【Without a Trace】ダニー・テイラー萌え【小説】Vol.7
1月からスーパーチャンネルでの放映中の海外ドラマ「FBI失踪者を追え」
4月5日(水)午後10:00〜 NHK BS-2でシーズン2の放映中!
ダウンタウン出身ダニー・テイラーを元にしたエロネタ小説のスレ
現在、書き手1と書き手2にて創作中。
新しい書き手の参加も大歓迎です。
ダニー・テイラー役、Enrique Murciano HP
http://www.imdb.com/name/nm0006663/ [約束]
・荒らしと叩きは相手にしないようにしてください
・アンチを見つけてもスルーしてください
・このドラマの他の関連板に感想などを書くのは控えてください
[注意書き]
同性愛的要素、過激な描写を多く含みますので、不快を示す方は閲覧をお控え下さいますようお願いします。
これらを理解してストーリーを楽しんで下さる方のみ閲覧お願いします。
注意事項を守らず不快な思いをされてもこちらは一切責任を負いません。
あくまでも自己責任・自己判断でお願いします。
ダニーはスチュワートからの連絡を待っていた。
本当は早く話がしたかったが、自分から連絡をとるのを躊躇っている。
遊びで寝たわけじゃないという、あの朝の言葉を信じたかったが
今は不信感で頭がどうにかなりそうだ。
なんでや、やっぱりオレと寝たんは遊びやったんか・・・・
二日待ったところで痺れを切らし、携帯に手を伸ばした。
5 :
書き手2:2006/04/08(土) 23:14:10
電話をしかけて手が止まる。どうしても最後の一つが押せない。
もしも拒否されたら?あれはただの遊びだと言われたら?
つい、そんなことばかり考えてしまう。
結局、携帯を閉じるとサイドテーブルに置いた。
6 :
書き手2:2006/04/08(土) 23:14:44
翌日の昼休み、ランチを食べていると携帯が鳴った。
発信表示はトロイと出ている。ダニーは咳払いをすると電話に出た。
「はい、テイラー」
「あ、オレ。近くにマーティンは?」
「いや、オレ一人や。何か用か?」
本当はうれしいのに、なぜか素っ気ない言い方になってしまった。
7 :
書き手2:2006/04/08(土) 23:15:16
「・・連絡が遅くなったから怒ってるのか?」
「そんなんちゃう」
「そうか、遅くなってすまない」
「ちゃうって言うてるやろ!」
ダニーの抗議にスチュワートはくすくす笑った。
「今夜、グラマシーのフルートで会おう。その・・ほら・・迎えにはいけないから」
「ん、グラマシーな。もし事件が起こったら連絡するわ」
携帯を切ったダニーは、思わずよっしゃーと叫ぶとガッツポーズをした。
8 :
書き手2:2006/04/08(土) 23:15:49
仕事が終わると、マーティンに見つからないように支局を出た。
グラマシーのフルートに着くと、すでにTVRが止まっている。
ダニーがドキドキしながら中に入ると、見つけたスチュワートが軽く手を挙げた。
「やあ、早かったな。お前はいつものドライ・マンハッタン?」
「ああ」
スチュワートはドライ・マンハッタンとアンチョビのピザをオーダーした。
9 :
書き手2:2006/04/08(土) 23:16:21
ダニーは、スチュワートが自分の好みを覚えているのに驚いた。
「オレは記憶力がいいんだ」
視線を感じたスチュワートがにんまりしながら答える。
平然と生春巻きを食べる様子に、なんだか心の中を読まれたようで落ち着かない。
黙ってドライ・マンハッタンを啜った。
10 :
書き手2:2006/04/08(土) 23:16:53
二人が飲んでいるとダニーの携帯が鳴った。
恐る恐る見ると、案の定マーティンからだ。
出ないと怪しまれる、ダニーは仕方なく電話に出た。
「ダニー、どこにいるの?」
心細そうに尋ねる声に胸がチクッとした。
11 :
書き手2:2006/04/08(土) 23:17:29
「フルートで飲んでるんや。どうしたん?」
「ん、黙って帰っちゃったみたいだから気になって・・・」
「ごめんな、お前がまだ戻ってないみたいやったから」
マーティンに嘘をつく様子を見ているスチュワートは、困ったようにグリッシーニをかじっている。
ダニーは罪悪感に満ちたそんな顔を見たくなくて目をそらした。
電話を切ると、二人とも何も言わずに飲み続けた。
12 :
書き手2:2006/04/08(土) 23:18:00
「・・・信じたか?」
「たぶん」
「そっか・・・食べるか?」
ダニーはグリッシーニをもらうとため息混じりにかじった。
「そうや、最近、ベトナム料理行かへんなぁ」
「ああ、そういえばずいぶん行ってないな」
スチュワートは遠くを見る目をした。
13 :
書き手2:2006/04/08(土) 23:18:33
ダニーは、行かないのはベトナム人に拉致されて殺されそうになったせいだと思い当たった。
「あ、ごめん。いらんこと聞いたな」
「いいんだ、そろそろ行っても平気そうだ。今度ホビロンをご馳走するよ」
「あんな気色悪いもん、いらんわ!」
「おいしいって。そうだな、チキンスープみたいな味だ」
「いらん!」
手招きされて耳を近づけると、食べたらキスしてやると言われた。
困り果てたダニーを見て、スチュワートは楽しそうににやけている。
渋々頷くと、両手の指をクロスさせて誓わされた。
ダニーは口を半開きにして眠っていた。
起こさないようにアランはベッドを出ると、シャワーを浴び、朝ご飯のしたくをした。
パンケーキを焼いていると、あくびしながらダニーが起きてきた。
「ええ匂いや」
「早くシャワーしておいで」
「うん」
カフェオレと、バター、メープルシロップたっぷりのパンケーキを嬉しそうに食べているダニーを見ると、
自然とアランの顔もほころぶ。
15 :
書き手1:2006/04/09(日) 01:55:02
「なぁ、今日、マーティンがカウンセリングに来るんだ。」
「え?やっぱりパリの事件、酷かったからやね」
「ニックが連れてくる」
「うそー!ホロウェイが来るの?俺会いとうないから出かける」
「午後は、僕の用事に付き合ってくれないか?」
「わかった、2時ごろ帰ってくるわ」
ダニーはパンケーキを食べ終わると、マスタングのキーを持って、出かけていった。
あの子がニックとマーティンが一緒にいる環境に慣れるのはまだ無理なのか。
アランはため息をついた。
16 :
書き手1:2006/04/09(日) 01:56:18
土曜日は休診だが今日は特別に11時にマーティンのために時間を空けた。
ニックが青白いマーティンを連れて、カウンセリング・ルームに入ってくる。
ニックが「俺、外で時間つぶしてくる」と言った。
するとマーティンが「だめ、ニック、ここにいて。お願い」と懇願した。
アランは、ニックの同席を認め、セッションを始めた。
覚えている事柄を少しずつ尋ねていく。
17 :
書き手1:2006/04/09(日) 01:57:46
最初の身体検査の後、ペニスとアヌスにピアスをつけられた事、
毎日全裸で過ごした事。排便・排尿も人に見られた事、
鞭打ちと終わる事のないセックスが続いた事。
絶対に顔を上げてはいけず、4日間を過ごした事。
夜は鎖に繋がれて眠った事。
表情を変えずに話すマーティンに、ニックは隣りで思わず涙を流した。
こんな目に遭ってたのか!許せない!犯人を殺してやる!
ニックの心の中は憎悪で満たされた。
18 :
書き手1:2006/04/09(日) 01:59:14
「相手で覚えているのは?」
「・・ジュリエール。ちょうどダニーみたいな人種の人」
マーティンは沈黙した。
「なぁ、マーティン、もう君はここで、守ってくれる人がいて、安全なんだよ。
それをよーく考えるんだ。精神安定剤と睡眠薬を処方するから、服用するように」
「あのー、ケンが捜査に協力してくれって言われたんだけど」
マーティンは伏し目がちに問いかけた。
「今位、吐露できたんだ、協力できるさ。君はFBI特別捜査官だよ。誇りと自信を持つ事だ」
最初のセッションは終わった。
19 :
書き手1:2006/04/09(日) 02:00:20
ダニーのPTSDも酷だったが、マーティンも負けず劣らず酷いものだ。
ニックが本当に信頼できるのかそれも鍵だな。
二人は手をつないで帰っていった。
あの姿をダニーが見たら、間違いなく荒れていただろう。
出かけてくれて助かった。
2時ごろになり、ダニーが帰ってきた。
「アパートの掃除してきたわ、もう終わったん?」
「ああ・・」それ以上はダニーも聞くまいと思った。
20 :
書き手1:2006/04/09(日) 02:01:27
アランが「じゃあ出かけようか?」と言う。
「うん?俺帰ってきたばっかりやん」
「いいじゃないか?」二人でボルボに乗り込む。
着いたのは、車のディーラー・ギャラリーだった。
「ショア様、ようこそ。用意は出来ております」
バカ丁寧な店長の対応にダニーは思わず笑った。
用意されていたのは、深緑色のジャガーのセダンだった。
「うわー、すんげー」ダニーが歓声を上げる。
21 :
書き手1:2006/04/09(日) 02:03:00
「もう一台はこちらで」ブラックのジャガー・クーペが停まっていた。
「?」ダニーが不思議そうな顔をアランに向けた。
「僕らが付き合ってもう半年が過ぎただろ、記念に買い物がしたくなってね」アランが言う。
「こんなん、俺、払えない!」
「ばかだな、僕の自己満足だよ」
ダニーはじっと考えた。
「やっぱ、俺、受け取れへん。今の車で十分や。愛着もあるし・・」
22 :
書き手1:2006/04/09(日) 02:04:27
「そうか、じゃあ、セダンだけもらおうか」
「はい、ショア様」
アランは小切手を切っていた。
やっぱり、住んでる世界が違うんや。こればかりは、一緒に住んでも俺、変われへんわ。
ダニーは2台のジャガーを見ながら、ため息をついた。
23 :
fusianasan:2006/04/09(日) 04:39:01
新スレおめでとうございます。
これからも息の長い連載を期待しています。
毎日更新で大変でしょうが、頑張ってください。
応援しています。
書き手1さん;
ニックが真面目そうなので驚いています。遊びじゃなかったんですね。
ダニーの気持ちが切ないです。
書き手2さん;
マーティンに隠れて会っている二人、余計に萌えます。
ダニーとスチュワートの関係で、ダニーが満たされたら、すごく
嬉しいです。
24 :
書き手2:2006/04/09(日) 23:05:49
>>23 二人の関係はまだ始まったばかりなので、どうなるかわかりませんが、
しばらくは秘密の逢瀬が続きそうです。マーティンのことも考慮しないといけませんね。
「さてと、今夜はどうする?」
車に乗るなり尋ねられ、ダニーは黙り込んだ。
今夜は一緒にいたいが、何も言えない。
スチュワートはそれ以上聞かずに車を走らせ、すぐにアパートに着いた。
二人は黙ったまま部屋に入る。
スチュワートがうがいと手洗いをしたので、それに倣った。
26 :
書き手2:2006/04/09(日) 23:07:21
リビングに戻ると、スチュワートが水のボトルを差し出した。
横に座って少しだけ飲み、ボトルを返す。
「もういいのか?」
「うん」
「飲ませてやろうか?」
「え・・いや、うん」
どっちだよと苦笑しながら、水を含んで口移しにする。
水を飲みこむとソファに押し倒され、激しい舌の洗礼を受けた。
27 :
書き手2:2006/04/09(日) 23:07:53
ダニーはディープキスをしているだけなのに、ペニスが反応してしまう。
勃起してトランクスの布地に触れた先っぽがむずむずする。
「・・っ・・・ぅ・・」
甘い吐息を漏らしたダニーは恥ずかしくてたまらない。
背中に回した手に無意識に力がこもった。
スチュワートの手はシャツのボタンを外し、胸のあたりを弄りだす。
冷たい手が確かめるように這いずり回り、ダニーの吐息はさっきよりも大きくなった。
28 :
書き手2:2006/04/09(日) 23:08:24
「トロイ・・ここでするの嫌や・・」
「どこがいいんだ?外か?」
「あほ!余計に嫌や。ベッドでしたい」
スチュワートは立ち上がるとダニーの手を引っ張った。
「テイラー、抱っこしてやろう」
「いや、そんなんええって!やめろや!」
嫌がるダニーを抱きかかえ、ベッドにそっと寝かせると服を脱がせた。
29 :
書き手2:2006/04/09(日) 23:08:55
スチュワートは自分も服を脱ぐと覆いかぶさる。
ディープキスの続きをしながらダニーの手を押さえつけた。
マーティンとするのとはまったく違う種類の快感を感じている。
オレ、女みたい・・・ダニーは愛撫にぞくぞくしながら思った。
ペニスはもう濡れに濡れている。いつイッてもおかしくない。
「・・っ・・オレ、イキそうっ・・うっ」
ダニーの体はびくんと弓なりになり、そのまま射精してしまった。
30 :
書き手2:2006/04/09(日) 23:09:28
「お前な、早すぎるぞ、まだ入れてないのに・・まあいいさ、オレが何度でもイカせてやる」
スチュワートはニヤッとするとイッたばかりのペニスに触れた。
「待ってくれ、こそばい」
「だめだ」
容赦なくペニスをしごかれ、亀頭を嬲られた。
出した精液をアナルに塗られ、細長い指が中をいじくりまわす。
ダニーが喘ぎ声を上げると、口もキスで塞がれてしまった。
31 :
書き手2:2006/04/09(日) 23:10:02
マーティンのセックスがエロくなるはずや・・・・
息をするのも絶え絶えの状況で、ふとそんなことを考えていると
下半身がむずむずしてまた欲しくなってきた。
「トロイ・・・」
スチュワートは、指を抜くと四つんばいにさせてローションを塗りたくった。
32 :
書き手2:2006/04/09(日) 23:10:35
「痛かったら言えよ」
ダニーのアナルはヒクヒクしていたが、それでも受け入れるにはまだ狭い。
時間をかけて少しずつゆっくり挿入する。ダニーは痛みで体が少し強張った。
スチュワートはほんの少し動かすたびに様子を窺う。
ダニーが痛くないようにやさしく動かしながら背中に舌を這わせ、
十分馴染んだのを確認すると、いろいろな角度で挿入をくり返した。
33 :
書き手2:2006/04/09(日) 23:11:08
「んっそこっ・・今のとこ・・あぁっ・・っ」
「ここか、ここだろ」
スチュワートはダニーが感じるポイントを的確に突いた。
アナルがきつく締まってきて自分もイキそうだ。
「ぁぅっ・・んん・・あっぁぁー」
ダニーはまた射精してしまった。シーツにさっきよりも薄い精液が飛んでいる。
「オレもイクぞ・・んっっ・・で、出る・・・」
スチュワートは射精するとダニーの体に倒れこんだ。
34 :
書き手2:2006/04/09(日) 23:11:40
汗ばんだ体がけだるかったが、促されてシャワーを浴びた。
全身が火照って暑い。ダニーは先に出ると屋上に出た。
この前ここに来たときは振られた時やったなぁ・・・・
デッキチェアに座り、感慨深く天を仰ぐ。
航空障害灯の赤い点滅を数えていると、肩に手が置かれた。
35 :
書き手2:2006/04/09(日) 23:12:13
「設置基準は赤が地上から60m以上らしいぜ。白いフラッシュは150m以上なんだってさ」
「ふうん、そうなんや。お前、詳しいな」
「オレもマーティンに教わったのさ。ほかにも何か言ってたけどな」
「あいつ、なんやようわからんな。さすがぼんやり王子や」
二人は顔を見合わせて笑った。お互いにマーティンを愛している気持ちは同じだった。
36 :
書き手2:2006/04/09(日) 23:12:46
「オレ、今日は帰るわ。あいつが待ってそうやから」
「そうだな、オレもそんな気がする」
部屋に戻って着替えると、シーツについた精液の染みを隠すようにベッドを整える。
「寝た後でベッドメーキングするヤツなんて初めてだ」
スチュワートが後ろからダニーを抱きしめた。可笑しそうに耳を軽く噛む。
ダニーは本当はこのまま一緒にいたかったが、二人は地下ガレージまで降りると車に乗った。
マーティンは、精神安定剤と睡眠薬のお陰で、少しは眠れるようになっていた。
ニックは、個展のクロージング出席のため、パリに旅立った。
マーティンはケンに電話をかけ、捜査に協力する旨を伝えた。
38 :
書き手1:2006/04/09(日) 23:34:05
初めて入るインターポールのNY支部。FBIと似たり寄ったりのオフィスだ。
「よく連絡くれたね、だめかと思ってたよ」
ケンがコーヒーマグ2つを持って、笑顔で迎えてくれる。
応接室で、マーティンはアランに話したのとほぼ同じ話をした。
付け加えたのは、ジュリエールの詳細と、彼に「ご主人様」がいたという事、
ニックの作品を買おうとしたという事だ。
39 :
書き手1:2006/04/09(日) 23:35:27
「また買おうとするかも知れないね」
「でも、あれはもう売約済みだから」
「手がかりになりそうだ、個展を運営している人は?」
「ナタリーって女性。クリヨンに泊まっているよ。ニック・ホロウェイに電話してみると分かる」
「ありがとう、辛い事情聴取だったでしょう」
「君の言うとおり、もう犠牲者を出したくないと思ったから」
ケンは早速、パリ支部に送る報告書を準備をすると言って別れた。
40 :
書き手1:2006/04/09(日) 23:37:19
マーティンは自分のアパートに戻った。
デリバリーでピザを取って、ワインで食事する。
一人が耐えられない。記憶が掘り起こされ、つながれていた左足首が痛むような気さえする。
迷った挙句、携帯を手に取り、ダニーのメモリーを押した。
「おぅ、マーティン、どうした?」うぁ、ダニーが出たよ!
41 :
書き手1:2006/04/09(日) 23:38:47
「あのね、今日、インターポールの事情聴取受けたんだ」
「へぇ、お前、大丈夫か?」
「あんまり大丈夫じゃない」
「今、どこや?」「家だよ」
「こっち、来いへんか?食いもんあるで」
「ダニー、こっちに来てよ」それだけ言って、マーティンは携帯を切った。
無意識のうちに、ダニーを試していた。踏み絵のようだ。
20分ほどして、ダニーが飛んできた。一人だ。
42 :
書き手1:2006/04/09(日) 23:39:53
「ダニー!」マーティンは飛びつきそうになったが、身体が麻痺したように動かなかった。
「?」ダニーが不思議そうな顔をしている。
「これ、お土産のシナモンアップルパイ、お前好きやろ?」
「うん、ありがとう!紅茶があるけど飲む?」マーティンが聞く。
「ああ」フォションのアップルティーを入れるマーティン。
りんごの香りがキッチンを包む。ダニーがアップルパイを切り分けた。
静かな二人の夕方だ。
43 :
書き手1:2006/04/09(日) 23:40:58
ダニーが捨ててあったピザの箱を見つける。
「お前、ロクなもん食うてないな、今日はましなもん食わしたるからな」
ダニーはマーティンを連れて「イーライズ」に買い物に行く。
肉ばかり選ぶマーティンを説き伏せ、野菜や魚介類も買う。
夕飯は、ブイヤベースとリゾットにした。サラダも山盛り用意した。
シャルドネを開けて二人で乾杯する。
44 :
書き手1:2006/04/09(日) 23:41:47
「今日、泊まろうか?」ダニーがおずおずと聞く。
マーティンはしばらく考えていたが「さっきは辛かったけどもう大丈夫。アランとこに帰りなよ」と言った。
ダニーは、ぴしゃりと拒絶された思いに打ちひしがれた。
「ほんまにええのんか?」
「一人で眠れるよ」マーティンは苦笑いして、首を横に振った。
45 :
書き手1:2006/04/09(日) 23:42:47
ダニーと同じ人種の人に虐待されたなんて、ダニーに言えるはずがない。
マーティンは、何か言いたそうにしているダニーを見送った。
ダニー、ごめんね。僕ね、一緒にいたいのに、身体がいう事を聞かないんだ。
心が壊れそうなんだよ。本当に、ごめんね。
46 :
書き手1:2006/04/10(月) 01:00:18
>>23 さん
LOSTのソーヤーがいい人になるにつれ、こっちのニックもいい人に
なってきてしまいました。ダニーとマーティン、まだすれ違いが続きそう。
ダニーがアパートに帰ると、マーティンがリビングでうたた寝していた。
TVはつけっぱなしで、ピザのカートンとビールの空き瓶が散らかっている。
やっぱりな、あのまま泊まってたらえらいことになるとこやった・・・・
「マーティン、ただいま」
ほっぺにキスをするとマーティンが目を覚ました。
48 :
書き手2:2006/04/10(月) 23:01:04
「ん・・ダニー?ダニィ!」
ぎゅっとしがみつかれ、よしよしと抱きしめる。
「ただいま、こんなとこで寝てたら風邪引くで」
「遅いよ、ずっと待ってたんだよ」
「ごめんな、店が混んでたんや」
自分でも呆れるぐらいすらすらと嘘が口をついた。
49 :
書き手2:2006/04/10(月) 23:01:40
気づかれないうちにシャワーを浴び、ベッドに入った。
マーティンがくっついてくるが、二回も射精した後なので当然立つはずもない。
「ねー、ダニィ」
「飲みすぎたんかな、オレ今日は眠いわ」
ダニーはおやすみのキスをすると目を閉じた。
マーティンは横でもぞもぞしていたが、そのうち静かになった。
ごめんな、マーティン・・・ダニーは眠っているマーティンに心の中で詫びた。
50 :
書き手2:2006/04/10(月) 23:02:12
翌朝、スターバックスで並んでいると後ろから肩をたたかれた。
「ん?おー、アーロン!」
「おはよう、ダニー」
ダニーは挨拶を交わすとマーティンを紹介した。アーロンはマーティンを見て驚いている。
「やあ、この前はどうも・・」
「・・いえ」
二人はぎこちなく会話を打ち切り、アーロンはそそくさと出て行った。
51 :
書き手2:2006/04/10(月) 23:02:45
「マーティン、アーロンと知り合い?」
「知り合いなんかじゃないよ!あいつ、すっごく意地悪なんだ!」
マーティンは忌々しそうにカプチーノを飲んでいる。
「何かされたん?」
「されたけど言いたくない。行こう、遅れちゃう」
ダニーは何をされたのか気になったが、マーティンに続いて店を出た。
52 :
書き手2:2006/04/10(月) 23:03:18
マーティンはいつになく早歩きで、ダニーは慌てて追いかける。
「待てや、急にどないしたん?」
「あいつと仲良さそうじゃない」
「あいつってアーロンか?そんなんちゃう、溺れて助けてもろただけや」
「ダニー溺れたの!」
マーティンが急に立ち止まり、一瞬ポカンとするとくすくす笑い出した。
53 :
書き手2:2006/04/10(月) 23:03:52
「ジムのプールで溺れるなんて・・・」
「足が攣ったんや、笑うな!」
マーティンはごめんと言いながら笑いを堪えている。
「お前がされた意地悪って何?」
「それは・・・」
たちまち顔を曇らせると拳をぐっと握っている。
かわいそうになったダニーは話題を変えて歩き出した。
54 :
書き手2:2006/04/10(月) 23:04:24
昼休み、マーティンの携帯が鳴った。少し躊躇う様子から見てスチュワートだ。
ダニーは無関心を装いながらフィッシュサンドをかじる。
「ダニー、今夜スチューが三人でディナーに行こうって言ってるよ。どうする?」
「あ・・別にええで」
あいつ、何を考えてるんや?まさかカミングアウトする気やないやろな?
ダニーにはさっぱりスチュワートの意図がわからない。
マーティンは嬉しそうに約束の時間を決めると電話を切った。
家に戻ると、アランは書斎で葉巻をふかしながら、ネット相談の最中だった。
「ただいま!」
アランが書斎から顔を見せる。疲れた眼鏡姿がセクシーだ。
「なんか飲む?」
「ブランデーを頼む」
「了解っす!」
ブランデーと自分用のホットチョコレートにマシュマロを浮かべて、
書斎に持っていく。
56 :
書き手1:2006/04/11(火) 00:09:25
「マーティン、どんな様子だった?」
「一人で所在なげやったけど、どうにか暮らしてたわ」
「かなり強い精神安定剤を処方したから、副作用で吐き気やめまいがあるはずだ。
オフィスで様子を見てやってくれないか?」
アランが目を上げてダニーに頼む。
「うん、分かった。」
一息おいて「アラン、俺がマーティンの事気にかけるの、ほんまは嫌なんちゃう?」と聞いた。
「君が、僕とトムの間を気に病む程度にね」アランは笑った。
「じゃあ、相当嫌ってことやん!俺、シャワー浴びて寝るわ」
「わかった、僕も一区切りついたら、寝るよ」
「待ってる」ダニーはウィンクをするとバスルームに消えた。
57 :
書き手1:2006/04/11(火) 00:11:00
アランは真っ直ぐに感情を出すダニーが羨ましかった。
ダニーは、久しぶりに一人だけのバスタイムを楽しんだ。
お気に入りのラベンダーのオイルとジェルで鼻歌もはずむ。
COLDPLAYのTHE SCIENTISTだ。
♪僕らが別れたのは何て残念な事だろう。また一からやりなおそう♪
俺とマーティンの事みたいや。あ、何、俺、考えてるんやろ、あほちゃうか!
ダニーは泡を吹き飛ばして、バシャバシャ水面を叩き、バスタブから出た。
58 :
書き手1:2006/04/11(火) 00:12:18
ベッドで事件の報告書を読んでいると、アランがやってきた。
ダニーがキスをねだる。アランは眼鏡をはずすと、バスローブを脱いでダニーの傍らへ身体を横たえた。
ダニーはすでに全裸で、ペニスを半立ちにさせていた。
「今日はアランに入れたい」
「あぁ、来てくれ」
ダニーは布団の中にもぐって、アランのペニスを口に含んだ。
裏まで念入りにしゃぶり、音をたててまた含む。
59 :
書き手1:2006/04/11(火) 00:13:57
「うぅぅ」アランがうなると、ダニーの頭を上に持ち上げた。
キスを念入りに繰り返す。舌と舌がフェンシングのようにまとわりつく。
「あぁ、アラン、もう入れたい」ダニーが甘い声で囁く。
アランが腰を持ち上げると、ダニーはマンゴーローションを自分の局部とアランのアヌスに塗りたくり、
指を二本抜き差しした。
「あぁ、はぁ、はぁ」アランの息があがる。
ダニーはアランの中が小さく震えるのを確認すると自分のペニスをあてがい、ぐっと差し入れた。
60 :
書き手1:2006/04/11(火) 00:16:02
「あぁ、ダニー、いいよ、僕のダニー」アランが甘い息をつく。ダニーは速度を早めた。
「俺、もう、ダメ、出る・・・」ダニーは身震いするとアランの中に果てた。
アランもその衝動を受けてシーツにはぜた。アランの上にかぶさるダニー。
この子はこんなにも軽い。アランは仰向けになり、ダニーにキスをした。
ダニーもキスを返す。舌を絡めあい、愛情を確かめ合う。
ダニーはアランの柔らかい胸毛に頬をこすりつけて、子供のように眠りについた。
ダニーとマーティンが支局の下で待っていると、ハマーからスチュワートが降りてきた。
「スチュー!車替えたの?」
「いいや、マーキンソンと一日だけ交換したんだ。三人だからな」
これってオレのため?ついついダニーは最後の一言に反応してしまう。
何も気づかないマーティンは、ホレイショだねと言いながら車を見回した。
「さあ行こう。テイラー捜査官、運転したいか?」
「してもええの?」
「ああ。この車はオレには少し向いてないみたいなんだ」
スチュワートはキーを渡すと後ろに乗った。
62 :
書き手2:2006/04/11(火) 23:40:32
なんでこいつ後ろに乗ってるんや?
ダニーはシートの位置を合わせながらバックミラーで様子を窺う。
視線に気づいたスチュワートはウィンクしてきた。
ダニーは慌てて前を向くと、エンジンをかけた。
「マーティン、シートベルトしたか?行くで」
「ん、した。僕、ハマーに乗るの初めてだ」
「オレも。なんかホレイショの気分や。・・マーティン・・・・行くぞ」
「おい、これはマーキンソンのだからな、当てたり擦ったりは無しだぞ」
はしゃぐ二人にスチュワートは釘をさした。
63 :
書き手2:2006/04/11(火) 23:41:03
「で、今日はどこに行くんや?」
「モンキーバー。あそこのメシはうまいから」
モンキーバーってスタニックの職場やん!そんなん困る・・・・
「どうした?何か食べたいものでもあるのか?」
「オレ、シーフードがええな。ほら、あのトンカチでどつきまわすとこ」
「マーティンは?」
「僕は何でもいいよ。腹ペコだからね」
「それじゃ、テイラー捜査官の好きなところへ行けよ」
ダニーはホッとしながら車を出した。
64 :
書き手2:2006/04/11(火) 23:41:40
トンカチシーフードレストランへ行くと、運の悪いことに臨時休業していた。
「仕方ない、モンキーバーにもシーフードがあるさ。そっちに行こう」
「そやな・・」
ダニーにはホテル・エリゼーまでの道が果てしなく感じられた。
スタニックが休みやったらいいんやけど・・・自分の希望的観測に苦笑する。
せっかくハマーの乗り心地を楽しみたかったのに、それどころではなかった。
65 :
書き手2:2006/04/11(火) 23:42:12
モンキーバーで席に案内されながら、ダニーはスタニックを探した。
カウンターの向こうで客にカクテルを差し出している。
ダニーが見ているのに気づいたのか、チラっと視線が合った。
スタニックは目を伏せると何事もなかったように仕事を続けていたが、
ダニーはマーティンとスチュワートと三人一緒にいるところを見られて動揺していた。
それに今では自分もスチュワートと寝ている。
66 :
書き手2:2006/04/11(火) 23:42:44
オーダーを済ませたあと、スチュワートはカーニバルの話を始めた。
マーティンはあまり行ったことがないので興味津々だ。
「ダニーは?」
突然尋ねられてハッとする。「ごめん、聞いてなかった」
「何だよ、オレがせっかくおもしろい話しているのに」
「もうすぐカーニバルが来るんだって。楽しみだね」
「そろそろ春やからな」
ダニーは怪しまれないよう話に加わり、なるべくスタニックの方を見ないようにした。
67 :
書き手2:2006/04/11(火) 23:43:19
ディナーのあと、スチュワートのアパートに帰った。
マーティンがシャワーを浴びている間、ダニーはなんとなく屋上を散歩している。
「三人で会うってどうなんだろう」
いつのまにか後ろにいたスチュワートが話しかけてきた。
「ん?何が?」
「お前の様子がいつもと違ってたからさ、無理なのかなと思って」
「いや、オレは平気。三人も悪くないんちゃう?」
「そうか、それじゃまた行こう」
頼むから行き先はモンキーバー以外に・・・ダニーは心の中でつぶやいた。
スチュワートはにんまりするとさっとキスした。
マーティンが戻ってこないかとドキドキしながら、ダニーもキスを返す。
背徳的な行為に興奮して、ペニスが痛いほど勃起していた。
ダニーとアランはDVDで「ブロークバックマウンテン」を見ていた。
20年にわたる切ない男同士のラブストーリーに、
ダニーは途中からティッシュ片手に鼻をぐしゅぐしゅさせていた。
終わった後、アランが「胸が締め付けられたな。今の時代に生きててよかった」と言った。
「少なくともワイオミングじゃ、アランと出会えなかった思うで」
ダニーは目の周りをティッシュで覆うと、涙を隠した。
69 :
書き手1:2006/04/12(水) 00:00:53
「ジェイク・ギレンホールってお前に似てるよなぁ」
ダニーは驚いた。初めてアランに「お前」と言われた!
