>>763 「今にも死にそうなツラしてんな」
学食で一人でメシを食ってたら後ろから声をかけられた。
大学で俺にこんなふうに声をかけてくるやつは限られる。振り返ると、案の定の顔だった。
「別に」
「最近はちょっと丸くなってきたと思ってたのによ」
鬱陶しいと思ったが、今更席を移動するのも面倒だった。
無視して食事を続ける俺を見て、これみよがしにため息をついて椅子を引く。
「入学したばっかの時と同じだ」
「どんなだよ」
「死にそうで苦しくて、助けて欲しいのに、助けようとしたらぶん殴るぞってツラ」
こいつの嫌なところはこれだ。何も言わないのに痛いところをピンポイントで突いてくる。
思わず嫌な顔をしたら、痛いくらい背中を叩かれた。
「お前、知ってるか?」
「何を」
「水谷は不倫でもしてんじゃねえかって、去年あたりウワサになってた」
「中村が言ったんじゃねーの?」
嫌味のつもりで言うと、バレた?なんてふざけた事を言う。
「俺じゃねえよ。お前が成瀬と別れた後だから、あいつじゃねえの?」
中村はふん、と眉を上げる。
一瞬、別れたときのことが蘇った。
『文貴、私の事好きじゃないよね。ほかに好きな人、いるよね。バカにしないで』
そう言って、成瀬は泣いた。悪いことをしたと思う。
好きになれればどれだけ楽だっただろう。
「お、俺次の講義いかなきゃ」
「ああ」
「あんま思い詰めるなよ」
そういい残して、中村は席を立つ。
鬱陶しいのは確かだけど、ありがたいとも思った。