初めて気付いたのは、一週間前の放課後、着替えの時だ。
暗くなった外からは、もう明かりの差し込まない部室の中。
切れかけの蛍光灯だけがぱちぱちと明滅して、視界を明るくしたり暗くしたり。
鍵当番の阿部を一人だけ待たせているという事に焦りを覚えながら、三橋は必死で指先を動かしていた。
ユニフォームのボタンが上手く外せない。
指先が緊張だけじゃないなにかで震える。
家に帰ったらそのまま倒れこんでしまいそうなほどの疲労感があった。
投球の回数は阿部によって制限されている。
けれど三橋は時々それを守れないことがあった。
阿部がそれに気付いているのかどうかはわからない。
ただ時々三橋の投球動作を見て訝しげな顔をする阿部がいて、決まってそういう時は約束を破ってしまった日だったから、なにかしら感じるものはあるのかもしれないと三橋はそう思っていた。
知らず知らずのうちに膨らむ罪悪感が、疲労と焦りにくわえ、指先をうまく動かせない要因になってしまっているのかもしれない。
ようやく脱げたユニフォームをばさりと落として、ベルトを外しアンダーの裾を引っ張り出す。
そのままがばりと腕を上げて脱ごうとした瞬間、ちりりとした痛みのようなものが胸を掠めた。
思わず妙な声を出してしまった三橋に背後にいた阿部が声をかけてきたが、正直に話すわけにもいかず、その場は適当に誤魔化したものの――。
二度目、シャツを着る時にもちりりとした痛みが胸を走る。
痛みというよりも、むしろ痺れと言った方が近いかもしれない、そんな感覚だった。
なにかおかしな病気になってしまったのだろうか。
だとしたら阿部にも話した方がいいのかもしれない。
けれど、今はまだわからない、もしかしたら気のせいかもしれないし、そう、それにだって今日は疲れているから。
自分を誤魔化す為の言葉をずらずらと頭の中に並べ立てて、ようやく着替えを終えて振り向くと、そこには怖い顔をした阿部が立っていた。
結局精一杯の努力はなんら実ることなく阿部をいらつかせてしまっただけらしい。
なんでお前はいつもそんなに要領悪くしか動けないんだとウメボシをくらわされてふらふらになって家に帰った。
試したのはその次の日の夜。
前の日ほどでもないが、それでも程よい疲労感に包まれたまま風呂に入り、たっぷりとした湯に浸かる。
ふう、と一息吐くとぽちょんと音を立てて天井から雫が零れてきた。