「ヒース・レジャーはアランに似てへんな」二人はやっとにっこりした。
「今日は外食にするか」
「うん、そやね」
二人は家に近い「ダラスBBQ」に寄りこみ、Tボーンステーキとシーザースサラダ、温野菜で食事した。
お値打ちのチリワインがあって、二人はにんまりだ。
70 :
書き手1:2006/04/12(水) 00:02:58
「今日の映画の二人、こうして、レストランにも一緒に行けへん時代やったんやなぁ」
「あぁ、特にあの時代の西部は偏見が強かったかんだろう」
「俺、NYにいて幸せ」
「僕といてじゃないのかい?」アランがわざと尋ねる。
「アランといて幸せや!」ダニーは言いなおした。
「いい子だ」
二人でまったりワインを飲んでいると、「あら、ダニーとアラン!」という声がした。
サマンサだ。
71 :
書き手1:2006/04/12(水) 00:04:26
「よう、サマンサ!珍しいやん!」
「しー!今日はブラインド・デートなの。相手がイケてないから、これから帰るところ。お二人は、いつも通りね」
うふふっと笑ってサマンサは去っていった。
「サマンサ、大丈夫やろか?」ダニーが独り言のように言った。
「どうした?」
「うん、ボスが奥さんとヨリを戻してな、同居始めたんや」
「あーだからブラインド・デートか。あんなに美人なのにな」
72 :
書き手1:2006/04/12(水) 00:05:32
「婚姻関係ってやっかいやな、俺、結婚が怖いわ」
「おい、結婚する気があるのか?」アランに聞かれてダニーは慌てた。
「ううん、あるわけない。今が一番幸せやもん、アランは?」
「両親はうるさいが、もう無理だろう」
「子供欲しくない?」ダニーが真顔で聞くので、アランは噴き出した。
73 :
書き手1:2006/04/12(水) 00:07:16
「何だ、ダニーが生んでくれるのかい?」
「まじ、俺、女やったら、アランの子が欲しいわ。ブロンドで、賢くて可愛い子やで、絶対」
ダニーが真剣に言うので、さらにアランは爆笑した。笑いすぎて涙を流している。
「ジャネットが聞いたら、泣いて喜ぶよ」
アランがチェックを済ますと、二人は手をつないでアパートに戻った。
74 :
書き手1:2006/04/12(水) 00:17:58
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75 :
fusianasan:2006/04/12(水) 02:44:09
書き手1さん;
アランがトムの方に傾いたかと思ったら、ダニーとラブラブで嬉しいです。
二人の子供なんて考えただけでも可愛らしくて、頬ずりしたい位です。
書き手2さん;
スチュワート、ダニーを哀れんで抱いたのかと思ったら、そうじゃないん
ですね。これからの三角関係がドキドキです。
アランは、昼の時間に市立病院に行った。トムを呼び出し、向かいのダイナーで食事する。
「ドクター、パストラミサンドとコーヒーですね?」
ウェイトレスも慣れたものだ。
アランはチキンアボカドサンドとミネラルウォーターをオーダーした。
「お前、昔からパストラミサンドだったよな」
「あぁ、頑固なんでね。で、今日の用向きは?」
「僕たちの事だ。」アランが意を決したように言葉を発した。
77 :
書き手1:2006/04/12(水) 04:35:31
「ダニーが気がついたか?」
「疑ってはいるが、確証はつかんでいない。でもFBIの捜査官だぞ。どこで、どうパズルを組み合わせるか分からない。」
「だから?」トムは食べる手を止め、真剣な眼差しでアランを見つめた。
「もう、あれっきりにして欲しい」
トムは下を向いた。「嫌だ」
「お願いだよ、トム。君とは無理なのが分かるだろう?」
「そんなの誰が分かるかよ、お前の大事なダニーは、まだマーティンと寝てるぜ、絶対にそうだ。
そんな相手でも一生一緒にいるつもりなのか?」
トムの声が段々大きくなる。
78 :
書き手1:2006/04/12(水) 04:37:07
「将来の事は分からない。だが知ってるだろう、ジャックに逃げられてから僕がどうなったか。
もうあれだけは御免なんだ。どうしてもダニーが欲しい」
「ジャックとダニーは違うだろう、でも分かったよ。俺、ダニーにお前と寝た事話すぞ、いいな!」
トムはがんとテーブルをたたくと、20ドル札を置いて出て行った。
アランはうなだれた。最悪だ。
79 :
書き手1:2006/04/12(水) 04:37:58
アランはトムの携帯に電話をしたが、留守電になっていた。
「トム、もう一度話したい。今晩、お前の家に行く」
ダニーにも電話する。
「今日、シカゴから医学会で一緒だったドクターが来るんで、急に食事することになった。何か食べて帰ってきてくれ」
「分かった、気いつけて」疑う事のないダニーの声に胸がチクリと痛んだ。
80 :
書き手1:2006/04/12(水) 04:39:21
夜8時、自分の診療を終えて、トムの住むロウワー・マンハッタンの一軒家に行く。
チャイムを鳴らすと、ドアが開いた。トムが無表情で立っていた。
「ようこそ」
「あぁ」
「何か食うか?といってもデリバリーだけどな」
「ああ適当に頼むよ」
「じゃあ、インド料理でも食うか。冷蔵庫から適当に飲み物を取ってくれ」
トムは、サモサとマトンカレー、タンドリーチキン、ナンとライスをオーダーした。
アランはビールを選び、ソファーに座って飲み始めた。
81 :
書き手1:2006/04/12(水) 04:40:24
医学書や月刊誌が乱雑に重ねられているテーブルを片つけていると、
「お前みたいに几帳面じゃなくてすまないな」とトムが謝った。
「昔から知ってるよ」アランは苦笑した。トムもビールを飲んでいる。
すでに2本は空けているようだ。デリバリーが届き、カートンから直接スプーンとフォークで食べる。
ダニーと違うな。アランは全てをダニーと比べている自分に気がついた。
82 :
書き手1:2006/04/12(水) 04:41:46
「それで、昼間の話の続きか?」トムが尋ねた。
「ああ。ダニーには話さないで欲しい」アランは真剣だ。
「条件次第だ、俺だってこんな事言いたくない、でも、お前の事が忘れられなくなった。
笑えるだろ、一度きりと思ったのが、命取りだよ」
トムが自嘲的に言葉を吐いた。
「じゃあ、ダニーと別れなくても、お前と寝たら、ダニーには言わないでくれるのか?」
83 :
書き手1:2006/04/12(水) 04:42:41
「あぁ、俺も今日、ずっと考えた。俺のものにならなくても、
お前と一緒にいられる時間があればいい、それが俺の望みだ」
「分かったよ」アランは立ち上がり、ジャケットとシャツを脱いだ。
「哀れみや憐憫で俺を抱くのか?」
「違う、親友だから抱くんだ」アランはきっぱり言った。
二人はベッドルームに消えた。
84 :
書き手1:2006/04/12(水) 04:47:59
>>75 さん
ご期待を裏切って、またアランはダニーを裏切ってしまいました。
すみません。
85 :
fusianasan:2006/04/12(水) 10:12:25
書き手1さん、やはりアランとトムの関係は続くのですね。何となくそんな気が
してました。アランを失ってしまったらダニーはどうなるのかな。少し怖いです。
でもそんなダニーも時々よく知らない人と浮気をしてるしマーティンの事も・・
ダニーはアランの愛に甘え過ぎているのでしょうね。でもこの頃のダニーとアラ
ンの関係は素敵でした。幸せ感が感じられて嬉しいです。
「おい、お前のがオレの足に当たってる」
ダニーの勃起したペニスに気づいたスチュワートは、唇をゆっくりと舐めた。
赤い舌がぬらぬらと這い、唾液の光沢で光っている。ダニーはその仕草にドキッとした。
「トロイ・・・」
ダニーはベルトを外すとパンツを下ろしかけた。トランクスの中はもうパンパンだ。
「バカ、マーティンが来たらどうするんだ」
「大丈夫や、まだまだ来いひん」
87 :
書き手2:2006/04/12(水) 23:07:32
「おいっ!」
「早よ入れてくれ、お前のが欲しいんや」
「・・・・・・・」
「早く、今すぐ欲しいねん」
ダニーはスチュワートのベルトを外しにかかった。
「わかったよ、なんか塗らなきゃ痛いぞ」
スチュワートは困惑したままローションを取りに行った。
88 :
書き手2:2006/04/12(水) 23:08:05
戻ってきたスチュワートは、排気ダクトと給水タンクの間にダニーを連れ込んだ。
「後ろ向けよ、オレのが欲しいんだろ」
スチュワートはダニーのアナルと自分のペニスにローションを垂らし、
そっとあてがうとアナルにゆっくり挿入した。
「っ・・・あぁ・・・・」
「静かにしろ」
スチュワートはダニーの口を押さえながら出し入れをくり返す。
89 :
書き手2:2006/04/12(水) 23:08:38
二人とも声を漏らさないように緊迫したまま交わる。
マーティンが今にも探しに来そうでドキドキする。
「・・・・・うっ!」
ダニーは自分のペニスをしごくと射精した。
スチュワートも興奮したのか何度か動くと中に出した。
二人とも頬がSEXのせいで紅潮している。
「はぁっはぁっ・・戻るぞ・・」
キスをした後、スチュワートは手早く服を整えダニーを促した。
90 :
書き手2:2006/04/12(水) 23:09:10
二人がデッキチェアに寝そべってすぐ、マーティンが来た。
危なかった・・・二人は一瞬視線を交わしたがすぐにそらす。
マーティンはどこに座ればいいのかわからず、突っ立っている。
「マーティン、ここに座り」
ダニーは起き上がって場所を空けた。紅潮した頬のせいでバレそうな気がする。
「あ、ありがとう。何を話してたの?」
マーティンは気づかず横に座った。
「つまんない話。なぁ、明日は休みなんだし、ここでBBQしようか。どうだ?」
「いいね!すっげーおもしろそう!」
91 :
書き手2:2006/04/12(水) 23:09:43
「トロイ、BBQグリルなんか持ってるん?」
「そんなもん、持ってるわけないだろ。買うんだよ」
「わざわざ?」
「前からやりたかったんだよ。オレは料理ができないけど、お前がいると安心だろ」
「僕もやりたいよ。二回しかしたことないもん」
「えーっ、それでもアメリカ人かよ!」
二人は驚いてマーティンを見つめた。マーティンは恥ずかしそうに目を伏せた。
「よし決まり!明日はマーティンのためにも屋上でBBQだ」
スチュワートはウィリー・ウォンカの歌を歌いながら部屋に戻っていった。
92 :
書き手2:2006/04/12(水) 23:10:15
ダニーとマーティンが部屋に戻ると、スチュワートが電話を切ったところだった。
「マーキンソンと話したんだけどさ、月曜まで車を交換してくれるってさ。明日は買物だ」
スチュワートはうれしそうにマーティンを抱きしめた。
「テイラー捜査官、BBQグリルと食材だけでいいのかな?」
「炭とか着火剤もいるやろ」
「そうか・・まあいい、みんなで買いに行くんだからなんとかなる」
「適当やな、お前」
ダニーは苦笑したが、二人とも完全に舞い上がっていた。
93 :
書き手2:2006/04/12(水) 23:10:48
ダニーが歯を磨いているとスチュワートが入ってきた。
「もうあんなのは無しだぞ。危ないところだった」
「ん、オレが悪かった・・・」
「えらく素直だな、テイラー」
スチュワートはほっぺにキスをすると出ていった。
ダニーは鏡の中のにやけた自分を見て恥ずかしくなった。
あかんわ、オレ、完全にどうかしてる・・・・
乱暴にうがいをすると気を引き締めてベッドルームに戻った。
マーティンは再度、ケンの訪問を受けていた。
ジュリエールらしき人物数名の写真持参だ。
「ケン、この男だよ。間違いない!」
「よし、パリ支部に連絡だ。ありがとう。
これで、男を慰み者にしていた変態殺人鬼を逮捕できそうだ」
ケンは意気揚々と帰っていった。マーティンもほっとする。
これで、心の呪縛が解けるといいのに・・・・
95 :
書き手1:2006/04/12(水) 23:28:26
トイレに入ったマーティンを追って、ダニーも中に入る。
二人だけなのを確認し、声をかける。
「ケン、何やて?」
「うん、僕の誘拐犯、インターポールが逮捕してくれそう」
「よかったやん!」
「本当に良かった。あんな事、誰にも経験させたくないよ」
マーティンは手を洗って出て行った。
そっけないやん、もっと喜んでもええんちゃうの?
ダニーは不服だった。
96 :
書き手1:2006/04/12(水) 23:30:07
帰りがけ、書類整理しているマーティンに近寄って、「今日、一杯やるか?」と聞いた。
「うーん、そうだね」
少し嬉しそうなマーティンを連れてトライベッカの「チャーチ・ラウンジ」に行く。
カウンターでオーダーしていると、ダニーに声をかける人物がいた。
ミゲルだった。
97 :
書き手1:2006/04/12(水) 23:31:27
「ダニー、電話くれないんだね、それって彼が理由?」
「色々あるんや、元気してたか?」
「それがさ、僕さ、病気なんだ」
「何の?」「HIV、陽性だった」ダニーは血の気が引いた。
「ウソやろ?」
「本当だよ。ワクチン治療始めた。だからね、ダニーも検査した方がいいよ。可愛い彼氏のためにもさ」
ソファーで待っているマーティンの方を向く。
「あぁ・・お前、大事にな」
「ありがとう、じゃあね」
98 :
書き手1:2006/04/12(水) 23:32:31
何て事や、出来心で寝た相手がHIVポジティブなんて。
あの時、ゴムをつけないで中出ししてしまった自分が悔やまれる。
ドライ・マンハッタンとモヒートを持って、マーティンが待つソファーへ戻る。
「今、誰かと話してたでしょ?」
マーティンがじとっとした目で見る。
「あぁ、証券会社の奴や。俺に投資信託を売りつけやがった」
ごまかしたものの、自分とアランの事が心配で、心はうわの空だった。
99 :
書き手1:2006/04/12(水) 23:34:30
2杯ほど飲んでダニーが席を立とうとすると、マーティンが「今日、家に泊まらない?」と誘ってきた。
マーティン自身、ジュリエールの影を追い払わないと、
この先ダニーとの未来がないと焦る気持ちから、アルコールの力を借りて勇気が出た。
「今日は遠慮しとくわ、ごめんな」ダニーはそう言うと席を立った。
つられてマーティンも席を立つ。
僕、もっとダニーと一緒にいたいのに・・。
無言でタクシーに乗る二人。タクシーの中でマーティンが手を握ってきた。握り返すダニー。
「本当に降りないの?」手をなかなか離さないマーティン。
「ああ、ごめん、また今度寄らせてもらうわ」
マーティンをやっと降ろして、ウェストサイドに向かってもらう。
アランに会わす顔がない。何て言おう。いや、それより俺、陽性やったら自殺する。
アランに移してたらなおさら、生きていられない。
明日検査を受けよう。ダニーの心は真っ白だった。
>>85 さん
いつも感想ありがとうございます。予想通りアランとトム、腐れ縁です。
ダニーがよそ見ばかりしているのに業を煮やしたトムの荒業ですが、
ダニーの生活からアランがいなくなったらと考えるだけで恐ろしいですね。
私もスウィートな二人の生活が大好きです。
市立病院ではトムからアランの耳に入ると思ったダニーは、
ミッドタウンの個人のクリニックでHIVの検査を受けた。
結果が出る1週間の間、アランとセックスできない。
ダニーはアランにどう言い訳しようかそればかりを考えて、
仕事がおろそかになり、ボスからお目玉を食らった。
俺って浮気して、HIVかもしれなくて、上司に怒られて、誰にも話せないで最低な奴や。
ダニーはブルー・バーに寄って、ドライ・マティーニを二杯ほど飲んで、家に戻った。
アランは、デザイナーのビル・トレバーの誕生日パーティーの幹事を頼まれ、プランを練っていた。
「ジュリアンの時はここだったから、今度は、トムの家でやろうかと思うんだが」
「う、うん、そやね」
ダニーの様子に「上の空だね、悩み事かい?マーティン?」
鋭い突っ込みにダニーは「ううん、仕事の事、ごめん。トムの家、広いん?」とごまかした。
「あぁ、ロウワー・イーストサイドの一軒家を借りている。
ふうむ、今回はゲイとヘテロのミックス・クラウドだからなぁ、
それより、ソーホーの「トムズ」を貸切にするか」
「うん、そやね。ええんちゃう?」
ダニーは立ち上がり、ブランデーを持ってきた。
「お前がブランデー?珍しいな?」
「アランが飲みたい思って持ってきた」
「ありがとう」
アランはノ−トパッドにパーティーの具体案を書き始めた。
ダニーはアランが用意してくれたロールキャベツを食べ、シャワーを浴びると「俺、寝るわ」と言って先にベッドに入る。
今日はどうかアランが求めてきませんように!
アランは、ドラキュラ伯爵とゲストというテーマを決め、
ゲストリストをまとめた。総勢80名。大きなイベントになりそうだ。
ベッドに入ると、目頭をマッサージして、アランが寝息を立て始めた。
セーフや、ごまかせるやろうか。ダニーはドキドキしながら眠りに落ちた。
誕生日パーティー当日になり、60トンプソンホテルは、中世さながらの格好をする人たちでごったがえした。
ダニーは受付を任され、会費やプレゼントと引き換えにストップ・エイズの赤いリボンを招待客に渡していた。
「あ、ダニー!」マーティンがやってきた。少し気まずい雰囲気が残っている。ニックも一緒だ。
「やぁ、テイラー、久しぶり」二人に機械的にリボンを渡して、会場に進んでもらう。
あいつ、ニックとうまくやってるんや。寂しさが胸をチクっと刺した。
アランは司会を務め、MCで皆を笑わせていた。
ビルは、ドラキュラ伯爵の衣装を身にまとい、髪をポマードでオールバックにしている。
隣りにはタキシード姿のトムがいた。
胸板が厚いせいか、男から見てもかっこいい。
あいつがアランを好きなんて・・・自分の細い身体が悩ましく思えた。
バースデイーの歌の番が回ってきて、ダニーがピアノを弾く。
STEVIE WONDERの歌を歌っている最中、トムはアランの腰に腕を回し、二人で身体を揺らしていた。
何や、恋人みたいやん!
ダニーはくさくさしながら、ピアニストの役を果たした。
マーティンを見ると、ニックに群がる人たちを相手に談笑している。
ダニーは、突然、言われのない孤独感に苛まれた。
俺の居場所、どこにもなくなってしまうんちゃうか。
俺だけがHIVポジティブやったら?
不安で胸が押しつぶされそうだった。
昼過ぎまで眠ってからソーホーに買物に行き、BBQに必要なものを一式と食材を買ってきた。
スチュワートは、ついでだからとダニーの分のデッキチェアまで買った。
マーティンに怪しまれそうでダニーは気が気でなかったが、なんとも思っていない様子にホッとする。
デッキチェアを運び入れると、それぞれ準備に取り掛かった。
ダニーがキッチンで下拵えしている間、マーティンとスチュワートはBBQグリルを準備する。
ダニーが食材を運ぶと、パラソルの下で二人がわーわー騒いでいた。
「うわっ、着火剤の入れ過ぎや。火柱立ってるやん」
呆れながら火加減を調節し、二人に触るなと命じた。
「もう焼いてもいいの?」
「いや、もうちょっとや。あ、ビールのバケツ取ってきてないわ」
僕が行くと言いながら、マーティンはいそいそとビールを取りにいった。
「あいつ、すっげー楽しそうだな」
「あほ、お前もやろ」
スチュワートは戻ってきたマーティンの背中に氷をいれ、二人は大騒ぎしている。
あいつら、ほんま子供やな・・・ダニーはバックリブやソーセージを焼き始めた。
「オレのキノコとパプリカも焼いてくれよ」
「はいはい、わかってるって」
マーティンは氷水の入ったバケツからハイネケンのボトルを配り、ジュージュー焼ける様子にワクワクした。
「サマーキャンプのときはハンバーガーだったよ」
「ん、もちろんあるで。それがメインやからな。いっぱい食べ」
ダニーは焼けたリブを二人のお皿に載せてやった。
はしゃぎながら食べる二人のために、ビールを飲みながら次々と食材を焼く。
「お前も食べろよ。オレが代わろう」
「いや、オレも食べてるからいいんや。次はロブスターいくで」
ダニーもなんだかんだ言いながら思いっきり楽しんでいた。
一通り食べ終わり、マーティンはマシュマロを炙っていた。
「はい、ダニー」
酔ったダニーが口を開けると、熱いよと言いながらマシュマロを入れる。
「マーティン、オレも食べたい」
マーティンは口を開けたスチュワートにもマシュマロを食べさせる。
「すっごくおもしろかった、またやろうね」
ダニーとスチュワートはお互いに顔を見合わせるとにんまりした。
後片付けを後回しにして、三人は順番にシャワーを浴びた。
煙くささから解放されて、トランクスのままベッドでゴロゴロする。
三人とも酔っていて妙に気持ちが高揚していた。
「今日はトロイ先生にオナニーショーしてもらおか」
「バカっ、誰がするかよ!」
「この前、僕に見せるって約束したじゃない」
「それを言うならテイラーもだろ」
「じゃあさ、二人とも見せてよ。僕はここで見てる」
マーティンは期待しながら二人を見つめた。
「ほなトロイ先生、お先にどうぞ」
ダニーは返事も聞かずにマーティンの横に並んだ。
スチュワートは渋々トランクスを脱ぎ、ぐんにゃりとしたペニスを握ると手を上下し始めた。
ダニーもマーティンも勃起していく様子を真剣に見つめている。
二人があまりにも真剣に見るのでスチュワートは顔が赤くなった。
「おい、本当にイクまでやるのか?」
「でないとオナニーちゃうやん。なぁ、マーティン」
マーティンはぼんやり頷くと無意識に自分の股間を押さえた。すでに勃起している。
ダニーは嫌がるマーティンのトランクスを剥ぎ取った。
「あかんわ、こいつ立ってしもてる。ほんまエロいな」
「ごめん・・・」
ダニーはからかったものの、本当は自分も勃起している。
スチュワートの手の動きが早くなってきた。射精が近いのか息が上がっている。
「イクぞ・・・うっ・・あぁ・・・」
精液がぼたっとシーツに落ちた。スチュワートは荒い息を吐きながら寝転ぶ。
「っ・ぁぁ・・マーティン、舐めて」
マーティンは言われるままにペニスを咥えると精液を舐め取った。
ダニーはフェラチオするマーティンのアナルにローションを塗った。
「入れるで」
そのままバックから挿入すると腰を振る。マーティンはくぐもった喘ぎ声を上げた。
感じている顔を見られるのが恥ずかしくて、マーティンは顔を上げられない。
スチュワートはマーティンのほっぺに手を添えて自分のほうを向かせた。
「スチュー見ないで!イキそう・・・だめだ・・あぁっ!」
マーティンは興奮したせいか、あっけなく果てた。
ダニーはマーティンがスチュワートにキスされているのを見ながら射精した。
三人はそのままベッドに寝転がった。部屋中が精液とアルコールくさい。
「テイラー、今度はお前がオナニーショーだからな」
「また今度な。いつになるかはわからんけど」
「なんだよ、オレにだけやらせて」
「あーおもしろかった、マーティンも楽しんだやろ?」
マーティンは頷くと大きなあくびをした。「僕、もうダメだ・・眠い。おやすみ」
二人はそれぞれマーティンにおやすみのキスをしたが、自分たちも睡魔に負けて眠ってしまった。
待ちに待ったHIV検査の結果が出た。
万歳!陰性や!
ダニーは誰かとハイ・ファイブしたい気持ちだった。
担当医から「これからはセーフ・セックスが約束だからね」と説教された。
頷くしか出来なかったダニーだ。
ミゲル、可愛そうやな、ごめん、俺、助かったで。もう絶対、浮気やめる!
仕事が終わって、一人、ブルー・バーで祝杯を上げる。
顔見知りのバーテンダーが「今日は嬉しそうですね」と言った。
「そやねん、ええ事あって祝杯や」
そうすると、アスパラガスのゼリー寄せとサーモンとキャビアのカナッペが出てきた。
「?」「いつも来ていただいているお礼です」そういうと去っていった。
世の中、捨てたもんやないな。
スパークリングワインで酔っ払い、アランの家に戻る。
「ご機嫌だね、ハニー」アランが驚いている。
「うん、ええ事あったんや」
それだけ言うと、シャワーを浴びる。
着替えると、アランがダニーの分の夜食を用意していた。
「今日、何?」
「ペンネ・アマトリチャーナだよ」
「旨そう」
ダニーはがつがつとパスタを平らげた。
「珍しいな、お前がこんなに食べるなんて」
「俺もアランに負けない位逞しい身体になって、アランを押しつぶすつもりや」
アランは笑った。
「あと15キロ位増やさないと無理だなぁ。それより筋力トレーニングはじめたらどうだい?」
「うーん、俺、三日坊主やからなぁ」
「トレーナーを雇ったら、嫌でもやるだろう」
アランは早速ネットで、トレーニング器具を注文していた。
うはー、アランとのエッチだけでも十分運動なのに・・ダニーは苦笑いした。
次の土曜日、ダニーは8時にたたき起こされた。
「・・ぅん?何やねん、まだ眠りたい・・・」
「9時にはトレーナーがくるぞ」
「え?ほんまに雇ったん?」
「今日はお試しデーだよ。相性もあるからね」
アランが珍しくTシャツに短パンで、コーヒーを飲んでいた。
しぶしぶシャワーして着替えるダニー。
コーヒーを飲んでトレーナーを待っていると、9時10分前にやってきた。
まだ20代半ば位のブロンドの青年だ。ローマ彫刻のようだ。
「よろしく、ロバートです。お二人とも初心者だそうなので、そのメニューを用意してきました。
後は、それぞれの筋力に合わせてプログラムを作ります」
きびきびと説明する。果たして1時間後、二人とも、へとへとにへばっていた。
「お二人ともかなり運動不足のご様子ですね。
それじゃあ、名刺とプログラムの価格表を置いていきますので、次もご用命をお待ちしてます」
ウィンクをして去っていった。チャーミングでさわやかな青年だ。
思わず、二人ともぼーっと引き締まったロバートの後ろ姿を見つめていた。
「ダニー、今、ロバートを見ていただろう!」
「アランこそ、見てたくせに!」
二人はふざけながら、シャワーを浴びた。
そのうち、どちらからともなくキスを交わし、それがディープキスに変わっていった。
「別の運動する?」
ダニーが誘うと、アランはダニーの手を引っ張ってベッドに戻った。
ダニーは心から幸せだった。またアランと安心してセックスが出来る!
マーティンが机を片付けていると携帯が鳴った。
「はい、うん、もう終わったよ、じゃあ下でね」
ダニーはニックからの電話だと察しがついたが、何も言わなかった。
「お先に!」バックパックを背負って急ぎ足でエレベーターに乗り込む後姿を、
ダニーは呆然と見送った。
ニックが戻って来たら、俺はお払い箱かよ!
くさくさしてゴミ箱を蹴飛ばす。
思いがけず大きな音がしてサマンサが寄ってきた。
「どうしたの?ダウンタウン・テイラー、悩み事?」
「何でもない、ごめんな、お先」
ダニーが下に降りると、丁度ニックのアウディー・クーペにマーティンが乗り込むところだった。
「よう、テイラー、これから食事するんだが、一緒に来るか?」
「遠慮しとくわ」
「ドクターを呼ぼうか?」
ニックは携帯をかけた。ダニーが無視して歩き出すと携帯が鳴る。アランだ。
「今、ニックから食事の誘いがあったが、お前も行くって本当かい?」
ええい、この際、食事でも何でもしたる!
「ああ、行くで。俺をフェデラルプラザで拾って!」
アランのジャガーは15分でやってきた。
ニックとアランが車から降りて話をしている。
場所はMOMAの中にオープンした「ザ・モダン」に決まった。
2台が連なって美術館の駐車場に停めた。
中は混んでいたが、ニックがカードを見せると、VIP席が用意された。
「ニック、何見せたの?」マーティンが尋ねる。
「あぁ、NYアート・ソサエティーの会員証。一応、アーティストになったもんでね。こいつの写真のおかげで」
ニックはマーティンの頭をくしゃくしゃっとした。マーティンも嬉しそうにしている。
ダニーは知らん顔でメニューに目を落とした。
「アラン、車変えたんだな」ニックが聞いた。
「ああ、この子と付き合い始めて半年のお祝いだ」
ダニーを見つめるアラン。ダニーも頷いている。
マーティンがダニーの向こう脛を蹴飛ばした。
「い!」「俺も車買い換えようかなあ。こいつに出会った記念に」
マーティンの顔を見る。
「君ならフェラーリかランボルギーニあたりを勧めたいね」とアランが言う。
「故障が多そうだ」ニックが声を立てて笑った。
ダニーとマーティンは二人の会話を違う世界のように聞いていた。
マーティンはともかく、ダニーには桁が違う生活だ。
アラン、俺みたいな得体の知れない奴でほんまにええんやろか。
不安が頭をもたげてきた。
焼き野菜のマリネのオードブルが終わり、メインのポーチドバッファローテンダーロインが来た。
バッファローの肉なのにとろけそうに柔らかい。
「美味い!」4人とも絶賛だった。
ワインはアランの見立てでシャトー・ムートンロートシルトを頼み、2本空けた。
デザートをスキップしてチーズをツマミにブランデーを飲み始めた4人。
なぜかアランとニックが話が合うようで、色々なアーティストの作品の品評をしていた。
マーティンが「失礼」とトイレに立つ。
ダニーも後を追うようにトイレに立った。
「マーティン!」
ダニーはマーティンを個室に連れ込むと、乱暴にキスを交わした。
マーティンも待っていたように、舌を絡めてくる。
「二人で帰ろう」「うん!」
二人は裏口から逃げ出すようにレストランを後にした。
ダニーが目を覚ますと二人はまだ眠っていた。
起こさないようにベッドを抜け出してシャワーを浴びる。
オレンジジュースを飲んでいるとスチュワートが起きてきた。
「おはよう、テイラー」
「ん、おはよう。マーティンは?」
「まだ寝てる。はしゃぎすぎて疲れたんだろ」
眠そうなスチュワートはダニーのグラスを取り上げるとジュースを飲んだ。
スチュワートがシャワーを浴びている間、ダニーはベッドに戻って添い寝した。
マーティンを騙していることに気が引ける。
今までの浮気とは桁違いの罪悪感を感じていた。
髪をくしゃっとしたり、ほっぺたをつっついているとマーティンが目を覚ました。
「ん・・ダニィ・・・」
「おはよう、マーティン」
ダニーはキスをしながら乳首に触れた。
くすぐったそうに身を捩るのがかわいくてまたキスをする。
二人がじゃれているとスチュワートが入ってきた。
「テイラー捜査官、独り占めか?」
「いいや、参加は自由やで」
スチュワートも横に寝そべるとマーティンの体を弄びはじめた。
「やめてよ、くすぐったいよ。僕、おしっこ漏れそう」
マーティンは慌ててベッドルームから飛び出していった。
ダニーがケタケタ笑っていると、スチュワートにキスされた。
マーティンに悪いと思いながらも舌を絡めずにいられない。ダニーは夢中でキスを交わした。
BBQの後片付けの後、ダニーは帰るといってアパートを出た。
居心地はよかったが、マーティンへのせめてもの罪滅ぼしだ。
自分のアパートへ帰ると洗濯と掃除を始めたが、終わるとすることがなくなった。
退屈しのぎにジムへ行くと、ロッカールームにアーロンがいた。
「やあ、ダニー。一緒に泳がない?」
「ああ」
マーティンに意地悪したヤツだが、自分にとっては命の恩人だ。
断るのも気が引け、ダニーは並んで泳いだ。
サウナで体で温めているとき、アーロンがマーティンの話を切り出した。
「君の友達、僕のこと怒ってただろ?」
「ああ、うん。ちょっとな」
「やっぱりね、今度会ったら正式に謝るよ」
アーロン、あいつに何したんやろ?
ダニーは知りたくて聞きかけたが、次のアーロンの言葉にぎょっとした。
「彼はゲイなのかな?」
「えっ!今、何て?」
「ゲイっぽい気がしたからさ」
「いいや、ちゃうで。あいつはヘテロ、女もいてるし」
ダニーはとっさに嘘をついた。この筋肉バカ、何言い出すんや!
