【Without a Trace】ダニー・テイラー萌え【小説】Vol.10
Super!Drama TVでシーズン1を放映中 の「FBI失踪者を追え」
ダウンタウン出身ダニー・テイラーを元にしたエロネタ小説のスレ
現在、書き手1と書き手2にて創作中。
新しい書き手の参加も大歓迎です。
ダニー・テイラー役、Enrique Murciano HP
http://www.imdb.com/name/nm0006663/ [約束]
・荒らしと叩きは相手にしないようにしてください
・アンチを見つけてもスルーしてください
・このドラマの他の関連板に感想などを書くのは控えてください
・このスレッドのURLをこのドラマの他の関連板に書くのは控えてください
[注意書き]
同性愛的要素、過激な描写を多く含みますので、不快を示す方は閲覧をお控え下さいますようお願いします。
これらを理解してストーリーを楽しんで下さる方のみ閲覧お願いします。
注意事項を守らず不快な思いをされてもこちらは一切責任を負いません。
あくまでも自己責任・自己判断でお願いします。
過去スレ
【FBI失踪者を追え】ダニー・テイラー萌え Part2
http://sakura02.bbspink.com/test/read.cgi/erochara/1120153364/ 865 名前: [] 投稿日:2005/08/06(土) 04:05:15 ID:j1cxGbqN
書き手2さん、いつも楽しく読ませていただいています。
夏季休暇中、書き手1さんにがんばっていただいて飢餓状態を脱したいと
思います。お体ご自愛ください。
866 名前:書き手1 842の続き [] 投稿日:2005/08/06(土) 23:14:55 ID:j1cxGbqN
声を荒げて留守電に伝言を入れたマーティンに、ダニーはあえて
コールバックしなかった。俺はどうせ信じてもらえないキャラなんやな。
あんなに大切に思っている相手の信頼も得られないなんて、俺は生活破綻者
なんやろか。ダニーはまっすぐ矢のように飛んでくるマーティンの攻撃に
半ば辟易しながらも、自らの生活を反省していた。
それにしても、なんでバレたんやろか。
鳩さぶれのやおいエロ小説っす。
12時ぎりぎりにダニーはアランの家に着いた。
まるでシンデレラの心境だ。
アランがベランダのデッキチェアーに座ってブランデーを飲んでいた。
「ただいま!」
わざと大声を出す。
「今日も遅かったな」
「うん、書類が終わらなくて、オフィスでピザ食ったわ」
「そうか、じゃあ、今日のディナーを明日のランチにするといい」
7 :
書き手1:2006/11/08(水) 00:00:11
冷蔵庫を覗くとローストビーフが山のように作ってあった。
「今日、ローストビーフ焼いたん?」
「お前好きだろう?」
「うん、ごめんな、アラン」
「いいんだよ、早くシャワー浴びなさい」
「うん」
ダニーは後ろめたさで胸が押しつぶされそうになった。
いつまでこの二重生活を続けなきゃならんのか?
自分を呪った。
8 :
書き手1:2006/11/08(水) 00:01:07
アランは、先にベッドに入って、医学雑誌を読んでいた。
「まだ寝えへんの?」
「お前を待とうと思ってね」
アランがダニーのペニスに触る。
「アラン、ごめん、俺、めちゃ疲れてる」
「そうか、残念だ」
アランはサイドランプを消すと背中を向けてしまった。
ダニーはそんな背中にぴとっとくっつくようにして眠りについた。
9 :
書き手1:2006/11/08(水) 00:02:01
翌朝、ダニーは大きなタッパーにローストビーフサンドを詰めて、オフィスに出勤した。
ランチに外に出ようと誘うマーティンを断って、席でサンドウィッチとコーンスープでランチを取る。
「へぇ、おいしそう」
サマンサが寄ってきた。
「一切れ食べへん?」
「いいの?」
「ああ」
「わ〜、すごく美味しい!このグレービーソースが最高。ホースラディッシュも効いてる!」
ダニーは嬉しくなった。
10 :
書き手1:2006/11/08(水) 00:03:07
マーティンが席に戻ってきて欲しそうな顔をしている。
「マーティンもええで」
「ありがと!」
マーティンは、ぱくぱくとあっという間に食べ終えた。
「ダニーには、食事を作ってくれる人が沢山いそうだもんね、ふふふ」
サマンサが意味深な笑いを浮かべで席に戻った。
あかんわ、サムの奴、すっかり誤解、いや、確信してるわ。
ダニーは焦った。
11 :
書き手1:2006/11/08(水) 00:04:13
帰り道、ダニーはサマンサを飲みに誘った。
ブルー・バーのテーブル席に陣取る。
今日の会話はエリックに聞かれたくなかった。
ところが、エリックがわざわざカウンターから出てきて、
ブルーチーズと小エビのフリッターのピンチョスを持ってきた。
「サンキュな」
「こちらの美しいレディーのご紹介を」
エリックは如才ない。
「サマンサや、俺の同僚」
「初めまして」
サマンサも極上の笑みを浮かべて挨拶する。
12 :
書き手1:2006/11/08(水) 00:05:30
「エリックです。お見知りおきを」
エリックが去ってから、サマンサが耳打ちした。
「ダニーの親戚?」
「いや、ここで会ったんや。故郷が同じやから食事とか行ったりしてな」
「ダニーって不思議な人よね。人を寄せ付けないところがあるかと思えば、人が寄ってくるオーラを持ってるんだから」
「あのな、サム、俺のこと誤解してへん?」
「何?」
「その・・・俺とアランの事」
13 :
書き手1:2006/11/08(水) 00:07:02
「ふふん、その話だと思ったわよ。仲が異常にいいのは気がついてたけど、
ダニーってヘテロじゃない?まさかって思ってるわ」
「そか、安心した」
「で、本当はどうなの?」
「あぁ、命の恩人やしな、色々世話になってる」
「いいわね〜。私も誰かの世話になりたいわ」
「グレッグとはどやねん?」
ダニーは話を変えた。
「まだお互い様子見って感じ。この間はね、マカロニチーズ大失敗しちゃって、
結局チャイニーズのデリバリーを食べたのよ」
「サム、マカロニチーズ位作れるようにせんと」
「わかってます!」
14 :
書き手1:2006/11/08(水) 00:08:31
サマンサがダイキリをぐいっと飲んだ。
その後はサマンサののろけ話に終始した。
やっと、ボスを克服したのかいな?
ダニーが訝るほどにサマンサは饒舌にしゃべった。かなり本気のようだ。
ダニーは、この恋愛ベタな同僚の幸せを祈って、ドライ・マンハッタンのお代わりを頼んだ。
ニックがベルリンから戻ってきた。朝、マーティンの携帯が震えた。
「はい、フィッツジェラルド」
「お姫様、ご挨拶じゃないか。元気してたか?」
「ニック!帰ってきたんだ!」
「あぁ、昨日の夜中な。今日会えるか?」
「え、いいけど」
「それじゃ、迎えに行くよ」
「うん、わかった」
16 :
書き手1:2006/11/08(水) 23:15:07
ダニーが机をぽんと叩いてポストイットを貼った。
「うまくやれよ、エドにばれようにせんと」
マーティンは、くしゃっと丸めてゴミ箱に捨てた。
自分だって分かってるんだよ。でも止められないんだ。
定時に終わり、マーティンはニックに電話をかけた。
「おぅお姫様、もうフェデラルプラザ前にいるからな、早く来いよ」
マーティンはがさがさと書類を片付けると、さっさと席を立った。
17 :
書き手1:2006/11/08(水) 23:16:02
懐かしいニックのフェラーリが停まっていた。
「ありがと、迎えに来てくれて」
「あぁ、今ここでキスしたいくらいだぜ」
「やめてよ!見られちゃうよ」
ニックはえくぼを見せて笑うと車を発進させた。
「ドイツは飯がまずくてな、参ったよ。「バブート」でいいか?」
「うん、イタリアン大好きだから」
18 :
書き手1:2006/11/08(水) 23:16:54
二人が着くとフロアマネージャーが飛んで出てきた。
「ホロウェイ様、お久しぶりで」
「ああ、いい席頼む」
「かしこまりました」
奥の席に案内される。
ニックは、アンティパストの盛り合わせに、パスタペスカトーレとチーズのリゾット、
平目のポワレと牛ほほ肉のソテーを頼んだ。
19 :
書き手1:2006/11/08(水) 23:17:50
「お前、どうしてた?」
「うーん、仕事」
「いつも同じ答えだな。ハロウィンは?」
「友達とクラブに行ったよ」
「テイラーか?」
「ううん違う人」
「へぇ、他にも友達がいるのか?」
「当たり前じゃん」
「会ってみたいな」
マーティンは慌てた。
「忙しい人だから」
「ふうん、そうか、まあいいや、乾杯しようぜ」
ヴーヴクリコのイエローラベルだ。
20 :
書き手1:2006/11/08(水) 23:19:06
「ベルリン、どうだった?」
「また、お前のポートレートに注目が集まったよ。すでに完売だ」
「へえ〜」
マーティンは自分の身体がそれほど完璧だとは思っていない。
「どうしてなんだろう?」
「地元誌の批評だと、俺とお前がセックスしているみたいな写真だってさ」
マーティンは思わず赤くなった。
「本当の事だもんな。正直に現れるんだよ。俺はもっとお前の写真を撮りたい」
「顔、隠してね」
「ああ、分かってるって」
ニックにとっても、パリでマーティンが誘拐された事件では責任を感じているのだ。
21 :
書き手1:2006/11/08(水) 23:19:59
ニックは突然、テーブル下でマーティンの股間に触ってきた。
「な、何?」
「いいだろ、俺、お前としか寝てないんだよ、もう限界だ」
二人はディナーを終えると、ニックのステューディオに戻った。
部屋に入るなり、ニックはマーティンのスーツをぽいぽいと脱がせた。
「トランクス脱げよ」
「恥ずかしいよ」
「今さら何だよ」
マーティンはトランクスを脱いで前を隠した。
22 :
書き手1:2006/11/08(水) 23:21:01
「ほら、ベッドに行くぞ」
「うん」
ベッドに横たわるマーティンの前で、ニックは皮ジャンとTシャツを脱いだ。
圧倒的な肉体だ。ジーンズを脱ぐと、元気なペニスが飛び出た。
「あぁ、我慢できないよ、お姫様!」
ニックはマーティンを後ろ向きにすると四つんばいにした。
ローションを塗りたくる。ニックの指が出入りするたびに、マーティンは悶えた。
「その声がたまらないぜ、行くぞ」
ニックは腰をぐいと推し進めた。
23 :
書き手1:2006/11/08(水) 23:22:06
「あぁ!」
マーティンは叫んだ。
ニックの硬いペニスがどんどん奥に入っていったが、そのまま静かにしている。
「ニック、動いてよ!」
「お前を味わってるんだよ」
「あ、僕、もうだめかも!」
マーティンは身体をぶるっと震わせた。
「お前、早すぎるぜ」
ニックはやっと静かに腰を動かし始め、マーティンを十分に蹂躙した後、
自ら身体を痙攣させて、マーティンの上にのしかかった。
マーティンが目の下にクマを浮かべて出勤してきた。
ダニーが思わず不快な顔をする。昨日はニックとお楽しみか。
マーティンは「ふわぁ〜」とあくびをすると、コーヒーを取りに席を立った。
「昨日は夜遊び?」
サマンサも気がついてマーティンをからかう。
「久しぶりに友達が海外から帰ってきたから」
「ふうん、でも仕事はちゃんとしてよ!」
まるで姉と弟やな。ダニーは苦笑した。
25 :
書き手1:2006/11/09(木) 23:15:31
ボスがミーティングを召集した。
「今日の失踪者は、グレッグ・ウィリス。奥さんから失踪届けが出た。株のブローカーだ」
写真を見せられて、サマンサは顔色を失った。ダニーも驚愕した。
サマンサと一緒にいたグレッグじゃないか!
ミーティンが終わり、サムは女子トイレに立ったっきり、なかなか戻ってこなかった。
26 :
書き手1:2006/11/09(木) 23:16:38
やっと戻ってきたサムにダニーはそっと耳打ちした。
「サム、大丈夫か?」
「ええ、平気よ、さぁ捜査して、あの人でなしを見つけなくっちゃ」
気丈なふりをしていても、マスカラがにじんでいる。
奥さんのところに訪問するダニーにサマンサがついてきた。
「ほんまに平気?」
「私を誰だと思ってるのよ、ダニー、さぁ、行くわよ」
27 :
書き手1:2006/11/09(木) 23:17:42
サマンサは先頭を切って、ウィリス家のドアをノックした。
涙で目を腫らした女性が出てくる。
心なしかサマンサに似ている。奥さんなのだろう。
家は建て売りの安普請の家だった。
「FBIです。ご主人の捜査にあたる、テイラー捜査官とスペード捜査官です」
「ごめんなさい、まだ気が動転してて」
「分かりますよ」
ダニーは心を解きほぐすように話しかける。
28 :
書き手1:2006/11/09(木) 23:19:15
「ご主人に不審な振る舞いはなかったですか?失礼ですがご夫婦仲は?」
「夫婦仲は普通の夫婦です。株のブローカーといっても海外株を扱っていたので、
時間が不規則なんですよ。何も気がつかなかったわ」
サマンサがこぶしを握っているのが分かった。
ダニーがサマンサの膝に手を置く。
29 :
書き手1:2006/11/09(木) 23:20:29
「経済的に困っているとか?」
「家には子供もいませんし、質素に暮らしていますので。
ただ彼は洋服にお金をかけたがるんです。その方がクライアントの受けがいいって」
聞き込みにはあまり収穫がなかった。
サマンサはずっと車の窓から外を見ている。
「早退しいな、具合悪いんやろ」
ダニーが気遣うと「ううん、仕事してる方が気が紛れるわ」とサムは否定した。
30 :
書き手1:2006/11/09(木) 23:21:20
するとサマンサの携帯が鳴った。
「スペード、え、グレッグ!今どこにいるの?分かった。
今晩、クイーンズのモーテルでね」
「グレッグだったわ。私一人に来て欲しいって」
ダニーはボスに報告をした。バックアップにボスとダニーがついた。
約束のモーテルの前で見張る。
サマンサが自分の乗用車で乗りつけると、一つの部屋のドアが開いた。
31 :
書き手1:2006/11/09(木) 23:22:49
「失踪者確認」
ダニーが双眼鏡を覗きながら報告する。
ボスとダニーが車を降り、じりじりと部屋に近寄る。
「FBI!」
二人が乗り込むと、グレッグが跪いて、サマンサに泣きながら許しを請うているところだった。
「君を騙すつもりはなかったんだ!許してくれ!妻とは離婚するつもりだった!」
サマンサは冷たく「後はオフィスで伺います。行きましょう」とグレッグを立たせた。
ボスは訝った顔をしたが、状況を察し、グレッグをダニーにまかせ、サマンサの肩を抱いた。
32 :
書き手1:2006/11/09(木) 23:24:04
オフィスでは憔悴しきった奥さんが待っていた。
「あなた!」
「マリリン。すまない・・・」
ヴィヴィアンがダニーに小声で尋ねた。
「サマンサと訳あり?」
「あぁ、女同士で、助けてやってくれへん?」
「わかったよ」
ところが、サマンサは、ボスに連れられて、オフィスを後にした。
「何だか、僕だけが状況を分かってないの?」
マーティンが、チキンサンドをかじりながらダニーに尋ねた。
「また、後で話したるわ。チキンがこぼれてるで」
「あ!」
ダニーは苦笑した。
ある晩、ダニーはサマンサを誘って「デルアミコ」に出かけた。
少しでも励まそうと思ったからだ。
あの事件以来、サマンサは精彩をかいているし、
オフィスでは皆、腫れ物に触るようにしている。
それが気の毒で仕方がなかった。
34 :
書き手1:2006/11/10(金) 23:27:58
デルアミコがエントランスで迎える。
「今晩もまた、お美しいマドンナとご一緒ですね」
サマンサが薄く笑った。
「ここの料理は絶品やで」
「ありがと、ダニー、優しいのね」
「いつも助けてもらってるお礼や」
今日のメニューは、真鯛のカルパッチョにピーマンのオリーブオイル漬け、
野うさぎのパスタと五穀米のリゾットにトリッパの煮物とリボリータだった。
35 :
書き手1:2006/11/10(金) 23:28:53
二人でキャンティーを2本空けて、ダニーは優しくサマンサの話を聞いてやった。
「最初から、話がうますぎると思ってたのよね。
でも名刺も持ってたし、すごく感じがよかったからすっかりだまされたわ」
「アップタウンの家は誰のやったん?」
「会社がクライアント用に用意した社宅だったって。私の目って節穴」
サマンサはナプキンで目を拭いた。
36 :
書き手1:2006/11/10(金) 23:30:05
「マスカラが流れるで」
「ん、ありがと」
「あいつかて、ほんまは、サムと一緒になりたかったんやないかな?」
「もうどうでもいいわ。私が探すべきは妻帯者じゃなくてゲイじゃない、NYの売れ残りの男ってとこね」
ダニーはあえてボスの事は聞かなかった。
「ダニーの方はどうなの?まだ二股?」
「あぁ、決められへんのや」
「悪い男!女の敵なのに、ダニーだと憎めないのよね。なんでだろう」
37 :
書き手1:2006/11/10(金) 23:31:12
デザートがやって来た。特大のモンブランとパンナコッタだった。
サマンサはペロっと平らげ、
「本当にありがとう。皆が私に遠慮してるから、今日のお招きがありがたかった」と言った。
「そんなん、気にすんな」
デルアミコがにこにこしながら、グラッパのボトルを持ってきた。
「おいおい、オーナー!」
制するダニーを遮って、サマンサが
「まぁ、グラッパ!食後酒じゃない!飲みましょうよ!」とグラスを受け取った。
38 :
書き手1:2006/11/10(金) 23:32:15
結局3人は看板までグラッパ飲み競争を続けた。
ふらふらになった二人はタクシーを拾った。
「ダニーはブルックリンでしょ?それじゃ、このへんで」
「また明日な!」
「うん、本当にありがとね。元気が出たわ」
タクシーに乗ろうとして、サマンサの脚がふらついた。
「おい、大丈夫か?」
「ちょっとだめかも」
「それじゃ、家に送るわ」
ダニーはグラマシーと告げた。
39 :
書き手1:2006/11/10(金) 23:33:17
ぼんやりしているサマンサのバッグから鍵を探して、エントランスを開ける。
部屋に帰ると、引越し荷物をひっくりかえしたように散らかっていた。
やっぱり荒れたんや。
「ねえ、ダニー、キスして」
「え?何言うてるか分かってる?」
「うん、私からグレッグを追い出して!」
サマンサは服をさっさと脱ぐと、ダニーに抱きついた。
40 :
書き手1:2006/11/10(金) 23:34:20
久しぶりの女の柔らかい体に、ダニーの身体が反応してしまう。
「ねぇ、ベッドに連れて行って」
ダニーはお姫様だっこをして、サマンサを運んだ。
首に腕を巻きつかれて、ダニーも一緒にベッドに倒れこんだ。
サマンサのキスが止まらない。ダニーの首筋は性感帯だ。
我慢出来ず、ダニーも思わず、服を脱いで、欲望の言うままに、サマンサを組み敷いた。
41 :
書き手1:2006/11/10(金) 23:35:12
「お願い、グレッグを忘れさせて!」
ダニーは優しくサマンサを抱いた。同僚を抱くなんて、考えてもみなかった。
それもサマンサだ。
ダニーは自己嫌悪に押し流されそうになりながら、自分の欲望をサマンサの身体にぶつけた。
「あぁ〜、ダニー、いい、すごくいい!」
サマンサの中が収縮した。イったらしい。
42 :
書き手1:2006/11/10(金) 23:36:14
ダニーはコンドームを身につけると、最後のインサートを始めた。
サマンサはことんと寝入ってしまった。
ダニーは脱ぎ散らかした服を集めると、着替えて、アランの待つアップ・タウンに戻った。
シャワーを浴びながら、自分の行いを反芻した。
今日限りのことや。サムの事やから忘れてくれるはずや。
ダニーは、静かにアランが眠っているベッドに身を横たえた。
翌朝、ダニーがオフィスに出勤すると、すでにサマンサが来ていた。
「おはよう、サム」
「おはよう、ダニー」
さりげない挨拶だ。
このまま面倒くさくならないで欲しい。ダニーは思った。
何しろ、サマンサは、ボスの愛人だったのだ。
今でもそうかもしれない。三角関係はごめんだ。
それも直属の上司の愛人なのだから。
44 :
書き手1:2006/11/11(土) 23:28:18
ダニーはアランが作ってくれたバゲットサンドをぱくつきながら、コーヒーを飲んで気持ちを落ち着けた。
サマンサはいつもと変わらず仕事を始めている。
彼女のプロフェッショナリズムが有難かった。
どうせ、俺はサラブレッドのマーティンとはちゃうからな。
ダニーは少し自嘲気味になりながら、PCに向かった。
45 :
書き手1:2006/11/11(土) 23:29:13
アランからメールが入っていた。
「今日は定時に終わるか?」
今のところ事件はない。
「その予定。何か用事ありや?」
「ジャネットが来る」
ひえぇー、あの鬼検事がまた来るんかいな。
ダニーは緊張した。ランチになっても食欲がない。
「どうしたの?食が細いじゃん。もっと痩せちゃうよ」
マーティンがポテトをほおばりながら聞いた。
46 :
書き手1:2006/11/11(土) 23:30:09
「今日、アランの姉さんが来るんや」
「あー検事さんか。大変だね」
「俺、めちゃ緊張するんや」
「気に入られたいからでしょ?」
言い当てられて、ダニーはしかめっ面をした。
47 :
書き手1:2006/11/11(土) 23:31:18
「自分以上に見せようとするからだよ、自然体でいればいいのに」
「そんなもんか?」
「ダニーはそうでなくても、女からもてるんだからさ」
マーティンは特大バーガーを口にしながら、つぶやいた。
「ごめんな、俺がバイで」
「いいさ、仕方がないじゃん」
ランチを終えて二人はオフィスに戻った。
48 :
書き手1:2006/11/11(土) 23:32:23
定時になると、ダニーの携帯が鳴った。アランだ。
「今どこ?」
「フェデラルプラザの前だよ」
「すぐ行くわ」
ダニーは手ぶらでオフィスを後にした。ジャガーが泊まっている。
ジャネットも乗っていた。
49 :
書き手1:2006/11/11(土) 23:33:19
「お久しぶりです」
「ダニー、元気そうね。今日はごめんなさいね。急に出張が決まったから」
「いえ、ええんです」
「今日はトライベッカの「ランドマーク」にしたけど、いいだろ?」
「アランのチョイスは最高っすから」
中央の席に案内される。
アランは名物のムール貝とはまぐりの白ワイン蒸しと、
ホロホロ鳥のボロネーズに、ラムチョップとTボーンステーキを頼んだ。
50 :
書き手1:2006/11/11(土) 23:34:06
「それで、お二人さんはうまくいってるの?」
「ああ、姉さん、こんなに僕が幸せな事ってないよ」
「ダニーは?」
「俺もです。俺、あんまり幸せって知らないんで、今が天国みたいです」
「それなら良かった。お父さんもお母さんも、とうとう貴方の結婚をあきらめたみたいよ」
「へぇ〜、それは僕の性癖で?」アランはおどけた。
51 :
書き手1:2006/11/11(土) 23:34:57
「一応、結婚という制度にとらわれない相手と一緒に住んでいるって言っておいたわ。
そのうち自宅訪問もあるかもね」
ジャネットがおかしそうに笑った。
ダニーは慌てた。笑い事やないで。俺、男やし、それやなくてもショア家に認められるわけがない!
「ダニー、大丈夫よ。家の両親、これでもリベラル派なの。共和党だけどね」
ジャネットが慰めてくれる。
52 :
書き手1:2006/11/11(土) 23:36:01
「あなたの天性のチャームが誰もの心を溶かすわ。自信を持ちなさい」
「はい・・」
「それで、仕事の方は?」
「順調です。人事査定もよかったし」
「優秀なのね。ボストンのFBIもダニーみたいな捜査官がいるといいのに」
「そんな」
ダニーは頬を赤く染めた。
3人はフレッシュフルーツのシャーベットでディナーを終えた。
53 :
書き手1:2006/11/11(土) 23:36:46
ジャガーはジャネットが泊まっている「アルゴンキン」に車を回すと、
そのまま家に戻った。
「今日はありがとうな、緊張しただろう」
アランがダニーを抱き締めて言う。
「ううん、ジャネット、ええ人やから、俺、平気」
だがダニーはくたびれ果てて、シャワーもせずにベッドに向かった。
ヒスパニック系のホワイトワーカーの失踪事件が相次いでいた。
3人が死体で見つかっている。
それぞれの死体には、性器と局部に拷問の跡がある。
NYPDも前々から捜査していたが、全く手がかりがつかめていなかった。
ボスはダニーに囮捜査を命じた。大手PR会社の重役という役柄だ。
55 :
書き手1:2006/11/12(日) 23:19:53
3人に共通しているのは、シングルズバー「オピウム」の常連だったということ。
ダニーは、早速「オピウム」に通う毎日を始めた。
「ねぇ、ダニー、大丈夫?」マーティンが心配そうに話しかける。
「もちろんや、俺かて囮捜査は緊張するけど、お前がいてるからな」
ダニーはマーティンの髪をくしゃっとした。
56 :
書き手1:2006/11/12(日) 23:21:13
囮捜査を初めて1週間目、女が声をかけてきた。
「常連よね?よく見かけるわ」
「まあな」
「名前は?」
「そっちこそ名乗れよ」
「私はエリー」
「俺はドム」
「ドミニック?」
「ああ」
「飲まない?」
「いいな」
ダニーはエリーにダイキリ、自分はドライ・マンハッタンを頼んだ。
57 :
書き手1:2006/11/12(日) 23:22:23
ダニーはエリーにダイキリ、自分はドライ・マンハッタンを頼んだ。
「何してる人?」
「俺?PR会社の副社長」
「へぇ、すごいのね」
店が急激に混んできた。
携帯を使っている人が多いので、電波がよくない。
マーティンがダニーの会話を失った瞬間、彼はカウンターから消えた。
58 :
書き手1:2006/11/12(日) 23:23:14
「ボス、ダニーを見失いました!」
「探せ!」
入り口、裏口を封鎖して調べたが、ダニーもエリーも姿を消していた。
チームは血眼になってダニーを探した。
手がかりはエリーが残したクレジットカードの控えだけだ。
オフィスでは、ヴィヴィアンがクレジットカードの持ち主を特定していた。
「エリー・アダムズ、出版会社の部長です」
59 :
書き手1:2006/11/12(日) 23:24:09
翌日、マーティンとサマンサが会社に赴く。
「エリーなら、2日前から休暇をとってます。バハマに行くとか」
ウソだ!マーティンは直感で寒気を感じた。
捜査令状を取り、エリーの自宅を捜索する。イーストビレッジのアパートだ。
サマンサが不審な書類を見つけた。
ミートパッキングエリアの貸し倉庫の契約書だ。
ボスに確認を取り、マーティンとサマンサで現場に急ぐ。
60 :
書き手1:2006/11/12(日) 23:25:46
「FBI!」管理会社から借りた鍵で開けると、
倉庫の真ん中にダニーが裸でべッドの上部に手をくくりつけられていた。
局部から大量に出血している。
回りを取り囲んでいたエリーと、数人の女性が立ち上がった。
「武器を捨てなさい!包囲されています!」
エリーは皆に首で指令を下し、武器を捨てさせた。
マーティンは自分の上着をダニーの身体の上にかぶせ、拘束を解いた。
61 :
書き手1:2006/11/12(日) 23:26:58
「マーティンか?」
ダニーが虫の息で尋ねる。
「ああ、僕だよ。助けに来たから」
ダニーは気を失った。
応援の捜査官が突入してくる。
エリーとその仲間6人は、ヒスパニック系のホワイトカラーに騙され、
捨てられた経験を持つグループだった。
その歪んだ憎しみが、新しい獲物を探して復讐殺人に駆り立てていたのだ。
62 :
書き手1:2006/11/12(日) 23:28:02
ダニーは市立病院のERに運ばれ、緊急輸血と処置を受けた。
トムが率先して担当医になってくれた。
その後、ダニーはアランの家に搬送され、治療を受けることになった。
ペニスがナイフで何箇所も傷つけられ、局部に大きな物体が挿入された痕跡がある。
身体の中がずたずただった。
63 :
書き手1:2006/11/12(日) 23:28:57
「ハニー、僕がお前を治すから、安心するんだ」
アランは、血の気のないダニーにそう言葉をかけた。
ダニーは薄く目をあけると、柔らかく微笑んだ。
「アランがいてるなら、安心して眠れる」
「ダニー・・・」
アランはダニーの手を取りながら、目からあふれる涙が止まらなかった。
マーティンが地下鉄に乗ると、車内はラッシュでごった返していた。
ドアの近くに立ってブリーフケースをしっかり握りしめる。
人いきれで気分が悪い。ラッシュはどうしても苦手だ。
蒸し暑さにネクタイをゆるめながら、小さく息を吐いた。
電車は次の駅に停まり、また人が乗ってきて後ろからぐっと押された。
―暑いなぁ、早く着かないかな・・・・
仕事の疲れでむっとしながらドアの外を眺めていた。
65 :
書き手2:2006/11/13(月) 00:06:46
気に留めていなかったが、さっきから硬いものが太腿に当たっている。
少しずつ内側に移動していてなんだか気持ち悪い。
妙なリズムでぐいぐい押しつけられるうちに、それが傘ではなくペニスだと気がついた。
―これって痴漢されてるよ!僕が?なんで?どうしよう?
マーティンはパニくりそうになった。
その間も背後の男は体を密着させてくる。
マーティンが身を硬くしたのを感じ取ると、さらに大胆にペニスを擦りつけてきた。
66 :
書き手2:2006/11/13(月) 00:07:17
後ろから伸びてきた手がマーティンの股間を弄りだした。
―やだっ、やだよ!
何とか手を払いのけようとするが、男の手は易々とマーティンのペニスを捕らえた。
擦るように弄られ、嫌なのに体が反応してしまう。
意識すればするほど体が言うことをきかない。
すっかり勃起したペニスを包み込んだ手はねちっこく扱き続ける。
「んっ・・ぁ・・」
先っぽを嬲る男の動きにマーティンの声が少し漏れた。
67 :
書き手2:2006/11/13(月) 00:07:51
興奮した男の息が首筋にかかって気持ち悪い。
息がかかる度に全身がぞくっとして身震いがする。皮膚が一気に鳥肌立った。
男はさらに先っぽを嬲り続け、また声を上げそうになったマーティンは咳払いをしてごまかした。
男の手を剥がそうと上から手を重ねるがどうにもならない。
何度かやってみたものの手は離れず徒労に終わったが、反対に男の手の動きがだんだん激しくなる。
執拗に何度も扱かれ頬が上気してきた。
せめて人に見られないように、マーティンはブリーフケースで前を覆った。
68 :
書き手2:2006/11/13(月) 00:08:28
マーティンが手元を隠したのが裏目に出て、男はジッパーを下ろそうとしはじめた。
渾身の力をこめて男の手を抑える。ペニスを取り出されたらおしまいだ。
―やめてよ、それだけは許して・・・
マーティンはいやいやをするように首を振った。
だが、とうとうジッパーが下ろされ、男の手が中に入ってきた。
トランクスの中に手が入ってきて、直接ペニスをいじっている。
「はっ・・ふ・ぅ・」
先走りで濡れた先っぽを弄ばれ腰がガクガクしそうになった。
調子づいた男はそのまま取り出そうとしたが、完全に勃起しているのでもたついている。
69 :
書き手2:2006/11/13(月) 00:09:02
マーティンは男の手首を掴むと必死に首を振った。
男も取り出すのをあきらめて中で弄んでいる。手の平で亀頭を嬲られ続けイキそうになってきた。
マーティンは俯いて唇を噛みしめ、射精しそうになるのを堪えた。
足がガクガクして立っているのもやっとだ。
―あと少しで降りる駅なのに・・ああ、もうだめだ!出ちゃう!
「くっ・・ぅく」
小刻みに震えながらマーティンは射精した。
男は満足そうにイッた後のペニスをなでていたが、やがて手についた精液をトランクスで拭うとジッパーを上げた。
マーティンはそのまま呆然と突っ立っていたが、ぐっしょり濡れたトランクスの冷たさに現実に引き戻された。
思い切って後ろを振り返ったが、一体誰が痴漢なのかわからない。もうそばにはいないのかもしれない。
電車が77丁目で停まると逃げるように降りた。
事件から1週間たった。チームの仲間が毎日のように見舞いにくる。
中でも一番足しげく通っているのはマーティンとサマンサだった。
特にマーティンは、自分がバーでダニーを見失った事の自責の念で、
毎日見舞いに訪れていた。
ダニーは心配そうに顔を覗かせる皆に、冗談を言っては笑わせていた。
71 :
書き手1:2006/11/13(月) 23:26:57
今日はマーティンとサマンサが一緒に現れた。
マーティンがトイレに行っている間、サマンサがダニーの手を取った。
「サム・・」
「私、あなたを早く救い出せなくて・・ごめんなさい!」泣いている。
「ほら、マスカラはげるで」
ダニーは枕元のタオルを渡した。
「私ったら、お見舞いに来て、気を遣ってもらってる。バカね」
「サム、俺たちの事な・・」
「分かってる。あの日だけよ」
「ああ、あの日だけや」
72 :
書き手1:2006/11/13(月) 23:27:45
マーティンが戻ってきた。
「サム、目どうしたの?」
マーティンがたぬき目になったサマンサを見て驚いている。
「ダニーがあまりに可笑しい事言うもんだから、泣いちゃった!」
「それだけ元気になったら、結構早く復帰できそうだね?」
マーティンは神妙な顔つきで言った。
73 :
書き手1:2006/11/13(月) 23:28:50
アランが3人にハーブティーを持ってきた。
「ダニーは血の気が多いから、カモミールな。お二人はアップルシナモンで」
「アラン、ありがとうございます。あなたって最高!」
サマンサがティーカップを受け取りながら、頬を赤くして言った。
「アラン、俺、いつから復帰できるんかな?」
「あと2週間というところかな」
「やった〜!」
思わずマーティンが声を上げて、皆を驚かせた。
「あ、ごめんなさい」
小さくなるマーティン。
74 :
書き手1:2006/11/13(月) 23:29:33
「マーティンもカモミールティーの方がよかったかな?」
思わずアランが笑った。
「じゃあ、僕は書斎にいるから、ごゆっくり」
「あ、私たち、もう失礼します」
サマンサがマーティンをつっついて急がせた。
二人はハーブティーを飲み終わると帰っていった。
75 :
書き手1:2006/11/13(月) 23:30:31
「お前はいい仲間に恵まれているな」
アランがベッドに腰掛けて、ダニーの頭をなぜた。
「命を預けあってるからな」
ダニーは少し疲れたのか目を閉じた。
「眠りなさい。あとで夕食だけは食べろよ」
「うん、わかった」
ダニーは眠りについた。
76 :
書き手1:2006/11/13(月) 23:31:27
アランはあと2週間で復帰出来ると言ったが、
ダニーの心のトラウマを考えると、まだ休ませたかった。
それ以上にFBIを辞職して欲しいとすら思っていた。
しかし、マローン捜査官からも早めの復帰を依頼されている。
アランは最初の1週間は、半日勤務を条件に、マローン捜査官にメールを出した。
77 :
書き手1:2006/11/13(月) 23:32:21
2週間が経ち、ダニー復帰の日がやってきた。
オフィスの皆が温かく迎えてくれる。
「さあ、またバリバリ失踪者を探すで〜!」
ダニーが大声で宣言して皆を笑わせた。
ボスが呼んでいる。
ダニーはゆっくりと歩きながらオフィスに入った。
78 :
書き手1:2006/11/13(月) 23:33:14
「復帰、おめでとう。だがお前、まだ満足に歩けないだろう。当分の間は内勤だ」
「そ、そんな〜」
「それがチームのためにもなる。我慢しろ。身体を大切にするんだぞ。以上だ」
「了解っす」
ボスの命令は絶対だ。ダニーは無理に反論せずに引き下がった。
内勤でPC捜査の腕でも磨こう。
リハビリの間、自分の弱みを克服するのに当てるのも悪くないと思い直した。
79 :
書き手1:2006/11/13(月) 23:34:07
半日勤務が終わり、ダニーはアランのジャガーで帰っていった。
ランチに出かける途中のマーティンが、その姿を寂しそうに見送った。
やっぱり、僕じゃだめなんだ。
「辛かったか?」
アランがダニーに話しかける。
「早く普通に歩けるようになりたい」
ダニーはそれだけ言うと、前を向いた。
80 :
書き手1:2006/11/13(月) 23:35:02
性器と局部の傷が癒えるのも時間がかかるが、
それ以上に心に負ったトラウマが、アランは心配でならなかった。
「今日はお前の好きなミートローフにしような?」
「うん、俺が作るわ。やることないし」
ダニーは、午後の診療があるアランを気遣って、申し出た。
「あぁ、ありがとう、お前は僕の天使だよ。絶対に失いたくない」
アランはそう付け加えて、ダニーの額に優しく唇を押し付けた。
半日勤務の1週間を終え、終日勤務に戻った。
ダニーは晴れ晴れとした顔で出勤する。
もう歩行も普通に行えるし、外回りの準備は万端だ。
「ダニー、オフィスに来てくれ」
「はい」
ボスに呼ばれてオフィスに入る。
「完治したようだな」
「はい、もううずうずしてますよ」
「しかし、くれぐれも身体を大切にするんだぞ。今回の事件は申し訳なかった」
「そんなん、いいです。いつもの事ですから」
「そう言ってくれて嬉しいよ。しかしまたセラピーに通ってもらわなければならない」
「アランでええですか?」
「あぁ、私からドクター・ショアにお願いしておくから」
「すんません」
「とにかくおかえり。ダニー」
ボスのいつになく優しい言葉に涙が出そうになった。
このボスになら一生ついていけると感じた。
83 :
書き手1:2006/11/14(火) 23:15:21
ヴィヴィアンが幹事になり、ダニーの復帰パーティーが開かれることになった。
また場所は「デルアミコ」だ。
サムとダニーは名前を聞いて、視線を交わした。
だがあの夜はもう過去の事だ。
二人ともあとくされなく、普通に接している。
ヴィヴィアンが気を利かせて、アランも招待していた。
チームとアランが集まったパーティーが始まった。
84 :
書き手1:2006/11/14(火) 23:16:31
人数が多いので、カプレーゼを前菜に、ピザとパスタとリゾットに山盛りのシーザーズサラダが中心のメニューだ。
ワインがどんどん空いていく。
ダニーもアルコール解禁になったので、楽しんで飲んでいる。
アランは目を細めて、彼を見つめていた。
マーティンはそんな視線から目を離し、ピザ・マルゲリータにがっついた。
85 :
書き手1:2006/11/14(火) 23:17:30
「お前、トマトソースが口の周りについてるで」
ダニーに指摘されて、恥ずかしそうに口を拭くマーティン。
アランとマーティンの視線が交錯した。
デルアミコがにこにこしながらグラッパのボトルを持ってきた。
「オーナー、今日は止めてくれよ!仕事があるよって」
デルアミコは、静かに下がると、チーズの盛り合わせを持ってきた。
その後、ティラミスとシャーベットのデザートが続く。
86 :
書き手1:2006/11/14(火) 23:18:33
「もう、私、胃がはちきれそうだよ」ヴィヴィアンが言った。
「ここは、まさしくイタリアのリストランテですよね」
アランが付け加える。
「ほぅ、ドクター・ショアはイタリアに行った事がおありで?」
ボスが尋ねる。
「はい、ミラノとヴェネツィアに行きましたよ。
いつかは、ダニーと行きたいと思ってますけど、果たして休暇がもらえるのか」
ボスをちらっと見る。
87 :
書き手1:2006/11/14(火) 23:19:18
ボスは「ダニーの貢献次第だなぁ。長期休暇だろうから」といって笑った。
マーティンはまたも敗北感に苛まれた。
ゲイのカップルじゃなくて、みんなが二人の仲を自然に認めてる。
僕はどうすればいい?
エスプレッソを飲み終え、グループは三々五々、別れた。
88 :
書き手1:2006/11/14(火) 23:20:07
「マーティン、送っていくよ」
アランが声をかける。
「そんな、いいですよ」
「近所じゃないか」
ジャガーにダニーと3人で乗り込む。会話は途切れた。
アッパーイーストのアパートの前で降ろしてもらったマーティンは、
モスグリーンのジャガーがセントラルパークに入っていくのをじっと見つめていた。
書き手1さん、お久しぶりです。もうすっかりアラン萌えですね。
ダニーはお稚児さんでマーティンは道化、今じゃ主役はアランみたいです。
何でも完璧な、アランにおまかせの若いツバメストーリーもいいですが、
アランに萌えない私としては楽しめず残念です。
ダニーがあんな中年男に夢中になるのは無理がありませんか?
マーティンがダニーをディナーに誘ってきた。
「捜査会議OK?」
「問題なし」
二人はメールのやり取りをして、地下鉄の駅で待ち合わせた。
「どこ行く?」
「ローザ・メキシカーナ」
「お前もあそこ好きやなあ」
「ダニーが気に入ってるから」
二人は、窓辺の席に座り、テカテビールで乾杯した。
91 :
書き手1:2006/11/15(水) 23:26:14
「ダニー、治ってよかったね」
「あぁ、おかげさまでな」
ダニーがメニューを決める。
ワカモーレとケサディアスを前菜に、エンチラーダスとシーフードとビーフのファヒータを注文した。
「僕さ、ダニーを守れなくて、死んでしまいたかったんだ」
マーティンが俯いてつぶやいた。
「何言うか、俺はぴんぴん生きてるで」
「でも・・」
「もうその話は言いっこなしや。美味い料理を楽しもう」
マーティンはそんなダニーの優しさに涙が出そうになった。
92 :
書き手1:2006/11/15(水) 23:27:24
自分の失態からダニーを失っていたかもしれない。
それを思うと、毎晩眠れないのだ。
「お前こそ考えすぎはよくないで。命を預けあってるんやから、これからもきっと色々あるわ」
ダニーはワカモーレチップスをかじりながら話してきかせた。
「うん、分かったよ」
「俺かてミスすることもあるんやから、お前も注意せいよ」
ダニーはゲラゲラ笑って、テカテを飲んだ。
マーティンは自責の念が少しずつ溶けていくのを感じた。
93 :
書き手1:2006/11/15(水) 23:29:44
食事は滞りなく済んだ。
マーティンがチェックを済ましている間、ダニーは抗うつ剤を口に放り込んだ。
「ねぇ、ダニィ〜これからどうする?」
マーティンが上目使いでダニーを見る。
まずいわ、こいつ俺と寝たがってる。
「今日は疲れたから、帰るわ。タクシー拾お」
二人はタクシーに同乗した。マーティンを先に降ろす。
「それじゃ、また明日な」
「うん・・おやすみ」
「おやすみ」
ダニーはマーティンがずっと見送っているのを振り向きながら確認した。
94 :
書き手1:2006/11/15(水) 23:31:00
まだ、俺、怖くてセックスできへんのや、マーティンごめん。
ダニーは心の中で、マーティンに謝った。
マーティンは、アパートに着くと、シャワーを浴びた。
ダニー、僕とはもう寝ないつもりなんだろうか。
僕がミスしたから、愛想つかしたの?
シャワーを終えて、バスローブでソファーに座る。
95 :
書き手1:2006/11/15(水) 23:31:57
テーブルに置いてあるグラスにバーボンを注いで、ぐいっと一気飲みした。
また今日も眠れないのだろうか?
アルコールの量が増えている。AAミーティングにも行かなくなって久しい。
そうだ、エドに電話しよ。
「夜遅くごめん、僕。今度AAミーティングに行かない?うん、分かった、じゃあお休み」
96 :
書き手1:2006/11/15(水) 23:32:45
それでも、バーボンを注ぐ手が止まらない。
マーティンはボトルを空けて、キッチンに持っていった。
さらに、新しいボトルに手をつけて、ソファーに座った。
ダニー、僕、本当に悪いことしたよ。ごめん。もう償えないの?
マーティンは、バスローブのままソファーに横になって、眠ってしまった。
97 :
書き手1:2006/11/15(水) 23:35:15
>>89 さま
感想ありがとうございます。書き手1がアラン萌えなもので、ストーリーの
偏りがありますことは認めます。確かにお稚児状態のダニーは似合いませんから
少しずつ修正をかけていこうかと思います。これからもこれに懲りずにご愛顧
頂ければ嬉しいです。
ただ、ダニーにとってアランという存在は、失われた家族の補完でもあることを
描きたいと思っております。
携帯が鳴った時、ダニーはジェニファーとベッドでまどろんでいた。
「ダニー、携帯が鳴ってる」
「ん・・誰や?あ、マーティンやわ」
ダニーは電話をサイドテーブルに戻すとジェニファーを抱きしめて胸に顔を埋めた。
「出なくていいの?仕事なんじゃない?」
「ええねん。後でかけるから」
「ダニーったら!マローン捜査官に叱られても知らないから」
ジェニファーは苦笑しながらダニーの頭をなでた。
「叱られてもええからこのままでいたい」
「バカね」
二人は顔を見合わせてふふっと笑うとキスをしていちゃついた。
99 :
書き手2:2006/11/15(水) 23:53:09
ダニーは帰り支度をしているジェニファーを、ベッドに頬杖をついたままじっと眺めた。
「どうしたの?」
「いや・・」
「なあに?」
「・・ジェン」
ダニーは手を引っ張るともう一度組み敷いてキスをした。
唇をむさぼって舌を絡ませ、強く抱きしめ続ける。いつまでもこうしていたい。
「今日はジェンの寝顔が見れてうれしかった」
「そのうちいびき掻くかもよ」
「ええよ。オレ、ずっと聞いとくから」
「わかった。すごいの掻くから楽しみにしてて」
ジェニファーはブラに手を入れようとするダニーの手をそっとのけると、キスをしてベッドから出た。
今夜はこれでお別れだ。ダニーも渋々シャツを手にした。
ジェニファーの車を見送って部屋に戻るとマーティンが来ていた。
「マーティン!来てたんか!」
「ん、今来たとこ」
マーティンはダニーの体に腕を回すとしっかりとしがみついた。
「僕、さっき電話したんだよ」
「風呂に入っててな、あとでゆっくり電話しようと思てたんや。ごめんな」
ダニーは抱きしめるとすばやく室内に目を凝らした。
二人分の食器はごまかせるとしても、ベッドルームのゴミ箱はやばい。さっき捨てたコンドームが入っている。
「オレ、ごみ捨てに行ってくるわ」
ダニーは軽くキスすると、ベッドルームのゴミ箱を引っ掴んで部屋を出た。
マーティンはパジャマに着替えてベッドに寝転んだ。
足がチクッとして布団を捲ると、コンドームの空袋がくるぶしに当たっていた。
―何これ!ダニーはここで女と浮気してたんだ・・・・
マーティンは手の中のコンドームの袋を握りつぶした。ふちのギザギザが手に食い込んで少し痛い。
そこへ寒い寒いと言いながらダニーが入ってきた。
「もうすぐ冬やなぁ」
「そうだね」
マーティンは素っ気なく言うと背中を向けた。何かを言おうとすると大声で喚いてしまいそうだ。
「もう寝るん?まだ早いで」
「いい、疲れてるから」
「オレはまだ眠たないねん。ほな食器洗い機にスイッチ入れてくるから、先に寝とき」
ダニーはほっぺにキスをすると出ていった。
マーティンはがばっと起き上がるとコンドームの空袋を床に叩きつけた。
かさっと乾いた音を立てて転がった空袋をベッドの下に蹴りいれる。
みるみる涙がとめどなくあふれてくる。枕に突っ伏して微かな嗚咽を漏らしながら声を殺して泣き続けた。
ひたすら悲しくて、地下鉄で痴漢されたことすら忘れてしまった。
ダニーが戻ってくるとマーティンはうつぶせのまま目を閉じていた。
「マーティン寝たんか?・・おやすみ」
後ろから抱きかかえるように腕を回し寄り添って目を閉じる。
マーティンは目を開けると、ダニーの腕を払いのけたい衝動を抑えた。
さっきまで女を抱いていた腕になんか抱かれたくない。
いつもなら嬉しい腕の重みも、今はただ苦痛でしかなかった。
翌朝、マーティンはくしゃみで目が覚めた。
まずい、風邪引いちゃったかも。
熱を測ると、38度2分ある。でも休むわけにはいかない。
ただでさえ人事査定が悪いのだ。
寝冷えなんて知られたら、何を言われるか分からない。
熱っぽい身体を引きずって、シャワーを浴びるとスーツに着替えて、出勤した。
張り切っているダニーの姿がまぶしい。
マーティンは、ついに机につっぷしてしまった。
「マーティン!どうしたの?」
サマンサが気がついて声をかけた。
「やだ、すごい汗かいてる」
「俺、医務室に連れていくわ」
ダニーはマーティンを立たせると、医務室に連れていった。
「典型的なインフルエンザ」ドクターは呆れたように言った。
「予防接種受けてなかったのかしら?」
「どうしたらいいですか?」
「今日は早退が一番ね。水とジュースを沢山摂取して安静にしていること」
「はい」
ボスに説明をし、ダニーが家まで送っていく。
「眠れるか?」
「もうフラフラだよ」
「じゃあ、ジュースを買ってくるから、待ってろ」
ダニーはフェア・ウェイまで行って、
フレッシュオレンジジュースとミネラル・ウォーターを半ダース買った。
「これから、スープ作ったるから待ってな」
ダニーは卵とチキンとオクラのスープを作ると、パイロセラムに移し、冷蔵庫に入れた。
「電子レンジでチンして食えよ」
「うん、ありがと、ダニー」
「お互い様や、じゃあな」
ダニーはアパートからオフィスに戻った。
ダニー、本当はダニーが抱きしめてくれれば、こんな風邪なんか治っちゃうんだよ!
マーティンは枕でほろほろ流れる涙を拭いた。
そのうち、眠気が襲ってきて、こんこんと眠りについた。
マーティンは夜中に目が覚めた。さすがにお腹がすいている。
ダニーが作ってくれたスープを温めて口に運ぶ。身体の芯から温まる感じだ。
ダニーの気持ちが心に染みた。
ミネラル・ウォーターに手が伸びたが、代わりにバーボンを手にした。グラスが進む。
僕、またアル中に戻っちゃうのかな。エド、どうしたらいい?
マーティンは酩酊した心のままにエドに電話した。
「こんな時間にどうしたの、マーティン?」
「ねえ、今から来られる?」
「ああ、いいよ、大丈夫?」
「だめかも」
「分かった、すぐ行く」
エドはすぐに飛んできた。
「マーティン!バーボンなんて飲んじゃだめだよ!」
エドは、マーティンからグラスを奪うと、ミネラル・ウォーターを飲ませた。
「どれ位飲んだの?」
「わかんない。僕、インフルエンザなんだ」
話に脈絡がない。
「それじゃ、早くベッドに行かなくちゃ」
「エド、一緒に寝てくれる?」
「もちろんだよ、マーティン、しっかりしなくちゃ。アル中に戻る道は早いよ」
「またアル中かもしんないよ、僕。あはは」
マーティンはエドに支えられて、ベッドに向かった。
エドも服を脱いで、Tシャツとトランクス姿になった。
マーティンはすでにいびきをかき始めている。
エドは、そんなマーティンの身体に腕を巻きつけ、抱きしめるようにした。
マーティン、何があったんだよ!そんなに弱かったの?
エドもそのうち、目を閉じた。
ダニーが朝、マーティンのアパートに行くと、エドが出てきた。
「お、久しぶりやな」
「あ、ダニー、元気?」
二人ともばつが悪い雰囲気だ。
ダニーはエドが昨日マーティンのところに泊まったのを悟った。
「マーティン、大丈夫か?」
「あの・・またお酒飲み始めてるから、僕が見張ってます」
エドは胸を張って言った。
「え、あいつ酒飲み始めたんか?今日も休むならオフィスに電話するように言ってくれ」
「わかりました」
ダニーは帰っていった。
なんでエドなんや!
ダニーはむかむかしながら地下鉄の駅に降りていった。
酒飲みの理由は何や?
ダニーは訝りながら地下鉄に乗った。
エドはスープの残りを見つけると、それに水とコンソメキューブと卵と米を足して、リゾットを作った。
ベッドサイドにメモで「冷蔵庫にランチがあるからしっかり食べること。また夜来るからね。E」と書き置きをした。
エドにも仕事がある。エドは目覚まし時計をかけ、マーティンを起こさず、アパートを去った。
マーティンは目覚ましで目を覚ました。
あれ、僕、何でベッドにいるんだろう?わ、大変だ!オフィスに電話しなくちゃ!
「ボス、マーティンです。はい、インフルエンザです。すいません。油断してました。早く治します」
ボスは言葉少なだったが、明らかに不機嫌だった。
また怒らせちゃったよ。
ベッドサイドのメモに気がつく。E?エド?
僕、エドを呼んだんだ!なんか頭がぐるぐるする。
マーティンはミネラル・ウォーターをぐいっと飲むと、またベッドに入った。
空腹で目が覚める。エドが用意してくれたランチを電子レンジに入れて、口にスプーンを運ぶ。
すごく美味しい!
