阿部「三橋、いよっくに(1492)見えるは?」

このエントリーをはてなブックマークに追加
815fusianasan
チームメイト(巣山と三橋)

脳にヘンなフィルターがついた。なんでも三橋に関連付けて物を考えるようになるヤツ。
自販機に牛乳買いに行くだけで、隣に並んでるいちご牛乳見ては三橋の顔が浮かんで来る。
毎日自転車置き場に行く度に、俺にありがとうって言った三橋の声を思い出す。
泉や田島の姿を廊下で見かけるだけで、三橋は一緒じゃねえのかなとか考える。あいつらだって、いつも三橋と一緒ってワケでも無いだろうに。
こんな状態なもんだから、本人目の前にした時は最悪だ。
近くにいるってだけでやたらと緊張するし、目なんかとてもじゃないけど合わせられない。
俺がそんなんだから、三橋の方だってなんか様子が変だし、せっかく笑ってくれるようになったって言うのに、また前みたいに戸惑ったような仕草をされることが多くなってきた。
このまんまじゃ、三橋はまた自分が嫌われたって思うんだろう。あいつの思考は計り知れないほど自虐的だ。
それなのに気持ちが焦るばっかで、このまんまじゃダメだって分かってるのに自分じゃどうしようもできなくて、どうしたらいいのかも分からなくて、ただマウンドの三橋の背中を見る日が続いた。
なんだよ。こんなん、まるで俺が三橋の事、好きみたいじゃんか。

こんな調子じゃ部活に身が入るわけもない。朝の守備練習中にとうとうヘマをやらかした。
三橋に気をとられていたせいで、真正面に飛んできた球を見事なまでにトンネルしてしまう。あまりの事に自分でも驚いた。
「巣山君、まーだ体寝てるみたいねぇ?外周走ってらっしゃい!」
「はいっ」
モモカンに一礼して、グラウンドの外へ向かう。
田島や栄口にちょっとからかわれたけど、真正面の球こぼしてるようじゃ何も言い返せなかった。
ベンチにグローブ置きに行く途中で、三橋と目があったけど思わず視線を外してしまう。
こんな態度取ったら気にするかもしれないと思ったけど、三橋の顔が見れなかった。
ちょうどいい、外周走り終わる頃には少しは落ち着くだろう。
走ってる時は、何も考えないで済む。自分の呼吸音に意識を集中して、ただ走る。走る。走る。走る。
グラウンドに戻ったら、守備練習は終わっていた。

続きは夜中に