阿部「三橋、エビフライぶつけるぞ!」

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588スレタイ記念
ふっと三橋が身じろいだ。

「あ、阿部君 いま、よんだ?」
「呼んでねェけど……」

明日の準備として荷物にでかいレジャーシートを詰め込んでいたオレは、床に寝ませたままだった三橋を振り返った。
エビフライだから三橋は自力で動けない。
可哀そうだが広いスペースがないので大きなバスタオルを何枚も引いた上に下ろし、
暇つぶしになればと携帯から音楽を流してる。
明日の儀式が成功すればこんな不便な思いさせなくてすむんだ。
三橋の言う「台所の神さま」ってのが都合よくこっちの話を聞いてくれたらいいんだけど、正直オレは気が重い。
野球部のみんなが手伝うとは言ってるけど、
万が一失敗して三橋と別れることになったら、なんて考えただけでも泣けてくる。
また三橋が戻ってこられるかどうか分からないんだし。
散々説得されてようやく決意したってのにまた決意が揺らぎ始めた。
でも、エビフライのままじゃ賞味期限があるんだよな。
エビフライにしてみたら寿命みたいなもんか。
白い黒人も青福も偽装してたんだし、三橋も賞味期限ごまかせたらいいのにな。
表示だけじゃなくて延々と傷まなかったら、オレはもうエビフライのまんまでもいいよ。
……いや、出来ればヒト型のほうがいいけど。
三橋の白くほっそりとした肢体を思い出し、ごくりと息を飲んだ。

「あ、の 阿部 君?」
「なに?」
「あした、うっ うまく いくと、いい ね!」
「……だな」

フヒッと三橋が笑って、オレは考え事を放棄した。
神さまが三橋の願いを聞いてくれないなら野球部全員で野球とエビフライの良さをいくらでも言い聞かせてやる。
それでも駄目なら、エビフライぶつけたらココロがきれいになるかもしれない。どっかの誰かみたいにな。
オレは三橋の傍へしゃがみ込んで衣を一掴み食べた。
やっぱり、三橋は最高にうまいエビフライだった。