どうしてダニーもエドもアランも料理が上手なんだろう。
食べ終わると、食器をそのままにして、またベッドに入った。
夜になり、ダニーが合鍵で入ってきた。
食べ散らかしたキッチンを見て苦笑する。
ベッドルームを見に行くと、ブランケットの中で丸くなってマーティンが眠っていた。
ダニーは、ジャケットを脱ぐと腕まくりして、キャベツとウィンナーとジャガイモで簡単なポトフを作った。
するとブザーが鳴った。
「はい?」
「あれ?フィッツジェラルドさんの家ですよね?」
エドの声だ。
「エド、俺や、ダニー。上がって来いや」
「あ、はい」
エドがやってくる。
「お前、昨日はマーティンの世話してくれたんやな」
「マーティンに呼び出されたので」
「さよか」
ダニーはあらためて傷ついた。どうして俺やないんや。
「ポトフ作ったんやけど、食わへんか?」
「頂きます」
ダニーは、マーティンのワインセラーからカリフォルニアの白ワインを取り出した。
「つきあえや」
「はい」
二人の静かなディナーが始まる。すると、マーティンが起きてきた。
「あれ?二人で何してるの?」
「あほ!お前が心配で来たんや。腹減ったか?」
「うん、すごくすいた」
エドはマーティンの分のポトフを皿に取り分けた。
「熱はどや?」
ダニーが額に唇を当てる。エドははっと息を飲んだ。
「まだ熱いな、それでも食欲があるなんぞ立派なもんや」
3人がダイニングで顔を合わせる、気まずい雰囲気が流れた。
「そや、アランに無理言って抗生物質もらってきたから、飲み」
「ありがと。エドも昨日、来てくれてありがと」
「だって、大切なマーティンの緊急電話だもん、飛んでくるよ、いつでも」
エドは「大切な」を強調して話をした。
ダニーは、今晩のところは、二人にこの場はまかせようと席を立った。
「エド、こいつ、料理できへんから、明日の食事用意しといてくれるか?」
「もちろん、やりますよ。ご心配なく」
ダニーはジャケットをはおり、「それじゃ、大事にせいよ」と言って、アパートから出た。
身体にぽっかり穴があいた気分だった。
驚いたことに、ボスから1週間の有給休暇の許可がおりた。
アランは、早速、UAにミラノ行きのファーストクラスの往復を2枚予約した。
「俺、ほんまにイタリアに行くん?」
ダニーは信じられない様子だ。
「そうだよ、二人でゆっくりしよう」
初めてヨーロッパに行ったのは、マーティンが行方不明になった事件の時だった。
休暇で行けるなど考えたこともなかった。
アランはさくさくとホテルを予約して、用意を進めている。
ダニーは夢のような気持ちになった。
オフィスに行くと、マーティンからメールが来ていた。
「休暇いつから?」
「来週」
「捜査会議希望」
「了解@貴宅」
ダニーは、ディーン&デルーカで、ラビオリのオマールソース、クレソンサラダ、
ラムチョップと温野菜にバゲットを買って、マーティンの家を訪問した。
「いらっしゃい」
「おう、食いモン買ってきたで」
「ありがと」
ダニーは手早く皿にデリを盛ると、ダイニングに並べた。
「美味そう!」
マーティンも喜んでいる。二人はジンファンデルを開けて食べ始めた。
「ねぇ、イタリアに行くの?」
「あぁ、ミラノとヴェネチアや」
「どうしても行くの?」
「ああ、悪いか?」
「そんな事ないけどさ、寂しいなと思って」
「ごめんな。俺、今まで休暇取ったことなかったやん。そろそろかなと思ってたんや」
「アランが一緒だからでしょ?」
「お前なぁ、そんな言い方ないやろ」
「だって、そうじゃん!アランにおんぶにだっこで、ダニーは自分の生活をアランに合わせてるんだよ!」
ダニーも思わず顔が怒りで赤くなった。
「そんな言い方ってあるかい!俺とアランの関係なんか、お前に分かってたまるか!」
ダニーはバンっとダイニングを叩くと、ジャケットをはおって、マーティンのアパートから出た。
何や!マーティンの奴!
ダニーはまっすぐアランの家に帰る気がせず、ブルー・バーにタクシーを寄せた。
「いらっしゃいませ」
エリックが愛想よく挨拶する。
「テキーラ、ショットで頼むわ」
「はい」
いいだこのガーリック炒めと生ハムのピンチョスが並ぶ。
「お前、気がきくな」
「仕事ですから」
ダニーは、テキーラを立て続けに4杯飲み、ピンチョスをすべて食べ終えた。
足元がふらつく。
「大丈夫?」
エリックが駆け寄ってくる。
「ああ、大丈夫や」
ダニーは、ふらふらとタクシー乗り場に行き、タクシーを拾って帰った。
アランの家に着くと、ダニーは倒れこむようにソファーに座った。
「どうしたんだい、ハニー?うわー酒臭いなー」
アランは急いでミネラル・ウォーターを持ってきた。
ぐびぐび飲むダニー。
「なぁ、俺ってアランに囲われてんの?」
「はぁ?何言ってるんだい、違うだろ?お前には仕事もあるし自活してるじゃないか?
誰かに言われたのか?」
「・・・マーティン」
「あいつめ、バカな事を言って。お前は僕の大切な人だ。
囲うとかそんなんじゃない。一生を一緒にいたいだけなんだよ。わかってるだろ」
「うん」
「その様子じゃ、夕飯がまだなんじゃないか?パスタでも作ろう」
アランはキッチンに行った。
ダニーはウォーキング・クローゼットで着替えながら、マーティンの言葉を反芻していた。
キッチンからアマトリチャーナソースのいい香りがしてくる。
ダニーは、ダイニングに急いだ。
マーティンは、ダニーが買ってきたデリを食べるのをやめ、
キッチンのキャビネットの奥に隠していたバーボンのボトルを出した。
僕、なんであんな事言っちゃったんだろう。ダニーをすごく怒らせちゃった。
バーボンをあおり始める。
せっかく僕の世話しに来てくれたのに、僕って最低の奴だ。
マーティンは、ボトルとグラスを持って、ベッドルームに移動した。
週明けの月曜日、ダニーがオフィスでカフェラテを飲んでいると、マーティンがどさっと紙袋をデスクの上に置いた。
「何やこれ?」
「こないだのお詫び、食べてよ」
中を覗くと、チョコチップとクランベリーのマフィンが入っている。
「有難く頂くわ、お前、インフルエンザ治ったんか?」
「どうやらね」
マーティンは席についた。
ダニーはクランベリーマフィンを手にとって食べ始めた。
あいつ、悪いと思ったんかな。俺、めちゃ傷ついてんやけど、マフィン2個で買収されるとは、安いもんや。
ダニーは口をもぐもぐさせながら、苦笑した。
マーティンがランチと誘うので、二人で出かけた。
マーティンがタクシーを拾う。
「どこ行くんや?」
「ロワーの方」
マーティンは「カフェ・ハバナ」の前でタクシーと止めた。
二人でトルティーヤサンドとワカモーレチップスを食べる。
マーティンはデザートに焼きバナナまで頼んでいた。
「ねぇ、ダニー、僕ね、言いすぎた、許してくれる?」
「俺、めちゃ傷ついたで。お前にそんな風に見られてるなんて思わなんだから」
「失言だった。本気じゃなかったんだよ。つい嫉妬しちゃったんだ」
マーティンは駆け引きが出来る男ではない。
ダニーはすべて本音だと信じた。
「わかった、許したる。その代わり、ここおごりな」
「うん、もちろん」
二人は、満腹になってオフィスに戻った。
戻ると事件が勃発していた。
クイーンズのアパートで異臭に気がついた隣人が届けを出していた。
失踪者は18歳の無職の女性だ。同棲相手もいなくなっていた。
「アパートへ行け、マーティンとダニー」
「了解っす」
ボスの命令で二人はアパートに出向く。
確かに異臭がひどい。大家に鍵をあけてもらう。
異臭の元をたどると、バスタブに生まれたばかりの赤ん坊の死体が放置されていた。
すでに腐敗が始まっている。マーティンは思わず、トイレに吐いた。
「大丈夫か?メンソレータムを鼻の下に塗れ」
ダニーにもらって、クリームを塗りこむ。
不思議と匂いが感じられなくなった。
「お前もこれからは小道具用意せいよ」
「うん、わかった」顔を真っ青にしてマーティンは答えた。
ボスに連絡する。今や死体遺棄の犯罪者だ。聞き込みを開始する。
同棲相手も無職だったらしい。
一体何で生計を立てていたのか?
家宅捜索をする。
キッチンのキャビネットから、こぼれたヘロインの粉が見つかった。
売人か?
ダニーは、写真たてに飾ってあった二人の写真を手に取った。
ダニーはマーティンを連れて、クイーンズのタレコミ屋に会いに行った。
結果、しょぼい商売をやっている21歳の男が浮かびあがった。
「奴の携帯番号」
タレコミ屋に100ドル払う。
ダニーは客を装って電話をかけた。金がないのか、見事に罠にひっかかった。
夜、ヤンキーススタジアム裏で会うことにする。
ダニーは私服に着替えて、現場に出向いた。
今日はボスとマーティンがバックアップだ。
ダニーが金と交換でヘロインを受け取った瞬間、
ボスとマーティンが「FBI!手を上げろ」と取り囲んだ。
21歳の売人はすぐに口を割った。
赤ん坊の処理に困り、ブロンクスのモーテルに彼女と泊まっていると。
モーテルにはサマンサとヴィヴィアンが駆けつけ、容疑者を確保した。
「嫌な事件やったな」
ダニーはマーティンに声をかける。
「現実が過酷すぎるよ」
マーティンは肩を落とした。
「お前はようやった。偉いで」
ダニーはマーティンを誘って、ブルー・バーに出かけた。
エリックが会釈して迎える。
二人でテキーラのショットを2杯ずつ飲んで、お開きにした。
そろってタクシーに乗る。
マーティンがダニーの手を握ってきた。
だから、俺はまだセックスできへんのや!
ダニーは心の中でそう叫びながら、マーティンの手をずっと握っていてあげた。
「それじゃ、また明日な」
「うん、おやすみなさい。今日はありがと、ダニー」
「ええっちゅうに」
二人は別れた。マーティンはいつまでもタクシーの姿を追っていた。
144 :
fusianasan:2006/11/20(月) 23:34:12
書き手1さん、久し振りに感想書かせて貰います。私は以前からダニーとアラン
の関係は好きでした。悲しい過去のあるダニーが唯一甘えられるアランの存在は
大事だと思います。なによりどの人よりアランと一緒のダニーがとても幸せそう
に見えて萌えます。ダニーがアランと別れたりしないストーリーを期待していま
す。これからの展開が楽しみです。
書き手2さん、お忙しいのでしょうか。マーティンの次の行動が気になってます。
また連載されるのを楽しみにしています。
ダニーは帰りにバーニーズ・ニューヨークでアランと待ち合わせをした。
リモアのキャリーケースを買うためだ。
ジョージがすかさず「ご旅行で?」と聞いてきた。
「あぁ、来週、出かけるんだ」アランが答える。
「何日間位でしょうか?」
「1週間」ダニーが答えた。
「それなら、中くらいのサイズがよろしいでしょう。お色は?」
「黒でええよ」
ダニーは、さっと自分のアメックスカードを出した。
ジョージが少しためらい、アランをチラッと見た。
「これで」ダニーはどうしても自分で買いたかったのだ。
そして、リモアを手に入れてご満悦だった。
シルバーカラーのアランとペアになってしまったが、機能的には一番優れている。
二人は、久しぶりに「トラットリア・ポモドーロ」に寄った。
ダニーの機嫌がすこぶるいい。
「嬉しいか?」
「うん、俺、初めての海外旅行みたいやもん」
カンパチのカルパッチョとナスのマリネ、
ピザマルゲリータとイカ墨のリゾットを頼む。
「あっちに行ったら、もっと色々な料理が食える?」
「ああ、より取りみどりだよ」
「俺、イタリアン大好きやから、すげー嬉しい」
「少しは太れるといいな」
「うん、そやね」
ダニーは、アランはともかく、マーティンと比べて体躯のたくましさに引け目を感じていた。
犯人にタックルを食わせるのも、マーティンの方が威力がある。
ダニーの方が射撃の腕は上だが、拳銃で片付くケースは意外に少ない。
二人は食事を終えると、ジャガーで家に戻った。
「バスを入れよう」
「俺やるわ」
ダニーはベルガモットのバブルバスを入れた。
アランは葉巻を吸っていた。
「入ったで」
二人で一緒に入る。
出来るだけセクシャルな動きをせぬようにするのが二人の約束になっていた。
ダニーの用意が出来ていない今、急いでも意味がないのだ。
傷だらけのダニーのペニスが痛々しい。
二人はお互いの身体をスポンジで洗い合うと、バスから出た。
バスローブに着替えて、リビングに行く。
「ナイトキャップ飲むかい?」
「俺はええわ」
「僕は少し飲むから先にベッドに入るといい」
「うん、おやすみ、アラン」
ダニーはアランの唇に軽くキスをするとベッドルームに入っていった。
このままセックス出来なくなってしまったら?
アランはその可能性も考えていた。
それでもいいのか?
自分はあいつと一緒の人生を選んだんだからと思いながらも迷いが残る。
ブランデーを飲みながら、アランはふーっとため息をついた。
ベッドルームに入ると、ダニーはすでに規則正しい寝息を立てていた。
アランがそっとベッドに入ると、ダニーが寝返りを打ってこっちを向いた。
あどけない寝顔だ。
神様、この子を救いたまえ!
アランは毎晩日課になったお祈りを神様にささげて、自分も目を閉じた。
>>144 さん
感想いつもありがとうございます。
私のアラン萌えが原因でストーリーに偏りが出てしまいますが、前にも
書かせていただいたように、ダニーが子供時代に体現できなかった幸せを
一つ一つ、実現させてくれるのが、アランの役割と考えています。
それにマーティンのためとはいえ、ダニーを守るために殺人まで犯している
アランですから、絆は深いかなと。
これからも、どうかよろしくお願い致します。
浅い眠りをくり返していたマーティンは、これ以上眠れないと判断して体を起こした。
まだ5時を過ぎたばかりで、夜も明けていない。
布団にくるまって静かに眠るダニーをしばらく恨めしそうに眺め、そっとほっぺに触れる。
―女を連れ込むなんて・・・僕が一緒に住めば浮気しない?
だめだ、そんなことしても意味ないよ。ホテルに行けばいくらだって浮気できるじゃないか・・・
マーティンはふーっと大きく息を吐くと寝転んで天井を見上げた。
寝返りを打ったダニーが腕をからめてきて、つい手を重ねてしまう。
悲しいけれどこれが現実だ。何度浮気されてもダニーを愛している。
ニュースを見ながらシリアルを食べているとダニーが起きてきた。
「おはよう。お前早いな」
「まあね。食べる?」
「いや、いらん」
ダニーは隣に座ると水を飲んで大きなあくびをした。
マーティンが手を止めてじっとこっちを見ている。
「何?」
「ううん、なんでもない」
「変なヤツ」
ダニーはキスして髪をくしゃっとすると、シャワーを浴びるために立ち上がった。
シャワーを浴びているとマーティンが入ってきた。
「僕も一緒に入っていい?」
「ええよ。寒いやろ、早よ入り」
「ん、ありがと」
マーティンは背中にぴとっとくっつくと腕を回して抱きついた。
「おい、体洗うのに邪魔や」
ダニーが腕を振りほどこうとしたが、マーティンはくっついたまま離れない。
「どうしたん?また寂しいんか?」
体の向きを変えてマーティンの顔を覗き込んだが、マーティンはしがみついたまま首を振るだけだ。
訳が分からないダニーは、ぎゅっと抱きしめておでこに唇を押し当てた。
「お前のこと愛してるで。心配すんなや。な?」
マーティンはじっと目を見つめていたが、こくんと頷いて体を離した。
ダニーは体を洗ってやりながら耳を甘噛みする。
ペニスに触れようとすると、マーティンが手を押さえた。
「何?」
「いや、その・・遅れちゃうから・・」
「ああ、それもそうやな。まだ髭も剃ってないし」
ダニーは残念そうに体を洗い終えると髭を剃り始めた。
自分のが終わるとマーティンのも剃ってくれる。
真剣な表情で髭を剃ってくれているを見ていたが、昨夜女を抱いた手だと思うと無意識に顔を背けてしまった。
「あ痛っ!」
「あほっ、なんで動くねん!あほやなぁ」
みるみるうちに顎の下から血が流れて、ぽたぽたと下に滴った。
ダニーがタオルで傷を押さえたが、なかなか血が止まらない。
「痛いよ」
「動くからや。ちょっと我慢しい。もう絶対に動くなよ」
ダニーはマーティンが動かないよう頬に手を添えると、残りの髭を剃ってシェービングクリームを洗い流した。
「ほら、消毒するから見せてみ」
「いいよ、沁みるから」
ダニーが傷を舐めるとマーティンが痛みに顔をしかめた。
「・・僕の血っておいしい?」
「まあまあやな。それより、やっぱ消毒しとかなあかんわ」
「いいったら!ダニーが舐めたので十分だよ」
「いいや、あかん!」
ダニーは強引に消毒した。マーティンは痛むのか、大げさに悲鳴を上げている。
「こんなことならあのままセックスすればよかったな」
バンドエイドを貼りながらそう言うダニーに、マーティンは複雑な思いで小さくバカと呟いた。
このままの関係を続けるためには、何も言わないで過ごすしかない。
ダニーがにんまりしながらキスしてくる。マーティンは躊躇いながらダニーと舌を絡めた。
>>144 いろいろと忙しくて途切れがちになっております。
ぼちぼち書いていきますので、また読んでやってください。
ダニーは、オフィスでカフェラテを飲みながら、こそこそっと抗うつ剤を口に入れた。
事件から2ヶ月が過ぎたが、やる気の減退が著しい。
薬を飲んでいると一日が上手に過ごせる、おまじないのような気がするのだ。
マーティンが走りながらやってきた。
「おはよう、ボン、髪の毛ひどいで」
ダニーは遅刻ぎりぎりのマーティンに声をかけた。
「はぁ、はぁ、すっかり寝坊しちゃった!」
トイレに駆け込んでいく。
マーティンは昨日もソファーで眠っていた。
バーボンの瓶が空いていたが、いつ空けたのかすら覚えていない。
トイレの鏡に映る顔を見ながら、やっぱり少し青白いかなと思った。
息がアルコール臭くなければいいけど。
ポケットからティックタックを取り出して、口に放り込んだ。
オフィスではミーティングが始まっていた。
「マーティン遅いぞ!」
ボスの叱咤の声が響く。
「すみません!」
「もうすぐ感謝祭の休日が始まるが、毎年、失踪者が増える。
家族を持たない孤独な者ばかりだ。今年も心の準備をよろしく。以上だ」
ミーティングが終わり、ヴィヴィアンがマーティンに尋ねた。
「今年もワシントンに帰るのかい?」
「父は帰って来いって言ってるけど、どうしようかな」
マーティンはダニーの顔をちらっと眺めた。
ダニーは全く気がついていない。
僕、一度でいいからダニーと過ごしたいな。
「帰ってあげなよ、副長官も喜ばれるでしょ」
ヴィヴィアンが優しく肩をポンと叩いた。
「ダニー、感謝祭どうするの?」
マーティンはさりげなく聞いた。
「家でパーティーや」
「そうなんだ」
マーティンはがっかりした。
「ねぇ、そのパーティー、行ってもいい?」
「あぁ?席があるかなぁ、聞いてみるわ。エドと来るんやろ?」
「え、一人じゃだめなの?」
「そんなんでもないけど・・お前、エドとやと思ったから聞いただけや」
カップルのパーティーなんだ。
マーティンはなおさらショックを受けた。
もうすっかりダニーとアランはカップルだ。自分に入る隙間なんてない!
ランチになり、ダニーとマーティンはいつものカフェに出かけた。
マーティンの元気がない。
「何や、ボスに怒られたことか?」
「ねぇ、僕ってお邪魔虫?」
「あほやなぁ、お前は大事な奴やって言うてるやんか。信じろ」
マーティンはパニーニをかじりながら、ダニーを見つめた。
ダニーがウソを言っている風はない。
ダニーはオマールエビのスープをすすりながら「もうすぐ冬やな」と言った。
「うん、なんか寂しい季節だよね」
「お前、感傷的やな、だから元気がないんか?」
ダニーは声を出して笑った。
「そや、パーティーな、二人空きがあるって言うてたで。一人で来るか?」
「・・エドに聞いてみる」
「そうか、じゃ二人な」
マーティンは複雑な気持ちのままパニーニを食べ続けた。
定時になり、帰り支度をしていると、マーティンの携帯が鳴った。
「僕、あ、そうなんだ。分かった。それじゃ、またね」
エドからだった。
両親に請われてフィラデルフィアの実家に戻らなければならないらしい。
マーティンはやけくそになってニックに電話した。
「おぉ、お姫様、元気か?」
「ねぇ、ニック、感謝祭開いてる?」
「一人もんの俺に何かあると思うか?」
「じゃあ僕に付き合ってくれない?」
「あぁいいよ、何だ?」
「ホームパーティー」
「なんかこっぱずかしいな、でも行こうか。面白そうだ」
マーティンは携帯をしまった。
これでいいや。パーティーであってもダニーと一緒に過ごせる。
バックパックに書類を入れて、マーティンはオフィスを後にした。
マーティンが、ピザの空き箱を蹴飛ばし、バーボンのボトルに手を出した時、携帯が鳴った。
「え、今、家だよ。飲んでないよ、エド、大丈夫だってば。フィラデルフィアはどう?
それじゃ、帰ってきたらご飯食べようよ、うん、バイバイ」
グラスにバーボンを注ぐ。
また風邪ひいちゃうから、ベッドで飲もう。
マーティンはボトルとグラスを持って、ベッドルームに移動した。
ダニーは悪夢にうなされていた。
女性たちに囲まれ、局部に突起物が回り中についた巨大なディルドを押し込まれ、乱暴に動かされている夢だ。
「うーん、うーん!」
「おい、ダニー、起きろ!」
アランがダニーを揺り動かした。
「うん?俺、寝言言った?」
「うなっていたぞ、それにすごい汗だ」
「嫌な夢見た。シャワーしてくるわ」
ダニーはバスローブを羽織ってバスルームへ消えた。
あの子のトラウマはどうしたら治るんだ。
アランは焦っていた。ダニーが戻ってきた。
「起こしてごめんな、アラン」
「いいんだよ、ハニー。今度はよく眠れるさ」
「うん、そやね」
ダニーはアランに背中を向けた。
あぁ、力いっぱい抱きしめ、褐色の肌に舌をはわせたい!
アランは狂おしい気持ちを抱いたまま、目を閉じた。
朝、ダニーがオフィスの机でスコーンを食べていると、またバタバタとマーティンが走りこんできた。
顔色が悪い。すぐにトイレに駆け込む。
下痢か?
ダニーはそれとなくトイレに入った。
マーティンが吐いている音がする。
「おい、マーティン、大丈夫か?」
「ダニィ?気持ち悪いよ、おえ〜!」
「胃薬もらってくるわ」
ダニーは医務室に行って胃薬を持って戻ってきた。
マーティンが真っ青な顔をして席に座っている。
「ほら、飲み」
ダニーは自分が飲んでいたミネラル・ウォーターのボトルを渡した。
ごくんと飲み込むマーティン。
ダニーは、アルコールではないかと疑っていた。
ランチに誘って、いつものカフェに行く。
珍しくコーンスープしかオーダーしないマーティン。
「お前さ、もしかして酒飲んでんじゃないんか?」
「違うよ、昨日食べたもんが悪かったみたい。もう平気」
作り笑いが痛々しい。
「俺には嘘つくなよ」
「ダニーには嘘なんて言わないよ」
「わかったわ。信じる。今晩お前と一緒にいたいけど、明日のパーティーの準備があるよって、ごめんな」
「いいんだよ、あ、僕ね、ニックと行くから」
「えっ、エドやないんか?」
「エド、実家に戻ってるんだ」
「さよか」
ダニーはやっかいな事になりそうだと思った。
ダニーは、仕事を終えると急いで家に戻った。
「おかえり、ハニー」
「ただいま」二人は軽くキスを交わした。
「明日な、マーティンがニックを連れてくる」
「ええ!あいつが来るのか。仕方がないな。もう招待したんだから、問題が起こらないのを祈るだけだね」
「明日の用意どうなってる?」
「七面鳥のスタッフィングは終わったよ。お前、ソースを作ってくれるかい?」
「うん、分かった」
「今日の夕食はデリバリーのチャイニーズで許してくれ」
「そんなんええて」
ダニーは着替えてくると、ダイニングに並んでいる、ディムサムとチャーハンにがっついた。
「ザ・ピエールのケータリングは?」
「ああ、問題ないよ。今年は奮発してオマール海老も加えたよ」
「すげ〜」
「年に一回だからな」
早々と夕食を食べ終え、二人はキッチンに並んだ。
ダニーはグレイビーソースとクランベリーソースにキューバ風のホットサルサソースを用意した。
アランは大きなパンプキンパイを焼き、ココナッツババロアを冷蔵庫に入れた。
「用意そろったね、風呂はいろ」
ダニーはアランにねだった。二人はバスルームに消えた。
ダニーは先にシャワーから上がり、マーティンに電話をかけた。
「ダニー、どうしたの?」
しらふの声だ。
「お前、飲んでないよな」
「飲んでないよ。明日楽しみだね」
「ニックに暴れないように言っておけよ」
「わかったよ。それじゃおやすみ」
ガチャ。何や冷たいやっちゃな。
ダニーは携帯を見つめながら、マーティンの事を考えた。
マーティンは携帯を切ると、グラスを口に運んだ。
明日はみっともないマネしませんように!
ふらふらになりながら、マーティンはベッドルームに入っていった。
バートン家のサンクスギビングディナーに招かれた二人は、スタテン島に向かって車を走らせていた。
そわそわしていたマーティンが、後部座席で揺れている花を見てため息をついた。
「どうしたん?」
「ん、なんか緊張してきた・・」
今日はスチュワートの妹一家も来ると聞いているので気が重い。それにあの父親も・・・
この前のディナーの後、スチュワートが泣いていたのを思い出して憂鬱になった。
「嫌やったら行くのやめよか?」
「そんなことできないよ。行くって言っちゃったんだもの」
「なあ、オレもいてるし、トロイもいてるから大丈夫や。トロイのおかんも優しいし」
ダニーはそう言うと、つないだ手にぐっと力をこめた。
インターフォンを押すと、すぐにスチュワートが出迎えてくれた。
おいしそうな匂いが部屋中に漂っている。
「二人ともよく来たな。道に迷わなかったか?」
「いや、マーティンが場所覚えてたから」
「それはよかった。実はさ、エミリーたちが来られなくなっちゃって・・」
「どうして?」
「アレックスが急に熱を出したんだ。あ、アレックスはオレの甥の一人」
立ち話をしていると、スチュワートの母が出てきた。ダニーもマーティンもハグされて照れくさい。
「まあ、いらっしゃい。二人ともよく来てくれたわ。さ、早く入って」
「こんにちは。本日はお招きありがとうございます」
二人は持ってきた花とボジョレーヌーボーを差し出した。
「ありがとう。とってもきれい。この前のお花も素晴らしかったわ。今日はゆっくりしていってちょうだい」
「はい、遠慮なく楽しませていただきます。あの、何かお手伝いしましょうか?」
「それじゃお願いしようかしら。スチューからあなたは料理が得意だっていつも聞かされてるから」
「いつも?ドクター・バートンにですか?」
ダニーはわざとらしく聞き返し、スチュワートを見てにやにやした。
「うるさいぞ、テイラー。早く手伝ってこいよ」
スチュワートは、恥ずかしいのか顔が少し赤くなっている。ダニーはくくっと笑うと後についてキッチンへ向かった。
マーティンがリビングへ行くと、スチュワートの父がフットボールを見ていた。
「バートンさん、お邪魔してます」
「おー、よく来たな。一緒に見るか?」
普通に訊ねられ、思わずきょとんとする。
いつも酔っているイメージが強いので拍子抜けしてしまった。
「あ、あの、僕は後で見ます・・」
マーティンは逃げるようにリビングを出た。
キッチンへ行くと、ダニーがクランベリーソースをかき混ぜていた。
スチュワートは冷蔵庫を漁っている。
「ねえ、お父さんどうかしたの?」
マーティンはスチュワートのそばに近寄ると小声で訊ねた。
「うん?ああ、まだ酔ってないからさ。親父も素面だとまともなんだよ」
スチュワートはアップルタイザーを取り出すとマーティンに渡した。
「オレたちもフットボール見るか?ここにいると手伝わされるぜ」
「それでもいいよ。お手伝いは苦手だけどね」
マーティンはアップルタイザーを飲みながらオーブンの中を覗き込んだ。七面鳥がこんがりと色づいている。
「これさ、どうやって中まで火が通ったってわかるの?前から不思議だったんだよね、切ってないのにさ」
「それな、焼けたら刺してあるピンがポコンって上がるねん。バートン家のレシピはスタッフィングなしやねんて。そやからそろそろちゃうかな」
ダニーの説明に、マーティンはますます中を覗き込んだ。ピンが上がるところを見たい。
「おい、熱いで。危ないやん」
オーブンの前の二人を見て、スチュワートの母がくすくす笑い出した。
「あー、可笑しい。デジャヴュを見ているようだわ。懐かしいわねぇ」
「ああ」
「あとは私がやるから、みんなでフットボールを見てらっしゃいな」
三人は顔を見合わせたが、リビングへフットボールを見に行った。
たくさん飾ってある家族の写真を眺めているうちに、ディナーの準備が整った。
ローストターキーやマッシュポテト、コーンブレッドやパンプキンパイなどの定番料理以外にもいろんな料理が所狭しと並んでいる。
アルコールの類だけは一切置かれていなかったが、理由は暗黙の了解で全員が理解していた。
「わー、おいしそう!こんなにあるの?」
マーティンはポテトとアーティチョークのグラタンを見て頬が緩んだ。自分のために作ってくれたのだと一目で分かる。
「さあ、遠慮しないでどんどん食べてね。たくさんあるんだから」
スチュワートの父はターキーを切って取り分けてくれた。酔っていないときは普通の父親だ。
ダニーはターキーにがっついているマーティンを見て笑いを堪えた。感謝祭を思いっきり楽しんでいるのが見て取れる。
「ダニー、スカンピのグリルはいかが?ウォルドルフサラダも食べて」
「はい、いただきます」
次から次へと料理を勧められ、お皿が空になる暇もない。
会話もはずみ、和やかなディナーに時間はゆっくりと過ぎていった。
「よかったな、今日はオヤジさんがまともで」
ダニーは食器を運びながらこそっとささやいた。
へらへらしていたスチュワートが急に真顔になった。
「本当にまともならいいけどな。親父は今夜飲まない代わりに5000ドルを手に入れたんだ」
「えっ!」
「誰だって感謝祭ぐらい穏やかに過ごしたいだろ。母もマーティンも喜んでたし、オレもお前らと過ごせて楽しかった」
二人がこそこそ話しながらキッチンへ行くと、マーティンがターキーサンドを作ってもらっていた。
「うわー、お前まだ食べる気か?」
「ううん、朝ごはんにって。今は無理、何も入らないよ」
「ダニーの分も作るから待ってて。パイも入れておくわね。スチューの分もあるわよ」
ダニーはキッチンの楽しそうな光景を見て、これなら5000ドルの価値はあったと思った。ふとスチュワートと目が合う。
「マザコン!」
「うるさい、バカ!」
二人は軽口をたたき合いながらにんまりした。
感謝祭の日、夜7時になり、アランの家に次々と友人が集まってきた。
ジュリアンは、この前のエリック・クラプトンのライブに連れてきてデイヴィッドを同伴してきた。
早速、トムにからかわれている。
ギルはケンと一緒だ。二人ともぎこちない様子なのがダニーは気になった。
そして、最後にマーティンとニックがやってきた。
ニックが部屋に入るなり、皆の視線が一斉に集まる。
デイヴィッドが思わず「え、LOSTのソーヤーですか?」と小声で尋ねた。
ニックは、「やあ、皆さん初めまして。俺はニック・ホロウェイ。
皆さんがご期待の人物は今はハワイですよ。俺の兄貴、ジョシュ・ホロウェイが気になるんでしたらね」
と自己紹介をした。
マーティンはニックの後ろで小さくなっていた。
キッチンに立っているダニーの姿を見て、安心したように近寄った。
「はい、これ」
「ん?すげー、オーパス・ワンか。アラン!マーティンがオーパス持ってきたで!」
エプロン姿のアランがやってきた。
「やぁ、マーティン、よく来てくれたね。今日は楽しんでくれ。ニックの世話をよろしくな」
「あ、はい」マーティンは緊張した。
リビングに戻ると、ニックがトムとギル以外の皆に囲まれていた。
ケンとデイヴィッドは、頬を紅潮させながら、ソファーでニックを挟んで座っている。
「俺の仕事はフォトグラファーだよ、今度、ソーホーで個展やるから良ければ来てくれよ」
宣伝に抜かりはない。ジュリアンは早速取材を申し入れていた。
ダニーが「皆さん!ダイニングにどうぞ!!」と声をかけた。
前菜は、ザ・ピエールのシーフード・プラターに茄子、ズッキーニ、パプリカのマリネ、カプレーゼの盛り合わせだ。
ヴーヴ・クリコ4本がたちまち空になる。
みな、オマール海老や、はまぐりの燻製、生牡蠣にがっついた。
「次はメインでーす」ダニーが紹介すると皆が歓声を上げた。
アランとダニーが大きく太った七面鳥を2羽運んでくる。
サイドテーブルで、アランが慣れた手つきで皆の分を取り分け、皿を配る。
「今日のソースは3種類、グレイビーソースにクランベリーソース、
それから今年の新作、キューバ風サルサソース。どれでもどうぞ」
アランがソースを紹介した。
ワインが変わり、シャトー・ラトゥールとオーパス・ワンが6本持ち込まれる。
キャセロールにはクレソンとアスパラガスのバターソテーにマッシュドポテトが入っていた。
アランとダニーもやっと席について食事を始めた。
話題の中心は案の定、ニックだった。
「あぁ、パリとロンドンとベルリンで個展をやった。どこも大盛況だったぜ」
ケンが目を輝かせながら尋ねる。
「どんな写真なの?」
「人間の生の姿、そうオール・ヌードだ」
ヒュー!!みんなから口笛が漏れる。
「ここにいるこいつが、俺の一番のお気に入りのモデルなんだ、な、マーティン?」
「ちょ、ちょっと、恥ずかしいよ!」
「え、マーティン、ヌードモデルやってるの?」
ケンが目を丸くした。
ジュリアンは思わず想像したのか、マーティンの体を眺めながら卑猥な笑みを浮かべた。
「僕も撮ってもらえるかなぁ」
ケンは相変わらず積極的だ。ギルが苦虫を噛み潰した顔をしている。
「あぁ、君はアジア出身か?何人?」
「日本人だけど・・」
「日本人は撮った事がないな、いいぜ、撮ってみよう!」
「うわい!」
デザートの時間になり、パンプキンパイとココナッツムースが運ばれる。
「アランのパイは最高だぞ、デイヴィッド食べてごらん」
「うん、ジュリアン、僕の分、取って」
ジュリアンは若いデイヴィッドにメロメロだ。
コーヒーが出て、食事は終わった。
が、皆、帰ろうとしない。
トムがアランにワインをねだっている。
腰に手を回しているのがダニーは気になったが、ほおっておいた。
それより、ニックのそばでぐいぐいワインを飲んでいるマーティンが心配だった。
「おい、マーティン、飲みすぎてへん?」
「だいじょーぶだよ、今日はたのしいねー、ははは!」
すっかり出来上がっている。
ニックが「気にすんなよ、テイラー。俺が何とかするからさ」と
手でしっしっとダニーをはらいのけた。
ベランダではギルがこんこんとケンに話をしている。
アランがさっと間に入り何か言うと、今度はアランとギルが言い合いになった。
ダニーが飛んで入る。
「何やってんのや、お前、何した!」
ケンを睨みつける。
「ギルがモデルやっちゃだめだって言うんだもん」
「当たり前や。ギルの気持ちも考え」
アランがやっとギルをなだめた。
「ギル、お前ももう少しリラックスして、ケンの好きなようにさせてやれよ。
そうでないと長続きしないぞ」
「お前らはいいよな、何で二人はうまく行ってるんだよ!」
「からむなよ!さぁ、寒いから中に入ろう」
アランはギルを、ダニーはケンを連れて部屋の中に入った。
すると、リビングが騒然としていた。
トムが跪いて誰かの面倒を見ている。マーティンだ。
「どうした!」アランが駆け寄る。
「また、こいつやったよ。急性アル中だ。これからERに運ぶわ」
「すまないな」
ダニーが突然ニックに飛びかかった。
「お前がちゃんと面倒見るって言うたやんか!」
一発、二発パンチを顔にお見舞いする。
「急に倒れたんだから仕方ないだろ!」
ニックもダニーにお返しを二発食らわせた。
二人は皆に引き離された。
パーティーはお開きになった。
トムとニックはマーティンをかついでERに出かけた。
ジュリアンはデイヴィッドと、ギルはケンと帰って行った。
アランはソファーで、ダニーの腫れた頬にアイシングしていた。
「ばか、お前が先に殴りかかるなんて」
「ごめん。我慢できなかった」
「相当腫れるぞ」
「わかってる」
「マーティンの事になると、見境がないな」
「だってあいつ、自分の面倒、自分で見られへんもん」
「面倒見たいか?」
「え?」
「マーティンの面倒を見たいか?」
「そんなん、ちゃう。同僚で親友やから。それだけや」
ダニーは必死で否定した。
アランの砂色の目が冷静にダニーを見つめている。
アランはぎゅっとダニーを抱きしめた。
「お願いだから、ダニー、僕のものでいてくれ」
「俺はアランのものや、嘘やないで」
ダニーは、病院に行きたい気持ちを押さえつけながら、アランに抱き締められていた。
翌朝、ダニーは腫れた顔でオフィスに出勤した。
サマンサがびっくりしている。
「どうしたの?まさか感謝祭にけんか?」
「まぁ、いろいろあんねん」
ボスがダニーを呼んでいる。
ダニーはすごすごとボスのオフィスに入った。
「おはようございます」
「何がおはようだ。その顔はどうした?」
「ちょっと友人とけんかしまして・・」
「バカモン!お前、自分がFBIだということを時々忘れるようだな」
「すんません・・」
「気をつけろ!度を越すと、また資格審査室の取調べがあるぞ」
「はい・・」
「マーティンも病欠だし、まったくうちの男どもは・・」
ボスはぶつぶつ言いながら、もう下がれと手でダニーに合図した
マーティン、大丈夫かな。帰りに見舞いに行こ。
ダニーはデスクに戻り仕事を開始した。
帰り道、ダニーはフェア・ウェイに寄って、
卵やレタスや牛乳に小さなアルファベットのマカロニを買い、マーティンの家に向かった。
合鍵で中に入る。水を打ったように静かだ。
「マーティン?」
ベッドルームを覗くと、マーティンがブランケットに丸まって眠っていた。
ダニーはリビングに戻ると、ジャケットを脱いで、スープを作り始めた。
いつもあいつ足りない言うから、今日はマカロニ入りやで。喜ぶやろな。
牛乳と小麦粉とバターを少し入れてクリーミーにしてから、水とコンソメで溶いていく。
「ダニィ?」
マーティンの声がした。
目を上げると、マーティンがパジャマ姿で歩いてくる。
「大丈夫か?」
「ごめんね、バカやっちゃったよね、僕」
「ほんま、お前、あほやで」
「お腹すいたよ」
「待ってな、今スープマカロニ作ったるからな。ベッドに戻り」
「うん」
まるで子供だ。
ダニーはふと気がついて、キッチンのキャビネットを全部開けた。
バーボンのボトルが3本出てきた。
流しに中身をすべて捨てる。
お前をアル中に戻すわけにはいかへん!
スープが出来たので、ベッドに呼びに行く。
マーティンはまた、とろとろとまどろんでいた。
「マーティン、食うか?後にするか?」
「あ?食べるよ、僕」
「じゃあ、バスローブ羽織って来い」
「うん」
ダニーは自分の分もスープ皿によそって待っていた。
マーティンの顔色は悪くない。
ダイニングについて、まずミネラル・ウォーターをぐびっと飲んだ。
「美味しい」
「胃がからっぽやからな。お前の胃洗浄の回数、新記録やないか?」
「もうやらないよ」
マーティンは恥ずかしそうな顔をした。
「当たり前や。トムも呆れてたやろ」
「うん」
「ニックはどうした」
「朝まで一緒にいてくれた。家まで送ってくれたよ」
「顔腫れてたか?」
「うん、ダニーと同じ位腫れてた」
ダニーは折を見てニックに謝ろうと思った。
「あ、アルファベットだ!」
マーティンがマカロニを見ながら喜んでいる。
「俺が風邪ひくとな、おかんがこれ入れてスープ作ってくれたんや」
「へえ、ダニーのお母さんの味なんだね。すごく美味しいよ」
「そやろ、アルバレス家の特別レシピや」
「ダニー、自分の苗字を初めて言ったね」
「そやな、久しぶりやわ」
ダニーは、言い出しにくい事を口に出した。
「なぁ、俺、休み取っても、お前大丈夫か?」
「平気だよ!僕だって子供じゃないんだから」
「ほんまか?」
「うん、約束する。ダニーを待ってるよ。楽しんでおいでよ」
「分かったわ。ごめんな、いっつも一緒にいられへんの、おかしいよな」
「仕方ないじゃん。僕にはエドだってニックだっているから、大丈夫だよ」
それならええけど。
ダニーはそれでも不安だった。
「今日、お前が寝るまで一緒にいてやるわ」
「本当?」
マーティンは嬉しそうな笑顔を見せた。
「その代わり、明日はちゃんと出勤するんやで」
「もちろん、仕事がんばらなくちゃね」
ダニーは、マーティンが空元気を出しているようにしか見えなかった。
ダニーは、翌日、エドを誘って夕食に出かけた。
ビアホールの「ミュンヘン」で待ち合わせる。
「ダニーからのお誘いなんて珍しいから、びっくりしちゃいましたよ」
「忙しいのにごめんな」
「ううん、最近はそうでもないんです」
「それに庶民的な店やし」
「僕だって、いつもデリバリーばかりですよ、気にしないで」
エドの気遣いが有難かった。
二人でピルスナーのワンパイントを頼んで乾杯する。
にしんの酢漬けとソーセージの盛り合わせにアイスバイン、
ザワークラウトを頼んだ。
「俺な、今週、旅行に出るねん」
「へぇ、珍しいですね。アランと?」
「うん、二人でイタリアに行く」
エドが少し寂しそうな顔をした。
「それでな、頼みたいのはマーティンのことや」
「あ、アルコールですね」
「昨日、あいつの家のキッチンからバーボン3本見つけて全部捨てたんやけど、
また買ってるかもしれん。出来たら、一緒にいてやって欲しい」
「ちょうど出張もないし、承知しました。ちゃんとウォッチするから、心配しないで」
「ありがと。お前だけや、頼りになるのは」
「FBIにそんな事言われると照れますよ」
「そんなん言うなて」
エドは人の気持ちを癒す不思議な優しさを持っている。
同じくマーティンと寝ている間だと分かっているのに、
ニックに殴りかかった自分とは全く違う気持ちでいるのに、ダニーは気がついた。
「アランは元気ですか?」
エドが尋ねた。
「あぁ、休みとるから、カウンセリングの時間延長して患者診てるわ」
「よろしく伝えてください」
「ああ、分かった」
ダニーはエドがまだアランの事を引きずっていると確信した。
しかし攻撃的な態度はみじんも見えない。
二人で山盛りのソーセージとアイスバインを平らげ、店の前で別れた。
「ねぇ、ダニーが僕に頼んだ事、マーティンは知ってるの?」
「いや、出来れば知られたくない」
「わかりました。それじゃ、おやすみなさい」
「よろしくな、エド」
「任せてください」
二人はそれぞれアッパーのイーストとウエストに別れた。
家に戻る途中、ダニーはマーティンからの電話を受けた。
「ダニィ、今どこ?」
「タクシーでセントラルパーク通ってる」
「家に来られない?」
「どうした?」
「僕、寂しい」
「分かった、すぐ行くわ」
ダニーはタクシーの運転手にUターンをお願いし、イーストに戻った。
合鍵で部屋に入ると、マーティンがソファーで泣いていた。
「どうしたんや?」
「僕のお酒捨てたでしょ?」
「あぁ、捨てた」
「どうしてそんな事するんだよ!僕大丈夫だよ!」
「胃洗浄した奴が言うセリフか!お前、これ以上飲み続けたらまたAAに逆戻りやで」
「大丈夫だもん!」
マーティンは身体いっぱいダニーにぶつけてきた。
ダニーは思わずよろけた。
「お、おい!」
「ねぇ、僕を抱いてよ!お願いだから!」
ダニーは逡巡したが、真実を告げようと決心した。
「マーティン、俺な、セックスできへん身体になってん」
「え?」マーティンは驚いた。
「あの事件以来エッチしてへん。できへんのや。見てみ、俺のチンチン」
ダニーはするするとパンツとトランクスを下げた。
傷だらけのペニスが出てくる。
「ひどい・・・」
「直腸なんてもっとひどいで。糞するのも今だに痛い」
「そうだったの」
「それに抗うつ剤も飲んでる。捜査官失格や」
ダニーは自嘲気味に言った。
「僕さえダニーを見失わなければ・・」
「もう忘れよ。お前は悪うない。不可抗力や。とにかく俺、今、誰も抱けへんし、抱かれるのも無理なんや。ごめんな」
「知らなかった」
マーティンは明らかにショックを受けていた。
そして、また泣き出した。
「お前が泣くことないやん。俺の問題やからな、俺が解決する。お前は心配すんな」
「ダニー、ごめんね、今日はありがと、帰って」
「マーティン・・」
「帰って、もっと泣いちゃうから」
「わかったわ、帰るで。飲むなよ」
ダニーは後ろ髪を引かれる思いをしながら、アパートを後にした。
家に戻るとアランがブランデーを飲みながらソファーに座り、ショパンを聞いていた。
「遅かったね」
「あぁ、エドと話が長なった」
「承知してくれたか、マーティンの世話」
「うん、出張もないし、見張っててくれるって言うてくれた」
「よかったな、これでお前も心おきなく旅行に行けるだろう」
「うん」
返事はしたものの、まだ心配でたまらない。
「ミラノとヴェネツィアのホテルも予約OKだったから、もう後は飛行機に乗るだけだよ」
アランは、イタリアのガイドブックを読んでいたようだった。
俺を楽しませようとアランたら。
ダニーは心を動かされた。
「俺、シャワー浴びる」
「一緒にバスに入らないか?」
「まだ入ってないん?」
「お前となら何度でも平気さ」
アランはバスを入れに行った。
二人でラベンダーの泡に包まれてお互いの身体を洗う。
微妙にペニスを避けて洗うのが流儀になっていた。
ダニーはアランの硬いペニスが自分の尻に触っているのを感じていた。
アラン、エッチ我慢してるんや。
二人はバスローブのままベッドに向かった。
ダニーがアランのバスローブを脱がせる。
「お、おい、何するんだ」
「これ」
ダニーは、アランの半立ちのペニスを口に咥えた。
裏筋を舐め上げると、亀頭をぐるりと一周し、根元まで飲み込んだ。
「あぁ、ダニー・・」
ダニーは顔を前後させ、スピードを速めた。
「あぁ、もうだめだ、出る・・」
アランはダニーの口に大爆発した。
ペニスが口の中で大きく痙攣している。
ダニーはごくんと飲み込むと「アランのすげー濃かった」と言った。
「ばか、恥ずかしいだろ」
二人は身体を寄せ合い、キスをした。
「うわ、自分のザーメンの味がする」
「ええやん」
ダニーが笑った。アランは、これが第一歩かもしれないと思った。
「寝ようか」
「うん、おやすみ、アラン」
「ハニー、おやすみ」
二人は腕を絡ませたまま眠りについた。
翌朝、スタッフミーティングがあった。
ボスがダニーの有給休暇を発表した。
「1週間だ。その間、ダニー好みの事件が発生しないよう祈ろうじゃないか」
皆が笑った。
ミーティングが終わり、サマンサが話しかけてきた。
「ねぇ、もしかして、アランとイタリアに行くの?」
「ああ」
「羨ましい!アランと行けるなんて最高じゃない!ダニーと代わりたいわ!」
マーティンは耳をふさぎたい気持ちだった。
気を紛らわせるために、シュガードーナッツをがつがつ食べた。
「マーティン、砂糖がこぼれてるよ」
ヴィヴィアンに注意され、「わ!」とトイレに駆け込んだ。
「あの子の間食癖ってどうにかならないのかね」
ヴィヴィアンは呆れた。
ダニーは不在の間の引継ぎ書類を作っていた。
チームの皆に自分の担当している事件を振り分けた。
こんなんなら土産が大変や。
ダニーの心はすでにイタリアに飛んでいた。
「捜査会議OK?」マーティンからのメールだ。
「承諾@場所は?」
「追って連絡」
マーティンはダニーをジャクソン・ホールに誘った。
「イタリア行っちゃったら、ここのバーガーが恋しくなるはずだよ」
マーティンは特大チーズバーガーに山盛りポテトを食べている。
ダニーはチリバーガーに普通盛りのポテトだ。
「たった1週間やん。すぐに戻ってくるて」
「そうだよね」
マーティンは不安そうに貧乏ゆすりした。
二人はクアーズライトで乾杯をして、食事を終えた。
「今日は家に寄らなくてもいいからね」
マーティンがつぶやくように言った。
「ほんまか?強がり言うてないか?」
「うん、ダニーがいないのに慣れなくちゃ」
二人はタクシーを便乗した。先にマーティンを降ろす。
「じゃあな、また明日」
「おやすみ、ダニー」
「おやすみ、マーティン」
タクシーが発進した。
ダニーは、オフィスからニックに電話をかけた。
「うぅん、ホロウェイ、誰だ?」
寝ていたらしい。
「俺、テイラー。お前、ランチにフェデラルプラザに来いへん?」
「何だよ、この前の続きかよ。口の中が切れて痛いんだぜ」
「とにかく来いよ、12時半に待ってる」
ニックはフェラーリでやって来た。
サングラスをしていても、誰もが振り返る。
ダニーが手を振った。
「ニック、こっちや!ランチ食おうで!」
二人はいつもダニーが寄るカフェに立ち寄った。
ウェイトレスがわれ先にとテーブルに群れる。
顔の傷が余計にワイルドな魅力を際立たせていた。
ダニーはチキンのピタサンド、ニックはパスタ・ペスカトーレと白ワインを頼んだ。
「何だよ、お前からの呼び出しなんて不吉だな」
「ご挨拶やな、俺な、休みとって1週間留守にするんや」
「それで?」
「もし、マーティンがお前を酒飲みに誘っても断ってくれへん?」
「何だよ、お前あいつの親父か?そんなのマーティンにまかせろよ!」
「だってあいつ急性アル中で胃洗浄を5回以上も受けてるやで。もう限界やわ」
「実は、俺もマーティンのこの間の状態見て、心配になったのは事実だ。わかったよ。断るよ」
「あと、この間、殴りかかってごめんな」
「へぇ、テイラーも謝ることなんてあるんだ、知らなかったぜ。
傷見るとお互いに互角だったみたいだし、許してやるよ」
「すまない」
「いいって。お互いお姫様には苦労が耐えないな」
「あぁ、まあな」
「でも、お前さ、アランといい仲なんだから、マーティンはいらないだろ、俺に譲ってくれないか?」
「譲るとかそういう話やないやろ。マーティンの心次第やもん」
「お前って欲張りな。じゃ、俺もこの間会ったケンの写真でも撮ろうかな」
「ケンにはステディーがいるんやで」
「あの辛気臭いオヤジだろ?そんなの芸術には関係ないだろうが?あいつすげーいい身体してたよな」
ニックは夢見るように目を宙にはわせた。
「マーティンを悲しませるな。悲しませたら、この間位じゃ済まないで」
「分かったよ、FBIさん。約束する。お前のアッパーカット効くからなぁ」
二人はカフェで別れた。
ダニーはこれで、エドとニックにお願いだけはした。
あとは、マーティンの心次第だ。
しかし出発が明後日に迫っている。
もう時間はあまりない。
ダニーはあと一回だけ、マーティンと食事をしようと思った。
再度以下をお読みください。
[約束]
・荒らしと叩きは相手にしないようにしてください
・アンチを見つけてもスルーしてください
・このドラマの他の関連板に感想などを書くのは控えてください
・このスレッドのURLをこのドラマの他の関連板に書くのは控えてください
・このスレッドの内容を他の関連板に引用するにはやめてください
[注意書き]
同性愛的要素、過激な描写を多く含みますので、不快を示す方は閲覧をお控え下さいますようお願いします。
これらを理解してストーリーを楽しんで下さる方のみ閲覧お願いします。
注意事項を守らず不快な思いをされてもこちらは一切責任を負いません。
あくまでも自己責任・自己判断でお願いします。
ダニーはチームの皆に、引継ぎのファイルを渡した。
「楽しいんできなよ、ダニー」
ヴィヴィアンが優しく声をかけてくれる。
「入局して初めての有給休暇やから、緊張してるわ」
「ばかね、楽しめばいいのよ、こっちは私たちにまかせて」
サマンサも今日は優しい。
マーティンだけが口ごもりながら「元気でね」と言った。
「あほ!たった1週間やで」ダニーはおどけて答えたが、マーティンが沈んでいる様子が気になった。
ボスとの打ち合わせに忙しく、ダニーはランチをカンティーンのサンドウィッチで済ませた。
ぱさぱさのBLTだが仕方がない。
マーティンにメールを打つ。
「今日捜査会議OK?」
マーティンからすかさずメールが返ってくる。
「場所頼む」
あちゃー、荷作りもあるのに困ったな。
ダニーは、カッツ・デリカテッセンで我慢してもらうことにした。
クアーズで乾杯して、フライドポテトを摘む。
「もう用意は済んだの?」
「これからや。飛行機の中で寝るからええわ」
言葉が途切れる。
ローストビーフサンドとシーザーズサラダが来る。
「野菜食べ」
「うん、分かったよ」
仕方なくロメインレタスを口に運ぶマーティンが愛らしい。
「お前、ほんまに肉食な」
「でも随分シーフードも食べるようになったよ」
「野菜食わなあかんで」
「うん、ね、どこ行くの?」
「ミラノとヴェネチアや」
「ロマンチックだね、二人でゴンドラに乗るんだ」
声の中に皮肉っぽい響きがある。
「あほ、男二人でゴンドラに乗れるかい!」
「僕もダニーと旅行に行きたいな」
「そやな」
ダニーはそれしか言えなかった。
「二人で有休とったら、チームががたがたになるで」
「そうだよね」
マーティンはふーっとため息をついた。
「おい、たった一週間やないか、戻ってくるんやから、我慢せいよ」
「うん、分かってるんだけどさ」
マーティンはビールをあおった。
「ほら、ローストビーフ冷めるから食え」
「うん」
マーティンは無理やりサンドウィッチを口に運んだ。
「お前が、そんなんじゃ俺、出かけられへんわ」
「大丈夫だよ、ダニー、行ってきなよ」
「ほんまにええんか?」
「うん、その代わり、帰ってきたら、僕と沢山一緒にいてね」
「わかった、指きりしよ」
二人は指きりをした。
二人はタクシーに同乗して、アッパータウンに上がった。
先にマーティンが降りる番だ。
「それじゃ、元気でね」
「あぁ、帰ったら電話するから」
「うん、待ってるよ」
マーティンはタクシーが左折するのをずっと見送った。
ダニーが帰ると、アランがリビングにリモアを広げて荷作りしているところだった。
「おかえり、引継ぎは大丈夫かい?」
「やっと終わったわ」ダニーは嘘をついた。
「俺も荷作りしなくちゃ」
「服は少なめでいいぞ。どうせあっちで買うだろう?」
「うん、そやね」
ダニーも部屋着に着替えて、新品の黒のリモアを出してきた。
「トランクスとTシャツと・・・」
アランが思わず笑う。
「口で言わないと荷作りできないのかい?」
「ごめん、俺の癖なんや」
ダニーはその後も言葉を口に出して、確認しながら荷作りを終えた。
「嘘みたいやな、明日はイタリアやで!」
ダニーがソファーではねていた。
こんなに喜ぶんだったら、もっと前に連れて行けばよかった。
アランは後悔した。しかし今回の旅行は、ダニーのトラウマ克服が目的だ。
うまくいきますように。
アランはまた神様にお祈りをささげた。
アランとダニーはJFK空港のファースト・クラス・ラウンジにいた。
空港の他の場所の喧騒がうそのような空間だ。
パソコンで仕事する者、カクテルを飲む者、新聞を読む者、みなそれぞれ旅の前の時間を過ごしている。
ダニーはアランにくっついて、ドリンクコーナーでブラッディー・マリーを作ったり、
カナッペを選んだりしていた。
「こんな場所があるんやな」
「まあな、まだ搭乗時間まで30分ある。ゆっくりしよう」
「うん」
二人はソファーに腰掛けた。ダニーはイタリアのガイドブックに初めて目を通した。
忙しくて暇がなかったのだ。美術館や建物の荘厳さに魅せられた。
ここに行けるなんて嘘みたいや。ダニーは子供のように興奮してきた。
搭乗時間になり、ゲートに移動した。
グランド・ホステスの笑みまでいつもと違う。
中央の二人がけのシートだった。
早速コートを預け、落ち着くとすぐにホットタオルサービスとシャンパンが配られる。
ダニーは、シャンパンを飲み終えるとことんと眠ってしまった。
アランが思わず微笑む。
忙しかったからな、おやすみ、ハニー。
アランはシャンパンをお代わりすると、ファイナンシャル・タイムズに目を落とした。
重たいフルコースミールと朝食が出た。
ダニーは、目が覚めてはパクパク食べ、また寝た。
いよいよマルペンサ空港に着いた。
ホテルのリムジンを見つけ、市内に移動する。
ダニーは子供のように窓に顔をつけて、景色の移り変わりを見ていた。
「俺、結構イタリア語、読めるで」
「あぁ、スペイン語と似ているからな、頼むよ」
「うん」
パーク・ハイアットに到着した。
ガレリアに位置し、ドゥオモまでも徒歩で3分の場所だ。
「あ、ガイドブックに出てた教会や!」
ダニーが喜んでいる。
チェック・インして驚いた。プレジデンシャル・スイートだ。
ベッドルームとバスルームが二つ付いている。
「こんなん、すごい!初めてや!」
「男二人で、ツインもおかしいだろ?」
アランはダニーの姿に嬉しくなった。
「さぁ、シャワー浴びて、散策しに出かけないか?」
「うん!」
二人はウールのジャケットにマフラーを巻いて、街に出た。
モンテ・ナポレオーレ通りのカフェに寄りこみ、アランはカフェラテ、ダニーはマカデミアナッツのジェラートを頼んだ。
その後、早速ジョルジョ・アルマーニのブティックに立ち寄った。
エンポリオのラインもアルマーニ・エクスチェンジも買える大きなビルディングだ。
その上、一階にレストラン「ノブ」が入っている。
アランは、コレクションラインの階にダニーを連れて行った。
「来年の春のテーマは何かな?」
店員に尋ねる。
「華麗なるギャツビーです」
「ふーん」
「俺、もっとビジネスぽくないと着られへん」
「そうだな」
ダニーはスペイン語で「ビジネスラインはありませんか?」と尋ねた。
店員は嬉しそうに「こちらです」と案内してくれた。
二人で、スーツをそれぞれ3着と、冬用のカシミアのコートを買い求める。
「お直しは明日出来上がります。ホテルにお持ちしますよ」
女性店員は愛想がいい。明らかにダニーに惹かれているようだ。
「それじゃ、パーク・ハイアットに頼みます」
「かしこまりました」
二人はアルマーニ・カフェでビールを飲むと、
グッチに寄り、靴を2足買って、ホテルに戻った。
「ホテルまで届けてくれるなんて、ええサービスやな」
「お前のスペイン語とチャームのおかげだよ。さぁ、夕飯は何にする?」
「もちろん郷土料理がええ」
「それじゃ、コンシェルジェに予約をしてもらおう」
二人は地元で人気のリストランテ「トラットリア・マズエッリ・サン・マルコ」に出かけた。
スプマンテで乾杯する。
「どうだい?一日目は?」
「最高や、アラン、ありがと」
「いいんだよ。もっと早く来ればよかったな」
二人は人目も省みず、手を握り合った。
アンティパストミストで、生ハムやサラミ、チーズを堪能した後、
オッソブッコにトルテッリ・ディ・ズッカ(かぼちゃの詰め物が入った手打ちパスタ)と
サフラン風味のリゾットを食した。
「やっぱり本場はちゃうな」
上等な赤ワインがさらに料理に花を添える。
二人は、手をつないで、ぷらぷら歩きながらタクシーを拾い、ホテルに戻った。
二人はミラノの滞在を終え、ヴェネツィアに列車で移動した。
2時間半ほどの列車の旅ものんびりしていていい。
二人はビールを飲みながら、移り変わる景色を楽しんでいた。
ヴェネツィアに着くと、ホテルから迎えのウォーター・タクシーが待っていた。
「へぇ、モーターボートがタクシーなん?」
「ああ、運河が交通網だからな」
ウェスティン・ヨーロッパ&レジーナの船着場に到着するとベルボーイが待っていた。
「ショア様、テイラー様、お待ちしていました」
さすがに一流ホテル、綺麗な英語だ。
ダニーはまた部屋を見て驚愕した。
キャナルスイートは運河に面していて、有名なサンタ・マリア・デッラ・サルーテ教会が向こう岸に見える。
ベランダはアランの家の3倍ほどの広さもあった。
支配人からスプマンテとカナッペが届いていた。
二人は、シャワーを浴びると、スプマンテを開け、生ハムとクリームチーズのカナッペを摘んだ。
「わ、生ハムが美味い!」
「たぶん、パルマ産だろう、有名だからね」
二人は、スプマンテを飲み終え、ホテルのウォータータクシーでムラノグラスの工房に出かけた。
職人が巧みな技でベネチアングラスを作り上げるのに、ダニーは感銘を受けた。
ショップでチーム全員用に土産品を買った。
ウォータータクシーでホテルに戻り、カフェに寄りこんで、カフェラテをすする。
「今日は何が食べたい?」
「ヴェネツィアの名物料理!」
二人は、ホテルを出、フラフラと小さな路地を歩き回った。
大都会ミラノと違って、路地を歩くのが楽しい。
すると少し古いたたずまいのオストリアがあった。感じが良さそうだ。
「入ろうか?」
「うん!」
店主らしき人物が給仕も担当している。
アメリカ人と気付くと英語のメニューを持ってきた。
「イタリア語もお願いします」
ダニーがスペイン語で言うと、すぐさま倍ほどの厚さのあるメニューが持ってこられた。
二人は、カラマリのグリルや鯵のフライ、うなぎの稚魚のトマトソース煮、スカンピの炭火焼、
ウニのパスタに、ワインリストから一番高い白ワインを頼んだ。
店主は、すぐさまいい客だとめぼしをつけ、つたない英語で話しかけてきた。
「ビジネスで?休暇で?」
「休暇だよ、あと3日滞在する」
「また来てください」ビジネス・カードを渡される。
「ありがとう」
「大歓迎」
ドルチェのおまけがついた。パンナコッタのグレープフルーツソースだ。
エスプレッソによく合う。
「ここ、美味いな、アラン」
「ああ、デルアミコも負けたな」
二人は大満足で、ホテルへの道を歩いた。
すると大音響の音楽をかけているオープン・バーがあった。
「なぁ、アラン、ちょっと寄らへんか?」
「そうだな、寄ろうか」
アランは、やる気が減退していたダニーの申し出に驚いた。
うつ病が治りかけているのか?
