*エロもハサミも無い*
射精後の脱力感と虚しさに肩を落として歩く三橋がいた。
シャツは破かれ糸が飛び出てしまっている。ボタン2個は辛うじて布と繋がっているが、前を閉める事は出来ずに布と一緒にだらしなくぶら下がっている。
ズボンは履いてはいるが、(この闇の中では見えないが)得体の知れない染みが所々を汚していて三橋を一層惨めに演出している。
両手にはもう何も持っていなかった。
自分の手によって開放された精と尻の間から滲み出る汚液を、保健室の備え付けのベッドに敷いてあるシーツで全身ごと一緒くたに拭いた。
消毒液の使い方は良く知っていた。乱暴に開かれて熱をもってしまっている後門を、液を染み込ませたティッシュで優しく押さえた。
四つん這いで尻の穴を消毒する自分が情けなくて。それくらいで済んだ事に安心して。
そのままベッドで寝てしまいたくなる衝動を抑えて、男の消えていった窓枠に慎重に近寄り、ガラスで指を傷付けないよう身を乗り出す。
今の自分ではここから降りる事は出来ないと判断して保健室を後にした。
進出気没のハサミ男に怯え、見開いたツリ目できょろきょろ周囲に注意をやりながら、元来た廊下を歩いて来た。
一瞬、静まり返っていた空気に流れを感じた。
……!?
ビクリと両手を胸の前で交差して拳を握る。三橋の足は棒のように固まってしまった。
薄暗い廊下の先で、一定の間隔でゴムを踏む音が聞こえてきた。その音は段々大きくなってくる。
ぷるぷると震える体を押さえつけて黙らせるように、交差させた両手で左右の肩をつかむ。
「あっ……あぁぁ……あ……!」
大きな三橋の目から、乾いたはずの涙がぼろぼろと溢れてきた。
しかし身体は動かない。
「た……た、たっ……!」
「……三橋!!」