俺はさすらいの家庭教師オレゴン櫻。
勉強の苦手なガキどもの学力を底上げするのが仕事だ。
日本列島の東西南北を駆け巡る多忙な俺は今日、群馬県の某所に来ていた。
「オーレッ!」
気合も凄まじくドアを蹴破り飛び込むと、ベッドに寝そべっていた男子が飛び上がった。
こいつが俺の生徒である三橋廉だ。
俺は人差し指を立て、鯉のように口を開閉する三橋に向かって、軽く振ってみせる。
「オーケイ、ベイベー。スタンダップ、ホールドアップ。俺の名はオレゴン櫻。
今日から俺がお前のチューターだ。赤点ギリギリの低空飛行を続けるお前の学力を、
少しはマシにしてやろうというお前の母親の心遣いにより、俺が呼ばれたというわけさ。
よろしく頼むぜ、三橋!」
一気呵成に自己紹介を終えた俺が見ると、三橋は毛布を引っ被り、こちらに尻を向けて震えている。
「おいおい、尻などみせて、俺を誘っているのか? 挿れてほしけりゃ自分から脱ぎな」
俺が近づく気配を見せると、三橋は慌てて方向転換した。なんだ、ガッカリさせやがるぜ。まぁいい
こいつの学力を、進学希望先である埼玉県立西浦高校の合格レベルにまで
持っていってやるのが俺の仕事だ。
気前のよいクライアントに応えるべく、俺も全力で臨むぜ。
三橋を学習机に向かわせ、俺はその横に立つ。
「さて、先ずは軽いジャブからいってみようか。三角形の面積を求める公式は?」
「……」
「……おい?」
「……ウ、ウヒッ?」
しまった。ここまでできない奴だとは予想guyだったぜ。
思わず立ち眩みを起こした俺だが何とか堪えた。
先ずはこいつの学力を把握しよう。話はそれからだ。
「じゃあ、教科を変えて日本史いってみよう。源頼朝が征夷大将軍に任官されたのは?」
「……え、えーと」
「年号覚えてないか? いいナントカをナニしよう、鎌倉幕府。アレだよアレ」
「い、いい子を孕もう、鎌倉幕府……?」
「それ何年だよ!?」