二人はカウンターに座って、グラッパを頼んだ。
「ねぇ、アメリカ人?」
赤毛の女性が声をかけてきた。
「そやけど?」
「一緒に踊らない?」
ダニーは困った顔をしたが、アランが「行ってこいよ」と言うので、フロアに出た。
音楽ジャンルはテクノだったが、ダニーは構わない。
リズムに合わせて自然に体が動く。
「私、フローリア」
「俺、ダニー。英語うまいな」
「イギリスに留学してたの。仕事?休暇?」
「休暇や」
「ふふ、面白いアクセント!」
「俺、マイアミ出身やから」
アランを見ると、カウンターで金髪の女性に話しかけられていた。
「あの子、友達?」
「あぁ、私の連れのマーサ、イギリス人なの。実はあなたたちが入ってきた時から目をつけてたんだ」
フローリアはペロっと舌を出した。どう見ても20代前半だ。
二人はアランのところに戻った。
マーサはアランの身体にべたべた触りながらしゃべっていた。
アランが辟易している。
「もっといたいとこやけど、俺たち明日朝早いから、失礼するわ」
ダニーがフローリアに言った。
「ええ!!嘘でしょ!もっと楽しい事して遊びましょうよ」
ダニーの腰に腕をからめる。ダニーはぞっと寒気がした。
「すまんな、会えて楽しかったで」
アランもマーサに別れを告げていた。
「商売女じゃなかったが、積極的だったな」アランが呆れて言った。
「開放的やね、バーは鬼門やな。ホテルで飲む方がええかも」
二人は、少し道に迷って、やっとホテルのエントランスに着いた。
「疲れたな」
「さすがに石畳は脚がだるいわ」
「マッサージしてやるよ」
「サンキュ、アラン」
ダニーはシャワーを浴びると、ベッドに横になり、マッサージを受けながらすぐ眠ってしまった。
ヴェネツィアの滞在が終わり、またミラノに戻ってきた。
パーク・ハイアットのベルボーイが「ショア様、テイラー様、おかえりなさいませ」と挨拶をした。
顔を覚えているとは、素晴らしいサービスだ。
二人は、少しの間、身体を寄せ合って昼寝をした。
夕方になり、ルームサービスがスプマンテとピンチョスを運んでくる。
「頼んでいないが?」
「支配人からのサービスでございます」
「ありがとう」
二人は、またスプマンテを開け、パパイヤと生ハムに小エビのフライのピンチョスを摘んだ。
「俺、太りそうや」
「お前はいいよ、僕は問題だ」
二人は見つめ合い、どちらからともなく笑い出した。
明日はいよいよイタリアを発つ日だ。
ダニーはもっといたいと心から思った。
「俺、イタリア、気に入ったわ」
「そうしたら、毎年、休暇をとって来ようか?」
「ボスが許してくれたらな」
「ああ、マローン捜査官は難関だなぁ」
ダニーは突然、マーティンを思い出した。
エドはちゃんと面倒を見てくれているだろうか。
電話したい気持ちにかられる。
「どうした?」
「NYを思い出してた」
「まだ1日あるぞ、さぁ、レストランを予約しよう」
今晩は、「ピッコロ・ソーニョ」という新しいリストランテだった。
イタリア料理とフランス料理の融合のような店だ。
二人はフォアグラのオレンジソースを前菜に、有機野菜のペペロンチーノとガーリックのリゾット、
ミラノ風カツレツを頼み、赤ワインを2本ほど空けた。
「満腹や!」シェフが各テーブルに挨拶に回ってくる。
ダニーはスペイン語で「大変美味しかったです」と言うとシェフが嬉しそうな顔をした。
「おい、またドルチェがくるぞ」
アランの予想通り、チョコレートムースとティラミスの盛り合わせがついてきた。
二人は上機嫌で食事を終え、ホテルに戻った。
「なぁ、ラウンジで飲も」
ダニーに誘われて、二人はラウンジ・バーに出かけた。
間接照明が美しい空間だ。
「アラン、俺、すごく感謝してる。こんな経験、俺が出来るなんて、夢にも思わなかった」
「いいんだよ、お前は僕にそれだけの事をしてくれてるんだから」
「ほんまに?」
「ああ、愛してるよ、ダニー」
「俺も」
二人は手をつないで、プレジデンシャル・スイートに戻った。
「なぁ、一緒に風呂はいろ?」
「ああ、いいな」ダニーが湯を溜める。
いつものようにアランがダニーの後ろ側に回って体をスポンジで洗う。
「ええ香りのソープやね」
ダニーはアランに寄りかかった。
アランの硬いペニスが触れる。
「な、ベッドに行こ!」
「そうだな」
二人はバスローブを引っ掛けてメインベッドルームに向かった。
ダニーがするするとバスローブを脱ぎ捨て、身体をベッドに横たえる。
「ダニー・・」
「なぁ、俺、もう怖くない気がする。俺を抱いてくれへん?」
「いいのか?」
「うん」
アランもバスローブを脱ぐと、ダニーの上に重なった。
ダニーのペニスも少しずつ勃起してきた。
二人は69のポジションを取り、お互いのペニスを愛しんだ。
ダニーのペニスもついに硬くなった。
「お前が入れる?僕が入れる?」
「アランに来て欲しい」
「本当にいいのか?」
「うん」
アランはダニーの目を見ながらボディーローションをダニーのアヌスに塗りこんだ。
「うぅっ」
「大丈夫か?」
「平気や」
「じゃあ、いくよ」
「うん」
アランはダニーの目を見つめながら、静かに身体を進めた。
「痛いかい?」
「大丈夫や、気持ちようなってきた」
アランはずっと静かに動いた。
ダニーが「わ、俺もうだめ!」とアランの腹に射精した。
ダニーは涙を流していた。
「痛いのかい?」
アランが心配してダニーの涙をぬぐった。
「ううん、嬉しいんや、またアランとセックスできるんやから」
アランは静かに動いたまま、身体を痙攣させた。
「僕もイったよ」
「うん、アランが震えてるのがわかる」
二人は、ディープキスを繰り返した。
「あぁ、俺、セックスが出来るんや」
「ああ、そうだよ、お前はセックスが出来るようになった」
アランも思わず目が潤んだ。
二人は、抱き合ったまま、しばらくじっと動かないでいた。
夢のような休暇が終わった。
またNYでの生活が始まった。
ダニーはオフィスに出勤すると、チームの皆にお土産を渡した。
サマンサとヴィヴィアンには、ベネチアングラスの星型のペンダント、
ボスとマーティンには、ペーパーウェイトだ。底にとんぼ玉が沈んでいて、美しい。
ボスは一瞬嬉しそうにしたが「仕事が溜まっているぞ、がんばってもらわなくてはな」とダニーを鼓舞した。
「了解っす」
マーティンは「おかえり!」とさりげなく言った。
「ああ、世話になったな」
「仕事沢山あるわよ」
サマンサが早速ペンダントを身につけてダニーに言った。
「わかってますって。皆さんの奴隷になりますよって、よろしゅう」
チーム全員が笑った。
ダニーは昼休みに一人抜けて、エドに電話をかけた。
「ダニー、おかえりなさい!」
「ただいま。どうやった?マーティン?」
「問題なかったですよ。毎晩泊まりましたけど、お酒は食事の時だけ」
「さよか、ありがとな、今度会ったら土産渡すわ」
「そんなのよかったのに」
「お礼の印や」
次はニックだ。
「ぅぅん、ホロウェイ」
「お前、もう昼やで、起き」
「なんだよ、テイラー、戻ったのか?」
「あぁ、マーティン、どうやった?」
「静かなもんだったぜ。俺が誘っても忙しいからとか言われちまってさ、冷たいもんだ、お姫様は」
「さよか、ありがとな」
「俺は何もしてないぜ、じゃ、まだ眠いから切るぞ」
どうやら、マーティンはこの1週間、アルコールをセーブできたようだ。
エドに頼んでよかったと心から思った。
ダニーは今晩はマーティンを誘って夕飯を食べようと思っていた。
「捜査会議?」メールを打つとすぐに返事が来た。
「了解@ジャクソンホールにて」
久しぶりのこてこてアメリカ料理や。
ダニーはなんとなく嬉しかった。
7時に待ち合わせて、二人で時差をつけて席を立つ。
マーティンが先について、フライドポテトをつまみにビールを飲んでいた。
「おかえり!ダニー!元気そうだね」
「ああ、少し太ったわ」
「なんか顔が丸いよ」
「ほっといてくれ」
「お前はどうしてた?」
「エドがね、面倒見てくれた」
「へぇ、エドが。よかったやん。エドの手料理食ってお前も太ったんちゃうか?」
「エドも料理が上手だよね、すごいよ」
「それじゃ、飲まなかったんやな」
「うん、心配しないで。飲んでないから。ビールとワインだけだよ」
「さよか、よかったわ」
「ねぇ、旅行前の約束覚えてる?」
「うん?」
「僕と沢山一緒にいてくれるっていうやつ」
「当たり前やん」
まずっ!俺、すっかり忘れてたわ。
「嬉しいな、ダニーと沢山過ごせるなんて」
マーティンはチーズバーガーをがっつきながら、にこにこしていた。
こんなに幸せそうな顔をされて、ダニーは心にぽっと火がついたようだった。
俺、やっぱりこいつも愛してる。別れるなんて出来へん。
ダニーはアボカドバーガーのアボカドをポテトにつけて、摘んだ。
「ねぇ、今日、泊まってくれない?」
「今日か?ちょっと待ち。帰ってきたばっかで、くったくたやねん。少し日にちあけてくれ」
マーティンはふくれた。
「分かったよ。待ってるからね」
「あぁ、約束やもんな」
ダニーはやっかいな事になったなと思いながら、それほど負担に感じていない自分を見つめていた。
これもイタリア効果やろか?
「ダニー、何考えてるの?」
「仕事忙しそうやなと思ってな」
「大丈夫だよ、難しい事件は起こってないから」
マーティンは、さらにフライドオニオンを頼んだ。
「お前、よう食うな」
「お酒飲まなくなったら、またお腹すいちゃってさ」
「胃拡張にも気いつけ」
「わかってますって!」
目の前で、ポテトをほおばるマーティンを見ながら、
ダニーは自分がNYに戻ってきたのだと実感した。
ダニーはデスクのパーティションに、ヴェネツィアの写真を貼り付けた。
また行きたい!
気持ちがはやる。
俺、イタリアぼけやわ、仕事仕事!
ダニーはPCの電源を入れると、メールチェックを始めた。
マーティンががさっと紙袋を置いた。
「何や、これ?」
「お土産のお礼。スタバのクリームチーズスティックだよ」
「あ、サンキュ」
「コーヒー入れてくるね」
マーティンの過剰なサービスが少し恐ろしい。
マーティンは二人だけの時間を渇望しているのだ。
幸い、アランも休暇中に溜まった予約をさばくのに残業をしている。
ダニーは、近いうちに自分はマーティンと寝るのだろうと思った。
ダニーはアランに残業すると嘘をついて、マーティンを夕食に誘った。
「ローザ・メキシカーナ」だ。
「いつもんとこで悪いな」ダニーは謝った。
「いいんだよ、こういう食事に飢えてるでしょ?」
「あっちじゃマクドナルド食わへんかったで」
マーティンは笑った。
「中国行ってもマクドナルド食べる人いるんだってね?」
「中毒の奴もいるんやね」
二人は、ホットナチョスとメキシカンサラダ、チーズエンチラーダスにビーフファヒータを頼んだ。
テカテ・ビールで乾杯する。
「お前、偉いやん。酒我慢したんやな」
「うん、ダニーがもっと辛い思いしてるんだもん。自分がいかに甘ちゃんか思い知らされたよ。
もうAA通うのごめんだし、エドがすごくサポートしてくれたんだ」
「よかったな。エドええ奴やん」
マーティンはダニーをじっと見た。
「ダニー、嫉妬しないの?」
「嫉妬か・・・でもエドはお前のAAの仲間やしな」
「そうなんだ」
マーティンは明らかに落胆した様子だ。
「さ、冷めるから食お」
ダニーはマーティンの皿にナチョスとサラダを取り分けた。
「イタリア、どうだった?」
「もう歴史の重みがちやうで。石畳の道が1000年以上も前に作られたなんて信じられるか?」
「すごいね。アランはどうしてた?」
「ガイドを勤めてくれた。有難かったで」
「そうなんだ。二人ともうまく行ってるんだね」
「もう兄弟やな、ラフィエルより身近に感じるわ」
ダニーはごまかして言ったつもりだったのだが、余計にマーティンの心を傷つけたようだ。
「さ、エンチラーダスが冷めちまう」
ダニーはマーティンの皿に乗っけた。
ファヒータが来て、ダニーがじゅうじゅうとビーフを焼いている。
「僕たちって何なんだろうね」
「あぁ?」
「僕たちだよ」
「だから、言うてるやん、お前は俺の大切な奴やし親友や。ほかに誰もそんな奴おらへん」
「本当?」
「いい加減信じろよ、俺もしまいにゃ怒るで」
「ごめんなさい」
マーティンは小さくなった。
「今日、どうする?」
ダニーは迷った。
アランとはうまくいったが、マーティンとこのままセックスできるだろうか?
「ごめんな、まだ疲れてんねん。またの日にしてくれるか?」
「あぁ、分かったよ、待ってるからね」
マーティンは薄く笑った。
二人は、タクシーに同乗して、いつものように別れた。
マーティンがなかなかダニーの手を離そうとしない。
「明日会えるやん」
「そうだよね」
「おやすみ、マーティン」
「おやすみ、ダニー」
マーティンは、セントラルパークに入っていくタクシーをいつまでも見送っていた。
事件が起きた。IT富豪で有名なブレット・テナーが失踪したのだ。
「エドに何か知ってるか聞きにいったらどうや?」
ダニーはマーティンに提案した。
「そうだね、行ってくる」
エドが嬉しそうにマーティンを迎えたが、事情を聞いて顔色を曇らせた。
「彼の会社、最近、買収されそうになってて株価の吊り上げ合戦が続いているんだ。僕が社長でも逃げたくなるよ」
エドは言った。
「ありがと、エド。助かったよ」
「マーティンの役にたてるならいつで来てよ」
「それじゃ、またね」
「うん」
早速マーティンはボスに報告した。
ヴィヴィアンの調べで、テナーはサンディエゴに別荘を持っていると分かった。
「ダニー、マーティン、出張だ。サンディエゴに飛べ」
「了解っす!」
ニュー・アーク空港に行くまでの間、二人は初めて出張したのがサンディエゴだったと
思い出話に花を咲かせていた。
「初めて、ダニーが僕のことフィッツィーって呼んだんだよ」
「そやったな。お前はお預かりのお坊ちゃまやったからな」
「ひどいな、ダニーのバカ!」
サンディエゴの別荘は、マリーナに隣接するコンドミニアムだった。
「クルーザー持ってるんじゃない?」
マーティンが思いつき、ダニーはサマンサに登録記録を調べてもらった。
ビンゴだ。沿岸警備隊の記録を調べる。
おととい出航しているクルーザーがあった。テナーのものだ。
沿岸警備隊に協力を仰ぎ、捜索をしてもらう。
結果、簡単にクルーザーは見つかった。だが、発見が遅かった。
ベッドルームで、ブレット・テナーは自分の頭をベレッタで打ち抜いていた。
「IT戦争の敗者やな」
「怖いね」
「生き抜いてるエドはすごいな」
「うん、尊敬しちゃうよね」
二人はボスに報告をした。
今日はもう遅いので、一泊していいという。
二人は、予算内のモーテルに泊まらず、エンバシー・スイートの2ベッドルームを取った。
「ねぇ、カルチェラタンに行こうよ」
マーティンは心なしか嬉しそうだ。
二人は繁華街まで歩き、シーフードレストランに入った。
オマール海老の蒸し物と、なまずのフライにあんこうのソテーを頼んだ。
ディナーの後、繁華街をふらふら歩く。
すると強いビートが響くラウンジ・バーがあった。
「なぁ、寄らへんか?」
「僕、踊れないもん」
「ええやん、NYやないんやから」
二人はカウンターに落ち着いた。
フローズン・ダイキリを頼み、飲んでいると、マーティンに声をかける女性がいた。
ブロンドの美女だ。
「ねぇ、踊らない?」マーティンは困った顔をした。
「すまん、こいつ踊れへんねん、代わりに俺はどや?」
「まぁ、いいわ」
女は不満げだったが、二人はフロアに出た。
ダニーはいつもと同じようにスムーズにリズムに身体を合わせている。
マーティンはそんなダニーを羨ましいと思った。
1曲終わり、ダニーが戻ってきた。
「どうしたの?」
「あいつ商売女や、出よ」
二人は、ホテルに戻った。
マーティンがおずおずと「僕、先にバスに入るね」と言った。
「マーティン、一緒に入ろ」
「え、本当?」マーティンは驚いた。
「ああ、本当や」
二人はバスバブルで泡一杯にして、身体を洗いあった。
我慢できなくて、思わず、ダニーのペニスに触れるマーティン。
勃起しかけている。
「ダニィ・・」
「ああ、俺、大丈夫や、一緒に寝よ」
マーティンはボディーローションの瓶を持って、ベッドルームに走っていった。
ベッドに大の字になっている。
「あほ!襲うで、俺」ダニーは笑いながら、マーティンの身体の上に身体を重ねた。
マーティンの勃起したペニスと自分のがこすれ合う。
「本当にいいの?」
「あぁ、お前としたい」
マーティンは自分のアヌスにローションを塗りいれた。
マーティンは傷だらけのダニーのペニスを見て、一瞬ひるんだ。
「本当に大丈夫なの?」
「だから試そやないか」
ダニーはそっと腰を進めた。
「すごい締め付けや」
「ダニーも大きいよ」
ダニーはまだ不安だった。
途中で折れたらどないしよ。
不安を打ち消そうと、摩擦が増えるように腰をグラインドさせ、ゆっくり動いた。
「あぁん、良すぎて、僕わからなくなっちゃう」
「もっと分からなくさせたる」
ダニーは腰の動きを早めた。
「あぁ、もうだめ、出ちゃうよ!」
マーティンは身体を痙攣させて大きく射精した。
ダニーはそれを見届けて、満足そうに自分もマーティンの中に精を放った。
「治ったんだね」マーティンは泣いていた。
「あぁ、治った」
「ダニー、大好きだよ」ダニーの胸に顔を押し付ける。
「俺もや、マーティン」
二人はタオルでお互いの身体を拭いて、目を閉じた。
NYに冬が到来した。
ダニーは早速アルマーニで買った黒いカシミアのコートを着て出勤した。
「ひゅー、ダニー、かっこいい!」
サマンサがはやし立てる。
「ほっといてくれ」
ダニーは紺のマフラーを取ると、ロッカーに行った。マーティンと会う。
「よぅ、おはよう」
「あ、ダニー、新しいコートだね」
「まぁな」
「どんどんおしゃれになっちゃうんだもん。今度、買い物に付き合ってよ」
「ああ、ええで」
二人は席についた。ダニーは、すっかりカプチーノにはまり、スターバックスで泡を多く頼んでは笑われていた。
定時になり、マーティンはダニーを夕食に誘った。
ダニーは残業とアランに嘘をつき、マーティンに付き合った。
チャイナタウンに行き、ジョーズ・シャンハイの列に並ぶ。
すると列の前の方に見た顔があった。ニックとケンだ。
ダニーがつかつかと二人に近付いた。
「お二人さん、お食事ですか?」
ケンは顔色を変えた。
「なんだ、テイラー、一人か?」
「マーティンと一緒や」
ニックも思わず顔をしかめたがこう提案した。
「4人で食わないか、お前らも早く番が来るぜ」
ニックはフロアマネージャーに頼んで4人分の席を用意してもらった。
マーティンも面を食らっている。
「食事するほど仲良くなったの?」
「あ?今日はケンが俺のモデルになってくれた礼なんだ」
ニックは答えにくそうに言った。ダニーは二人が寝たと確信した。
ケンはいつも通りポーカーフェイスでにこにこしている。
この小悪魔めが!
マーティンはまだ事情が飲みこめてないようだ。
こいつがにぶちんでよかったわ。
ダニーは安心した。
4人は小籠包に棒餃子、スペアリブの黒豆いため、鳩のBBQにチャーハンと海鮮焼きそばを頼んだ。
ニックが紹興酒のボトルを頼む。
「ねぇ、ケンも、そのさ、あの、オールヌードになったの?」
マーティンが聞きにくそうに尋ねた。
「ええ、アリソンが用意してくれた般若とおかめの面をつけてね」
「般若とおかめって何や?」
「日本の舞踊で使うマスクですよ。普段はおっとり穏やかな女性なんだけれど、一旦嫉妬に駆られると鬼に変身するんです」
「面白い写真が撮れたぜ。ケンは身体がしなやかで、肌もなめらかだからな」
思わず口に出し、ニックはしまったという顔をした。
マーティンはまだ気がついていない。
「じゃあ、次の展示会は僕の写真なしでいいね?」
マーティンはほっとした顔をした。
「お前のはベルリンの分のストックがまだあるよ、お姫様」
「次はいつ展示会やるんや?」
「新年あけ早々だ」
4人はレストランの前で別れた。
ケンが「じゃ、僕、タクシーに乗りますから」とすたすた歩いていってしまう。
ニックは「俺、車だけど送ろうか?」と珍しく声をかけた。
「いや、お前の酔っ払い運転は危ないから俺らもタクシーで帰るわ」
ダニーは冷たく断った。
ニックは「じゃあ、今度はお姫様、二人で食事しような」とウィンクして駐車場に去っていった。
「ケンってさ本当にICPOなのかなぁ」
マーティンがふと尋ねた。
「そやろ、ID持ってるんやから」
「それにしちゃ、随分自由に生きてるね」
「きっと日本で出来ない生活をここでやってるんやろ、さぁ、寒いからタクシー拾お」
「うん」
二人は、近くのタクシー乗り場まで歩いていった。
マーティンがおずおずとダニーの手を握る。
ダニーは躊躇したが、すぐにぐっと握り返した。
こいつ寂しいんや。俺が守ってやらにゃ。
「僕もケンみたいに自由に生きたいな。同じゲイなのに」
マーティンがぽつんと言った。
「あいつかて、人種差別やら色々あると思うで。それの反動ちゃうかな」
「そうなのかな」
差別されたことのないマーティンにはぴんとこない。
子供の頃から差別され放題だったダニーには何となく分かるのだ。
ケンがイェール大のロースクールまで出てICPOの捜査官になった理由が。
ケンは俺の分身みたいなもんや。
だからこそ、ケンにはふらふらせず、一人の男ときちんと付き合ってもらいたいのだが、
それはどうやら無理のようだ。
ニックとケンか。マーティンが真相を知ったら、こいつ傷つくな。
ダニーは握っている手に力を加えた。
「痛いよ、ダニー」
「お、すまんすまん」
二人はやっとタクシーに乗って、アッパータウンを目指した。
二人がデリの帰りに歩いていると、見知らぬ男と手をつないだアーロンに出会った。
「やあ、久しぶり。元気?」
「あ、ああ」
二人とも見ないようにするが、つないだ手にどうしても視線がいってしまう。
「彼はCJ。僕ら付き合ってるんだ。こっちはダニーとマーティン。二人とはジムが同じなんだよ」
「どうも、はじめまして」
三人は軽く握手を交わした。
「これから一緒に夕食を作るんだ。じゃあ、またね」
「ああ、うん、またな」
楽しそうに顔を近づけて話しながら去っていく二人を、マーティンは羨ましそうに見送った。
「CJやて。クロイツフェルト・ヤコブかっちゅーねん。なぁ、マーティン」
「ん?あ、うん」
マーティンは上の空で生返事をしながら歩き続けた。何度か後ろを振り返っている。
―こいつ、自分も手つなぎたいって思てるんやろなぁ・・・
ダニーはそう思ったものの、こんなところで手をつなぐわけにはいかない。
二人とも押し黙ったままアパートまで帰った。
ダニーはドアを閉めると、いきなりマーティンを壁に押しつけた。
驚いたマーティンが紙袋を床に落とした。
「ちょっ、ダ、ダニー?!!」
強引に両手を押さえつけたまま、キスをして舌をねじ込む。
そのうちマーティンもおずおずと舌を絡ませてきた。
ダニーは膝でマーティンの股間をなぞった。すでに硬くなっている。
キスをしながら手早くマーティンのパンツとトランクスをずらすと、自分も急いで脱ぎ始めた。
お互いに下だけ脱いでワイシャツを肌蹴たまま、二人は抱き合った。
マーティンは体を入れ替えると、ダニーのペニスを口に含んで熱心に舌を這わせた。
亀頭に重点的に吸いつくとダニーが微かに呻く。肩に置かれている手にも力がこもってきた。
壁にもたれたままうっとりと目を閉じているのがたまらない。ダニーの表情や喘ぎ声に興奮してくる。
「マーティン、もうやめっ・ああっ出てまう!」
「出してもいいよ。ダニーのが飲みたいから」
マーティンが何度か口で扱くと、ダニーはあっけなく射精した。
「はぁっはぁっ・・オレ、今日めっちゃ早い・・・」
マーティンは腰に腕を回して抱きつくと、精液をじっくり味わってから飲み込んだ。ダニーの味がする。
ダニーは恥ずかしそうにマーティンの髪をくしゃっとしながら苦笑した。
ダニーはマーティンを立たせると抱きしめて耳を甘噛みした。
くすぐったがるのがかわいくて、息を吹きかけたり首筋をそっと舐める。
背中のくぼみに手を回してやさしく撫であげながら、キスをくり返した。
じっとりと濡れたペニスがおなかにくっついている。
「入れたいか?」
「ん、入れてもいい?」
「ああ。お前のしたいようにしていいんやで」
ダニーはマーティンの手を引いてベッドルームにいった。
マーティンはダニーを仰向けにさせると、ローションを垂らしてゆっくり挿入した。
抱きしめたままやさしく腰を揺らすうちに、我慢できなくなってきた。
「うっ・くっ・・ああっ・っ・んぁっ・イキそうだ」
ダニーの肩を枕に押さえつけると何度も突き上げ、射精するとぐったりと倒れこんだ。
すごくドキドキしているのが伝わってくる。ダニーはそっと抱きしめると落ち着くまで背中を撫でてやった。
ようやく鼓動が落ち着いたマーティンは隣に寝転んだ。
ダニーはキスしたあと手をつないで、迷ったものの思い切って切り出した。
「さっきのアーロンとCJのことやけどな・・」
「ん?」
「オレもお前もカミングアウトはできひんで。それはお前もわかってるやろ?」
「・・うん」
「けどな、人前ではいちゃいちゃできんけど、帰ったらこうやってできるから。な?」
「そんなのわかってるよ。でも、ありがと」
マーティンが甘えてくっついてきた。おなかがぐーっと鳴り、慌てておなかを押さえているのが可笑しい。
「さ、ほな、シャワー浴びてメシにしよ。オレも腹減ったわ」
二人はベッドから出てシャワーを浴びにいった。
ダニーは聞き込みに出るとうそをつき、ギルとケンが勤める弁護士事務所を訪れた。
「ケン・ヤマギシをお願いします」
受付嬢にそう告げ、レザーソファーで待つ。
「アーチー、あちらの方」
受付嬢がダニーを指した。
「あ、ダニー、こっちへどうぞ」
応接室に案内される。
FBIのオフィスとは段違いに豪華な応接セットだった。
「なんでお前、アーチーなん?」
「CSIってドラマ見てます?」
「時々な」
「あれのラボ検査官の中国人に僕が似てるからって、ニックネームになっちゃって」
ケンは照れくさそうに笑った。
この微笑や、こいつが小悪魔なんや。
「それで今日はどうしたの?」
「お前、ニックと寝たやろ」
「ダニーには隠し事が出来ないね。うん、寝た。すごく良かった。
息子のアンドリューも一緒に3Pしたよ」
ケンは卑猥な笑いを浮かべた。
「お前なぁ、ギルとはどうすんねん」
「正直、もうダメかもって思ってる。ここの顧客の捜査も終了したし、次の弁護士事務所に移ろうかなって」
「はぁ?お前には血も涙もないんか?」
「だって、僕はしょせん潜入捜査官だよ。いちいち心を入れ込んでいたら身が持たないよ。
ダニーだって分かるでしょ」
ダニーはこのアルカイックスマイルの下に流れる冷たい血を、ぞっと感じ取った。
「まだNYにはおるつもりなんか」
「うん、ここは企業犯罪の宝庫だからね、事務所が変わったら連絡するよ」
「お前、それでニックとはどうするんや?」
「セックスがすごいし、セレブだし、しばらく付き合うかも」
「最低な、お前」
「何とでも言ってよ、ダニーはどうせ僕を抱いてくれないんだから」
二人の会話は終わった。
ダニーはなぜかケンの心の中の寂寥感を感じ取った。
なぜ、あいつはあそこまで無鉄砲なんやろか。過去に何かあった?
それにしても可愛そうなのはギルや。アランに言わにゃ。
ダニーは、デリでチキン・チーズパニーニを買って、オフィスに戻った。
マーティンが、デスクでチリハンバーガーを食べている最中だった。
「おかえり、収穫は?」
「なしや、俺も飯にするわ」
ダニーはコーヒーを注いできて、パニーニにかぶりついた。
二人がもぐもぐしていると、サマンサが呆れた声で「全くうちの男子ったら高校生みたい」と言い放って、席についた。
「サム、あの事件以来イライラがおさまらないんだよ」
マーティンが小声で言う。
「しゃあないやん」
ダニーはそれ以上言わなかった。サマンサの切なさが理解できるからだ。
自分に抱いてくれと懇願してきたサマンサを思い出した。
こんな時にボスがしゃんと支えてくれればなぁ。
ダニーはボスのオフィスに目をやった。
ダニーは定時にオフィスを出、アランの家に戻った。
アランも診療が終わったようで、ソファーでビールを飲んでいた。
「おかえり、ハニー。すまない、夕食の用意がないんだ」
「デリバリーでええやん」
ダニーは部屋着に着替えて、昼間、ケンと話した内容をかいつまんで伝えた。
「あいつは冷血な捜査官だな」
アランが言った。
「ギルが気の毒や」
「全くだ。もうケンは用なしと思っているんだろう」
「俺らどうする?」
「ギルは長年の友達だ。これから、ホームパーティーするのがやっかいになったがね、
ケンを呼ぶと問題が起こるだろうな」
デリバリーのピザが届いた。
二人はソアヴェ・クラシコを開けて、ピザにかぶりついた。
「アメリカのピザもなかなかやん」
「だが目の前で釜で焼いてくれるのが一番だな」
二人はピザを食べ終え、X−メン・ファイナル・ディシジョンのDVDを見た。
「あの天使みたいなミュータント、可愛かったな」
「お前、趣味なのか?」
「俺は、ジーンが一番ええ」
ダニーはそう言ったものの、女性とのセックスに不安を抱いていた。
一生、ゲイなのかも知れない自分が情けなく思えた。
「なあ、アラン、俺、女ともセックスできるかな」
アランは一瞬躊躇した。
女性の殺人グループに拉致されリンチを受けたダニーの心にどんな傷が残っているか想像できない。
「お前がよければ、試そうか?」
「ええの?」
「お前のためだ」
「俺、自分がこのままゲイになっちまうのか不安なんや」
「ゲイじゃ嫌なのか?」
ダニーは少し考えて答えた。
「・・神様は俺をバイにしてくださったんやから」
「わかったよ。考えてみよう」
「ありがと、アラン、愛してる。」
ダニーは、フォーシーズンズの客室にいた。
キングサイズのベッドをながめながら、シャンパンを飲んでいる。
ドアがノックされる音が聞こえる。開けると、レイチェルが立っていた。
「久しぶり、ダニー。元気そうだわ」
毛皮のコートを脱ぐと、イブニングドレスを着ていた。
「パーティーやったんか?」
「ええ、退屈な上院議員とね」
シャンパングラスを渡すと、レイチェルはぐいっと飲んだ。
「アランから話を聞いたわ。私もメディカルスクールの最終過程なの。今日は、あなたがやりたい事をすればいいわ」
「俺はただ、確かめたいだけやねん」
「そうよね、あなたにはアランがいるんだし。シャワー借りるわね」
レイチェルはバスルームに消えた。
ダニーは、自分が震えているのに気がついた。
ダンスは出来るのに、何でやねん!たかがセックスやないか!
レイチェルがバスローブを着て出てきた。
「あなたもシャワーしてね」「あぁ」
ダニーはシャワーもせず、ジャケットを脱いだだけの姿で、レイチェルを待っていた自分を間抜けだと思った。
バスルームで念入りに身体を洗う。
傷だらけのチンチン、レイチェル、嫌がらへんかな。
ダニーはさっと手でペニスをしごいたが、何の反応も起きなかった。
やば、おきてくれへんやん。
ダニーが焦れば焦るほどペニスはぐったりとうなだれたままだ。
「ダニー?どうかしたの?」
「何でもない!」
ダニーはバスローブを羽織ると、部屋に戻った。
ベッドの上では、レイチェルが黒のブラとパンティーの姿で横たわっていた。
「あなたが脱がせて」
ダニーは、バスローブを着たまま、レイチェルのランジェリーを脱がせた。
少しヒップが大きいが完璧に近いプロポーションだ。
「ふふ、やだ、あなたも脱いでよ」
ダニーはしぶしぶ脱いだ。レイチェルはダニーのペニスに一瞥を加えた。
「心配しないで。大丈夫だから」
レイチェルはダニーを膝で立たせると、うなだれたペニスを口に咥えながら、自分の乳房を愛撫した。
乳首が立っている。
「ねぇ、触って?」
ダニーの手を濡れたヴァギナに持っていく。
指を入れるとひくひく中が動いていた。
「ほら、あなたを待ってるでしょ」
「あぁ」
ダニーは自分の声が震えているのに驚いた。
レイチェルの口の中のペニスはぴくりとも動かない。
「今日はその日じゃないみたいね、ねぇ道具使ってみる?」
レイチェルは持ってきたダッフルバッグの中から、大型のディルドーを取り出した。
「わー、やめてくれ!」
ダニーは布団を頭からかぶって隠れた。
「どうしたの?」
「聞いてへんの?俺、それで拷問されたんや!」
レイチェルは、ディルドーをしまうと、ダニーの布団をはぎとり、膝の上にダニーの頭を乗せた。
「ごめんなさい、聞いてなかった、ダニー、大丈夫?」
「レイチェル、今日はその日やないようや、帰ってくれるか?」
「分かったわ、ダニー、本当にごめんなさい」
レイチェルはドレスと毛皮のコートを着て、ダッフルバッグを手に部屋から出て行った。
アラン!アラン!急いで携帯にかける。
「ダニー?どうだった?」
「アラン、すぐ来て欲しい」
ただならない雰囲気にアランは「分かった」とだけ答えると、すぐホテルに向かった。
「どうした?」ダニーはアランに抱きついた。
「俺、だめかも知れない。ぴくりとも反応しなかった。それに、ディルドーが・・」
「ディルドーがどうした?」
「レイチェルが出した瞬間、頭がカラッポになった」
「ああ、僕が話さなかったのが落ち度だ。お前のプライバシーだと思ったから」
「わかってる、なぁ、ここで、一緒に寝てくれへん?」
「そうしよう」
アランは、服を脱ぐと、ダニーの傍らに身を寄せた。
「アランの身体、ええ匂いや」
「もう話すな、眠りなさい。そうだ睡眠薬を持ってきたよ」
「うん」
ダニーは、シャンパンで薬を飲み下した。しばらくすると寝息を立て始めた。
アランは天井を睨んでいた。
自分の落ち度だ。この子のトラウマを逆に深くしてしまった。
アランはダニーの髪の毛にふれ、頭をなぜながら、身体を引き寄せた。
神様、どうか神様の御技でこの子をお救いください。
アランは、しばらく眠れなかった。
ダニーは浮かない顔をしていた。
マーティンが心配して声をかける。
「お腹でも壊したの?」
「あほ、そりゃお前や」
「いつでも話してね。相談に乗るから」
マーティンは自分の席に戻った。
ゲイのあいつに話しても喜ぶだけや。
ダニーは気分転換にコーヒーコーナーに行った。
するとボスとサマンサが深刻そうに話している。
ダニーの顔を見てはっとする二人。
「あ、失礼。コーヒー、飲みたいんで」
ダニーは席に戻った。
あっちも大変そうや。
ダニーはマーティンとランチに出かけた。
温泉卵入りのシーザーズサラダにクラムチャウダーを頼んだ。
「食欲ないんだね」
マーティンは相変わらず特大チリバーガーとフライドポテトだ。
「昨日飲みすぎや」
「そうか」
マーティンは納得したようだった。
こいつが単純でよかったわ。
「もうすぐクリスマスだね?」
「お前、高価なプレゼントは買うなよ」
「分かったよ」
マーティンは少しふくれた。
食べ終わり、通りを歩いていると、向こうからニックとケンが歩いてきた。
親しそうに話している。
マーティンは気がついていない。
ダニーは急にマーティンの腕を取り、通りを渡った。
車にクラクションを鳴らされる。
「ど、どうしたの?」
「渡りたくなっただけや」
「危ないなぁもう」
マーティンは手を振り払うと、ぷんぷん前を歩いていく。
よかったわ、気がつかれなかった。あいつらほんまにつきあいよるのか?
ダニーは、ニックと話しをしなければならないと思った。
オフィスの廊下で、ニックに電話をかける。
「はい、ホロウェイの電話です」ケンが出た。
「お前、何してる?」
「ダニー?ふふふ、秘密だよ。ニックならシャワー浴びてる」
「お前には用はないわ、ホロウェイに俺に電話かけるように言うてくれ」
「かけるか分からないよ」
「それでも伝えろよ」
「うん、わかった、じゃあね!」
あいつら、火遊びか?
ダニーは、マーティンが傷つくのが見たくなかった。
定時が終わっても電話がない。
ダニーは諦めて、ニックのステューディオに出かけた。
年若い青年が出てくる。
「あんた誰?」
「俺はテイラー、お前こそ誰や?」
「アンドリュー。ニックの新しい恋人?」
「あほ!ニックはどこや?」
「今寝てる」
「入るで」
「ご勝手に」
つかつかとメゾネットのベッドルームに上がる。
ブランケットをはぐと、ニックが全裸で寝ていた。
「おい、ニック、起きろ!」
「ぅぅん?誰だよ?うそだろ、テイラーかよ?」
「俺で悪かったな。話しがある」
「待ってくれよ、服着るから下で待ってろ」
下に降りるとアンドリューがビールを飲んでいた。
「お前、ID見せ」
「言ってな」
「口の減らないガキやな」
「あんたこそ訛り強すぎるぜ」
ニックがTシャツにジーンズで降りてきた。
「アンドリュー、お前、あっちの部屋に行ってろ」
「わかったよ」素直に聞くのでダニーは驚いた。
「あいつがお前の息子か?」
「ああ、で用件は何だよ」
「お前、ケンと寝てるだろ、付き合うんか?」
「俺の勝手だろ」
「それがそうでもないんやな、マーティンをどうする?」
「マーティンは特別な存在だよ、あいつには汚れがない。俺の天使だ」
「じゃあ、大切にしろよ」
「ケンの誘惑に耐えられる男がいると思うか?」
ダニーは否定出来なかった。
「お前とも寝たって言ってたぜ」
「マーティンには言うな」
「それじゃイーヴンだな。多分、俺はケンに飽きる。マーティンとは違うから」
その言葉にもダニーは腹が立った。
「マーティンが大切なら、なんで大事にしない?」
「俺の性分なんだよ、悪かったな。とにかくこの話しは終わりだ。マーティンにはお互いに秘密、これでいいだろ」
ダニーはしぶしぶ承知した。
「それじゃ、帰るわ」
「お疲れさん、お前って本当にマーティンのおやじみたいな」
「何とでも言え」
ダニーは、ミート・パッキング・エリアから数ブロック歩いてやっとタクシーを拾った。
身体が冷え切っている。
早く家に帰って、バスに入りたい。
「アラン、俺。これから帰る」
ダニーは携帯をポケットにしまうと、アップタウンに向かった。
ダニーはケンと寝てしまった過去を、これほど後悔してことはなかった。
ニックにも上手を取れず、すごすご引き下がってきた自分が情けない。
これでマーティンが守れるのか。
ダニーは自問した。仕事の後、いたたまれずにブルーバーに寄った。
エリックが「なんか落ち込んでますね」と言って、ピンチョスの盛り合わせを持ってきた。
野菜やチーズやグリルした肉が串にささっている。
「ありがとな」カクテルを2杯ほど飲んで、家に戻ると、バーニーズのジョージが来ていた。
「あ、テイラー様、おかえりなさいませ」
「うん?何やのん?」
「今日はクリスマスツリーのお届けです」
アランは配送係にサインをしていた。
8フィートもあろうかとういう巨大なもみの木だ。
「すげー!」
「お二人のお住まいは素敵ですね。まさかダコタアパートの隣りとは思いませんでした。それではこれで」
ジョージはダニーにウィンクをすると、配送係を引き連れて帰っていった。
「アラン、ツリー買ったんか?」
「あぁ、お前と過ごす初めてのクリスマスだろう。FAOシュワルツで飾り物を買おうな」
「うん、飾り物かぁ」
ダニーは酒を飲んでいない父親が近くの植木屋からツリーをひきずって家まで持って帰ってきたのを思い出していた。
「懐かしいな」
「そうか?毎年やろうな」
「うん」
ダニーは部屋着に着替えて、ツリーを見上げていた。
「今日は久しぶりにミートローフにしたよ」
「ありがと、アラン」
二人は、アンディーブサラダとミートローフにマッシュドポテトにコッポラ・ロッソを合わせてディナーにした。
「サムがな、新しいコートが似合うって」
「それはよかったな。紺のマフラーにもよく合うよ」
「ありがと」
食事の後、ダニーが後片付けをすませ、久しぶりにスタンウェイを弾いた。
思い出のCOLDPLAYの曲だ。アランと暮らし始めて俺の生活は一変した。
マーティンに責められても仕方ない。
でもこの幸せはとっておきたいんや。
アランが書斎から出てきた。明日はTV出演の日だ。
「この間のアルマーニでいいだろうか?」
「もちろんや、アランは何着ても決まるから」
「おだててもご褒美はないぞ」
「キスは?」
アランはダニーの唇に軽くキスをした。
二人はゆっくり湯船につかり、ベッドに移動した。
セックスの回数は減っている。
それでも、肌のぬくもりが近くに感じられるほど安心できる事はない。
ダニーはすぐに寝息を立て始めた。
アランは医療雑誌をテーブルに置いて、ベッドサイドランプを消した。
休日、ダニーはアランに断って、マーティンの買い物に付き合った。
バーニーズ・ニューヨークに連れて行く。
ジョージがうやうやしく二人を迎えた。
「コンシェルジェのジョージ、何でも揃えてくれるで」
「初めまして。ジョージです。お名前は?」
「マーティン・フィッツジェラルドです」
「同じ職場やから、気をてらったスーツはなしな。あと俺とお揃いもやめてくれ」
「かしこまりました。フィッツジェラルド様は体格がよくていらっしゃいますので、
ジル・サンダーかラルフ・ローレンでしょうか?」
WASPのマーティンは、どうしてもヨーロピアンよりアメリカンが似合ってしまう。
結局ラルフ・ローレンのコレクションラインから2着スーツとシャツを買った。
二人でバーニーズのカフェでランチを取る。
「ダニー、ありがと。コンシェルジェって便利だね」
「あぁ、あいつはよく仕事が出来るわ」
ダニーは自分が誘われた事は口にしなかった。
無駄な心配はさせたくない。
「これからあいつに電話しとくだけで、揃えといてくれるから楽やで」
「そうなんだ」
「今日はこれからどうする?」
マーティンがもじもじしている。
「何や?」
「エドに誘われて食事の約束してる」
「ええやん、行って来」
「ありがと、ダニー」
「言うな」
二人は店の前で別れた。
時間をもてあましたダニーは、ブルーバーに寄りこんだ。
すると、ジョージがカウンターで一人で飲んでいる。
「おい、ジョージ、早いな?」
「あ、ダニー、今日は早引けです」
エリックがちらっと二人を見た。
「テキーラ頼むわ」
「はい」
ホットナッチョスと一緒にテキーラが目の前に並ぶ。
「あのバーテンダーさんってダニーに気がありますね」
「そんなん、気のせいちゃう?」
「今日はがっかりしました」
「何で?」
「やっぱりダニーってWASPが好きなんだなって」
「そんなんないで。あいつ俺の同僚やもん」
「でも彼はそう思ってないですよ」
鋭い観察眼だ。
「やっぱり黒人はだめなの?」
「お前、俺を誘ってるんか?」
「はい、前からずっと」
「俺にはアランがいてるから、無理や」
「やっぱりそうなのか。でも僕、諦められません。ダニーが好きだ」
モデルのイケメンからこんなまっすぐな告白を受けるなんて思ってもいなかったダニーは面を食らった。
「ごめんな、今は無理やねん」
「分かりました、残念だな、すごく楽しいと思うよ、僕と寝たら」
ジョージはウィンクをして、エリックにチェックをお願いした。
「それじゃ、また」
「またな」
ジョージが去った後、エリックが寄ってきた。
「随分口説かれてましたね」
「お前、聞いてたんか?」
「雰囲気ですよ、彼はすごく本気ぽかった」
「あほぬかせ。俺もそろそろ帰るわ」
「はい」
エリックはチェックをしに奥に引っ込んだ。
ダニーは、久しぶりに真摯な告白を聞いて、心を動かされていた。
ジョージか。
エリックに50ドル札を渡して、ダニーはバーからタクシー乗り場に向かった。
先に目を覚ましたマーティンは、ダニーの体に擦り寄った。
ダニーは眠っていても無意識に抱きしめてくれる。いつだってそうだ。
目覚まし時計が鳴り響き、ダニーが手探りでアラームを止めた。
時計についてるLEGOをバラバラにしてしまい、いつものように悪態をついている。
「おはよう、ダニー。僕が直すからいいよ」
「こんなもん外すかほかしてまえ。いっつもややこしいねん!」
ダニーはうぅーんと伸びをすると、また目を閉じようとする。
「あーだめだめ、今日はどこかに行こうって話したじゃない」
マーティンはダニーを揺すって起こした。
「寒い・・ベッドから出るの嫌や。今日は寝よう」
「やだよ!ねー、ダニー、ダニーってば!」
「しーっ、よしよしってしたるからじっとしとき」
ダニーはマーティンの体を抱き寄せるとぎゅっと抱きしめた。
マーティンはおとなしくよしよしされていたが、ダニーが再び眠ってしまうと強引に体を揺すった。
「んー、起きてる、起きてるから・・」
そう言いながらも目は閉じたままで、ただ手探りで体を撫でているだけだ。
マーティンはベッドから出ると布団もブランケットも剥ぎ取った。
「うわっ寒っ!何すんねん、あほっ!風邪引くやろ!」
「もう起きる時間なの!早く起きてよ」
マーティンはダニーのパジャマも脱がしにかかった。
「わかった、起きる。起きるからやめてくれ」
ダニーは体を起こすとあくびをして目を擦った。眠くて瞼が重い。
ぐずぐずしているとマーティンが膝に乗っかってきた。
「・・この前ロックフェラーセンターのツリーの前で約束したじゃない」
泣きそうな声にはっとして目を開けると、マーティンがうなだれていた。
「そうやったな、ごめん。約束やんな」
ダニーはほっぺを両手を包み込むとそっとキスした。
はにかんでいるのを見ているとそのまま押し倒したくなる。
我慢できず、キスしながらパジャマのボタンを外そうとすると、マーティンが慌てて手を掴んだ。
「ん?」
「だめだよ、今セックスしたらまた眠くなっちゃう」
「ちゃうちゃう、着替えさせようとしてただけや。お前はエロいなー」
ダニーはデコピンを数発お見舞いしてごまかした。
「・・だって、キスしながら脱がそうとするんだもん。ダニーがエッチな脱がせ方するからだよ」
「そんなん言い訳や、エロフィッツィー」
真っ赤な顔のマーティンをからかいながら、ダニーはところかまわずキスをした。
セントラルパークをぶらぶらと散歩がてらに横切り、リンカーン・プラザ・シネマでディパーテッドを見た。
膝にかけたコートの下でこっそりと手をつなぐ。
ダニーはインファナルアフェアのほうがおもしろいと思った。
横目でマーティンを見ると退屈そうにしている
―なんや、こいつもか・・・
ダニーがくくっと笑ったので、怪訝そうな顔をしている。
「何?」
「何もない」
ダニーはコートの下の手を愛撫するように擦りながら、何度かあくびを堪えた。
ダニーは映画が終わると、エアーポップコーンを頼んだ。
「ねえ、まさかもう一度見るんじゃないだろうね?」
「ちゃうちゃう、これ買うて帰ってアパートでインファナルアフェア見よう。なんかレオのは物足りなんだ」
「それはいいけどさ、もう帰るの?」
「特に行きたいとこもないやろ?帰りにフェアウェイで買物して帰ろう。お前、何食べたい?」
「う〜ん・・じゃあさ、ペスカトーレ作ってくれる?あとスペアリブも食べたい」
「ええで、決まりや」
二人は出来たてのポップコーンを受け取ると、映画館を出てフェアウェイへと歩き出した。
ダニーが仕事を終えて家に戻ると、ケンが来ていた。
「お、何やねん、お前」
「今日はご挨拶。僕、今度、マッコーリー&サンズに勤めることになったんで」
「あの大手かいな?」
「うん、大手なんだけど、おやじさんと3人の息子さんが中心になってて、
アットホームなんですよ。ギルのところは四角四面だったから」
ダニーは部屋着に着替えて、ソファーに腰掛けた。
ケンが膝をくっつけてくる。ダニーはしっしっと手で払った。
「ケチ!」
「ギルとは連絡取ってるのか?」
アランが尋ねた。
「電話してるんだけど、出てくれません。仕方ないですよね」
「お前、素性明かしてギルに真相話せば?」
「そんな命取りですよ。出来ないよ」
「潜入捜査官の宿命やね」
「僕の選んだ道だから」
アランが「そうだ、今日は多めに食事を作ったんだ。食べていかないか?」と提案した。
「本当?すごく嬉しいな!」
アランはソーセージとアイスバインとキャベツのドイツ鍋を用意していた。
にしんの酢漬けとレタスサラダが前菜だ。
3人はドイツの辛口白ワインを開けて、表家業の当たり障りのない話をした。
本当の仕事の話はご法度だからだ。
「お前、クリスマスは日本に帰らへんの?」
「こんな僕、両親に歓迎されないから」
「何でだ?」アランが尋ねる。
「中学の時、ゲイって分かって、正直に話したんですよね。それから親子関係が一変しました」
「そうなんや」
「学費もアルバイトで稼いで、アメリカに来たんです。想像出来ます?