「そうなんだ、残念」
「アーロンはゲイなん?」
「うん、そう。かわいいからつい意地悪してしまった」
アーロンはやんちゃな笑顔でダニーを見つめる。
「あ、あの・・オレもヘテロやから」
「わかってる、君はどう見ても女好きだってわかるから」
あー、よかったー・・誘われたらどうしようと思っていたダニーは胸をなでおろしたが、
以前の女好きだった自分が懐かしくて複雑な心境だった。
タクシーに乗り込むと「あ、バックパック忘れて来ちゃった!」とマーティンが慌てた。
「後でニックの家に取りに行けばええやん」
ダニーは慌てず、アッパーイーストサイドと行き先を告げた。
「家?」「ああ」
マーティンのアパートに入る二人をドアマンのジョンが笑顔で迎える。
部屋に入るやいなや、二人はお互いの服を脱がせあい、我先にとベッドルームに駆けて行った。
「お前、セックスしても大丈夫なん?」
ダニーがふと不安になってマーティンに確かめる。
「ダニーで試して欲しい、お願い!あの事件から初めてなんだ・・」
「お前、ホロウェイとしてへんのか?」
「うん、抱きしめてくれて寝てただけ」
ダニーは驚いた。あのニックがそれほど禁欲的だとは。
ニックも本気でマーティンを想っている事がわかったダニーだった。
「俺が入れる?お前が入れる?」
「ダニー、入れて」「よっしゃ」
ダニーはすでに先走りの液で光っているペニスを出すと、
マーティンの口先に持っていった。
マーティンは一瞬躊躇したが、目をつむって、ペニスを咥えた。
そのうち、上目使いでダニーの顔を見ながら、前後に動き出した。
「うわー、お前の舌、すごいな」
ダニーはそれがあの悪夢の4日間に会得させられた技とも知らず感嘆した。
「もう、出そうや、お前の中でイキたい」
ダニーは布団の中に潜り、マーティンのペニスを咥え、前後動させた。すぐに濡れてくる。
「あぁ、ダニー、僕、イっちゃいそう」
「イケばええやん。俺が飲んでやる」
ダニーは前後動を激しくした。
喉の奥底まで咥えて舌を使う。
「あぁ、だめ、だめだよ、ああ!」
マーティンは口の中に果てた。
ダニーはその精液を自分のペニスとマーティンのアヌスに塗りたくると、
一気にマーティンの中に押し入った。
「あぁ、やっぱ、お前や!中の動きがたまらん!」
ダニーは腰を打ちつけた。マーティンが狂ったように腰を振る。
「?」ダニーは今まで見た事のないマーティンの媚態に驚いていた。
「ダニー、あぁん、最高!叩いて!僕を叩いて!」
ダニーはマーティンの臀部を叩いた。
「あぁん、もっと!」
ダニーは再びマーティンの臀部を平手打ちにした。
「あぁ、で、出る!」
平手打ちの衝撃で、アナルがきゅっと締まり、ダニーは我慢できずに果てた。
こいつ、叩いてなんて、前は言わへんかったのに。
マーティンの言うとおりにしたものの、後味の悪いセックスだ。
遠くで携帯が鳴っている。俺のや!ダニーが走っていく。
「アラン、あ、うん、マーティンが悪酔いや、吐いたから家に送ってた。これから帰る」
マーティンが後ろから裸で抱きついてきた。
「今日、泊まってよ!」
「無理言うな。お前にもニックがいてるやろ、シャワー借りるわ」
ダニーは、バスジェルを使わず、お湯だけで身体を流すと、着替えてアランの元に帰っていった。
ダニーを呆然と見送っていたマーティンも、気を取り直して電話する。
「ニック?僕。ごめん、気持ち悪くなっちゃって、ダニーに送ってもらった。
荷物ありがと。これから行ってもいい?」
マーティンもシャワーを浴びて、スーツに着替えて、ミートパッキングエリアにタクシーを飛ばした。
翌日、オフィスに行くとマーティンがエッグサンドにがっついていた。
ダニーもベーグルを取り出すと、マーティンの横に座る。
「昨日、ジムに行ったらアーロンが来ててな」
「ん?アーロンて誰さ?」
「ほら、エイリアスのヴォーンみたいな・・ええっと、お前に意地悪したヤツ」
「あいつか!あんなヤツ、大っ嫌いだよ!」
まだ怒っているのか、ダニーの説明を聞くだけでも不愉快そうだ。
「お前がかわいいから意地悪したって言いよった。あいつもゲイや」
マーティンは黙ったままむしゃむしゃ食べている。
「お前のこと、ゲイかって聞かれた。オレな、あいつに嘘ついてしもた。お前はヘテロやって」
「ふうん、それでいいじゃない」
「ん、一応報告しとこう思てな。もう意地悪されへんから安心しとき。で、何されたん?」
「・・・水をかけられたのとレッグプレスを横取りされた」
「なんや、そんなことか。しょーもない」
ちょうどサマンサが来るのが見え、ダニーは自分の席に戻った。
僕ってゲイに見えるのかな?いや、そんなことないよ、本当はゲイだけど・・・・
難しそうに考え込むマーティンにサマンサが話しかけた。
「マーティン、どうかしたの?」
「あのさ、僕ってゲイっぽい?」
サマンサもダニーも一瞬凍りついた。ダニーはベーグルが喉に詰まりそうになった。
「もうっ、この子ったら急に何を言い出すんだか!」
「この子って・・・あのねー、僕を子ども扱いしないでよ」
「ごめんごめん。ゲイには見えないけど、ゲイに好かれそうな感じはするわね」
えー・・・・マーティンは納得いかずに怪訝な表情を浮かべた。
ダニーがトイレに行くと、少し遅れてマーティンが入ってきた。
がっくりとうなだれたまま手を洗う様子に心配になる。
「お前、大丈夫か?」
「ん、へーき」
「なぁ、今度から他のジムに行く?」
「いいよ、今度やられたらガツンと言うから」
「ほんまに言えるんか?何かされたらオレに言えよ」
ダニーにほっぺをぺちぺち叩かれ、マーティンはようやく笑顔になった。
今日は事件が無事に解決したので、浮かれながら帰り支度をした。
しかも二人の捜査が功を奏したので余計に嬉しい。
「ダニー、天ぷら食べに行かない?」
「それええな、よし行こう!」
ダニーはエレベーターに颯爽と乗り込んだ。
イーストビレッジのえびすで寿司と天ぷらを食べ、
帰りにアスター・プレイスのブラックキューブを回す。
二人はケタケタ笑いながらセントマークス・プレイスを歩いた。
「ダニー、ちょっと待って!」
急にマーティンが立ち止まった。
ダニーにはガラクタを集めたとしか思えないアンティークショップだ。
「ねー、これ見て!すっげー!」
感嘆の声を上げながら店内を隅々まで見て歩くマーティン。
ヘンなヤツ・・・ダニーはマーティンを見ているほうがおもしろい。
70年代の立体パズルを見つけたマーティンは、値段も見ずに早速買い求めた。
「128$です」に目を剥くダニー。
マーティンはチェックを済ませると、大切そうに受け取った。
アンティークショップを出た後、ダニーは呆れてマーティンを覗き込んだ。
「お前なぁ、もうちょっと考えて物買うたほうが・・・」
「何言ってんの、これはね、300$はするんだよ。値段だってちゃんと見たさ。見てないふりをしたの!」
得意気に言い返すマーティンにさらに唖然となる。
「そうなん?」
「そうなの!これ、僕のデスクに置くと絶対似合うよ」
マーティンはきっぱり言い切るとタクシーを拾った。
コイツ、ほんまにようわからんな・・・ダニーはマーティンの横顔を盗み見た。
こっそり手をつなぎ、窓の外を眺めながらあくびする。
「わっ!」
突然マーティンがブリーフケースで顔を隠した。
「どうした?」
「ニッキーがいた!僕らのほうじっと見てたよ」
マーティンは怪しむようにダニーを見つめる。ダニーは慌てて無関係だと主張した。
ダニーがそーっとドアを開けると、アランがソファーに座って、葉巻を吹かしながらブランデーを飲んでいた。
「ただいま」小さな声でダニーが声をかける。
「一言、言ってくれてもよかったのに。捜したんだよ」
アランが静かに答えた。
「ごめん、マーティンがひどく吐いてな、スーツが店の中に戻れんようなってたから」
すらすらとウソが出る自分が怖い。
アランがじっとダニーを凝視する。
精神分析医にウソが通じるとも思えないが、つき通すしかない。
「シャワー、一緒に浴びよう」
アランはグラスを置いて、バスルームに向かった。
今、浴びてきたばかりなんやけど・・
ダニーは後に続いた。二人でシャワーブースに入ると、いきなりアランがアナルに指を突っ込んできた。
「痛い!痛いやん、アラン、どうしたん?」
「ふん、挿入はなしかな、じゃあ今度は前だ」
手でペニスを探られ、ダニーは焦った。勃起できるやろか。
アランのいやらしい手技のお陰で、ペニスが少し立ってきた。
「何、確かめてんの?俺、こんなん嫌やわ!」
ダニーは怒ったふりをして、シャワーブースから出た。
ベッドに先に入って、必死でオナニーを始めた。
がんばれ、俺のちんちん!
やっと屹立してくれた。
アランがベッドに入ってきた。
「ふぅ〜」アランの方はブランデーの飲み過ぎで、出来上がっている。
ダニーの反り返ったペニスを触っているうちに、軽いいびきをかき始めた。
ダニーはやっと安心して眠りに入った。
翌朝、ダニーは局部に違和感を覚えて目が覚めた。
アランがダニーのペニスを咥えている。
「アラン、な、何・・」
アランはダニーのペニスが十分な強度になるのを待って、自分のアヌスに先走りの汁を塗った。
「入ってきてくれ」「え?」
「入ってきてくれ」
ダニーは言うがままに、まだ準備の出来ていないアランのアヌスに先端を当てた。
「もっと強く!」
ダニーは力を入れて挿入した。
アランのアヌスがみしみしと裂けるのが分かる。
「アラン?」
「早く動いてくれ!」
抜き差しを繰り返すうちにダニーも息が上がってきた。
「アラン、俺、もうだめや、出る」
身体を痙攣させてダニーがイクと、アランは自分も果てた。
ふぅっと仰向けになってため息をつく。
「アラン、どうしたん?いつものアランとちゃう」
「お前が浮気してるか心配でどうにもならなかった。すまない。シャワーを浴びよう」
アランの後姿を追いかけてダニーはシャワーブースに入った。
アランの後ろから血が出ている。二人でお湯のかけっこをして血を洗い流す。
「俺が何で浮気すると思う?」
ダニーがおずおず尋ねた。
「お前が、マーティンと帰ったからさ」
「ごめん・・」
やっぱり、アランは俺とマーティンの事疑ってるんや。
ダニーは心した。アランには絶対に知られてはいけないという事を。
166 :
fusianasan:2006/04/16(日) 07:03:11
書き手1さん;
ダニーとマーティンはヨリを戻すのでしょうか。それも嬉しいけれど、
アランとの生活の幸せぶりは本当に微笑ましかったです。
ダニーがどちらを選ぶのか、知りたいです。
ダニーは一昨日ニッキーと遭遇して以来、ずっとマーティンに疑われている。
四六時中じとっと見つめる視線をひしひしと感じる。おかげでスチュワートにも会えない。
あまりにもしつこいので、とうとうキレてしまった。
「そんなに気になるんやったら本人に聞いて来い!」
「聞いたって無駄だよ。どうせ口裏合わせてるに決まってるよ!」
「だから、何もないって言うてるやろ。しつこいな!」
「どうだか!」
これまで何度も騙されてきたマーティンは譲りそうになかった。
「ずっとトロイにも会ってないんやろ?たまにはデートでもしてき」
「・・僕を追い払って浮気する気だ」
あかんわ、何言うても通じひん・・・・
はぁ〜あ、オレかてほんまはトロイに会いたいのに・・・・
ダニーは携帯を取り出すとスチュワートに電話した。
マーティンが携帯を取り上げようとするが、かまわず続ける。
「トロイか、マーティンがな、お前に会いたいねんて」
「お前、未成年と浮気してるんだって?」
スチュワートはおもしろそうにくすくす笑った。
「あほ、浮気なんかしてへん」
「マーティンは信じないだろうな。ま、厳密にはオレと浮気してるんだからさ」
「とにかくオレは潔白や。あんなガキと誰が寝るか!」
「わかったわかった、マーティンと話したい」
ダニーは嫌がるマーティンに携帯を渡した。
「マーティン、晩メシ食った?」
「まだ」
「オレと一緒に食べようぜ」
「でも・・」
「テイラーも連れて行けばいい。それなら見張れるだろ。そこはテイラーんち?」
「ん・・・」
スチュワートはすぐに行くからと電話を切った。
しばらくするとスチュワートが来た。マーティンを抱きしめてキスをしている。
マーティンが遠慮がちなせいか、いつもよりも濃厚なキスを仕掛けているのがわかる。
ダニーは羨ましかったがどうしようもない。見ていると目が合った。
「お前ってロリコン?」
「ちゃうわ!」
「そう怒るなって。腹減った、何か食べに行こうぜ」
スチュワートは二人を促してアパートを出た。
マスタングのキーを開けている間も、マーティンはじとっと見つめる。
「マーティンは後ろに乗れ。鬱陶しい、横にくんな」
ダニーに言われたマーティンは黙って後ろに乗った。
「今夜は飲茶にしよう。テイラー、チャイナタウンだ」
二人とも何も言わない。車は走り出し、ジン・フォン・レストランに着いた。
やっと自分たちの順番になり、三人は席に案内された。
「食べようぜ、もう腹ペコだ」
スチュワートはカートからエビ蒸し餃子と粽を取ると食べ始めた。
ダニーはマーティンがスチュワートと同じように左手で箸を使っているのに気づいた。
右手で食べていたときよりもずっと上手くなっている。
「マーティン、箸の練習したんか?」
「スチューに教わった」
それだけ言うと小籠包にがっついている。
「お前にも教えてやろうか?」
スチュワートが得意気に箸をパカパカ動かした。
「オレはちゃんと使えるからいいんや」
ダニーは蟹の卵の焼売を恐る恐る口に運んだ。ホッとする様子にスチュワートはくすっと笑う。
「オレもそれ食べよう、うまそうだ。マーティンは?」
二人でカートの中を物色しているうちに、マーティンの機嫌が少しよくなった。
マーティンがトイレに行っている間、二人っきりになった。
「お前、本当に浮気してるのか?」
「そんなことするわけないやろ。ずっと前にちょっとだけ付き合うてた相手なんや」
「ふうん、やっぱりお前はロリコンだ」
「ちゃうわ!大体な、その女はマーティンに乗り換えよったんや。オレは振られたんやで」
「へー、なかなか見る目があるじゃないか」
「どういう意味や。あいつがバイオリンなんか弾くからや」
「マーティンはバイオリンが弾けるのか、知らなかったな。今度弾いてもらおう」
スチュワートは戻ってきたマーティンにマンゴープリンを勧めた。
マーティンはおとなしく食べているが、まだダニーを見る目が冷たい。
「あのなぁ、オレはほんまに何もしてへんし、ニッキーとはあれっきり会うてへん」
「そんなに心配ならその子に会ってくればいいじゃないか。そうすりゃわかるさ」
スチュワートもマーティンに話しかける。
「わかったよ、そこまで言うなら信じるよ」
「マーティン、オレは潔白や。信じてくれ」
ダニーは手を差し出し、マーティンも黙ったままぎこちなく握手した。
「よかったな、テイラー。そうだ、週末にBBQやらないか?オレ、はまったみたい」
「はまるな」
「いいじゃないか、マーティンだってやりたいよな?」
「ん、やりたい」
マーティンはタピオカココナッツミルクを食べながら頷いた。
「ほらな、お前がいないと出来ないんだからさ」
「お前らもちょっとは料理ぐらい覚えろや」
ダニーは憎まれ口を叩いたが、内心はBBQがしたくてたまらなかった。
支局でダニーが経費精算していると、マーティンが肩をポンと叩いてトイレに立った。
何やろか?ダニーは後を追う。
マーティンは誰もいないのを確認して切り出す。
「ねぇ、僕たちってさ、もう元に戻れないの?」
思いつめた顔つきだ。
「何や急に?お前かてニックがいてるやん、どうするんや」
「分かんない。でもダニーの一番にはなれないの?」
マーティンは涙を浮かべていた。
事務方のディーンが入ってきたので、マーティンは顔をぱしゃぱしゃ洗い、
ダニーは用を足した。ダニーは今のマーティンの言葉を考えていた。
あいつ、俺とヨリ戻したいんや。でも、俺にはアランがいてる。
三人で共存できる道なんて、あるんやろか。
浮かない顔で机に向かっていると、サマンサが声をかけてきた。
「どうしたの、ダニー、また悩み事?」
マーティンが回りに人がいないのを確認して
「そうやねん、俺まだ二股にはまってんねん」と言った。
サマンサは、さもありなんという顔をして、
「もう懲りないんだから。聞いてあげてもいいけど?」と言った。
「今度は俺一人で考えてみるわ。ありがとな」
帰りがけ、まだ気にかけているサマンサに敬礼してダニーは、一人ブルー・バーに寄った。
カウンターでモヒートを飲んでいると、「テイラーさん!」と話しかけられた。
トレーナーのロバートだった。
「おぅ、この間はありがとさんでした。俺、身体なまってたやろ」
ダニーが恥ずかしそうに尋ねると、
「貴方はショアさんより重症じゃないですよ」と笑って答えた。
「ほんま?」
「ええ、筋力も柔軟性も持久力もあるし。」
「それじゃ、今日は乾杯やな!」
ダニーはヴーヴクリコを取って二人で飲み始める。
「ロバートって幾つなん?」
「29歳。大学院でスポーツ医学専攻しています。今は学費稼ぎかな」
そう言ってえくぼを見せて笑う。
くー可愛いな、こいつの笑顔。ダニーは表情がくずれた。
「貴方とショアさんってカップルなんでしょ?」
ダニーは唐突な質問に困惑した。
「あぁ、半年前から付きおうてる」
「いいな、僕、そんなに続いた恋愛ってないんです」
「お前って、ゲイ?」
「うん、そうです。いつも相手に引かれちゃって、僕って魅力ないのかな」
そりゃローマ彫刻みたいな身体持ってんのやから、他の男は劣等感で引くわ。ダニーは思った。
「アランな、精神分析医なんや、悩みなら聞くで」
ダニーが言うと「僕は貴方、ダニーに聞いてもらった方がいいな。
ダニーて呼んでもいいですか?」と両手でダニーの手を握った。
「お前・・」
「それじゃ、また会いましょう、バイ!」ロバートは席を立った。
今のってトレーニングって意味やろか?
ダニーは、ぼーっと立ち去るロバートの引き締まったお尻を見つめていた。
>>166 さん
感想ありがとうございます。まだダニーはどっちも選べないでいます。
マーティンには同志愛、アランには家族愛を感じているみたいなので。
いつかは決めなければいけないんでしょうね。
「それじゃオレは帰るよ。今夜は邪魔したくないから」
にやけたスチュワートは仲良くしろよと言い残すと帰っていった。
ダニーもマーティンもお互いを見て慌てて目を逸らす。
ダニーはそっと手をつなぐとエレベーターに乗った。
「なぁ、帰ったらおみくじクッキー食べよか?」
「・・・ん」
二人はまだ気まずいまま部屋に入った。
手を洗うマーティンを後ろから抱きしめ、そっと首筋にキスをした。
ダニーは愛してるとささやきながら耳を甘噛みする。
少し抵抗されたが、すぐにおとなしくなった。
「・・・僕のこと、騙してないよね?」
「ああ、絶対や」
ダニーはまだ何か言いかける口をキスで塞ぐ。
一方的に舌を絡めながら目を開けると、青い瞳と目が合った。
「お前、目閉じひんの?」
「閉じない」
「それやったらオレも閉じひん」
ダニーは目を見つめたまま、くまなく口腔内に舌を這わせた。
そのうちマーティンも舌を絡めてくる。二人はキスをしたままお互いの服を脱がせた。
シャワーを浴びながら泡まみれの体で抱き合い、肌に滑らかに手を這わす。
ダニーはマーティンの割れ目にペニスをこすりつけた。
誘うように腰を押しつけながら、耳たぶを口に含んで舐めまわす。
マーティンはバスタブに手を着くと、受け入れるように足を開いた。
「ダニィ来て・・・」
すかさずダニーは挿入し、腰をぐっと掴むと引き寄せる。
焦らすように動かしながら乳首とペニスを弄んだ。
マーティンのペニスをしごくたびにアナルがひくひくする。
「あぁん・・やだよ・・ダニィ・・」
ダニーはマーティンにペニスを握らせると、上から手を重ねて上下させながら締めつけてくる感触を楽しむ。
焦らし続けると、マーティンが左手で必死に手首を掴んできた。
「出ちゃう、早くイカせて・・・」
懇願されたダニーは言われるままに突き上げた。
果てたマーティンの体がびくんと痙攣する。刺激に耐え切れずに自分も射精した。
ぐったりしたマーティンの体を支えながらシャワーで体を洗ってやると、
トロンとした眠そうな顔でマーティンはダニーにもたれかかった。
「・・僕、のぼせちゃったみたい」
「そやな、もう出よう。オレも水飲みたい」
二人はバスローブを着ると冷蔵庫へ急いだ。
交互に水を飲み終わると、マーティンがキスしてきた。ダニーもお返しのキスをする。
「オレ、ほんまにニッキーとは会うてないで。他の女とも寝てないし」
ダニーは目を見て真剣に言った。
とことんまっすぐで、頼りなさそうな青い瞳に吸い込まれそうだ。
オレ、浮気してる、それもトロイと・・・ごめんな、マーティン・・・・
マーティンに知られるのが怖かったが、スチュワートとの浮気もやめられそうになかった。
二人と別れた後、スチュワートがトライベッカのチャーチ・ラウンジに行くと、サマンサがいた。
「やあ、サマンサ。今夜は一人?」
「ドクター・バートン!そう・・今夜は一人なの」
「ジェフリーとケンカでもしたのか?」
「ええ、何でもお見通しなのね・・・」
サマンサはカシスソーダを飲み干すと、ため息混じりにお代わりを頼んだ。
「ここ、いい?」
スチュワートは返事を聞かずに隣に座るとマティーニをオーダーした。
「・・・こんなところで会うなんてね」
「ごめんね。オレ、消えようか?」
「ううん、いいの。ね、今夜はスチュワートって呼んでもいい?」
サマンサがキャンドルを弄ぶ様子がマーティンに似ている。
「いいよ、特別だ」
スチュワートはウィンクするとマティーニを啜った。
二人が話しているとスチュワートはポンと肩を叩かれた。
振り向くなりバシャッと酒を浴びせられる。
「キャッ!ちょっと何するのよ!」
自分も被害を受けたサマンサが立ち上がった。
「あんたは引っ込んでて!よくも私を弄んでくれたわね、この人でなし!地獄に落ちろ!」
女はグラスを床に投げ捨てると出て行った。
騒然とする中、ウェイターがタオルを持ってきた。周囲の好奇の目にさらされる。
「ああ、どうもありがとう。災難だったな、これで拭くといい」
スチュワートはサマンサの頬をそっと拭った。
「ねぇ、どうして言い返さなかったの?」
「正直言うとさ、誰なのかすら思い出せない。ここ、出ようか」
スチュワートは何もなかったようにチェックを済ませた。
サマンサはアパートに着いたが降りようとしない。
「どうして降りないんだ?」
「今日は帰りたくないの。一人になりたくない」
サマンサはしなだれかかると肩に顔をうずめた。
「さっきも見ただろ、オレは君を襲うかもしれない」
「それでもいい」
サマンサはますます甘えるように寄りかかった。
「わかった、とにかく中に入ろう」
二人はサマンサのアパートへ入った。
以前来た時と少し雰囲気が変わっている。
しばらく話すうち、サマンサはソファの上でうとうとし始めた。
スチュワートはそっと抱きかかえるとベッドに運んだ。
帰ろうとしたが、しっかりと抱きついて離れない。
結局、朝まで一緒に過ごしてしまった。
アランは、トレーナーのロバートとメールのやり取りをしていた。
脂肪がついてくずれた身体をどうしても引き締めたかった。
ダニーは贅肉が全くない身体だ。身体を重ねるたびに実感するのだ。
ダニーにだまってレッスンを受けるつもりはなかったが、
ロバートが週末の予約が一杯だという。
アランはダニーに秘密で、ウィークデーの昼間に予約した。
ランチの時間にロバートがやってきた。食材を買ってきている。
「今日は栄養学的な見地からレッスンしましょう」
鶏のささみ肉や、白身魚の切り身に山盛りの野菜が並ぶ。
ロバートが手際よく料理をしている間、アランはロバートが持ってきたプログラムをこなしていた。
自分向けに回数やウェイトの重量をアレンジしてくれている。
食事が出来上がり、アランのシャワーの後、二人でダイニングに座った。
「ロバートはトレーナーになって何年?」
「実は、コロンビア大の大学院生で、スポーツ医学を専攻していて。学費稼ぎのバイトです。でも知識は本物ですよ」
ウィンクをして答えるロバート。アランはどきりとした。この子の自信は何なんだ。
「ショアさんとダニーはカップルですよね?」
「あぁ、同棲して2ヶ月だ」
ダニーをファーストネームで呼ぶのが気になった。
「大変でしょう、彼、若いし」ロバートが意味ありげに言った。
「まぁ、色々あってね」
「僕なら悩み事を聞きますよ」
「ありがとう、でもあいにく、僕は精神分析医なんでね」
「あはは!それは失礼しました。今日みたいな食事を週に4日は入れてください。
ストレスがたまるといけないので、3日間は何を食べてもいいですよ」
「ありがとう。やっぱりプロに任せると違うな」
アランが舌を巻くような、名シェフぶりだった。
スティーム中心の調理法は、アランにも新鮮だ。
アランが皿をキッチンに片付けていると、後ろにロバートが立っていた。
下半身が密着している。
「何?」急にアランは顔を向けられロバートのキスを受けた。
「ごめんなさい!つい我慢できなくて。もう僕、雇ってもらえませんね」
「いや、そんな事はないよ」
ロバートは、レシピーシートを置いて帰っていった。
僕ともあろう者が、あんな若者に振り回されるとは・・・
アランはふっと笑って午後の診察の準備を始めた。
僕にはダニーがいるんだから。
一方のダニーは支局でぼーっとこの前のマーティンとのセックスを思い出していた。
あいつ、叩かれるのに快感覚えるなんて何なんやろ?
フランスで、相当辛い目に遭ったんやな。
どうすれば、元のマーティンに戻れるんやろう。
それともそれを全部受け入れて、元の関係に戻って欲しいっちゅう懇願だったんやろか?
アランにも相談できない。本人とまた、話をするか。
ダニーは唇をかみ締めて考えていた。
ヴィヴィアンに「ダニー、怖い顔して何考えてるんだい?」と聴かれ、作り笑いを浮かべた。
「プライベートや、ごめん」
マーティンが気にしている風で、こっちを向いている。
ダニーは、マーティンにOKマークを見せて、PCの電源を切った。
206 :
fusianasan:2006/04/18(火) 03:42:32
書き手2さん;
まさか、サマンサが間に入ってくるとは想像も出来ませんでした。
彼女、かなりしたたかな女性ですよね。スチュワートを守ってください。
よろしくお願いします。
二人が支局に出勤すると、サマンサがだるそうに薬を飲んでいた。
「サム、二日酔いか?」
「ダニー、大きな声出さないで。頭に響くじゃない」
「めずらしいな、サムが二日酔いなんて。アスピリンは眠たなるで」
「ううん、これはドクター・バートンが処方してくれたのよ」
「そんな古い薬、やばいやろ?」
「古くないわよ、これはさっき書いてくれたんだもの」
え・・・どういうこっちゃ?マーティンも訝しげにサマンサを見ている。
「ふうん、トロイってそんなに早くから働いてるんや?」
「あー、もう静かにしてて」
サマンサはしまったと言うような表情を浮かべると、デスクにうつ伏せになった。
トロイ、まさかサムと寝た?
ダニーがマーティンのほうを見ると、同じ事を考えたらしく青ざめている。
オレのニッキー疑惑の次はトロイのサム疑惑て・・・ボンもとことんついてないな。
だが、ダニーもショックを受けたことに変わりはなかった。
ダニーとマーティンがランチを食べていると携帯が鳴った。
スチュワートと表示されていたが、そのままポケットに戻す。
「マーティン、出ーへんの?」
「出たくない」
「お前な、確かめもせずに疑うのは悪い癖やぞ」
「・・ダニーが僕をそうさせたんだよ」
ムッとしたマーティンはカーリーポテトを口に押し込んだ。
オレのせいやって言われたら言い返す言葉もないわ・・・
今まで騙し続けてきたことを振り返り、ダニーも黙ったままパニーニをかじる。
「なぁ、オレが代わりに聞いたろか?」
「いいよ、スチューだってバイなんだから仕方ないよ」
「けど、違うかもしれんやん」
「いいってば!」
マーティンは頑なに拒否すると、食べかけのターキーサンドを置いて出て行った。
あいつが食べ物残すやなんて・・・・
一人残されたダニーは呆然としていたが、受けたショックの大きさを思い胸が痛んだ。
マーティンは、書類仕事をするサマンサの背中を見ていると怒りが収まらない。
ジェフリーはどうしたのさ!そのせいで僕はボスにいじめられたのに・・・
大声で叫びそうになり、気分転換にコーヒーを淹れに行った。
ミルクポーションを乱暴に投げ捨て、くさくさしながら席に戻る。
何も手につかないほど腹が立つ。
仕事が終わるとさっさと席を立った。ダニーが慌てて追いかける。
二人が下に降りるとスチュワートが待っていた。
「やあ、マーティン」
マーティンは無視して駆け出すとあっという間に姿が見えなくなった。
「あいつ、どうしたんだ?何を怒ってる?」
「お前がサマンサと浮気したって思てるんや」
「何だよ、それ!オレがそんなこと・・・」
「この前はオレで、今回はお前の浮気疑惑やろ、あいつ、気が滅入ってるんちゃうかな。
それに・・それにオレだってほんまは怒ってるんや」
「なっ!お前までオレを疑うのか!」
スチュワートはダニーを強引に乗せると車を出した。
マーティンのアパートで待っていたが、なかなか本人が帰ってこない。
「どっかに飲みに行ったんちゃう?携帯にも出んし」
「あのバカ・・・」
「なぁ、ほんまはサムと何かあったん?」
「あるわけないだろ!そんなことするもんか!」
「でも早朝に一緒におったんやろ?そんなん怪しいやん」
「ああ、でもそれだけだ。誓って何もない」
スチュワートはきっぱり言うとうなだれた。ダニーは何も言わずに肩に手をやる。
二人はそのままマーティンを待ち続けた。
>>206 サマンサとは一緒にいただけで何もなかったんですよ。
マーティンが勘違いしてしまってますけど。
「あぁ〜、もうだめだ!」トムがアランの上から降りて、横にころがった。
「眠くなったよ、俺」
「お前、夜勤だろうが。もうすぐ出勤だろ」
アランがトムの頬をぴたぴた叩く。
そんなアランの顔をはさんで、ディープキスを繰り返すトム。
「もう、僕は立たないぞ」
「俺だって同じだよ、お互い年だな」
「嫌な事言うな!」
二人はベッドの中でレスリングをした。
シャワーを順繰りに浴びる。
アランにバスタオルを渡すとき、トムはアランの胸にキスマークをつけた。
「おい!」
「ふふ、お前の可愛いあの子が気付くかな!」
鼻歌交じりでシャワーを浴びているトム。
アランはジャガーで家に戻った。胸のキスマークが赤い。
困ったな。ダニーが自分の浮気に気が付いたら、それも相手がトムだと分かったら、
とんでもない事になるのが分かっている。
今日はセックスなしだ。アランは心に決めた。
ダニーは、事件で成果を上げ、ボスから久しぶりに褒められた。
アランに知らせにゃー!
