※キモノハシ・タライ警報解除注意
五円玉をお賽銭箱に投げる。ちゃりーん。手を二回ぱんぱん。その後に深く、一回お辞儀。
(阿部君を、キモチよくさせてあげられますよーにっ!)
がらんがらんと垂れ下がった紐を引っ張って、お願い終了。
神頼みなんて、人に迷惑かけてるみたいであんまりしたくなかった。けど、金ダライが空から降ってくるのは、日頃の行いが悪いのを神様がお咎めするかららしい。
悪いことをしてるつもりはなかったけど、これはきっと信仰意識の低下とか、そういう問題だと思う。だからオレは近所の神社にお参りに来たのだ。
こういうのってキモチの問題。でも、大事。
オレは空に向かってもう一度頭を下げ、お願いを胸の中で呟く。
『……の願い……叶えて……』
「ウ、ヒ?」
――今、どこからか声が聞こえたような気がする。
辺りを見る。境内にはオレ以外に人影はおろか、ハトの一匹だって見当たらなかった。
気のせいだと思って、帰ろうとする。
『お前の願いを叶えてやろう』
「???」
今度ははっきり聞こえた。しかも、願いを叶えてくれるって、これって誰の声?
『お前の願いを叶えてやろう、三橋。ただし、願いが叶ったら必ずもう一度ここに戻ってこい。約束したぞ……』
「うえ、えっ、え?」
その後、オレはそこで暫くうろうろしていたけれど、不思議な声が聞こえることはなかった。
(でも、願い、叶えるって言ってた……)
もしかしたら、金ダライの神様だったのかもしれない。オレの願いが聞き届けられて、現れてくれたのかもしれない。
だとしたら、いつまでもこうしていちゃいけないだろう。
神様が許してくれたのなら、やることはただ一つだけ――。
「阿部君の、待ちぶせ!……と、お、おっもちかえり……!」
――今何より願うのは、一刻も早く、阿部君の元に辿り着くための足が二本。