日本には女性じゃなくて、男性が女性客を接待するクラブがあるんですよ。そこでバイトしてました」
「お前が女性を接待?」
「うん、毎晩、鳥肌たてながらね。だからアメリカが僕にとっては故郷みたいなものなんです」
珍しくケンが自分の過去を話した。
ダニーは、こいつも苦労したんやなと感心した。
「何か飲みすぎて話しすぎちゃった。ご馳走様でした」
ケンは新しい名刺を二人に渡すと、帰っていった。
「あの子も根は悪い子じゃないんだな」
アランも感じ入ったようだ。
「でも、ギルが心配だ。あいつ、離婚してからの初めての真剣な恋愛じゃなかったかな」
「ギルが気の毒やね」
「今度、食事にでも誘うよ。お前と一緒だと刺激するから、二人で行くけどいいかな?」
「もちろん、二人の仲やんか」
「トムも一緒でいいかい?」
「親友やもんな」
「理解してくれて助かるよ、お前は優しいな」
アランはダニーの額にキスをした。
早速、翌日にアランはギルとトムとのディナーをセッティングした。
内心、ギルのためとはいえトムがいるのが気に入らない。
ダニーはまた仕事の後、ブルーバーに寄りこんだ。
カウンターでドライマティーニを3杯立て続けに飲んでいると、
肩をぽんと叩かれた。
「ダニー、今日も一人ですか?」
ジョージだった。
「お前も一人?」
「うん、クリスマス前はストレス溜まるから、毎日来ちゃってて」
「そや、お前さえよければ、一緒に食事せいへん?」
「え?いいの?こんなに嬉しいことありませんよ」
「お前、寿司好きか?」
「ええ、でも一人じゃあまり食べられませんけど」
「じゃ、リトルジャパン行こ」
エリックは去って行く二人の後姿を寂しそうに追っていた。
ダニーはアランと行く「花寿司」に寄った。カウンターが空いている。
「へい、いらっしゃい!」
板前の元気な声が聞こえる。
「何て言ってるの?」
「ウェルカムや、お前日本酒いけるか?」
「うん、あんまり飲んだことないけど、ダニーが好きなら」
「オヤジサン、レイシュ、クダサイ」
アランに習った日本語を駆使するダニー。ジョージは感動している。
「ダニーってすごいね」
「お前、何でも食える?」
「うわー。試してみます」
「オヤジサン、オマカセ、二人クダサイ」
「へい、まいど!」
店主はダニーの相方が慣れていないのを察して、鯛、トロ、ハマチ、ホタテ、イクラ、サーモン、神戸牛にアボカドの巻物を用意してくれた。
いちいち驚きながら食べるジョージが可愛らしく、知らないうちに冷酒を4本も空けてしまった。
「オヤジサン、カンジョー、オネガイシマス」
「ダニーって本当にすごいや。僕、すごく感動してる」
ジョージは店内にも関わらずダニーの頬にキスをした。
「おい!」
「お礼です、ありがとう!すごく美味しかった」
店を出た二人。北風が寒い。
「ねぇ、ダニー、僕の家、ここから近いんです。ちょっと寄りませんか?」
冷酒で酩酊しているダニーは「そやな、よろうか。水飲ませてくれへんか?」と言って、
とろんとして、ジョージにもたれかかった。
ジョージはそんなダニーを抱えて、タクシーを拾った。
目を覚ますとダニーはYシャツにネクタイをはずした姿でベッドに寝ていた。
黒が基調のシンプルなベッドルームだ。
ベッドサイドにはジョージと両親らしき二人の男女の写真が飾ってあった。
ダニーが起き上がって、ベッドルームを出ると、ジョージがお湯を沸かしていた。
「これ韓国人のモデルの友達から教えてもらったゆず茶です。二日酔いにいいって」
柑橘系の酸っぱさと蜂蜜の甘さが絶妙のコンビネーションで、美味しかった。
「俺、どれ位寝てた?」
「2時間くらい」
「迷惑かけてすまん」
「いいです。ダニーだもん。嬉しかった。僕、寝てるダニーにキスしちゃいました。ごめんなさい。でもその他は何もしてないですよ」
「悪い奴なら何でも出来たのにな」
「ふふ、悪い奴じゃありませんから。好きな人に嫌われたくないし」
ダニーはジョージの素直さが心に染み入った。
部屋も黒が基調で、無駄なものがない整然としたインテリアだった。
大学の卒業証明書や陸上競技をしている写真が壁に飾られている。
不思議とモデルの写真はない。ジョージの人柄がしのばれる。
「家まで送りますよ」
「そんな、タクシーで帰るからええよ」
「送らせてよ、それ位はいいでしょ?」
ダニーはソファーにかけてあるジャケットとネクタイを持った。
ジョージの車はシヴォレーのインパラだ。
「ねぇ、ダニー。また一緒にご飯食べてもらえませんか?」
「ああ、ええよ」
ダニーはジョージの率直な態度が好きになりかけていた。
「今度は僕のおごりで」
「ああ、頼むで」
アパートの前に着く。
「ありがとな、ジョージ、助かったわ」
「ゆず茶、欲しかったら今度持ってきますね」
「ああ、ありがとう」
「それじゃおやすみなさい」
ジョージはさっとダニーの唇にキスをするとドアのロックをはずした。
「僕、今日、すごく幸せです」
ダニーはとっさに何も言えなかった。
インパラが去っていくのを見送っていると、モスグリーンのジャガーが帰ってきた。
アランや!
車が駐車場に入って、エントランスホールで一緒になる。
「お前も今帰りか?遅かったな?」
「今日はマーティンと飯食ったから」
「そうか、寒いな、早く家に入ろう」
「うん」
ダニーは、これからアランに嘘を重ねることになるだろうと漠然と考えていた。
二人でバブルバスにつかり、身体の芯まで温まる。
「風呂は最高やね」
「あぁ疲れが取れるしな」
ベッドルームに移動した。ダニーがおずおず尋ねる。
「ギルどうしてた?」
「あんな落ち込んだ奴を見たことないよ。法廷じゃ負けなしのこわもての弁護士なのにな、ケンと別れたのがよっぽど効いているらしい」
「気の毒やな、もう復縁できへんやろか?」
「ライバル事務所に移籍したし、仕事上も無理なんじゃないか?ギルには早く誰かを紹介してやらないとな」
「トムは?」
「あいつは、相変わらずのスウィンガーだから適当にやってるようだ」
「そう・・」
「何だ、まだ心配か?」
「ううん、そんなことない」
「ばかだな、早く寝なさい」
「うん、おやすみ」
ダニーは、頭からジョージの事が振り払えないでいた。
こんなんじゃだめや!俺にはアランもマーティンもいてるのに!
ダニーはアランに背中を向けて、静かに目を閉じた。
アパートに帰って買ってきた食材を取り出していると、ダニーがくそっと呟いた。
「どうかしたの?」
「ロメインレタス買うの忘れた。シーザーサラダにいるけど、もう外に出たくないんや」
「なんだ、そんなことか。僕が買ってくるよ」
「そやけどお前にロメインレタスなんかわかるん?」
「んー、たぶん名前が書いてあるし、わかんなかったら店で聞くから大丈夫」
「そうか?ほな頼もうかな」
「ん、行ってくるね」
マーティンはニットキャップをかぶり直しながら出て行った。
イーライズの野菜売り場でロメインレタスを探していると、アーロンが一人で買物をしていた。
やっぱりフェアウェイまで行けばよかったと思いながら、気づかないふりをしてロメインレタスを探す。
「やあ、マーティン。昨日はどうも」
「・・・・・・」
「この前はごめん、殴られても当然だよ。僕が悪かった。ずっと謝ろうと思ってたんだ」
マーティンは無視したまま買物をし続けた。ごまかすために適当に野菜をカートに放り込む。
「ねえ、僕ら最初からやり直せないかな?ジムで意地悪したことも、無理やり寝たことも全て僕が悪かった。すまない」
あまりにも真剣に謝るので、周りの人の好奇な視線に晒されている。マーティンは仕方なくほんの少しだけ頷いた。
「よかった!君が許してくれるとは思ってなかったから」
アーロンは心底嬉しそうに微笑んだ。
「勘違いするな。人が見てるから許したふりをしただけだ。許すもんか!」
「それでもいいよ、普通に話してくれて嬉しいんだ。最初からやり直そう。僕はアーロン、アーロン・マクフィー。建築士で専門は高層建築だ」
アーロンは勝手に自己紹介すると、にこやかに手を差し出した。
―何だよ、こいつ・・・
マーティンは忌々しい思いで握手を交わした。形だけ握手してさっと手を引っ込める。
「もういいだろ!」
マーティンは踵を返すとレジに向かった。アーロンが後からついてくる。
手早くチェックを済ませ、紙袋を抱えてアパートまで走って帰った。
「おう、おかえり。わかったか?」
「ん、見つけた。たぶんだけど・・」
ダニーの顔を見るとほっとする。さっきのアーロンとのやりとりを今は言いたくない。
マーティンは紙袋を渡すとダニーにくっついた。中身をチェックしているダニーの背中越しに自分も中を覗き込む。
「それ、ロメインレタスで合ってるかな?」
「ちゃんと合うてる。ビーツ?なんでこんなもん買うてきたん?」
「さあ?なんかおいしそうだったから・・」
「へ?ようわからんやっちゃな。まあええわ、明日はボルシチにしよ。ん?うわっ、チコリや!オレが嫌いなん知ってるやろ」
ダニーは顔をしかめると、チコリをテーブルの一番端においた。
「もうええから、向こうにおり。待ってる間コープスブライドでも見とけ」
「それよりこのまま見ててもいい?」
「ええけどその手は離して。抱きつかれたままやったら何もできひん」
「あ、ごめん」
マーティンは首筋にキスしてから離れた。料理するダニーをじっと観察する。
「あんまり見んなや、恥ずかしいやん」
「そう言えばさ、スチューもお母さんが料理してるとき、いつもキッチンで見ながらいろんな話するんだって。
子供のときから変わらないって、この前の感謝祭の時にスチューのお母さんが言ってたよ」
「きしょっ!あいつはマザコンやからな」
ダニーは想像してけたけた笑った。ジェニファーにも教えたい。
「ねえ、なんでそんなににやけてんのさ?」
マーティンは不思議そうにダニーの顔を自分のほうに向けさせた。
「え?トロイのこと考えたら可笑しくて。37やのに子供っぽいなと思っただけや。これ頼むわ」
ダニーはほっぺに軽くキスすると卵の殻を剥くのを手伝わせた。
マーティンは嬉しそうにお手伝いしている。いつのまにか話題が変わっていて、今はクリスマスの話に夢中だ。
―マーティンがジェンのこと知ったらキレるやろなぁ・・・どうしよ、オレ・・・
ダニーはパスタの茹で加減を見ながら考え込んだ。だが、どうなるわけでもない。
どうすることもできないもどかしさに疲れを感じていた。
ダニーはオフィスでぽーっとジョージの事を考えていた。
マーティンが目の前でボールペンを振っている。
「ダニー、どうかしたの?」
「ちょっと考え事や」
「ふぅん、僕ならいつでも聞くからね」
他の男が気にかかってるなんて言えへんわ!
ダニーは苦笑した。
「捜査会議?」
マーティンからメールが来る。
「了解。場所設定頼む。寿司以外」
二人は、リトルジャパンにオープンした日本のヌードルショップを訪れた。
「いらっしゃいませ!」
黒のシックなTシャツとジーンズがユニフォームの若者たちがきびきび働いている。
カウンター席とテーブル席があり、日本人の駐在員がカウンターを占拠していた。
「流行ってるな」
「今週のザ・ニューヨーカーに載ってたもん」
「さよか」
二人はメニューがよく分からないので、とりあえずトッピングが全部乗っている「スペシャル」と
ライスを頼んだ。
「お代わりの麺もご用意してますし、ライスはお代わり自由です」
たどたどしい英語でウェイターが説明する。
結局、ダニーはお代わりのライスを2杯、麺を1枚頼んだ。
マーティンはライスを4杯、麺を5枚頼んだ。
「あー美味しかったね!」
「お前、ほんまよう食うな」
「だって、すごく美味しくない?チャイニーズとまた違った味でさ」
「あの半熟卵がうまかったわ」「ダニーもああいう風にゆでられる?」
「あぁ、簡単やねん」「今度作ってよ」「ええで」
「ねぇ、ダニー、どっかで飲もうよ」「ああ、ええな」
ダニーの悪い予感が命中した。
マーティンはブルーバーを目指していた。
エリックがちらっと見て、会釈した。
カウンターにはジョージがいる。
「あ、ダニー、ジョージだよ、ほらバーニーズの!」
マーティンが目ざとく見つけて、声をかけている。
あちゃー困ったわ。
ダニーはポーカーフェイスで通すことに決めた。
「今日はお二人でお食事の帰りですか?」
ジョージは姿勢をくずさない。有難い態度だ。
「うん、日本のヌードルショップに行ったんだ」
「あ、「一風堂」でしょう?今週のザ・ニューヨーカーに載ってた」
「うん、すごく美味しかったよ」
「こいつなんかライス4杯、お代わりの麺を5枚も頼んだんやで」
「フィッツジェラルド様は健啖家でおられるんですね」
「嫌だな、仕事が終わったら、マーティンでいいよ、僕もジョージって呼んでいい?」
「ええ喜んで、マーティン」
ジョージは照れくさそうにマーティンと呼んだ。
「ジョージってほんまはプロのモデルなんやで」
ダニーは当たり障りない会話に持っていこうとしていた。
「へぇ、どんな?」
「メンズ・ファッションです。幸い上司が理解があるから、ニューヨーク・コレクションの時は休みをくれるんですよ」
「じゃあ、花道を歩くんだ」
マーティンは興味を引かれたようだ。
「ええ、でもああいうモデルは使い捨てなんですよね」
「何になりたいの?」
「大学の時はこれでもオリンピック候補の陸上選手だったんです。でもアキレス腱を切って、もうだめ。
あと身体を使える職業ってモデルくらいしか思い浮かばなかったから。
将来はどうだろう、誰か僕にふさわしい人に出会って、幸せに暮らすことかな」
ジョージはダニーに微笑みを送った。
「それってさ、仕事と別の幸せだよね。僕もそう思うよ。
ピケットフェンスに囲まれた家で、ゴールデンレトリバーを飼うのが僕の夢」
ダニーは大笑いした。
「お前、やけに現実的やな!」
「でも、僕の恋愛は半分片思いだから」
やば!話がまずい方向や。
ダニーは焦った。
「聞いていいですか?マーティンはゲイ?」
「え、あ、うん、そうだよ」
マーティンは顔を赤くして答えた。
「僕もなんです。今NYでいい相手を探すのって大変ですよね。お互いがんばりましょう」
「そうだね」
二人は固く握手した。
エリックがピンチョスの盛り合わせを持ってきてくれた。
3人はピンチョスを摘みながら、カヴァを2本空けた。
「それじゃ、朝、ジムに行くので失礼します」
ジョージは二人に手を振りながら、帰っていった。
「いい人だね、ジョージって。すごく謙虚」
「あぁ、ええ奴やな」
「なんだか、僕、友達になれそうだ」
マーティンは喜んでいた。
ダニーは困ったなと思いながら、ピンチョスを口に咥えた。
サマンサがお菓子のジャーを持ってやってきた。
「寄付をお願い」
「何の?」
「クリスマスツリー」
ダニーは20ドルを入れた。
「おありがとうございます!」
サムは皆のところを回って寄付を強制していた。
もうすぐクリスマスやねんな。
ダニーはため息をついた。
ミーティングが召集される。
「皆、分かっていると思うが、クリスマスとニューイヤーは失踪者が多い。
多くは孤独な一人暮らしだ。手がかりが少ないから心してかかれ」
「はい」「了解!」
俺もアランと出会う前は、いつもひとりバーで飲んだくれてクリスマスを過ごし、
娼婦を買って虚しい性欲だけ満たして家に戻るの繰り返しだった。
そんな生活をダニーは思い出していた。
それだけNYで孤独でいることは耐え難いのだ。
「ねぇ、ダニー、アランのところでパーティーやるの?」
「知らんわ、聞いてへんけど」
「エドが企画してるんだよね、来てくれないかなぁ」
「ふうん、アランに聞いてみるわ」
「ありがと」
あいつがエドと一緒となると、ニックは誘われへんな。
じゃあケンとの仲もばれないか。
まるでピンボールゲームのような話だ。
とにかくアランに聞いてみよう。
家に戻ってエドのパーティーの話をすると、「ニューヨーク・ロンサム・ハンサム・クラブで集まる約束だからなぁ」と言った。
そうだ、ダニーがアランの生活に加わるずっと前からの習慣なのだ。
「じゃ、断るわ」
「すまない」
「ええねん」
翌日、マーティンに話しをすると、今度はアランのパーティーに出たいという。
「エドの方はええんか?」
「知らない人多そうだからちょっとびびってたんだよ、ダニーの友達なら何度か会ってるから」
マーティンは頑固だ。ダニーは困ったことになったと思った。
家に戻って、アランに話す。
アランは笑いながら「ダニー、マーティンはお前と一緒にいたいんだよ」と言った。
「俺、アランと一緒やん」
「それでも、近くにいたいんだ。彼が誰を連れてきてもいい、招いてやろうじゃないか」
「わかったわ、ありがと、アラン」
翌日、マーティンに伝えると、顔が輝いた。
「ありがとう、ダニー、アランによろしくね」
「あぁ」
午後は二人で聞き込みだ。
今のところホームレス2名が行方不明になっている。
ダニーは、ホームレスが根城にしている廃墟の地下にマーティンを連れて行った。
すえた匂いが鼻につく。マーティンはすぐに咳き込み始めた。
「お前、皆の前じゃ絶対咳き込むなよ」
「わかったよ、ごほん、ごほん!」
ダニーは一人ずつに優しく話しかけていく。
マーティンはただダニーを追いかけるのが精一杯だった。
口をあけると匂いが肺まで入ってしまう。
結局、一人は根城を他のビルに変えると言って荷物をまとめて出て行った事がわかり、
もう一人は全く情報がなかった。
全財産といってもショッピングカート一杯に載せられた荷物だが、放置されている。
一人の方は、新しい根城で安全を確保した。
「お前、皆にもっとよう挨拶してから引っ越せ」
「急だったんでな」
「何が急や、ほらこれで食事でも買え」
ダニーは20ドル札を渡した。
「これでクリスマスが過ごせるよ、ありがとう、ダンナ」
「ええねん」
マーティンはダニーの優しさに感動していた。
彼は人を区別しない。差別もしない。僕はだめだ。
「今日はもう帰ろう、匂いがついちまったな」
「うん、でも、少し慣れてきた」
「もっと慣れ」
「わかった」
オフィスに戻ると、サムが「二人ともゴミ箱から出てきたみたいな匂い」と言って、書類であおいだ。
「ほら、消臭剤かけておいで」ヴィヴィアンがファブリーズを渡してくれる。
二人はロッカーに行って、全身にファブリーズを浴びた。
「これでも無理そうやな」
「仕方ないね」
ボスが一人を発見したご褒美に早退を許してくれた。
二人はタクシーに同乗した。
「ねぇ、今日、どっかに食べに行こうよ」
アランはTV出演の効果で、超多忙だ。
「ええな、今日はヌードルショップはなしな」
「うん」二人は、一旦着替えに戻り、ハイデルベルグで待ち合わせた。
ソーセージの盛り合わせとアイスバインのポトフとルッコラのサラダを頼む。
ドイツの辛口ワインで乾杯する。
「良かったね、一人見つかって」
「あんなガセの事件も増えるからな、クリスマスは忙しいで」
「僕、少しは役にたった?」
マーティンは尋ねた。
正直、ダニー一人で解決できた事件だが「ああ、役に立ったで、ありがとな」とダニーは答えた。
マーティンは嬉しそうにソーセージを口に咥えた。
「ダニィ、今日、家に寄ってよ」
「ああ?ええけど?」
マーティンはルンルンとタクシーを拾った。
事件解決が、マーティンを高揚させていた。
久しぶりのマーティンの家だ。
中に入るなり、マーティンがダニーを壁に押し付けて、キスをした。
舌で唇をこじあけ、歯茎を舐める。
手で、ダニーのペニスを触るとすでに半分立っていた。
「ねぇ、今日はまだ早いじゃん、ダニー」
「もう、ややこしい、早くベッドに連れてけ!」
マーティンはダニーを連れて、ベッドルームに入るとベッドにドンと押し倒した。
マーティンが脱いでいる間、ダニーも服を脱いだ。
トランクスも脱いで全裸になる。
「ダニーの身体、綺麗だよ」
「こんなチンチンでもか?」
「そうだよ、ダニーのなめらかな胸が好きだ。腹も好きだ。そしてその下も」
マーティンは身体を重ねた。
胸から腹を通ってペニスを口に咥えた。
「さっき食べたソーセージより太いね」
「あほ!」
マーティンの舌技で、ダニーのペニスはすっかり立ち上がった。
先走りの液でてらてら光っている。
「ダニーのここ、いやらしいよ」
「あほ、はよ、用意せい!」
マーティンは、ミントローションを自分のアヌスに塗りこんだ。
ダニーが指を入れて、さらに中を屠る。
「あぁぁん、刺激しないで、出ちゃう」
「早すぎやで」
「もっと優しくしてよ」
ダニーは指を二本に増やして中をさらに屠った。
「あぁ、もう入れて!」
「待ってな」
ダニーは自分の硬度を確認すると、マーティンの脚を大きく開くと腰を進めた。
ダニーは入れて少し動いたが、即座に射精してしまった。
「あぁ、ダニーのが中でドクドク動いてる」
「ごめんな、俺、早くて」
「いいんだよ」
ダニーはマーティンの腹につきそうなペニスを口に咥えると、上下に動かしてイカせた。
ごくりとザーメンを呑む音が響く。
「ありがと、ダニー。飲んでくれて」
「当たり前やろ。マーティン、俺な、まだリハビリ期間中やねん、だから・・」
「もう言わないで。分かってるから。僕と寝てくれてありがとう」
「何言うてるんや」
「だって、アランが・・」
「アランは関係ない。お前と俺との関係や」
マーティンは目からみるみるうちに涙があふれた。
「大好きだよ、ダニー」
「俺もや、マーティン、もう泣くな」
ダニーは、シャワーを浴びて着替えた。
「俺、そろそろ帰るわ」
「うん、分かった」
「お前を愛してるんやからな」
「うん、分かってる」
マーティンは帰るダニーの後姿を見送った。
今は決して自分のものにならない男の背中をずっと見つめていた。
ベッドに入ってしばらくしても、ダニーがあまりにも寒い寒いと言うので、マーティンは足をふくらはぎに挟んだ。
「お前の体ってめっちゃぬくいなぁ。最高や」
ダニーはそう言うとマーティンにしがみついた。
ダニーの足はすごく冷たい。体が冷たさにゾクッとする。
「ダニーのバカ。夏の間は熱いからって僕のこと邪魔にしたくせに」
「それはしゃあないやろ、ほんまに蒸し風呂やったんやから。冬はいつでも歓迎や」
ダニーは悪びれることもなく、マーティンのぬくもりに身を委ねている。
マーティンはすぐそこにあるおでこに唇を押し当てた。
ベッドで抱き合っていると部屋の電話が鳴り響いた。
二人ともはっとして顔を見合わせる。
「こんな時間に誰だろ?」
「わからん。けど出たほうがよさそうや」
マーティンはなんとなく不安を覚えながら電話に出た。
「はい」
「マーティン、私だ」
「・・父さん」
マーティンは緊張して全身が強張った。ダニーも心配そうにこっちを見ている。
「元気か?クリスマス休暇のことだが、必ず帰ってきなさい」
「え・・あ・・」
「去年はお前に会えなくて、私も母さんも寂しい思いをした。母さんも会いたがっている」
「あの、ごめんなさい・・僕、友達と過ごします」
「何を言っているんだ。そんなことは許さん。お前はDCで家族と過ごす、いいな?」
マーティンが再度断ろうとする間もなく電話は切られていた。
「副長官は帰って来いって言うてはったんやろ?どうするんや?」
ダニーはマーティンの肩に手を置いた。
「僕は絶対帰らない。ダニーと一緒にいたいんだもの。ダニーだってそうだよね?」
マーティンは泣きそうな顔をしてしがみついてくる。
ダニーはオレもやと言いながら強く抱きしめた。
「・・僕の人生なのにちっとも僕のものにならない・・いつだって何一つ思い通りにならないんだ」
マーティンはとうとう泣き出した。熱い涙がパジャマ越しに伝わってくる。
ダニーは慰めになる言葉を思いつくことが出来ず、黙ってただ抱きしめるしかない。
しばらくして今度はダニーの携帯が鳴り響いた。
―副長官かもしれん。去年もこれでケンカになったっけ・・・
舌打ちしながら着信表示を見ると、案の定副長官だった。
「副長官からや。出るから泣くな。ええか、出るで」
ダニーは深呼吸して携帯に出た。
「はい、テイラーです」
「テイラー捜査官、ヴィクター・フィッツジェラルドだが、こんな時間にすまない」
「副長官、お久しぶりです。お元気ですか?」
「ああ、ありがとう。折り入って君に頼みたいことがあるんだが」
「はい、何でしょう。僕に出来ることならなんなりとお申し付けください」
「君は頼もしいな。実は去年も君に頼んだが、今年こそマーティンをDCまで連れてきてほしいんだよ」
「それは・・申し訳ありませんが、僕も予定が入っておりまして。ご期待には添えかねます。
それに、フィッツジェラルド捜査官にも予定があるのではないでしょうか?」
「ああ、友達と過ごすと言っているが、どんな友達だかわかったもんじゃない。あの子は反発ばかりだ。
DCでは君にもうちに滞在してもらいたいと思ってるんだ。なんとかならないかね?」
マーティンの思いつめたような視線が痛い。ダニーは思わず目をそらした。
「なんとか説得はしてみますけど・・・」
正直気乗りはしない、はっきり断りたい。だが、そんなことをすれば自分の心証が悪くなる。マーティンの信頼も・・・
「どうでしょう、どうしてもDCに戻られない場合、僕がこちらでフィッツジェラルド捜査官と過ごすというのは。
NYなら僕の予定もなんとかなりますし、それなら副長官もご安心なさるのでは?もちろん逐一報告もいたします」
ダニーの提案に副長官はしばし沈黙した。身を乗り出したマーティンが携帯に耳をくっつけて聞いている。
「わかった、それなら君にあの子のお目付け役を頼もう。しかしだ、ギリギリまで説得はしてくれたまえ」
「はい、了解しました。フィッツジェラルド捜査官がDCに戻る気になってくれるといいですね」
「まったくだ。それじゃ頼んだよ。また連絡する」
「はい、失礼します。おやすみなさい」
ダニーが電話を切った途端、マーティンが飛びついてきた。
「ダニーには呆れちゃうよ。どうやったらそんなにでまかせばっか言えるのさ?」
「あほ、お前のためにオレも必死やったんや。これで一緒に過ごせるで」
「それも堂々と過ごせるんだよね。サイコーだよ」
二人はにんまりすると拳をこつんと合わせ、抱き合ってキスをした。
「ダニー、愛してる」
マーティンはぴとっとくっつくと、うっとりしながら頭をもたせかけている。
「なぁマーティン、人生が思い通りにならんのはお前だけとちゃう。誰でもそうや。覚えとけ」
「・・ん、わかった」
「よし、ほな寝よう。オレの足ぬくめろ。・・そや、オレも愛してる」
照れくさいダニーはわざとらしく布団をかぶり、手をつないで目を閉じた。
アランは、この頃、誰かにつけられているような気がしていた。
TV番組の収録を終え、ジャガーで帰る間からアパートまで、
いつも同じ車が後ろにいるような気がする。
まさかな。
アランは一笑して、午後からの診療に備えた。
夕方、歩きでイーライズまで買い物に出かけた。
今日はダニーが大好きなチキンロールを食べさせてやろう。
そんな事を思いながら歩いていると、女性が「あの、すみません」と声をかけてきた。
「車がエンコしてしまって動かないんですけど、助けていただけませんか?」
「お安い御用ですよ」
路地を随分奥まで歩いて、路肩に止まっているフォードに近寄る。
ボンネットをあけて、エンジンを見ていると、急に後ろから布が口にあてられた。
「何・・・」アランは気を失った。
ダニーは定時に仕事を終えて、家に戻った。
電気がついていない。
「アラン、ただいま!」
どこ行ったんやろ、買い物かな?
心配になり携帯に電話をかけた。電源が入っていない。
不思議だ。往診はしていないはずなのに。
9時になり、いよいよ心配になった。ボスに連絡をする。
「ボス、ドクター・ショアがいないんす」
「どこかで飲んでるとかそんなんじゃないのか?」
「それはありません」
「なぜ、そんなに確証がある?」
一緒に暮らしているとは決して言えない。
「食事する約束してましたが、すっぽかされました。そんな事、アランに限ってありませんわ」
「分かった、事件にしよう」
ダニーは自分が何も食べていないのにやっと気がついた。
ピザのデリバリーを頼んだが、砂を噛んでいるようだった。
モルグ、病院に連絡をするが、該当するケースはなかった。
アラン、どこへ行ったんや!
アランは、くらくらする頭で目を覚ました。
古臭い天井が見える。手足を動かそうとするが動かない。
「起きたのね、ドクター・ハート」
中年のさえない女性が椅子に腰掛けていた。
「ここはどこだ?」
「これからあなたの家になるところ」
「それは面白い見解だ」
アランは出来るだけ落ち着いて話そうと試みた。
「僕をどうするつもりなのか?」
「私だけのドクター・ハートになってもらうの」
統合失調症か?
「それは困ったな、僕には他にも患者が沢山いる」
「みんな、私に比べたら、とるに足らない患者よ。私のドクター」
女が近寄り、アランの頬に手を当てた。
アランは鳥肌がたった。
冷たい手だ。
「僕の拘束を解いてくれないかな?」
「それは、まだ無理。お腹がすいたのね?私が食べさせてあげる。チキンリゾットを作ったのよ」
「食欲はないな」
「あら、薬のせいかしら?」
「すまないが友人に連絡をさせてもらえないか?」
「それもだめ。あなたは私のドクターですもの」
女は部屋から出て行った。
首が動かせる範囲で見回すと、古い家具が少しだけ置いてあるベッドルームだった。
隣りにピローが一つ置いてあるのが恐ろしい。
あの女と寝るのか?
ダニー、早く僕を探してくれ!!
翌日、ダニーはアランの患者リストのファイルをオフィスに持ち込んだ。
誰も怪しい雰囲気はない。
「ねぇ、アランってTVも出てるじゃない?ビデオ借りようよ」
マーティンが思いついた。
TV局からビデオの山が届いた。
サマンサとダニーでビデオを鑑賞する。
3時間後「ねぇ、ダニー、この女性、いつも最前列にいる」とサマンサが言った。
「あぁ?ほんまや」
画像をズームしてコピーを取る。
番組のディレクターに面談すると、「あぁ、カレン・ジョンソンですね。ドクター・ハートおたくですよ」と言った。
「いつも収録に現れるので?」
「はい。最前列でないと暴れるのでいつも定位置に」
ダニーはピンときた。
こいつや。この女や。
アランは隣りでいびきをかいて寝る女のお陰で一睡も出来なかった。
排泄も尿瓶でさせられ、自由が全くない。
何よりセックスを強要されるのがたまらない屈辱だった。
ダニー、何してる!早く来てくれ!
「ダニー、見つけたわ。カレン・ジョンソン。統合失調症で市立病院に通ってる」
サマンサがダニーに声をかけた。
「住所は?」
ダニーは、マーティンを連れて、社会保障番号に記載されている住所を訪れた。
ブルックリンの古びたアパートだ。
「マーティン、俺、突入するから、バックアップ頼むで」
「わかった」
二人に緊張が走る。ダニーがドアを蹴破る。
カレンがびっくりして立ち上がった。
「FBI!アランを返せ!」
カレンは泣き出し、急に暴れだした。
マーティンがタックルする。
奥のベッドルームに入ると、アランがベッドにくくりつけられ、横たわっていた。
「ダニー!やっと来たね!」
「ごめん、道が混んでたんや」
二人は思わずキスをした。
マーティンは他の捜査官にカレンを渡して、ベッドルームに入った。
二人が熱いキスを交わしている。マーティンは思わず目を背けた。
「あ、あのー、犯人拘束終了」
はっとして離れる二人。
ダニーはアランの拘束を取りはずし、洋服を探して、着せるのを手伝った。
「さ、家に帰ろう」
ダニーがアランの肩に手をかける。
マーティンは、そんな二人の様子をただ見つめるだけだった。
アランは念のため市立病院に搬送された。
トムが心配そうに入り口で待っている。
「一体どうしたんだ?」
「3日間、頭のおかしい女に拘束されてた」
「お前!ナンだって?」
トムがダニーに殴りかかりそうになる。
看護師二人がトムを止めた。
「とにかく診てくれ」
「診察1号開けてくれ!」
トムがバターンとドアを閉めた。
待合室で待つこと1時間、トムが出てきた。
「栄養失調以外は特に異常は見られない。外傷もない。だが、PTSDが気になるな」
「これから取り調べでアランに何したか全部吐かせてやる」
「ダニー、目が血走っているぞ、落ち着け。軽症なので入院させられないから、家に送ってくれないか?」
「分かったわ」
ダニーは足元がふらついているアランに肩を貸し、タクシーに乗った。
部屋に入るなり、ダニーはアランを抱き締めた。
「俺、俺、アランに何かあったら、死のうと思ってた」
「ばかだな、僕はお前が来るのを信じていたよ」
「とにかくベッドで休み」
「ああ、そうさせてもらおうか」
「俺、今日、休みとる」
「ありがとう」
アランはすぐに眠りに入った。
ボスに電話をすると、事情を察したかのように「ドクター・ショアの面倒をよく見ろよ」とだけ言った。
アランは夜8時までよく眠った。ダニーもソファーで転寝をしていた。
この3日間、ろくに眠っていなかったのだ。
アランが冷蔵庫を開ける音で、ダニーは目を覚ました。
「あ、俺がやるのに」
「もう大丈夫だよ。今日はポモドーロにでも出かけるか?」
「出かけられる?」
「ああ、あの古びた天井以外の風景を楽しみたいよ」
二人はリストランテ・ポモドーロに出かけた。
野菜とシコいわしのマリネに、ターキーのミンチのペンネ、バーニャカウダとチーズリゾットを頼んだ。
シチリア産の辛口ワインを飲む。アランは驚くほど沢山食べた。
「欠食児童みたいだろう」
自分でもおかしいのかアランが笑った。
アランの笑顔や!
ダニーは嬉しくなった。
「アラン、気分はどや?」
「あぁ、自分を分析する事になるとは思っていなかったが、さほど悪くない」
「よかった!」
二人は、ふらふら歩きながら帰った。
「バスに入ろうな」
ダニーがバスにお湯を張る。
ベルガモットのバスバブルを入れて、アランを呼ぶ。
「俺が全部洗ったる」
「あぁ、頼む。あの女を忘れさせてくれ」
「うん」
身体を洗っていると、アランのペニスが立ち上がった。
ダニーのはすでに屹立している。
「なぁ、アラン、大丈夫?」
「あぁ、お前が愛しいよ」
二人は泡のついた体のままベッドにダイブした。
69の体勢でお互いのペニスを吸い咥える。先走りの液の味がする。
「ダニー、僕に入れてくれないか?」
「え?わかった」
ダニーはアランを後ろ向きにし、膝を立たせて、腰を進めた。
ぐいっと中に入る。
「あぁ、熱いよ、お前のが」
「アランの中もめちゃ熱い」
「さぁ、動いてくれ、僕をイカしてくれ」
「わかった」
ダニーは力の限り腰をグラインドさせた。
俺、早漏じゃない!俺、早漏じゃない!
ダニーは祈りながら、さらに前後に腰を動かした。
アランが悩ましい声を上げた。
「もう、ダメや、イクで」
「あぁ、僕ももう出る」
二人は同時に射精した。アランの背中にダニーは身体を重ねた。
「すごくよかったよ、ハニー」
「俺のアラン、大好きや、愛してる」
「僕もだよ、ハニー、お前を心から愛している」
二人は、向かい合うと、激しいキスを交わした。
身体に腕を巻き付け合い、二人は目を閉じた。
ダニーは気になっていた。
この前、マーティンとセックスした時、あまりに早く射精してしまった事だ。
こんなんじゃ、俺も相手も満足なエッチができへんわ。抗うつ剤の副作用かな?
ダニーはPCで必死になって調べていた。
「随分熱心じゃない?何の調査?」
サマンサに覗かれそうになり、ダニーは画面をFBIのウォールペーパーに戻した。
「秘密の調査や」
「ケチ!また一人で手柄立てようとしてるんじゃないの?」
サムは、ダニーに対してライバル心が強い。
一度は寝た仲とはいえ、もう過去の事だ。
「そんなんやあらへん、チームワークが俺の信条やねん」
ダニーは見られなくて良かったと、胸をほっと撫で下ろした。
マーティンと一緒にいつものカフェでランチを取る。
マーティンはパスタ・カルボナーラをぱくぱく食べているが、
ダニーは鴨のパストラミサラダに、クラムチャウダーだった。
「何か元気ないね」
マーティンが尋ねた。
「お前さ、俺がずっと早漏だったらどないする?」
「あ、こないだの事、気にしてるんだ。大丈夫だよ、それに僕、気にしないよ」
「お前、満足できるんか?」
「だってダニーと一緒って事だもん。嬉しいばっかりだよ」
マーティンはあまり気にしていないようだった。
そんなもんなんか?俺ならかなり嫌やのにな。
へんなマーティン。
ダニーは訝りながら、鴨を口に入れた。
午後になり、ケンがオフィスに尋ねてきた。応接室に通す。
「今度は何や?」
「僕さ、マッコーリー&サンズに移ったでしょ。それがさ、息子三人のうち二人がゲイだったんだよ」
「それで?」
「初日からすごい誘われちゃってさ、ついに寝ちゃった」
「はぁ?」
「一応選んだんだよ、仕事が出来る方のお兄さんをね、そしたらさ、弟がいじわるするようになっちゃって」
「あほやな!仕方ないやん、兄貴の方にくっついとけ」
「やっぱりそうだよね。でも国際法の方は弟の担当なんだよ」
「そりゃ、判断の誤りやな」
「でも仕事は兄貴が出来るんだ」
「そうしたら、お前は国際関係が専門なんやから、兄貴にピロートークで何とかしてもらえ」
「それしかないよね」
「お前、今日、そんな用で、来たんか?」
「あとね、クリスマスパーティーなんだけど・・行ったらだめ?」
「お前!ようそんな事言えるな、ギルが来るんやで!今回はダメ、ムリ、絶対にダメ!」
「そうか・・わかったよ、じゃ一人寂しく過ごすとするか」
「嘘つけ、どうせ、ニックかその兄貴とやらと会うんやろ」
ケンは舌をぺろっと出して「まぁね!ありがと、参考になった。ダニーも仕事がんばって」と
しゃーしゃーと言って、応接室を出た。
例によって、サマンサとマーティンに手を振って去っていった。
全くあいつ何やっとんねん!
ダニーはまるで問題児の弟の面倒を見ているような気持ちになっていた。
あいつがICPOの敏腕捜査官なんて信じられへんわ。
マーティンは、ケンがダニーに頻繁に会いに来るのが気に入らなかった。
「捜査会議?」メールが飛ぶ。
「承諾@場所指定依頼」ダニーはしぶしぶ返信した。
二人は、「ローザ・メキシカーノ」に行った。
テカテビールで乾杯しながら、マーティンが尋ねた。
「ねぇ、どうしてケンはダニーのところにちょくちょく来るの?」
「あぁ?あいつもマイノリティーやんか。色々悩みがあんねん」
「ふうん、それだけ?」
「何や、疑ってんのか?」
「だってケン、魅力的だもん」
「あほ、あいつは弟みたいなもんや。それにNYで一人は可愛そうやろ?」
「あれ、ギルって人と付き合ってるんじゃないの?」
しまった!ダニーはつい口をすべらせてしまった。
「あいつら、別れたんや。今、ケンはマッコーリー&サンズにおるわ」
「あの大手事務所の?すごいなぁ」
マーティンは素直に感心している。
「ケンには近ずくなよ、あいつ可燃物みたいに危険や」
「僕には関係ないから」
マーティンは、ケンに興味を持っていないらしい。
未遂事件もあったのに、それも過去の事のようだ。
しかし、ケンがニックと関係がある事だけは隠さねば。ダニーは強く思った。
ブルーコーントルティーヤのエンチラーダスを食べ終わり、
マーティンの大好きなファフィータの時間だ。
今日はミックスグリルにして海老も加えた。
じゅーじゅー鉄板で焼けるのを、マーティンは子供のように待っている。
「お前、ファフィータほんまに好きな?」
「うん、大学行くまで食べた事なかったから」
「はぁ?」「家ってさ、伝統的な料理しか食べさせてもらえなかったんだよ」
移民の料理はご法度ってこっちゃな。
ダニーは悲しく思った。
ファフィータは、ダニーが、父親に給料が入った時だけ連れて行ってもらえたファミレスで覚えた料理だ。
二人の溝はこんなところにもあるんやな。
ダニーは苦笑した。
「何、ダニー?」「あ?もう、そっちのビーフが焼けたで」
「ありがと」
マーティンは、さっそくビーフにがっついた。
二人は食事を終え、タクシーに乗った。
「今日はまっすぐ帰るわ」
「そうだね」
会話が途切れた。マーティンがダニーの手をぎゅっと握る。
ダニーも握り返した。
アッパーイーストに着き、マーティンが先に降りた。
ダニーは携帯で「今から帰る」とアランに連絡し、セントラルパークに入った。
廊下を歩いていたダニーは、オフィスのガラス越しにボスに手招きされた。
「ボス、オレに何か?」
「ああ。ヴィクターから電話があってな、お前のことをべた褒めしてたぞ」
「それはどうも」
「マーティンのお目付け役を買って出たそうだな。あの高慢ちきを出し抜くとはなかなかだ」
「いや、そんなんじゃなくて、オレはただあいつと過ごそうと・・」
「まあいい、マーティンを連れてDCに一緒に行って来い。お前の株がさらに上がるぞ」
ボスはメガネの奥からねちっこい目で見上げてにやっとした。
「そんなわけにはいかないっすよ。あいつが嫌がってるし」
「今後の出世の足がかりになるかもしれないのにか?」
「ええ、オレはあいつを売ってまで副長官に取り入る気はないっす」
「いい心掛けだな、ダニー」
ボスはくくっと嫌らしく笑いながら今のを聞いたかと言った。
「・・ボス、大丈夫なので?」
「もちろんだ。おい、ちょっとデスクの下を覗いてみろ」
ボスが言うなりデスクの下がガタンと大きな音を立てた。
ダニーは不審に思いながら、デスクの下を覗き込んだ。
そこには決まりの悪そうなマーティンがいた。
「マーティン!!お前!なんでこんな・・ちょっ、それ!」
マーティンの口元があふれた唾液でベタベタしているのが目に入った。
ダニーに見られたマーティンは怯えたように慌てて顔を背ける。
ボスのパンツから突き出たペニスも、唾液か先走りかで濡れて黒光りしていた。
「ボス!こんなとこでなんちゅうことをさせるんですか!誰かに見つかったらどうするんです!」
「これか?いいだろう、ここで飼ってるんだ」
「は?飼う?」
「そうだ、デスクの下でフェラ犬を飼ってるんだよ。かわいいだろ?すごく上手いぞ、いい子だ」
ボスはマーティンの頭をよしよしとなでた。マーティンが嫌そうに顔をしかめる。
ダニーはあまりのことに呆然と突っ立ったままだ。
「お前はもう行っていい。こっちはまだイッてないがな」
ボスはにやにやしながらダニーに出て行くようしっしと手を振った。
ダニーは誰かが入ってくるんじゃないかと気が気でない。その場から動けずにいた。
「ほら、突っ立ってないでさっさと帰れ。それとも私が果てる様子が見たいのか?」
「いえ・・失礼します」
ダニーはのろのろとオフィスを出た。振り返ると、ボスは書類を見ながら眉間に皺を寄せている。
射精の瞬間が近いに違いない。今にもボスの荒い息遣いが聞こえてきそうで嫌悪感を覚えた。
自分には何もしてやれないのが悔しい。
今夜はそばについていてやりたくて、ジェニファーとの約束をキャンセルした。
デスクで待っているとマーティンが浮かない顔をして戻ってきた。
「ごめんね、変なとこ見せちゃって・・」
「いや、オレはええけどお前は大丈夫か?」
「ん、うがいしてきたからへーきだよ」
マーティンは無理に笑顔を作った。ぎこちない笑いが余計に痛々しい。
「飲みに行くか?」
「いい、今日は悪酔いしそうだから」
「そうか。そや、タルト買うて帰ろか?」
「ん、いいね」
「決まり!」
ダニーは軽く肩をたたくとブリーフケースを手にして立ち上がった。
二人がパヤードに行くと、店の前に犬を連れたアーロンがいた。
ころころしたゴールデンレトリバーの扱いに困っているようだ。二人は顔を見合わせた。
「よう、アーロン。その犬、どうしたん?」
「ダニー!CJから預かったんだけど、こいつがいるとどこにも入れないんだよ」
「そらペットはあかんわな」
ダニーに撫でられた犬はしっぽをちぎれんばかりに振った。かなり人懐っこい。
「スタウトのヤツ、ダニーのことが好きになったみたいだ」
「お前スタウトって言うんか。よしよし、お前デブちん犬やなぁ」
マーティンもつられてそっと犬を撫でた。手のひらをぺろぺろ舐められてくすぐったい。
「アーロン、オレが見とくから買物行ってき。マーティン、オレはアップルタルトな」
「えー、僕ももっと触りたいよ」
「じゃあ僕が行ってくる間、二人で見ててくれる?ダニーのはわかったから、マーティンは何を買えばいい?」
「・・僕はベリータルトとレモンスフレ」
「わかった。それじゃ頼むね」
アーロンはコートを軽くはたくと店に入っていった。
「こいつ、すっげーかわいいね。いいな、僕もほしい」
「あかん、オレもほしくなってきた」
二人が犬と遊んでいるとアーロンが戻ってきた。
「ありがとう、助かったよ。これ、君たちの分」
ダニーがお金を渡そうとしたが、アーロンは受け取らない。途中まで一緒に歩いて別れた。
485 :
fusianasan:2006/12/19(火) 08:00:11
つまらんな
翌日ダニーが出勤すると、チーム全員が「お疲れ」と言ってくれた。
「??」
サマンサが笑って、「トイレで鏡見てきなさいよ」と言った。
急いで確認する。目の下のくまがくっきり浮き上がっている。
ひげを剃るのも忘れていた。
あちゃー、何て言い訳しよ。
ダニーは、ソーホーのポールスミスでマーティンのためにネクタイを選び、
ラッピングしてもらっている間に自分のワイシャツを買った。
いつもの顔なじみの店員がロディアのメモパッドをくれ、
一足早いクリスマスプレゼントに気をよくしながら店を後にする。
外に出ると風の冷たさに足がすくむ。早く帰りたいが次はジェニファーのプレゼントだ。
あちこち見て回ったものの、いいものが見つからない。
出直そうと決めた矢先、ふと入ったジュエリーショップでシンプルなピアスを見つけた。
プラチナに小さなダイヤモンドが洗練されていて気に入ったが、かなりの予算オーバーだ。
ダニーは少し迷ったもののそれを買った。
車に戻ろうとしたダニーの足は、ペットショップの前で止まった。
引き寄せられるように店内に入ると、真っ先にゴールデンレトリバーの子犬と目が合った。
しっぽをくるくる振っているのがかわいい。穏やかな目をしている。
CJの犬と遊んでから、マーティンはすっかり犬に夢中だ。
この犬をプレゼントすればマーティンが喜ぶに違いない。それに本当は自分も欲しい。
―でも、あいつ一人で面倒よう見んやろしなぁ、オレんちで飼うのは無理やし・・
あかんわ、そうなったら一緒に住もうとかって言いそうや
そんなことばかり頭に浮かび、なかなか踏ん切りがつかない。
書き手2さんどうぞ!
すみません、先に書きます。
ケージの前で考え込んでいると、愛想の良い店員が寄ってきた。
「お子様にプレゼントですか?」
子持ちに見られたのに少し驚きながら「ええ、まあ」とだけ答える。
店員はケージから犬を出すと抱かせてくれた。子犬はダニーの腕の中で無邪気に甘えている。
「どうです、人懐っこいでしょう?お子様もきっと喜ばれますよ」
「かわいいけど面倒見るのがなぁ・・」
ダニーは犬をやさしく撫でると、また来るわと言い残し店を出た。
アパートに帰るとマーティンが退屈そうにTVを見ていた。
「ダニィ、おかえりー」
いつものように抱きついてくる。ダニーもそっとハグした。
「ただいま。来るんやったら迎えに行ったのに」
「ううん、いいんだ。あっ、それもしかして僕の?」
目ざとく見つけたポールスミスの紙袋を覗き込もうとする。
「あかんて!まだ見たらあかん」
「ケチ!」
「あほ!ケチとちゃう、これは習慣や」
ダニーは口をとがらせるマーティンをかわすと、着替えるためにベッドルームへいった。
着替えを探すフリをしながら、クローゼットの奥にジェニファーへのプレゼントを隠す。
「プレゼントの隠し場所わかっちゃった」
ギクッとしながら振り向くと、マーティンがくすくす笑いをしながら立っていた。
「クリスマス前に開けたらやらへんからな」
「いいよ、わかんないように見ちゃうもんね」
「それまでにオレがちゃうとこに隠すわ。ここやないんかって探してもわからんとこにな」
ダニーはセーターを脱ぎ捨ててTシャツだけになると、マーティンをそっとベッドに押し倒した。
髪をくしゃくしゃにしながらキスをして舌をこじ入れる。
マーティンは腕をダニーの背中に回して抱きついた。
太腿に当たるマーティンのペニスが痛いぐらいに勃起している。
ダニーはキスをしたまま膝で足を割ったが、ふと動きを止めた。
「オレ、シャワー浴びてないで。汗くさいかもしれん」
「ダニィ、早くして。僕、我慢できないよ」
ダニーはマーティンの服を慌しく剥ぎ取ると自分も脱いだ。
首筋を愛撫しながらペニスを重ね合わせる。
執拗に愛撫されてぷっくりした乳首に舌を這わせながらアナルに指を入れた。
ローションを塗りたくって弄くりまわすと、中がひくひくと蠢いている。
我慢できなくなったダニーはペニスを押し当てて擦りつけた。
「やっ・ぁ・んっ!」
ダニーは奥まで挿入せずに浅い動きをくり返すだけだ。
「ダ・ダニィ・っぁ・こ、こんなのやだ・・」
マーティンはダニーの腰を掴むと、自分から引き寄せて奥まで入れた。
それでもダニーはするっと腰を引いてすぐに抜こうとする。
マーティンは体を入れ替えると、騎乗位で腰を揺らした。
「ダニー、すごくいいっ!出ちゃう」
「くっ・あぁっ・・マーティン!」
ダニーはマーティンの動きにたまらず喘いだ。果ててひくつく粘膜の絡みつきがたまらない。
「あかんっ、出る!んっあっああー」
射精したダニーは荒い息を吐きながら抱きしめた。
書き手1さん、どうぞ。
リロってなくてすみませんでした。
こちらこそ!久しぶりのニアミスですね!!