地下鉄でも鼻歌を歌ってしまうダニーだった。
「ただいま!」
「元気だな、いい事でもあったか?」
「久しぶりに満塁ホームランや!俺、祝いたい!」
「それじゃ、外食するか?」
「うん、行こう!俺のおごりや!」
二人は行きつけのビストロ「ラ・シャンブル」に出かけた。
ラタトゥーユやエスカルゴ、アジのエスカベッシュを摘みながらシャルドネで乾杯する。
「今日は失踪者を見つけられたのか?」
「うん、俺が手がかりを捜した!」
意気揚々としゃべるダニーが可愛らしくて仕方がない。
二人の好きなラムの香草焼きが来て、ワインを変える。
「今日はお祝いだから、フレンチで行こう」
アランがシャトー・マルゴーを頼む。
「そんなん!すごすぎやで。俺、大したことしてないのに」
「お前のそういう謙虚なところが大好きだよ。ダニー」
アランの砂色の瞳がダニーを射る。
アラン、俺、マーティンと浮気してる。
ごめん。ダニーは思わず目を伏せた。
「恥ずかしいやん」ごまかせただろうか。
メインも終わり、デザートをスキップして二人で帰る。
「バスキン・ロビンスでアイスクリーム食べようか?」
珍しいアランの申し出に、二人で列に並ぶ。
マンゴーとバナナをダニーが、チョコチップとミントをアランが頼んだ。
「こんなの中学の時以来だな」アランが言う。
「俺、やったことない」ダニーがふと口にした。
「お前って・・」
「うん、13歳の時にラム酒をかっぱらって少年院行きになりそうやった。
アイス食べたなんて思い出ないわ」
アランはダニーの頭を抱きしめた。
「僕が、その分一生をかけて補ってあげるよ。ダニー・テイラー。心から愛してる」
「じゃあ、今日は・・する?」ダニーが上目使いで見た。
「今日は、疲れてるから、また今度にしよう」アランの胸がじんと痛んだ。
マーティンはジムで時間を潰した後、帰りにジュースバーに寄った。
窓際の席でキャロットジュースを飲んでいると、隣にアーロンが座った。
何だよ、コイツ!僕の横に来るなよ!マーティンは知らん顔でジュースを飲む。
「ちょっといいかな?」
「・・・・・・」
無視するマーティンにかまわずアーロンは続ける。
「この前は申し訳なかった。許してくれる?」
ヴォーンに似た切ない表情に負け、マーティンは黙ったまま頷いた。
「よかった、許してくれて」
アーロンはマーティンを見てにっこりすると、安心したようにジュースを飲んだ。
「ダニーから聞いたんだけど、君がゲイじゃなくて残念だよ」
「・・・・・・」
「これから何か予定ある?僕と飲みに行かない?」
「え・・あ・・その・・」
「大丈夫、ヘテロに興味はないから。この前のお詫びがしたいんだ」
マーティンはスチュワートにあてつけたくて、ジュースを飲み干すと一緒に外に出た。
路駐していたBMWに促されるまま乗り込む。
二人が行った先はホテル・エリゼーのモンキーバーだった。
スタニックはマーティンがまた別の男と来ているのに驚いたが、もちろん顔には出さない。
オーダーされたカクテルを淡々と作るが、マーティンが憎たらしい。
また浮気かよ、ダニーもこんなのと早く別れればいいのに・・・・
ダニーに告げ口してやろうかと思ったが、そんなことはしたくなかった。
アーロンはマーティンに気を遣っていろいろと話しかけてくる。
酔いも手伝って、マーティンもいつの間にか打ち解けていた。
アーロンが建築士だと知り、聞きたいこともたくさんあって話は弾んだ。
何気なく時計を見ると、23時を回っている。
「アーロン、僕はそろそろ帰らないと」
「ああ、もうこんな時間か。家まで送るよ」
アーロンはチェックを済ませた。機嫌がいいのか、スタニックにも破格のチップをくれた。
あいつ、最低だ!スタニックは、背中に手を当てられて帰るマーティンを苦々しい思いで見送った。
「家はどっち?」
「アッパーイーストサイド」
「君も?僕もだ。どこかで会ってるかもね」
マーティンは窓を少し開けて風に当たると、冷たい風が心地よくて眠ってしまった。
「マーティン、マーティン」
アーロンはマーティンを起こしたがすぐに寝てしまう。
仕方なく自分のアパートに連れて帰った。
生温かい感触に目を覚ますと、アーロンにキスされていた。
「わっ!何?何だよ!」
驚いたマーティンが声を上げると、また唇を塞がれてしまった。
シャツのボタンも外されていて、乳首を転がすように弄られる。
「大丈夫、悪いようにはしないから」
キスされながらトランクスの中にアーロンの手が入ってきた。
握られたペニスは少し勃起しかけている。
マーティンがヘテロだと思っているアーロンは、やさしい口調でなだめながらペニスを刺激する。
「怖くないだろう?すぐによくなるからね」
ねちっこい手つきでしごかれ、とうとう勃起してしまった。
「何するんだよ、バカ!」
マーティンはブリーフケースとジャケットを掴むと逃げ出した。
キスされた唇を乱暴に拭うと、泣きそうになりながら自分のアパートまで全力で走った。
ふらつく足で部屋に入ると、うたた寝したダニーと思いつめたスチュワートが待っていた。
「・・マーティン、遅かったな」
マーティンは無視するとブリーフケースを床に投げ捨て、ベッドルームに入ってしまった。
投げ捨てたブリーフケースのドンという音でダニーが目を覚ました。
「ん・・帰ってきたん?」
「ああ」
スチュワートがベッドルームに入ると、マーティンが布団をかぶって団子になっていた。
「またかよ・・・」
スチュワートは強引に布団を剥いだが、マーティンは頑なに目を逸らす。
「オレはサマンサとは何もしてない、本当だ」
黙ったままのマーティンをぎゅっと抱きしめるが、マーティンは目を合わせようともしない。
「それでもオレのことが信用できないなら、オレ達の付き合いもここまでだ」
「・・・嫌だ」
「ん?」
「そんなの嫌だ!」
マーティンはしがみついて泣いた。アーロンにキスされた自分が汚らわしい。
「わかったから泣くな、いい子だ」
二人の様子を見ていたダニーは誤解が解けたのを見て安心した。
帰りがけ、珍しくマーティンがダニーを誘った。
「飲みに行こうよ」
「おう、ええで」
二人でベメルマンズ・バーに寄った。
マーティンはまずチキンウィングや、ゴルゴンゾーラチーズピザを頼んだ。
「お前、どんな時でも食欲が最初な」
恥ずかしそうな顔をするマーティン。
こいつ、こういう顔は変わらない。相変わらず、可愛い。ダニーは思った。
「ねぇ、ダニー、この間のお願い考えてくれた?」
「お前との関係?」「うん」
「考えてんねんけど、答えが出えへんわ」
「やっぱりそうなんだ」マーティンはがっかりした顔をした。
「お前、ニックとうまくいってんねんか?」
「ニックはすごく大事にしてくれる。ダニー以上だよ」
「悪かったな」
「でも、違うんだよ。ダニーといる時と」
また涙目になりそうなマーティンにハンカチを渡す。
「お前は、なんか混乱してるで。俺、この間やった事、正直嫌いやねん。
お前の事、叩いて俺が快感得られると思うか?俺、さぶいぼ立ったわ」
「ごめん」マーティンは真顔で謝った。
「パリでさ、奴隷になってる時に、覚えちゃったんだよね、僕の身体、向いてるみたい」
マーティンはそれだけ言うと唇を一文字に結んだ。
「ごめんな、辛い事言わせて。とにかく俺はああいうのだけはごめんや。二人で治療しようか?」
「だって、またアランでしょ、僕、いやだよ!」
「アランが嫌なら他のセラピスト当たろう。二人で克服しよう、な」
「うーん、分かんない」
マーティンはピザにがっついた。
何なんや、このこだわりは!
ダニーには全く分からなかった。
話が行き詰まってしまい、二人はただ、アルコールを重ねた。
「今日、アランのとこ、帰るんでしょ?」
「お前、一緒にいて欲しいか?それなら一緒に帰ろ」
「いいよ、僕、一人で帰る」
マーティンは一人でタクシーに乗って帰ってしまった。
ダニーは見送るように、次のタクシーを待って、アランの元へ帰った。
マーティンはタクシーの中で泣いた。
ダニーに僕の気持ちが伝わらない!どうしたらいいんだよ!
ドアマンのジョンにも挨拶せず、エレベーターに乗るマーティン。
僕、どうしちゃったんだよ、痛めつけられないと、もうセックス出来ないの?こんなの酷いよ!!
ダニーはああいうセックスはだめなんだ!もうダニーとはダメなの?
マーティンはある人物の顔を思い出した。ERのトム・モナハン。彼は僕の傷を全部知っている。
そうだ、明日、会いに行こう!
マーティンは気持ちを決めて、バスルームへと進んだ。
マーティンは一日休んで、市立病院のERを訪れた。
「ドクター・モナハンをお願いします」
トムは眠そうな目を擦りながら現われた。
「すまない、仮眠していたもんだから」
「すみません。あの、悩み事があるんだけれど、いいですか?」
「ほう、じゃあ、処置室で聞こう」
マーティンは、フランスの事件以来、セックスが尋常の方法では満足出来ないことを赤裸々に語った。
「率直に言って、強度のPTSDだな。どれ程度かは分からないが」
「診察してもらえませんか?」
「ここじゃ無理だよ。俺はERのドクターだ。アランに頼めよ」
「嫌なんです、アランに知られるのが」
トムも考え込んだ。
「じゃあ、俺の家に来るか?今日なら、8時位にどうだ?」
「はい、伺います」
ストリートアドレスを書き留めて、マーティンは帰っていった。
さて、どうしたもんかな。あいつをダニーにくっつければ、アランは俺のものになるかも知れない。
トムはじっと考え込んだ。
8時になり、マーティンがやってきた。
「へぇ、ドクター、一軒家に住んでいるんだ」
「ドクターは止めろよ、トムでいいから」
「トム、トム」マーティンが復唱した。可愛い子だ。
「で、どんなセックスになってる?」
スコッチの水割りを渡してトムが尋ねる。
「うん、叩いてもらったり、噛んでもらったり。そうしないと射精できないんです」
「セックスはな、お互いの愛を確かめ合う行為だ。そういう行為はいらないんだよ。
君は、本当の愛に出会っていないんじゃないか?」
トムの矢のような質問に、マーティンはだまった。
「わからない。僕はダニーがその相手だとずっと思ってる。でも彼にはアランがいるし」
マーティンは、ぐいっとスコッチをあおった。
「もし良ければ、俺と試すかい?」
「それって、治療の一貫ですよね?」
「当たり前だよ、俺にも大事な相手がいる」
「分かりました」マーティンは服を脱ぎ始めた。
意外にも筋骨隆々とした身体が現われた。
「いいかい、君が好きなやり方を教えてくれ」
「うん」マーティンは、叩いて欲しい場所、噛んで欲しいタイミングを率直に伝えた。
トムは、マーティンの中に果てた後、息を整えながら言った。
「すっかりマゾヒストになっている。それでないと、イケないだろう?」
「うん、イケない」
「恋人には、出来るだけラフ・プレイを頼まないことだ。
慣れていかないと、このまま君はずっと、マゾヒストのままで終わるぞ」
「最悪!」マーティンは涙目になった。
「おいおい、泣くなよ。家まで送ろうか?」「うん」
トムはシルバーのBMWでマーティンの家まで送って行った。
「どうせなら、何か食わないか?」
トムに言われるままに、マーティンは、「ジャクソン・ホール」でハンバーガーを食べた。
ビールを飲みながら、トムが尋ねる。
「少しは落ち着いたか?」
「うん、ありがとう。トムって、精神科も専攻したの?」
「あぁ、研修でやったが、ドクターには向いてるって言われたが、俺には外科が合ってる」
「自分で進路を選ぶって素敵だね」
トムは目じりにシワを見せながら笑った。
「お前より年が一回り上なんだぜ、お前だってこれからまだ人生変われるさ」
「うん、そうならいいけど。また、会ってくれる?」
「ああ、お前さえ良ければ、喜んで」
二人は携帯の番号を交換した。
ダニーはマーティンに誘われてジキル&ハイドクラブへ来た。
噂どおりのお化け屋敷風レストランに驚き、まじまじと様子を窺う。
「ね、おもしろそうでしょ」
マーティンは得意気に言うとダニーを促した。
薄暗い店内はモンスターがうようよいて、テーマパークそのものだ。
席に案内されオーダーを済ませる。ふと横を見るとボスが子供たちと来ていた。
二人は顔を見合わせたが、無視するわけにもいかず声をかけた。
「ボス、こんばんは」
「おー、ダニーとマーティンじゃないか。お前たちも今夜はここでディナーか」
「ええ。二人ともオバケ怖ないか?オレはちょっと怖いな」
ダニーはボスの子供たちにも声をかけたが、二人とも落ち込んでいて元気がなかった。
「ダニー、悪いがこの子達を変身ショーに連れて行ってくれないか?」
「いいっすけど、ボスが一緒のほうが元気にならはるんと違いますか」
「・・パパと行くか?」
ボスはやさしく話しかけるが、二人とも黙っている。
「ほな、ケイトもハンナもオレと見に行こう。オバケが変身するんやて、おもしろそうやろ?」
「あとでモンスターと記念撮影するといいよ。僕が撮ってあげる」
マーティンも気を遣って話しかけ、二人は頷くとダニーと手をつないで席を立った。
「マーティン、この前は悪かったな」
子供たちに手を振った後、ボスは謝罪した。
マーティンは黙ったまま、ボスの娘を抱っこしてショーを待つダニーを見つめる。
「お前が許せないのも無理はない。私は最低だ」
「・・もういいよ」
かわいそうになったマーティンは、された仕打ちも忘れてボスを許した。
ダニーが子供たちと戻ってきた。二人ともさっきと違ってはしゃいでいる。
「おもしろかったか?」
ボスに尋ねられた二人はにっこりと頷き、ダニーと一緒に食べたいと言い出した。
「すまないが、お前たちも一緒に食事をしてやってくれ」
ボスはミイラ男のウェイターに告げ、テーブルをセッティングさせた。
マーティンは、子供相手におもしろおかしく話すダニーに見とれた。
自分でダニーおいたんとか言ってるよ・・・思わずくすっと笑った。
「ありゃりゃ、マーティンおいたんがサラダ残してはる。あかんで、ちゃんと食べやな」
「わかったよ、食べるよ」
「パパもあかんな、豆を残す気や」
三人に食べるよう促され、ボスもマーティンも渋々口に入れた。
帰りにモンスターと記念撮影をして、ボスたちと別れた。
ダニーもマーティンもボスの子供たちにすっかり懐かれてしまったが、嫌ではなかった。
「あー、疲れた。子供相手は肩凝るわ。晩メシ代が浮いたからええけど」
「何言ってんのさ、すごく楽しんでたじゃない。ダニーおいたん♪」
「あほ、おいたんて呼ぶな。ボスもちゃんと父親してたけど、微妙に空回りしてたな」
「ん、やさしくていいんじゃない。あの子たちも素直でいい子だよ」
二人はタクシーを待つ間、デジカメの画像をチェックした。
アパートに帰ると、早速さっきの画像をプリントする。
「ダニー見て、僕らのよく撮れてる」
「ほんまや、ボスと子供らのは?」
「これ。明日ボスに渡すと喜ぶよ」
マーティンは忘れないように写真とCD-Rをブリーフケースに入れ、
ダニーとのツーショットをデスクに飾るとにんまりした。
「こんなん、副長官に見つかるやん。止めとけ」
「平気だよ、来るわけないし。それにさ、ゲイって知られてもいいんだ」
「えーっ!」
「もういいんだよ、こそこそするのにも疲れた」
「けど、お前な・・ちょっでも、オレ・・」
「ううん、ダニーのことは口が裂けても言わない。約束する」
マーティンはスチュワートがいつもするように両手の指をクロスさせた。
「ボスは僕にパパって呼ばせてるけどさ、僕だって本当はうれしいんだよね・・」
ベッドに横になるとマーティンがぽつりと話した。
「・・よし、ほなダニーおいたんと寝よか」
不憫になったダニーはマーティンを抱き寄せた。マーティンはくすくす笑っている。
「ねー、やっぱダニーおいたんってヘンだよ」
「いいんや!寝るで、おやすみ」
ダニーは抱きしめてキスするとぴったりくっついた。
「うぅーん!止めろ!カルロス!」ダニーがベッドで暴れていた。
「ダニー、起きろ!」アランが身体を揺り動かす。
「アンジェロ、離せ言うてるやろ!」
ガーン!ダニーはアランにパンチ繰り出し、アランの右目に命中した。
「痛!」ダニーは寝返りを打って、やっと静かになった。
アランは目を氷で冷やしてからまたベッドに入った。
朝になり、先に目が覚めたダニーは驚いた。アランの右まぶた全体が腫れている。
「アラン!アラン!何があったん?」
アランはゆり起こされて、ダニーの顔を見る。
「覚えてないのかい?」「俺?俺がやったんか?最悪やん!ごめん!」
「カルロスだのアンジェロだの名前を叫んでいたぞ」ダニーは、はっと息を飲んだ。
「ごめん、ガキの頃の仲間や。けんかの夢見てたんと思う」
アランは、ダニーのただならない様子から、嘘だと察したが何も聞かなかった。
「とにかく、ERに行って手当てしてもらい。俺、出来ないから」
ダニーはシャワーを浴びに行った。シャワーブースでダニーは泣いていた。
封じ込めていた過去なのに、アランを殴ってしもうた。最悪や。
ダニーがシャワーから出ると、アランがコーヒーを入れていた。
「ERなんて大げさな。自分で面倒みられるさ。さぁ、フレンチトーストが出来たよ」
「アラン、俺・・・」
「話は後だ、さ、朝ご飯食べて、今日もアメリカ国民を救ってくれ」
アランは笑った。
ダニーが出勤した後、アランはダニーの診察ノートを取り出し、書き加えた。
少年期の性的虐待?おそらく多頻度と思われると。
ダニーは、アランを殴った自責の念で、食欲もなかった。
ランチをスキップして、サマンサにダイエットなのかとからかわれる。
マーティンがじとっと見ていた。
「捜査会議?」マーティンからのメールに「OK」と返す。
二人で、ブルー・バーに繰り出した。
「どうしたの?」マーティンが心配顔で尋ねる。
「俺、寝ぼけてアランを殴ってしもうた」
「へ?どうしたの?」
「俺、子供の頃、無理やり女にさせられたんや。その夢を見てた」
ダニーは、モヒートのグラスをぎゅっと握った。
マーティンはショックでしばらく言葉が出なかった。
「でも理由話したら、アランなら分かってくれるでしょ」
マーティンに慰められても、下を向くダニーだった。
ダニーは話題を変えた。「お前の方は、治療は進んでるんか?」
「分かんない。ニック、今LAに行ってて、僕一人だしさ。一人じゃ試せないでしょ?」
「ニックいないんや」ダニーは驚いた。前ならすぐに話してくれていたのに。
「向こうでまた個展やってる。もう雲の上の人だよ。いつもカメラマンに付きまとわれてる」
マーティンは苦笑した。
「お前、寂しくないか?」ダニーがマーティンの目を見つめる。
「やめてよ、そんな哀れんだような目で見ないでよ。
そりゃ寂しいけど、ニックと付き合う以上、我慢しないとね」
マーティンは無理やり作り笑いをして、「もう今日は帰ろうよ」とチェックを頼んだ。
家に帰ると、アランがリビングで雑誌を読んでいた。「おかえり」
右目の周りがさらに赤く腫れあがっていた。
「ただいま、俺・・アランに嘘ついた。俺が見てた夢、ケンカやない。
俺、無理やり、女にされてたんや。ガキの頃」
アランが立ち上がり、ダニーを抱きしめる。
「もういいんだよ。話さなくても。分かったから。さぁ、食事にしよう」
ダニーはアランの胸の中で、思う存分泣いた。
263 :
B.C.:2006/04/21(金) 07:27:46
書き手1さん、書き手2さん 毎日お疲れ様です。
お二人の作品を読むのが日課になってます^^
ダニー派でしたが、お二人が書くマーティンが可愛くていじらしくて
今ではすっかりマーティン派(*ノ▽ノ*)
これだけ長く続くってスゴイですね!
これからも応援しています(^^)
ダニーはスチュワートとこっそり待ち合わせていた。
支局から4ブロック離れたところで来るのを待つ。
横にTVRが停まり、周囲を見回すとすばやく乗り込んだ。
「お前、遅いねん。10分遅刻や」
「女みたいなこと言うな、これでも急いだんだぜ」
「オレは早く会いたかったんや」
ダニーはうっかり本音を漏らしてしまい、照れくさくて窓の外を眺める。
「トロイ、オレ今日はホビロン食うわ」
「マジかよ、気持ち悪いって言ってたくせに」
「なんか食いたい気分やねん」
ダニーは明らかに嘘だとわかる嘘をついてニヤリとした。
「残したら直腸診してやるからな」
嘘だとわかっているスチュワートもにんまりする。
二人は話をしながらチャイナタウンへ車を走らせた。
着いたものの、スチュワートはベトナム料理店の前で足がすくんだ。
あんなに足繁く通っていた店なのに、中に入るのをためらってしまう。
「トロイ、やっぱりやめよか?」
気を遣ったダニーが心配そうに見上げる。
「いや、平気だ」
フーっと大きく深呼吸すると思い切って中に入った。
オーダーを済ませ、おなじみの青白い卵が運ばれてくる頃にはスチュワートも落ち着いていた。
「うう・・この殻の色からして気色悪いな」
ホビロンをスプーンでこつこつ叩きながらダニーが呟いた。
「テイラー、残したら直腸診だからな」
スチュワートはおもしろそうに殻を割るとおいしそうに食べ始めた。
ダニーはスプーンですくったまま固まっている。気持ち悪くて見ただけで吐きそうだ。
「どうした、早く食べろよ」
「オレがこれ食べたら、その・・お前の中に入れさせてくれる?」
スチュワートは一瞬口をぽかんと開けたが、すぐににやっとした。
「ああ、どうぞご自由に。それに手錠プレイもおまけしてやろう」
今度はダニーが吹き出した。思い切ってスプーンを口に運ぶ。
うひゃあー、オレの口ん中にあのグロい卵が・・・おえー
吐きそうになったが、なんとか飲み込んだ。慌てて水をがぶ飲みする。
味はどうだったかと尋ねられたが、何も覚えていなかった。
ダニーは残りを食べようとしたが、どうしてもできない。
「あかん、オレはもう無理や」
「そうか、えらかったな、テイラー」
「なぁ、これだけやったらあかんやんな?」
スチュワートはくすっと笑うと質問には答えず、ダニーの分のホビロンを食べた。
あきらめたダニーは他の料理に手を伸ばしたが、
青パパイヤのサラダで口直しをしながらがっかりしていた。
スチュワートのアパートへ帰るとシャワーを浴びてベッドに入り、ダニーは肩にもたれかかった。
「直腸診ってどんなん?」
「すっげー痛い。マーティンなんかオレと初対面の時に診察室で泣き叫んだんだぜ」
「えー、そんなん嫌や、怖いやん・・」
「バカ、病気は早期発見が大切なんだ。たまにはオレの著書を読め」
からかったスチュワートは笑いを堪えながらダニーの体に手を触れた。
「テイラー、入れてもいいぞ」
「えっ、ほんま?」
「ああ」
ダニーはバカみたいにニヤニヤしながらキスをした。
「待った、お前がそんなにへらへらしてたら集中できないだろ」
「ごめん、つい」
ダニーは頬を軽く叩いて気合を入れた。
がっしりした体を愛撫しながら四つんばいにさせ、ローションを垂らして指を入れる。
スチュワートはうっと小さく喘いだ。声を上げないように我慢しているのがそそる。
ダニーはゆっくり出し入れしながら指を二本に増やした。
「っ・ぁぁ・・ん」
「トロイ、感じてるんやろ?中がひくついてるで?」
ダニーは言いながら嬲るように指を動かす。スチュワートは背中をしならせたが声は上げない。
全身をガクガクさせて荒い息を吐きながらも声が出ないように我慢していた。
我慢できなくなったダニーはペニスを押し当てるとゆっくり挿入した。
「んんっ・・あぁっ!」
挿入されたスチュワートが我慢できずに声を上げた。
ダニーはペニスを抜くと正常位にして挿入しなおした。感じる顔がどうしても見たい。
ゆっくりと自分が動くたびにスチュワートは悶える。
「テ・・テイラー・・見るなよ・・うぅっ・あぁ」
「嫌や、お前のイク顔が見たいねん」
ダニーは動きを早めた。スチュワートが感じて苦しそうな表情を浮かべているのに興奮した。
「ダメだっ・・・あぁっ!」
びくんと大きく体を仰け反らせるとスチュワートは射精した。
ダニーは自分の体に飛んだスチュワートの精液の生温かさにイキそうになった。
抱きしめてディープキスをしながら腰を動かす。
何度も射精しそうなのを我慢して、限界まで堪えて出した。
いつもよりペニスがドクンドクンと脈打つ。
ふらふらになったダニーはスチュワートの上に倒れこんだ。
「はぁっはぁっ・・オレの・・どうやった?」
「・・バカ、そんなの恥ずかしくて言えるかよ」
その言葉に思わずにやけたダニーは、キスをすると横に寝転んだ。
>>263 ご感想ありがとうございます。
マーティン、子供っぽくてかわいいですよね。
とはいえ、やはりダニーが好きですが。楽しみにしていただいてうれしいです。
チームは事件を追って、寝ずの捜査をする事になった。
ダニーはアランに今日は帰れない旨を告げた。
「気をつけろよ」アランが心配そうな声を出した。
「分かった。先に寝ててな」
マーティンは羨ましそうにダニーの様子を見つめていた。
ダニーは聞き込みで外出、マーティンは失踪者の金の流れを追うデスクワークに分かれた。
夜中の2時にブルックリン・ブリッジにいる失踪者を無事確保できた。
多重債務を苦にして、自殺目的で失踪したと分かった。
「皆、ご苦労、帰って休むように」ボスの顔にも疲れがにじむ。
ダニーとマーティンは、数少ない早朝のタクシーをシェアした。
「お前んとこに行って寝てもええかな」ダニーが急に言い出した。
「うん?いいけど?アランはいいの?」
「今、帰っても起こすだけやん」
「そうか、うん、家で寝ていけば?」
マーティンが快諾してくれたのが有難い。懐かしいマーティンの部屋だ。
キッチンもリビングも、メイドのおかげで綺麗に整っているのが気持ちがいい。
「お前、どこのカウンセラーに通ってるんか?」
「僕をよく知ってる人なんだ、ラクチンなんだよね」
ダニーはその人物に嫉妬した。
「俺の知ってる奴か?」
「言えない」マーティンはこうなると頑固だ。
「俺、眠くなった、ベッド借りるで」「うん」
ダニーはアパートに残していたパジャマに着替えて、歯磨きした後ベッドに入る。
しばらくするとマーティンがベッドに入ってきた。
ダニーがマーティンの身体におずおずと腕を伸ばす。
静かにその腕がはらわれた。マーティンの腕がダニーの身体にまとわり付く。
力強く抱きしめられ、ダニーは息が出来ないほどだ。
「マーティン、きつい・・・」
マーティンはダニーのパジャマの前をはだけると、乳首を優しくなぶった。
「うぅん」ダニーのペニスが反応し始める。
「マーティン・・」
「だまって!」
乱暴にダニーを後ろ向きにすると、マーティンは、ローションをアヌスに塗って指を挿入させた。
「はぁ、あっあっ」ダニーの息が上がる。
指が二本から三本に増え、中をさらに奥までなぶる。
「マーティン、早く、お前をくれ」
マーティンは静かに指を抜くといきり立ったペニスをダニーの中にぶち込んだ。
「うっ!」衝撃にうめくダニー。
マーティンが腰を動かすたびにダニーのペニスも揺れ動く。
「マーティン、俺、もう、出る」
「だめだ!」ダニーのペニスの根元を強く握ってイカせようとしないマーティン。
「やめろや、俺、もう出る!」
マーティンは腰を強く振り、ダニーの中に射精した。
マーティンが指を離すと、ダニーも果てた。
「マーティン、今の何や?」
「僕、もう眠いから、寝るね」
ダニーの質問の答えは得られなかった。
後ろを向いたマーティンの背中を眺めた。まだムチの傷跡が残る背中。
俺への試しやろか、俺、こんなん限界や!
ダニーは苦々しく思い、寝付くことが出来なかった。
>>263 さん
感想ありがとうございます。
マーティン、実際のWATよりも精神年齢低めで書いています。
可愛いけれど、孤独な魂ですよね。
ニックがLAから戻ってきた。しかし、また個展の準備をしている。
突然脚光を浴びて、過去の作品の引き合いが後を切らない。
「今度はどこに行くの?」
ソファーに寝転がり、マーティンは尋ねた。
「パーム・スプリングスだ。お前も来るか?」
そう言ってニックは、はっと息を飲んだ。
マーティンは気が付かない振りをして「ううん、もう有給使えないもん」とだけ言った。
「今度は早く帰ってくるからな」
「うん、寂しいよ、ニックがいないと」ニックにキスをせがむ。
ニックがかがんでマーティンにディープキスを返す。
「ベッドに行くか?」「うん、行く」
二人のラブライフは、元に戻っていた。
というより、さらに激しいラフ・プレイの連続で、さすがのニックは少し怖くなっていた。
「マーティン、痛くないのか?」
「もっとだよ、もっとぶってよ、僕を叩いてよ!」
ニックは平手打ちを繰り返し、マーティンの中に精液をぶちまけた。
マーティンがイッていないのを知ると、マーティンのペニスを咥えた。
「噛んで!強く、噛んで!」「おい、マーティン!」
マーティンの瞳は夢を見ているようだった。
これは何なんだよ!
