「ふぁああ……ああー……」
「でっけーアクビ。お前もうちょっと緊張感保てねぇの?」
「浜ちゃん、朝 苦手だった よね」
「ふわぁああ……うーん、お前らよりは寝てるはずなんだけどなぁ」
言いながらまた浜田は大きな欠伸をし、泉がそのすねを蹴ろうとしていた。
三橋の手には大きくガーゼが当てられていたが、
今朝話していた様子では傷自体は本当に大したことはないようだった。
三橋はすぐにでも投げたがったが百枝と阿部と花井、それから田島が強く止めて、
少なくとも朝練の間は三橋は手を使った練習を禁止されていた。
念入りに柔軟をしてからグラウンドを走り、まずはバッティング練習が始まる。
三橋はバットを持てないし、バッティングピッチャーも出来ない。
野球で手を使わない練習なんてそれほど多くなく、三橋はほとんど見学しているだけだった。
それも手持ち無沙汰で落ち着かないからとうろうろするので、仕方なくボール磨きを任されていた。
ダッシュには三橋も参加した。
スライディングの練習もしようということになり、各々指導し合いながら何度も繰り返す。
グラウンドに水をまくのは午後練習からのことで、朝はまだ砂が乾いている。
繰り返すうちに砂埃が立ち、気管支の弱い者は少し煙たそうにしていた。
「けほっ! けほ、けほっ!」
「三橋、大丈夫か? あーあ、砂まみれだし……」
「払ってやるから、ちょっと口押さえてな」
「げほっ……あ、あり、あり が、とうっ」
咳き込みながら礼を言う三橋に苦笑しながら栄口が砂を払う。
昨日のこともあり皆一様に三橋へ優しく接していたが、
元々三橋を気遣うことが多かった栄口はそれが顕著だった。
田島と泉は必ずどちらかが三橋の傍にいるようにし、阿部と水谷は休み時間ごとに9組へ顔を出していた。
巣山と栄口、西広と沖は手分けして聞き込みを続けたが、
野球部の倉庫に近づく不審な人物の情報は一向に手に入らないままだった。