翌日ダニーが出勤すると、チーム全員が「お疲れ」と言ってくれた。
「??」サマンサが笑って、「トイレで鏡見てきなさいよ」と言った。
急いで確認する。
目の下のくまがくっきり浮き上がっている。
ひげを剃るのも忘れていた。
あちゃー、何て言い訳しよ。
トイレから出ると、ボスに呼ばれた。
「はい、ボス」
「ドクター・ショアは大丈夫か?」
「はい、栄養失調だけで外傷はないそうです」
「お前も良く寝ていないんだろう、もうよく眠れるな」
「はい」
「捜査もがんばってくれよ」
「了解っす」
ダニーはPCに向かって、報告書を書き始めた。
マーティンとサマンサの助けなしには解決出来なかった事件だ。
ダニーは心の中で二人にお礼を言った。
二人を誘ってランチに出る。
奮発して「デルアミコ」に出かけた。
マーティンはミートラザニア、サマンサは有機野菜のチーズリゾット、ダニーはサーモンのクリームパスタを選んだ。
デルアミコがサービスでデザートの盛り合わせを持ってきてくれる。
フレッシュフルーツのグラタンとチョコレートムースに、アイスクリームだ。
二人は満足そうに食べ終えた。
「ご馳走様、ダニー、それでアランは大丈夫?」
「幸い外傷なかったから」
「あの女、取調室でもアランの事しかしゃべらないのよ、狂信的な信者ってとこね。
特にセックス奴隷にしたくだりなんか・・・」
マーティンが咳払いをした。
「ねえ、アランさぁ、TV出るのやめたらどうかな?」
マーティンが進言した。
「そやね」
「ただでさえ、あのルックスですもんね、目立つわよ」
サマンサも同意する。
「本人に話してみるわ」
3人はオフィスに戻った。ダニーは報告書を書き終え、ボスに提出した。
「今日はもう帰っていいぞ」
「ええんすか?」
「少しお前も休め」
「ありがとうございます」
ダニーは、アランに栄養のあるものを食べさせようと、帰り道フェアウェイに寄って買い物をした。
家に合鍵で入ると静まり返っている。
ベッドルームを見るとアランが眠っていた。
規則的にブランケットが上下しているのを見て安心する。
ダニーは、特上の神戸ビーフをミキサーにかけ、ミンチにすると、
ホワイトアスパラガスとインゲンを茹で、四角いキャセロールに入れた。
ミートローフだ。
サラダはアランの好きなルッコラとアンディーブとロメインレタスにルビーグレープフルーツを合えた。
ブルーチーズをホイップしオリーブオイルと混ぜてドレッシンッグを作る。
念のため、鶏がらからスープストックを取った。
これでリゾットでも作ればいい。
ダニーも疲れを感じ、ソファーに横になった。
アランの安眠を妨げたくなかったからだ。
ピタピタ!頬を叩かれてダニーは目を覚ました。
アランが部屋着で笑っている。
「今日はおさぼりかい?」「早退!」
「いい匂いだ。ミートローフはいい状態だよ」
「あ、忘れてた!」
「ばかだな。でもお前も疲れてるんだもんな」
アランはダニーの額にキスをした。二人で自然に抱き合う。
「さぁ、ディナーにしようか」
アランは、スペインのリオハの赤ワインを開けた。
濃密でミートローフにぴったりだ。
「まだ足りなかったら、リゾットも作るけど」ダニーは尋ねた。
「もうお腹が一杯だよ、これじゃ、フォアグラ製造機になってしまう」
アランが笑った。
アランの笑顔、大好きや。目じりの小じわさえ愛おしい。
「何だい?」
「アランってほんまにイケメンやと思って。あ、そや、アランお願いがあるねんけど」
「何だい?」
「もうTV出演やめてくれない?」
「それは僕も考えていた事だ。今度の事件もあるし、患者の数が増えるばかりで医療の質が落ちる危惧が僕にもあってね」
「じゃあ、やめてくれるんやね」
「あぁ、来週ディレクターに話すよ」
「よかった・・」
ダニーの杞憂は一つ去った。
「次の懸案は、クリスマスパーティーだな」
「そやねえ」
「招待状の印刷が上がったから明日出そう」
「誰呼ぶん?」
「その日のお楽しみだ。安心しろ、ケンは呼ばないから」
「うん、それがええ」
「マーティンが誰を連れてくるのかが心配だな」
「うん、どうするやろね」
ダニーにとってもマーティンに聞きにくい話題だった。
しかし、もうすぐクリスマスだ。
>>485 さま
感想ありがとうございます。
せっかくの感想ですので、もう少し詳しく書いて頂くと、改善できるかも
しれません。これからはよろしくお願い致します。
真夜中、ダニーの携帯が鳴った。
事件か?ダニーもアランも目が覚める。
着信を見るとケン・ヤマギシとある。
「ケンや」
「何だろうな、こんな時間に?」アランも訝る。
「もしもし、不機嫌のテイラーやけど」
「ダニー?ねぇお願いだから今から家に来て、住所はね・・・」
事務所が変わったので社宅も変わっている。
「何や、用件言うてみ?」
「言えないよ、ねぇ、来てよ、お願い」
ケンのただならない様子を、アランに説明した。
「俺、ちょっと様子見てくるわ」
「あぁ、寒いから気をつけて」
「うん、わかった」
ダニーはTシャツの上にカシミアのセーターを着て、マスタングを走らせた。
住所は国連ビルのすぐ近くだ。
セキュリティーが出てくる。
「ダニー・テイラーやけど」
「ヤマギシ様は2401号です」
随分厳しいビルやなぁ。
ダニーは驚きながらエレベーターに乗った。
2401号をチャイムするとすぐにドアが開いた。
前のマンションよりさらに大きな部屋だ。
破格の条件で入社したのが見て取れる。
「ダニー!ありがとう!」
ケンにぎゅっと抱きつかれる。
酒の匂いぷんぷんがする。
「お前、飲んでるのか?」
「眠れないんだよ。付き合って」
二人はリビングのソファーで日本酒を飲んだ。
「これ、毎年、この時期になると家の親父が送ってくる奴。罪滅ぼしのつもりかな」
「ええやん、親父さんの気持ちが分かるやろ、一度日本に帰り」
「やだよ!」ケンはぐいっと八海山を飲んだ。
しばらく飲んだ後、急にケンが言った。
「ねぇ、ダニー、ポール・ゴメスって知ってる?」
「当たり前や。インターポールの伝説的な捜査官やないか。亡くなったのは確か3年前・・?」
「4年前だよ。ポールはね、僕の指導官で、恋人だったんだ」
ダニーは言葉を失った。
指名手配中のテロリストを追い詰めたが、返り討ちにあったと聞いている。
顔も分からないほど、身体中銃創だらけの壮絶な最期だったそうだ。
「お前・・」
「ダニーは、ポールと同じ匂いがするんだよ」
ポール・ゴメスはダニーと同じキューバ系と聞いている。
ケンは、ダニーの胸に鼻をあててくんくん嗅いだ。
「うげー」
「わー」
ケンが突然吐いたので、ダニーは立ち上がった。
セーターを脱いでTシャツだけになる。
「お前、まだ吐くか?」
「うん、ちょっと行ってくる」
ケンはトイレに立った。
ダニーはアランに電話し、様子を告げた。
「今日はケンと一緒にいてやれよ」
「ええの?」
「あいつがそんなこと、めったにないだろう。何かあったんだろう」
「わかった、じゃおやすみ」
ケンが戻ってきた。
まだ飲もうとするのを制し、温かいタオルを持ってきて、顔を拭いてやった。
「僕が仕事で失敗して酔って吐くと、ポールもそうしてくれた」
「そうか、面倒かけてたんやな。お前、もう遅いから今日は寝よ」
「うん、そうする」
珍しく素直だ。ベッドルームに入る。
キングサイズのベッドが置かれている。
「ベッドが大きすぎるんだよ!」
「わかったから」
ダニーはケンの服を脱がせた。パジャマがどこにあるか分からない。
ケンはトランクス一枚で寝転んだ。
ダニーも仕方なくゲロ臭いTシャツとパンツを脱いでトランクス一枚で隣りに横になった。
「ポール、ポールが恋しいよ!」
「分かったから」
ダニーはケンの背中をずっとさすっていた。
ケンが身体をぴったりとあわせてきた。
ペニスが勃起している。
「ねぇ、抱いて、ポールの代わりに抱いて!」
ダニーはこれはいつものケンの誘惑ではないと察知した。
トランクスを脱ぎ、ケンのトランクスを脱がす。
ケンがローションを引き出しから取り出し、自分に塗りたくった。
「早く、入ってきて」
ダニーは、ケンの脚を大きく開くと腰を進めた。
小さく狭く、中が熱く蠢いている。
「あぁ、ポールだ。動いて、ねぇ、動いて」
ダニーは前後に腰を動かし、グラインドさせた。
「うふん、あぁ、すごいや、ポール、ねぇ、ポール、僕を愛してる?」
ケンは意識が混濁しているようだ。
「あぁ、愛しているよ」
ダニーはそう言うと、スピードを上げ、ケンの中で果てた。
ケンのペニスも同時に蠢いて、射精した。
「ポール、僕は何があってもずっとポールを愛してる」
ケンはそれだけ言うと、ぐぅと寝息を立てて寝てしまった。
ダニーは、静かにベッドから出ると、シャワーを借り、Tシャツとジーンズを身につけた。
台所からゴミ袋を見つけ、汚物まみれのカシミアのセーターを入れ、もう一度ベッドルームに戻る。
ケンはすやすや眠っていた。
「おやすみ、ケン、いい夢を」
ダニーはケンの額に優しく唇をつけた。
ケンの真の孤独を知ってしまった。
こいつからも目が離せんようになっちまった。
ダニーはゴミ袋を持って、ケンのアパートから出て行った。
「・・ダニー、ちょっと話せる?」
コーヒーを飲みながら新聞を読んでいると、出勤してきたヴィヴィアンが表情を曇らせて立っていた。
「ええけど、何やの?」
「いいから」
ダニーはヴィヴィアンについて廊下に出た。
「あんた、この前の彼女とまだ付き合ってる?」
「うん、まあな。なんで?」
「そう・・言いにくいんだけどね、昨日、あの子が他の男とアン・テイラーで買物してるのを見かけたのよ。
こんなこと言いたくなかったけど、かなり親しそうだったから気になって」
「ごめんな、ヴィヴに心配させて。けど、しゃあないねん」
「それどういうこと?」
「その・・ジェンは結婚してるから」
ヴィヴィアンは呆れたようにダニーを見上げると、気をつけなさいと言い残し、腕をポンと叩いて席に戻っていった。
今すぐデスクに戻るのは気まずい。さっきのヴィヴィアンの視線が痛かった。
ダニーは廊下のベンチに座ると、ポケットの中のピアスの箱に触れた。
今夜これを渡すつもりだった。
早く渡したくて待ち遠しかったはずなのに、今はすっかり気後れしてしまっている。
夕方までにダニーはすっかり立ち直っていた。
マーティンにはジムに行くと嘘をついて、意気揚々とフルートへ向かう。
カウンターでスプマンテを飲みながら待っているとジェニファーが入ってきた。
「ごめんね、遅くなっちゃって」
「いや、オレも今来たとこや。何か食べる?」
「ううん、いい」
「え、あ、うん、そやな・・うん、そうしよ」
ダニーはぎこちなくなってしまい、二人は顔を見合わせるとふふっと笑った。
「ほな、とりあえず出よか」
ダニーはチェックを済ますと立ち上がった。
二人が出ようとすると、ドアのところでスチュワートに出くわした。
「テイラー!それにジェニファー?!!」
スチュワートは怪訝な顔でこっちを見ている。
「お前ら、もしかしてデートとか?」
「あほっ、そんなわけないやん。たまたまさっき会うただけや。なぁ、ジェニファー」
「ええ」
「ふーん、そうか」
スチュワートは疑いの眼差しでダニーを見据えた。
「トロイは疑いすぎや。そや、お前もFBIに転職すれば?」
ダニーはへらへら言いながらごまかしたが、自分でも疑いを完全に払拭するのは無理だと思った。
「オレ、急ぐからまたな。ジェニファーも気をつけて帰り」
ダニーは少しでも疑いを晴らすため、ジェニファーを置いて先にフルートから出た。
通りを歩いていると携帯が鳴った。ジェニファーからだ。
「ダニー、どこにいるの?」
「ステージ・デリの前や。大丈夫やったか?」
「なんとかね。すぐ行くから待ってて」
電話を切って通りで待っていると、ジェニファーのサーブが横に停まった。
ダニーは周囲を見回すと素早く乗り込んだ。
「トロイは?」
「しつこく聞かれたけど大丈夫だと思う」
「よかった。ごめんな、びっくりしたやろ」
ダニーはジェニファーの手をぎゅっと握った。ジェニファーも握り返してくる。
お互いに黙ったまま、手だけつないで言葉を探すうちにダニーのアパートに着いた。
「ねえ、ガレージに入れてくれないの?」
「え?」
ダニーはぼんやりしたままで、アパートに着いたことも気づいてなかった。
「今日はやめとこか。後でトロイが会いに来るような気する」
「え、ダニーはそれでいいの?」
「嫌やけど我慢する。オレ、いい子になったやろ?」
「ほんと、聞き分けがよくなっちゃって」
ジェニファーは可笑しそうにくすくす笑ったあと、ダニーの目をじっと見つめた。
「そんな目で見んなや、やっぱり一緒におりたくなるやん」
ダニーはジェニファーの手にキスした後、ポケットからピアスの箱を取り出してそっと手のひらに載せた。
「これ、クリスマスプレゼント」
「ありがとう。開けてもいい?」
「あかん、あとで開けて」
「今すぐ見たいのに・・」
「帰るまではあかんの!」
ダニーはジェニファーの頬に手を添えるとキスした。ほんの少しだけ舌を絡めて唇を離す。
やっぱりこのまま帰したくない。それでももう一度キスして車を降りた。
ダニーが降りた後、なぜかジェニファーも降りてきた。
「どうしたん?」
「私もプレゼントを用意してたから」
ジェニファーはトランクを開けると紙袋と箱を取り出した。
「はい、気に入ってもらえるといいけど」
「ありがとう。二つもくれるん?」
ダニーは早く中が見たくて開けようとしたが、ジェニファーに手を掴まれてしまった。
「ダニーだけずるい。私だって早く見たいんだから」
「わかった、それやったら部屋で一緒に開けよう」
二人はまた車に乗ると、地下ガレージに車を入れた。
部屋に戻った二人は、競争するようにラッピングをびりびりに破いた。
先に開けたジェニファーは、中のピアスを見て固まった。
「ダニー!すごく素敵だけどこんな高価なものもらえない」
「ええって、オレの気持ちやから。つけてみて」
ダニーはジェニファーがためらいがちにピアスをつけるのを眺めた。
とてもよく似合っている。何よりもジェニファーが喜んでいるのがうれしい。
ダニーも、もらったばかりのポールスミスのニットキャップとマフラーを巻いた。
「気に入った?」
「もちろん。オレが欲しがってたん、ようわかったなー」
「だって、ダニーったら雑誌に○なんかつけてるんだもの」
「あちゃー、見られてたんか!」
二人は笑いながらどちらともなくキスを交わして抱き合った。
もう一つのプレゼントのお手製ポップオーバーを食べて入ると、インターフォンが鳴った。
二人ともはっとして硬直する。
「オレはトロイやと思う」
「私も。どうしよう・・」
「どうもしない。開けへんだけや」
ダニーはジェニファーの耳をそっと甘噛みした。不安そうな表情が切ない。
「ジェン・・」
しつこく鳴り響くインターフォンを無視してジェニファーを抱き上げると、そのままベッドルームへ連れていった。
ダニーは翌日、ディナーを食べながら、ケンとポール・ゴメスの話をした。
「あいつが自暴自棄なのは、そういう理由があったのか。そんな過去があったら、なかなか誰も愛せないな」
「あぁ、俺がポール・ゴメスと同じ人種やから懐いてるのも分かったわ」
アランは一つ一つ頷いていた。
「今は誰と付き合ってるのか?」
「ニックと息子と寝たらしいで。あと事務所のパートナーともう寝てるわ」
「全く、あいつときたら・・」
「寂しいんやろうね」
「あぁ」
「ギルは?」
「相変わらず落ち込んでいるよ。奴はケンにぞっこんだったからな」
二人はしんみりしながら、サーモンのムニエルを食べ終えた。
アランはふとニックと息子に強要された3Pを思い出していた。
あいつらにケンが持っている本当の純真さを汚された思いがして、腹が立った。
「でもギルがいるから、パーティーには誘えへんね」
「あぁ仕方がないな」
二人は、パーティーメニューの打ち合わせをして、分担を決めた。
「お前が料理が得意で助かったよ。毎年大変だったんだ」
「お役にたてて光栄です」
ダニーはジョージの口真似をして、アランを笑わせてた。
アランはこれから、ドクター・フリーのネット相談をするというので、
ダニーは先にバスにつかって、寝る事にした。
明日は、マーティンが誰を誘ったのか聞かなゃーな。
そのうち、意識が薄くなった。
スタバでカフェラテのグランデを買ってダニーは席についた。
アランが作ったハム&チーズサンドをかじっていると、マーティンが出勤してきた。
まだサムもヴィヴも来ていない。
「なあ、聞いてもええか?」
「何、ダニー?」
「お前さ、パーティー、誰と来る?」
「結局、エドを説得した。エドの方も会社関係の接待パーティーだったみたいで、こっちの方がいいってさ」
「さよか、もう飲みすぎるなよ」
マーティンは照れくさそうに「もうやらないよ」と言って、ホットドッグにかじりついた。
今日は、ペットのヘビを探して失踪したオタク青年の捜索だ。
「俺、ヘビ苦手や、サム、担当してくれへん?」
「意気地なし!分かったわよ」
サムはマーティンを連れて出て行った。
ダニーはニシキヘビのウェブサイトを調べて、生息地から地下道だと割り出した。
するとNYPDから連絡が入る。
アッパーイーストエンドのアパートの地下室に大きなヘビがいるという。
オタク青年の家からも近い。
こいつや!
早速ダニーは、サムに連絡し現場に急行してもらった。
現場にサムとマーティンがたどり着くと、NYPDの警官たちが呆れ顔で立っていた。
「どうしたの?」「飼い主が現れたんですけど、ヘビが安眠してるから出て来たくないと」
「そんなの、関係ないわよ、私、行く!」
サムが地下に降りていくので、マーティンも付いていった。
なんと5mもあろうニシキヘビを首にまいて、オタク青年が座り込んでいた。
「FBI!早く出なさい!」
「だってスウィーティーが寝てるんですよ!」
「何がスウィーティーよ!皆が迷惑してるの!早く立ちなさい」
オタク青年はやっと立ち上がった。
ニシキヘビを檻に入れ、NYPDの車で護送する。
「全くバカみたい!」
サマンサはおかんむりだった。
機嫌が悪いのはクリスマスが近いからかなぁ。
マーティンはぼんやりと思った。
「マーティン、報告書お願いね」
「え、僕?」
「そうよ、何もしなかったんだから、それくらいしなさい」
「はい」
オフィスに戻り、マーティンはPCをかたかた動かし始めた。
「何や、報告書担当か?」
ダニーが小声で尋ねる。
「すごい低気圧なんだよ、サム」
「寒いなぁ」
ダニーはボスのオフィスを見上げた。
何とかしてやればええのに。サムは待ってんのんやで、ボス。
定時になり、ダニーは仕事を終えたが、マーティンはまだ報告書を書いている。
「待っててやるから、またヌードル・ショップ行こか?」
「え、本当?じゃ、がんばる」
30分ほどしてボスの机に提出し、二人はリトル・ジャパンに行った。
この前より列が長い。
「すごいなぁ」
「でも回転がいいからそれほど待たないよ」
すっかり常連気分のマーティンだ。
店の何人かも顔を覚えてくれて、「ハロー」と声をかけてくれる。
結局、マーティンはチャーシューご飯に替え玉4枚、
ダニーはゆかりご飯に替え玉1枚で終えた。
「もうベルトがきついよ」
「当たり前やん、そんなに食うな!」
二人は笑いながら、タクシー乗り場に急いだ。
オフィスにケンがやって来た。応接室に通す。いつもと違い、もじもじしてる。
「お前、なんや小便か?」
「違うよ!この間のお礼したくてさ」
「ああ、そんなんええよ」
「今日、ランチ行ける?」
「ええけど」
「それじゃ、12時半にプラザの前で待ってるね」
そう言うと、ケンは出て行った。
オフィスにケンがやって来た。応接室に通す。いつもと違い、もじもじしてる。
「お前、なんや小便か?」
「違うよ!この間のお礼したくてさ」
「ああ、そんなんええよ」
「今日、ランチ行ける?」
「ええけど」
「それじゃ、12時半にプラザの前で待ってるね」
そう言うと、ケンは出て行った。
ケンは時間とおりに待っていた。
タクシーを拾い「セントラルパークお願いします」と言った。
「どこ行くん?」「タバーン・オン・ザ・グリーン」
「懐かしいな」
二人はレストランに入り、ロブスタービスクとシーザーズサラダにローストビーフを頼んだ。
「ここってね、ポールが初めて連れてきてくれたレストランなんだよ」
「へぇ、俺は女と別れる時、たいていここに連れてきたわ」
ケンがけらけら笑う。
「ポールが周りの建物を見上げながらさ、ここがお前が働く場所なんだぞって言ってくれた。
だからNYから離れられないんだよね」
「そうか・・ええ先輩やったんやね」
「最高。あんな人にはもう会えないと思う」
「でもお前まだ若いやん、決め付けるのもどうかと思うで。前に進め」
「進んでるつもりだけど?」
「恋愛や、もっと真面目に相手探せ。お前にふさわしい男は必ずおるって」
「僕、最初に会った時、ダニーだと思ったんだ」
「はぁ?」
「でも、もうアランがいたから」
「俺は売約済みや、ごめんな」
「うん、分かってる」
二人は食事を終え、ミッドタウンに戻った。
「じゃあね!」
ケンの後ろ姿が妙に寂しそうだった。
マーティンは気が気でない。
「ねぇ、ケンと食事したの?」
「そや」
「何で?」
「ええやん、またいつか話したるわ」
マーティンはぷいっと頬をふくらませるとトイレに行ってしまった。
ああ、ややこしい。俺って貧乏くじやん。
ダニーは仕方なく「捜査会議?」とマーティンにメールを打った。
トイレから帰るとすぐにPCに向かい、マーティンは返答をしてくる。
「了解@貴宅」
はあ?ブルックリンって事か?
二人は地下鉄の駅で待ち合わせて、ブルックリン行きの満員電車に乗った。
人いきれで、慣れないマーティンがつらそうだ。
「お前、大丈夫?」
「ふらふらする」
やっと駅に着き、二人で、インド料理のデリに寄りこむ。
食べ物を見て、元気になったマーティンは、
サモサとサグマトンにレンズ豆カレーにナンを2枚とサフランライスを買った。
ダニーにとっても、久しぶりの我が家だ。
すぐにエアコンを入れる。
「しばらくかかるで」
「寒いね」
「ごめんな」
ダニーはクアーズを渡した。
ぐびぐびっと飲んでいるうちに、部屋が温かくなってきた。
やっとコートとジャケットを脱ぐ。
「さぁ、食おう」
「うん」
ダイニングに着くとマーティンはすぐに尋ねた。
「ケンの用事は?」
ダニーは仕方なく、ケンとポール・ゴメスの話をした。
「あのポール・ゴメス?」
「そうやて」
「ケンて本当にエリートなんだね」
マーティンの勘違いの返答に思わず苦笑した。
「それより、お前、愛してる相手を亡くしてんやで、これはそういう話や」
「そうか。僕、ダニーが死んだら、僕も死ぬからね」
「あほ!そんなん間違ごうてるわ」
「だって、決めてるんだもん。ダニーは?」
「俺?」
ダニーは逡巡した。アランがいるからだ。
「お前の分まで生きてやる。それが俺の流儀や」
「そうなんだ」
マーティンはがっかりしたようだった。
ディナーが終わり、二人はソファーに移動した。
「DVDでも見るか?」
「ううん、ベッドに行きたい」
「俺、汗臭いで」
「ダニーのはいい匂いだから」
二人は服を脱いで、ベッドの中に入った。
マーティンがすぐさまダニーの傷だらけのペニスを口に咥える。
「お、おい!」
「ダニーがたまらなく欲しいんだ」
マーティンの絶妙の舌技で、ダニーはすぐに勃起した。
「入れて、今すぐ!」
「ローション・・・」
「いいから!」
マーティンはダニーのペニスを自分のアヌスに導いた。
みしみししながらペニスが飲み込まれていく。
「あぁ、ダニー、すごいよ!大きくって熱い」
ダニーは少し動くとすぐに果てた。
マーティンは自分でペニスをしごくと射精した。
「お前、血出てるわ」
「ごめん、シーツ汚しちゃったね」
「そんなのええよ、痛くなかったか?」
「痛くして欲しかったんだ。僕がダニーのものだってしるしに」
「マーティン・・・」
マーティンはバスルームに行った。
ダニーはマーティンの気持ちを量りかねて、ベッドの中で呆然としていた。
ダニーは、自分の下で息をはずませているジェニファーをきつく抱きしめた。
うっすらと上気した頬にキスしながら、力任せにかき抱く。
熱く湿った部屋の空気がいつもより濃密な気がしたのは、ただ単に自分が酸欠状態なだけかもしれない。
「ねえ、大丈夫?」
きつく抱きしめたまま髪に顔を埋めているダニーを、ジェニファーは心配そうに覗き込んだ。
ダニーは何も答えられなかった。困らせる言葉しかでてこないのがわかっていたからだ。
とにかく不安だった。事実、二度とこうして会えないかもしれない。
ジェニファーはダニーの頭を優しくなでている。
ダニーはその間、肩や胸に唇を押しつけながら言葉を探した。困らせずにすむような言葉を。
このままずっと一緒にいたいと言いたいのを我慢して飲み込む。
「なぁ、また会える?」
ジェニファーは少し困った顔をしたが、こくんと頷いた。
「ほんまに?約束してくれる?」
「ダニーは子どもなんだから。いいわ、指きりしましょう」
「オレっていっつも子ども扱いされてるな。ジェンとは二つしか違わんのに」
ジェニファーはくすくす笑いながらダニーの手を取ると指切りした。指切りした後もダニーは手をつないだまま離さない。
「ほら、約束したんだからそんな顔しないの。グリンチみたいよ」
「・・オレは緑ちゃう」
ダニーは子供っぽい自分が恥ずかしくて胸に顔を埋めた。
リビングへ戻ると、携帯に着信履歴が10件以上残っていた。
全てトロイ携帯と出ている。
「なぁ、トロイのことやから下にいてる気がしいひん?」
「まさか。あれから二時間も経ってるから大丈夫よ」
「いいや、あいつはしつこいから要注意や。どっかで見張ってるかもしれん。オレが車で先に出るから、ジェンは10分待ってから帰り」
「ダニーはどこに行くの?」
「オレはおびき寄せるだけや、心配ない」
ダニーはキスするともらったばかりのニットキャップとマフラーを身につけた。
「さあ行こう。気をつけて帰るんやで」
「うん。あー、ドキドキしてきた」
二人は手をつないでエレベーターに乗ると地下ガレージまで降りた。
アパートを出たダニーはブルックリン・ブリッジとは逆の方向に車を走らせ続けた。後ろから距離を置いてTVRがついてきている。
―やっぱりな。あいつもしつこいなぁ・・・
自分の読みが当たったことににんまりしながら川沿いを抜ける。
時々出かける小さなバーに入ってミントジュレップを飲んでいると、スチュワートが入ってきて隣に座った。
「あれ、またお前か。こんなとこで何やってんねん」
「お前をつけたのさ」
「なんで?」
「わかってるだろ。オレがつけてたのも知ってるはずだ」
「いいや、知らん」
ダニーはあくまでとぼけたが、自分でも嫌になるほど下手な猿芝居だ。
「お前がジェニファーに本気なら、オレはジェニファーを辞めさせる。オレには権限があるんだ」
スチュワートはきっぱり言い切った。
「なんでやねん!何もクビ切ることないやろ!」
ジェニファーを解雇すると言われ、ダニーはうっかり反応してしまった。
「やっぱりそういうことか。あいつが不安がってるの知らないのかよ。オレはマーティンを悲しませたくないだけだ」
「・・・・・・」
「それにジェニファーには夫がいる。いずれ泣くのはお前だぞ」
真剣に面と向かって言われ、返す言葉もない。ダニーはどうすることもできず唇をかみしめた。
だが、ジェニファーを愛しているのは紛れもない事実だ。それに泣くのが自分だというのもこれもまた事実だ。
「よく考えろ」
スチュワートはそれだけ言うと出て行った。
―くそっ、よう考えてもどうしようもないこともあるんや・・・
残されたダニーはくさくさしながらミントジュレップのグラスを一気に傾けた。
ダニーとアランはFAOシュワルツに来ていた。
店内はクリスマスギフトや飾りを買う客でごったがえしている。
「迷子になりそうや」
「目印は飾り物の売り場だからな」
二人はエレベーターで飾り物の階に上がった。
フロアー一面がクリスマスツリーの飾り物だ。
ダニーはめまいがした。
「なぁ、俺、一つ一つ選ばれへん、セットはないんか?」
アランが店員を見つけて飾り物セットの売り場に案内してもらう。
飾り棚一列がすべてセットだ。
ダニーはまたくらくらした。
「アラン、何でも俺ええよ」
「それじゃあこれにしようか」
アランは一番豪華な500ドルセットを手にレジに並んだ。
ダニーは階段のそばで過呼吸状態になっていた。
俺、こういうとこの買い物苦手や。
アランが大きな袋をかかえてやってきた。
「顔色が悪いぞ、大丈夫か?」
「うん、早くどっかで座って飲み物飲みたいわ」
二人はワーナープラザの中のウルフガング・パック・カフェで食事をした。
ミネラルウォーターをぐびぐび飲むダニー。
「落ち着いたか、ハニー?」
「俺、あんな売り場行ったことないから、焦ったわ」
「軽いパニック発作かな」
二人はカリフォルニアの白ワインに、すずきのカルパッチョ、有機野菜のリゾットとパスタ・マリナーラで夕食を済ませた。
家に戻って早速、飾り物をツリーに付け始める。
「俺、てっぺんの星な」
「はいはい」
アランは大きな星をダニーに渡すと、ダニーがてっぺんに飾って嬉しそうに笑った。
「ほら、ええやろ」
「そうだな、早く脚立から降りなさい」
アランが電源を入れる。イルミネーションが点滅し、幻想的な光景が現れた。
「うわーめちゃ綺麗や」
「いいな、なかなか」
二人は静かにキスをした。
ダニーはしばらく部屋の明かりを消して、ツリーのイルミネーションに見入っていた。
こんな光景を見たのは一体いつぶりだろう。
俺が5歳の頃?おとんがちゃんと仕事してた頃や。思わず涙が流れる。
「ハニー、ハーブティー飲むかい?」
ダニーは鼻をすすって「うん、俺アップルシナモン」と答えた。
二人でソファーでハーブティーを飲む。
「仕事は忙しいのかい?」
「このとこヘンな失踪者ばっかりや」
「そうか。年の瀬が近いからな。こっちも予約満杯だよ」
「アラン、身体大丈夫?」
「急に何だ?いたって健康だが?」
「それならええんや」
ダニーはアランをぎゅっと抱きしめた。
「バカだな。僕は死なないよ、お前が僕に飽きるまでずっと生きるつもりだ」
「あほ!」
ダニーはアランにキスをした。
「さぁ、シャワーしよう」
「そやね」
二人は、カップをキッチンに片つけて、バスルームに入った。
クリスマスがやってきた。アランの家に友人が続々と集まってくる。
ジュリアンはまだデイヴィッドと続いているようだった。
トムは相変わらず一人でふらりと現れた。ギルも今晩は一人だ。
マーティンがエドを連れて入ってくると、デイヴィッドがため息をついてジュリアンに怒られていた。
ビル・トレバーがやってきた。
全員に大げさにキスをすると、ソファーの真ん中にどんと座った。
今晩は、メイン以外はビュッフェ形式になっている。
パプリカ、ピーマン、ズッキーニのマリネ、うずらの卵や生ハム、オリーブを串刺しにしたピンチョス、
ハーブサラダのブルーチーズドレッシング、4種のチーズのパスタ、
ブロッコリー、アスパラガス、カリフラワーとマッシュドポテトの温野菜だ。
パンパン!とシャンパンの開く音がする。
皆、がやがやと料理を選びながら話を始めた。
ジュリアンは、エドを見つけ、取材を申し入れていた。
「でも僕、ファッション誌なんて無理ですよ」
エドが固辞するが、「ビルが変身させてくれるって、ねぇ、ビル?」と容赦ない。
「あら、あたしのビジネス・ライン、まだご存知ないの?あなたなら素敵に着こなせそうね。
痩せてるのがいいわ、かわいいし」
ビルはエドの身体を値踏みした。
エドは恥ずかしそうにもじもじしながら、シャンパンを飲んだ。
トムはギルとずっと話し込んでいる。
ダニーは、ケンとニックが来なくて本当に良かったと胸を撫で下ろした。
アランがダニーに目配せをして、メインの用意を始めた。
チキン4羽の中にクスクスを入れ、こんがりローストにしたものだ。
ソースはトマトソースとコンソメソースの2種類を用意した。皆が拍手する。
アランがナイフを入れ、取り分けた。
皆、自分の好きなソースをかけながら、メインコースを食べ始めた。
「2006年ももうすぐ終わりね」ビルが口火を切った。
「来年のテーマは何なんだ?」
アランが尋ねると、「来年は、ヴェルサイユで行くわ。めちゃくちゃ華美なの。パリとミラノはおさえなくちゃね」
ビルはやる気満々だ。
「エドは?」
「中国の企業と提携話があるので、出張が増えるかも」と言った。
マーティンがエドの手をぎゅっと握る。
「俺は相変わらず人助けだな」
トムはチキンをかじりながら言った。
ギルは「僕は新しいパートナー探しだ」と至極真面目に宣言した。
「それはあたしも同じよ〜!」ビルが乾杯する。
「俺も同じだ」トムもグラスを合わせる。
メインのチキンが終わり、ダニーは残りの肉やクスクスをジップロックコンテナーに移していた。
まだみんな白ワインやブランデーで話を続けている。
アランが最後のメニューのフルーツのグラタンを出した。
リンゴ、オレンジ、イチジクをカスタードで焼いた、いわばフルーツ入りのクレーム・ブリュレだ。
それとチーズの盛り合わせを合わせてテーブルに置く。
みな、さらにアルコールが進み、話の花を咲かせた。
ダニーがジップロックを閉めていると、マーティンがやって来た。
「楽しんだか?」
「ダニーと話したかったよ」
「毎日話してるやん、あほ。エドは?」
「今、トイレ」
「お前、友達は大切にせいよ」
「うん、分かってる。今日、美味しかった」
「それは良かったわ」
マーティンはダニーにさっとキスをした。
エドがトイレから出た瞬間、目に入った映像だ。
「あ、エド、お土産のチキンだって!」
マーティンがすっと去ってエドに近寄った。
エドは鋭い目をダニーに向けていた。
あちゃー、見られたか。しゃあないわな。
ダニーは皆の分の紙袋にコンテナーを入れて話の輪に入った。
エドの取材は来週に決まったらしい。
「エド、あたしのアトリエにあさっての14時に来なさい。約束よ!」
「あ、はい」
エドは雰囲気に押されて返事をしている。
その様子にマーティンが笑っていた。
まぁええわ。ダニーは、アクシデントのないパーティーに安心していた。
それはアランも同じだ。全員が帰った後、二人だけで、ソファーに座ってシャンパンで乾杯した。
「そや、これ」
ダニーはウォーキングクローゼットから黒い箱を出した。
「え、待てよ!」
アランが書斎から黒い箱を持ってきた。同じ箱だ。
「もしかして・・・」
「ブルガリの名刺入れ!」
二人は同時に言って大笑いを始めた。
「ミラノで買ったのか?」
「うん」
「僕もだ」
二人はソファーでいちゃつき始めた。
すぐにキスがディープキスに変わる。
「ベッドに行こうか?」
「うん」
二人はベッドルームに消えた。
ダニーはベッドでぐずぐずしていた。
「おい、遅刻してもいいのか?」アランが身体を揺り動かす。
「寒くてたまらん」
「シャワーで温まれ」
アランはブランケットをはぐと、ぶつぶつ言っているダニーをバスルームに入れた。
コーヒーを入れていると、ほかほかになったダニーが出てきた。
「まだ寒い」
「おやじシャツ着るか?」
「嫌や、それだけは絶対!」
「それじゃ早くTシャツとYシャツ着なさい」
アランは、外回りの多いダニーのために、遠赤外線の肌シャツを買っていたが、ダニーは袖を通そうとはしなかった。
コーヒーを急いで飲むと「じゃ、行ってくるで」
「あぁ、気をつけて」
キスをする。毎朝の儀式のようなものだ。
地下鉄の駅に駆け込み、満員電車に乗る。
あぁ、アランに送ってもらえばよかった。
ダニーははっとした。
自然にそんな事が頭をよぎるなんて、俺、ほんまにゲイになってきとる!
スタバでカフェラテを買って手を温めながらオフィスに着く。
マーティンが鼻を真っ赤にしていた。
「仕事が終わったとなかいが一頭いるで!」
「うるさいよ、ヘークション!」
どうやらマーティンは風邪を引いたらしい。
クリネックスの箱をかかえながら、PCを打っている。
移らないようにせいへんとな。
ダニーは、マーティンから心持ち少し離れた。
「ダニー、聞き込み行って欲しいんだけど?」
ヴィヴィアンが聞いてくる。
「えぇ、俺?!」
「だって、マーティンがあの調子でしょ?あんたしか頼めないよ」
「サムは?」
「病欠」
「なんやて?」
「牡蠣に中ったらしいよ、そういえばボスも休みだわ」
ヴィヴィアンはウィンクして、ダニーのそばを通り過ぎた。
最悪やん。今日は3人か。
失踪者はロシアからの移民だった。
クイーンズでパン屋を営んでいたが、3日姿を現さないという。
ダニーは車を地下駐車場から出し、クイーンズに向かった。
パン屋の従業員に話を聞く。
ロシアから着たばかりらしく英語が達者じゃない。
「男が来てた。ボス、怖がってた。次の日ボス来なくなった」
「ここの従業員はみんなロシアからの移民か?」
「ボス、スポンサー。いい人」
こいつは、また就労ビザやな。
ダニーはピンと来て、タレコミ屋のところに行った。
「あぁ、あそこの親父な。慈善事業やりすぎて、マフィアの目についたらしいぜ」
「一体、誰や」
「例のタルコフスキー」
「あいつかよ」性悪で有名なゆすり屋だ。
「やさは知ってるか?」
「あと100ドル」
ダニーは仕方なく100ドル札を渡す。
住所を書いた紙をもらい、ヴィヴィアンに報告する。
「応援よこすから、待ってなさい」
「ええって、俺で大丈夫な山やから」
ダニーは、住所の場所に着いた。汚い雑居ビルだ。
「タルコフスキーさんいますかね?」
「誰だよ?」
「パブロワさんの使いですが」
ドアが開いた。ダニーは拳銃を抜き、「FBI!パブロワを返したら、お前の裏家業は反故にする」と威嚇した。
「嫌だといったら?」
「お前を逮捕するだけや」
「わかったよ、隣りの部屋にいるからもって帰りな」
ダニーはタルコフスキーに手錠をはめ、隣りの部屋に行った。
椅子にくくりつけられている中年男がいた。パブロワ本人だ。
「もう大丈夫ですからね」
ダニーが拘束を解いているとヴィヴィアンがやってきた。
「もう終わったの?」
「俺だけで大丈夫って言うたやん」
「お疲れさん、ダニー」
翌日、オフィスに揚げたてのピロシキが山のように届いた。
パブロワの店からの差し入れだ。
ダニーは、事務方の職員にも分けている。それでもあまるほどだ。
「サム、食えるか?」
「あたし、まだ油ものだめ〜」
青白い顔で机につっぷしている。
ボスのオフィスに入ったが、ボスも机につっぷして苦しそうにしていた。
「ピロシキいりませんかね?」
「またにしてくれ」
「了解っす」
風邪のマーティンだけは、3つも取って、机に並べていた。
「お前、また太るで」
「ピロシキは別だよ」
「勝手に言ってな」
ダニーは、事件を解決したすがすがしさに、報告書をはやる気持ちで書き始めた。
587 :
fusianasan:2006/12/26(火) 11:49:35
書き手1さん、この前の旅行のエピソードや今回のクリスマスもどれも素敵でした。
ダニーとアランの関係が特に好きなので、嬉しい限りです。クリスマスパーティーは
自分も一緒に体験した様な温かな気分になりました。これからの進展を期待していま
す。
書き手2さん、ダニーとジェニファーとの仲はどうなるのでしょうか。ダニーの気持
ちを思うと辛くなります。でもここではやはりマーティンに癒されて欲しいと願って
います。そしてスチュワートとのラブラブな関係もまた復活してくれたら嬉しいです。
ダニーが出勤すると、スタッフ何人もから「今日は差し入れないの?」と声をかけられた。
昨日のピロシキ効果だ。
いつもお世話になっている事務方スタッフやテクニカルスタッフに、
少しでも恩返しが出来た気がした。
それも、ただやで。
ダニーはにんまりした。
席につくと、マーティンがまだゲホゲホ咳をしていた。
「お前、インフルエンザちゃうの?」
「そうなのかな?こないだひいたばっかりなのに・・・」
「昼休みにER行ってき。俺が送ってやるから」
「本当?ありがと、ダニー」
二人は、サマンサが来たのでささっと離れた。
「サム、腹の具合どうや?」
「どうにかこうにかね。もうあの店じゃオイスター食べないわ!」
サマンサは店に怒りをぶつけながら、PCに電源を入れていた。
昼になり、局の車を借りて、ダニーはマーティンを市立病院に連れて行った。
トムが医局に座っていた。
「なんだよ、昼間からまたあれか?」
トムはグラスで飲むジェスチャーをした。
「ちゃうちゃう、こいつ風邪がひどいねん。見てやって欲しいんや」
「全く、マーティンは俺の常連客だよな。カルテがどんどん厚くなってるぞ」
看護婦に体温計を渡され、わきの下に入れる。
「ダニー、見ないでよ」
「お前、なまめかしいな」
「ばか!」
看護婦に渡すと、トムに渡される。
「お前、38度5分あるぞ。インフルエンザの予防接種受けたっけ?」
「ううん・・」
「もう無駄だな。抗生物質処方するから今日は早退!」
「え?ただでさえ早退と休みが多いって怒られてるのに・・・」
「医者にはむかうな。痛い注射をけつにぶちこむぞ」
トムはそう言って、にやっと笑った。
ダニーは慌てて「ほな、薬もらって帰ろ。ボスに電話せい。家まで送るわ」と言った。
「うん・・・」
ボスは嫌味を数回繰り返したが、気が済んだのかマーティンの早退を許可した。
アッパーイーストサイドに向かう。
「お前、裸で寝ちゃあかんよ」
はっとするマーティン。
「なんで分かったの?」
「お前いつもそうやん。もともと基礎体温が高いのは分かってるけどな、
今は真冬のNYや。そりゃ風邪ひくわ。エドにも電話しとけ」
「わかった・・ねぇ今日、帰りも寄ってくれる?」
ダニーは一瞬逡巡したが「ええで」と承諾した。
「お前、腹だけ減りおるから、何か作ったるわ」
「わーい、ありがとう」
ダニーは、路肩に車を停めると、ドアマンのジョンに挨拶をして、部屋までマーティンを送った。
服を脱がせ、パジャマに着せ替える。
「ほら、もう寝」
「うん、絶対来てよね」
「わかったから」
マーティンはやっとベッドに横になった。
ダニーはベッドサイドにコントレックスのペットボトルを置いて、アパートを出た。
世話が焼けるやっちゃ。それでも可愛いと思うのは愛している印か?
ダニーは、フルスピードで支局に戻った。
案の定、ボスの機嫌が悪い。
「あいつ、またインフルエンザか?」
「はい、そのようで」
「まったく、捜査官ともあろうものが、日頃の鍛錬がなってないからだ。お前はどうだ?」
「すこぶる快調ですが?」
「そうでなくちゃいかん、マーティンにもお前を見習えと言っておけ」
「了解っす」
自分だってサマンサとノロウィルスにやられたくせに・・・
ダニーは苦笑しながら、ボスのオフィスを出た。
マーティンがいないせいで、仕事が山積だ。
ダニーは猛烈な勢いで仕事を終わらせ、イーライズで買い物をしてから、マーティンの家に行った。
合鍵で入ると、中からいい匂いがしてくる。
「あ、ダニー」
エドがキッチンから出てきた。
「何や、お前来てたんか」
「はい、僕も風邪気味だから、マーティンが心配で・・・」
やっぱり、二人して仲良く風邪引きかいな。
「お前もしんどそうやな、俺が料理代わったるわ」
「いいですよ」
「ええって、風邪引き同士、ベッドで寝とき」
エドは済まなそうな顔をしたが、のろのろとベッドルームに消えていった。
「ええと、何作ってたんかな?」
コンソメスープが用意してあった。それに豆腐が切ってある。
「ええアイディアや、これに卵いれたろ」
ダニーは買ってきたチキンを細切りにして、豆腐とチキンと卵のおじやをこしらえた。
ベッドルームを覗くと、二人が背中合わせになって寝ている。
「お前ら、薬飲ますからまず食え」
二人はのろのろ起きてきた。
ダイニングで三人で食事する。
マーティンの抗生物質をエドにも分け与え、水で飲ませた。
「すみません・・」
エドが謝る。
「ええっちゅうに」
「ごめんね、ダニー。移っちゃうから、あんまりここに長くいない方がいいよね」
「そやな、エドを送って帰るわ」
「え?エドも?」
「二人で寝てたらいつまでも治らんやろ、家に帰りや」
ダニーは、食べ終わったエドをせかすと、タクシーを電話で呼んだ。
>>587 さんへ
感想ありがとうございます。旅行はダニーの今までの苦渋の人生のご褒美の
つもりで書きました。クリスマスはアランと同棲した初めてのクリスマスですが
結局いつものメンバーの集まりにしました。ただアランとの同棲も1年を過ぎましたので
これから、二人の関係に少しひねりをつけていければいいなと思っています。
これからもよろしくお願い致します。
ダニーは使い古した名刺入れから自分の名刺をブルガリの名刺入れに入れ替えていた。
愛着もあったが、もう皮がくたくただ。
サイドがほころんでもいる。
ダニーは、軽くキスをすると、ゴミ箱にぽいっと捨てた。
俺も前に進まにゃぁ、来年は34歳やもんな。
おとんとおかんが生きてたら、結婚せいってうるさいんやろな。
「ダニー、コーヒーが入ったよ」
アランがキッチンで呼んでいる。
「今、行く!」
ダニーは考えを振り切って、キッチンに向かった。
ヘテロだった自分が、今は男と一緒に住んでいる。
愛してもいる。大きな変化だった。
アランがチキンとアボカドのピタサンドを作っていた。
「ありがと、オフィスで食うわ」
「寒いから風邪ひかないようにな」
「家に名医がおるから平気や、じゃ行ってくる」
「気をつけて」
二人は軽くキスすると、ダニーは家を出た。
スタバでカフェラテを買って、オフィスでピタサンドを食べていると、
マーティンがやって来た。
「お前、大丈夫なん?」
「熱下がったから。ボスのご機嫌とらないと」
マーティンはボスのオフィスに入っていった。
今年はクリスマス明けになっても、パブロワ事件以降、失踪事件がない。
皆、未解決事件ファイルの整理を始めた。
定時になり、マーティンが「ねぇ、ヌードル・ショップ行かない?この間のお礼に奢るからさ」と誘ってきた。
「お前、あっこ好きなぁ」
「だって美味しいじゃん」
二人がリトル・ジャパンに行くと列はさらに長くなっていた。
「待つか?」
「ここで食べたいよ」
「しゃあないな。風邪ぶり返しても知らんで」
ダニーは手をこすりながらマーティンと列に並んだ。
30分たってやっと店内に案内される。
二人はいつも同様「スペシャル」とご飯を頼んだ。
「へぇ、BBQポークがあるらしいよ」
マーティンは早速頼んで、ビールも注文した。
麺を待ちながら、チャーシューをつまみにビールで乾杯した。
「お前さぁ、クリスマス、DCに帰らなくてよかったん?」
「父さんはカンカンだけどね、こっちの方が楽しいもん」
「親不孝な奴な」
「ダニーだって家に来れば雰囲気で分かってくれるよ」
ダニーは副長官との食事を思い出し、それもそうだなと納得した。
「見合いの話はどうなってる?」
「相変わらず、写真が沢山送られてくるけど、全部送り返してる」
「うるさくないんか?」
「うるさいけど、仕方ないじゃん。結婚できないんだから」
「そりゃそうや」
二人は笑った。
「このまま大きな事件が起きへんとええな」
「うん、少なくとも大晦日までは静かにしてたいよ。寒いもん」
「サムにまかせよ、機嫌よさそやから」
「どうしたんだろうねぇ?」
「お前、分からへんの?ボスとクリスマス過ごしたんやで」
「ええ、そうだったのか!」
「ボスも離婚成立してんのやから、サムと正式に付きおうてもええんちゃう?」
「だって、職務規定があるじゃん」
「あー、そやったな、忘れてたわ。ヴァン・ドーレンもうるさそうやしな」
二人は麺を食べ終え、替え玉を1枚ずつお代わりした。
「今日は1枚でええの?」
「実はね、僕、太っちゃってさ」
ダニーは大笑いした。
「当たり前やん!あんなに炭水化物採ってたら、そりゃ太るわ」
「だから我慢なんだ」
マーティンは口を真一文字に結んだ。
マーティンにとっては我慢するのが相当辛い様子だが、自分で宣言したのだから仕方がない。
「それじゃ、帰ろか」
「うん、そうだね」
マーティンがチェックをして外へ出た。
北風が頬を切るような寒さだ。
「さ、タクシー乗り場直行や、走るで」
「え、待ってよ!」
二人は、タクシー乗り場目指して走り始めた。
ダニーはパジャマを着ながら無意識に大きくため息をついた。
「ねぇ、どうかしたの?僕が帰らなかったから父さんに何か言われたとか?」
マーティンが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「いや、そんなんちゃう。何も言われてないで。副長官とはクリスマスに話したきりやし」
そう言われてもマーティンはまだ半信半疑のままだ。
「本当に?何か言われて引きずってるんじゃないの?僕は平気だから嘘はつかないで」
「あほ、ちゃうわ。それやったらお前にちゃんと言う。疲れてるだけやから寝たら直るわ」
ダニーは無理して笑顔を作り、ぎゅっと抱きしめて背中を撫でたが、本当はそれどころじゃない。
胸が張り裂けるような思いをひたすら隠してベッドに寝転んだ。
今夜もマーティンが律儀に自分の足を温めてくれている。
後ろめたく思いながら、温もりに身を委ねた。
何も知らずに献身的に尽くしているのを見るとやりきれなくなる。
「ダニィ、足温もった?」
「おう、これでゆっくり寝れるわ。サンキュ」
マーティンは本当に嬉しそうにこくんと頷く。
「よかった。じゃあ、おやすみなさい」
ダニーもおやすみを言いながらおでこに唇を押し当てた。すっかり安心しきっているのを見ると胸が痛む。
―トロイにもばれたし、今度こそほんまに潮時かもな・・・
そんなことばかり考えながら眠れぬ夜を過ごした。
「ダニィ、起きて、起きてったら」
朝からマーティンが隣で騒いでいてうるさい。
「んー、あと五分・・」
「だめだよ、早く起きて」
揺さぶられてようやく起きたダニーの目は腫れぼったくて真っ赤だった。二日酔いの朝のように充血している。
「どうしたのさ?眠れなかったの?」
「そうや、お前のいびきがやかましかったからや」
ダニーは大欠伸をして呻いた。睡眠不足で体がだるい。
「ごめんね、起こしてくれればよかったのに」
マーティンはすまなさそうに謝った。
「ウソやん。いびきやったらとっくにお前のこと蹴飛ばしてるわ」
ダニーはまた欠伸するとデコピンした。マーティンはけたけた笑っていたが、続けざまに5発くらってとうとう額を押さえた。
「痛いよー、やめてったら」
「当たり前や、オレのデコピンは痛いねん」
痛がる様子が可笑しくて、ダニーは笑いをこらえながらさらに数発デコピンした。
「バカ!」
マーティンは怒ったのか、額を押さえながら背を向けてしまった。
「ごめん、ごめんな」
ダニーは謝り、マーティンを背中から抱きしめた。
ミーティング中もジェニファーのことが気になった。
それ以外のことが何も思い浮かばない。
ずっと続けられないことはわかっていた。それでも突然終わるなんて考えられない。
「ダニー!おい、聞いてるのか!」
テーブルの下でサマンサにボールペンでつつかれ、ダニーははっとした。
ボスの不機嫌な顔が目に入り、すみませんと小さく詫びる。
小言めいた非難を聞きながら書類に目を落とし、嵐が通り過ぎるを待つ。今の自分は間違いなく腑抜けだ。
ヴィヴィアンの憐れみと心配が入りまじったような視線が身に沁みる。
不道徳なことはやめなさいと非難されているような気がして、ダニーは急いで目をそらした。
>>587 いつも感想いただき、ありがとうございます。
まだ先のことは何も考えていないので、何もかも行き当たりばったりな状態です。
マーティンの風邪がやっと治った。
「お前、今度の外回り行けよ」
ダニーが言い放つと、「えー、まだ病み上がりなのに」と甘えてきた。
「あほ、お前が休みの間、色々あったんや」
ダニーは冷たく言ってPCに向かった。
マーティンが昼を奢るからと誘ってきたので、いつものカフェに行った。
「俺、今日は、オマール海老のペンネ」
「あ、高い奴だ」
「お前の奢りやろ?当たり前やん」
マーティンも同じものを頼み、二人でオマール海老と格闘しながらペンネを食べた。
「やっぱり美味しいね」
「そやな、ソースにダシがよく出てるわ」
「ダニーも作れる?」
「材料があったらな」
「すごい!」
マーティンは真剣に尊敬の目を向けた。
二人で通りを歩いていると、ばったりニックとケンに出くわした。
しまった!ダニーが思ったがもう遅い。
「ニック!」
「ようお姫様、元気か?」
「風邪が治ったとこ」
「そうか、風邪ひきか」
「ケンと食事?」
「ケンがお返しに奢ってくれるっていうんでな」
「こんちわ、ダニーとマーティン」
ケンは相変わらずにこにこしている。
「どこに行くの?」
「この先のカフェだけど?」
「オマール海老のペンネがすごく美味しいよ」
マーティンは親切に教えている。
こいつ、どこまで鈍感やねん!
