阿部「三橋!三橋じゃないか!」

このエントリーをはてなブックマークに追加
814大奥

時は第384代将軍阿部隆也の時代。この時阿部幕府は最大の繁栄期を迎えていた。
隆也将軍は、腹黒いと悪名高かったが、その分賢かった。
政治の駆け引きもうまく、治安も非常によく、国は安定していた。
しかし、最近、隆也将軍の様子がおかしいということが側近の間で噂になっていた。
なんでも、つい最近、お忍びでこっそり町へ出かけた時出会った町娘のことが忘れられず、
仕事が手につかないということらしい。
おまけに常にイライラとしていて、鋭い目つきで家臣たちを震えあがらせていた。
「なんたる事。あの上様がまさか・・」
「大奥にはゴマンと女がいる。そんな得体の知れない町娘など必要なかろう。一時の気の迷いにすぎん」
「しかし、上様はいかなる手を使ってでも探して捕らえ、大奥に連れてくるようおっしゃっていたぞ。」
「あの恐ろしい上様に逆らったらどうなることやら・・。仕方ない。人を手配して探させよう。」
こうして幕府は、名前も分からない町娘を探すのに手を焼くこととなった。


「廉!」
「修ちゃん!」
「お、お薬は売れた、の?」
「おー、結構売れた。廉はもう仕事終わったのか?」
「う、うん。終わった、よ。」
「そっか。じゃあ、今日も河原の方に行こう。静かだったよ。」
「う、うん。」
将軍が血眼になって探しているという町娘、三橋は薬屋の息子、叶に淡い恋心を抱いていた。
頬を赤く染め、叶の歩く少し後ろを、うつむきながらついて行く。