ラッシュの車内では妙な自己主張をする方が馬鹿らしい。
ぎっちり詰め込まれた状態なら転倒する心配もないのだから、揺られるままになっておけばいいのだ。
ただ、これが背の低い女子供となると話が違ってくる。
身動きが取れないことには変わりないが、加えて彼女らは多く酸欠になる。
人が多い故のこもる熱気に当てられてしまうのだ。
僅かな隙間を探して浅い呼吸を繰り返す少年を、俺は列車に揺られながら見ていた。
「大丈夫?」
そう一言掛ける者もいない。
当然だろう。
皆、一日をどうにか終えて疲れ切っているのだ。
それに、声を掛けただけでは状況は何一つ変わりはしない。
このまま徐々に乗客が降りて空くのを待つか、もしくは自分が途中下車するか。
体調が悪いのでなければ前者を選ぶのが賢い。
途中で降りたところで帰り着くにはどのみち乗らなければならないのだから余程時間の無駄だ。
ウトウトと垂れ下がる瞼を押し開け、車内をぐるりと見回した。
少年の友人や家族らしき姿は見当たらない。
電車がガタンと揺れ、拍子に少年がドアの前へ押し出された。
たたらを踏んで肉付きの薄い体が揺らぐ。
組んでいた腕を伸ばし壁に突くと、突っ撥ねるようにして扉の脇に無理矢理空間を用意した。
勢いのまま扉へ押し潰されようとする少年の二の腕を掴み、隙間へ放り込む。
両手を壁に当て、支えにした。
背中に大勢の体重がのし掛かる。
腕の加護の中で少年が釣り目がちの眼をパチパチとしばたかせ、不思議そうにこちらを見上げていた。
それが、三橋廉との最初の出会いだった。
<!-- ここまで俺の妄想 -->