ダニーは腹を立てながら、ケンを睨んだ。
ケンはそ知らぬ顔をしている。
「それじゃ、またな。マーティン、俺を忘れるなよ」
ニックがウィンクする。
「あ、うん」
マーティンは顔を真っ赤にして頷いた。
別れた後、ダニーは尋ねた。
「なぁ、お前、ニックがあのケンと食事してんのやで?ええの?」
「だってお礼のお返しでしょ?」
全く疑っていないのが恐ろしい。
「お前、ニックの事、どう思うてんねん?」
「え、友達・・・」
「それだけか?」
「うん、それだけだよ」
「それならええわ」
ウソか本当か分からないが、ダニーはそっとしておこうと決めた。
いずれ分かることだからだ。
「そや、エドは風邪治ったか?」
「会ってないからわからないや」
「お前な・・」
「だって、毎晩、ダニーと夕飯食べてるじゃん。会えないよ」
「それもそやな。エドは大切にしとき、ええ奴や」
「・・うん、わかったよ」
僕が一番大切にしてるのはダニーなのにな。
マーティンは道端の缶をぽんと蹴った。
それが運悪くホームレスの老婆にぶつかった。
「あんた!あたしを殺す気かい!」
老婆の勢いに思わずマーティンはおびえた。
「ごめんな、ばあさん、これで医者行ってくれへんか?」
ダニーは20ドル札を渡した。
老婆はお札を見ると、「わかってりゃいいんだよ」とぶつぶつ言いながら、道を横切って行ってしまった。
「ダニー、ありがと」
「お前さ、も少しいろんな人に慣れろ。一生アップタウンで暮らす気か?」
「うん」
当然のようにマーティンが答えたので、ダニーはあきれ果てた。
「もう、俺は知らんで」
ダニーがすたすた歩くので、「待ってよう!」とマーティンが追いかけた。
オフィスに帰っても、失踪事件発生の知らせはなかった。
チームにどんよりとした空気が流れる。
皆、それぞれの未解決事件ファイルの整理を続けた。
定時になり、ダニーは
「今日はごめんな、家に帰るわ」とマーティンに言うと、そそくさと机を片付け、オフィスを出た。
今日はアランと外食やな。
家に帰ると、客人が来ていた。
ヒスパニックのなかなかハンサムな男性だ。
ソファーで話していたアランが、あわてて立ち上がる。
「ただいま、アラン。この方は誰なので?」
「ダニー、紹介するよ。ジョン・ラズロだ」
「初めまして。ダニーか。今のアランの恋人は君なの?」
ジョン?もしかして、アランの金盗んで、アランの人生をずたずたにした、あのジョン?
ダニーの心は混乱した。
ジョンはダニーに近寄り、握手を求めた。
しぶしぶ握手をするダニー。
「どんなご用で?」
「僕のこと、知ってるだろう?アランの元恋人で、金を騙し取った悪人。いや元悪人か。
今日は償いに来たんだよ」
ダニーはアランの顔を見た。
アランは、ダニーの視線をそらした。
「俺、何か邪魔らしいから、出てくるわ」
ダニーはいたたまれず、アパートを出た。
ブルー・バーに向かう。なんで今頃、あいつがアランに何の用や?アランも態度がおかしかった。
カウンターでテキーラをあおっていると、肩をぽんとたたかれた。
ジョージだった。
「ダニー、久しぶりですね」
「おう、この前はありがとな」
「そんな。いつでも大歓迎」
ダニーはジョージと他愛ない話をしながら、テキーラをどんどんお代わりした。
「そんなに飲むと、またバタンきゅーしちゃいますよ」
ジョージが心配してダニーの手に触った。
「飲みたい気分なんや」
ダニーはすでに足がふらついている。
「ほら、ちゃんと立てないじゃない?もう帰りましょう」
ダニーはまだジョンがいるかと思うと、帰りたくなかった。
「俺、帰りたくない」
「え?」
「お前の家に行ってもええか?」
「本当に?」ジョージがダニーの顔を覗きこむ。
「ああ、本気や」
「じゃあ、帰りましょう」
ジョージはチェックを済ませると、ダニーの手を肩にかついで、タクシー乗り場に向かった。
ダニーは41丁目とマディソン街の「リトル・ジャパン」の風景をぼーっと見ていた。
マディソン街を4つ東に入ったところが、ジョージのアパートだ。
タクシーから降りたダニーは、もうふらふらだった。
「お連れ、大丈夫?」タクシーの運転手も思わず声をかける。
「ええ、飲みすぎただけですから。お世話さまでした」
ジョージは丁寧に礼を言うと、ダニーをかついでアパートに入っていった。
「お前のアパート、落ち着くな」
ダニーは部屋に入るなり、黒のソファーにどっかり座り込んだ。
「はい、水と胃腸薬」
「気が利くな」
「それだけが取り柄ですから」
「丁寧語はもうええちゅうねん」
「え、緊張しちゃうよ」
ジョージは困った顔をして頭をかいた。
「今日はどうして、こんなに荒れてるの?」
ダニーは酔いも手伝って、アランの元恋人が部屋にいたと話した。
その恋人が昔アランにどんな仕打ちをしたのかも。
「何だか複雑だなぁ。許しを請いに来ただけじゃないの?」
「でも20万ドル騙し取ったんやで!犯罪者やん!俺がつかまえたる!」
「え?ダニーって警官?」
「うんにゃ、FBI」
「そうか!それでダークスーツばっかりなんだ!」
ジョージは合点がいったようで、頷いていた。
「まだ酒ない?」
「もう止めたほうがいいよ」
「ケチ!飲ませろや」
「仕方がないなぁ」
ジョージは、シーバス・リーガルを出してきた。
ダニーは、ストレートでまたあおり始めた。
「お前、いい奴な」
「ありがと、ダニー」
ダニーが静かにジョージの顔を自分の方に向けた。
「え?」
ダニーは舌でジョージの肉感的な唇を割り、中にするりと舌を入れた。
二人はいつしかディープキスを始めていた。
ジョージがダニーのネクタイに手をかけ、するりとはずすと、Yシャツのボタンに手をかけた。
「本当にいいの?」
「ああ」
ジョージは、ダニーの手をとって、ベッドルームに連れて行った。
「脱がせるね」
「うん」
ダニーは人形のようだった。
ダニーをトランクス一枚にすると、ジョージはセーターを脱ぎ、パンツを脱いだ。
ダニーはトランクスを突き上げる高さに目をむいた。
すんげー、こんなでかいの見たことない・・・。
まるで作りもんみたいや・・・。
「なぁ、ジョージ、入れるのはなしでええか?」
「何でも、ダニーの言うとおりにするよ。でもトランクス脱いでいい?窮屈なんだ」
「ああ」
ジョージがトランクスを脱いだ。35センチはあろうか。
黒いペニスが天を突き上げている。
「見ないでよ、恥ずかしいから。ダニーも脱いで」
ダニーはこそこそと後ろを向きながら脱いだ。
「恥ずかしがらないで。僕のサイズは気にしないで」
ダニーは覚悟を決めて、ジョージの方を向いた。
ジョージはダニーの傷に驚いた顔を見せた。
「これ、どうしたの?」
「連続殺人犯の女たちにやられた」
「あぁ、ダニー、可愛そうに・・」
ジョージはダニーの横に身体を寄せて、ダニーのペニスを口に含んだ。
「あぁ・・」ダニーは快感に呻いた。
ジョージの舌がダニーの性感帯をくすぐる。絶妙の技だ。
「とろけそうや」
「そのままイってもいいよ」
「あぁ、もう、俺、我慢できへん、出る・・うっ!」
ジョージはダニーの射精をすべて口で受け止め、ごくりと喉を鳴らして飲み込んだ。
「おいしかったよ」
「お前をイカさないと・・」
「僕はいいよ、今日はこれで満足。ダニーが僕の口でイってくれたんだもん。待っててね」
ジョージは、バスルームに入った。
おそらく、自分で処理してるのだろう。
思ったとおり、帰ってきたジョージのペニスはだらんと垂れ下がっていた。
それでも相当な長さだ。
あれが、俺の中に入るんか?
ダニーはアルコールで混濁した頭でぼんやり考えていた。
「ダニー、泊まっていく?」
「ええの?」
「もちろん。明日、アパートでもフェデラルプラザでも送ってあげる」
「お前に何て礼を言っていいか」
「いいんだよ、僕はコンシェルジェだから。いつでもお役に立ちます。シャワー浴びるでしょ、どうぞ」
「ありがとな」
ジョージは、クローゼットからバスローブとバスタオルを出して、ダニーをバスルームに案内した。
ダニーは熱い湯を浴びながら一人ごちた。
俺、こんなとこで何してんねん!
バスルームを出ると、洗面台に新しい歯ブラシが置いてあった。
ダニーは歯を磨きながら、まだぐずぐず悩んでいたが、決めた。
明日は、フェデラルプラザ直行や。
ダニーがベッドルームに戻ると、ベッドの上にパジャマが置いてあった。
「ジョージ?」
キッチンからジョージがコントレックスのボトルを持ってやってきた。
「飲みすぎると喉かわくでしょ」
「サンキュウな」
「それ、僕のパジャマだから大きいと思うけど着てね」
「うん」
「ダニーって可愛いね」
「可愛いなんて言われたの初めてや」
「FBIなんて信じられない」
「もうええっちゅうに」
「それじゃ、寝ましょう」
「ああ」
二人は、背中合わせにベッドに入ると、ジョージはサイドランプを消した。
朝、すさまじい頭痛で目が覚めた。ジョージはいなかった。
ベッドサイドにアルカセルツァーが置いてあった。
ダニーはすぐさま2錠口の中に放りこんだ。
リビングに行くと、ジョージがパンツプレスでダニーのパンツのしわを取っていた。
「ジュース飲む?僕のレシピなんだけど、結構いけるよ」
「ああ、いただくわ」
バナナとパイナップルは分かったが後は分からなかった。
「これ何?」
「バナナとパイナップルにグアバとキウイを入れてヨーグルトでシェイク」
「すんげーうまいわ」
「ありがと、何か食べる?」
「さすがに食欲なしや、飲みすぎた」
「そうだね」
ジョージが楽しそうに笑った。
「多分、フェデラルプラザ直行だと思ったから、パンツ、プレスしたよ」
「何から何まですごいな、お前」
「そんな事ないよ。ねぇ、また会える?」
「ああ」
すんなりダニーの口から返事が出た。
「それって、続きするって事だと思っていいの?」
「ああ」
「あー良かった!嫌われたかと思った。僕の・・その・・大きすぎるんだ」
「気にすんなや、昨日はごめんな」
ダニーはジョージに近寄り、静かに軽くキスをした。
「もう天にものぼる気持ちだよ、僕。仕事、はりきっちゃいそうだ」
そんなジョージが可愛くて、もう一回もう少し深くキスをした。
「もうやめてよ!押し倒したくなっちゃうから」
ダニーは、ジョージのインパラでフェデラルプラザまで送ってもらった。
「それじゃね!」
手をふるジョージ。
「ありがとな!」
ダニーは、インパラが角を曲がるまで見送った。
そんな二人の姿を、マーティンがちょうど見ていた。
急いで駆け寄ってくる。
「はぁ、はぁ、ダニー!今のってジョージじゃないの?」
ダニーはしまった!と思ったがもう遅い。
「そや、昨日、一緒に飲んで、あいつん家泊まった」
「え?泊まった?」
マーティンはショックを受けた。
「だって、ジョージ、ゲイじゃない!」
「あほ!お前が考えてるような事、あるわけないやろ、スタバ行こ」
マーティンは一日中、頭の中にダニーがジョージとベッドで絡み合っている像が浮かんでいた。
「マーティン、何ぼさっとしてるんだい?ボスが呼んでるよ」
ヴィヴィアンに声をかけられて、はっと気がつき、ボスのオフィスに入った。
「お呼びですか?」
「お前、クリスマス休暇はDCに帰らなかったんだって?ヴィクターから電話があったぞ」
「用事がこっちにあったんです」
「クリスマスは家族で過ごすものだ、寂しがっておられたぞ。電話かけろ」
「はい、わかりました」
「DC異動の辞令でも出されたらたまらないからな、頼んだぞ」
「はい」
自分だってサムと過ごしたくせに・・
マーティンは父親に電話しろと言われ、さらに不機嫌になった。
ダニーは、携帯をぼんやり見ていた。
昨晩からアランからの着信が15件入っていた。
今日は、アランとこ帰ろ。
定時になり、ダニーはアパートに直行した。
「ただいま」そっとドアを開ける。
今日もジャックがいたら決定的だ。
「おかえり、お前、どこに行ってた!」
アランがキッチンから出てきた。明らかに怒っている。
「友達んとこ泊まった」
「マーティンか?」
「違う友達や」
「話す必要がありそうだな」
「そやね」
ダニーは着替えて、ダイニングについた。
皮肉なことに料理はダニーの大好きなチキンロールだった。
中にアスパラガスとチーズが入っている。
ワインを開けながら、アランが始めた。
「お前、誤解したんだろう?」
「・・・」
「ジャックが来たのはな、シカゴで開業して成功したからと、金を返しに来たんだよ。
あと謝罪だったな」
「・・・寝てへんの?」
「ばか、そんなわけないじゃないか。僕にはお前がいるのに」
「ほんまに?」
「信じられないのか?」
「俺、よう分からん」
アランはふっと片頬で笑った。
「そんなに信用がなかったとはな」
「俺、ほんまに分からへん、ごめん、混乱してる。しばらく一人にしてくれへんか?」
「それは、ブルックリンに帰るって事か」
「平たく言えばそうなる」
「お前にも考えがあるんだな、分かった。でも、信じて欲しかったよ、ダニー」
アランは、コートを羽織ると、アパートから出て行った。
あかんわ、俺、アランを傷つけたんや。どないしよ。
携帯にかけるが電源が切られていた。
ダニーは、広いアパートで一人、途方に暮れた。
<訂正>
読み手さんからのご指摘で、ジョン・ラズロをジャック・ラズロに訂正させて
頂きます。ご指摘ありがとうございました。
その晩、アランは戻って来なかった。
朝起きたダニーは、「許して欲しい D」ポストイットにメッセージを書いて、
アランのカウンセリングルームのデスクに貼った。
一人でコーヒーを入れるのも虚しいので、いつもより30分早かったが、オフィスに向かった。
スタバでカフェラテとクランベリーマフィンを買って、デスクで食べる。
携帯をデスクの上に置き、ちらちら見るが、着信履歴はなかった。
アラン、一体どこ行ったんやろ。何か事件に巻き込まれてへんかな。
定時近くになり、皆が出勤してきたので、
ダニーはPCに集中しているふりをした。
1階の受付から内線電話がかかってきた。
「俺に来客?え?わかった、通してええで」
やって来たのは、ジャック・ラズロだった。
ダニーは、応接室の中でも一番豪華な部屋にジャックを通した。
「おはよう、ダニー」
「なんで、俺の勤務先知ってる?」
「アランがぺらぺらしゃべったよ」
「アランと一緒やったんか?」
「ああ、昨日、べろんべろんに酔っ払って、僕の泊まってるホテルに現れた。
夜中の2時位かな?同棲解消するんだって?」
「そんな事まで・・・」
「それに悪く思うなよ、昨日、アランと寝た」
「今、なんて?」
「アランは、君とのセックスよりずっといいって言っていたよ。やっぱりアランのセックスはすごいよな」
「貴様!」
ダニーは思わずこぶしを振り上げた。
「おっと、FBIが一般人に暴力か?今じゃ僕もシカゴで開業している医者だ。いいのかな?」
「何で、今頃現れたんや!」
「アランに対する贖罪の気持ちからかな。お世話になったのに、金持ち逃げしたんだからな。
あの時は、親父が事業に失敗して家を抵当に取られそうだったんだよ。おかげで、家族は助かったし、
僕もシカゴでメディカル・スクールを続けられたし、いわばアランは命の恩人だ。
金も出来たし、そろそろころあいだと思ったんだけど、君みたいな人がいたとはね〜。メキシコ系?キューバ系?」
「・・・キューバ」
「訛りはマイアミ訛りか」
「関係ないやろ!」
「君はアランと別れる気でいるの?」
「それも貴様に関係ない!」
「それが大ありなんだ。僕、NYに越してくるんでね。アランと旧交を温めたいと思っているから」
「俺が許さない、そんな虫のいい話、俺は絶対に許さない!」
「アランがどう思うかだな、君を選ぶか僕を選ぶか」
「話はそれだけか」
「まぁ、そんなところかな」
「じゃあ、仕事があるから、出て行ってくれ」
「ああ、ダニー、これからもよろしく」
握手のために出して手をダニーは平手打ちした。
「すぐかっとくるヒスパニックは世間じゃ成功できないよ」
声をたてて笑いながら、ジャック・ラズロは応接室を出た。
ダニーは、応接のテーブルにつっぷした。
俺がアランを信用しなかったばっかりに、大変なことになってしもうた、どないすればええんや。
帰り道、ダニーの足は自然とブルー・バーに向いていた。
大晦日のせいか、いつもより客が少ない。
カウンターに腰掛けると、エリックがすっと寄ってきた。
「今日は、お一人なんですね?」
「そやねん、なんか強いのくれ。テキーラでええわ」
「はい」
エリックは熱いチーズのかかったホットナチョスとテキーラを出してきた。
「いつも悪いな」「あの黒人の人、ダニーの事いつも待ってるみたいに来てましたよ」
「さよか」「相変わらず、もてますね。今晩は僕、早番なんですけど・・・」
「いや、今日は、帰る。悪いな」
エリックは残念そうな顔を一瞬したが、すぐにプロの顔に戻って奥に下がった。
結局、テキーラをぐいぐいお代わりして、2時間くらい過ごしてしまった。
「早く帰らないと、パレードに巻き込まれますよ」
「そやな、チェックしてくれ」
ダニーは、タクシー乗り場に急いだ。
渋滞に巻き込まれながら1時間かかって、アランのアパートに着いた。
合鍵で入ると、アランがソファーでブランデーを飲んでいた。
「よう、もうブルックリンに行ったのかと思ったよ」
アランも相当酔っている。
「アラン、俺、ブルックリンには戻らない。ここにいさせて欲しい」
「どうしたんだい?もう心変わりか?」
テキーラがダニーの心を素直にさせていた。
「俺にはアランが必要や。他の誰もいらへん」
「ジャックがNYに戻ってくる」
「ああ、本人から聞いた」
「早耳だな。だから僕が惜しくなったのか?」
「そんな言い方って・・・」
「ジャックは優しかったぞ。昨日・・」
ダニーは思わず、アランの頬をひっぱたいていた。
「痛・・・」
「そんな話聞きとうない!なぁ、アラン、俺、アランと一緒にいたいんや」
「とりあえず、今日はそうしようか。早く着替えておいで。何も食ってないから、チャイニーズでも取ろう」
ダニーが着替えて戻ってくると、アランがデリバリーの電話をしていた。
1時間かかってデリバリーボーイがやってきて、二人は無言の夕食を食べた。
アランはブランデーを飲み続けている。
「そんなに飲むとよくないで」
「ご心配ありがとう」
白々しい会話だ。
二人は食べ終わると、順番にシャワーに入り、ベッドに入った。
同じベッドの中なのに、これほど、ダニーはアランとの距離があいていると感じたことはなかった。
表では、新年を祝う花火の音や歓声が鳴り響いていた。
1年間のご購読ありがとうございました。
皆様よいお年をお迎えください。
669 :
fusianasan:2007/01/01(月) 20:45:27
書き手1さん、書き手2さん、今年も楽しみにしていますので、宜しくお願い
致します。
書き手1さん、ダニーとアランはどうなってしまうのか。心配ですが、これか
らの動向が楽しみでもあります。ダニーを想ってくれるジョージの存在もまた
気がかりです。今年もダニーが幸せになってくれればいいなと願います。
翌日の10時すぎに、ダニーはアランにゆり起こされた。
「今日はつきあってくれないか?」
「はあん?何に?」
「ニューイヤーのブランチを申し込んでいたんだ。マーティンとエドも来る」
「わかったわ」
ダニーは、目をこすりながらバスルームでシャワーを浴びると、
グッチのシャツとセーターとパンツを取り出した。
これ位の服装でええんやろ。
場所がどこだかわからないが、とりあえず正装ではあるまい。
アランは、ヒューゴ・ボスのシャツとパンツにジャケットを引っ掛けていた。
「ジャケット着用なん?」
「いや、お前の服装でパーフェクトだよ」
「場所はどこ?」
「ウォルドルフ・アストリアだ」
「よく席が取れたな」
「6ヶ月前から予約していたからね。お前とこんなことになるとは思ってもいなかったが」
アランは皮肉っぽく笑った。
「さあ、遅れるから出かけよう」
ホテルのロビーに着くと、すでにマーティンとエドが来ていた。
マーティンはジョージに見立ててもらったラルフローレンのジャケットを着ている。
エドは仕立てのいいカシミアのジャケットだ。
やっぱりジャケット着用やったんやないの?
ダニーはええいままよと、覚悟を決めた。
「新年おめでとう!」
4人で挨拶を交わす。
「それじゃ、行こうか」
ロビー・ラウンジは行列が出来ていた。
フロア・マネージャーにアランが名前を告げると、4人はすぐに席に案内された。
ニュー・イヤー・ビュッフェは、シャンパンとそれに合う料理が厳選されたメニューで、
毎年大変な人気がある。
ダニーは半年も前から用意していたアランの気持ちを思うと、切なくなった。
アランがドン・ペリニオンを頼む。4人でまず乾杯だ。
「よい年になりますように!」「乾杯!」
早速、エドとマーティンが席を立ち、オードブルを取りに行った。
「アラン、昨日はぶって悪かった」
「ああ、痛かったぞ」
「俺の気持ちはな、変わってへんのやで。信じてや」
「考えさせてくれ。さぁ何もなかったふりして、楽しくやろう」
2人が戻ってきたので、交代でアランとダニーがオードブルを取りに行った。
キャビアのカナッペにパパイヤの生ハム巻きとグレープフルーツの神戸牛巻き、
アンティチョークとズッキーニのマリネをとって、ダニーが席に戻る。
マーティンが、神戸牛巻きを3つも取っているのにエドと大笑いした。
「今年もお前肉食なんやろな」
「ね、ダニー、どうしたらマーティンにもっと野菜を食べさせることができると思う?」
エドが真面目な顔で聞く。
「肉の薄切りで野菜巻いたり・・」
「それ、いいですね。今度作ってみよう」
「ねぇ、僕を置き去りにして、二人で話さないでよ」
マーティンがふくれていた。
アランが戻ってきた。
「時間かかったな」ダニーが聞くと「知り合いに会ったんだよ」とアランが答えた。
料理のテーブルを見ると、ジャック・ラズロが笑って、手を振っていた。
「奴がなんで?」
「ここに泊まっている。ハウスゲストは優先権があるんだ」
エドが「どなたですか?」と尋ねた。
「僕の旧友でね」アランはそれだけ答えた。
オードブルが終わり、次に豆のサラダ、豆腐サラダ、シーザーズサラダ、パスタサラダのテーブルに移った。
エドが嫌がるマーティンの皿に、豆と豆腐とロメインレタスを載せている。
アランとダニーは思わず笑った。
2本目のドン・ペリニオンを開ける。
交代でアランたちがサラダを取りに行った。二人とも無言だ。
最後はメインコースのテーブルだ。
シェフが目の前で切ってくれるローストビーフが一番人気だったが、
日本人シェフが揚げているあつあつのボタン海老の天ぷらにも行列が出来ていた。
あとは鴨のローストにターキースライス、鯛のポアレにノルウェーサーモンのムニエルが並んでいた。
マーティンはまずローストビーフをゲットし、鴨のローストも取って帰ってきた。
アランとダニーとエドは天ぷらの行列に並んだ。
「オイシイデスカ?」
アランが日本語でシェフに尋ねると「もちろんですよ!」とシェフが嬉しそうに答えてきた。
「何やて?」
「おいしいかって聞いたら、もちろんだとさ」
ダニーは「オイシイデスカ」を口の中で何度も練習した。
デザートのテーブルでは、パティシィエがチェリー・ジュビレを作っていた。
4人ともバニラアイスにチェリー・リキュールのホットソースをかけてもらい、戻ってくる。
「お前、お子ちゃま用のチョコのブラウニーじゃなくてええんか?」
ダニーがマーティンをからかう。
「もう!今年もこうなのかな!」
エドとアランがげらげら笑った。
すると、ジャック・ラズロがテーブルにやって来た。
思わずきっと睨むダニー。
「皆さん、新年おめでとうございます。ジャックと言います。これからお目にかかる事も増えるかと思いますので、お見知りおきを」
エドとマーティンは、ジャックに自己紹介した。
「それでは」ジャックは去った。
「何している人ですか?」エドが尋ねる。
「僕と同業だ」
「へぇ〜ドクターなんだ。僕ら位の年っぽいよね」
マーティンがとうとう地雷を踏んだ。
「俺、用事思い出したから帰るわ」
ダニーは急に立ち上がると、すたすた出て行ってしまった。
あっけにとられるエドとマーティン。
アランはゆうゆうと「さぁ、デザートを頂こうじゃないか」と二人を促した。
ダニーは、アランの家に戻った。着替えもせず、ベッドに寝転んで、ふて寝した。
ジャックの奴、何やねん。宣戦布告かよ!
そう悶々と考えているうちにいつしか眠りに落ちていた。
ぴたぴたと頬を優しく叩かれて、目を覚ます。
目をあけると、アランのドアップがあって、びっくりした。
「お前は、瞬間湯沸かし器だな。そこが可愛いところでもあるんだが」
「ごめん・・反省してる」
「僕も話すことがある。ジャックのところに泊まった」
「本当やったんや」
「何で知ってる?」
「あいつ俺のオフィスにまで来て、宣戦布告したんやで。俺のセックスよりずっといいってアランが言ったって言った」
ダニーの茶色の目に、悔しさで思わず涙が溜まった。
「ばか、お前がいるのにあいつと寝るわけないだろう。あいつは人の心を操るのがうまいんだ。天性の才能なんだよ」
「ほんま?信じてええの?」
「僕も反省したよ、お前と住みたい。この生活を変えるなんてもう不可能だ」
「じゃあ、ブルックリンに帰らなくても?」
「ああ、ここにいて欲しい」
「アラン!」
ダニーは上半身を起こし、ベッドに座っているアランを抱き締めた。
「さぁ、大晦日のやり直しをしよう」
「うん?」
「デルアミコに予約を入れたよ。7時になったら出かけよう」
「うん!」
ダニーは、やった!と思った。
一緒に住んでいれば、アランの行動を見張る事が出来る。
こんな事したくないが、一度、不信感を抱いてしまった以上、どうしても払拭したいのだ。
アランの気持ちを心から信じたかった。
>>669 さま
感想ありがとうございます。
ジャックとジョージはこれからもダニーに絡む存在になる予定です。
ダニーが誰とどんな幸せをつかむか、ご期待ください。
これからもよろしくお願い致します。
仕事を終えたダニーは、帰りにモンキーバーに立ち寄った。ここに来るのは久々だ。
ダニーを見つけたスタニックが、はにかんだ笑顔を浮かべて寄ってきた。
「いつものドライ・マンハッタン?」
「そやな、頼むわ」
ダニーは頬杖をついてスタニックがカクテルを作るのを眺めた。
いつものように的確な動きで作られたカクテルが目の前にすっと差し出される。
ダニーは一口啜ってグラスを置くと両手で顔を覆った。
「何かあったの?」
心配そうにたずねられ、なんでもないと笑ってごまかす。
他の客に呼ばれたスタニックは、こっそりチョコレートを置いてオーダーを取りにいった。
ダニーはチョコをつまんで口に放り込んだ。
ほろ苦いビターチョコが口のなかにゆっくり溶けて広がる。
戻ってきたスタニックがチョコの包み紙を見てにっこりした。
「それ、おいしいでしょ?」
「ああ。お前のおやつか?」
「まさか。こんな高いの買えないよ」
スタニックはさっと周囲を見回すと、もう一掴みチョコを置いた。
「ダニーは特別だからね」
「お前、めちゃめちゃするなぁ」
ダニーはスタニックが大真面目にチョコレートをパチくるのにあきれて苦笑した。
静かに飲んでいると後ろから親しげに肩をたたかれ、振り向くとマーティンとスチュワートが立っていた。
「なんや、お前らか。今日はスカッシュに行かへんの?」
「ん、今日はスチューがくたくたなんだって」
同意を求めるように見上げられたスチュワートは軽く頷いた。
「どうも、テイラー捜査官」
「お疲れ、トロイ先生」
いつもより少しとげとげしい態度にイラつきながら、ダニーも同じように返した。
「ねー、ダニーもあっちで一緒に食べない?」
「いや、オレはええわ。スタニックと話もしたいし」
「そう、それじゃまたね」
マーティンはグラスを磨いているスタニックをちらっと見てテーブル席へ消えた。
二人が移動した後、スタニックはあからさまに不快感をあらわにした。
それでも何も言わないのがスタニックらしいが、かなり乱暴にグラスを磨いている。
「お前な、そんな怒んなや。オレは気にしてへんから」
ダニーの言葉は逆効果だった。スタニックはグラスを置くと一気にまくし立てた。
「ダニーはバカだよ!どうして平然としていられるわけ?信じられない!」
カウンターで談笑していた他の客たちが驚いている。突然バーテンダーがキレたのだ。
オリーブがかった肌は完全に紅潮していて、誰が見ても怒り心頭は間違いない。
「わかった、わかったから。な、とにかく落ち着け」
ダニーはフロアマネージャーに見つからないか慌てた。どうか誰にも見つかりませんように、それだけを祈りながらなだめる。
スタニックはキッとダニーを見据えると唇を噛みしめた。
目がカンカンに怒っているが、なんとか落ち着いたように見えた次の瞬間、また声を上げた。
「信じられない!あんなひどいことされて平気なんて!」
運悪く飲み物を取りに来たウェイターが、激高するスタニックを見つけてうろたえた。
「申し訳ありません。おい、今日はもう上がれ」
「・・・・・・」
「早く行くんだ」
ウェイターは有無を言わせない調子でスタニックに命じ、カウンターの客全員に御代は結構ですからと言った。
スタニックが姿を消したのをきりに、しばらくすると他の客もそれぞれの談笑に戻った。
「あの、さっきのはオレが悪かったんや、あいつをからかったから」
ダニーがそう言ってかばったものの、ウェイターは愛想笑いを浮かべておざなりの返事を返して奥へと入っていった。
急いでチェックを済ませたダニーはバーを出た。
スタニックが出てくるかもしれないと思いながら裏口に回ると、ゴミのコンテナからスタニックが飛び下りたところだった。
体中についた生ゴミのかけらを手で払い落としている。腐った芽キャベツがひどく臭う。
「おいっ!」
「何?」
「何って・・大丈夫か?」
「大丈夫だよ、いつものことだから」
スタニックは言い捨てるとダニーを置いてどんどん歩き出した。
「待てや!タクシー拾うから」
振り向いてももらえず、ダニーの声は空しく響いただけだ。
―あかんわ、あいつがあんなに怒るやなんて・・・・
あんな状態で帰すわけにもいかず、ダニーは走って追いかけた。追いついてもスタニックは気に留める様子もない。
それだけ深く傷つけたのだと思いながら同じように歩き続けた。
寒空の下を凍えそうになりながら歩き、やっとスタニックのアパートへ着いた。
シャワーを浴びた後、スタニックは髪も乾かさずにベッドで膝を抱えて横になっている。
ダニーは所在無げに転がっていたバランスボールに座ってじっとベッドを眺めた。
きっぱりと背中が拒否しているのが見てとれて痛々しい。何度か声をかけようとしてできずにいる。
このままこうしているのはひどく気詰まりだ。
―オレが帰ったらもっと傷つくやろか?・・・・
ほとんど酔いが醒めたはずの頭の中なのに、考えの一つもうまくまとまらない。
真剣に自分を想ってくれているのがわかっているだけに、セックスでごまかしてうやむやにするのだけは嫌だった。
>>669 あけましておめでとうございます。
こちらこそ今年もよろしくお願いいたします。
翌朝、アランはぎりぎりまでダニーを寝かせておいた。
昨晩、デルアミコで看板まで食事をしていたからだ。
コーヒーを入れ、ダニーのためにターキーブレストとチーズのサンドウィッチを作る。
「おい、起きろ、遅刻するぞ」
揺り動かすと、ダニーは「え!大変や!」と慌てだした。
「シャワーの時間はあるから、安心しなさい」
「ありがと、アラン」
二人は静かにキスをした。
シャワーを急いで浴びて、ドライアーをかけ、ひげを剃る。
「あいた!」
あわてて剃ったので、あごに傷をしてしまった。
タオルをあてて出てきたダニーは、「アラン、絆創膏出してくれへん?」と頼んだ。
「何だ、切ったのか。あわてん坊だな」
アランはダニーのキズ口に唇を当ててキスをすると、メンソレータムを塗った絆創膏を貼ってくれた。
「新年の初出勤なのにいい男が台無しだな」
「あほ、そんなんやないで」
サンドウィッチを受け取り、マグでコーヒーをがぶ飲みすると、
ダニーは「ほな行ってくる」と出て行った。
表面上は何ら変わったことのない二人の朝だった。
だが、二人の心に一度出来た溝が、そう簡単には埋まりそうもないことを、
二人はよく分かっていた。
ダニーがオフィスに着くと、周囲の雰囲気が硬かった。
皆一様に緊張している。
サムが小声で「フィッツジェラルド副長官じきじきのお出ましで、ご挨拶があるんですって」と教えてくれた。
ダニーは早く着いてデスクで朝食をとっていなくて良かったと幸運を喜んだ。
マイクを使ってフロアー全体に聞こえるように訓辞が始まった。
「2007年も始まったわけだが、ここ近年NYオフィスの失踪者捜索ユニットの結果が芳しくない。
要は解決件数が増えないのだ。皆もがんばってくれていると信じたいが、数字がものを言うということも理解してくれ。
今年こそは期待しているから、各班のチーフ捜査官はチームへの統率力を最大限に発揮し、
事件解決に結びつけること。以上だ」
ボスはちっと舌打ちするとオフィスに入っていった。
「そんな事言われても、事件件数が伸びてるんやから、仕方ないやんか」
ダニーは小声で文句を言った。
「ダニー、副長官はお見通しだよ。パーセントで話されてるからね」
ヴィヴィアンに言われ「さよか」とデスクにすわった。
副長官は、ボスのオフィスに入っていった。
マーティンがじっとその姿を心配そうに見つめている。
5分ほどして副長官は出てくると、上の階の上層部フロアーへと上がっていった。
ボスがミーティングを召集した。
「今朝の副長官の話だが、今年、解決件数が増えないと、人事異動を考えるらしい」
「え?」皆が顔を見合わせる。
「俺がクビということだ」
ボスは自分の首を手刀で切るマネをした。
「そんなー、ひどいですよ。ボスが優秀なのは分かってるはずです」
マーティンが意見を言った。
「とにかく、そういう話もあると心の中に止めておいてくれ。
捜査方法や手順を変えるつもりは毛頭ない。いつも通り働いてくれればいい。以上だ」
「了解っす!」
「はい!」
サマンサ以外がオフィスから出た。二人で話し込んでいる。
ダニーは、気にしないようにして、デスクに着くと、サンドウィッチを取り出し、かじりついた。
「ダニー、やばいよ。父さん戻ってくるかも」
「腹が減ってちゃ仕事にならんやろ」
するとマーティンの携帯が鳴った。
「はい、あ、父さん。はい、わかりました。行きます」
マーティンは嫌な顔をして電話を切った。
「親父さん、何やて?」
「ボスとダニーと僕でディナーしたいって」
「はぁ、また俺かいな」
「ごめん!付き合ってよ!」
「わかったわ」
「僕、ボスに言ってくる」
マーティンは、ボスのオフィスに走っていった。
場所はジャン・ジョルジュのステーキハウスだった。
肉の部位、ソースが選べるので人気もあるが値段も張る。
副長官は、シャトー・マルゴーを頼んで、乾杯した。
「MPUの解決件数向上は、君たちにかかっている。がんばってくれたまえ。
特にマーティン、お前は去年は散々だったな。少しはテイラー捜査官を見習え」
「はい、父さん」
マーティンが小さくなる。
ダニーは気の毒でならなかった。
「いえ、副長官、フィッツジェラルド捜査官のバックアップなしには、解決出来なかった事件も多いんです。助かりました」
「そうか?そう言ってくれると、親として嬉しいよ。そういえば君自身も誘拐されたし、
友人のドクターも誘拐されたそうじゃないか?もう大丈夫なのか?」
「はい、おかげさまで、傷も癒えましたし、友人も元気です」
「それは何よりだ」
ディナーはこの調子で続いた。
副長官の質問にダニーが6割、ボスが4割答える割合で進み、マーティンは憮然とステーキを口に運んでいた。
ディナーが終わり、ボスが副長官をホテルに送ることになった。
タクシーをダニーとマーティンは見送った。
「ダニー、人事考課、良かったんだね」
マーティンは傷ついた顔をしている。
「そんなことないで。少しええ事が書いてあった程度やもん」
「いいなぁ、ダニーは優秀で」
「あほ!お前かて、優秀やんか。さ、飲みなおそ」
「うん、そうだね」
二人は、ブルー・バーに出かけた。
するとカウンターにジョージが腰掛け、ブロンドの男性としゃべっている。
ちょっと不穏な雰囲気だ。
ダニーは「マーティン、テーブル席とっといてくれへんか?」と言って、カウンターに近寄った。
「あ、ダニー!」
ジョージは救いを求める目でダニーを見つめた。
「ね、ほら、言ったでしょう。友達と待ち合わせしてるって」
「ごめんな、仕事で遅なったわ。こちらの人は誰で?」
「マイルズ。ここで会った人」
「なんだ、本当だったのか。そりゃ残念だ。それじゃジョージ、またな」
マイルズは舌打ちすると、チェックを済ませて出て行った。
「ダニー、ありがと!助かった。僕、誤解されちゃってさ」
「どんな誤解や?」
「夜の商売」
「そなあほな!」
「仕方ないよ、一人で飲んでたんだし」
「それじゃ、俺らと飲まへんか?マーティンもいてるんや」
「いいの?」
「構へんて」
マーティンは、ダニーがジョージを連れてきたのに目を丸くして驚いていた。
「こんばんは、マーティン」
「こんばんは、ジョージ」
ぎこちない挨拶だ。
「こいつ、ヘンなおっさんに絡まれてたんや。だからこっちに呼んだ。ええやろ、マーティン?」
「もちろんだよ」
マーティンの目はそう言っていなかったが、歓迎のそぶりをした。
ダニーは、ここでジョージと友達らしくして、この間のマーティンの疑いを解こうと考えていた。
3人で2杯ほどカクテルを飲み、他愛もない話をして、ロビーで別れた。
マーティンはダニーにぴとんと張り付いた。
「ねぇ、本当に寝てないんだよね」
「当たり前やん。友達やって言うてるやろ」
「うーん、わかったよ」
マーティンはそっぽを向きながら、タクシーに乗った。
ダニーは今年もこれかいなと思いながら、隣りに乗り込んだ。
しばらくしてダニーが覗き込むと、スタニックは眠っているように見えた。
本当に寝ているのかはわからないが、とにかく目を閉じている。
ダニーはベッドに座ってくしゃくしゃになった髪を指で梳いた。
ブロンドに近い茶色の髪は、時折もつれて指にひっかかる。
頬にうっすらと残った涙の痕を撫でながら、さっきのバーでのキレようを思い出し、それも無理ないと思った。
自分たちの関係は、傍目にはわからない関係なのだ。
しかもマーティンにわからないようにスチュワートとも時々寝ている。
そしてさらにジェニファーとも・・・・
ダニーはジャケットを脱いで隣に横たわると、後ろからそっと抱きしめた。
早朝、目を覚ましたダニーは着替えるためにメモを残して部屋を出た。朝のNYは底冷えがしてめちゃくちゃ寒い。耳まで凍りそうだ。
タクシーから降りて凍えながらアパートへ入ろうとすると、アーロンが犬を散歩させていた。
「おはよう、ダニー。朝帰り?」
「まあな。おはよう、スタウト。お前は寒くないんか」
ダニーは足にじゃれてくる犬を撫でた。会うのは二度目なのにしっぽをちぎれんばかりに振っている。
「CJがおらんでもアーロンがいてるからこいつも安心やな」
「でもない、僕は犬が苦手だから扱いがよくわからないんだ」
アーロンは苦笑しながら犬を撫でた。よくよく見ると、なんとなくダニーよりもしっぽの振りが少ない気がする。
「ほらね?こいつもダニーのほうがいいみたいだろ」
自嘲気味に言いながら、アーロンは犬をよしよしと撫でた。
「なぁ、CJはあれから帰ってきてないん?」
「それが帰ってきたけど、急用でまた行っちゃったんだ。こいつがかわいそうでね」
「ほんまやな、こいつも寂しいやろ。けど、オレもスタウトみたいな犬が欲しいわ」
「そうだ!今度ジムで会った時でいいからまた遊びに来てよ。こいつも喜ぶと思うんだ」
犬は甘えるようにダニーの足に鼻を擦りつけている。
「わかった、そのうち行くわ。じゃあな、スタウト」
アーロンと別れたダニーは、エントランスで念入りに犬の毛をはたいてから部屋に入った。
静かにベッドルームを覗くと、マーティンとスチュワートがすやすや眠っていた。
ダニーは、マーティンがパジャマの一番上のボタンまできちんと留めるのが好きだ。
窮屈やからやめとけといくら言っても、マーティンはいつもきちんと留める。
思い出し笑いが聞こえたのか、マーティンが目を覚ました。
「う・ん?ダニー?」
「あ、ごめんな。着替えだけしにきただけやから。シャワー借りるわ。もうちょっと寝とき」
ダニーはスチュワートに気づかれる前にそそくさとベッドルームを出た。
シャワーの後、キッチンで水を飲んでいるとマーティンが起きてきた。
「おはよう、ダニー」
「おはよう。邪魔してごめんな、オレ先に出るから」
「何言ってんのさ、僕は気にしないし、スチューだって気にしないよ」
今は気にするわと思いながら、ダニーはおでこにそっとキスした。
「ええねん、今日はエッサベーグルに寄りたいから」
本当はスチュワートに出くわす前に部屋を出たいだけだ。
「・・なんか僕のこと避けてるみたいだ。昨日だってフランス人のほう選んだしさ・・」
「ちゃうちゃう、そんなわけないやん。オレとお前は今夜一緒に帰るんや、な?」
ダニーが思いっきり濃厚なキスをしてやると納得してシャワーを浴びに行った。
こそこそ着替えていると、後ろから皮肉たっぷりにおはようと言われた。
くそっ!っと思いながら振り向く。
「おはよう、トロイ先生」
「この前のこと、終わらせたか?」
「・・まだや」
ダニーはじっと見つめられて慌てて目をそらした。
スチュワートの緑の目は何もかも見透かすようで、まともに目をあわせられない。心の中を覗かれたくなかった。
「じゃあ、オレ行くから」
「待てよ、テイラー」
「待たれへん」
ダニーは締めかけのネクタイもそのままに、ブリーフケースを引っ掴んで飛び出した。
マーティンは悪夢にうなされていた。
ダニーがジョージと真紅のベッドの上で絡み合っている夢だ。
ダニーがジョージに貫かれて、悶え声を上げている。
「やめてー!」
「マーティン!どうしたの?」
エドが、マーティンを揺り動かして起こした。
「はぁ、はぁ」
夢のあまりの生々しさにマーティンの息は荒い。
「すごい汗だよ、悪い夢見たんだね」
エドがタオルでマーティンの顔を拭いてくれる。
「僕、シャワーしてくる」
マーティンは、エドのベッドから降りると、バスルームに逃げ込んだ。
昨晩、ジョージと仲良くするダニーに腹を立て、思わず、エドを尋ねて、寝てしまった。
こんな事でエドを利用するなんて、僕って最低の男だ。
シャワーを浴びながら、マーティンは落ち込んだ。
「マーティン、入っていい?」
エドがやってきた。
「う、うん、いいよ、僕、もう終わったから」
二人は、シャワーブースの中で入れ替わった。
すれ違いざま、エドがマーティンにキスをする。
マーティンも舌をからめてエドに応えた。
エドが嬉しそうに笑った。
「今年はもっと一緒に過ごせたらいいな」
「そうだね」
マーティンは逃げるようにバスルームから出た。
洗面台で、ひげを剃り、髪の毛を乾かしながらも、心は沈んだままだった。
ダニーは、本当にジョージと寝てないの?
本人に何度も否定されている以上、もう聞けない。
しつこくして嫌われたくもない。
マーティンの疑惑は行き場がなくなってしまった。
リビングのソファーでため息をついていると、エドがやってきた。
「今、コーヒー入れるね。朝ごはんは、オフィスで食べる?」
「オフィスで食べる」
「それじゃ、ピタサンド作ってあげる。美味しい生ハムがあるんだ」
「ありがと、エド」
「照れるからもう言わないで」
マーティンは、ダイニングでコーヒーを飲み、サンドウィッチを持たされて、ブリーフケースに入れた。
「いつでも来てよね」
「うん、エド、昨日は突然ごめんね」
「いいんだよ」
二人は軽くキスをし、マーティンはエドのコンドミニアムから出た。
オフィスに出勤すると、すでにダニーが来ていた。
スタバのコーヒーを飲みながら、ツナサンドを食べている。
マーティンががさごそサンドウィッチを出すと、
「へぇ、お前も今日は持ってきたの?」とダニーに声をかけられた。
「うん、まぁね」
マーティンは適当にごまかして、コーヒーを取りに行った。
同じスーツで現れたマーティンだ。
ダニーはエドのところに行ったと思い、苦々しい気持ちになった。
ジョージとの事、だましきれへんかったかな。
嘘をついているのは自分なのに、マーティンが他の男といるのを想像すると、嫌な気持ちになる。
俺ってほんまめちゃ勝手やな。
ダニーは残りのサンドウィッチにかじりついた。
早速、失踪事件が発生した。
ジョン・マイヤー、15歳。
大晦日に家でクラックをやっているのを父親に見つかり、家出をしたという。
「可愛い子ね」サマンサが写真をホワイトボードに貼りながらつぶやいた。
確かに、ブロンドに碧眼で、ちょと見には少女に見えなくもない。
ボスが指示を出す。
「ヴィヴィアンとマーティンは両親に話を聞け。ダニーは、病院、モルグを当たれ。サマンサは携帯の通話記録だ」
「はい!」
「了解っす!」
両親の話では、クラックをやっているのを見つけたのは初めてだったそうだ。
「小使いはどの位あげてましたか?」
ヴィヴィアンが尋ねる。
「週に20ドルです」母親が答えた。
「とてもクラックを買える額じゃないね」
マーティンが首をかしげた。
携帯から一番電話をかけている親友に話を聞くことになった。
ボー・クラークだ。彼もジョンに負けず劣らず可愛い顔立ちをしていた。
「クラック?ジョンが?信じられません!」
ボーは大げさに驚いた。明らかに演技をしている。
ヴィヴィアンは「あの子は嘘をついているね、今晩、尾行するよ」とマーティンに告げた。
事件は意外とあっさり解決した。
その晩、ボーをダニーとマーティンが尾行すると、クリストファー・ストリートの怪しい店に入っていった。
ゲイ専用のピーピング・ショーの店だ。
店主にFBIのバッジをちらつかせ、裏の部屋に案内させる。
そこで、ボーとジョンは売春をしていた。
その稼ぎでクラックを買っていたのだ。
「FBI!」
ジョンが客を取っている部屋に二人で踏み込む。
おたおたする中年男。
「お前は帰れ!」ダニーがしっしっと客を部屋から出す。
「ジョン、ご両親が心配している。帰ろう」
マーティンが優しく声をかけ、全裸の彼に服を渡す。
「この事、親に言うの?」
「仕方ないやん。お前まだ15やろ、やり直しできる年やで。クラックは人生をダメにする。絶対に手出したらあかん」
ダニーはジョンのか細い肩に手をかけた。
サムとヴィヴィアンがボーを連れてくる。
四人は二人の少年を連れて、オフィスに戻った。
連絡を受けて、ジョンの両親とボーの両親が来ていた。
抱き合う家族。これから二人が立ち直れるかどうかは、
両親の愛の深さと本人のやる気にかかっている。
ダニーは、どうか二人がやり直せますようにと神様に祈った。
「ねぇ、ダニー知ってる?アランの後のドクター・ハート、誰だと思う?」
朝一番にマーティンが駆け寄ってきた。
「知らん。アランが降板してほっとしてるとこやし」
「ウォルドルフアストリアで会った、ジャックって人なんだよ。TVガイドに載ってたよ」
「え、あいつが?」ダニーは心底驚いた。
アランが紹介したんやろか?
「アラン、相当人気あったみたいだね。降板を惜しむ投書が載ってた」
「へぇ〜」
ダニーはそれを聞いて嬉しくなった。
やっぱりアランってすごい人や。俺の男。
それにしてもジャック・ラズロが後任とは・・・。
ダニーが家に帰ると、まさにジャック・ラズロ本人が、リビングのソファーに座っていた。
「やぁ、ダニー、お邪魔してるよ」
「いらっしゃい」
ダニーは一瞥すると、着替えにウォーキングクローゼットの中に入った。
何で、あいつなんか家にいれるんや、アランの奴!
普段着に着替えて出てくると、アランが、台本を何冊かジャックに渡していた。
「たいていは、先にADが相談者の悩みを聞いておいて、台本に書いてくれてるんだ。
その後、実際に相談者と電話で話して、アドバイスをするだけさ」
「それじゃ、意外に簡単?」
「いや、そうとも言えない相談もあってね。笑ってしまうのもあるが、絶対に爆笑するなよ。相手は真剣なんだ」
「分かった。他には?」
「お前なら簡単にこなせる仕事だよ。気を楽にしてスタジオに行けよ」
「ありがとう、アラン」
「どういたしまして。これからは同じ街の同業者だからな。ライバルでもあるし、お互いに助け合える事もあるだろう」
「それじゃ、今日はこれで。また分からない事があったら、聞きに来てもいい?」
「ああ、もちろんさ。携帯は教えたよな」
「うん。ダニー、それじゃあな、また会おう」
ジャックはアパートから出て行った。
「どうして、あんな奴、家の敷居をまたがせたんや!」
ダニーはアランの胸を何度も叩いた。
アランはそんなダニーの腕を握り、ぎゅっと身体を抱き締める。
「ドクター・ハートの引継ぎだよ。あいつが緊張してるっていうから相談を受けただけだ。
ばかだな、まだ疑っているのかい?」
「もう俺、知らん!」
「さぁ、夕飯が冷めるよ。早く食べよう」
夕食は、鯛のローストにハーブサラダとガーリックトーストだった。
白のトスカーナ産ワインを明けて、二人で乾杯する。
ダニーがだまって食べているのが気になり、アランはワインを注いだ。
「おい、いい加減に機嫌を直してくれよ。寂しいじゃないか」
「・・・・・俺、奴、大嫌いやねん」
「もう、分かったから」
二人は食事を終え、後片付けをして、バブルバスに入った。
ベルガモットのアロマオイルをたらして、リラックスする。
「はぁ〜、風呂はやっぱええな〜」
「機嫌直ったか?」
「ちょっとだけな」
「こら!」
二人は声を出して笑った。
お互いの勃起したペニスが身体に触れている。
「なぁ、ベッド行かへん?」
「行こうか」
二人はバスローブを羽織り、ベッドに直行した。
すぐにバスローブを脱ぎ、全裸で抱き合う。
「俺、アラン大好きや、忘れんといてや」
「忘れるわけないだろう」
69の姿勢になり、互いのペニスを口に含む。
湿った音がベッドルームにこだました。
「なぁ、今日は俺が入れてもええ?」
「もちろんだとも」
アランは、後ろ向きになって四つんばいの姿勢をとった。
ダニーがアランの脚を開かせ、腰を進める。
「うっ」
「痛い?」
「いい気持ちだよ、ダニー」
「俺も。アランの中、温かい」
「動いてくれ」
「うん」
ダニーは円を描くように腰を動かし、前後左右に揺らした。
アランの悶える声がよけいにダニーの気持ちをそそる。
「あぁ、いい、もう出そうだ・・・」
「俺も。イってええ?」
「ああ、来てくれ」
二人は同時にはぜた。
アランの広い背中につっぷすダニー。
「アラン、愛してる」
「僕もだよ、ダニー」
二人は、お互いの気持ちを確かめ合うように、言葉に出した。
そして手をつないで、シャワールームに直行した。
746 :
fusianasan:2007/01/05(金) 21:07:32
ネカマちゃんは隔離を読んでいるらしいのでここに投下。
CBSスレでみんなが待っているので来て下さい。
200以降のレスにネタバレはありません。待ってます。
スレ汚しスマソ
朝、カフェラテを手にオフィスに出勤すると、自分の席に座っている男性がいた。
誰やねん!