ニックもラフ・プレイの経験はあったが、これほど懇願される事などなかった。
商売女でもやらないぜ。それにあいつらは演技だ。
マーティンは真から望んでプレイに没入している。
ドクターに相談か。マーティンを口でイかせて、ニックははぁっとため息をついた。
マーティンはぐったりと、横になっていた。すでに寝息が聞こえる。
俺の償いは、こいつを元の通りに戻すことだ。ニックは、そう感じていた。
翌日、ニックはアランに予約を入れた。
パーム・スプリングスに行く前日、アランの時間が取れた。
「ホロウェイ、今日はどんな用だ?」
「おいおい、ドクター、俺だって悩める患者だぜ、お手柔らかに頼むよ」
アランはノートを開いて書き始めた。
「それで?」
「マーティンがな、パリから帰って来て、変わっちまった。」
「どういう風に?」
「あの・・セックスが暴力的になった。それでなければ満足しないんだ」
「君が叩いたりとか?」
「叩いたり、噛んだり」
「・・あの4日間が彼の何かを変えたんだな。
君がやるべき事は、セックスはそういうものではなくて、お互いに慈しむものだと教えてあげる事だ。出来るか?」
「あぁ、やってみる。俺、はまりそうで、正直怖い」
アランが笑った。「君がはまったら、元も子もない。出来るかい?」
「ああ、心がけてみるよ、ドクター、ありがとう」
「君がマーティンをつなぎとめておいてくれないと、こっちも困るんでね」
ニックとアランは握手をして別れた。
とんでもない後遺症だな。ダニーは自身の過去からそんなプレイ出来ないだろう。
アランは、ダニーの浮気を疑う気持ちを否定した。
ダニーはスチュワートの腕の中でまどろんでいた。
胸毛に指を絡ませながら時折動く喉仏を眺めている。
「テイラー、もう一回しようか?」
「えっ、マジで?」
「ああ」
スチュワートはダニーの耳を甘噛みしながら誘い、太腿にペニスを擦りつけた。
ダニーもついその気になる。
ローションをペニスに塗りたくると、ダニーをゆっくり跨らせる。
対面座位で挿入し、キスをしながら抱き合った。
スチュワートは目を合わせたまま、首筋や鎖骨の辺りを舐めまわす。
獣のようにギラギラしたグリーンの瞳にぞくぞくしてしまい、
我慢できなくなったダニーは,押し倒して胸に手を置くと自分から動いた。
騎乗位なんて恥ずかしいが、快感には抗えない。
声を上げながら大きくグラインドするとイキそうになってきた。
「トロイ、オレもうイキそう・・・」
「イッてもいいぞ、オレもすごく気持ちいい」
スチュワートはダニーの腰を掴むと下から突き上げた。
「ああっ!あかんてっ、ううっ出る!」
ダニーが果てた後もスチュワートは動きを止めない。
体を入れ替えると激しく動いて中出しした。
イッた後で覆いかぶさってくる体が重い。
スチュワートはおもしろがってもがくダニーに圧し掛かる。
「早よ降りろ、重たい!つぶれる!」
スチュワートは横に寝転ぶと大きな欠伸をし、ダニーもつられて欠伸した。
「お前、今日は泊まるのか?」
「う〜ん、どうしよ・・帰るの面倒やし、しんどいから泊まるわ」
二人はシャワーも浴びずそのまま眠ってしまった。
ダニーは早朝目を覚ました。着替えに戻らなければならない。
シャワーを浴びると、浮気の痕跡がないかくまなくチェックしてアパートを出た。
ブルックリンに戻るのも面倒で、マーティンのアパートに行く。
音を立てないように慎重にベッドルームへ入ると、マーティンはぐっすり眠っていた。
キスをしたかったが、起こすとまずい。
着替えを持ち出すとリビングで着替え、H&Hベーグルに寄って出勤した。
デスクでベーグルサンドを食べているとマーティンが来た。
「ダニーおはよう、早いね」
横に座るとチョコチップマフィンを取り出し、早速がっついている。
「ん?どうかした?」
ダニーが見ているのに気づいてきょとんとするマーティン。
「いいや、なんでもない」
「ヘンなダニー」
マーティンは可笑しそうに肩をすくめると、チョコチップだけむしって口に入れた。
「今日、オレんちで晩メシ食べへん?」
ダニーは後ろめたさのあまり、思わず夕食に誘っていた。
マーティンは二つ返事で引き受け、食べたいものを考えている。
「僕、BBQしたいな」
「先週も先々週もしたのに?BBQはオレんちでは無理や、トロイのアパートやないとあかんわ」
「そっか・・あれ、おもしろいよね。最後のマシュマロもサイコーだよ」
「お前は何でも喜んで食べるやん」
「ううん、BBQは特別だよ。僕、今までしなかったのが信じられない」
ダニーは、悔しそうに口をとがらすマーティンの肩を軽くポンとたたいた。
ダニーは一年間前の事を思い出していた。
あの頃はマーティンと付き合い始めていて、毎日が夢のように幸せだった。
今が幸せじゃないとは言わない。十分すぎるほど幸せだ。
でも時折マーティンが見せる寂しげな顔が気になって仕方がなかった。
そんな時、アランがジュリアンからもらったプレミアムチケットを持ってきた。
「うそー、Red Hot Chili Peppers!アラン聞くの?」
「お前が聞くと思ってさ。業界人だけのシークレットギグらしい。VIPパスももらっているよ」
「行く行く!何着てこうかな!」
二人は、バーニーズにショッピングに行き、ダニーはドルチェ&ガッバーナのジーンズの上下、
アランはグッチのレザーのライダーズジャケットを買った。
当日、二人の格好を見て、ジュリアンが大笑いした。
「FBIと精神科医が、ロッカーの格好かよ!その上、アランの顔の傷、ワイルドだね〜!写真撮りたいな」
「それだけは、やめてえな」ダニーがアランの後ろに隠れた。
バンドメンバーの機嫌がすこぶるよく、盛り上がったライブになった。
近々発売を予定しているニュー・アルバムからの新曲が多く、ダニーは大興奮だ。
早速、バックステージに行って、ダニーはCDにサインをもらっている。
突然、ボーカルのアンソニーがダニーにキスしたのに、アランは目を剥いた。
ダニーはぼーっと突っ立っていた。
「お前、何言われた?」アランが駆け寄る。
「ザ・プラザで打ち上げやるからおいでって」
「で、行くって言ったのか?」アランは心配顔だ。
「そんなん、クスリだらけの打ち上げやろ?俺は行かへん」
アランは安心した。
二人して近くのダイナーで食事をしている途中、アランの携帯が鳴った。
「ジュリアン、どうした?ああ?!今から?無理だよ!」
「何、アラン?」
「お前がいないのが、アンソニー・キーディスの機嫌を損ねているらしい。
取材が出来ないんだそうだ、どうする?」
「ジュリアンが困ってるんやろ?行くしかないやん」
ダニーはD&Gのジャケットを引っ掛けて出かける用意をした。
複雑な表情で見つめるアラン。
「お前、あいつと寝たいのか?」
「そんなん、俺、グルーピーやあらへんもん。あり得ん!」
二人でザ・プラザに出向いた。ロビーでジュリアンが待っていた。
「恩に着る!とにかく、スイートに行ってくれよ」
二人が到着すると、グルーピー、バンド、その他大勢がひしめく大パーティーの真っ最中だった。
目ざとくダニーを見つけたアンソニーは「おぅ、来たな。ヒスパニック」と呼んだ。
「ヒスパニックやない、俺の名前はダニーや」ダニーは胸を張って自己紹介した。
「ダニーか、上の部屋に行かないか。飲もうぜ」
アランを見るとジュリアンと話している。
ダニーは、強引にアンソニーに手を取られて、上の階の部屋に上がった。
ベッドルームやん!ダニーは慌てた。
アンソニーはすでにジーンズの前をテントにしている。
グラスの飲み物を無理やり渡され、乾杯をさせられた。
ダニーは目の前にいるロック・ヒーローが、上半身裸になるのをじっと見ていた。
現実ではない気がする。頭がふわふわしてきて、全てがどうでも良くなってきた。
「いいブツだろ?効き目がすげーんだ」アンソニーの声がこだまする。
俺、何か、ええ気分や。え、アランはどこにいるんやろ?
「さぁ、お前の脱げよ、俺はその気だぜ」
アンソニーはジーンズを脱ごうとしている。
「俺、その、あの、恋人と来てるから・・」やっとの事で言葉が出た。
その時、ドアが勢い良く開いてアランが飛び込んできた。
「こいつか、恋人って、だっせーな。いいよ、もう帰りな」
二人は手をつないで階段を降りた。
ダニーは、家に帰るとアランにお灸をすえられた。
「なんで、上の階に上がったんだよ!」
「アンソニーに手を引かれてしょうがなくて行った。
だって、相手はロック・ヒーローやもん。断れなかった」
「全く、お前もしょうのない子だな」
アランはそうは言っても、ダニーが可愛くて仕方がないのだ。
二人でシャワーを浴びてアルコールやタバコの匂いを消す。
「アラン、ええ香りになったで」「お前もだ。あがろう」
二人で全裸のままベッドに入る。
手をつないでいるとシラフになったダニーが謝ってきた。
「今日はほんまゴメン!俺、マイアミ市警の試験に受かる前まで、ロックスターになりたかったんや。
だから、ロッカーにはめちゃ弱いねん」
「だからと言って、寝るなよ」
「うん、分かってる。寝ない」
ダニーが身体をばたんと倒してきてアランの上に乗っかった。
「おいおい、急にどうしたんだよ!」
「アランが好きや!それを知らせたかっただけ」
二人はキスを交わした。
ダニーの舌がアランの歯茎を愛撫し、二人の舌が絡み合う。
「アラン、この胸の赤い跡、何?」ダニーに見つかった!
「ああ、どこかにぶつけたようだ」
「ふーん、そうなん?俺の他に恋人がおるとか、ないよな?」
アランの胸がチクと痛んだ。
「あぁ、ない!そんな暇があると思うかい?この子の世話をするのに僕は一杯一杯だ」
ダニーの髪の毛をくしゃっとする。またキスをせがむダニー。
ダニーは自分のペニスを扱きたて屹立させた。
「今日は、俺が入れてもええ?」
「あぁ、来てくれ」アランが期待で甘い息を漏らす。
マンゴーローションを手にとって、アランのアヌスに塗ると、するっと中に人差し指を突っ込んだ。
「んんっ!」突然の攻撃にアランが反応する。
中指も合わせて差込み、中を探るダニー。
「アラン、中がひくついてるで。欲しいん?」
「ああ、お前の熱くて固いあれが欲しいよ」
「まだや、中をもっと探らなにゃ」
ダニーの指はアランの奥深くまで入り込み、すみずみまでねぶった。
「あぁ、ダニー、だめだ、もう出てしまう!」
アランは、そのままシーツめがけて射精した。
「待っててくれへんかったん。俺もイクで」
ダニーはやっと、屹立しきったペニスをアランの中に入れた。
抜き差しをゆっくり繰り返す。
「じらさないで、早く、お前をくれ!」アランが懇願する。
「うぅ、アラン、締めて!」ダニーが言葉を発した。
アランが括約筋を収縮させると、ダニーは唸った。
「イクで!」「あぁ!」ダニーがアランの中に果てた。
ダニーとマーティンは帰りにダイナーで軽く食事をしてからジムに行った。
二人がウォーキングマシンを使いながら話していると、マーティンがふと黙り込んだ。
「どうした?」
ダニーが視線の先を見ると、アーロンがウェイトマシンを使っていた。
「心配ない、オレが意地悪なんかさせへん」
「ん、ありがと・・・」
こんなに心配してくれてるのに、あいつにキスされたなんて言えないよ・・・
気を遣ったダニーはマーティンをプールに誘った。
ダニーは背泳しながら今日の事件のことを考えていた。
いつのまにかキックするのをやめ、水にプカプカ浮いただけの状態になる。
水死体ってこんなんやろか?ぼんやりしていると顔に水を掛けられた。
「うわっ!」
慌てて立つとアーロンがプールサイドに座って水を蹴っていた。
「ダニー、何やってんの?」
「アーロンか!いきなり水掛けるな、びっくりするやろ!」
ダニーもお返しに水を掛ける。アーロンは笑いながらプールに入ると本格的に水を浴びせた。
マーティンは、本気で水の掛け合いをする二人を無視して黙々と泳いでいる。
ターンして戻ると、こっちを見ているアーロンと目が合った。
にんまりしながら笑いかけてくるが、知らん顔で横を通り過ぎる。
「ダニー、もう上がろう」
「あれ、もうええの?いつもより少ないやん」
「いいんだ、早く」
マーティンはダニーを促すとすたすた歩き、さっさとシャワールームに行った。
シャワーを浴びて出てくるとアーロンが待っていた。
「マーティン、この前は悪かった。ごめん」
「謝らなくていいからさ、僕に話しかけるのやめてくれない」
「それは失礼。この前忘れ物しただろ、知ってた?」
何のことだかわからず、マーティンはきょとんとした。
「ネクタイ忘れてるよ、ポール・スミスの・・思い出した?」
それって、ダニーにもらったやつだ・・・マーティンは青ざめる。
「いつでも取りに来て、それじゃ」
ダニーが出てくるのが見えたので、アーロンはすばやく姿を消した。
帰りにいつものようにジュースバーに寄り、バナナミルクとシトラスミックスを飲む。
マーティンはネクタイのことが気になってぼんやりしていた。
知られる前に取りに行かなくちゃ、ダニーに嫌われちゃう・・・
ダニーはマーティンが凹んでいるのに気づき、いろいろと話しかける。
「この前ここでトロイと会うた時、あいつ青汁飲みよってな、こんな顔してたで」
しかめっ面を真似るダニーにマーティンは爆笑した。
「スチューは健康オタクだもん、ヘンなのばっか飲んでるよ」
「まあ、医者やからな。オレはこれで十分や」
ダニーはバナナミルクを飲み干すと欠伸をした。
マーティンのアパートに帰ったが、ダニーは眠くてたまらない。
歯磨きをすると早々とベッドにもぐりこみ、すぐに眠ってしまった。
マーティンはベランダで風に当たりながらため息をついた。
6ブロック先のアーロンのアパートを恨めしそうに眺める。
明日の帰りに取りに行こう、ネクタイ返してもらってすぐに帰るんだ・・・
あーあ、他のネクタイなら行かなくても済んだのに・・・・
心底憂鬱でたまらない。そっと窓を閉めてベッドに入ったが、なかなか寝付けなかった。
アランがトムに呼び出され、アパートに向かっている時、
マーティンがトムの家から出てくるのを目撃した。
車を駐車場に停めて、トムの家のチャイムを鳴らす。
「よう!」いつもと変わらぬトムの様子だ。
「今、マーティンを見た気がしたが、気のせいかな?」アランが尋ねる。
「あぁ、来ていたよ。俺、あいつと寝てるんだ」
「な、何?」アランは自分を抑えきれない程動揺したのを感じた。
「何だよ、俺が誰と寝ようとお前は関係ないんじゃないか?
お前は大事なダニーにしか関心がないんだから」
トムが意地悪そうな顔でアランを見つめる。
「でも、マーティンはダニーの親友だぞ、親友と寝るというのはな・・」
「何だ?お前、どうしたんだよ、いつもの論理的なアラン・ショアはどこに行った?」
「要するにだ、何で寝ているんだよ!」
「あいつのマゾヒストの性癖の治療のためだ」
「お前があいつのセラピストか!」
「何だよ、異存があるのか?」
「・・・・」アランは議論を終わらせた。
だが、自分の胸が痛んだ事実がショックでならない。
「マーティンが急に着たから、無駄なエネルギー使っちまったよ。
何か食いに行こうぜ」二人は、カッツ・デリカテッセンで食事をした。
「お前が俺に妬くとはな!」トムが快活に笑った。
「妬いたとは言ってない」
「お前の顔に書いてあったぜ」トムが嬉しそうな顔をしている。最悪だ。
アランは話題を変えた。
「あいつの恋人が俺の患者なんだよ、意見交換しないか?」
「守秘義務関係なくか?」
「ああ、あのPTSDは僕もどうしたらいいか分からない」
「ああ、そうだな、相当、根深い」
アランは安心した。最後にはどうやらプロの医師同士らしく話が出来た。
デリの前で別れる。
「今度はお前を思う存分蹂躙してやるからな!」
「何でも言ってろ!」
アランは午後の診療に戻り、トムは夜勤の準備に家に戻った。
「ただいま!」ダニーが定時に帰ってきた。
「ええ匂い!チリボールや!」
「お前の大好物だろ、沢山作ったよ。バゲットもあるしトルティーヤもある」
「最高!シャワーしてくるわ」
トムと関係を持って以来、この関係がなぜかマスカレードのような気がして仕方がない。
でも自分が大切なのはダニーしかいない!アランは自分に言い聞かせた。
メキシカンチリをボールによそって、ダイニングに並べながら、アランは考え事をしていた。
「アラン、俺、ビール!」ダニーがシャワーから出てくるなり言った。
「甘えん坊だな、自分で取りなさい」
ダニーはバスローブだけ羽織ってビールを取りに来た。
「着替えてくるんだ」「うん」
まるで子供だ。やっぱり一番愛おしい。この幸せを脅かしているのはトムだ。
そのトムに自分が嫉妬した今日の心の動きに、アランはまだショックを覚えていた。
マーティンは、仕事の帰りにアーロンのアパートへ行った。
クリスマスにダニーからもらったネクタイなので、失うわけにはいかない。
覚悟を決めると勇気を出してインターフォンを押した。
「はい」
「あ、マーティン・・」
「どうぞ、入って」
ロックが解除され、ドキドキしながらエレベーターに乗って36を押した。
「マーティン、会いにきてくれるなんてうれしいよ」
「あのさ、僕のネクタイ返してくれる?」
「ああ、もちろん。中に入りなよ」
マーティンが突っ立っているとアーロンは笑い出した。
「何もしないよ、この前は悪かったね。さあ、入って」
マーティンは警戒しながら中に入った。
リビングのテーブルの上に設計図が広げてあった。
マーティンはまじまじと見つめる。
「ごめん、散らかってるけど気にしないで」
「それ、シンメトリーじゃないね。わざと?」
「ああ、僕はシンメトリーが嫌いなんだ。あんなの退屈だろ」
アーロンはがさがさと設計図を隅にまとめた。
「よかったら今まで建てた建物のパネル見る?」
「ん、見たい」
マーティンは仕事部屋に案内してもらい、壁に飾られているパネルを順番に見た。
アーロンは一枚一枚丁寧に説明してくれた。
真剣にパネルに見入るマーティンに、アーロンはさりげなく背中に手を回す。
腰の辺りまで手を下ろしたが、夢中になっているマーティンは気づかない。
「ねぇ、君は本当にヘテロ?」
突然尋ねられて思わず硬直する。「・・そ、そうだけど?」
「ダニーが知らないだけで、本当はバイかゲイなんじゃないの?」
「違うよ!僕はそんなんじゃない!」
マーティンは慌ててアーロンから離れた。
「もう帰るから僕のネクタイ返して」
アーロンはついて来いと手招きし、マーティンは一緒に取りに行った。
「君のネクタイはここだ」
マーティンはいきなりベッドに押し倒された。アーロンは強引にキスをする。
「やめろよ、離せったら!」
マーティンは暴れたが、がっちり押さえ込まれて動きを封じられている。
キスされて思わず勃起してしまい、アーロンに気づかれてしまった。
「僕のキスで感じてるんだ?」
「違う、そんなことあるもんか!早く離れろよ!」
アーロンは膝でペニスの上を擦る。執拗に擦られ、思わず喘いだ。
「もっとかわいい声を聞かせてくれよ」
必死に抵抗するがベルトを外され、勃起したペニスが露になった。
先っぽがぬるぬるしていて感じていたのが丸わかりだ。
アーロンはペニスを咥えながらアナルに指を入れた。
「やっぱり!僕の思ったとおりだ。君は本当はどっち?」
「やめろよ!」
「本当は欲しいんだろ?欲しくてたまらないって感じだ」
アーロンはアナルを弄くりまわし、指を出し入れさせる。
「バカっ・・っ・ぁん・やだよ・」
このままでは射精してしまう、自然と目が潤んだ。
「泣くほどいいの?その顔、すっごくそそる」
アーロンはゆっくりと自分のペニスをもぐりこませた。
容赦なく腰を振られ、マーティンは感じてしまう。
「あぁっ!っ・・やだ・・・ひっ・うぁっ!」
じっと見つめられ、絶妙な腰使いにそのまま果ててしまった。
「すごい、感じまくってひくついてる・・ああ、イキそう」
「嫌だっ、中には出さないでっ!」
アーロンは中出しせずにイク瞬間ペニスを抜いた。
マーティンはアーロンの体を押し退けると無言で立ち上がった。
付着した精液を拭おうともせず、急いで服を整える。
「早く返せよ!」
アーロンは黙ってクローゼットからマーティンのネクタイを取り出した。
「ごめん・・・」
ひったくるように奪い返すとアパートを出た。泣きたくなったが、ぐっと涙をこらえる。
とぼとぼ歩きながら自分のアパートを見上げると、灯りがついているのが見えた。
ダニーが来てる・・・こんなんじゃ会えないよ・・・
他にあてもなく、仕方なくボスに電話した。
「マーティン、何か用か?」
「ボス・・・僕・・」
「どうした?今からオフィスを出るところだ。お前は?」
「僕は・・家の近くだけど入れなくて・・・」
「うん?よくわからんがイーライズの前で待ってろ。帰りに拾ってやる」
「・・はい」
ダニーに心の中で謝りながら、自分のアパートに背を向けて歩き出した。
ダニーは久しぶりにマーティンを夕食に誘った。
マーティンの好きな回転寿司屋に入る。
マーティンは席に座るやいなや、2皿取って目の前に並べていた。
「お前さぁ、乾杯とかする気ないん?」
ダニーの言葉に恥ずかしそうな顔をするマーティン。
「だって、このトロとサーモン、僕を誘っていたんだよ」と言い訳する。
冷酒が来て、乾杯する二人。マーティンは猛然と皿を取り始めた。
「お前、毎日何食ってるん?」
「え、ピザと、ハンバーガーと、ピザ・・」
「そんなん胃に悪いもんばかりやん。また家に来て食事するか?」
マーティンはしばらく考えていたが「遠慮しとく」と言った。
「アランが腕ふるうと思うで。お前の事好きみたいや」
「うそ、そんなのあり得ないよ!」マーティンは否定した。
マーティンはウニとアワビを取った。
「お前、そんなキショイの食うの?」
「日本じゃ高級食材なんだって、ニックが言ってたよ」
余計に気分を害したダニーはハマチやカリフォルニアロールを食べていた。
冷酒も効いてきた二人は、この後、バーに行くことにした。
ミッドタウンのブルー・バーに繰り出す。
ダニーと顔なじみのバーテンダーがカウンターの隅の予約席を空けてくれた。
「サンキュ、名前聞かせてくれへん?」ダニーは初めて話しかけた。
「エリックです。エリック・サンチェス」
「仲良さそうだね」マーティンがじとっと見つめる。
「仕事の後、ここばっかり寄るからな」
例によって、オーダーしていないのに、生ハムとアンティチョークのカナッペが出た。
「ふーん、VIPなんだ」マーティンは面白くない。
「お前、そういうの止せよ、俺、浮気はもう、なしなんやから」ダニーは告白した。
「じゃ、今はアランと僕だけなの?」
「そうや。女としたのがいつだったか忘れてもうたわ」
マーティンが少し笑った。
「僕もニックとダニーだけだよ」トムの事は絶対に秘密だ。
「そうか。俺たち、すっかりヘンな関係になってしもうたな」
「でもこの先さ、うまく行く事が出来るかもしれないじゃん」
「お前って時たま、すごい楽天家な」
「だって悲しい事ばっかでしょ。仕事だって」
「そうやな」二人は静かにドライ・マティーニを飲んで過ごした。
「お前んとこ寄ろうか?」ダニーが気遣いを見せた。
「ううん、大丈夫。あさって、ニックがパーム・スプリングスから帰ってくるんだ」
嬉しそうに語るマーティン。ダニーの胸はチクチク痛んだ。嫉妬?
俺、猛然とホロウェイに嫉妬してる。
今、ここで会ったら一発二発お見舞いしていそうだ。
「分かった、じゃあ、タクシーシェアしよ。」
二人はチェックを済ませ、タクシーに分乗した。
マーティンを送って、タクシーから降ろす。
「じゃあ、またね。食事楽しかったよ」
ダニーは、マーティンの様子がカラ元気のような気がして仕方がなかった。
イーライズの前で待っているとボスが来た。
「何か買っていくか?」
「・・いらない」
「どうした?ダニーかドクター・バートンとケンカでもしたか?」
マーティンは黙って首を振った。ボスはそれ以上聞かずに車を出した。
「ねぇ、今夜泊めてくれる?」
「ああ、もちろんだとも。パパと帰ろうな」
ボスはマーティンの肩を掴むとうれしそうに揺さぶった。
マーティンはボスの家に着くとダニーの携帯に電話した。
「あ、僕だけど・・今日ボスんちに泊まるから」
「えー、オレ、お前が帰ってくるの待ってたのに・・・そや、オレも行こか?」
「ううん、いい。僕一人で平気」
「なんかあったら電話して来いよ」
マーティンは電話を切った後、わなわなと携帯を握りしめた。涙が頬を伝う。
ボスにバスルームを借りるとシャワーを浴びながらしくしく泣き続けた。
ダニーは作りかけのパエリアとブルーミンオニオンを前に途方にくれた。
あいつのために作ったんやけどなぁ・・・・
がっかりしてサングリアを飲みながら、だらだらと料理を続けた。
突然インターフォンが鳴り、びくっとする。
他人の家なので勝手に出るわけにいかない。息を潜めていると携帯が鳴った。
トロイと表示されている。ダニーは小躍りしながら電話に出た。
「はい、テイラー」
「あ、オレ。お前、マーティンと一緒?」
「いいや、あいつはボスと仕事や。お前はどこにいてるん?」
「オレはマーティンのアパートの下」
それを聞いた途端、ダニーは思わず爆笑した。
「オレ、今マーティンの部屋の中。もう一回鳴らしてみ、下のロック開けたるわ」
ダニーはいそいそとドアを開けて出迎えた。
「なんかいい匂いがするな、オレ腹ペコなんだ」
「ちょうどよかったわ、あいつの分が無駄になるとこやったから」
「マーティンだけ仕事なのか?」
「ああ、今夜は支局に泊まりや。帰って来いひん」
嘘をついたダニーは料理を取りにキッチンに戻った。
二人はサングリアで乾杯すると食べ始めた。
「これもお前が?」
スチュワートはブルーミンオニオンとダニーを交互に見ながら訝る。
「そうや、36等分したんや。上手いやろ?カリカリやで」
ダニーは得意気にニヤリとした。
「まったく、お前には呆れるよ」
軽口を叩きながら、二人の食事は楽しく進んだ。
マーティンのベッドでキスをしていると後ろめたさでドキドキする。
二人は前戯のキスを交わしたものの、体を離した。
「・・あいつのベッドでするのってどうも気が引けるわ」
「ああ、3Pだと抵抗ないんだけどな」
「普通に寝よ」
「普通に寝よう」
同時に同じことを言った二人は吹き出し、拳をガツンと合わせると目を閉じた。
「やっぱりオレは帰るよ。このままじゃ眠れない」
しばらくしてスチュワートが起き上がった。
「それやったらオレも一緒に行きたい」
「お前はここにいてやれよ、帰ってきたときにマーティンが困るだろ」
渋々頷くダニーにキスすると、スチュワートは帰っていった。
マーティンはボスのベッドで丸くなっていた。オヤジ臭も気にならないぐらいへこんでいる。
ボスは添い寝しながらマーティンに話しかけた。
「なぁマーティン、バター犬ってどう思う?DVDでよくやってるだろ」
「え・・やめなよ、咬まれたらどうするのさ」
「そうだな、それもそうだ、咬み切られたら大変だもんな」
「そうだよ、絶対にやめたほうがいいよ」
マーティンがくすっと笑うとボスが抱きしめた。
「お前、やっと笑ったな。そんなバカなもん、私が本気で飼うわけないだろ」
「どうだか、ボスは怪しいよ。だって・・・」
変態だもんと言いかけてマーティンは口を閉じた。
「だって何だ?」
「何でもない。それよりさ、ヨークビルの怪の続きが知りたいよ」
「よしよし、あれは怖いぞ、もっとこっちにこい」
ボスは声音を変えて怖い話を語り始めた。
マーティンは大して怖くなかったが、ボスにぎゅっとしがみついた。
ニックが戻ってきた。空港からオフィスにいるマーティンに携帯がかかる。
「おかえり!仕事、どうだった?うわぁすげー。今日は祝杯だね、迎えに来て」
サマンサが電話を聞いていて驚いている。
「信じられない!彼女に迎えに来さすの?」
マーティンは焦った。
「まぁね、今日は僕、残業しません!」
チームに宣言してマーティンはPCに向かった。
ダニーの心は複雑だ。ニックはマーティンのセックスをどう処理しているんだろう。
自分には応じられないマーティンの要求に応じてるんやろか?
ぼうっと考え事をしてしまい、ヴィヴィアンに注意された。
定時を待って、あっという間にマーティンは消えた。
「今の彼女ってどんな子?マーティンがあんなに一生懸命なんて珍しいよね」
サマンサがため息をついた。一度は自分も狙っていたお坊ちゃまだ。残念でならない。
「よく知らん。俺も帰るわ。お先」
ダニーは地下鉄で72丁目まで上がり、アランの家に戻った。
「ただいま!」アランは電話中だった。
「それで、ボーカルがうちの子目当てだって気が付いていたのか?
え、バイなのは知ってた?おう、怒っているとも。ともかく取材できてよかったな。またな」
どうやらジュリアンとの電話のようだ。
「ジュリアン?」
「ああ、謝罪の電話を入れてきたから、怒ってやった」アランはかなり本気の様子だ。
ダニーはにやにやした。俺のために他人を怒るアラン。家族や。これって、家族に違いない。
「何、にやついてるんだ、お前も反省しろよ!」
「はーい!」いい返事をして、シャワーを浴びに行く。
アランは俺の家族!
ダニーは嬉しくてたまらず、鼻歌でレッチリの「Universally Speaking」を歌った。
翌日、アランは、デザイナーのビル・トレバーから電話を受けた。
「ねぇ、何があったか知らないけど、ダニーと二人して、あたしのアトリエに来て!
秋冬のコレクションが揃ったのよ。ジュリアンがプレゼントするって」
「あぁ?お前の服、前衛的過ぎるからなぁ」アランが困った顔をする。
「大丈夫、ビジネスラインを始めるのよ。あんたたち二人にぴったりのスーツがあるの!
もうアルマーニもゼニアも買わせないから。秘書にアポとってね」
しゃべるだけしゃべって、ビルは電話を切った。
ジュリアンのせめてもの償いの意味だろう。
ダニーに話すと顔を少ししかめた。
「俺、ビル、苦手やねん」
「いいじゃないか、僕らに似合うスーツがあるらしいぞ」
「アランが行くなら、俺も行くわ」
今週の土曜日にビルのアトリエに行くことにした。
「ビルの服って幾ら位?」
「一着5000ドル位かな?」
「ひえぇ、俺そんなの着られへん」
「ジュリアンのお詫びだよ。見に行くだけでも」
アランはダニーの謙虚さが失われないのが、いつまでも好きだった。
子供の頃の苦労がしのばれる。施設で肩身狭く生きてきたからだろう。
同じ人種でも、ジャックとは明らかに違う。
アランは一層、子供の頃の分まで幸せにしてやろうと思った。
ボスは青白い顔でぴったりとくっついて眠っているマーティンを見つめた。
何も答えなかったが、昨夜は何があったんだろう?
それにしてもヴィクターにはもったいない息子だ。
パパと呼ばせているのは私なのに、こいつにパパと呼ばれるとついその気になってしまう。
ボスはマーティンを起こさないように体を離し、静かにベッドから出た。
マーティンが目を覚ますと、ボスがパンケーキを焼いていた。
「・・おはようございます」
「おう、おはよう。早く座れ、メープルシロップはそこだ」
ボスはぼんやり突っ立っているマーティンを座らせ、エスプレッソを淹れた。
「さあ、食べよう。私のは冷めたらごまかしが利かないんだ」
マーティンは小声でいただきますを言って一口食べた。
ダニーのには劣るけど、十分おいしい。
「これ、すごくおいしい」
「そうか、たくさん食べろ」
ボスはにっこりするとエスプレッソを啜った。
マーティンは着替えようとしてワイシャツに精液の染みがついているのに気づいた。
アーロンの乾いた精液が付着したシャツになんか腕を通す気になれない。
シャツを手にしたままどうしようかと悩んでいた。ボスが気づいて声を掛ける。
「おい、お前のアパートに寄るから早めに支度しろ。着替えないとからかわれるだろ」
「ありがと・・あの、ダニーに聞かれたらボスが誘ったって言ってくれる?」
「ああ、いいとも。安心しろ、私はお前の味方だ」
マーティンはボスに抱きつき、ボスもやさしく受け止めた。
「・・・僕、レイプされた」
ぎゅっとしがみついたままボスに告白する。
「女にか?」
「・・男、ダニーとも顔見知りの・・」
「そうか、それは災難だったな。もう忘れろ、ダニーには言うな」
ボスはマーティンのワイシャツを丸めてゴミ箱に捨てると自分のシャツを着せた。
「ほら、これでアパートまで我慢しろ。いつまでも女々しく泣くんじゃない」
よしよしと慰めたボスはマーティンの背中を押してアパートを出た。
ボスに送ってもらってアパートに帰ると、ダニーが着替えの真っ最中だった。
「おかえり、着替えやったら持っていったるのに」
「ん、ボスが下で待ってくれてるから。ダニーも一緒に行こうよ」
「オレはええわ、朝からボスはしんどい」
マーティンは内心ホッとしながら、ボスに借りたポロシャツを脱いで着替えた。
「そのシャツ、めっちゃおっさんくさいな。イケてなさすぎ」
「だって、ボスのだもん」
二人は笑うとキスを交わし、マーティンは先に部屋を出た。
ダニーはスターバックスでラテを買った。飲みながら店を出たところでアーロンに出会う。
「ダニー、おはよう。この前はどうも」
「こちらこそ、どうも」
「今日は一人?僕はマーティンにすっかり嫌われてるみたいだ」
「ああ、あいつな、まだ怒ってるんやろ。子供っぽいとこあるから」
「そうなんだ。またジムでね」
アーロンは軽く手を挙げるとスタバに入っていった。
ダニーが支局に行くとマーティンがPCでソリティアをしていた。
「お前、ほんまにゲーム好きやなぁ」
話している間もせわしなくマウスを動かすのに呆れる。
「そうや、オレ、さっきスタバでアーロンに会うた」
マーティンはギクリとして手を止めた。
「僕のこと何か言ってた?」
「お前に嫌われたって苦笑してたで」
「それだけ?」
「ん、またジムでってそれだけや」
よかった、あいつダニーに余計なこと言ってなくて・・・マーティンは頷くとソリティアに戻った。
「なぁ、水かけたぐらい許したりいな。かわいそうやん」
「嫌だ、僕はあいつが嫌いなの!」
あかん、こいつマジギレや。子供やなぁ・・・
マーティンの頑なな態度に、ダニーも諦めて自分の席に戻った。
マーティンはニックの逞しい胸に抱かれてベッドにいた。
昨日はセックスなしで、ハグし合いながら眠った。
ニックと寝るのに初めての事だ。
固くなったペニスが太股に当たっているのに、ニックはなぜ僕を抱かないんだろう。
ニックがセラピストに通っているとも知らず、マーティンは訝った。
もしかして、僕、捨てられちゃうのかな。飽きられちゃったのかな。
寝返りを打つと、枕を涙で濡らしながら明け方頃にやっと眠りについた。
朝、まぶたを腫らして起きるマーティン。
「おい、目が腫れてるぜ、どうしたんだよ?」とニックが気遣う。
「パソコンの見すぎかもしれない」
それだけ言うと、マーティンはシャワーを浴びた。
「今日は、俺、仕事ないから夕飯一緒に食おうか?」ニックが声をかける。
「うん、電話するね。事件があるかも知れないから」
マーティンは着替えると、タクシーで出勤した。
ビル内のデリで砂糖まみれのドーナッツを買って、コーヒーと一緒に流し込む。
「お前、えっらい体に悪そうなモン食ってんな〜」
ダニーが出勤してきて、ベーグルサンドをがっつく。
チキンとカッテージチーズ入りだ。どうせアランのお手製だろう。
「ほっといてよ!」
「はいはい」
ダニーはマーティンをからかうのを止め、カフェラテを飲みながら朝食を済ませた。
ボスがクワァンティコに出張しているせいで、皆リラックスして仕事をしている。
幸いな事に事件もない。マーティンは5時頃、携帯でニックと約束をしていた。
はん、ホロウェイが帰ってきたら、早速デートかよ!
