>>503 人にペースを乱されるのは苦手だ。できる事なら面倒には関わりたくないし、巻き込まれるのだってまっぴらだ。でもなぁ…。見て見ぬ振りをするのも苦手なんだよな。
練習が終わって帰ろうとしたら、自転車置き場で困りきった顔をした三橋を見つけて、俺は声をかけた。
「三橋、どうした?」
「あ、すっ、巣山くん」
三橋は俺の方を見て、少しほっとしたような困ったような、なんとも表現しがたい表情をした。
「チャリ、どうかしたのか?」
「うん、なんか、パンクしちゃったみたいで…」
「マジ?」
自転車を見てみれば、確かに後輪がぺたんこになっている。これじゃあ乗って行くのは無理だろう。
「ほんとにパンクなの?空気抜けてるだけじゃなくて?」
「あ、えっと・・・、わかんない」
そりゃそうか。確か体育倉庫に行けば空気入れあるんだよな。バレーボールとかに使うやつ。
「ちょっと待ってな、荷物預かってて」
俺は荷物を三橋に任せて、職員室に体育倉庫の鍵を借りに行った。
体育倉庫から空気入れを持ち出して、自転車置き場まで戻る。
三橋の自転車はパンクしてたわけじゃ無さそうだった。空気入れを一押しする度にタイヤが次第に膨らんでいく。
「ホラ、これで帰れんだろ。でもまたすぐ空気抜けるようだったら、直したほうがいいかもな」
「あっ ありがとうっ」
たいした事はしてないのに、三橋はまるで俺を命の恩人でも見るかのような目で見た。
ホント、たいした事じゃないのに。三橋のこうゆう大げさな所が、実はちょっと苦手だったりする。
感謝されるのは悪い気はしないけど、そんなに喜ばれるようなことをしたつもりはない。
「いや、別に」
「だって、巣山君、来てくれなかったら帰れなかったよ」
「んー」
ちょっと、どうしていいのか分からない。俺は職員室に鍵を返しにいくことにした。
「俺、鍵返してくっから。三橋も早く帰って自転車修理に行けよ、じゃあな」
「あ!」
背を向けると三橋はまだ何か言いかけてたけど、そのまま俺は職員室に行った。