「おい、そこ俺の・・」
「やぁ、テイラー捜査官、久しぶりだな」
ジョン・ドゲットだった。
「ドゲット捜査官!いつこちらへ?」
ダニーの胸は高鳴った。
「昨日の最終便でね。後で話があるから、またな」
ドゲットは、ボスのオフィスに入っていった。
10分ほどして、ボスがダニーを呼んだ。
飲みかけのカフェラテを置いて、ボスのオフィスへ飛んで入るダニー。
そんなダニーをチーム全員が見ていた。
「なんか、ダニー、いつもと違うね」
「ドゲット捜査官ファンなんじゃないの?」
ヴィヴィアンとサマンサが話している。
マーティンは二人の会話を苦々しく聞いていた。
「何ですの、ボス」
「協力要請だ。またもご指名だぞ。連続殺人犯がNYに来た疑いがあるらしい」
ボスが口を開いた。
「絞殺してから、ご丁寧に両目を抉り出して、胸の上に並べる手口だ。マイアミから始まって北上してきている。
モルグに両目を抉られた死体が出たと報告を受けてね、飛んできたというわけだ」
ドゲットが詳細を説明した。
「失踪事件とは異なるが、お前は警官出身で器用だ。ドゲット捜査官とも何度も捜査している。
今回も協力するように」
ボスの言葉にダニーは思わず大声で「了解っす!」と答えた。
ボスのオフィスから話しながら出てきたドゲットとダニーの姿を、じっとマーティンは追っていた。
早速ミーティングデスクで二人だけの会議が始まる。
チームの皆は聞き耳を立てていた。
「被害者は今のところ8人、写真を見てくれ」
「ひどい・・」
ダニーは思わず言葉を失った。
「目を抉り出す刃物は大型のスプーン。どこにでもあるものなので、足がつかない」
「で俺は何をすれば?」
「とりあえず、モルグに行こう。死体検分だ」
「了解っす」
二人が出て行くと、サマンサがヒューと口笛を吹いた。
「ダニーってドゲット捜査官の忠実な犬みたいね。なんか可愛い」
マーティンは唇を噛み締めていた。
支局の車でモルグに行く。
いつ来ても気持ちのいい場所ではない。
検視官が見せてくれた死体は、確かに絞殺の跡と両目がぽっかり穴になっていた。
「ひどいもんですよ」
検視官は、目の入ったビーカーを見せてくれた。
ええっちゅうに!ダニーはしかめっ面をした。
「胸の上に置いてありましたか?」
「はい、シャツに血のあとが2箇所、胸の上に間違いありません」
「くそっ、あいつだ」
ドゲットは悔しそうな顔をした。
車の中で話が続く。
「実はDNA鑑定で犯人はわれているんだ。ヘンリー・バイス。
精神を病んで施設に入っていたが、施設が完治したと認めてね、退院したんだ」
「そこまで分かってて、なぜ逮捕できないんすか?」
「いつも先手を取られるんだ。IQが180もある奴なんでね」
「へぇ〜。これからどうするんで?」
「奴の次の犯行を待つ。それしかない」
二人は、オフィスに戻り、ひたすら連絡を待った。
夜になったが、それらしい事件は起こらなかった。
「今日は空振りかな」
ドゲットが苦笑した。
「ドゲット捜査官、飯でも食いませんか?」
「ああ、いいな、昼はホットドッグだったしな」
マーティンは自分も誘ってくれるかと、近くをうろうろしていたが、
二人が席を立ったのでがっかりした。
ダニーはいいなぁ、あんな人ともうすごく親しくなってるよ。
ダニーはリトル・ジャパンの花寿司にドゲットを連れて行った。
「へい、らっしゃい!」
「オヤジサン、オマカセクダサイ」
「まいど!」
カウンターに並んで座る。
「ほぅ、ダニーは日本語も出来るのか?」
ダニーって呼んでくれた!
それだけで舞い上がる。
「いえ、出来るのはスペイン語だけで、ここでだけしゃべれるんすよ」
「それでも十分だ、酒が飲みたいな」
「オヤジサン、レイシュクダサイ」
二人は冷酒を4杯飲んで、握りを堪能した。
ドゲットは慣れているらしく、ウニも数の子もしめ鯖も平気でぱくぱく食べていた。
「ドゲット捜査官、ホテルはどこで?」
「エンバシー・スイートだ。それにもうドゲット捜査官はやめてくれ。ジョンでいいから」
「はい、ジョン・・・」
二人はブロードウェイのホテルに向かった。
どちらも言い出せない。
ダニーが諦めて帰ろうとした時、ドゲットがダニーの腕をつかんだ。
「なぁ、ダニー、わかるか?」
「はい」
二人は部屋に上がった。
ドアを閉めるなり、ドゲットがダニーの唇を奪う。
二人はお互いの服を脱がせ合い、ベッドに入った。
「ちょっと待ってろ」
ドゲットがバスルームに消えた。ボディーローションの瓶を持ってくる。
「俺も少しは学んだんでね」
照れ笑いをするドゲット。
ダニーは、両脚を持ち上げてアヌスを晒した。
ドゲットがローションをダニーの中に塗る。
「あぁ・・」
「いいか?」
「はい」
「それじゃ、いくぞ」
「うん」
ドゲットのいきり立ったペニスがずぶりとダニーの中に飲み込まれた。
「あ、あぁ〜」
ドゲットはいつも通り規則正しく動き出した。
ダニーもリズムに合わせて腰を動かす。
「あぁ、狭くて最高だ、ダニー」
「俺もです、もうもたへん」
ダニーはドゲットの腹に射精した。
ドゲットもスピードを速め、ダニーの中にどくどくと果てた。
ペニスが中でひくついている。
「あぁ、君は最高のパートナーだよ、ダニー」
「そんな・・」
ドゲットは先にシャワーを浴びに行ってしまった。
さすがに一緒に浴びる勇気はない。
ダニーはまだ荒い息をしていた。
「さぁ、ダニー、どうぞ」
ダニーがシャワーを浴びて、シャワールームから出ると、ドゲットがスーツを着ていた。
「ジョン、どうしたん?」
「あいつ、フィラデルフィアに飛びやがった。これから最終便で向かう」
「え?」
「今回はありがとう、また今年もよろしくな。前金で払ってあるから、ゆっくり身支度して出なさい。風邪ひかないように」
「はい、ジョン。絶対逮捕してください」
「ああ、がんばるよ」
ドゲットはぎこちなくダニーの唇にキスをすると、ガーメントバッグを持って出て行った。
二人が地下鉄に乗ると、帰宅ラッシュでごった返していた。
人波に押されていつのまにか二人の体が向かい合わせになる。
マーティンは照れくさくてダニーの喉仏に視線を固定した。
時々ゴクリと動くのを見ていると、舌を這わせたくなって顔が赤くなってしまう。
「おいマーティン、大丈夫か?」
気づいたダニーがたずねた。心配そうに見つめられてさらに頬が紅潮する。
「え?あ、ああ、うん、へーき」
「あかんかったら言い。次で降りてタクシー乗ってもいいんやから」
「ん、ありがと」
その時、後ろから押されて二人の体が密着した。
「いてて!」
「なんか今日は道路も地下鉄もめっちゃ混んでるなぁ」
ダニーは蒸し暑さにネクタイを少しゆるめた。
「お前もゆるめれば?暑いやろ」
「ん、そうしたいんだけど、僕の両手塞がってるから」
ダニーはゆるめてやろうかと思ったものの、さすがに人前でははばかられてやめた。
股間もぴったりと密着していて気まずい。
「早く着くといいね」
「そやな」
またぐいっと押され二人はさらに密着した。
さっきからダニーの吐息がかかってくすぐったい。マーティンはドキドキしていた。
周囲にたくさん人がいるのにおでこにキスされているような感じだ。
意識するとペニスが少し硬くなってきた。
―だめだ、あそこが立っちゃいそう・・・
意識すればするほど、下半身が熱くなってくる。
マーティンの願いも空しく、ペニスは完全に勃起してしまった。
ダニーはマーティンが身を硬くしたのを感じるのとほぼ同時に、勃起したペニスが当たっているのに気づいた。
その間も後ろから押され、二人の意思に関係なく擦れあう。感じているのか、マーティンの息が少し上がっている。
「やっぱ降りよか?」
「・・へ、へーき」
「ほんまに?」
「ん、暑いだけだよ」
「それだけか?」
「しつこいなぁ、怒るよ!」
本当はめちゃくちゃ感じているくせに強がりを言うのがおかしくて、ダニーは吹きだしそうになるのを堪えた。
ようやくアパートに着き、ダニーはソファに座るとマーティンのベルトに手をかけた。
「ちょっ、ちょっと何!やだよ!」
「ええから、じっとしとき」
「やだっ!」
ダニーが強引にパンツを下ろすと、トランクスが先走りでじっとりと濡れていた。
「フィッツィー、これは何や?」
「し、知らないよ・・」
「いやらしいな、お前。変態ちゃう?」
「違うよ、バカ!」
「ちょっと味見してみるわ」
ダニーはトランクスの上から舌を這わせた。独特の匂いと味がする。マーティンのペニスは反応してすぐに大きくなった。
「んっ!ぁっ・や、やめて・」
「オレはやめたいけど、ここはやめてほしくなさそうやで?」
マーティンは真っ赤な顔で首を振った。
ダニーはにんまりしながらトランクスを下ろすと、ペニスを口に咥えた。
口で扱いて舌を動かすと先走りがとめどなく溢れてくる。
「あぁっ・・だめだよ・・ぅぅっ!」
ダニーが焦らすと、マーティンの足がもどかしそうに小刻みに動いた。
内腿がひくひくしている。ダニーは先っぽだけ舐めてさらに焦らした。
「あぁっ、僕もうだめだ!」
マーティンはダニーの頭を固定すると自分から腰を振って射精した。
精液がドクドクと放出されている。ダニーはむせそうになりながら飲み込んだ。
「はぁっはぁっ・・ごめんね、僕、我慢できなくて・・・」
マーティンはすまなさそうに謝った。
「ほんまやで、オレの息が止まるとこや」
「・・ごめんなさい」
「悪いと思うんやったら今すぐキスしろ」
「え?あ、うん」
マーティンは言われるままに神妙な顔を近づけてくる。
かわいくなったダニーは思いっきり抱きしめて自分からキスした。
翌日、オフィスに出勤すると、サマンサがにやにやしながら近寄ってきた。
「はーい、ダニー、ドゲット捜査官は?」
「昨日、フィラデルフィアで事件が起きたから、最終便で移動しはったわ」
「残念ね、ダニー」
「何で?」
「うちのボスより、ドゲット捜査官のところで仕事したいんじゃないの?」
「何言うねん!俺はMPUを愛してる。ここが我が家や」
「どうだかね〜」
サマンサの奴、俺の心が読めるんか!
ダニーは焦った。
PCをつけるとマーティンからメールが届いていた。
「捜査会議希望@貴宅」
夜かいな!こいつもジョンのことに違いないわ。
ダニーはしぶしぶ「了解」と返信した。
その日は事件もなく、ダニーはXファイルの事件簿ファイルを開いて、じっと読んでいた。
こんな奇怪な事件ばっかり担当してはるんやな。殺人犯つかまるとええな。
ちょうど昨日の事件ファイルを開いている時、データが更新された。
「逮捕」という文字が出る。
「やった!」
思わず声を出すダニー。皆が驚いている。
「すまん」
周りに謝って、席を立った。
廊下に出てドゲットの携帯番号に電話する。
「はい、ドゲット」
「やらはりましたね!」
「テイラー捜査官か!奴がどじってくれたよ。被害者に抵抗されて傷を負ったんだ。ありがとう、それじゃまたな」
「はい、おめでとうございます!」
ダニーは自分の事件が解決したのより嬉しい気分になった。
夜になり、ダニーは上機嫌のまま、マーティンと待ち合わせをして、ブルックリンに電車で向かった。
「今日はタイ料理でええか?」
「うん、何でもいいよ」
マーティンの言葉が少ないのが気になったが、とりあえず食料確保だ。
タイ・キッチンに寄り、鳥ひき肉のバジル炒めとヤムウンセンに、パクチョイ炒め、
グリーンカレーにタイライスを買って帰る。
「ひー、寒いな、待っててな、ヒーター入れるから」
「うん」
マーティンはどっかりソファーに身を沈めた。
ダニーは、デリパックから料理を皿に移し変え、ダイニングに並べた。
ビールを冷蔵庫から出す。
「用意できたで」
ビールで乾杯して食べ始める。
「お前、なんや、元気ないなぁ」
「ダニーは元気いっぱいだね」
皮肉っぽい言い方だ。
「昨日手伝ってた事件が解決したんやて。なんかうれしゅうてな」
「ドゲット捜査官の事件だからじゃないの?」
「お前なぁ、何怒ってるんや」
「だって、ドゲット捜査官が来ると、ダニー、夢中なんだもん」
「さよか?捜査に協力してるだけやけどな」
「嘘だよ、顔つきから違うよ。まさか寝てないよね?」
「あほ!お前、そんなん言うたらドゲット捜査官に失礼やで!
あの人は離婚しはったけど結婚してたヘテロや」
「ダニーだって、ヘテロだったじゃん」
「それを、バイに変えたのはお前やろ!」
「だからダニーだってドゲット捜査官をバイに変えられると思ったんだよ」
こいつ今日はえらい鋭いな。
ダニーは言い負かされそうだ。
「とにかく寝てへんて。お前、最近おかしいぞ。ジョージの事も疑てんのやろ?」
「ジョージはゲイだもん」
「俺がそんな見境なく寝まくる男に見えるんか?」
「そんな事ないけど。ダニー、もてるから心配なんだよ。僕の気持ち分かってよ」
マーティンの青い目から涙がこぼれだした。
おいおい、涙かよ、これに弱いねん。
「おいおい、泣くな。料理も冷めるし、まずは食事終わらせよ。話はそれからや」
二人は無言で食事を終えた。
ソファーに移動し、まだ泣いているマーティンの背中をよしよしと撫でる。
「お前、俺を信じろ。それしか言えへんけどな、とにかく信じろ」
こくんとマーティンは頷くと、ダニーのパンツのフックをはずし始めた。
「お、おい!」
マーティンは、トランクスからうなだれたダニーのペニスを出すと口に含んだ。
やば!俺3連ちゃんや。出来るかな。がんばれ、俺のチンチン!!
マーティンの絶妙の舌技で、少し硬くなってきた。
そのまま段々勃起する。
マーティンは前後に口を動かし始めた。
口でイカせるつもりだ。
ダニーも息が荒くなってきた。
「はぁ、いいわ、お前、イクで」
マーティンは頷いている。
ダニーはマーティンの口の中に果てた。
ごくんごくんとダニーを飲み込むマーティン。
ヘンな顔をしている。
「なんか薄かった気がする。量も少ないよ」
「ごめん、昨日、アランとやったから・・・」
ダニーは必死でごまかした。
「そうか・・・わかったよ」
マーティンはベッドルームにすたすた歩いて行ってしまった。
ダニーはアランにブルックリンに泊まると電話し、マーティンの後を追いかけた。
朝になり、ダニーは先に目を覚ますと、ヒーターのスウィッチを入れた。
コーヒーを仕立ててから、シャワーを浴びる。
浴びていると、マーティンがバスルームに裸で入ってきた。
「一緒に浴びていい?」
うむをも言わさず、入ってくると、ダニーにディープキスを始めた。
「お前、そんな時間あらへんで」
「わかってる」
ダニーは先に出ると、歯を磨いてひげを剃った。
やっと傷が治り絆創膏が取れた。
「僕のも剃って」
「はいはい」
ダニーはマーティンの濃いブロンドのひげを剃ってやった。
こいつ胸毛もあるし、めっちゃ男らしい体つきしてんのにな、ゲイやなんて。
「何見てるのさ」
「お前、ええ身体してるなと思ってな」
「太ったからだめだよ。ジムに通いはじめたんだ」
「へぇ、えらいやん」
「エドに薦められてだけどね」
「さよか」
マーティンは俺を責めるくせに、自分かてエドとも寝てるやんか。
ダニーは少しマーティンがずるい気がした。
二人で髪の毛を乾かすと、コーヒーをぐいと飲み、「じゃあ、行こう」と家を出た。
寒さが身を切るようだ。
「手つなぎたいね」
「だめやて」
地下鉄の駅に走りこむ。
今度は人いきれで気持ちが悪くなりそうになる。
フェデラルプラザに着き、スタバでカフェラテを買って、オフィスに走りこむ。ギリギリセーフだった。
サマンサが昨日と同じスーツを着ているマーティンを見て
「何、また合コン?」と吐き捨てるように言った。
「いや、二人酒や」
ダニーはマーティンをかばい、席についた。
PCをつけると、ドゲット捜査官から簡単なメッセージが入っていた。
「捜査協力ありがとう。今年もよろしく。ジョン・ドゲット」
ダニーは小躍りしたい気持ちを抑え、メッセージを個人フォルダーに保存した。
早速返信を打つ。
「いつでもお役に立ちたいと思っています。またNYにいらしてください」
ちょっと強引かな・・・
迷ったが、ダニーは送信ボタンを押した。
昼になり、ダニーはマーティンといつものカフェに出かけた。
マーティンは、がつがつとチーズパスタを食べている。
ダニーは、チキンサンドとサラダだ。
「お前さ、そんなに炭水化物食ってたら、ジム行っても無意味なんちゃう?」
「いいんだよ、僕だってちゃんと考えてるんだから」
「それならええけどな」
やはりマーティンがとげとげしい。
今日はこれ以上マーティンに構わないことにしようとダニーは決めた。
定時になり、ダニーはまっすぐアランの待つアパートに戻った。
ドアを開けるといい匂いがする。
「ただいま!」
「おかえり、ハニー。もうすぐ夕食が出来るよ」
ダニーは部屋着に着替えて、キッチンに向かった。
鍋いっぱいのボルシチがぐつぐつ音を立てて煮えていた。
「わー、美味そうや!」
「身体が温まるだろう?ピロシキは買ってきたものだが、一緒に食べような」
「うん、楽しみや」
ダニーは家庭の味を満喫した。
ピロシキ2個と、山盛りのボルシチを食べ、ボルドーの赤ワインを飲む。
「昨日はごめんな、帰れなくて」
「心配したぞ、どうしたんだい?」
「マーティンが半ストや。俺がDCの先輩捜査官と仲が良すぎるいうて、へそ曲げた」
「へぇーDCの先輩捜査官か?どんな人なんだ?優秀なのかい?」
「それはもう。海兵隊出身で、めっちゃ真面目な人やで。俺の理想の捜査官や」
「お前がそんなに言うならそうなんだろう。僕も嫉妬してしまうな」
「でもヘテロやし」
「そうか、それじゃ嫉妬は撤回だ。そうだ、明日は買い物に付き合ってくれるかな?」
「うん、ええで。何買うん?」
「そろそろワインのストックが手薄になってきたから、ディーン&デルーカで品定めだ」
「よっしゃ。荷物運びやるわ」
「ありがとう、ダニー」
「ええって」
二人は微笑み合った。
いつものようにバスに一緒に入り、ベッドに直行した。
アランが求めてこないのがありがたい。
いくら俺でも4連チャンは無理やて。
アランがダニーの身体に腕を巻きつける。
ダニーはアランのシルクのパジャマの広い胸板に顔を押し付けて、
静かに目を閉じた。
ダニーはキスの最中、こっそり目を開けた。
湿った音を立てながら舌を絡めると、目を閉じたマーティンがうっとりしながら自分のキスを受け入れる。
マーティンが自分に夢中なのは間違いない。もし舌を噛んでも抵抗すらしないだろう。
愛されている実感と同時に、それが怖ろしくも思える。
100%を求められても自分に返せるのはせいぜい80%だ。ただ、傷つけるのだけは避けたい。
それを思うと、マーティンの背中に回した手に自然と力がこもる。
同じように抱きしめ返されてダニーも再び目を閉じた。
マーティンがごそごそとトランクスに手を入れてペニスを握ってきた。
緩急をつけながら扱かれ、ダニーのペニスは急速に硬くなる。
「気持ちいい?」
「ああ。早よ入れたい」
「待ってて」
マーティンは急いでベッドルームからローションを取ってきた。
恥ずかしそうにローションのボトルを渡し、自分からトランクスを脱ぎ捨てる。
ダニーはローションをペニスに塗りたくると、マーティンの腰を掴んで座らせた。
抱き合ったままキスして、十分になじませてからゆっくり動かす。
ネクタイが邪魔で後ろに放り投げ、お互いに荒い息を吐きながら、焦らすように腰を揺らした。
「ダニィ、僕のペニスにも触って」
「ん?後ろだけでイケるやろ?めちゃめちゃひくついてるで」
「・・ダニィはいじわるだ」
「そうか?」
ダニーは腰を掴むと大きくグラインドさせた。首にしがみついたマーティンの喘ぎ声が耳に響く。
「ああっ!そ、そんなに締めんな、イキそうや!うぅっ・・くっ」
「んっあっぁぅっ・・イッてもいいよ、僕も出ちゃう!」
我慢できなくなったダニーが激しく突き上げて果て、マーティンもしがみついたまま射精した。
貪るようなキスからようやく体を離した二人は、お互いの唇を見て吹き出した。
二人とも唇が真っ赤になって腫れぼったくなっている。
「お前の口、アンジェリーナ・ジョリーみたいや」
「ダニーもね」
二人はけたけた笑いながら、軽いキスを交わした。
「腹減ったな。ピーター・ルーガーに行きたいけど、この口やったらやばいかな?」
「やばくてもいいよ、ダニーとおそろいだもん」
「いや、あかんて。やっぱやめや。オレが何か作ったるわ。先にシャワー浴びてき」
ダニーはマーティンの髪をくしゃっとして立ち上がった。
シュリンプグラタンを冷凍庫から出していると、マーティンがぴとっとくっついてきた。
後ろから抱きつかれて思うように動けない。
「こらこら、邪魔したらできひんやん」
「あ、ごめん。僕んちのグラタン、全部食べちゃった」
「わかった、また作ったるわ」
「ん、ありがと。ダニーのはどこよりもおいしいよ」
「そうか?サンキュ。お前も何か作る?」
「ううん、僕はダニーが作るのを見てる」
マーティンはダニーがグラタンをオーブンに入れるのをじっと眺めた。子どもみたいにわくわくしている。
「お前はトロイか!」
「だって、作るとこ見るのおもしろいんだもん」
屈託なくにこにこされ、ダニーもつられて笑った。
「ほら、卵割り。3個な」
「いいけど、何作るの?」
「スパニッシュオムレツ。そやな、サラダも作るからトマト洗ってくれ。そのあと皮剥いて」
「ん、わかった。生ハムいっぱい入れてね」
ダニーはじゃがいもを茹でながら、マーティンの様子を見守った。どことなく怪しい。
ぎこちない手つきでトマトの皮を剥こうとしている。
「ちゃうちゃう、トマトをフォークに刺して火で炙るんや」
「火で?燃えない?」
「一瞬でいいんや、皮がはじけたら剥けるから」
大きく頷いたマーティンは、これ以上ないぐらい真剣にトマトを炙っている。
ベロンと剥けた薄皮を手に、誇らしげにこっちを見ているのが可笑しい。
ダニーは大げさに褒めてやりながら、スパニッシュオムレツに取りかかった。
ダニーがデスクでファイル整理をしていると、携帯がふるえた。アランだ。
「はい、テイラー」
「ダニー、今日、学会の友達と食事したいんだけど、いいかな?」
「もちろん。俺も適当に食って帰るから」
サマンサがくすくす笑ってる。
「相変わらず仲がよろしいことで」
「ええやん、恋愛順調!」
ダニーはおどけて、ファイル整理に戻った。
定時に仕事が終わり、まっすぐ帰って、昨日のボルシチの残りでも食べようかと思ったが、
足は思わず、ブルー・バーに向かっていた。
エリックが会釈する。
カウンターに座ると、エリックが「待ち人が来てますよ」と耳打ちした。
「ダニー!」ジョージだ。
「よう、元気か?」
「まだ、新年の買い物に来てくれませんね」
「色々忙しいんや」
「寂しかったですよ」
「また口がうまいよな、お前」
「一緒に飲んでいい?」
「もちろんや、エリック、ジョージにお代わり。俺にモヒート」
「はい」
エリックはジョージを一瞥すると、奥に下がった。
「そや、お前、飯食った?」
「いいえ、まだだけど?」
「一緒に食わへんか?」
「ええ?いいの?」
「あぁ、今日は一人飯やから、相手がいる方がええ」
二人はカクテルを飲み終えると、リトル・ジャパンの「一風堂」に行った。
行列が10人くらいだ。悪くない。
「ニューヨーカーで読んで、来たいって思ってたんだけど、勇気がなくって」
「お前、ほんま慎重派な!」
「ははは!そうですね」
二人は店内に案内された。
今日はテーブル席だ。
「おすすめは何ですか?」
「トッピングが全部乗ってるスペシャルが美味いで。それとチャーシューってBBQポークとネギ飯ってライスや」
「じゃあ、僕、それにします」
二人はチャーシューをシェアしてビールを飲んだ。
ネギが一面に乗っているライスにびっくりするジョージ。
「これがめちゃ美味いんや」
ジョージは一口食べてみる。
「本当だ!臭くないや!」
がつがつとジョージは食べた。
麺も替え玉を2枚も頼み、とろとろの半熟タマゴに驚いていた。
「タマゴもすごく美味しい!」
「お前が気に入ってよかったわ」
「ダニーってグルメですね」
「そんなんやないで」
ダニーは悪い気がしなかった。
食事を終え外に出ると、北風がさらに強くなっていた。
マイナス10度くらいじゃないだろうか。
「これからどうします?」
ジョージの目は期待できらきら光っている。
ダニーは、まだ体力に自信がなかった。
「ごめん、今日はこれでお開きや。明日早いんでな」
「そうですか」
肩を落とすジョージ。
「でも約束は忘れてないで」
「本当?」
「ああ、FBIはウソはつかへん」
「良かった!!」
二人は、タクシー乗り場で別れた。
ジョージがぎゅっと手を握った。
ダニーがマディソン街を北上していると、レストラン「ヴォン」の前の信号で車が止まった。
ぼんやり「ヴォン」のドアを見ていると、中からアランが出てきた。
窓を開けて呼ぼうとすると、次にジャック・ラズロが出てきた。
二人はハグしている。
何や!アランの奴!学会の友達ってジャックのことやないかい!!
なんでウソつくんや!!
ダニーはタクシーの前のシートを蹴飛ばした。
「おいおい、お客さん、やめてくれよ!」
「あ、ごめんな」
ダニーはくさくさしながら、アッパーウェストサイドのアパートの前で降りた。
部屋に入り、スーツを脱ぎ散らかして、部屋着に着替え、バスにお湯を張る。
久しぶりに一人で入る風呂だ。
好きなラベンダーのオイルとバブルバスを入れ、ばしゃばしゃ泡を飛ばした。
バスから出て、ギターをつまびいてみる。
まだアランは帰ってこない。
ダニーは、ギターを部屋の角に立てかけると、ベッドルームに入った。
パジャマに着替え、横になる。
一人で寝るのが余計に寂しい。時計を見ると12時だった。
もう俺、知らん、アランなんか大嫌いや!!
ダニーは、薬棚から睡眠薬を出して、口に放り込み、目を閉じた。
ダニーが目を覚ますと、隣りでアランがすやすや寝息を立てていた。
静かにベッドから降りて、コーヒーを入れる。
脱ぎ散らかしたスーツが綺麗に片付けてあった。
ダニーはシャワーを浴びて、しゃきっとすると、新聞をダイニングの上に置いた。
アランが起きてきた。
「おはよう、ダニー」
「おはよ、昨日、遅かったんやな」
「あぁ、食事の後でバーに出かけてしまってね」
「何時に帰ってきた?」
「2時くらいかな?」
「ふうん」
「何だ、どうした?」
「何でもない、スーツ片してくれたんやね」
「お前も酔ってたのか?」
「うん・・・そんなとこや」
「朝食を作ろう」
アランはシャワーを浴びて出てくると、手際よく、パストラミサンドを作って、ジップロックに入れた。
「はい、オフィスで食べなさい」
「うん」
ダニーは偽善臭い会話に我慢できなくなり、ジップロックを乱暴に受け取ると、ソフトアタッシュに入れて、
「それじゃ、行ってくる」とアパートを出た。
オフィスに行ってもダニーの機嫌は直らなかった。
「どうしたの?ダニー、昨日は上機嫌だったじゃない?」
「俺かて悩みくらいあるわ」
「今日ならドクター・スペードあいてるわよ」
サマンサは、ダニーの肩に手をかけて、自分の席に戻っていった。
そやな、サマンサにでも、聞いてもらおか。
ダニーはアランの留守電に外食する旨の伝言を残した。
ダニーはサマンサとデルアミコに繰り出した。
「おぉ、命の恩人!今年もごひいきに!」
デルアミコが深々と挨拶するので、ダニーは恥ずかしくなった。
「もうええて」
「奥の席へどうぞ」
二人はアンティパストの盛り合わせと、ホロホロ鳥のソテーをメインに、ポルチーニ茸のリゾットとパスタ・マリナーラを頼んだ。
ぱくぱく食べるサマンサの食欲が羨ましい。
ダニーの食は一向に進まなかった。
「どうしたの、ダニー・テイラー」
「それがな、付き合ってる奴の元彼がな、シカゴから越してきた」
「へぇ、例の年上の人の元彼?」
「そや。二人で俺にだまって食事に行ったりしてる」
「そりゃ、彼女だって、ダニーに言えるわけないわよ。元彼、まだ彼女にお熱なの?」
「分からん。でも同業者やから、色々アドバイス求めたりしてるらしい」
「同業者っていうのが辛いわね、何してる人?」
医者といったらモロばれや。
「不動産売買」
「そりゃ、シカゴとNYじゃ市場も違うから、アドバイス求めたくなるわね、
でもダニーはそれが許せないんだ」
「めちゃむかつく」
「彼、いい男?」
「あぁ、標準以上」
「そりゃまた、災難だわね〜、ダニー。でも、あなただって標準以上なんだから、自信持ちなさいよ」
「俺、イケてるか?」
「ばか!大丈夫よ。事務方のスタッフの間だとあなたとマーティンのファンクラブがあるらしいわよ」
「へぇ、ほんま?」
ダニーは少し気を良くした。
「要は気にしないことね。だって現実の彼はあなたでしょ?彼女をしっかり捕まえとくのよ。
心を広くもって。元彼と会ってるのさえ、許すくらいの度量を見せるの!彼女だってそんなダニー見たら惚れ直すってば」
デザートの時間になった。
デルアミコはチョコレートケーキにキャンドルを立てて持ってきた。
「二人、お似合いね、ロマンチックナイトね」
「ちゃうねん!」
サマンサは大笑いしている。
「サマンサはどやねん、その・・・ボスと・・・」
「あぁ、オイスターに中ったからもろバレよね。一緒にクリスマスとニューイヤーを過ごしたわ」
「よかったやん」
「まぁね。ジャックはあの通り温かい人だから、私が孤独なのを見てられないだけなのかもしれない。わからない」
「でも一緒にいる時間は貴重やで」
「そうよね、ありがと、ダニー。なんだか心が明るくなったわ」
二人でエスプレッソを飲みながら、チョコレートケーキを平らげた。
デルアミコがグラッパを持ってきたが、丁重に断り、二人はタクシー乗り場で別れた。
「サム、ありがとな」
「役に立てたかしら」
「なんか、うまくやれそうや」
「良かった、ダニーが元気じゃないなんてシャレにもならないし。じゃ、また明日オフィスでね」
「おやすみ、サマンサ、気をつけてな」
「おやすみ、ダニー」
ダニーは昨日サマンサに話を聞いてもらった事で、随分気分が楽になっていた。
そや、今つきおうてるのは俺やし、一緒に暮らしてるのも俺や。俺が自信なくすことないやん!
今度、ジャックをディナーに招待してやろ、それで俺らの絆を見せ付けてやる!!
ダニーは敵対心に燃えていた。
ダニーは家に帰ると、早速アランにジャックをディナーに招こうと提案した。
「え?だってお前、あいつの事嫌いなんだろ?」
「シカゴから引っ越してきたばかりで可愛そうやん。家で俺が料理したるわ」
「本心かあ?いいのかな?」
「アランが電話するの嫌なら俺がしてもええよ。電話番号教えて」
アランは携帯番号をダニーに渡した。
「どこに住んでるん?」
「この近くのアパートを借りたようだよ」
「そうなん?」
ダニーは少し嫌な気がした。
「ライバル業者が近くで開業しても、アランはええの?」
「仕方がないだろう。ジャックが決めたことだから」
「そうなんか」
ダニーは、アランが意外に気にしていないのに驚いた。
精神分析医の需要は供給が間に合わないほどなのだ。
「ディナーの件は、僕から伝えよう。次の週末でいいかい?」
「もちろん。腕によりかけてびっくりさせたるわ」
ダニーは燃えた。
帰りにリゾーリに寄って、新しい料理のレシピ本を何冊か買い求める。
パシフィック・リムのフュージョン料理が相変わらず流行りのようだ。
ダニーは寝る前必ず、一つ料理を読んでから寝るようにした。
アランが声をたてて笑っている。
「お前の料理の実力は、そのへんのレストランのシェフに負けないよ、そんなにがんばらなくても大丈夫だって」
「どうせなら、美味しいもの食ってもらいたいと思うてな」
ダニーはそうウソをつき、ベッドサイドランプを消した。
土曜日になった。ダニーは買い物に出ると言って、午前中から出かけた。
アランはやれやれと思いながら、ジャックに電話した。
「今日のディナーなんだが、都合は大丈夫か?」
「もちろん。ダニーの料理が楽しみだよ」
「それじゃ7時に」
「それじゃね」
昼過ぎにダニーが戻ってきた。
アランが用意したコールスローとパスタ・アラビアータをぺろっと平らげる。
「なぁ、僕にもメニューは秘密なのかい?」
「そう重要機密や。アランは、書斎で仕事するか外出でもしててくれへん?
あ、ワインだけは選んでほしいから6時半にはいてほしい」
「わかったよ」
アランは、書斎にこもってネットでドクター・フリーの掲示板のメンテをして時間をつぶした。
6時半になり、アランはキッチンに向かった。
ダニーはエプロンをして大忙しだ。
「まず何だい?」
「アヒポキ、ハワイの前菜や。マグロの赤身とネギをゴマ油のドレッシングであえた。
それからイカとエビの春雨サラダ、これはタイ風な。ハーブが効いてる。メインは神戸牛のローストビーフ。
花寿司のおやじさんに教わったゴマソースにした。ガーデンサラダはアンティチョークとアスパラガス。バルサミコソースや。
それからデザートはクレーム・ブリュレ」
「すごいじゃないか!」
「朝飯前やて」
ダニーは鼻の穴を大きくして威張った。
「それじゃあ、シャンパンはドンペリで行こう。あとは赤ワインがいいから、シャトー・ラトゥールを開けようか」
「ありがと、アラン」
「お前は天才だよ!」
7時になり、ジャックがやって来た。
ダッフルコートを着ており、いつもの威圧感がない。
「今日はお招きにあずかりまして」
オーパスワンをアランに渡す。
「おお、ありがとう。まぁ、ソファーに座ってシャンパンでも飲んでくれ」
ジャックはコートを脱ぐと、くつろいだ様子でソファーに座った。
アランがノラ・ジョーンズの新譜をかける。
「ダイニングへどうぞ!」
ダニーが叫んだ。2人がダイニングに付く。
アヒポキとヤムウンセンが並んでいる。
ジャックはぱくぱくと美味しそうに食べている。
「このマグロの料理は何?」
「ハワイの料理」
「美味しいよ。ダニー。ヤムウンセンもスパイスがよく効いている」
「ありがと」
次にメインのローストビーフにゴマソースをかけて出した。
「うわ、豪勢なしゃぶしゃぶみたいだな」
ジャックはこれもぺろっと食べた。
ガーデンサラダもつまみ、デザートまでつつがなく進んだ。
ワインもシャトー・ラトゥールの後、ジャックが持ってきたオーパスワンまで空いた。
ダニーがコーヒーを運んでいると、ジャックが言った。
「アラン、今、最高に幸せみたいだね」
「あぁ、ダニーがいて、僕は最高に幸せだよ」
ダニーは心の中でガッツポーズをした。
アランがトイレに立っている間、ジャックが言った。
「ダニー、今日のところは君の完勝だ。次は僕の招待でディナーをどうだ?」
「もちろん!受けてたつで」
「それじゃ、約束だよ」
二人は握手をして、ジャックは帰っていった。
ダニーの心の中には達成感と挑戦を受けて立つ闘魂が燃えていた。
ダニーはトマトを食べようとして、ふと手が止まった。
「なぁ、マーティン」
「ん?」
「オレ、この前もお前にトマトの皮の剥き方言わなんだか?」
「そうだっけ?うーん、そうかもしれないけど、忘れちゃった」
マーティンはトマトを一度に二つ突き刺すと口に入れた。
「お前な、教えたらちゃんと覚えろや」
「いいんだよ、僕は食べる人なんだから!ほら、冷めるよ」
マーティンはシュリンプグラタンに勢いよくがっついた。
―しかし、よう食べるなぁ・・・
ダニーは自分の分を口に運びながら心の中で思った。
事件の話をしながら食事をしているとインターフォンが鳴り、出るとスタニックだった。
ダニーはまずいと思ったが、ヘンに隠すとマーティンに怪しまれる。
平静を装ってマーティンにスタニックが来たことを告げ、エントランスのロックを開けた。
「なんでフランス人が来るのさ?」
「オレの連れなんやからしゃあないやん。普通にしとけ。わかったな?」
「・・・・・」
マーティンはあからさまに不機嫌な表情を浮かべる。
ダニーはなだめるようにキスしてドアを開けに行った。
ダニーがドアを開けると、スタニックが思いつめたように立っていた。
何か言いかけるのを首を振って遮る。
「よう、スタニック。今マーティンとメシ食ってんねん。お前も食うか?」
ダニーはそう言いながらごめんと手を合わせた。スタニックは渋々頷いている。
「まあ入りいな」
スタニックを中に入れてドアを閉めると、調子を合わせろと耳元でささやいた。
ダニーは内心びくびくしていた。バーの時みたいにキレられたら困る。
「あ、いらっしゃい」
マーティンが普通に声をかけ、スタニックも普通にお邪魔しますと言った。
とりあえず二人ともいつものように挨拶を交わしたのでほっとする。
「はい、お前の分。オレのと半分やけど堪忍な」
ダニーはシュリンプグラタンを取り分けたお皿をスタニックの前に置いた。
マーティンに左足を蹴られたが気づかないふりをする。
「ありがとう・・いただきます」
スタニックは静かに食べ始めた。
「今日は休みか?」
「いや、もう行かないんだ」
「ウソ?モンキーバーやめたの?」
ダニーが口を開くより先にマーティンが訊ねた。
「うん。どこか仕事探さないとね」
スタニックは悲しそうに微笑んだ。
ダニーは昨日のことが原因でクビになったに違いないと思った。
それなら自分にも責任がある。
おとなしく食事をしているのを盗み見ながら、ダニーは複雑な思いだ。
食事の後、マーティンにスタニックを送ってくると言って部屋を出た。
またムッとするんじゃないかと心配したが、いつもと違ってスタニックを愛想よく送り出してくれたのがありがたかった。
車に乗ると肩を掴んで自分のほうを向かせる。
目をじっと見つめると、スタニックは困ったようにうつむいた。
「ほんまはクビになったんやろ?」
「・・・・・・」
「なぁ、ほんまのこと言うてみ」
「そうだけど仕方ないよ。何を言われたってお客様の前でキレたオレが悪いんだ」
「あいつか?あのあほがいらんこと言うたんやろ?オレがフロアマネージャーに言うたるわ」
ダニーは心配ないと言いながらぎゅっと抱きしめた。
嫌がるスタニックを連れてモンキーバーに行くと、フロアマネージャーを呼んで昨日のことを説明した。
ダニーの説明でフロアマネージャーも納得して快く復職を許してくれた。
制服を返してもらい、早速着替えるためにロッカールームに行った。
「よかったな。フロアマネージャーもお前は真面目やし、よう働くって言うてくれたやん」
「・・うん」
「オレ、カウンターで待ってるから」
ダニーはスタニックの作ったドライ・マンハッタンを飲んでアパートに帰った。
「ただいま。ごめんな、お前のことほったらかして」
ダニーは抱きしめて頭のてっぺんにキスした。
「うわっ、頭、汗くさいで」
「だってダニーと運動したもん。一緒にお風呂に入ろうと思って待ってたんだよ」
「そっか、よし入ろう」
ダニーはマーティンの手を引っ張ってバスルームへと向かった。
ダニーは昨日の疲れからか、昼過ぎまで寝ていた。
アランは、キッチンを片付けながら、二人の確執について考えていた。
自分が愛しているのはダニーに間違いない。
しかし、騙し取った現金に利子をつけて返してきたジャックの立派な医師の姿にも、
なぜか感銘を受けていた。
現金を騙し取った理由を聞けば聞くほど、同情を禁じえなかった。
ジャックともう寝るつもりはさらさらないし、恋愛関係に陥る事もないだろう。
アランは自分に言い聞かせるように、つらつらと考えていた。
「うーん、おはよー」
ダニーが目をこすりながら起きてきた。
パジャマの前がはだけていてセクシーだ。
朝立ちしている下半身が余計にそそる。
「シャワーしなさい。軽いランチを作ろう」
「うん、わかった」
ダニーは、バスルームに消えた。
アランは昨日の残りのローストビーフにゴマソースをたらし、サンドウィッチを作った。
コーヒーはブルーマウンテンだ。
サンドをオーブントースターで温めていると、ダニーがシャツにセーターを着て出てきた。
「コーヒー飲むだろ?」
「うん、まだ眠いわ」
「昨日頑張ったからな。ディナー、最高だっだぞ!」
「ほんま!俺、すげー嬉しいわ」
ダニーは満面の笑みを浮かべた。
二人でローストビーフサンドを食べながら、昨日のメニューの話をした。
ダニーは嬉しそうにレシピーをアランに明かした。
随分凝ったものを作ったものだ。アランは半ば呆れた。
「今度、ジャックが俺らを招待するって言うてたで」
「ほう?奴は料理ができないはずなんだが?」
「へぇ、そうなん?」
ダニーは一つ勝ち点が加わった気持ちになった。
2週間後の土曜日、ジャックが二人を招待してきた。
ドレス・コードつきだ。
それも午後4時にJFK空港が待ち合わせ場所だ。
「何やろね?」
「さあな、とにかく行ってみよう」
二人はコートの下にスーツを着て、JFK空港の待ち合わせ場所に行った。
ジャックが笑顔で手を振っている。
「ようこそ、これからちょっと空の旅を味わってもらってもいいかな」
「??」
3人は、プライベートジェットの搭乗口に向かった。
「お前、飛行機買ったのか?」
「ううん、チャーターだよ。さぁどうぞ」
チャーター機の中ではスチュワードがシャンパンを振る舞い、
キャビアのカナッペを出してきた。ダニーはすっかり面を食らっている。
「どこに行くんだい?」
「サンフランシスコ、新鮮な魚介料理が食べたくなってね」
ほどなくサンフランシスコ空港に着いた。
空港にはリムジンが待機していた。
リムジンはフィッシャマンズ・ワーフで止まった。
3人はギラデリ・スクウェアの中の「マコーミック&シュミックス」に入った。
「ラズロ様、お待ちしておりました」
3人は窓際のテーブルに案内された。店内は満員だ。
席からアルカトラズ島が見える。
「あれ、アルカトラズ?」
ダニーが尋ねた。
「そう。あそこが悪名高い刑務所の場所ですよ」
ジャックが答える。
ウェイターが「今日の仕入れ」を説明する。
鱈、ハタ、太刀魚、サーモン、まぐろに平目がお勧めだそうだ。
「それじゃあ、お約束で、オイスターシューターとダンジネスクラブのクラブケーキをシェアしましょうか?」
ジャックがリードする。
アランはメインにハタの醤油蒸し、ダニーは太刀魚のグリル、ジャックは鱈のホットポットを頼んだ。
それにロメインレタスのシーザーズサラダをつけて、オーダーは終わった。
ジャックは、ドン・ペリニオンをまず開けて、乾杯した。
「お前が招待っていうから、料理もできないのに、どうなることかと思ったよ」
「ふふ、これってプリティー・ウーマンぽいでしょ?一度やってみたかったんだ」
ジャックは答えた。
ダニーはひたすら驚いていた。
NYからサンフランシスコまで連れてきて食事?俺には出来へんわ。
ダニーは敗北感に支配されていた。
食事が終わり、またリムジンで空港に向かう。
チャータージェットでNYに戻る。
中では、チーズの盛り合わせとブランデーのサービスだ。
JFK空港に着いた。
ジャックは「それじゃ、これからもよろしく!またご飯食べましょう!」と言って、去っていった。
ダニーとアランは駐車場に向かった。
ダニーは終始無言だ。
「ダニー、ばかな事考えるな」
「考えてへん」
「顔に書いてある」
「俺、ジャックに負けたくない!」
「ばか!お前なしの人生は考えられないって言ってるだろう。ジャックが何をしようと彼の勝手だよ」
アランは、ダニーのおでこにキスをして、ジャガーの鍵を開けた。
仕事を終えたダニーは、サマンサと話しながら一緒に下に降りた。
支局の前の路上にスチュワートのTVRがハザードをつけて停まっている。
今、一番会いたくない相手だ。ダニーは気づかないふりをして足早に歩き出そうとした。
「ダニー、待って!ドクター・バートンがいるの」
目ざとく見つけたサマンサは、返事を聞くまでもなく近寄っていった。ダニーも仕方なく後に続く。
「ドクター・バートン、お久しぶりです」
「やあ、サマンサ。元気そうだね」
「ええ、この前の予防接種が効いてるみたいなの」
「よかった。たまには君に会いたいな」
サマンサは口をキュッと結んで照れ笑いを浮かべている。
ダニーはあほらしいと思いながら二人の会話を聞き流した。
「マーティンならまだ少し仕事が残ってるから、あと一時間は帰れないと思います」
「一時間?マジかよ・・オレの携帯、充電が切れちゃってさ、連絡が取れないんだ」
「それなら上で待てばいいわ。ここじゃ寒いもの。私、駐車用の証票を取ってきてあげる」
サマンサはにっこりすると支局へと走っていった。
「機嫌が悪そうだな、テイラー。オレと会うのは気まずいか?」
「まあな」
「今日は素直だ。かわいいじゃないか」
スチュワートはにんまりするとダニーのほっぺをつついた。
「お前、これからジェニファーに会いに行くんじゃないだろうな?」
「そんなわけないやん」
「本当か?」
「ああ、ほんまや」
「それじゃ、オレと一緒に来いと言っても支障はないよな?」
「はぁ?お前はあいつとデートなんやろ?オレがいてたら邪魔やん」
「邪魔じゃないさ。気にするな」
ダニーが断ろうとしたところにサマンサが息せき切って戻ってきた。
「はいっ、これ。ダッシュボードの上に置けば駐禁にならないから」
「こんな車でもいいのかな?FBIらしくないけど・・」
「いいの、いいの!こっちの窓開けて」
サマンサは有無を言わさず証票を置いた。車から降りたスチュワートは半信半疑で自分の車を眺めている。
「戻ってきたらレッカーで移動されてたりして」
「これなら大丈夫よ、私が保証する!そうだ、支局の中も案内しましょうか?」
「いや、以前入ったことがあるから大丈夫だ。ありがとう。この駐車証票はどこでも使えるのかな?」
「もちろん。合衆国全域で有効よ」
「そりゃすごいな。オレにもくれよ」
「えっ!あげたいけどだめよ。ドクター・バートンは捜査官じゃないから連邦法違反になっちゃう」
「残念だな。でも、ありがとう。助かったよ」
スチュワートはサマンサのほっぺにキスした。サマンサはまた口をキュッと結んで照れている。
「それじゃ、失礼します」
「ああ、ありがとう。寒いから風邪引くなよ」
「はい、気をつけます。もし風邪引いたら診てくださいね」
サマンサはにこにこしながら帰っていった。完全にダニーのことを忘れている。
「サマンサはやさしいな。親切だし」
「お前にはな。いっつもなんやかんやうるさいで」
「ジェニファーもそうさ、女はうるさいからな。ん?いいニットキャップだ」
スチュワートはダニーの頭に手を置いた。
「やめろや、頭さわんな。ほら、支局の中に入るんやろ。監視カメラあるから、キスとかするなよな」
ダニーは手をのけると先にたって支局に戻った。
二人がオフィスに戻ると、マーティンがデスクで一心不乱に何か記入していた。
「どれどれ、少しはきれいな字になったか?」
マーティンはスチュワートの声に驚いてきょとんとしている。
「スチュー!何度も電話したけど全然つながらなかったんだよ」
「ごめんな、充電切れだ」
「オフィスに来るなんてびっくりしたよ」
「下でサマンサに勧められたんだ。あ、今夜はテイラーも一緒に食事することになったから」
「あのなぁ、オレはほんまは帰りたいんやけどな」
コーヒーを運んできたダニーは仏頂面で訂正した。ねちねちいじられるぐらいならジムに行ったほうがまだマシだ。
「バカ、さっきまで寂しがってたろ。オレたち、向こうで待ってるからゆっくりやれよ」
物珍しそうにあれこれ質問してくるスチュワートに生返事を返しながら、ダニーは面倒なことになったと思ってため息をついた。
その晩、ダニーは眠れなかった。
チャーター機で西海岸なんてどんな散財やろ。俺には一生無理や。
アランは気持ち良さそうに小さないびきをかいていた。
アランのあほ!俺、もっと不安になった。ジャックには絶対に負けへん。
俺なりのやり方で、絶対アランを俺のものにしたる!!