ダニーはくさくさしていた。
帰りにまた、ブルー・バーに寄ってカクテルを引っ掛ける。
「今日はお一人で?」エリックが声をかけてくる。
「あぁ、野菜スティックもらえるか?」
ダニーはセロリをがりがりかじりながら、ブラッディーマリーを飲んでいた。
「このあたりでお仕事なので?」エリックが尋ねる。
「あぁ、毎日、ストレスたまる職場や。君はプエルトリコ?」
「いえ、キューバです。貴方は?」
「俺もキューバや」
「奇遇ですね」
「あぁ、それじゃ、ご馳走さん」
ダニーがカードでチェックを済ませると、エリックにコースターを渡された。
裏に電話番号が書いてある。ダニーはバーを後にした。
エリックの奴、俺をゲイと思ったんか?俺、もう浮気はしいへん!
しかしなぜかコースターを捨てられず、ジャケットのポケットに入れて、家に戻った。
アランは、ゴルゴンゾーラペンネとコッツェ・マリナーラを作って待っていた。
「飲んできたのか?」
「ちょっとだけや」
「そうか、着替えておいで」
いつもの二人の夕食だ。この幸せを手放したくない。
でも、ちょっとだけ窮屈なんや。
ダニーは相反する気持ちを抱きながら、皿一杯のムール貝を食べ始めた。
失踪した出張中の商社マンはホテル・エリゼーに宿泊していた。
ダニーは顔には出さないが、かなり焦っている。
モンキーバーへの聞き込みは捜査上絶対に外せない。
スタニックには自分がFBIだということを隠している。
寝ている相手に身元を明かすのは嫌だ。
「ダニーとマーティンはモンキーバーへ行け」
あちゃー、よりによってマーティンと聞き込みて・・・・
「ボス、バーはオレ一人で十分ですわ」
ダニーはそう言うとさっと席を立った。マーティンがじとっと見つめているが、気づかないふりをする。
「そうか、それじゃお前一人で行ってくれ」
あー、助かった、二人ともFBIやなんて知られたら最悪やで・・
ダニーは早速モンキーバーへ行って聞き込みを開始した。
「ダニー、こんな時間にどうしたの?」
うれしそうなスタニックに黙ってバッジとIDを見せると固まった。
「ごめんな、隠してて」
「ううん、ダニーってFBIだったんだね、すっげー」
「ああ、うん。それでと、昨日この男来いひんかったか?」
「うーん・・いや、僕は知らない」
「そうか、何か思い出したら携帯に電話してな」
他の従業員にも当たったが、誰も見覚えがなかった。
支局に戻るとマーティンが搭乗者名簿をチェックしていた。
「あかんわ、バーには手がかりなし」
「そう、こっちもお手上げだ。失踪する理由すらわからないよ」
二人が話しているとサマンサが戻ってきた。
「見つかったわよ!ERにひき逃げで似たような人相の男が運ばれてるって情報をヴィヴが確認したわ」
「生死は?」
「意識不明の重体、たぶんダメね・・・」
三人は言葉もなく、どんよりとした雰囲気のまま事後処理に当たった。
「マーティン、帰りにどっかで気晴らしに騒ごか?」
ダニーは勤務が終わると落ち込んでいるマーティンを誘った。
「ううん、今日は帰る。騒ぐような気分じゃないんだ」
マーティンは昨夜アーロンに犯されたショックで、とても気晴らしどころじゃない。
「ほなデリで何か買うて帰ろう。な?」
二人はゼイバースに寄っていろいろ買った。
マーティンがチョコやスナックをどっさり買い込んだが、ダニーは何も言わなかった。
アパートまで歩いていると、アーロンが前から歩いてくるのが見えた。
二人に気づいて手を振っている。
「マーティン、前からアーロンが来よった」
ダニーも手を振ったが、マーティンはそっぽを向いている。
「やあ、今日は二度目だね。ここ、僕んち。君たちもこの辺り?」
「ん、まあな」
ダニーは言葉を濁したが、マーティンは聞こえないふりをしている。
「マーティン、僕が悪かった。許してくれないかな」
アーロンは手を差し出した。ダニーがマーティンの腕をそっと小突く。
「もういいやん、許したり」
マーティンはさっと握手を交わすとすぐに手を引っ込めた。
「ありがとう。そうだ、ちょっと寄って行かない?」
断わろうとした矢先、ダニーの携帯が鳴った。
「ちょっと失礼」
ダニーは電話に出るため席を外した。
アーロンはマーティンに和やかに話しかけるが、マーティンはすべて聞き流している。
「昨日のこと、ダニーには内緒なんだね。君の体は最高なんだよって彼に教えたいな」
「ふざけんな!」
「やっと返事してくれた。嘘だよ、そんなこと言うわけないだろ」
そこへ電話を切ったダニーが戻ってきた。
「ごめん、オレら戻らなあかんねん、またな」
「残念だなぁ、それじゃまたね」
アーロンはマーティンにこっそりウィンクするとアパートへ入っていった。
「電話、誰から?」
「スタニック」
「その人と親しいの?」
「まあまあかな。お前、アーロンと何話してたん?」
「知らない。あいつが一人でしゃべってたけど、僕聞いてなかったから」
「ふ〜ん、まあ仲直りできてよかったやん」
マーティンはそれには答えず、二人はアパートまで歩いた。
部屋に入るなり、マーティンが抱きついてきた。
「うわっ!急になんや!」
「僕を嫌いにならないで!お願いだよ!」
マーティンは胸にしがみついたまま懇願した。
「あほ、嫌いになんかならへん、そんなん心配すんな」
ダニーは背中に腕を回して強く抱きしめた。
訳がわからないまま、マーティンが落ち着くまでずっと抱きしめていた。
マーティンはニックとトライベッカの「ランドマーク」に来ていた。
相変わらず、ニックはサングラスをはずせない。
「困ったぜ、撮影が一段落したんで、兄貴がLAに戻ってくる。俺は、また影武者かな」
苦虫を噛み潰したようにしゃべるニック。
この兄弟の確執は、兄弟がいないマーティンには全く分からない。
それも一卵性双子なのだから、なおさらだ。
「ニックだって新進気鋭のフォトグラファーでしょ、もういい加減にお兄さんと離れなよ」
「言うが易し、行うが難しだ。俺、ひきこもろうかな、この先1ヶ月、仕事を入れてないんだ。
もう今年の年収は250万ドルだからな。十分だよ」
マーティンは目を剥いた。
「250万ドルなの?すげー。僕の年収の何倍だろう?」
「過去の作品も売ったからな。お前のおかげだよ、ありがとうな、俺の幸運のエンジェルだ、お前は」
ニックはマーティンの髪をくしゃっとした。恥ずかしそうに下を向くマーティン。
「お前のそういうところが、プロのモデルと違うんだよな。あいつらは、体を切り売りしているから」
「ねぇ、ニック、今まで撮影したモデル、みんなと寝ていたの?」
ニックは言葉を濁した。
「今はお前だけだって言えば満足か?」
「うーん、そう信じたいよ」僕だってニックに内緒でトムと寝てるし。
「ナタリーとは?」一番気になる事を口にしたマーティン。
「企業機密だ」きっぱり答えるニック。
寝ていると確信したマーティンは、目からあふれてくる涙が止まらなくなった。
「おいおい、ここは公衆の面前だぜ、家に帰ってから続きを話そうな」
ニックは急いでチェックを済ませると、アウディー・クーペをヴァレット・パーキングから出してもらい、
マーティンを家に連れ帰った。
「ひっく、ひっく、そうだよね、ニックはバイだもんね、女とも寝るよね」
「今はお前だけだよ、本当だ。どうしたら信じてくれるんだよ」
ニックは乱暴にマーティンを抱きしめ、キスを繰り返した。
「じゃあ、僕と寝て!抱きしめるだけじゃなくて、ちゃんと抱いて!」
アランのアドバイスに背くが、ニックは今日はマーティンの言うがままのセックスをしようと決めた。
マーティンのスーツを脱がして全裸にする。
首輪を持ってきてマーティンにはめる。
それだけの行為で、マーティンはペニスを屹立させている。
「何して欲しい?」
「ぶって、噛んで、僕に跡を残して!」
ニックはその通りにした。
マーティンは挿入されると、自分のペニスの根元をきつく握り締め
「先にイって、ニック。僕は見届ける」とため息交じりに懇願した。
ニックは乱暴にマーティンの中で動き回り、マーティンの弱いスポットを突いてまわった。
「あぁ、もうイキそう!ニック、先に僕の中に来て!」ニックは中で果てた。
ニックの痙攣を感じると、マーティンは安心したように自分でペニスを扱いて、射精した。
これじゃ、まだ元に戻るには時間がかかりそうだ。
ニックは荒い息の中、考え込んだ。
ダニーがアパートに帰ると、トレーナーのロバートがいた。アランと二人でキッチンに立っている。
「何してるん?」思わずダニーが荒っぽい口調で尋ねる。
「ロバートは栄養士の資格を持ってるんだ。僕の体脂肪減らしに協力してくれている」
アランはもっともらしい嘘をついて、ダニーに背を向ける。
「ダニーは、食事前に少し運動しますか?」
ロバートに屈託のない笑顔で言われ、
「俺、今日、外回りでくたくたや。食事だけ一緒にしてもええか?」と断った。
何やねん、この二人、いつのまにか二人だけで会うてるやん!
ダニーは、ぷりぷり怒りながらシャワーを浴びにバスルームに向かった。
後ろを向くとロバートが立っていた。首筋に息がかかるように話しかける。
「怒ってるんでしょ?」
「少しな」
「ダニーって顔に感情が出ますよね、分かりやすい」
くくくっと笑ってロバートは出て行った。
俺の性分や、変えられへんわ!
ダニーはカラスの行水でシャワーを終えて、アディダスの部屋着に着替えた。
ダイニングテーブルにロバートが食事を運んでいる。
まぐろのタルタルステーキ、トウフサラダ、温野菜のソテーにワイルドライスだ。
「ロバートも家で食ってくん?」ダニーがトゲトゲしく尋ねた。
「お邪魔でなければ」ロバートは気にしない。
「もちろんだよ、なぁ、ダニー?」アランの言葉にダニーは驚いた。
仕方なく「うん、俺、腹減った」とだけ答えた。
3人の食事が始まった。ロバートは意外にも話題が豊富で飽きさせない。
今まで雇われた経験の中で、有閑マダムに全裸で誘われた件や、
サウナで初老の男性に思いっきり局部を握られた話など、後がつきなかった。
アランもダニーも大笑いする。
「トレーナーって大変なんやな」ダニーは少しロバートを見直した。
「で、将来は何になりたいん?」
ダニーの質問に「自分のジムを持つ事。沢山の人を健康にしたい。それが僕の夢かな」と答える。
照れ笑いする顔が天使のようだ。思わず二人ともぼぅっとなった。
食事も終わり、ロバートが帰り仕度を始めた。
「それじゃ、次の予約、お願いしますね。今度はお二人で」
最後の一言を強調してロバートは帰って行った。
ロバートが帰るやいなやダニーはアランに詰問した。
「いつから二人だけで会うてるん!?」
アランは正直に答えた。
「今日を入れて、2回目だ。食事内容とトレーニングを見てもらっただけだよ」
「ふぅーん、そうなんかな〜」疑心暗鬼のダニー。
「疑い深い奴だな、後で僕の裸を見るといい。無傷だから」
アランは苦笑した。
「わかったわ」
ダニーは一抹の不安と嫉妬心を胸の中にしまいこんで、キッチンの片付けを始めた。
マーティンは夕食を食べるとすぐベッドに入った。
心配になったダニーは横で添い寝しているが、
マーティンはダニーのシャツの裾をギュッと掴んで放さない。
「大丈夫や、ここにいてる。今夜は泊まるんやから心配ない」
ボスに変態プレイでも強要されたんやろか?
気になったが、とても聞ける状況ではない。
背中をぽんぽんとあやしていると規則正しい寝息が聞こえ始め、そっとベッドから出た。
マーティンは真夜中に目を覚まし、隣で寝ているダニーの背中にくっついた。
背中のくぼみに顔を押し当てていると涙が出てくる。
「うん?」
ダニーが後ろに伸ばした腕がマーティンに触れた。
「ん・・マーティン・・」
体の向きを変えて、しっかりと抱き寄せる。マーティンは身を委ねた。
「今、何時?」
「・・四時前。起こしてごめんね」
ダニーは大きな欠伸をした。
「おなか空いたんやったら何か作ったろか?」
「いい、このままじっとしていたい」
ダニーはすぐにまた眠ってしまい、マーティンは眠る気にもなれずただぼんやりしていた。
目覚ましで起きたダニーがリビングへいくと、マーティンがチョコをかじりながら熱帯魚にエサをやっていた。
ボスのように魚に話しかけている。ダニーが声を掛けるとびくっとして振り向いた。
「おはよう、あのさ・・今の聞いてた?」
「いいや、聞いたけど何言うてるんかはわからんかった」
「よかったー、聞かれたら恥ずかしいもん」
マーティンは照れくさそうに笑った。昨夜よりは大分落ち着いている。
「マーティン、土曜日に自然史博物館に行こか?」
「ん、行きたい」
「お前、オレにひっつくなよ。デートって思われたら困るんやから」
「わかってるよ、約束する」
指をクロスさせたマーティンはダニーにキスをした。
「それってトロイみたいやな。あいつ、いっつもそれするやん」
言った後でしまったと思ったが、幸いマーティンは気づいていない。
危ない、危ない、ボンにバレたらおしまいや・・・・ダニーはフーッと息を吐いた。
「ねー、そろそろ支度しないと遅れちゃうよ」
「そやな、一緒にシャワー浴びよう。オレが洗ろたろ」
ダニーはバスルームまでマーティンの背中を押していった。
バスルームでふざけたダニーはマーティンにおしっこを掛けた。
「汚いなぁ、やめてよ」
「うるさい、これもシャワーや。それにお前、喜んでるし!」
「バカ!」
ダニーは後ろから羽交い絞めにすると首筋に舌を這わした。
ボディソープでぬるぬるのアナルに指を入れる。
「マーティン、ええやろ?オレの入れたい」
ダニーはバスタブの縁に座ると、マーティンを上から座らせた。
耳を舐めまわしながら腰を掴み、下から突き上げる。
「んっ・・ダニィ、気持ちいいよ・・そこっ、すごくいい」
マーティンは自分からも腰を擦り付けた。
「そんなに動いたらあかんて・・うっ・・あっああ・・あかん、イキそうや」
ダニーは感じすぎて膝がガクガクしてきた。マーティンのペニスを扱きながら腰を動かす。
「出ちゃう・・あっあん・・イク!」
「オレも・・くっ・あっああー!」
二人はほとんど同時に射精した。ダニーはマーティンの体を抱きしめてぐったりしている。
「うー、めっちゃ気持ちよかった、倒れそうや。今日はずる休みしたいわ」
「何言ってんの!そろそろやばいよ、遅刻しそう!」
イッた余韻に浸る間もなく、二人はあわただしく体を洗い流すとバスルームを出た。
MPUは静まり返っていた。
2日前から捜査していた15歳の少女がレイプ殺人の餌食にされたのだ。
マーティンは自分の事のように胸を痛めていた。
フランスで、もしかしたら同じように死んでいたかもしれない自分なのだ。
そんな時、ケンがオフィスに現われた。紙袋を持っている。
「はぁい!マーティン、今日はいい知らせだよ、まずこれね!」と紙袋を渡す。中がほかほか温かい。
応接室に入ると、「フランスの変態野郎が、アフリカのアレクサンドリアで捕まったよ。
今度はイギリス人を誘拐してた。彼も無事に確保出来たって。捜査にご協力ありがとう!」
「よかった、本当に。もうあんな奴ら、死刑になればいい!」
「これまでの殺人との紐付けはこれかららしいけれど、無期懲役は確定だろうね。言いたかったのはそれだけ」
ケンはじゃあねっと言って帰っていった。
マーティンは席に戻って、紙袋を開ける
「??ダニー、これ、何だか知ってる?」魚型をしたドーナッツだ。
「何やろな、クリームのええ匂いがするわ」
サマンサも興味深々だ。「一匹頂戴!」そう言うと、頭からがぶりとかぶりつくサマンサ。
「うわー、サマンサ、残酷やな!」
「え?いいじゃない。クリームが入ってて美味しいわよ!」
マーティンが携帯でケンに正体を聞く。
「ふぅん、タイヤキって言うの?ありがとう。もうサマンサが一匹食べちゃったよ。じゃ、またね」
「日本の伝統的なお菓子なんだって。本当は豆のジャムが入ってるらしいよ」
「俺も食べる」ダニーがしっぽを少しだけかじった。
「男ならがぶりといきなさいよ!」
サマンサにけし掛けられたが、しっぽから少しずつ順繰りに食べるダニー。
「うん、こりゃ、いけるで。マーティン、食べ」
マーティンは、じっと眺めていた。
「マーティン、食べないの?」サマンサが尋ねる。
「だって、可愛そうじゃん」
「バカね、ケンはお菓子だって言ったんでしょ、食べられてこの子達も幸せよ」
サマンサはコーヒーを注ぎに席を立った。
「女って残酷やな」ダニーはあきれ返った。
マーティンは結局、食べる事が出来ず、紙袋に戻して、家に持ち帰ることにした。
でもお陰で、陰惨な事件の事を少し忘れる事が出来た。
報告書は翌日上げることにして、チームは三々五々帰宅する。
ダニーは何となく元気がないマーティンを誘って「ベメルマンズ・バー」に寄った。
エリックから電話番号を手渡されて以来、「ブルー・バー」に寄りにくい。
マーティンと一緒の時はなおさらだ。
「ケンがね、僕を誘拐した人が逮捕されたって教えてくれた」マーティンが話し始めた。
「よかったやん!おめでとう!」
「うーん、そうなんだけどさ、僕、あんなセックスしか出来ないし、もうダニーと寝られないと思うとさ、
あの過去を消し去りたいよ」
マーティンは、シャンパングラスを眺めながら呟いた。
「でも、カウンセリング通ってるんやろ?」ダニーが尋ねる。
「うん、でも、僕が我慢出来ないんだよね」マーティンが自嘲的に告白する。
それってニックとあんな暴力的なエッチをしてるって事やな!
ダニーはそれを受け入れられない自分を呪った。
この先、マーティンと寝られへんやないか!
「今日、お前んちに行こか?」「え?」
「お前んちに行こ!」
ダニーは決心して、チェックをバーテンダーにお願いした。
久しぶりのマーティンのベッドだ。ダニーが枕に顔を押し付けるとマーティンの匂いがした。
マーティンがおそるおそる、ダニーの隣りに横たわる。首の周りに赤い線がついている。
「これ、何?」「あ、首輪の跡。噛み跡とか沢山あるから、驚かないでね。」
マーティンは背中を向いた。消えきっていない鞭の跡に混じって、真新しい傷跡が無数にある。
「ホロウェイの野郎!今度会ったら絶対にしばく!」ダニーは舌打ちした。
「僕が頼んだ事だから、ニックに罪はないよ」
ダニーは後ろから優しくマーティンを抱きしめた。マーティンは震えている。
「俺のやり方で抱くからな、お前が感じへんかったら、俺たちもう無理かも知れんな」
「そんなの嫌だよ!ダニー、僕を捨てないでよ!」マーティンは嗚咽を始めた。
ダニーは背中をさすりながら、マーティンを落ち着かせた。
「じゃあ、ローション塗るで」自分のペニスとマーティンのアヌスに念入りに塗る。
ローションを塗られただけで、マーティンが甘いため息を漏らす。
こいつ、前よりえらい感じやすくなってん。ダニーは驚いた。
静かに指を入れて、中をなぶる。「うぅぅん、いい感じがする、ダニーの指」
指を抜くと今度は固いペニスを挿入する。それもソフトに少しずつだ。
マーティンが思わず自分から腰を動かし、ずぶりと奥まで入れた。
「あぁん、ダニー、動いて!僕、自分で動いちゃうよ・・」
ダニーは抜き差しを始めた。優しい癒しの行為だ。
すると、マーティンがまた自分でグラインドさせ、摩擦を多くする動きをとる。
「あぁ、アカン、そんなんされると、俺もたへん・・」
ダニーは、マーティンがイクのを待たずに先に果てた。
マーティンはダニーの体重を背中で受け止めて、自分もシーツに射精した。
マーティンは泣いていた。「何だか、前の僕に戻ってきたみたい・・」
ダニーは、まだ違和感を覚えていたが、叩いたり、噛んだりすることなく
二人でイク事が出来たのが満足だった。
「俺ら、まだ大丈夫そやな」ダニーは仰向けになって、天井を見つめた。
マーティンはあふれる涙をダニーの肩にすりつけて、泣き続けた。
ダニーがクリニックの受付でジェニファーと話していると、
入り口を見たジェニファーがあからさまに嫌そうな表情を浮かべた。
「どうしたん?」
「ドクター・バートンのお父さん・・私、あの人苦手なのよね」
ジェニファーはため息をつくと、内線でスチュワートに父の来訪を伝えた。
慌てて診察室から出てきたスチュワートは、まずダニーを見て驚き、次に父を見て顔をしかめた。
「ようスチュー、金がなくなった。小切手くれ」
え・・金て、なんやこのおっさん!トロイの親父なんやろ?
いきなり金の無心をするスチュワートの父にダニーは唖然とした。
ダニーをちらっと見たスチュワートは無表情のままだ。
「まだ仕事中なんだ、そこで待ってろ」
「お前が小切手をくれたら帰るさ、早く渡せ」
「今はダメだ、診察中だと言ってるだろ。テイラー捜査官、具合が悪いのか?」
「え、いや、オレは晩メシに誘いに来ただけや」
「そうか、それじゃ待っててくれ」
スチュワートはジェニファーに帰っていいと告げ、診察室に戻っていった。
ジェニファーが帰り、ダニーはスチュワートの父と二人っきりになった。
「捜査官って、またFBIか?」
「ええ、そうっす」
「この前うちにも来てたな、副長官の息子とやらが」
マーティン、あいつの実家に行ったんや。そんなん聞いてへん・・・
「スチュワートもFBIに入る気か?あいつがFBIなんかに入ったら稼ぎが悪くなる。そうだろ?」
失礼なおっさんやな・・・ダニーはムッとして無視した。
しばらくすると患者とスチュワートが出てきた。
お大事にと言って見送ると、父親と向き合う。
「来月分まで送金したはずだ」
「もうないんだよ、飲んじまった」
「いい加減にしろよ、いくら飲んだら気が済むんだ!」
「エドワードは優しい子だった。あの子が生きてたら酒なんて必要なかった」
スチュワートの父は大げさに鼻をすすってみせた。
スチュワートはうんざりした顔で小切手を切った。
「今月はこれで最後だ、わかったな」
「たったのこれっぽっちか?」
不服そうな父親は、礼を言うどころかまたエドワードの話を持ち出した。
エドワードの話に傷ついたのかスチュワートは下を向き、ダニーは黙っていられずに口を挟んだ。
「バートンさんねぇ、いまあんたの生活支えてんのはエドワードやない、スチュワートや。そんなこともわからへん?」
スチュワートの父のキッと睨みつける視線にも動じず、ダニーは続ける。
「もうちょっと感謝したってもいいんちゃう?スチュワートに礼ぐらい言うたらどうや。
まあ間違いなく言えるんは、オレやったら1セントもやらんちゅうことや」
スチュワートの父は憎々しげに唇を噛みしめると荒々しく出て行った。
ダニーは言い過ぎたと思って謝ったが、スチュワートは黙って首を振った。
お互い話すこともないまま車に乗る。しばらくするとスチュワートが手料理が食べたいと言い出した。
「ええよ、スチューが食べたいもん言うてみ」
「そうだな、臓物たっぷりのソウルフードがいいな」
「ええっ!オレ、そんなん触るの嫌や!」
「嘘だよ、スチューって呼ぶからからかったのさ」
スチュワートは躊躇いながらダニーの手に触れた。驚いたダニーが顔を上げる。
ダニーも何も言わないままそっと手をつないだ。
フェアウェイで食材を買ってブルックリンのアパートに帰ると灯りがついていた。
マーティンがいると察した二人はそっけなく離れて中に入る。
「ただいま、マーティン」
「おかえり、遅かったね。あれっ、スチューも一緒なの?」
「ああ、君んちの前で会ったんだ。たぶんここに来てるって聞いたから一緒に来た」
スチュワートはよどみなく嘘を並べる。
マーティンは疑うこともなく頷くと、おなかが減ったと言った。
「すぐに出来るからトロイとTVでも見とき」
「ん、わかった。スチュー、ディスカバリーチャンネル見ようよ」
二人をリビングに残し、ダニーはキッチンにこもって料理に取り掛かった。
野菜を洗っているとスチュワートが入ってきた。わざとらしく冷蔵庫をのぞきこんでいる。
「テイラー、この展開に怒ってる?」
「いいや、お前は?」
「オレも。お前が怒ってなくてよかった」
スチュワートはにんまりすると、すばやくキスしてリビングに戻っていった。
ダニーは本当は残念だったが、今夜のスチュワートにはマーティンが必要だと思って考え直した。
ダニーとアランは、ビル・トレバーのアトリエにいた。
ビルが二人を熱烈なキスで歓迎してくれる。
「親友に最初のビジネスラインを着てもらうのって最高ね!」
ビルはダニーには茶系のスーツ、アランには紺系のスーツを用意していた。
色はシックだが、それぞれストライプがきっちり入っていて、かなり派手だ。
「やっぱり、派手やろ、俺、オフィスで浮きそうや」
「大丈夫よ!ネクタイをシックにすれば問題なし!」
アシスタントに二人の採寸を任せ、
「それじゃ、出来上がりは1ヵ月後だから、お楽しみにね!
あたし、これからショーの打ち合わせだから」とアトリエから出て行った。
「相変わらず忙しい奴だな」アランは苦笑する。
そんな時、アランの携帯が鳴った。
「トムか、何だい?」アランの顔が見る見るうちに険しくなる。
ダニーは不思議そうな顔で見守っていた。
電話を切ると、「ダニー、家に帰ろう」と行って、アトリエを後にした。
「どしたん?トム、何やて?」
「それは、お前の胸に聞いてみろ」
それだけ言って、アランはジャガーをアパートの駐車場に入れた。
アランに手を取られてアパートまで帰る。
「なぁ、どうしたん?話してくれなきゃ、俺、分からへん」
「お前、マーティンと寝たんだってな」
「え?そんなんないで」
とっさに嘘をつくダニー。アランの砂色の目が冷たい。
「この間、泊まった日か?え、どうなんだ!」
アランの両手がダニーの首を絞める。
「ぐっ、苦しい・・息が出来へん・・・」
アランは、はっと気がついてダニーの首から手を離すと、
「今日はブルックリンで寝てくれ」とだけ言って、書斎にこもってしまった。
ダニーは、泣きそうになりながら、適当に荷物をまとめて
マスタングで、古巣のブルックリンのアパートに戻った。
何でトムが知ってるんや!マーティン、あいつに話したんか!
マーティンの携帯に電話する。
「はい、ダニー、どうしたの?」
「どうしたもこうしたもない、お前、これからこっち来られるか?」
「アランの家?」
「俺のアパートや」
「分かった、行くよ」30分してマーティンが現われた。
「ダニー、どうしたの、怖い顔して?」
全く事情を把握していないマーティンは驚いた。
「お前、トムに俺と寝た事話したんか?」「え?」
「話したんやろ!どうしてくれる!俺、アランから放り出されたわ」
「だって、トムは僕の主治医だから・・・」
「お前、トムのとこでカウンセリング受けてたんか!最悪や!」
ダニーはソファーで頭を抱えた。
「何だか分からないけど、ごめんなさい」
マーティンは隣りに座ってダニーの肩に手をかけた。
「俺に触るな!もう帰り!」
ダニーはマーティンを部屋から追い出した。
マーティンが下のブザーを何度も鳴らしている。携帯も鳴り始めた。
ダニーは答えようともせず、ソファーで泣き崩れた。
俺、アランに捨てられる!どないしよ!
ダニーはマーティンとBBQの材料を買いにチェルシーマーケットへ来ている。
メモった食材を買い、帰ろうとしたがマーティンがいない。
おかしいな・・あいつ、どこ行きよった?
