阿部「三橋、お前の穴は俺のもの」

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叶さんの時代到来の波に合わせてみた
※色々捏造注意

>>381

叶に手を引かれ、少年は湯気の立つタライの風呂桶に足先を浸す。少し熱いくらいの湯加
減は、冷めてしまうのを考えてのことだろう。じんわりと、足先から脹脛へ、熱が伝わってゆ
く。少年はそれを心地よいと感じた。
「廉」
肩に触れた叶の手指が促すままに、少年はそろりと膝を折り、タライの湯船へ身を沈めて
いく。張れた湯は三和土へ溢れてしまうこともなく、白木の縁辺りで静かに波を打った。
腰から下を湯に包まれ、少年は小さく息を吐く。そして、温かく、湿った湯気を深く吸い込んだ。
こうして湯を浴びるのは、宴の行われる晩のみに限られている。少年は宴の肴であり、贄で
あった。泥のついた野菜が膳に上げられることがないのと同じく、主人に喰われるのに汚れ
たままなど滅相もない。そう、遠い昔に少年は言われた。
ちゃぷん、と湯が音を立てる。灯台からの僅かな明かりによって、立てた膝が湯面に暗い影
を落としている。ゆらゆらと揺れるそれを眺めていれば、肩に温かい湯が掛けられた。少年は
目を閉じる。叶は何度かそうして少年の肩に湯を浴びせ、それから濡らした白布に石鹸を擦り
付けて少年の背を洗い始める。
リーンリーンと、近くで鳴く鈴虫の音に、湯が白木のタライを叩く密やかな水音が重なり、少年
の鼓膜を震わせる。
少年は暫くの間、そうして目を閉じて虫の音と水音だけを聞いていた。腕や胸元を、泡の立った
布地で擦られる感触はとても心地が良い。同じ人の手とはいえ、こんなにも違うものなのかと、
叶に身を清められる度に少年は思った。宴の最中に撫で回されるのとは全くに異なる。叶の掌が
少年に与えるのは心地良さと安堵。少年は溜息を漏らした。このまま時が止まってしまえばいい。
そう思える程の心地良さだった。
叶は丁寧に少年の身体を洗い上げ、頭から湯を浴びせる。濡れそぼった色素の薄い少年の髪を
一本一本解すように、泡に包まれた手指で梳いていく。それから「髪、伸びたな。今度切ろうか」と
徐に呟いた。
少年は無言で頷いた。湯を浴びている間はいつも、少年も下働きの男も滅多に口を開かなかった。
ただ黙って白い身体を洗い、洗われるのみ。それはあたかも儀式のような静寂さを纏っていた。