阿部「三橋!今日こそ結婚すんぞ!」

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220遅く起きた朝には潔癖症
登場人物:中村、ビリー
※L5三橋注意

「阿部君。何のハナシ、してたの?」
 じりじりと近寄ってくる三橋と、距離を置こうと後ずさる阿部の対立図が成立する。しりもちを着いたままの沖が目線で他の部員に助けを求めるも、誰一人として動こうとしなかった。動くことができなかった。
「……お前こそ、その目どーしたんだよ」
「こ、コレ?コレ、は、最近少しだけ、眠れなくて……それでちょっと……」
 ぴたり。足を止め、ぐるぐると指を回し、言い訳を必死に紡ごうとする三橋。その、いつもと変わらないどもりの口調に内心ほっとする。周囲からは、安堵の溜め息。
「……アホ。どーせまた余計なこと考えて夜更かし……」
「阿部君」
 はっきりとした発声が、阿部の言葉を遮った。三橋の足が一歩、前に出る。
「今はそんなハナシ、してないよ」
 口角を持ち上げ、三橋は笑む。だが充血した目はどろりと淀み、光彩を失った――まるで亡者の瞳。生きた死人。
「オレがダメピーだから、みんな、きっと信じてくれ、ない。でも、すごく汚くて、触れなくて、辛くて……虫が手の上を……肩を……這いずり回るのは……コワイ、ぞくぞく…………わっ、わ、わわ、わかる?あ、阿部君も、そう?わかる?」
『思考、知覚、感情のあらゆる精神面に異常が……前後で繋がらない会話を……マイナス思考……』
『幻覚、幻聴が見える聴こえる……』
 中村の声が脳内でリフレインされる。三橋の現状態と、その一字一句がパズルのピースをはめ込むように合致していく。
「み、三橋は疲れてんだよ。寝てないと頭グラグラして幻覚とか見る……」
「幻覚なんかじゃ、ない!」
 宥めようと口を挟んだはがりに三橋からの譴責を受け、栄口は息を詰まらせる。三橋は頭を抱え、ぶつぶつと独り言を呟きだす。
「……一人じゃない、二人、二人だ、二人いるんだ……。はやく……他の誰にも気付かれないように、キレイにしなきゃ、キレイにしなきゃ……」
「ッ、三橋!お前いいかげんしっかりしろよ!」
 阿部の伸ばした右手が三橋の左手首を掴み挙げた、その刹那。
「うああああああああああ!!!!」
――絶叫が部室にこだました。