あちこち探すとデザートのオープンキッチンの前で突っ立っていた。
「マーティン、何してんねん?」
「ごめん、おいしそうで見とれてた」
ダニーが目をやると、キュートな女の子がアップルタルトを焼いていた。
キルスティン・ダンストみたいでなかなかかわいい。
「へー、うまそうやん。これ、買おか」
ダニーはいろんな種類のタルトを買った。相手がかわいいのでいつもよりたくさん買う。
車に乗るなりマーティンがダニーの腕にパンチした。
「痛いなー、何や急に」
「なんだよ、でれでれしちゃってさ」
「ごめんごめん、実害はないから」
ダニーはふくれたままのマーティンと手をつないだ。
アパートに戻ると、スチュワートがBBQグリルの前でトングを振り回しながら、悪魔を憐れむ歌を熱唱していた。
「ストーンズじゃなくて、Guns N' Rosesバージョンだね」
二人に聞かれていたのに気づき、慌ててごまかすのがおもしろい。
「二人とも笑うな、キャンプのつもりだったんだ」
「キャンプねぇ、まあ別にいいんやけど・・・。これ、鍵」
ダニーは鍵を返してキッチンに行った。
ダニーがビールを飲みながら焼いていると、マーティンとスチュワートが隣に来た。
「テイラー、オレもやりたい」
「ええよ、はい」
トングを渡すとマーティンもやりたがって取り合いになった。
「わっ、ちょっと待てって。トロイ早よひっくり返せ、焦げよる」
スチュワートがもたもたするうちに焦げてしまった。
「あーあー、お前らあほやなぁ。トングの取り合いなんかするからや」
ダニーは真っ黒に焦げた肉を除けて、きのこを並べた。
「トロイはこれでも焼いとけ」
「僕は?」
「お前はその後!」
ダニーはやれやれと思いながら新しいビールを開けた。
「どうぞお召し上がりください、テイラー捜査官」
スチュワートは、焼けたばかりのきのこを恭しく差し出すとダニーのお皿に入れた。
あまりにも得意気でうれしそうな顔に思わず吹き出す。
「お前、めっちゃかわいいな」
酔っていたせいでキスしそうになったが、マーティンに呼ばれて正気に返った。
危なかったー、オレもうちょっとでトロイにキスするとこや・・・
マーティンと一緒に肉を焼きながら、ダニーはドキドキしていた。
「ねー、これチーズバーガーにしたい」
「へっ?あ、ああ、焼けた後で上からチーズ載せたらいいやん」
「なぁ、今度からトングは三本いるな」
スチュワートがやりたそうにトングを見つめた。
「お前な、マジではまりすぎ」
「いや、今度する時は絶対いる。な、マーティン?」
マーティンも同意して真面目な顔で頷いた。
ダニーはマシュマロを炙る二人を残して、屋上を散歩しながら空を見上げた。
3つ並んだデッキチェアを見ると不思議な気持ちになる。
パラソルの下で真剣にマシュマロを焼いている二人の姿に自然と笑みがこぼれた。
三角関係か・・・オレら、ややこしいことしてる・・けど、オレはこの関係を壊しとうない。
事実、ダニーには二人とも同じぐらい大切だった。
「おい、テイラー!」
スチュワートが呼んでいる。ダニーはきょとんとしながら戻った。
「何?」
「マシュマロが火達磨になるんだが、どうすればいい?」
ダニーは笑いながらマシュマロの串を遠火で炙った。
「火に近づけすぎやねん。慌てたらあかん、ゆっくりや」
「なるほど・・よし、わかった」
「スチューより僕のが上手いんだよ」
得意気なマーティンは、自分が焼いたマシュマロをダニーの口に入れた。
「ん、おいしい」
「テイラー、口開けて」
スチュワートも焼けたばかりのマシュマロをふーふーして冷ますとダニーの口に入れた。
マーティンは二人の親密な様子に驚いている。
スチュワートは一瞬目が泳いだが、次の瞬間、疑いを晴らすようにマーティンを抱き寄せた。
「オレとマーティンとどっちのがうまい?」
ほっぺにキスしてマーティンの耳をいやらしく愛撫しながらダニーに尋ねる。
「うーん、マーティンのほうがトロけててうまい。お前はマシュマロ係に決定やな」
ダニーも落ち着いて答えると、喜ぶマーティンの髪をくしゃくしゃにした。
「オレの負けだってさ。なんか悔しいな」
「だから言ったじゃない、僕のが上手いって」
二人は両側からマーティンの体にちょっかいを出しながらこっそり視線を交わした。
ダニーは、ソファーで眠ってしまったらしい。
目が覚めたら、陽が沈んでいた。瞼が重い。鏡で見たら、腫れている。
食欲はないが、何か買いに行かないと冷蔵庫の中に何も買い置きがない。
ダニーは、久しぶりにブルックリンの街に出た。
必要最低限のグロサリーを買い揃え、とりあえず家に戻ってくる。
料理する気になれず、デリバリーメニューを見ていると、ブザーが鳴った。
「はい?」「アランだ」ひぇ、アランが来たで!
セキュリティーロックを外すと、アランが上がってきた。
ギターを持っている。
「これ、忘れたろう。それじゃ」
アランは帰ろうとする。
「アラン、俺の話聞いてくれへんの?」
「今はまだ無理だ」
アランは振り向こうともせずエレベータに乗った。
ダニーはまた涙を溜めると、ピザを頼んで、ビールを開けた。
持ってきてもらったギブソンを爪弾く。悲しい曲しか弾けない。
ピザが来るまでにビールを3本空けると、ソファーで転寝した。
ピザが届いたが食べる気がしない。
一口かじってキッチンに片付けると、シャワーを浴びて、そのままベッドに入った。
ベッドに入っても眠れない。アランの怒った顔が目に浮かぶ。
涙をためて許しを請うダニー。
こんな言葉、アランには届かへんのにな。
思いついて、アランの家に電話する。留守電だ。
COLDPLAYのTHE SCIENTISTを弾いて録音した。
そして、ベッドに戻り、ダニーはうつぶせになって、枕の匂いをかいだ。
アランの匂いがしない。ダブルベッドが大きすぎた。また涙が溢れてくる。
そのうち、泣き疲れたダニーに睡魔が襲ってきた。
携帯を枕元に置いて目をつむった。
翌朝起きるやいなや携帯を見る。着信履歴はゼロだ。
ダニーは一日ぼーっと過ごした。
朝、コーヒーを飲んだきり、全く食欲がない。昨日のピザは生ゴミと化した。
部屋の掃除も洗濯も何もやる気が起きない。
携帯が鳴った。アラン!思いがけずトムだった。
「やぁ、ダニー・ボーイ、元気か?」
「最悪や。お前のせいやで!」
「そうか、即効性があるなぁ、俺、アランと付き合ってもいいか?」
「もう勝手にせい!」ガシャンと携帯を投げるダニー。
思わずマスタングに乗り込み、ミッドタウンの「ブルー・バー」に向かった。
エリックがカクテルを作っている。目が合った。
「いつもので?」「あぁ、強めにな」
「僕、もうすぐ上がりなんです」
「そうか、じゃどっか行こか?」
ダニーは、空腹の胃にアルコールが染み渡り、酩酊状態になり始めた。
エリックは、カウンターで眠ったダニーを起こし、ふらふらの彼を自分のアパートに連れ帰った。
457 :
fusianasan:2006/05/01(月) 12:29:19
書き手1さん、ダニーにはこのままアランと別れてほしいです。
いつも泣いてばかりで、依存してべったりの関係なんてダニーらしくない。
お互いに求め合って一夜を過ごしたのに、そんな簡単にマーティンを責めるの?
自分からマーティンを呼び出したのにアパートから追い出したのもひどい。
マーティンがあんなにも愛して必要としているのを知っているはず。
それなのに自分はニックに嫉妬したりとしたい放題。これでは男として最低。
以前の素敵なダニーに戻ってほしい。最近は読むと悲しくなります。
どうせ書き手のオナニーなんだから無駄だよ。
「ダニー、バスルーム空いたよ」
「ん、もう少しやから。向こう行っとき」
ダニーは皿を洗いながら答えた。
「ねぇ、ダニーとスチュワートっていつのまにかケンカしなくなったね」
マーティンはダニーに寄りかかると小声で尋ねた。さっきのことがどうも引っかかってるようだ。
「オレもあいつもお互いに慣れたんちゃうかな。前ほど嫌いやない」
ダニーは二人の関係に気づかれないようそっけなく言った。
「前みたいにケンカしたほうがええか?」
「・・そんなの困るよ」
「そやろ?お前の困った顔ってエロいわ。なんか犯したくなる」
ダニーは首筋に歯を立てた。うっと呻くマーティンに欲情する。
「おい、オレの咥えろ」
マーティンは言われるままペニスを取り出すとフェラチオし始めた。
皿洗いしながらフェラチオしている二人を見て、スチュワートは固まった。
「なっ!お前ら、何やってんだよ!」
「んっ・・っ・・トロイか・ぅぅっ・・わざわざ偵察にきたので?」
ダニーは快楽でトロンとした目をしている。
「バカ!オレが偵察なんかするもんか!」
スチュワートは逃げるように慌てて出て行った。
「んっ・・マーティン・・ええ感じや、イキそう・・・もっと強く吸って・・」
マーティンは一生懸命先っぽを吸った。ジュルジュルと卑猥な音がする。
「うっ・・んっ!」
ダニーはペニスを大きく突き出すと思いっきり射精した。
黙って精液を飲み下したマーティンを抱き寄せる。
「行ってき、あいつが待ってるやろ」
「でも・・・」
「ええから早よ行き!オレはまだ片付けが残ってるから」
ダニーはマーティンをキッチンから追い出すと皿洗いに戻った。
マーティンがベッドルームをそっと覗くと、スチュワートがベッドでぼんやりしていた。
「・・スチュー?」
「ん?マーティンか、こっちに来いよ」
マーティンはベッドに近寄ると遠慮がちに端に座った。
「テイラー捜査官は?」
「まだお皿洗ってる」
「女みたいなヤツだな」
スチュワートはマーティンをゆっくりと押し倒した。
「さてと、今日はどんなことをして君を悦ばせよう?」
体中を舐めるようなねちっこい視線に思わずうつむく。
スチュワートはマーティンにキスをするとボタンを外し始めた。
「あの・・自分で・・」
「いいから、オレに任せろ」
素早くシャツをはだけると、即座に乳首を弄ばれて、んっと小さく声を漏らした。
スチュワートの舌は鎖骨や脇の下を順番に愛撫していく。
くまなく舐め回る舌に、くすぐったさと快楽の狭間でマーティンは悶えていた。
ペニスからは既にカウパー液がとろとろと出ている。
「これはアルカリ性なんだ。こんなにたくさん出してるなんていやらしいな」
スチュワートは手を伸ばすとぬるぬるの亀頭を嬲った。
「んっ…ぁっ、んああっ・・・!!」
マーティンは全身を強張らせている。
容赦なくアナルにも指が入ってきた。
執拗に中を這い回る冷たく細長い指に自ら腰を振ってしまう。
「おいおい、いつからそんなに淫乱になったんだ?」
頬を上気させたマーティンとは対照的に、スチュワートは冷静そのものだ。
アナルを弄られながら淡々と質問され、マーティンは我慢できなくなった。
「あんっ、し、射精させてっ・・・ひっあぁっ!」
「だめだ、しばらく我慢してろ」
ダニーはさっきからベッドルームのドアにもたれて、二人の痴態を固唾を飲んで眺めていた。
まじまじ見ているとペニスがまたむくむくと膨らむのを感じる。
「くぁ・・んんっ・・入れてっ!イカせて!」
マーティンが懇願するが、スチュワートは知らん顔だ。
これ以上我慢できないマーティンは、自分でペニスを扱こうとした。
「テイラー、手を押さえろ!」
「えっ?」
「早くしろっ!」
突然呼ばれたダニーは、咄嗟にマーティンの腕を掴んだ。
マーティンは泣きそうな顔をしている。ペニスは今にも射精しそうでパンパンだ。
「くぅ・・あっ・・はぁっ・・・・」
恨めしそうに体を押さえつけるダニーをじとっと見つめる。
「トロイ?」
「マーティン、オレが欲しいか?」
マーティンはダニーが見ているので何も言えない。スチュワートは指を抜きかけた。
「言わなきゃずっとこのままだ」
「あっ・・ぁん・・ほっ欲しいよ・・お願いっ、早く入れて」
堪えきれずにマーティンはねだり、スチュワートはようやくペニスを挿入した。
ダニーはじっと二人の結合部分を見つめている。
見ているうちに手が自然と自分のペニスを掴んだ。
「あぁっ・・もっと・・もっとぉ・・うっううっ・・んんんっ!」
マーティンは何度も抜き差しされて大きく声を上げると果てた。イッたペニスがびくんびくんしている。
スチュワートは動きを止めず内壁を擦るように腰を振る。
「マーティン・・んっ・・ううっ!」
スチュワートは中に出すとマーティンに覆いかぶさった。
ダニーは果てたスチュワートが離れたあと、ひくつくアナルにペニスをあてがった。
中出ししたスチュワートの精液で滑り、すんなりと中に呑みこまれていく。
ひくつくアナルの締めつけがすごい。生きもののように蠢いている。
「うっ・・ぁぁん・・」
ダニーが前後に動くとマーティンはまた喘ぎ声を上げて悶えた。
感じているせいか、内腿が小刻みに震えている。出したばかりのペニスは早くも勃起していた。
「やっ・・だめ・・僕・・また出ちゃう!」
「オレもや・・イクで・・」
興奮したダニーのペニスが中で一段と大きくなったのを感じるとマーティンは射精した。
ダニーも我慢できず、からみつくようなアナルの中に果てた。
スチュワートはマーティンの髪をくしゃっとすると、放心状態の二人を置いてシャワーを浴びにいった。
>>457 さん
いつも感想ありがとうございます。
このところのダニーは自己中心な幼い子供状態でしたね。
初めて体験した(擬似)「家族」に甘えてしまい、自分を見失った状態。
他の人の事など(マーティンの事すら)眼中にない位。
ここで、少し、反省する方向に流れていきます。
アランと別れるかどうかは・・・検討させてくださいませ。
また、感想お待ちしています。
冷たいタオルが顔に乗せられる。
「んん?」
「起きたね。ダニー」
ダニーはまぶしそうに目を開けた。
「ここ、どこや?」
「覚えてないの?僕のアパートですよ。ダニー、べろんべろんだったからなぁ」
エリックは上半身裸で、ダニーの身体の上に乗ってきた。
「お、おい!」
「貴方がゲイか少なくともバイな事、こないだ一緒に来た人が貴方を見る目でわかっちゃったんだ。
今日は忘れたい事があるんでしょ。僕が忘れさせてあげます」
ダニーは、払いのけようとしたが、簡単に腕を払われた。
ダニーのセーターとシャツをまくり上げると、両方の乳首に交互にキスをする。
「ぅぅん」膝頭でダニーのペニスを巧みに愛撫する。ダニーの局部は持ち上がってきた。
「ほらね、感じてるでしょ」
ベルトをはずすと、パンツと一緒にトランクスを下げた。
ダニーの屹立したペニスが飛び出した。
すぐさまエリックが口に咥えて扱きたてる。
「うぅああん、やめ・・やめてくれ!」
「ここはそう言ってないよ」
エリックは全裸になると、ダニーに跨った。
スルリとエリックの中に入り込むペニス。
「も、や、やめろ!」
ダニーは渾身の力をこめて、エリックの身体を押し倒した。
ダニーはふらふら立ち上がると、服を整え、車の鍵を捜した。
エリックの「リビングのテーブルの上に鍵はあるから」という言葉を後ろ姿で聞いて、
ダニーはアパートを出た。
ここどこや? ストリートアドレスからロワー・マンハッタンだと分かる。
ダニーは路駐していたマスタングに乗り込み、ブルックリンに急いだ。
月曜日だというのに、これじゃ完全に遅刻だ。
家に戻ると、留守電が点滅していた。
再生するとアランの声が出てきた。
「ギターのメッセージ、受け取ったよ。でも留守のようだね。今日もマーティンのところかい?残念だ」
最悪やん!俺ったらエリックなんかと出かけよって!その上、寝てしもうた!
大急ぎでシャワーを浴びて、支局へ出勤する。
遅刻を叱咤された上に、ミーティング中も考え事をしてしまい、チームの顰蹙を買った。
「どうしたの、ダニー、あんたらしくないよ!」
ヴィヴィアンに励まされるが、元気が出ない。
マーティンは遠巻きにダニーを見つめていた。
「捜査会議?」マーティンからのメールだ。「了解。19時@貴宅」と打った。
イーライズでBBQラムやワイルドライスサラダ、ターキーサンドを買って、マーティンのアパートに行く。
マーティンが気を遣って、シャルドネを開けてダニーに勧める。一気飲みするダニー。
「ねぇ、アランの家に戻れないの?」マーティンはおずおず尋ねた。
「あぁ、お前がトムにしゃべったんやろ、トムがアランにしゃべったんや」
「ごめん。トムがアランにしゃべるなんて思ってなかった。
僕はダニーとSMじゃないセックスが出来た報告をしただけなんだ。
トム、プロの医者なのに守秘義務守ってくれないなんてひどいや」
マーティンは泣きべそをかきそうな顔になった。
「お前を責めても仕方ないのにな。ごめん、謝るわ。こないだも家に来てくれたのに、すぐに追い返して悪かった」
「うん、分かったよ」マーティンはダニーの肩に触る。
「全部、俺がいけないんやけどな、お前とアランのどっちかに決めるなんて、出来へんのや。
自分勝手なんはよう分かってる。」ダニーはマーティンをじっと見つめた。
「・・・僕といる時は僕の事だけを考えてよ、ダニー」
マーティンがダニーを抱き締めた。
「マーティン、ごめんな、ほんまにごめんな」
「今日、泊まっていきなよ」「ええのか?」「もちろん、ダニー、大好きだよ」
二人はキスを交わした。
ダニーがシャワーを浴びている間、マーティンはスチュワートの腕の中にいた。
「・・今日のスチュー、なんか意地悪だった」
「そうか?」
「ん、いつもと違ってた。どうしてさ?」
「さっき、キッチンでテイラーの咥えてただろ、あれ見て嫉妬したのさ」
スチュワートはマーティンを胸に抱き寄せた。
マーティンはわざと胸毛を引っ張る。痛いと言うのを聞いて薄笑いを浮かべた。
「僕もスチューが焼いたマシュマロ食べたかったな」
胸に顔をうずめたマーティンがぼそっとつぶやいた。
スチュワートはマーティンが拗ねたときの言い方が子供じみてて好きだ。
「わかった、今度は絶対に食べさせる。約束だ」
いつものように両手の指をクロスさせるとおでこにキスした。
ダニーはバスルームから出たものの、ベッドルームに入るのが躊躇われた。
仲睦まじく寄り添っている二人の姿にヤキモキする。
ピローファイトやったら入れるけど、ピロートークの真っ最中になんか入られへんわ・・・・
しばらく様子を窺っていたが、うっかりくしゃみをしてしまい二人に気づかれた。
マーティンは慌ててスチュワートから離れた。きまりが悪そうだ。
「テイラー捜査官、張り込みの最中なので?」
にやけたスチュワートは、早速さっきの仕返しをした。
ダニーはそれには答えずに服を着替え始めた。ベッドのどこかにあるトランクスを探す。
マーティンが背中を突っついてくる。
「何?」
「こっち向いてよ」
「嫌や」
「・・ねぇ、ダニーおいたん」
「ダニーおいたん?!!」
スチュワートは素っ頓狂な声で復唱すると爆笑した。
ダニーも渋々マーティンのほうを向いた。
「トロイ笑いすぎ。マーティン、ヘンな呼び方するな」
「だって、怒ってるんだもん・・・」
「別に怒ってない。着替えるのに忙しいだけや」
ダニーは見つけたトランクスを履き、服を身に着けた。
「ほな、オレは帰るから」
「お前も泊まっていけばいいのに」
「いいんや、今日はお前に譲る」
ダニーは申し訳なさそうなマーティンにキスをするとアパートを出た。
翌日、支局に出勤するとデスクの上にウィッチクラフトの紙袋が置いてあった。
マーティンは食べてきたのか、今日は新聞を読んでいる。
「おはよう。それスチュワートから」
「オレに?何やろ?」
「昨日のお礼だって言ってたよ」
ダニーが中を見るとバナナミルクとベジサンドが入っていた。
ダニーは早速バナナミルクを飲んだ。ベジサンドにもがっつく。
食べているとマーティンが物欲しそうに見つめる。
「欲しい?」
「ん・・じゃ、少しだけ」
マーティンは周囲を見回して誰もいないか確認すると、ダニーの食べかけのベジサンドにがっついた。
遠慮なくバナナミルクにも手を伸ばす。
「ストロー噛むなよ」
「そんなことしないよ、子供じゃないんだから」
「いいや、お前ならやりかねん」
「いいよ、全部飲んじゃうからね!」
「あほっ、やめ!」
ダニーは慌ててマーティンからバナナミルクを取り返した。
ダニーはマーティンの腕の中で目を覚ました。
すやすや眠るマーティンの寝顔に、優しくキスをする。
今まで辛い目に遭わせてごめんな。
「うぅん?」マーティンが目を覚ます。
「起こしてごめん」
「ううん、ダニー、おはよう」
マーティンがキスをしてくる。挨拶のキスが次第にディープキスに変わった。
二人の屹立したペニスが触れ合っている。
自然と69の体型を取り、お互いのペニスを咥えた。
「うぅぅん、はぁん」「あぁ、いい」
二人の甘い吐息が一つに溶ける。
「ダニー、僕、出ちゃう、あぁ」
「俺も、イク、うぁ!」ゴクリと飲む音がベッドルームに響き渡る。
「わ、シャワーしない!遅刻しちゃう!」
二人は走ってバスルームに向かった。
フェデラルプラザ内のデリでマフィンを買って席に着く二人。
マーティンが二人分のコーヒーをFBIマグに注いで持ってきてくれる。
「お、サンキュ」ダニーがにやっと笑って受け取る。
「マーティン!私のは〜!!」サマンサが見ていて騒いでいる。
「また今度」マーティンは軽く無視してPCを立ち上げた。
ダニーがPCを立ち上げると、アランからメールが届いていた。
「8時に拙宅いかが?」ダニーはしばらく考えたが、意を決して「承諾」とだけ返した。
報告書作成とファイル整理で一日が終わる。
マーティンが「どっかで食べてく?」と誘ってきたが、
「ごめん、先約ありや。またな」と行って席を立った。
アランのアパートの前に立つダニー。
インターフォンを押そうかどうしようかしばし迷う。思い切って押した。
「はい?」「俺、ダニー」
ガチャっとセキュリティー解除の音がする。
ドアの前で躊躇していると中から開いた。
「早く入っておいで」
「はい、こんばんは」
アランはキッチンで料理中だった。グリルの香ばしい香りがする。
「ディナーはまだかな?」「うん」
「じゃあ、相手になってくれ」
テキーラマリネのエビのグリルとジャガイモのニョッキがダイニングに並んだ。
「シャルドネでいいね」「うん」
言葉少なく会話する二人。
ジャケットを脱ぎネクタイを取って席につくダニー。
「じゃあ、乾杯だ」「何に?」
「とりあえず、これからの二人にだ」「はい」
ガチャンとグラスを合わせる。
アランがしゃべりにくそうに切り出す。
「この間は大人げない振る舞いで申し訳なかった。
首を絞めるなんて、なんたる蛮行。我ながら情けなくなったよ」
「俺は、もう何も言えない。マーティンと寝たのは事実やし、アランが怒るのは無理ないと思う」
「それじゃあ、僕も秘密を言おう。トムと寝ている」
「え、何やて?!」
「トムの気持ちをかなえてやろうと寝たのがきっかけだ。
お前に話すと言われて、そのままずるずる関係を続けた」
「そんな・・・」
「だから、僕にはお前を責める資格などなかったんだ。許してくれ、ダニー。本当にすまなかった。」
ダニーは驚愕と嫉妬で、アランを凝視した。
「これで、なかったことにしないか?またここで一緒に住んでくれないか?」
「・・・俺、頭ん中整理したい。このままじゃ、だめやわ。しばらくブルックリンにいてもええか?」
ダニーは今の状態では、アランと一緒にいられないと思った。
浮気し合った二人に、前のような信頼関係はない。何かが崩れてしまったのだ。
「あぁ、分かった」アランもダニーをじっと見つめた。
「荷物は、別の日にまとめてとりに来るわ」
二人は静かにディナーを続けた。
497 :
fusianasan:2006/05/03(水) 00:54:14
書き手1さん、ダニーとアランの関係が終わってしまうのは悲しいです。
アランを親の様に慕って甘えたり、泣いたりするダニーも好きでした。
こんな時のダニーは本当に幸せそうだったから、このまま関係が続いて
いって欲しいと願ってます。
書き手2さん、ダニーとスチュワートの関係がもっと見たいです。マー
ティンに知られずにというのも限界があるでしょうけど・・。この前に
ダニーがスチュワートの父親に意見をした所は気分がスキッとしました。
多分マーティンでは言えない台詞だと思いました。
>>457に同意、自分もアランは不要、興味なし
馬鹿みたいに泣くダニーもキモス 幼児じゃあるまいし
つか、お腹イパーイ
>>497 さん & 498 さん
いつも感想ありがとうございます。
一つの転機が来たかなとは思っています。
また感想をお願いします。
ダニーの日常は、誰ともステディーでない状態に戻っていた。
何てこたない、俺はずっと孤独やった。昔に戻ったってことや。
とはいえ、アランと過ごした半年間やマーティンとの関係が懐かしくてならない。
自然と、仕事帰りにシングルズ・バーに寄りこむようになっていた。
「ザ・プラティナム」のカウンターで一人、ドライ・マティーニを飲んでいると、何人かの女性に声をかけられた。
綺麗に着飾った女性たちだ。いかにもお手軽そうだが、不思議と触手が動かない。
俺も年かな。「ねぇ、ダニーだよね!」男の声がした。
振り向くとトレーナーのロバートがいた。
「おう!久しぶりやな、どうしてる?」
「久しぶりなのはこっちのセリフ。全然トレーニングに参加しないじゃない?
アラン一人で続けてるよ」
「まぁ、色々あってん」
ロバートの目がキラリと光った。
「そうなんだ、今日は一人?」「まぁな」
「じゃ、一緒に飲んでいいかな。さっきから奥の男に誘われてて、しつこいんだ」
奥を見ると中年の男がこっちをじっと見ていた。
「お前も苦労が耐えないな」
「ダニーほどじゃないと思うよ」
ロバートはにっこり笑った。相変わらず人を惹き付ける笑顔だ。
二人でよた話をしながら飲む。ロバートといると何故か楽しい。
「ありがとな、今日はよく眠れそうや」
「こちらこそ」
店の前で別れる。タクシーでブルックリンと告げると、ロバートが「アッパーウェストサイドじゃないの?」と尋ねた。
「あぁ、じゃあな」
ロバートは、次のタクシーを拾うと「アッパーウェストサイド」と告げた。
アランのアパートのインターフォンを押す。
「はい?」「ロバートです」
「こんな時間に何だい?」「さっきまでダニーといました」
セキュリティーが解除され、ロバートは中に入った。
「ダニーとはどこで?」
「ミッドタウンのシングルズ・バーで」
アランの顔が曇る。
「どうしてた?」
「一人で飲んでましたよ。でも何人も女性が声かけてたから、誰かと帰ったんじゃないかな?」
しゃあしゃあと嘘をつく。
「そうか、それもあるだろうな」
「アラン、妬かないんですか?」
「まぁいろいろあるさ。それで、今日はそれだけを言いに来たのか?」
「いえ、ダニーがここに住んでいないんなら、ベッドルームが空いていると思って」
「何だって?」
「貴方だって、僕を欲しいはずだ、でしょ?」
「ロバート、君は誤解をしている。帰ってくれ。家に上げた僕が愚かだった、さぁ」
アランはロバートを追い払って、一人ソファーに沈んだ。
ダニーに会いたい。あの子のスパイシーな体臭に包まれたい。
アランは、首をブルブル振ると、バスルームへ消えた。
マーティンは、暖かくなってきたのでジョギングを再開することにした。
隣でぐっすり眠っているダニーを起こさないように、静かにベッドから出る。
少し早起きして走る早朝の街並みは、空気が澄んでいて気持ちいい。
「おはよう、マーティン」
アーロンが後ろから走ってきて追い抜いていった。
なんだ、あいつ!負けるもんか!
