212 :
夕立:
※鬱注意 暴力的な表現注意
<阿部視点>
雨は嫌いだ。嫌なことばかり思い出すから。
あの日も雨だった。今日と同じ、夕立だった。
暗く、世界が沈みこむような重たい雨。部室の窓から外を眺めていると、優鬱な気分に心が捕われる。
いっそ世界なんか、海の底に沈んでしまえばどんなにいいか。淀んだ空気に息が詰まる。
ここに響くのは、ぺちゃぺちゃという卑猥な水音。それ以外は屋外から微かに響く雨音だけ。
気まぐれに、足の間に身を屈めている三橋の髪を撫でてみる。
ふがふがと鼻を鳴らしながら、オレのものを舐めしゃぶっている三橋。
髪に指を絡めると、窺うように上目遣いで俺の表情を見る。弱々しく怯えて、服従の色を滲ませる瞳。
その目が嫌いだ。
見ているだけで、イライラする。
その目で見られると、吐き気がする。胸の中がどんどん黒く汚れていく。
「もういい」
そう言っても三橋は顔を上げようとしなかった。
「もういいって言ってんだろ!」
髪を掴み上げ、強引に顔を上げさせた。歯が掠ってちりっと痛みを感じ、反射的に目を瞑る。
瞼を閉じる瞬間、舐めていたオレのものと三橋の開いた口を、銀色の唾液の糸が伝うのが見えた。
「ごめんな、さい、阿部くん」
声に応えて目を開けば、眉を歪め哀れっぽい顔でオレに許しを乞う三橋の姿。
だから、その目が嫌いなんだよ。
髪を掴んだまま、ひっぱりあげ、そのまま勢いにまかせて三橋の体を放り投げた。
「ぐ」
小さく呻いて、三橋の体が転がる。
何の抵抗もせず、転がった姿勢のまま、三橋は頭を下げて、何度も「ごめんなさい」と唱えていた。
なあ、三橋。 オレ達はどうして、こんなことになってしまったんだっけ。
あの日を思い出すと、胃が燃えるように痛くなる。腹の底から放たれた炎が体を燃えつくす。
あの日も雨だった。今日と同じ、夕立だった。この雨は、オレ炎を消してはくれない。