(V)∧_∧(V)
ヽ( )ノ シャキーン
/ /
.......... ノ ̄ゝ
前回「田島の返事がトイレから返って来ない」より
回したドアノブを握る手が、面白いほど震えている。
あとはただ、少しだけ力を入れてドアを引くだけで良いのに。
それだけの事に体が固まってしまっている。先読みする癖で最悪の事態ばかり考えてしまう。
自分の後ろで三橋が急かすように阿部を見ているのが、背中越しにも判っていた。
頭の中でチクショーと叫んで手に力を入れる。
今更こんな事に意味なんて無い。
判っているのにドアを引く動きが、どうしても音をたてないように慎重になってしまった。
目の前の光景に2人が絶句する。
狭いトイレ。
突き当たりにひとつだけ設置された換気用の小さな窓から押し流されるように植物がなだれ込んで
トイレ一杯に広がっているのが闇の中でも確認できた。
水棲植物なのか、こんな種類の植物は見た事がないがとにかく、詰め込まれた蔦は水をたっぷり含んで光っている。
ぴたんぴたんという水滴の音が小さく重なるようにトイレに響いていた。
異空間に唖然としている2人が中に入れないでいると、上の方の…
その植物の束の真ん中あたりを、二つに分けるような隙間が出来ている事に気付いた。
何かが挟まっている?
自分の後ろから乗り出して中を覗いている三橋を阿部は後ろ手に制して中に入る。
足元が水浸しの茎や蔦で溢れている為、上履きを履いた足はすぐに埋もれて水を含み嫌な音と感触を阿部に与えた。
もう動揺はしていない。おかしな状況に耐性が付いたとでも言うべきか。
頭がすっかり慣れてしまったのだろう。
トイレにずぶ濡れの植物が溢れかえっているの光景も、何故かこの場では納得できてしまうのだ。