阿部「三橋!もっかい握ってみろ!」

このエントリーをはてなブックマークに追加
479fusianasan
うさぎを飼いにペットショップへと足を運んだ阿部は早くも後悔しはじめていた。
周囲が言うには無神経な発言が多いらしい自分の性格。
それを改善するのにペットでも飼ってみれば? ととりあえず適当な発言をしたのは誰だったか。
そして、なぜその時の自分はそんな意見に対してなるほどと思ってしまったのだろうか。
確かにペットを飼い育てることで成長期の子供の情緒面の育成を手助けするだとか、そう言ったことは聞いたことがあるけれど、阿部はもうそう言った年頃ではない。
第一、今まで一度もペットを飼ったことがないのに、なぜうさぎという動物を選んでしまったのか。
確かたまたま広げていた雑誌で特集をしていたかなんだったかだった気がする。
少なくともその本に載っている姿は阿部でも愛らしいと思えるようなものばかりではあったのだが。
「……」
無言のまま阿部はペットショップのケージの中を見回した。
うさぎってこんな生物だったっけ?
尤もな疑問が頭の片隅を過ぎり、消えていった。
目の前の現実が儚い疑問をばきばきに打ち砕いていく。
ケージの中にいる生物は確かにうさぎだった。
ふわふわの毛並み、愛くるしい目、丸い尻尾、ぴんと尖った耳、中には垂れ下がった種類のものも。
ただそれらが全て人間の形を基準にしていなければ、どこからどう見ても阿部の知り得る普通のうさぎではあったはずなのだが。
とりあえず店員の姿を探そうとしてた阿部の目に、一匹のうさぎが目にはいった。
ケージの隅っこでこちらに尻を見せるような状態で丸く蹲っている。
垂れ下がった耳の毛並みは金茶。
すぐ傍には齧りかけのニンジンが転がっていた。
他のうさぎたちはといえばあちこち跳ね回っているのに対して、この金茶のうさぎだけはぷるぷると震えるばかりでこちらを向こうともしない。
やはりこういう場所にいると客に対する愛想も良くなるのか他のうさぎたちは飼い主になるかもしれない阿部へのアピールに精を出しているというのに。