夢が始まったその日、三橋はまだ人と言えるような姿をしていました。
いつも通りの格好に、ただ猫の耳と尻尾が生えているだけです。
夢の中では皆が当たり前のように三橋に接していました。
あまりにも周囲の反応が変わりないので、夢の中では阿部も当たり前のように接します。
夢は三橋と手を振っていつもの場所で別れたところで終わりました。
目覚めた現実の先ではもちろん、三橋には猫の耳も尻尾も生えていません。
阿部はそのことにほっとしながらも、また、その次の日も似たような夢を見ました。
二日目のそれは少しバージョンが違います。
今度は猫ではなく、犬でした。
そして、三橋の姿はもう人と言えるものではなくなっていました。
監督のペットであるアイちゃんと同じような、まるきり犬の姿です。
不思議なことに周囲はエースが不在であるにも関わらず、夢の中だからか当たり前のように練習をこなしています。
もちろん阿部もそれに流されるまま、普通に練習をこなし、犬の三橋にもその姿が当たり前のことであるように接しました。
三橋は犬が大の苦手だったので、鏡で自分の姿を見た拍子に気絶してしまい、阿部の夢はそこでまた現実へと還りつきます。
目を覚ました阿部の体は寝汗でぐっしょりと濡れていました。
これはきっと、あまりいい夢ではありません。
少なくとも阿部は三橋が犬になってしまったら困ります。
けれど、現実ではやはり三橋はちゃんといつも通り人の姿をしていて、それひほっとさせられるのです。
夢は所詮夢でしかありません。
しかしまたその次の日も阿部は似たような夢を見たのです。
三日目の夢の中、三橋は猫でも犬でもなく、エリマキトカゲの姿をしていました。
恐ろしいほど違和感がありません。
いっそきぐるみではないのかとさえ思ってしまいますが、どう見ても本物です。
少なくとも夢の中では。
エリマキトカゲなのに人型大の三橋は普通にマウンドでボールを投げていました。
姿は違うけれど、昨日みたいな犬の姿ではありません。
ちゃんとボールも投げられるし、阿部の問いかけにも答えてくれます。
ただただその姿だけが阿部にはおかしく見えました。
けれどやはりというか、夢の中なので阿部以外はそれを当然のことのように受け入れています。
阿部もなんとなくそれに流されるまま、三橋と接し練習を終えました。
前の日と同じく、いつもの場所で別れて手を振るところで目が覚めます。