*入れ替わりで女体注意
オレの部屋にある鏡は、見た目からしてそれはもうすごく古くて、ゆうに100年くらい前からはあるものらしい。
そんなところまでいくと、いっそ希少価値があるんじゃないかって思えてくるけど、元は安物だからってなぜかオレの部屋に置かれてた。
男のオレには大きい鏡なんて、あんまり使い道がない。
従兄弟のルリの方が女の子だからきっとこういうの部屋に置くといいんじゃないかなってずっと思ってたけど、古臭いからやだって理由でいつも断られる。
それに、雰囲気がなんか嫌なんだって。見るとなんかぞくぞくするって、ルリは何度も言う。
オレはそういうのは一度も感じたことなかった。確かに見た目は年季が入ってるせいで、ちょっと怖いかもしれない。
ルリは女の子だからやっぱりそういうの気にするんだなって思って、それだけだった。
だってオレは一度もその鏡を見て怖いとか思ったこと、一度もなかったから。
……――あの日、までは。
群馬の家からその鏡が届いたのは、突然のことだった。
オレはなんにも話を聞いてなくて、ある日帰ってきたら突然ぽつんと。
当たり前のようにオレの部屋の隅っこに置かれてた。
多分昼間のうちにお母さんが置いたんだろう。オレはそう思って、その日はすぐに眠りについた。
次の日の朝、オレは奇妙な視線を感じて、珍しく目覚ましが鳴る前に目を覚ました。
「あ、れ……?」
視線は鏡の方から感じるような気がする。
変、な感じ、がするのはこの視線に、なんとなく覚えがあるから。
でも鏡に映ってるのはオレの姿だけで、当たり前だけど寝惚け眼で見返してくるのももちろんオレ。
鏡の中のオレが同じ動きで起き上がって、同時に欠伸をする。
そこでちょうどいつもの時間にセットしていた目覚ましが鳴り響いて、オレは鏡から視線を外す。
奇妙な視線は部屋を出るまでずっと続いたけど、すぐに慣れてしまったから、気にかけることなくオレは部屋を出た。
帰ってきてからもやっぱり鏡は部屋の隅っこでオレの姿だけをただ映し続けるだけ。
なのに、朝に感じた視線が強くなってる。
鏡に映っているのはオレ。
なのに、誰かが鏡の向こうから見ている。
視線を感じる。
「……だ、れ」
声を出したはずなのに、鏡の中のオレの唇は動かなかった。
変わりに、ぱちくりと瞬きをして、首を傾げる。
さっきまでぴたりと同じ動きをしていた鏡の中のオレは、もうオレではなくなっていた。