初詣
「ほら、お前がちんたらソバ食ってっから遅れただろ」
俺はかなり急ぎ足でしんと冷えた夜道を歩いた。ホントは走り出したいくらいだ。
でも…
「ご、ごめ ん 阿部君」
三橋がつんのめりそうになりながら俺のあとについてくる。
俺はちょっとハッとなった。真っ暗な道はけっこう危ない。転んだらことだ。
「ほら手かせ」
三橋のうでをひっぱる。するとその手の冷たさといったら。
「てめ、なんで手ぶくろしてこなかったんだ!」
ビクッと後ずさった三橋を見てチッと舌うちした。
そうだ。俺が急がせたから忘れたのか、手ぶくろ。
俺は三橋のかじかんだ手を強くにぎりしめた。早くあったかくなるように
指のあいだをこすってやった。
ゴーン…
「あっ」
三橋がうつむていた顔をあげた。俺たちの向かっている方角から鐘の音がしたんだ。
初詣、なにを願おうか。
まあ帰ったら姫はじめだから覚悟しとけよ三橋。