田島の誕生日と聞いて。
「みはしーっ!」
たたた、と軽い足音が背後から近づいて来るのを聞いて三橋は足を止めた。
声の主である田島を振り返ると、いきなり飛びつくように首に腕を回される。
「う わっ」
「なーなー、今日ってすぐ帰んねーとダメ?」
三橋の顔を覗き込み、田島は満面の笑みを浮かべた。
「あ えっと 大丈夫 だけど」
練習も終わり、あとは着替えて帰るだけだ。特に用事があるわけでもない。
「じゃあさ、オレんちこねえ?」
「田島くん ち?」
「うん、今日オレの誕生日!お祝いしてくれるでしょ!」
「たっ 誕生日っ!」
三橋はびっくりして背筋を伸ばした。すっかり忘れてしまっていた。
自分の時はみんなに祝って貰っておいて、と申し訳ない気持ちになる。
「ごめん なさい オレ 知らなかった よ…」
眉を下げて三橋は俯いた。プレゼントも何も用意していない。おめでとうすら言っていなかった。
「あー、うん、おめでとーって言ってくれればそれでいいよ」
田島はぐいと三橋の腕を引いた。三橋をひっぱるようにして部室へと歩き始める。
「オレんち、来るよね?」
「うっ うんっ」
「やった!」
頷いた三橋に、田島は歯を見せて笑った。
田島の部屋へ通されて、三橋は落ち着き無く周囲を見回した。
てっきり野球部のみんなで、田島の家へ行くことになっているのかと思っていたが、呼ばれたのは三橋一人らしい。
プレゼントも何も用意していないのに、どうすればいいのだろうと考える。
「みっ みんな は?」
「ん?呼んでねーけど」