79 :
結婚式:
阿部くんがオレを連れてきてくれたのは、街外れにあるちっさな教会だった。
真っ白な壁はつい最近塗りなおしたばかりらしくて、おひさまにあたると眩しいくらい。
他の皆は? ってオレが聞くと、あとから来るよって言われた。
そのまま手を引っ張られて教会の中に入る。
大きな扉がぎぃいって音を立てて、なんだかすごく緊張してきた。
教会の中なんてオレ一度も入ったことない。
どんなとこなんだろうって、じっと床を眺めていた顔をそっとあげてみる。
想像よりも、目の前にある教会のステンドグラスは大きくて、綺麗で存在感があった。
そのまま奥の方に、阿部くんと一緒に進む。
間近に迫ったステンドグラスに思わず溜息をついていると、いつのまにか阿部くんの手が離れてた。
「え、うあっ!?」
「三橋、こっち」
いつのまにか教会の奥、隅にある扉を開けて阿部くんがオレを手招きしている。
慌ててそっちに走るとそのまままた手を掴まれて引っ張られて、扉の向こうに入れられた。
扉の向こうにあったのはちっさな部屋。
多分、花嫁さんとかが色々準備したりする部屋なんじゃないかと思う。
鏡台とかクローゼットとか、そういうのが色々いっぱいある。
「お前、これ着ろ」
「うえ」
思わず変な声をあげてしまうと阿部くんがきっと眉を吊り上げる。
口には出さないけど、目がなんて言ってるのかオレにはわかってしまう。
なんだよ、なんか文句あんのかよって。
阿部くんが「結婚式しよう」って連れてきてくれて、だから、そんなの、オレにもわかってた。
予想はついてた、けど。
でもやっぱりオレが花嫁さんなんだ……。
阿部くんと見ると男の人用のスーツをがたがたクローゼットの奥から引っ張り出してる。
オレが着ることになったらしい花嫁衣裳は鏡台の椅子に置かれたまんま。
もうここまで来ちゃうと、やっぱり後戻りはできそうにない。