの…、俺っ」
言い淀む三橋の様子を見ていると、ここ最近の俺の言動のせいで何か誤解をさせてしまっているような気がした。
「ごっ、ごめんなさい」
唐突に謝られて、思わず聞き返す。
「え?何が?」
三橋に謝られるような事をされた覚えは無い。どちらかと言えば、俺の方が謝らないといけない事の方が多い気がする。
「だっ、だって、巣山くんなんか、怒ってるみたいって言うか、俺…、さっ、避けられてる、気が…」
「あー」
思わず手で顔を覆った。やっぱり誤解させていたらしい。
「ほっ、本当はもっと早く、返したかったんだけど」
違う。別に金返してくんなかったから怒ってるわけじゃない。そんな事、今三橋に言われるまで忘れてたくらいだ。