阿部「三橋には、やっぱナマがイイね!」

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441アイドル伝説☆三橋
新進気鋭監督の映画オーディション会場の一室。防音個室。

「はい、次の子どうぞ」
監督が声をかけると、ドアがそろそろと開き、やたらと猫背で、ぷるぷる震えている少年が部屋に入ってきた。
「し、しししし、失礼しま、す」
 顔を真っ赤にして、ものすごくどもりながら少年がぺこっと頭を下げる。
「にににに、西浦プロダクションの、み、み、三橋廉です。趣味は、ややや野球。とととと、特技は9分割です」
「ふむ、三橋君ね。まあ、とりあえず座ってよ」
監督に言われるまま、三橋はソファに腰を下した。
「で、三橋君が、この映画のオーディションを受けようと思った動機は何かな?」
「ははははは、はい。弱気で、卑屈な子供たちに、げげげ、元気を与えられるアイドルになるのが、俺の夢です」
「ふむふむ」
「それで、えええええっと、マネージャーの阿部君が、ととととりあえず行っとけって言うので、きききき、来てみました」
「……ほう」
大丈夫かこの子? 監督は可哀そうな子を見る目で三橋を見る。
そのマネージャーに騙されてんじゃないのかな。だって……
まあ、それならそれでも、いいんだけど……。にやりと笑う監督。
「三橋君、聞いてるかもしれないけど、この映画には、濡れ場があるんだよ?」
「ぬぬぬぬぬ、濡れ場ですか」
「うん」
「あ、ああ、あ、ああの!」
 三橋が顔を真っ赤にする。
 あれ、やっぱり聞いてないのかな。やはり騙され来ちゃたのかな、とか監督が思っていると、三橋がもじもじと口を開いた。
「あの、あの! ……ぬ、濡れ場って何ですか?」
「………………」
「……、オレ、水泳、けっこう得意です。プール掃除も、す、す、好きです」
「………………」
この子やっぱり本当に可哀そうな子だ。頭が弱すぎる。思わず監督の目に涙が浮かぶ。