ダニーは明け方近くになってやっとうとうとし始めた。
次に目が覚めたら午後2時だった。
ベッドルームから出るとアランがリビングでファイナンシャル・タイムズを読んでいた。
「よく眠れたか」
「まぁまぁ」
「ピタサンドを作ってあるから、シャワーを浴びてきなさい。」
「うん」
ダニーは、考えていた。
成功した精神科医vs司法省の捜査官、アランが経済的に困っていたら選択は決まっている。
しかしアランも良家の出でどれだけ資産を持っているか想像が付かないほどの金持ちだ。
仕事もうまくいっている。
アランは、何で俺を選ぶって言ってくれたんやろ。
ダニーは理解出来なかった。
シャワーから出て、部屋着に着替え、ダイニングにつくと、コーヒーとチキンのピタサンドが置いてあった。
「これから、医学誌の原稿を書くから書斎にこもるよ」
「わかった。俺、ちょっと出かけてくるわ」
「帰りは夕方かい?」
「夕飯までに帰る」
「それじゃ、何か作っておくよ」
「ありがと」
ダニーはマスタングのエンジンをかけ、バーニーズ・ニューヨークに出かけた。
コンシェルジェデスクにジョージがいる。
「ジョージ」
「あ、テイラー様、今日はどのようなご用向きで?」
「食事をご馳走になった人にお返ししたいんや」
「男性?女性?」
「男性や」
「それでは、アスコットタイなどはどうでしょう?髪の毛の色と目の色は?」
「俺と同じ」
「それなら意外とピンクなど合いますよ」
「それでええわ。お前にまかせた」
ダニーは、ソファーに座ってジョージが商品を持ってくるのを待っていた。
3種類のうち一番渋い柄を選ぶ。
「それではお包みいたしますね」
「頼む」
ダニーは、アメックスでチェックを済ませた。
「なぁ、お前、今日、早退できへんの?」
「え?」
「無理?」
「急病にします」
表玄関で待っていると、私服に着替えたジョージが飛んできた。
「ダニー、どうしたの?」
「お前と飲みたい思うてな、つきおうてくれるか?」
「もちろん!」
二人はブルー・バーに出かけた。
エリックが一瞥する。
テーブルに座って、カクテルを頼んだ。
エリックがピンチョスを作って持ってきた。
「サンキュ」
「いいえ」
「ねぇ、ダニー、一体どうしたの?」
「俺な、昨日、ある人の招待でサンフランシスコにチャーター機で出かけてディナーしたんや」
「すごい!」
「どれくらいかかると思う?」
「さぁ、見当もつかないよ」
「それのお礼がアスコットタイじゃ笑われるやろか?」
「気は心ですよ。ダニー、落ち込まないで。その人ってダニーの友達?」
「いや、アランの方」
「そうだと思った。あの人たちはあの人たちなりの価値観があるんですよ。僕らには分からない」
「そやな」
「いい事考えた。今度はシカゴでステーキ食べましょうってカードつけましょう」
「うん?」
「そう、あんな事何でもないよって思ってるって印ですよ。それにいかにも普通のギフトでしょ、タイなんて。」
「お前、頭いいな」
「色々なお客様の要望を聞いてると、ヘンな知恵もつくんだよ。少し気が楽になった?」
「ああ、お前に早退させてごめんな」
「ダニーのためならいつでも早退するよ」
ジョージは目をきらきらさせて答えた。
「お前、ほんまに優しいな」
「それだけがとりえだし」
ジョージは照れたように笑った。
二人はテーブルの下で手をつないだ。
「今度な、時間つくるから、お前んとこ寄るわ」
「本当?」
「ああ、絶対にほんまや」
「嬉しい!ダニー大好きだよ!」
「俺のどこがいい?」
「全部!」
「あっこが傷だらけでもええんか?」
「僕が癒します」
「俺もお前が好きや」
「わー、今の録音したいくらいだ!」
「そろそろ出ようか」
「はい」
ダニーはチェックを済ませて、ジョージとバーを出た。
二人はタクシー乗り場までやって来た。
ジョージの明るい笑顔が、ダニーの落ち込んだ気持ちを少し明るくさせてくれた。
「それじゃ、ジョージ、またな!」
「ダニー、元気出してね!」
二人はそこで別れた。
ダニーの内線が鳴った。
「テイラー。ああ、俺の知り合いやから通してやってくれ」
エレベータで上がってきたのはジョージだった。
珍しそうにきょろきょろしている。
マーティンが顔を上げて、訝しそうな表情をした。
「おい、こっちや!」
「あ、ダニー!」
応接室に案内する。
「FBIっていうから特別なオフィスかと思ったら、普通の会社みたい」
「そんなもんや。今日はどうした?」
「あのアスコットタイにつけるカード書いてきたから、持ってきたんです」と
小さな封筒をポケットから出した。
中には白いカードが入っており、美しいカリオグラフィーの文字で「次はシカゴでステーキを食べましょう。ダニー・テイラー」と書いてあった。
「これ、お前が書いたん?」
「うん、だめ?」
「や、すげー綺麗な文字や。習ったんか?」
「コンシェルジェですから。使ってくれる?」
「もちろんや、ありがとな」
「ダニーのためなら何でもやる」
「そんな事言うてええんか?」
ジョージは照れた顔でこくんと頷いた。
「それじゃ、これで」
「また、飯食いに行こうな」
「うん、その後も楽しみにしてるからね」
ジョージは、バイバイと手を振りながら帰っていった。
マーティンがすかさずやって来る。
「どうして、ジョージが来たのさ?」
「あいつに買い物頼んでたんや、配達に来てくれた」
「ふうん、そうなの?」
信じていない顔で、マーティンは席に戻っていった。
ダニーはカードを大事そうにソフトアタッシュの中にしまいこんだ。
マーティンから「捜査会議希望」のメールが来た。
「了解」すぐさま返信する。
このまま疑われ続けるのもしんどい。
本当の事を話すつもりはないが、食事を何度かする仲になったと話すつもりだ。
サマンサがやって来た。
「今の子、ダニーの友だち?」
「ああ、そうやけど?」
「すごい綺麗な顔立ちの子。愛想もいいし、いい感じね」
「あいつ、モデルやねん」
「そうなんだ、ダニーの友達っていい男ばっかり」
それだけ言うと去って行った。
定時に仕事が終わり、二人は、エレベータで一緒になった。
マーティンはつんとすまして前を向いている。
ダニーは、誰にも気がつかれないように片手で尻をぎゅっと握った。
「あっ!」声をあげるマーティン。
「うぅぅん」咳払いでごまかしている。
ダニーは含み笑いしながら、エレベータを降りた。
プラザを出るとマーティンが追いかけてきた。
「奇襲攻撃なんてひどいよ!」
「お前があまりにすました顔してるから、いたずらしたくなったわ」
「ダニーのばか!」
「ははは!どや、また一風堂行くか?」
「ううん、ハンバーガーが食べたいよ」
二人はミッドタウンの「ダニエルズ」に行った。
ダニーは普通サイズのチリバーガーに普通盛りのポテト、マーティンは特大チーズバーガーに大盛りポテトだ。
「お前、ほんまジム通いしてんの?」
「うん、パーソナルトレーナーについてもらって、筋トレやってる」
ダニーは、ふとパーソナルトレーナーのロバートを思い出した。
「ふうん、成果出てるか?」
「その分食べちゃうから、向いてないかもしれない」
ポテトをほおばりながら、マーティンは答えた。
「エドも一緒なんやろ?」
「エドは今、中国に長期出張なんだよ」
「さよか」
「それよりかさぁ、ジョージってダニーの事好きなんじゃない?」
鋭いな、こいつ。ダニーは突然の問いに言葉に詰まった。
「何で?」
「普通の顧客に対するサービス以上って感じがするもん。それに家に泊まったんでしょ?何もされなかった?」
「あほ!ただ、親しくはなったで。一緒に飯を何度か食ったわ」
「え、そうなんだ・・」
マーティンは傷ついた顔をした。
「お前、心配しすぎやて。この世の中、人口の半分は男なんやから、新しい男に俺が会うたびに心配するんか?」
「そんなことないけどさ・・・」
「わかった、残りのバーガー、早く食べ。お前んち行こう」
「本当?」
とたんにマーティンの顔が明るくなった。
「ああ、ほんまや」
二人は早々にバーガーを食べ終え、アッパーイーストに向かった。
ドアマンのジョンに挨拶する。
アパートに入ると、ダニーはマーティンをコートごと抱き締め、ディープキスを施した。
マーティンの顔がみるみるうちに紅潮する。
「シャワーしないでベッドへ行こ」
ダニーが囁くと、マーティンがこくんと頷いた。
二人は服を脱ぎ散らかすと、ベッドにダイブした。
69の体勢でお互いのペニスを咥える。
フェラチオが苦手なダニーに対して、マーティンの舌技はまさに絶品だった。
むくむくすぐにペニスが大きくなる。
ダニーはむせそうになりながら、マーティンのペニスを咥え続けた。
「ねぇ、今日は入れて」
「ああ、そのつもりや」
マーティンがローションを取り出した。蛇のイラストが怪しいボトルだ。
「何やそれ?」
「通販で買ってみた。塗って」
ダニーが手にとり、マーティンの中に塗りこむと、マーティンが途端に悶え始めた。
「何かすごいよ、熱くなってきた。自然に動いちゃう」
マーティンは腰をくねらせた。
ダニーも自分のペニスに塗ってみた。
確かにかっと熱くなり、力がみなぎってくる感じだ。
「それじゃいくで」
「うん」
マーティンは四つんばいになって、アヌスを晒した。
ダニーは腰を推し進め、しばらく静かにしていた。
それでも十分に気持ちがいい。
「すげーな、このローション」
「もう僕、イっちゃいそうだよ」
「待てよ、俺もイクから」
ダニーはやっと腰を前後に動かし始めた。
少し動かすだけなのにいつもの数倍感じる。
「あぁ、俺もだめや!出る!」
マーティンも腰をがくがくさせながら射精した。
ベッドに寝ころがる二人。
「すごかったな」
「うん、びっくりした」
「お前、こんなん買うなんてエッチな。ネット通販か?」
「うん」
マーティンは恥ずかしそうな顔をした。
ダニーは何気なくボトルを取り上げ、ウェブサイトのアドレスを覚えた。
「ダニー、何笑ってるの?」
「いや、お前とのエッチはほんまええなあ思ってな」
「嬉しいよ」
「それじゃ、俺、帰らにゃならんから、シャワー浴びるな」
「うん」
マーティンはまだ恍惚とした顔でぼうっとしていた。
ダニーはシャワーを浴びながら、
あれ、アランと使ったら、アラン、すごい喜ぶやろなと、すでに購入を考えていた。
スチュワートのTVRは二人乗りだ。
ダニーはマーティンの膝の上に重なるように乗せられてイーストヴィレッジまで来た。
「さあ着いた。さてさて、オレがシートベルトを外してやろう。いいかな?」
スチュワートは持って回った言い方をしながらにやけた。
「トロイ、ええから早よ外せ!」
「わかったわかった」
ようやくシートベルトを外してもらい、ダニーはよれよれで車を降りた。
「お前な、人をメシに誘うんやったらちゃんと考えてから誘えよ」
「仕方ないだろ、タクシーがつかまらなかったんだから。それにお前よりマーティンのほうが疲れたはずだ」
「こいつ?こいつはへんなこと考えてしっかり勃起してたがな。フィッツィーはほんまエロいねん」
「なっ!僕そんなことしてないよ!ダニーのバカ!」
「マーティン、嘘だとわかってるから。さ、行こう」
三人はいつも行く焼き鳥屋に入った。
席に案内されると、クリスが一人で食事していた。
「あれ、クリス。お前一人か?」
「なんだ、お前か。やあ、マーティン」
「こんばんは、ドクター・ランドルフ」
「クリスでいいって言ったろ」
クリスに笑われ、マーティンはぎこちなく頷いた。
「こいつはテイラー。ダニーでもテイラーでもどっちでもいいよな?」
スチュワートはダニーをクリスに紹介し、二人は握手を交わした。
ダニーは握手しながらクリスのお皿にてんこもりになっている竹串を目の端に捉えた。
―おっと、こいつがあの焼き鳥50本男か。細いのになぁ、どこに入るんやろ・・・
「もしかしてオレは値踏みされてるのかな?」
クリスはそう言ってにんまりすると、ダニーを興味深そうに見つめ返した。
茶色の瞳がやんちゃそうに笑っている。
「あ、失礼。そんなに不躾なつもりやなかったんですけどね」
ダニーは非礼を詫びると席に着いた。
話に聞いていたとおり、クリスはよく食べた。
次から次へと胃に収めると、勢いよく次のをオーダーする。
気持ちのいい食べっぷりにダニーは呆気に取られた。マーティンより大食いだ。
「あの、そんなに食べて大丈夫なので?」
見ているうちに思わず聞いてしまった。
「平気だよ。体質だから太らないしね。それよりそっちこそもっと食べろよ。さっきから全然食べてないだろ」
ダニーはねぎまとささみしか口にしていなかった。クリスにレバーを勧められて顔が強張る。
「あー、だめだめ。テイラーは気持ち悪いのは食べないんだ」
手羽先にがっついていたスチュワートが口を挟み、クリスは残念そうにレバーの串を自分の口に運んだ。
クリスの話はおもしろい。ダニーは話に引き込まれた。どの話も笑いがとまらないぐらい可笑しい。
スチュワートはすっかり打ち解けた二人に驚いた。
「なぁ、マーティン、テイラーってすごいな」
「ん、ダニーはああやってすぐに仲良くなっちゃうんだ」
マーティンは自分のことのように胸を張った。自分もいつかあんな風になれたらいいなといつも思う。
「それじゃ、オレはこれで。楽しかったよ、ダニー」
「いえ、こちらこそお話できてよかったです。ぜひ、またいつか」
ダニーはクリスと握手を交わした。
「何だ、もう帰るのか?」
「ああ、またな。会えてよかった」
クリスはチェックを済ませると帰っていった。
「トロイ、クリスってどの辺に住んでるん?」
「アッパーウエストサイドだ。それがどうした?」
「いや、オレんちの近くやったら途中まで乗せてもらえばよかったなと思って。ほら、またぎゅうぎゅうにされるやろ?」
「大丈夫、オレのアパートまではすぐだから」
「すぐって、オレも泊まるんか?」
「そうさ。今夜はアップルタルトを食べながら語り合うんだよ」
「何をやねん!」
「ねえ、それってスチューのお母さんのお手製?」
「そうだけど嫌いか?」
「ううん、大好き。僕だけじゃなくて、ダニーもお気に入りなんだよ」
「よかった。それ聞いたら母が喜ぶよ」
スチュワートは嬉しそうに相好を崩して喜んでいる。ダニーはすかさずマザコンとからかった。
リビングで読書をしているアランにダニーは尋ねた。
「なぁ、ジャックの住所教えてくれへん?」
アランはメガネの目を本から上げた。
「何だ、殴りこみでもするのか?」目が笑っている。
「あほ!ちゃうねん、ちょっと見に行ってこよう思うてな」
「そうか。名刺をもらったから持ってこよう」
アランは書斎に入り、名刺を持ってきた。
本当にここから程近い住所だ。
「多分、5、6ブロック位上に上がったところだろう」
「アランは行ったことないん?」
「ライバルのオフィスに用はないさ」
アランはまた読書を始めた。
「じゃ、散歩がてら行ってくるわ」
「風邪引くなよ」
「わかった」
ダニーはアルマーニのコートに紺のマフラーをして外に出た。
アッパーウェストサイドをまっすぐに上に向かって歩く。
ちょうど5ブロック目のストリートアドレスが名刺のアドレスだった。
ドアマンがあくびをしながら新聞を読んでいた。
ブザーを押す。
「何ですか?」
「あのー、ジャック・ラズロさんの友人なんですけど、驚かせたいんで入れてもらません?」
ダニーは20ドル札を手に握らせる。
「今回だけですよ」
ドアマンはまた新聞に目を落とした。
よっしゃー、敵城視察や。
フロアガイドで「PhD.ジャック・ラズロ」というのを確認し、エレベータに乗る。
30階だ。
フロアを降りると、3軒のアパートが並んでいる。
一番奥がジャックのアパートだった。
ドアの両側にスーツ姿の男が立っている。
何や?ダニーが入ろうとすると「ちょっと、困ります」と呼び止められた。
「どうして?僕はジャックの友達で約束してるんだから、いいでしょう?」
ダニーは、屈強な男に体当たりしてドアを開けて、中に入った。
日曜日なので受付には誰もいない。シーンとしている。
待合室なのか、気持ち良さそうなソファーが3脚と観葉植物が置いてあった。
一体、今の誰や?シークレットサービス臭いわ。
ダニーは訝りながら、長い廊下を歩いた。
ジャックの大学・メディカルスクールの卒業証書やドクター・ライセンスが額に入れて飾ってある。
おまけにドクター・ハートの出演シーンまで飾られていた。
あいつ、相当なナルシストやな。
ダニーは呆れながら、奥の部屋のドアをノックしようとした。
すると中からドアが開き、老年の男が出てきた。
驚く男。
ダニーに顔を見られないようにうつむきながら、早足で廊下を歩いていった。
今のって、アンダーソン議員違うやろか?
あー、だからシークレットサービスがいたんや!
ダニーは合点がいった。
ドアを開けて入ると、ジャックが一瞬驚いた顔をしたが、すぐにいつものポーカーフェイスに戻り、
「やぁ、ダニー、今日はあいにく休診日でね。明日、電話で予約してくれないか。
2ヶ月ほど待ってもらうがね」と言った。
「VIP専門の診察日か」
「誰だかわかったようだが、あまり突っ込まない方が身のためだぞ」
「俺かてよう分かってるわ」
「今日は何の用だ?」
「この間のディナーのお礼のギフトを持ってきた。まぁ、使ってくれ」
小さな箱とカードを机の上に置く。
「開けてもいいかな?」
「ご自由に」
カードを読み、笑い始める。
「傑作だ!じゃあ今度はぜひシカゴでステーキと行こう!君も負けず嫌いだな」
箱を開け、「ほう、これはいい趣味だ。ありがとう。早速使わせてもらうよ。
来週、アランと食事の約束があるんでね」とジャックは言った。
「ほら吹くな!」
「帰ってアランに聞いてみればいい。さて、彼が本当の事を言うか楽しみだ。
今日はどうもありがとう。わざわざ拙宅までお越しいただいて恐縮だ」
ジャックはそう言うと後ろを向いた。
ダニーは、ドアから外に出た。
もうシークレットサービスの姿もアンダーソン議員の姿もなかった。
日曜日に議員先生を診察か。
議員が精神科医に通うというのは、別におかしいことやない。
でも、なんで、あんなにこそこそしてはったんやろか。
ダニーは調べたい気持ちにかられたが、まぁいいやと頭を切り替えた。
それより、アランがジャックと食事の約束をしてるのか確かめるのが大切だ。
帰りに「カフェ・フロール」で焼きたてのタルトを買った。
アランにはレモンスフレタルト、自分にはブルーベリータルトだ。
「ただいま〜」
アランが顔を上げる。
「ほう、顔には傷はないな」
「そんなんせいへんて。はい、お土産のタルト」
「おう、いいねぇ、それじゃあ、紅茶でも入れよう」
アランがキッチンに立った。
ダニーはジャックの名刺をそっとテーブルに置いた。
コートを脱いで、クローゼットにかけてくると
紅茶のカップ&ソーサーを並べながら、ダニーは何気なく尋ねた。
「ジャックが来週、アランと食事するって言うてたけど、ほんま?」
「ああ、すまない、まだ言ってなかったな。共同研究のネタがあるとかいうんで
誘われているんだよ」
「仕事オンリー?」「もちろんさ、僕にはハニーがいるからね」
「分かった」「怒らないのかい?」
「アランは俺のアランやもん。もう疑うの止めたんや」
アランはキッチンから出てきて、ダニーをぎゅっと抱き締めた。
「ダニー、愛してるよ」「俺も」
ダニーは昼休みを抜けて、バーニーズ・ニューヨークに行った。
いつも通りコンシェルジェ・デスクにジョージが座っている。
「ジョージ!」
「あ、テイラー様、今日の御用向きは?」
「ここでは言えへんから、カフェ行けへんか?」
ジョージは上司らしい中年の男に尋ねている。
「30分時間をもらいました。どうせなら、バーニーズのカンティーンにご案内しますよ」
二人は商品の搬入口を抜けて、社員食堂に着いた。
「ここだと、カフェと同じ食事がすごく安いんです。何でもどうぞ」
ダニーはメニューから、トスサラダとパスタ・アラビアータを頼んだ。
ジョージはチーズのペンネとバゲットだ。これだけ頼んでもたったの6ドルとは驚きだ。
「ぎょうさん食うなぁ」
「立ち仕事中心だから、エネルギーが必要なんです」
恥ずかしそうにジョージが答えた。
「今日はどうしたの?」
「あのお前が選んでくれたタイとカード、功を奏したで。相手も喜んでたわ」
「それは良かったです。僕も嬉しいよ」
「だからな、お前と明日、晩飯食えないかと思うてな、今日は誘いに来たんや」
「え、本当!すごく嬉しい!僕、早番だし、8時には会えるよ」
「良かった。何が食いたい?」
「この間から日本食が続いてるから、またそんな奴」
「お前しゃぶしゃぶって食ったことあるか?」
「何、それ?」
「うまいとこ知ってるんや。牛肉や、めちゃうまいで〜」
「へぇ、すごく楽しみだ。ドレスコードはあるの?」
「お前はお洒落だから普段着でええ。俺は仕事帰りだからスーツやけどな」
「わかった。じゃあ、明日だね」
「ああ、お前を店に迎えに来るわ」
「ありがと、ダニー、好きだよ」
「照れるやん」
二人は食事を終え、搬入口から売り場に出た。
「それでは、テイラー様、お風邪などめしませんように」
「ああ、ありがとう」
ふたりは別れた。
ダニーはいつもジョージと話すと気持ちが晴れ晴れする。
鼻歌を歌いながらオフィスに戻った。
上機嫌のダニーを、訝しげな顔でマーティンは見つめていた。
ダニーは、廊下に出て、アランに留守電を残した。
「明日、ブルックリンに泊まる。食事も外でするからいらへん」
翌日8時にダニーは店の前で待ってると、ジョージが飛んできた。
ダッフルコートが若々しくて可愛い。
「お前、モデルのくせに普段着ってほんま普段着なのな」
「モデルはステージの上だけだもん。これが素の僕だよ」
二人はリトル・ジャパンにタクシーで向かった。
いつもの店が一杯で入れず、同じような店の「椿」に入った。
「いらっしゃいませ」
着物を着た仲居が挨拶する。
「個室があいにく空いておりませんので、テーブルでよろしいでしょうか?」
「ああ、かまわんで」
ダニーは訳知り顔で店内に入る。
神戸牛の刺身に驚き、しゃぶしゃぶの不思議さにびっくりしているジョージが、たまらなく可愛かった。
「これなら、油も落ちるし、野菜も沢山食べられますね。すごいヘルシーな食事だ」
最後に出汁で雑炊にしてもらう。
「これって?」
「日本のリゾットみたいなもんや、うまいで」
ジョージは一口食べて「本当だ!すごい。今までの食材の味が全部出てる!」とお代わりを繰り返す。
最後にゆずのシャーベットが出た。
日本酒の冷酒も6杯飲み、二人は上機嫌だった。
ダニーがチェックを済ませると、ジョージが外でタクシーを拾っていた。
「アッパーウェストでしょ」
「いや、マディソン街を右折してくれ」
「え?それって・・」
「そうや、今日はお前んとこに泊めてくれへんか?」
「うん!もちろんだよ!」
車に乗ると、ジョージはダニーの手を取って自分の股間に持っていった。
すでにあの巨大なペニスが立ち上がろうとしている。
ダニーは正直言って、自分がそれを受け入れられるか自信がなかった。
しかしもうここまで来たのだ。お礼もしたいし、覚悟を決めた。
ジョージのアパートに着いた。
がたつくエレベータに乗りながら、二人は無言でいた。
アパートに入ると、ジョージがヒーターを入れ、バスにお湯を張り始めた。
「何か飲むでしょ?」
「水でええわ」
「わかった」
コントレックスを渡すとダニーはぐいっと飲んだ。
「バスが入ったよ」
「一緒に入るか?」
「恥ずかしいよ」
「あほ!ここまで来て恥ずかしいもあるかいな」
ダニーは酒の勢いもあって、ぽいぽい服を脱いで、バスルームに入っていった。
後ろから股間を押さえながらジョージが入ってくる。
しかしもうペニスは腹にぴったりくっついていた。
でけー、ほんまに俺、これ入れるんか!
ダニーは改めて見入ってしまった。
「見ないでよ、あっち向いて」
「はいはい」
ダニーは背中を向けた。
ジョージが後ろに入ってくる。背中にジョージのペニスが当たる。すごい堅さだ。
「身体洗ってあげるね」
「ああ、頼むわ」
ジョージは海綿のスポンジを使って、優しくダニーの身体を洗う。
ダニーはそれが前戯のように感じられて、ペニスに力がどんどんみなぎるのを感じた。
「俺のペニス、触ってくれ」
「いいの?」
「ああ、触って欲しいんや」
「わ、すごいや、ダニーのって太いね」
「そろそろ出よか」
「うん」
ジョージが用意したバスタオルを身体に巻いて、ベッドルームに入る。
ダニーは覚悟を決めて、横になった。
ジョージはダニーの勃起したペニスを口に含み、存分にダニーを楽しませた。
マーティンと同じ位の絶妙な舌技だ。
ダニーは悶えた。
「もう出てしまいそうや」
「待ってて。ねぇ、僕が入れても本当に大丈夫?」
「ああ、試してみてくれ」
「わかった」
ジョージは引き出しからローションを取り出した。
アロマのオレンジローションだった。
「ええ香りやな」
「リラックスしてね」
「ああ」
ダニーの中に指が入る。
「あぁ、ええ気持ちや」
「ダニーが受けだなんて知らなかった」
「俺はどっちも行ける。実はバイなんや」
「やっぱり、そうだと思ったよ。それじゃ行くよ、びっくりしないでね」
ジョージはダニーの足を上げると、腰を進めペニスを挿入した。
ローションのおかげでスムースな挿入だ。
しかし、どんどん入るうちに、ダニーの身体の中が変わってきた。
内臓が上に上がってくる。胃が口から出そうな錯覚に陥る。
「すげー、お前のまだ全部入ってへんの?」
「もう無理でしょ、動くよ」
ダニーは今まで味わったことのない感覚に襲われた。
腸の中が犯されている!それも深く!!
しかし不快ではない。
ダニーは「あぁ、いい、俺、出してもええか?」と聞いた。
「うん、僕ももうだめ、一緒に!」
ふたりは同時に身体を弛緩させた。
ジョージがどさっとダニーの横に並んだ。
「お前のすごいな!」
「ありがと、だけど喜ばない人もいるんだ」
ジョージが悲しそうに目を閉じた。
「どうした?」
「前、すごく好きだった人がいて、やっとベッドインできたと思ったら、
「お前とやってると内視鏡で大腸がん検査してるみたいだ」って言われたんだよ」
「ひでーな」
「うん、1週間泣いたよ。僕だってこんな身体に生まれたくて生まれてきたんじゃないのに」
「でも、俺は好きやで、お前の身体」
「本当に?」
「最初はびっくりしたけどな」
「ありがとう!それだけ聞けば僕は最高に幸せだ!」
「疲れたから寝ようか」
「うん」
ダニーは、ジョージの肉感的な唇にそっとキスをした。
そして、二人は目を閉じた。
ダニーは目覚ましで目を覚ました。コーヒーの匂いが漂ってくる。
「おはよう、ダニー!」
ジョージがキッチンでジュースを作りながら笑っていた。
「シャワー借りるで」
「うん、バスタオル置いてあるから」
先日同様、新しい歯ブラシとタオルが用意されていた。
何てあいつ気が利くねん。
それにしてもすごかったわ、昨日は。あんな経験、初めてや。
ダニーはシャワーを浴びながら思い出していた。
ダニーはシャワーから出るとジョージがプレスしたパンツを履き、Yシャツを着た。
「このYシャツ・・・」
「ダニーが来るかもって期待して買っちゃった。着てね」
アルマーニのものだ。
「こんな高いもん」
「社割が利くから大丈夫。いつも奢ってくれるお礼だよ」
「ありがとな」
「それにタイも用意しといた」
「ほんま、すまん」
「昨日は最高の夜だったから、それくらいさせてよ」
ジョージは照れくさそうに笑った。
ジョージ特製ジュースとコーヒーを飲んで、「それじゃ、俺、行くわ」と言った。
「フェデラルプラザまで送るよ」
「ええんか?」
「今日は遅番だし」
「じゃ、頼むわ」
ダニーはまたフェデラルプラザ前までインパラで送ってもらった。
「それじゃまたね」
「ああ、ありがとな」
「バイバイ!」
「ダニー!!」
またマーティンや。なんであいつ、ジョージといる時ばっかり会うんや!
「おはよ、ボン」
「今のジョージでしょ?」
「そやけど・・」
「なんでそんなに急に仲がよくなったの?」
「俺のクレジットカードに聴いてくれ」
ダニーはごまかすと、スタバに向かって歩いていった。
マーティンが追いかけてくる。
「今度、3人でご飯食べようよ、紹介してよ」
「もう紹介したやん」
「もっと親しくさせてよ」
「わかったわかった、あ、カフェラテのグランデ、お前は?」
「キャラメルマキアートのグランデとクランベリーマフィン」
ダニーはマーティンの分も払って、オフィスに向かった。
「約束だからね!」
「はいはい」
一回はジョージと3人で食事やな〜、やっかいなことになったわ。
ダニーは仕方がないと、席について、カフェラテを一口飲んでPCに電源を入れた。
アランからのメッセージがある。
「昨日、ジャックと食事した。今日は一緒に食べよう」
すぐさま返信する。
「定時に貴宅にて」「了解」
アランに後ろめたさを感じながら、しばらくぼっと昨日の経験を反芻していた。
あんなのあり得んわ。すげー体験やった。癖になったらどないしよ。
「ダニー!ダニーったら!」
気がつくとサマンサが呼んでいた。
「書庫からこのファイル持ってきてくれない?」
「何で俺が?」「にやけながら、ぼっとしてたからよ」
「はいはい」ダニーは地下の書庫へ降りていった。
仕事は定時に終わり、帰り支度をしていると、マーティンが寄ってきた。
「ねぇ、朝の話、本気だからね」
「わかった、お前もしつこいな。今日は俺帰るから」
「わかったよ、約束だからね」
ダニーはマーティンを振り切ると、地下鉄の駅に急いだ。
我が家への道だ。
ジャックと食事したと正直に告げたアランの気持ちがありがたかった。
俺が思ってるような関係やないのかもしれへんな。
アパートにつくといい匂いがしていた。
「ただいま!」
「おかえり、ダニー。シャワー浴びるかい?」
「飯のがええわ」
「じゃあ、用意しよう」
メニューはポークのローストの長ネギ添えにガーデンサラダだった。
「うまそう!」
赤ワインを明けながら、アランが話し始めた。
ジャックからは、共同研究ではなく、共同ビジネスの申し出があったと。
「それで、どんなん?」
「特別なVIPだけを特別な場所でカウンセリングするという話だ。物件も押さえてあるらしい」
ダニーは日曜日にジャックのアパートの前でアンダーソン下院議員に会ったと話した。
「どうやら、ジャックには企業の重鎮、政治家あたりの顧客が多くついているようだ」
「で、アランは?」
「僕は、それよりカウンセリング費も払えない人を助ける方に意義を見出してるからね、即決、断ったよ」
「さよか」ダニーは安心した。
「俺、アンダーソンの様子からきな臭い匂いがしたんや」
アランに正直に告げた。
「奴が危ない橋を渡っているならなおさらだ。それに土日も診療なんて、お前と過ごせる時間が減るじゃないか」
「ありがとな」
「ばか、本心だよ。僕が週日、人助けが出来るのも、お前が命がけで同じ仕事をしてると思っているからだ。」
「アラン、やっぱり大好きや」
「僕もだよ」
二人はワイングラスを合わせて乾杯した。
マーティンを真ん中にして、三人はベッドに入った。
ダニーはいつものようにマーティンに足を温めさせている。
ふくらはぎでしっかりと挟まれてじんわり温かい。
「お前、いつもこんなことやらせてるのか?」
スチュワートが不満そうに訊ねた。自分のほうを向いてもらえないのも不服そうだ。
「そうや。けどな、マーティンも喜んでるんや。な、マーティン」
ダニーに言われてマーティンはこくんと頷いた。
「ねえ、スチューの手もくっつけていいよ」
「オレの手はいいよ、すごく冷たいから」
「平気だよ、ほら貸して」
マーティンは手を自分の体に押し当てたものの、ひゃあっと一声あげて冷たさに鳥肌を立てた。
「バカだな、だからよせって言ったろ」
「ううん、もうへーき。慣れたから」
マーティンはそう言うと胸に手を置かせたが、スチュワートの手はボタンを外すとするっと中に侵入した。
「わっ、くすぐったいよ」
「乳首がこんなに尖ってるんだぜ?さわりたくなって当然じゃないか」
首筋を愛撫されながら指で乳首をなぞられ、マーティンは慌てている。
ダニーも膝で股間を刺激しながら唇を塞いだ。
ダニーはパジャマを肌蹴させて胸をあらわにすると反対側の乳首を舌でなぞった。
弧を描くように舌を這わせると乳首がぷっくりと硬くなる。
パンツを下ろそうとするが、マーティンのペニスは完全に勃起していてトランクスのゴムに引っかかった。
手間取りながら脱がせ、自分のペニスを擦りつけながらディープキスを施す。
マーティンの息は、後ろからスチュワートにアナルを弄られて完全に上がっている。
上気した頬に手を添えてキスに集中させながら、ダニーは口の中を貪った。
ダニーはスチュワートと目が合った。おでこにキスされてドキッとする。
スチュワートは挿入したまま動かさず、背中や首筋を舐めている。
ダニーのペニスはマーティンから溢れ出た先走りでぬるぬるだ。
擦れるたびにマーティンが微かに喘ぐ。
スチュワートにペニスをゆっくりと引き出され、マーティンはダニーの手をぎゅっと掴んだ。
じれったい動きにダニーのペニスと自分のペニスを擦りあわそうとしている。
「んんっ・・あぁっ・っ・は・早く」
「マーティン、どうしてほしい?」
「・・・動いて」
「んー?」
スチュワートはまた奥まで挿入すると、何もなかったように首筋を舐め始めた。
マーティンの膝はガクガク震えている。ねだるように動く腰つきがいやらしい。
前も後ろも自分から擦り付けながらダニーの体を抱きしめて離さない。
「やっ・もうだめっ・・んっ・っんっあぁー!」
マーティンは大きく体を仰け反らせるとダニーのペニスに精液を飛ばした。
「悪い子だ」
スチュワートは荒い息を吐いているマーティンを仰向けにさせると足を掴んで腰を進めた。
果てたばかりのペニスを扱いて弄びながら、ひくつくアナルを楽しんでいる。
ダニーはドキドキしながら見守った。やっぱりこいつはすごいと思いながら。
マーティンの腰が快楽に揺れていて淫らだ。
「・・くっ・出すぞ・うっ!」
スチュワートは中出しせずに腹に射精して、ぐったりするマーティンの横に倒れこんだ。
髪をくしゃっとして頬にキスしている。
ダニーはマーティンに入れてもいいか訊ねた。マーティンが頷くのを見てから挿入する。
マーティンのアナルはペニスを包むように締めつけてくる。
ダニーは気持ちよさに夢中で腰を動かした。スチュワートのように楽しむ余裕などない。
最後は膝を掴んで存分に打ちつけるとそのまま射精した。
マーティンがバスルームに行っている間、スチュワートと二人きりになった。
ダニーは話しかけられないように狸寝入りをしていたが、キスされて目を開けた。
「やめろや、人が寝てんのに・・・」
「バカ、薄目が開いてたぞ。なぁ、オレがマーティンと会う時間を減らせばジェニファーとは別れるか?」
「え?それ何の話?」
「だからさ、オレが会うのを減らせばその分お前がマーティンといられるだろ?
もしかしたらお前が寂しいんじゃないかと思ってさ、オレなりに考えてみたんだ」
「そんなんちゃうわ。今日もおもろかったし、このままで十分や」
「それに、オレのセックスも参考になったもんな。オレはいい先生だろ?」
スチュワートはにんまりするとダニーの頭をなでた。ばつの悪いダニーはそっぽを向いてごまかす。
ぺたぺたと足音を立てながらマーティンが戻ってきたので、ダニーは次はオレと言いながらベッドから抜け出した。
ダニーは、毎日のようにマーティンにせっつかれたので、ジョージと3人での食事の日取りを決めた。
ジョージに電話をすると珍しく「場所は僕が選んでいいですか?」と言う。
「ああ、ええで。頼むわ、それじゃ、明日な、店に8時に行くわ」
「わかりました。それじゃ明日」
いよいよ翌日になった。まるで戦場に行くような表情をしているマーティンを連れて、
ダニーはバーニーズの正面玄関で待っていた。
ダッフルコートのジョージがやってきた。
「お待たせしました。ダニー、マーティン、ごめんなさい」
「今来たばかりやから、大丈夫やで」
「それじゃ、お店に行きましょう」
ジョージはタクシーを拾った。
「イースト・ヴィレッジお願いします」
「どんなとこや?」
「僕の故郷の味の店です。気に入ってくれるといいんですけど」
マーティンは終始無言だった。
ダニーと二人でいる時と明らかに話し方を変えている。
ほんま、よく頭の回る子や。
ダニーは安心した。
イースト・ヴィレッジで降り、少し歩くと「ガンボ」というネオンが見えてきた。
「あそこです」
3人はこじんまりとしたレストランに入った。
「おやおや、ジョージ、久しぶりだね」
大柄の黒人のおばさんが、エプロン姿で現れた。
店の中は、ほぼ満席だ。
「僕の大切なお客様を連れてきたんで、気をつけてね、ビッグ・ママ」
「そうかい、はじめまして。店主のマリアです」
「こっちは、ダニー、それからマーティン」
「気楽な店だから、楽しんでってね、はっはっはっ!」
マリアは高らかに笑いながら、キッチンに下がった。
席に座ってメニューを見た。
ケイジャン料理とクレオール料理が並んでいる。
「へえ、お前ってニューオリンズ出身なの?」
「はい、大学までそこにいて、それからNYに来ました」
「何がおすすめなのかなぁ?」
マーティンはメニューを上から一つ一つ読んでいた。
「この際、ジョージにまかせよ」
「そうだね」
二人に言われて、ジョージが選び始めた。
マーティンがじっとジョージを見つめている。値踏みしているかのようだ。
シュリンプのハーブマリネに、ロックフェラー・オイスター、クレオール料理の名物だ。
それから鶏とソーセージのガンボとかにとシュリンプのガンボ、ケイジャン料理の名物、
いや、ニューオリンズの代表料理だ。それにガーデンサラダを頼んだ。
「ビールがいいですか?ワイン?」
「3人やからワインいこか?」
「ビッグ・ママ、あのワイン出して」
「あいよ!」
ビッグ・ママが持ってきたのは、バタール・モンラッシェのボトルだった。
マーティンが思わず息を飲む。
「こんなすごいワイン!」
「そんなにすごいんか?」
「300ドルはするよ!」
「おい、ジョージ、俺たち、そんな上流階級やないで」
「いいんです。特別な友達が出来たら開けようと思って、ビッグ・ママに預けておいたものなので」
「ちょいちょい!もう開けるから、だまって!」
ビッグ・ママに制されて、3人は静かになった。
グラスに蜂蜜色のワインが注がれる。
3人は緊張しながら乾杯した。
「それじゃ、ジョージのあほな選択に乾杯!」
「かんぱーい!!」
ジョージがげらげら大笑いしている。
オードブル二品も普通のフランス料理店以上の味だ。
「あのおばはん、すげーな」
「本当、すごく美味しいよ」
マーティンの緊張が緩んできた。
ガンボが並べられる。ライスもタップリのスパイシーでとろみのあるスープだ。
マーティンが美味しい、美味しいと大喜びしながらがっついている。
「美味しいですか、マーティン?」
「すごいよ、この店、びっくりだ!!」
「実は、ザガットで高得点なんですよ」
「どうりで」マーティンは深く頷いて納得した。
メインを食べ終わり、ワインも終わった。
「じゃあ、デザートいきますね」
「うん!」
「バナナ・フォスターって食べたことあります?」
首を横に振る二人。
「バナナにシナモンをかけてバターでソテーしたものなんですけど、
それをコニャックでフランベしてアイスと一緒に食べるんです」
「美味しそう、それ!」
マーティンは目を輝かせた。
コーヒーを飲んで、すっかり満腹になった3人はすっかり緊張が解けていた。
「お前の故郷って美味いもんだらけやな」
「ありがとうございます。2人を顔見てたら僕も嬉しくなりました」
「こちらこそ、ありがとう、ジョージ。また買い物に行くね!」
マーティンはジョージの肩を叩いて笑っている。
ダニーは、肩の荷が下りた思いがした。
ジョージのおかげで、危機が去った。
この調子なら、もう俺らの仲を疑わへんやろ。
店でタクシーを呼んでもらう。
ビッグ・ママは「全く、こんないい男ばかりの食事でなんか寂しいねぇ、
今度は彼女を連れてきなさいよ!」と送り出した。
3人はえへへと笑いながら、タクシーに乗った。
ジョージの家で彼を降ろし、3人は別れを告げた。
「これからもバーニーズをごひいきに!おやすみなさい!」
「おやすみ、ご馳走様、ジョージ!」マーティンが大声で叫んだ。
「サンキュな、また寄るわ」
「はい!お待ちしています」
ダニーとジョージは内緒で目配せをした。
二人は寄るのが店ではないことを理解していた。
「ジョージって本当にいい奴だね。ごめんね、仲疑ったりして」
マーティンが謝る。
「もう過ぎたことやんか、わかったやろ」
ダニーの心の中がチクっと痛んだ。
ごめんな、マーティン、でももう始まったことなんや。やめられへん。
ダニーがクリニックへ行くと、会うなりジェニファーがすまなさそうに謝ってきた。
もう会えないと言われるのかと思い、顔がこわばる。
「ごめんなさい、突然で。電話すればよかったんだけど」
「電話?」
ダニーには意味がよくわからない。
「あ・・オレに会うのも嫌やってこと?」
「え?それ何のこと?私、さっき生理になっちゃって。だから・・」
「ああ、そっか、ごめん。そんなん全然平気や、寝たいだけとちゃうから」
―あー、よかった・・・
別れ話ではなかったことに安心したダニーは、ジェニファーを抱き寄せると強く抱きしめた。
「生理用品あるん?オレ、買ってこよか?」
ダニーの申し出にジェニファーがけたけた笑い出した。
「何で笑うん?そんなにおかしいか?」
「だって、そんなこと言う男なんて初めてなんだもの」
「オレかて買うたことなんかない。ジェンは特別やから。生理用品でもストッキングでも、いぼ痔の薬でも買いに行くで」
「じゃあ、いぼ痔の薬をお願いしようかな」
「おう、オレは行くで。止めても無駄や」
二人はくすくす笑いながら戸締りをし、クリニックを出た。
セックスする気はなかったのに、食事の後ベッドで話ながらいちゃついているうちに、どちらともなくその気になってきた。
ダニーがコンドームに手を伸ばそうとすると、ジェニファーが止めた。
「ダニー、コンドームはいらないわ」
「でも・・」
「あなたも私も病気は持ってないもの」
「・・わかった」
ダニーは息を大きく吐いた。今まで誰にも生で入れたことはない。緊張で胸が高鳴る。
ペニスを押し当てると、先が触れただけでイキそうなぐらいぞくぞくした。
ゆっくりと慎重に奥まで挿入して目を見つめる。
「痛くない?」
「ん、大丈夫。動いてもいいわよ」
「いや、もう少しこのままでいいんや」
ずっとこのまま交わっていたい、別れたくない、ダニーは何度もキスしながらそれを願った。
気を遣いながら動き、ジェニファーが息をはずませるのを見ながら、ダニーは自分も限界を感じた。
強く締めつけられてこれ以上はもたない。今にも射精しそうだ。
「っ・・ジェンっ、オレもイキそう・・」
「中に出して」
「えっ!でも、そんな・・オレ・・」
「いいから早くっ」
「ああっ!出るっ・・んっ!」
ダニーは我慢できずに膣内に射精した。ペニスがドクドク脈打ち、お互いの粘膜が絡み合っている。
二人は荒い息を吐きながら抱き合った。どちらも胸の鼓動が痛いぐらい早い。
シーツの中でもぞもぞと足をからませながら、ダニーはしっとりした肌に指を滑らせた。
血と精液の混じりあった匂いの中、下腹部を擦りながら余韻に浸る。
「思ってたより今までいい子だったのね」
ジェニファーにやさしく頬をなでられて照れくさい。
ダニーは首を竦め、返事をする代わりにキスをした。
少し眠そうな表情がかわいくて、腕をぐいっと引っ張って抱き寄せるとキスをくり返す。
この女はNYに来て初めて真剣に愛した女だ。どうしても手放したくない。
ダニーの別れの決意はまたもやあっさりと崩れた。
ジェニファーを見送った後、シーツに残った血液の染みをそっと指でなぞり、
しばらくそうしてから引っ剥がして洗濯機に放り込んだ。
窓を開けて空気を入れ替え、新しいシーツを敷く。
「オレ、あかんわ」
パリッとしたシーツの上に寝転んだまま、ダニーは独り言を言った。
独り言なのにきっぱりと室内に響いた声がきまり悪い。
さっきまで横にいた、二歳年上の女のことを思い出しながら枕に顔を埋めた。
ダニーは、どんどんジョージにのめりこんでいく自分が止められなくなっていた。
屈託のない柔らかい笑顔、すました時の整った顔、自分のペニスを一生懸命咥える時の一心不乱の顔、すべてが忘れられない。
まずいわ、俺、恋に落ちたのかも。
アランと暮らしながら、マーティンとも付き合っている上にジョージに惹かれている自分の浮ついた性分が許せない。
しかし、もう始まってしまったことなのだ。ダニーはため息をついた。
ランチをマーティンと一緒に食べながらも、話がはずまない。
「ねぇ、ダニーってば、どうしたの?元気ないじゃん」
マーティンがピザ・マルゲリータをぱくつきながら、話しかけてきた。
「何でもあらへん」
「そんな事ないよ、ダニーがため息沢山ついてるの聞こえるもん」
「気のせいやろ、俺はこの通りピンピンしてるで」
ダニーは力こぶを作ってみせた。
「ふーん、それならいいけどさ」
マーティンは腑に落ちない顔をしながら、最後のピザの一片を口に運んだ。
ジョージは自分からは決して連絡してこない。
いつもダニーが連絡して、食事をし、ジョージのアパートに行く。
怪しまれないように、最近は泊まらないようにして、アランのアパートに帰っていた。
アランとのセックスも、マーティンの家で見た怪しい蛇ローションのおかげで、充実している。
俺、欲張りすぎなんや。
隣りで静かに眠っているアランの横顔を見ながら、ダニーはまたため息をついた。
張り込みだと偽って、ダニーはジョージに連絡を取った。
「ダニー!今日は遅番だから、11時になら会えるけどいい?」
「ああ、ブルー・バーで待ってるわ」
「わかった。仕事終わったらすぐに行くね」
ブルー・バーで、カクテルを重ねながら、ダニーの心は揺れていた。
ジョージとの付き合いは、まるでよくつくす女との付き合いのようだ。
いずれ飽きるのだろうか。今は、考えられない。
エリックが用意してくれたつまみの小エビのフリッターを口に運びながら、ダニーは考えていた。
「お待たせ!」
ジョージが11時ちょっとすぎにやってきた。
息が切れている。タクシー降り場から走ってきたのが明白だ。
「そんなに焦らんでも、大丈夫やのに」
「だって、ダニーを待たせちゃ悪いでしょ」
ジョージはジントニックを頼みながら答えた。
「飯まだなんやろ?一風堂にでも行くか?」
「うん、僕、あそこ気に入っちゃった。行きたいな」
甘えるように答えるジョージが可愛い。
二人は、チェックを済ませリトル・ジャパンでラーメンを食べた。
いつものようにチャーシューをおつまみにビールで乾杯をする。
スペシャルを頼み、お代わりの替え玉を1枚ずつ頼んだ。
「今日は食べないのな」
「うん、今日は顧客がランチに招いてくれたからお昼が多かったんだ」
ダニーは急に気になった。
「お前、そういう事多いん?」
「そんな事ないよ、それにおじーちゃんだから心配しないで」
ジョージは笑った。
俺、何ヤキモチ焼いてんのやろ。
ダニーは自分の心の動きに驚いていた。
ラーメンを食べ終わり、ジョージの部屋に急ぐ。
二人でシャワーを浴びて、ベッドに移動した。
ジョージがダニーのバスローブを脱がせ、ペニスを咥える。
すぐに息があがり、イキたくなるダニー。
「お前、上手すぎや、俺もうだめ」
「いつでもイっていいから」
ジョージはフェラチオを止めない。
ダニーは「あぁ〜」とあえぎながら、身体を弛緩させた。
「ダニーのは、いつも美味しいから好きだ」
ジョージが顔をあげて満足そうに言う。
「さぁ、入れてくれ」
「いいの?」
ジョージは必ず前に尋ねる。
「ああ、お前がほしいんや」
ジョージはごそごそローションを取り出して、自分に塗布すると、ダニーの中にも優しく塗りこんだ。
「ダニーってバイなのに受けが好きなんだね?」
「お前と付き合うようになってからやで」
ダニーは自分の嗜好の変化にも驚いていた。
今は、ジョージの圧倒的な力に抑え込まれたい。
そういう欲求が生まれている。
ジョージがいつも同様そろりと入ってきた。挿入はいつもソフトだ。
その後、絶対的な力でダニーを征服する。
ジョージが動き出した。
「あぁ、ええわ」
ダニーは悶えながら腰を動かした。
ジョージは、柔らかく腰を動かし「あぁ、ふぅうう」といいながら果てた。
「ダニーの中っていつも熱くて蠢いているから、僕、我慢が出来ないよ」
ジョージが笑う。
「俺もや、お前が入ってきたら、俺、もう、降参や」
二人は笑いながら、キスを交わした。
ダニーはシャワーを浴び、タクシーを呼んでもらった。
「いつも慌しくてごめんな」
「いいよ、アランといるの知ってるから。それでも僕はいいんだ」
ジョージはコントレックスの瓶を渡しながら答えた。
「マーティンと寝てても構わない。僕はダニーが大好き。この気持ちを継続させて」
ダニーは瞬間答えられなかった。
「ごめんな、俺って悪い男やな」
「いいんだよ、全部ひっくるめてダニーが好きだから」
タクシーが来た。
ダニーはジョージの唇にキスをすると「また、連絡するわ」と言って、アパートを出た。
ジョージ、まるで麻薬のようや。こんなにつくされたことなんて、正直、女との付き合いでもない。
ダニーは、アッパーウェストに向かいながら、ぼんやり考えていた。
マーティンは久しぶりにニックに呼び出されて、アパートを訪れた。
インターフォンを鳴らすと、「入れよ」という声が聞こえた。
シーンとしている室内。いつもはロックが流れているのに静かなのが不気味だ。
「ニック、マーティンだよ!」
ベッドルームからニックが降りてきた。半裸の肢体がまぶしい。
「アンドリューは?」
「また母親のところに帰した。俺といるとあいつにいい影響を与えられない感じがしてさ」
やさぐれているニックが心配だ。
「ニック、どうしたの?ご飯でも食べに行こうよ。どうせ食べてないんでしょ?」
「お前は勘がいいな。あぁまたアルコールを常食にしてる俺だ。何か食わせてくれ」
「わかった、じゃあ、出かける用意して」
マーティンが待っていると、ニックはTシャツの上にレザーのジャケットを羽織って出てきた。
「そんな薄着で大丈夫?」
「ああ、何食わせてくれる?」
「リトル・ジャパンのヌードルショップに行こうよ」
「面白そうだな」
二人はフェラーリで出かけた。
パーキングに止めて、少し歩く。
「寒くない?」
「大丈夫だよ、お前が一緒だから」
珍しく一風堂にすぐ入ることが出来た。
カウンターに通されて、ニックは驚いている。
マーティンは「注文はまかせてね」と言って、スペシャル2つにチャーシューご飯とビールを頼んだ。
「どうして食べなくなっちゃったの?」
マーティンが尋ねる。
「またスランプだよ。俺、もしかしてうつ病かな?定期的に何も出来なくなるんだ」
片頬で皮肉っぽく笑う。
「そしたら、アランのとこに行ったら?」
「あいつんとこか?相性悪いからなぁ」
ニックは頭をかいた。
「でも新しい精神科医探すより楽じゃん、アランだってプロだから何か助けてくれるって」
「お前、予約してくれるか?」
「うん、わかった」
マーティンはニックの役に立つのが嬉しかった。
店主がおずおずとサイン色紙を持って現れた。
「サインお願いできますか?」
「ああ、いいよ」
ニックはしゃーしゃーと「ジョシュ・ホロウェイ」と書いた。
「ちょっと!」
マーティンが制する。
「いいんだよ、兄貴も気にしないさ、どうせハワイだし」
マーティンは、ニックの感情が荒れ果てているのが心配になった。
今日は一緒にいよう。そう思った。
食事が終わり、ニックは、「なぁ、俺の友達のライブがあるんだけど行くか?」と聞いてきた。
「ロック?」
「当たり前だろ、ぜひ来いって言われて断れなかったんだよ」
「いいよ」
二人はバウリー・ボールルームに向かった。
パーキングに車を預け、VIPパスで中に入る。
「何てバンドなの?」
「カサビアンってイギリスのバンドだよ、ベルリンで奴らの雑誌取材の写真を撮ったんだ」
「ふうん」
「サージってギターの奴がいい奴なんだよ、紹介するな」
「うん」
ライブは佳境だった。
オーディエンスがボーカルに煽られて手拍子している。
人が宙を舞っている。ものすごい盛り上がりだった。
ライブが終わり、楽屋で待っていると、汗だくのメンバーが戻ってきた。
ニックの顔を見ると、皆、ハグしにやってくる。
「マーティン、紹介するよ、ボーカルのトムだ」
「よー、スーツ。楽しかったか?」
「あ、はい」
「それとサージ、セルジオっていうのが本当の名前なんだ」
「始めまして」
急に強くハグされてマーティンは驚いた。
汗とフレグランスの匂いがマーティンを刺激する。
「気をつけろよ、マーティン、こいつ、いい男と女には目がないから」
サージは照れたように笑った。
名前からしてイタリア系なのだろう。魅力的な男だった。
シャンパングラスを受け取り、乾杯を繰り返す。
今日のライブは大成功のようだった。
セルジオがニックを呼びとめ、次のシングルジャケットの写真の話をしている。
マーティンは、どぎまぎしながら、シャンパンを飲んでいた。
トムが「おい、スーツ、やるか?」と白い粉を持ってきた。
「あ、僕、それはだめなんだ」
「そんな、まじに生きてても楽しくないぜ」
ニックが戻ってきた。
「これからアフター・パーティーやるらしいけど、お前は嫌だろう?」
「うん、僕、苦手」
「じゃあ家に帰ろう」
ニックがパーティーを断るなんて意外だった。
二人は家に戻った。
さっきの元気がウソのようにまた落ち込むニック。
ソファーで頭をかかえるニックを優しく抱き締めた。
「ねぇ、ニック、今日は一緒にいるから、落ち込まないで」
「あぁ、俺の天使、そうしてくれるか?」
マーティンはニックの肩を抱きながら、ベッドルームに上がっていった。
ベッドで枕に顔を伏すニック。
マーティンは、ニックのジャケットとTシャツ、ジーンズ、靴下を脱がせ、トランクス一枚にした。
「パジャマどこ?」
「俺はいつも裸だよ」
くぐもった声が聞こえる。
マーティンはヒーターの温度を少し上げ、自分もスーツを脱いで、
トランクス一枚でニックの横に身を横たえた。
ニックの逞しい背中を優しく撫で続ける。
「何もいらない?」
「・・コカインが欲しい」
「だめだよ、ニック!それだけはやらないで!」
「お前だけだよ、俺の事を心配してくれるのは」
ニックは急にマーティンの方を向くと、ぎゅっとマーティンの身体を抱き締めた。
「もう寝ようよ」
マーティンの声とほぼ同時に、ニックの寝息が聞こえてきた。
マーティンは、抱き締められたまま、目を閉じた。
ぐっすり眠っていたダニーは、ベッドが大きく揺れて目覚めた。
薄目を開けると茶色の髪が鼻先でふわふわしていてかゆい。
「ダニィ、いつまで寝てるのさ」
マーティンが体をぴったりくっつけてきてうざったい。髪でくしゃみが出そうになる。
「んー、もうちょっと」
「だーめ、もうお昼過ぎてるんだよ」
「・・うるさいなぁ、休みの日ぐらいゆっくり寝かせろや」
ダニーは反対側を向いて布団をかぶったが、すぐに布団をはがされてしまう。
「何すんねん!寒いやろ!」
「こっち向いてよ。僕、寂しいよ」
「しゃあないなぁ、ええけどじっとしとけ。そや、iPodやったらそこにあるで。一緒に聴こう」
ダニーはマーティンを抱き寄せた。マーティンは腕の中でiPodをいじりながらおとなしくしている。
「ねえ、これダニーのだよね?」
エリック・クラプトンに聴き入っていると、マーティンが不思議そうにきょとんとして顔を見上げた。
「なんで?」
「だってさ、さっきからヘンなのが混じってるよ。ヴァネッサ・ウィリアムズなんて入ってたっけ?ジャミロもなくなってるしさ」
「ほんま?おかしいな、間違えて消したんかな・・・」
ダニーが見てみると、このiPodは自分のではなくジェニファーのだった。どうやら間違えたらしい。
「ほんまや、あらへんな。あとで入れとくわ」
ダニーは気取られないように言いながら適当に曲を選んだ。
「あっ、ビヨンセはいいよね。この曲好き」
マーティンはビヨンセに気をとられている。ダニーはほっとしながら目を閉じた。
うとうとしていると、またマーティンが揺さぶってきた。
無視しているとペニスを扱いていたずらしてくる。
「ダニィ」
「ちょっと待て、おしっこしたいんや」
ダニーの尿意は限界で今にも漏れそうだ。慌ててベッドを飛び出した。
マーティンがけたけた笑いながらついてくる。
用を足していると、後ろから手を回してペニスを支えながら背中に甘えてきた。
ダニーは手を放してマーティンにまかせる。全て出し終えると向き直ってキスをしてやる。
「起きた?」
「ああ」
「あーよかった。また寝るって言われたらどうしようかと思っちゃった」
マーティンはにっこりするとダニーにしがみついた。あどけなさにつられ、ダニーもにっこりしながらしっかり抱擁を返す。
「今日はどこかに行くの?」
「いや、予定はないんや。どっか行きたいんか?」
「ううん、ダニーと一緒にいられたらそれでいいよ。もちろんダニィが起きてたらの話だけどね」
青い瞳でまじまじと見つめられ、ダニーは苦笑してマーティンの髪をくしゃっとした。
「わかった、出かけよう。家にいてたらまた寝てまうかもしれん」
ダニーは顔を洗って髪をぬらし、寝癖をささっと手櫛で整えた。鏡を見て今日は髭は剃らないことに決める。
「よし、あとは着替えるだけや」
「ねえ、髭は剃らないの?」
「今日はいいんや」
「朝ごはんは?」
「そやな、牛乳だけ飲むわ。どっかで食べよう」
外はよく晴れていて空が高いが空気は冷たい。
ベッドに戻りたい気持ちを押さえつけて地下ガレージまで降りた。
車に乗ると、マーティンが指を絡めてきた。しっかり握り返して車を出す。
ブルックリンブリッジを寒そうに歩く人々の横を通り抜け、とりあえずソーホーを目指す。
マーティンは楽しそうに窓の外を眺め、目につくものにいちいち喜んでいる。
「ねえ、帰りにヴェスビオ・ベーカリーに寄ろうよ」
「ええよ。お前はあそこのパン好きやもんな」
「ん、大好き」
きっぱりと答えるマーティンの単純さが好ましく思えた。
ガラスばりのカフェでシュリンプサンドを食べた後、MOMAデザインストアで月の満ち欠けカレンダーを買ってやった。
マーティンはこれでいつ満月になるかわかると大喜びしている。
満月の日は一緒に過ごして月を眺めるのだと、勝手に思い描いて楽しそうに笑った。
子どもじみた考えだが、ダニーもそうするのはいい考えだと思った。自分も月を眺めるのは好きだ。
ベッドに寝転んで見るのかと訊ねると、瞬時に頬を紅潮させたのがかわいい。
マーティンの世界は自分なしには成り立たないのだ。
なんとなく満ち足りた気分になりながら、ダニーは小さく微笑んだ。
979 :
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