阿部「三橋!今日はキャッチボールすっぞ!」

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449かごめかごめ 5日目
栄口がやってきたのは一時限目が終わった後だった。
かわいらしい紙袋を手に机の間をすり抜け、三橋の目の前でそれを揺らす。
カサカサと軽い音を立てて、中身が揺すられた。

「はい、差し入れ」
「オ、オレに?」
「うん。田島と泉と、浜田さんもどうぞ」
「オレたちの分もあんの? やった!」

目を輝かせた田島が紙袋を受け取り三橋の机の上に中身を取り出した。
白地に赤のチェック模様の小さなカップ、ちりばめられたレーズン。
手作りのカップケーキだった。

「どうしたんだ、これ」
「姉ちゃんが作ってくれたんだよ。でも全員分はないから、甘いの好きそうな三橋たちにやろうと思って」

あと食ったのはオレと巣山だけだから、他のやつにはナイショな。
指を立ててポーズを示してから、栄口はひとつ手にとって三橋に手渡した。
カップケーキは、5つある。

「三橋は2つな。味はオレと巣山が保障するよ。腹も痛くなってないし」
「あ、ありがとうっ!」
「どういたしまして。じゃあ、オレもう戻るな」

教室を出て行く栄口を見送りに、三橋は教室の扉まで行って手を振っていた。
三橋の後ろには浜田がついている。
田島はカップケーキのにおいを嗅いでからパクンとかぶりついた。
カップケーキというよりは蒸しケーキに近く、ふんわりとほのかに甘い生地が美味しい。
一口で半分を胃に納めた田島の横で、泉は机に置きっぱなしになっているケーキに目を落とした。