マーティンも負けじとスピードを上げて抜き返した。
アーロンなんかに負けたくない。
抜きつ抜かれつのデッドヒートを演じながら、二人とも疾走した。
心臓がバクバクしてるが、お互いに意地になっている。
ホイットニー美術館の前で二人は走るのを止めた。
お互いに目を合わせたままぜーぜー荒い息を吐いている。
「最近ジムで会わないね」
「・・・・・・・」
マーティンは目は逸らさないが何も答えない。
「ねぇ、これ、誰の設計か知ってる?」
アーロンがにんまりしながらホイットニー美術館を指し示した。挑戦的な態度だ。
マーティンは知らないと思われるのが癪で、つい反応してしまう。
「マルセル・ブロイヤーだろ」
「正解。メトロポリタン美術館よりいいと思わない?シンメトリーはつまらない」
嫌だけど好みが一致するのは仕方ない。マーティンは渋々頷いた。
「僕らの嗜好は同じのようだ。嬉しいな」
「僕は嬉しくないね」
「マーティン、明日も走る?」
「もちろん走るさ。けど、お前となんか走らない!」
マーティンは言い放つとアパートまで思いっきり走った。
途中で何度も振り返ったが後ろにアーロンはいない。安心してアパートに入った。
ダニーはベッドが大きく揺れて目が覚めた。
裸のマーティンが濡れた髪をタオルでゴシゴシしている。
「おはよう。起きたの?」
「ん・・」
ダニーは体がまだ目覚めてなくて何度か寝返りをうつ。
「今日は寝起きが悪いね。疲れてるみたい」
マーティンはのぞきこんでキスをした。
ダニーはのろのろとベッドから出ると熱いシャワーを浴びた。ようやく体が目を覚ます。
バスルームの外でマーティンが何か言っているが、うまく聞き取れない。
ほったらかしているとマーティンが入ってきた。
「ねー、聞いてないの?」
「シャワーの音で聞こえへん。何?」
「僕も屋上があるところに引っ越したい」
マーティンは飛沫で濡れるのもかまわず熱心に話を続ける。
「アッパーイーストにはそんなとこないやろ」
「ううん、他のエリアでもいいんだ。どこだっていい」
本当は近くにアーロンがいるから引っ越したいんだよ・・・
マーティンは隠し事をしている後ろめたさからうつむいた。
「ほな探してみ。チェルシー以外やったら別にいいやん」
「物件の数が少ないんだからさ、チェルシーでもいいじゃない」
「絶対にあかん。ゲイやって思われたら困る」
ダニーはシャワーを止めるとバスローブを羽織った。
>>497 ご感想ありがとうございます。
ダニーとマーティン、同じ相手と付き合っていても性格の違いが出ますよね。
私もマーティンなら何も言わないと思います。
ダニーは帰りにクレート&バレルに寄った。トングを二本と計量スプーンを買う。
アパートに帰るとマーティンが来ていた。
「おかえり。ん?手に持ってるの何?」
目ざとく見つけたマーティンが尋ねた。
「お前とトロイのトングとオレの計量スプーン」
「わー、サンキュ、ダニィ!」
マーティンは、袋からトングを取り出してパカパカさせている。
ダニーは自分の計量スプーンを取り出すとタグを外した。
「あれっ、そのスプーンなら持ってたじゃない」
「それがな、ゴミといっしょにほかしたみたいなんや」
「へー、ダニーもそんなポカするんだね」
「まあな」
ダニーはマーティンの頭をくしゃっとするとキッチンに持っていった。
二人は夕食のピザを食べ終わると、ネットで屋上付きのアパートを探した。
「・・・ないね」
「数も少ないし、やっぱり人気があるんちゃう。トロイみたいなヤツが多いんやろ」
マーティンは、スチュワートが植物に囲まれてデッキチェアに寝そべる様子を思い出した。
思い出すと余計に住みたくなり、もう一度最初から検索をやり直す。
「もうやめとけ。ないもんはないんや」
ダニーはしつこく検索するマーティンの肩に手を置いた。
「うん?あっ、あったー!」
マーティンは大声を上げながらダニーの体を揺さぶった。
「これ!ここ見て、早く!」
ダニーがPCをのぞきこむとグリニッチビレッジの物件が載っていた。
「グリニッチビレッジて、ボスの近所やん」
「黙ってりゃわかんないよ。僕、この部屋を見せてもらおうっと!」
マーティンはいそいそとメールを送った後、もらったばかりのトングを振り回した。
すでに契約した気になってBBQの真似事のつもりらしい。
吹き出したダニーはかわいくて思わず抱きしめた。
二人は昼休みにカフェでランチを食べていた。
マーティンの携帯が鳴った。知らない番号なので警戒しながら電話に出たが、
相手と話しているうちに、怪訝な表情が消えてにやにやしている。
「あの物件、今夜見せてくれるって!ダニーも一緒に行ってくれる?」
「・・・ええけど」
ダニーは正直グリニッチビレッジなんて気乗りしなかった。
勤務が終わると、タクシーで教えられた住所に行った。
幸いボスの家とは少し離れている。
メモを片手にきょろきょろしていると、入り口で待っていた女性に声をかけられた。
「フィッツジェラルドさん?」
「ええ、そうです」
「お待ちしておりました。マクギーズエステートのパーカーです」
マーティンとダニーはそれぞれ握手を交わし、早速部屋に案内された。
間取りも広さも今とほとんど同じで、マーティンはすっかり気に入ってしまった。
肝心の屋上も申し分ない。設備が少し古いのだけが気がかりだが、屋上の魅力のほうが上だ。
「ねぇ、どう思う?」
「ええけど、まずは家賃聞かんとあかんやろ。ここはおいくらなので?」
「月々1800$です。このクラスの物件なら破格ですよ」
「へー、確かに安いなぁ。それはまた何でですの?」
「本当は言いたくないんですけど、法律なので言いますね・・実は殺人があったんですよ」
「えっ?この部屋で?」
「ええ」
「ダメだ、そんなの怖いよ。この話はなかったことにしてください」
びびったマーティンはダニーを連れて慌ててアパートを出た。
そのまま帰る気にもなれなくて、二人はベメルマンズバーに寄った。
「また探したらいいやん。な、そんなに凹むなって」
「うん・・・」
ダニーは飲んでいると後ろから声をかけられた。
「ダニー?やっぱりダニーだ、久しぶり!」
振り返ると嬉しそうなジョシュが立っていた。
げー、ジョシュやん・・・どうしよ・・・
焦ったダニーは久しぶりとだけ言うと握手を交わした。
友達?と聞かれ、マーティンのことを仕方なくジョシュに紹介する。
ジョシュは愛想がいいのでマーティンもすんなり受け入れた。
「コロラドはまだ寒いんやろ?」
「うん、雪が解け始めるのはまだ先なんだ。投資シーズンは開幕だけどね」
ダニーはジョシュが不動産会社勤務だったことを思い出した。
「なぁ、NYで屋上付きの物件ってないやろか?」
「調べてあげるよ。待ってて」
ジョシュはPCを取り出すと、不動産業者用データベースにアクセスして探し出した。
「グリニッチビレッジとスタテン島にあるけど?」
「グリニッチビレッジはあかんねん、殺人があったって」
「みたいだね。うーん、スタテン島はちょっと不便だよね・・今はこの二つだけだ」
マーティンは肩を落とすとダイキリを啜った。
「見つけたら連絡してあげようか?」
「いや、いいんや。急いでへんから」
断わるダニーをマーティンが不思議そうに見つめた。
ダニーはどう思われようと、これ以上の接点は持ちたくない。
「ありがとうな、ほなオレら行くわ」
ダニーはチェックを済ませるとバーを出た。
「ねぇ、どうして?」
アパートまで歩く間、マーティンはずっと同じことを尋ねた。
ダニーは適当にごまかしていたが、マーティンは納得しない。
しつこいなぁ、あいつと寝たからやなんて言えんし・・・
「よし、わかった。探しといてくれって頼んどくわ」
ダニーは嘘をついてなんとかその場を切り抜けた。
ダニーは悪質な誘拐事件を追って、ボスとコネティカット州まで来ていた。
犯人を追い詰めたものの、結局射殺してしまった。
またや。俺、やってもうた。
失踪者は無事確保出来たとはいえ、犯人射殺はいつも後味が悪い。
NYに戻るとボスが言った。「ご苦労。今日はもう帰っていいぞ」
ダニーの足は「ブルー・バー」に向いていた。
エリックがカクテルを作っていた。
「いつもので?」「ああ」
ドライ・マティーニと生ハムとアスパラガスのカナッペが並ぶ。
「すまない」「いえ」
二人とも他人行儀だ。ダニーの携帯が震える。
「テイラー」
「アランだが、仕事中かな?」
「もう今日は店じまいや」
「パエリアを作ったんだが、一人じゃ食べきれない。来ないか?」
「あぁ、行く」
電話を切ると、エリックが「寄りが戻ったので?」と聞いた。
「まだ分からんわ」そう答えて、チェックをお願いした。
アランの家に着くと、おいしそうな香りに満ち溢れていた。
「今日はウサギのパエリアと、シコイワシのマリネだ。ワインはどうしよう?」アランが尋ねる。
「俺に分かるわけないやん。任せたわ」
ダニーはジャケットを脱いでネクタイをはずした。
「どうだい、部屋着に着替えたら?」
「え?ええの?」
「食べにくいだろう?」
ダニーは、クロゼットに向かった。
ダニー用だった引き出しに新しいアディダスの上下がしまってあった。
アラン、買っといてくれとんや。着替えるダニー。
ジンファンデルが開いている。アランはすでに飲んでいた。
「ずるい、一人で飲むなんて」
「ごめんごめん、つい一人暮らしの癖でな」
ダニーはキッチンに立っているアランと乾杯する。
「うわ、美味そうなパエリアやな、アラン、さすがや」
「マリネもいけるぞ、もっと褒めてくれ」
アランが照れくさそうに笑っている。
ダニーはぼそっと「今日、犯人、射殺してもうたわ」と言った。
アランがはっと目を上げる。
「こっちへおいで」ダニーはアランのそばに近寄る。
ぎゅっと抱き締めるアラン。
「今日はもう過去だよ。明日の事を考えような」「うん」
ダニーもアランの背中に腕を回す。思わずキスを交わす二人。
ディープキスに変わっていく。次第に下半身が反応していく。
「おい、これじゃ料理が冷める」
アランがダニーを制したが、「なあ、ベッドに行かへん?」とささやく声でダニーが誘った。
「本当にいいのか?」
「うん、抱いて欲しい」
二人は、手をつないでベッドルームに入っていった。
服を脱ぎ捨て、全裸でベッドに入る。おずおずとお互いの身体に触れる二人。
どちらからともなく、ぎゅっと抱き締めあい、身体の重みを感じあった。
「いいのかい?」「うん」
アランはマンゴーローションをダニーのアナルと自分の屹立したペニスに塗りたくり、身体を合わせた。
指を抜き差しするとダニーが甘い吐息を漏らす。
「あぁ、アラン、ええで、もっと」
アランは容赦なく指で感じる箇所を存分になぶる。
「もう、入れてーな。俺、我慢出来へん、あぁー!」
ダニーは早々に射精してしまった。
アランは自身を挿入すると、激しく動き、ダニーの身体の上に重なった。
射精のたびに身体が痙攣している。
「はぁー、久しぶりだと早いな」
「俺もそうやねん」
二人して、くくくっと笑い、バスルームへ歩き出した。
537 :
fusianasan:2006/05/05(金) 03:16:22
書き手1さん;
アランとダニーの寄りが戻りそうで安心しました。反論する人もいますけど、
アランといる時のダニーって11歳で止まってしまった親子の絆を取り戻そうと
するかのようで、いじらしいです。お兄さんも服役中だし、今、親子同然といえるのは
アランだけなので、二人が離れてしまったら悲しいです。
ダニーは帰りにスチュワートのアパートへ行った。
約束の時間より少し早く着き、インターフォンを鳴らしたが誰も出ない。
携帯に電話しようとした時、横にコンバーチブルが停まった。
車を覆うようにオーガスタの大きな葉っぱがゆさゆさ揺れている。
「ごめん、遅くなった。帰りにこれを見つけちゃって」
「いいんや、手伝うわ」
ダニーは鉢植えを降ろすのを手伝った。
「重たい・・腰にくるわ。配達してもらえばよかったのに」
ダニーは自分の背丈よりも高い植物を見上げた。
「どうしても今すぐに欲しかったんだ。車入れてくるからここで待っててくれ」
しばらくするとスチュワートが戻ってきた。
「いくぞ、せーの!」
二人で同時に持ち上げると、一気に歩いてエレベーターに乗せた。
「お前がいてくれて助かったよ。一人じゃぎっくり腰になるところだ」
屋上に運び入れた後、スチュワートは礼を言うとキスをした。
二人はそのまま抱き合うと、お互いの服を脱がせ合う。
ボタンを外すのももどかしいぐらい早く素肌を重ねたい。
じっとり汗ばんだ体を重ねただけで、二人とも興奮しきっていた。
69でフェラチオをしながら、それぞれローションを手にアナルを弄くる。
ダニーは前立腺を弄られ、背中を仰け反らせた。
口に咥えているペニスを舐めてなどいられない。
とろとろと口の端からよだれが溢れる。
「トロイ・・入れて・・」
「だめだ、もう少し遊びたい」
「指だけでイキそう・・・うっ・ぁぁん・・」
イキかけたのに気づくと、スチュワートはあっさり指を引き抜いた。
「ちょっ・・なんでやめるん?お前、性悪いなー」
スチュワートはにやにやしたまま仰向けになった。
「どうぞ、テイラー捜査官」
ローションを塗りたくったペニスをこれ見よがしに扱き上げるスチュワート。
ダニーは理解してペニスの上に跨った。
ズブズブと中に入っていく感覚にゾクゾクする。
目を合わせたままゆっくり腰を動かすが、恥ずかしくてすぐさま目を閉じる。
快感に悶えるダニーは両肩を掴むと何度も上下した。見られていると思うと余計に興奮して感じる。
イキそうになったスチュワートは、体を起こすと対面座位に体位を変えた。
首に抱きついたダニーを下から突き上げて、首筋に舌を這わす。
「んっ・・あぅ・オ、オレ・・出る!」
「オレもだ・・」
ダニーの出した精液が腹にかかるのを感じると、スチュワートも中に射精した。
果てた二人は目を見つめあいながらキスをした。
シャワーの後、トランクス一枚でゴロゴロしながらピザを待っていた。
ようやくインターフォンが鳴り、スチュワートが出た。
「はい」
「あ、マーティン」
「えっマーティン!・・・入れよ」
スチュワートはベッドルームに飛んで行った。
「テイラー、マーティンが来た!早く隠れろ!」
「えっ!」
ダニーは突然のことに呆然としている。
「バカ、何やってんだよっ、服と靴、早く早く!あー、お前のブリーフケース!」
スチュワートはダニーの荷物をまとめると、ダニーもろとも仕事部屋に押し込んだ。
「中から鍵掛けろ、物音をたてるな!いいな?」
「うん・・・」
ダニーは言われたとおりに鍵を掛け、スチュワートのデスクに寄りかかった。
デスクの上の書きかけの書類を見るとはなしに眺める。
音を立てないように静かに服を着ていると、自分のやっていることの滑稽さに笑いそうになった。
またインターフォンが鳴った。今度は本当にピザが届いたに違いない。
あー、腹減ったなぁ・・・空腹と情けなさを抱え、ダニーは成す術もなく座っていた。
ダニーがオフィスに出勤すると、ボスにすぐ呼ばれた。
「はい、何です?」
「済まないが、内部監査官の面談を受けてくれ」
「はぁ?」
「コネティカットの事件で聞きたい事があるそうだ」
ダニーは嫌な予感がした。隣りの応接室で面談が始まる。
「テイラー捜査官、スティーヴンソンだ」
「よろしゅうお願いしますわ」
「このところ、犯人を射殺する事件が続いているね」
「被害者は無事確保してます」
「射殺以外の選択肢はなかったのかな」
「何です、過剰防衛だとでも?」
「君は、マイアミ市警時代にも5名射殺していると記録にある」
「あの頃は、麻薬がらみのギャング担当でしたから、殺るか殺られるかの状況ですわ」
スティーヴンソンの不遜な態度にも、負けじとダニーは冷静に答える。
「殺るか殺られるか、が君の信条なのか?」
「そんなわけないでしょう!」
「生来の気質が関係しているかもしれないな。正月明けにはフィッツジェラルド捜査官と殴り合い、
この間も暴漢とケンカになって入院したね」
「何ですか?俺がヒスパニックやから、すぐにカッとなるとでもおっしゃるので?」
「去年は猟奇的な事件に巻き込まれ、2度ほどあやうく命を落とすところだった。
犯人に対する恐怖心の克服は出来ているのか?カウンセリングには通ったのか?」
「はい、通いましたし、俺は自制心の強い人間です。バカバカしい。もう席に戻っていいですか?」
「また話を聞くことにならないようにしてくれよ。連邦捜査官の規律を乱すな。その辺の地方警察とは違うんだ」
「失礼します」ダニーは席に戻ると乱暴にPCのスウィッチを入れた。
サマンサが「大丈夫?」と尋ねる。
「朝から最高の一日やわ」と自嘲気味に答えるダニー。
「私も頭にきたのよね、内部監査って大嫌い!」
「俺、外回りしてくる」
ダニーは支局のビルから出て、ストレッチと深呼吸した。
俺が犯人が怖くて過剰防衛?そんなんありえんわ!
夕方、支局に戻る。マーティンからメールが届いていた。
「捜査会議?」すぐに「OK」と返事を打つ。
二人で、ラウンジ・バー「ストーン・ローズ」のテーブル席に座った。
「面談、厳しかったの?」マーティンが心配そうに尋ねる。
「あぁ、俺の捜査手順が過剰防衛だと言わんばかりやったわ」
「ダニーみたいに優秀でもそんな嫌疑かけられるんだね」
「自分のやってることは分かってる」
「ああ、そうだよね。僕、ダニーの事、尊敬してるんだよ」
「はぁ?何や、褒め殺し作戦か?」二人して声をたてて笑った。
「デリで何か買って、家に来ない?」
マーティンの誘いに、ダニーは「そやな。そうしよ」と答えた。
「イーライズ」で、ミネストローネ、BBQチキンとラビオリサラダを買ってマーティンのアパートに着いた。
「家のがせいせいするね、待ってて、ワイン開けるね」
「ああ」ダニーはソファーに座った途端、眠気が襲ってきて転寝を始めた。
やっぱり内部監査で疲れたんだね、ダニー。
マーティンは、ダニーを抱き上げると、ベッドまで連れて行った。
ネクタイを緩め、Yシャツのボタンに手をかける。
「ううぅん」ダニーが薄目を開けた。
「ごめん、起こしちゃった?」「俺、寝てたか?」「うん」
「こっちおいで」ダニーの力強い腕にマーティンは首を持っていかれた。
そのままディープキスが始まる。ほのかにドライ・マティーニの味がする。
「俺を慰めてくれへん?」ダニーがいたずらっ子のような目でマーティンを見つめる。
マーティンは意味を察して、ダニーのベルトをがちゃがちゃとはずすとパンツと一緒に
一気にトランクスを脱がせた。元気なペニスが飛び出した。すぐさま口に咥えるマーティン。
ダニーはまぐろ状態で、マーティンに奉仕させた。「あぁ、ええで。お前のは最高や」
マーティンはますます一生懸命先っぽから根元まで往復させる。
「あぁ、俺、もうダメや、出る!」ダニーは大きな痙攣と共に果てた。
マーティンが荒い息を整えている間に、ダニーはまた眠ってしまった。
>>537 さん
感想ありがとうございます。
確かにアランといると退行現象で、子供じみてしまいますが、
今までの人生の穴埋めをしているようで、いじらしいですね。
また感想をお願いします。
スチュワートがドアを開けるとマーティンが立っていた。
「ごめんね、急に来ちゃって」
「いいんだ、気にするな。ピザも届いたところなんだ、金払うから先に入ってろ」
「ん、わかった」
後ろからピザの配達の少年がやってきた。
マーティンは中に入ると手を洗ってうがいした。
「今日は君の好きなペパロニじゃないんだけど・・」
「いいよ、僕は何でも食べるから」
Largeサイズの半分はブラックオリーブとアンチョビで、半分は生ハムとアスパラだ。
「オリーブとアンチョビ?これさ、ダニーがいつも頼むやつだ」
「そう?さぁ、冷めないうちに食べようぜ。どっちにする?」
「生ハム!」
ごまかしたスチュワートは、マーティンのお皿にピザを入れてやった。
ダニーは、ドアの向こうから微かに聞こえる二人の声に耳を済ませた。
話している内容まではわからないが、楽しそうな様子は伝わってくる。
こんなところに隠れているのがバカバカしく思えたが、じっと我慢するしかない。
さっきから何度もおなかがグーグー鳴っている。
静かにキャビネットを開けると、チョコバーが入っていた。
かじった途端、アーモンドの音がカリッとしてびびる。
耳を澄ませたが何も変わった様子はない。静かにチョコバーを食べた。
チョコバーを食べ終わると少しは落ち着いたが、今度はすることがなくて退屈だ。
することがないのでデスクの書類に目を通す。
エピジェネティクス?何やろ?ダニーにはさっぱりわからない。
所々にある走り書きまで几帳面な字なのに笑いそうになった。
トロイの性格って未だにようわからん、オレには謎やわ・・・・
そのうち眠くなり、デスクに突っ伏すとうとうとし始めた。
ドアをがちゃがちゃする音でダニーは目を覚ました。心臓がバクバクしている。
「おい、開けろよ」
よかった、トロイや。ダニーはホッとしてドアを開けた。
「あいつ、今シャワー浴びてるからさ、ほらこれ」
スチュワートは車のキーをダニーに渡した。
「でも、これ・・」
「この辺はタクシーが通らないから、オレの車で今のうちに帰れ」
「お前、明日どうやって出勤するん?マーティンも一緒やのに」
「マーティンか・・とりあえず地下で待ってろ、すぐ行くから」
ダニーは言われたとおり地下に降りた。
車の中で待っているとスチュワートが降りてきた。
「オレ、ドーナツ買ってくるって嘘ついたんだ」
少し後ろめたい悩ましい表情にダニーはドキッとする。
「お前、腹減ったろ?」
「あ、オレ、チョコバー勝手に食べた。ごめんな」
「あのチョコバー、賞味期限がとっくに切れてたぜ?大丈夫かよ」
「げぇー、嘘やろー!」
「ああ、嘘さ。買ったばかりだから心配ない」
スチュワートはにんまりすると手をつないだ。
ダニーをアパートまで送ると、スチュワートは猛スピードで帰っていった。
しばらく見ていたが、あっという間に見えなくなった。これからドーナツを買って帰るのだろう。
あー、しんど、疲れたわ・・・ダニーは欠伸をしながらエントランスのロックを開けた。
「ダニー、ドクター・バートンとはどうなってるんだ?」
え・・・振り向くとボスがにやけていた。
ダニーは思わず顔が強張る。
「ボス!なんで!こんなとこで一体何を?」
「お前が帰ってくるのを待ってたんだよ。マーティンと一緒だと思ってたのに、バートンとは・・」
ボスはにやにやしながらダニーの出方を見ている。
「トロイとはたまたま会うただけですよ」
「そうか?随分親しそうに見えたがなぁ?キスでもするのかと思ったぞ」
「誰があんなヤツと!見間違いですって!」
きっぱり否定したが、ボスは半信半疑なのか薄笑いを浮かべている。
おっさんに知られたらまたオモチャにされる・・ダニーは眩暈がしそうだった。
ダニーは真夜中に空腹で目が覚めた。隣りではマーティンが小さくイビキをかいて寝ている。
起こさないように静かに起き出し、出しっぱなしになっているミネストローネをレンジに入れると、
一人ダイニングで食べた。まだ空腹が収まらないので、ラビオリサラダにも手をつける。
きっちり半分マーティンが食べ残していた。
その代わりBBQチキンは全部きれいに骨だけになっていた。
思わず苦笑するダニー。
ダニーは歯を磨いてまたベッドに入った。二人は昼近くに目が覚めた。土曜日でよかった。
ベッドの中でくすぐりっこをしているうちに、マーティンのパジャマがテントになった。
「お前、エッチやなー」
「ダニーが感じるところに触るんだもん」
「じゃあ、これはどや?」
パジャマと一緒にトランクスを下げ、ペニスを口に咥える。
「あぁ、ダメだよ、僕、もう出そうだもん・・あ、うぅ!」
ダニーの口の中に精をぶちまけるマーティン。
ダニーは口から吐き出し、マーティンの後ろに塗りたくった。
「入れるの?」
「あぁ、入れるで」
みしっという実感とともにダニーのペニスは飲み込まれた。
中が微妙に蠢いている。
「お前ほんまエロいわ。いつからこんなにエロくなったんや」
「知らない!」
マーティンは枕に顔をつけて、もごもごと答えた。
ダニーが腰を前後に緩慢に動かしていると、マーティンが自ら腰を振ってきた。
まだフランスで受けた性奴隷の記憶があるんやな。
ダニーはマーティンの腰を固定させると、乱暴に動いて射精した。
マーティンの背中におぶさる。背中から降りると、二人で天井を見上げた。
「今日、何する?」
「夏物の買いものかなぁ、お前も来る?」
「うん!」
二人は車で70分かけて「ウッドベリーコモン・アウトレット」まで来ていた。
アルマーニとティンバーランド、ナイキでシャツとパンツを大量に買い込む。
フードコートでビーフボールとブリトーを食べて、マンハッタンまで戻ってきた。
「今日は収穫が多かったね」
「そやな、疲れたわ」
「今日も泊まる?」
「泊まりたいのは山々やけど、今日は俺、帰るわ。掃除もしたいしな」
「そうか、それじゃあ、おやすみ」
ダニーは優しくマーティンの唇にキスをする。
家に戻ると留守電が点滅していた。
「アランだが、明日、ランチに来ないかい?返事待ってる」
すぐさま電話する。
「ごめん、今日ウッドベリーコモンまで行ってた。明日、ランチ行く。
俺がワイン持ってくわ、楽しみにしてる、おやすみ」
結局また二股人生やねん。俺って、やっぱ欲張りやわ。
ダニーは服を脱ぐと、シャワーを浴びにバスルームに入った。
ダニーは冷凍庫からラザニアを取り出してオーブンに入れた。
焼き上がるのを待つ間にシャワーを浴びようとすると、すでにボスがバスルームを占領していた。
今は入るわけにはいかない。ないとは思うが、SEXの痕跡を見つけられたらお終いだ。
「ダニー、一緒に入るか?」
「いえ、結構っす。ごゆっくりどうぞ」
ダニーは言うが早いか素早く退散した。
ほんまやったらトロイと一緒やったのに・・・嘆いてもどうにもならない。
「新しいメイドよりお前のほうがずっと丁寧だ。うちで働くか?」
勝手にマーティンのバスローブを着たボスが出てくるなり言った。
「絶対に嫌!またメイド雇いはったんですね、よかったやないですか」
「まあな、ネズミが出たんで仕方なくだ」
「うぇぇーネズミ!虫より悪いやん!」
「水槽のコードを齧られてな、危うく魚ちゃんが死ぬところだった」
おっさん、あほ?魚の心配してる場合やないやろ・・・
ダニーは焼けたばかりのラザニアをテーブルに置いた。
「おい、もっと焦げかけまで焼いてくれ」
「・・はいはい」
勝手に人んち来てワガママ言うなよな・・・
ダニーはムッとしながらラザニアをオーブンに戻す。
「ボス、冷めるんでお先にいただきます」
ダニーはボスの分を待つことなく食べ始めた。
ボスはラザニアを食べ終わってもまだ帰らない。
「ボス、そろそろ帰らはったほうがええのと違います?」
「ああ言い忘れてたが、三日ほど世話になる」
「へ?三日て?」
「ネズミ駆除のために部屋を消毒してるんだよ。ホテルよりここのがいい」
「いや、そんなん困ります。明日からはホテルに泊まってください」
「お前は冷たいなぁ」
「とにかく今日だけです!ボスはソファで寝てくださいよ、嫌なら帰ってもらいますからね」
ダニーは、クローゼットからブランケットを取り出すとボスに渡した。
「わかった、ソファで我慢する。明日はマーティンに世話になるからな」
「どうぞどうぞ、あいつも喜ぶでしょうよ」
「まったく、お前は可愛げがないな」
「おやすみなさい、パパ。これで満足?」
「ああ、満足だとも。おやすみ、ダニー」
ニヤニヤした二人は、お互いのほっぺにキスをした。
夜明け前、ボスはダニーのベッドに忍び込んだ。
マットが軋んで傾いだが、ぐっすり眠っているダニーは気づかず眠り続ける。
うなじに息がかかってくすぐったい。
寝返りをうつと横にいたボスに抱きつかれた。
寝ぼけたダニーはマーティンだと勘違いし、抱きしめられたまま眠り続けた。
ボスはダニーのトランクスに手をやるとペニスを握った。
羨ましいくらい勃起している。自分のモノは柔らかいままだ。
嫉妬まじりに手を上下させるとダニーが微かに喘いだ。
「ぅぅ・・ぁ・・ぁ・ぅ」
ぬるつくペニスに自分のペニスを重ね合わせて擦る。
ダニーは前触れもなく果て、ボスの半勃起のペニスも一瞬大きくなるとそのまま射精した。
満足したボスは、精液でベトベトの手をダニーのトランクスで拭い、何もかもまるでなかったように目を閉じた。
朝、ダニーが目覚めると隣でボスが眠っていた。軽くいびきを掻きながらよく眠っている。
一体いつの間に?オヤジ臭がするからベッドで寝るなって言うてるのに!
何気に首の辺りに顔を近づけてみると、なんとなく臭う気がしてくる。
もう一度顔を近づけるとボスが目を覚ました。
「うわっ!」
「うん?おはようのキスか?」
「あのねぇ、そんなことしたいわけがないでしょう。それより何でオレのベッドに?」
「さあ、私は知らん」
ダニーはとぼけたボスを無視してトイレに行った。
あれ?オレのチン毛が固まってる、チンチンもべたついてるし・・・なんでやねん?
よく見るとペニスや陰毛だけじゃなく、トランクスもかばかばになっている。
あーっ、おっさんが夜中にいたずらしよったんや!
ダニーはトランクスを脱ぎ捨てるとシャワーで念入りに体を洗った。
ビル・トレバーから仮縫いのアポの知らせが来た。
「アラン、いつ行く?」ダニーが尋ねる。
「そうだな、今度の土曜日はどうだい?」
「ん?ロバートのトレーニングはええの?」
「あいつは首にしたから」
「何かあったん?」
「相性が悪かったのさ」
アランはそれ以上語らず、土曜日に行くとビルのアシスタントに電話した。
ダニーはシングルズ・バーに通うのをぴったり止めた。
正直、女とワンナイト・スタンドを2度ほどしてみたが、虚しさが残るだけだった。
それより、アランとの修復期にあると実感していた。
マーティンとも夜を過ごせばセックスする仲だし、何しろ同志だ。
離れる事が出来ない。それはそれで、悩みがないわけではないが、生活にハリが出てきたのは確かだ。
今度、内部監査に合っても、言い負かしたる!
気力充実で、毎日支局に出勤していた。
マーティンは、ニックの家に通っていた。
俳優の兄がハワイから戻ってきて以来、ふさぎこみがちのニックを励ましていた。
「ねぇ、デリバリーばっかり食べてないで、外食しようよ、ニック」
ベッドでごろごろしているニックに話しかける。「あぁ、そうだな」
ニックはやっとベッドから起き上がると、トランクスを履き、下に降りてきた。
「はい、お水」かいがいしく世話をするマーティン。
「早く着替えて、さぁ、出かけようよ!」
ニックはのろのろとTシャツとジーンズを身につけるとレザージャケットを羽織った。
久しぶりにチャイナタウンの「ジョーズ・シャンハイ」に出かけて、思う存分飲茶を満喫する。
ニックは例によってサングラスをはずせない。
紹興酒をぐいぐいあおるので、帰りはアウディーをマーティンが運転するハメになった。
おっかなびっくり運転するマーティンに、ニックは大笑いした。
良かった、ニックが少し元気になった。マーティンは微笑んだ。
家に入るとぽいぽい洋服を脱ぎだすニックをバスルームに連れて行く。
「お前も一緒に入れよな」マーティンは裸になると一緒にシャワーを浴びた。
ニックの均整の取れた美しい裸を見ているうちに、マーティンのペニスがむくむく首をもたげてきた。
「お前、いやらしい奴だな」恥ずかしそうな顔をするマーティン。
「ベッドに行こうぜ」ニックがマーティンの手をぎゅっと握ってベッドへと誘った。
ベッドでのニックは、野獣のようだった。
マーティンの治りかけた傷の上をなぞるように、舌でまさぐり歯型をつける。
「ちょ、ちょっと、やめてよ、痛い!」
「お前、痛いのがいいんだろ!」
マーティンを四つんばいにさせると、準備の出来ていないアヌスにずぶっとペニスを突き刺した。
「うわぁー!」
マーティンの悲鳴がこだまする。ミシミシと局部が裂ける感触に鳥肌をたてるマーティン。
そのままニックは腰を打ちつけ、自分勝手に果てた。
マーティンもニックの痙攣を感じ、射精した。
こんなの嫌だよ、ニック。僕、やっと治ってきたのに。
局部から血をだらだら流しながら、マーティンは枕につっぷして涙した。
勤務が終わると、ボスはマーティンをオフィスに呼んだ。
マーティンは浮かない顔で出てくると、すがるような目でダニーを見つめる。
「ダニィ・・・今日は一緒に帰れないね」
マーティンはぐずぐず帰り支度をしている。
「心配ない、他に行くとこないんやから。性悪なんかしいひんわ」
「ん・・じゃあ、僕、行くね」
ダニーは、マーティンとボスが帰ったのを見届けると支局を出た。
ダニーは帰りにミッドタウンのフルートに行った。
スプマンテを飲みながらピスタチオをつまんでいると、スチュワートが入ってきた。
ダニーを見つけると横に座る。
「遅れてすまない。今日もやばいんじゃないのか?」
「オレはお前に会いとうて呼んだんや」
スチュワートはフッと笑うと同じものをオーダーした。
二人は何も言わずに飲み干すと、チェックを済ませて足早に店を出た。
二日連続でピザなんて嫌だと言うスチュワートの意見を却下し、ダニーは昨日食べ損ねたピザにがっつく。
昨日のことを思い出すと不意に笑いがこみ上げる。
「テイラー、何にやついてんだよ?」
「なんもない、思い出し笑いしてるだけや」
「いやらしいな、お前」
「あほ、お前の慌てぶりを思い出したら笑いも出るわ」
「お前だって顔面蒼白だったくせに!」
二人は昨夜のお互いの様子をからかいあった。
ベッドに入ってキスしていると携帯が鳴った。
「誰やねん・・あっ、マーティンや!」
ダニーは軽く咳払いすると電話に出た。スチュワートは興味深そうに眺めている。
「はい、テイラー」
「ねぇ、ジョシュから連絡あった?」
「ジョシュ?」
「ほら、僕のアパートのこと」
「ああ、あれな、まだない。そんなに早く見つかるわけないやん」
「そっかー、誰か引っ越してくれないかな」
「ボスは?」
「いるよ、代わろうか?」
「いらんわ!また明日な、おやすみ」
ダニーは電話を切るとフーっと大きく息を吐いた。
「マーティン、何だって?」
「あいつな、屋上付きのアパート探してんねん」
「なかなかないだろ」
「それがあったんやけど殺人部屋やってな、そんなん嫌やろ」
「オバケが出そうとかってびびったんだろ?あいつ、かわいいな」
「あほか、オレだって嫌や。気色悪い」
「ここもそうなんだぜ」
「嘘やろ?」
「本当さ、不動産屋の話だと屋上から飛び降りて死んだらしい。厳密には殺人じゃなくて自殺だけど」
「お前、よう平気で住めるなぁ・・変態か」
「バカ、オレは医者だぜ、人の生死には慣れてる」
ダニーは少しスチュワートから離れた。
「おい、引くなって!」
「なんかが憑いてそうで嫌やわ」
スチュワートはダニーの手をぐいっと引っ張ると、羽交い絞めにして押さえつけた。
ダニーはグリーンの瞳にじっと見つめられると何もかもどうでもよくなってくる。
視線を交わしているだけで、すでに下半身は勃起しかけていた。
「お前、期待してるだろ?」
「何が?」
「とぼけても無駄さ、すごく欲しそうな顔してる」
ダニーが何か言いかけると、スチュワートはキスで口を塞いだ。
スチュワートは、唐突にディープキスをやめると横にどさっと寝転んだ。
「トロイ?」
「ごめん、本当はしたいんだけどさ、今日は疲れてるんだ」
「そやな、昨日の今日やもん」
ダニーはスチュワートの手にそっと触れた。冷たい手がしっかりと握り返してくる。
「物分かりがいいお前なんて、なんだか不気味だ」
「なんでやねん!もう寝るで」
ダニーはふくれっ面をすると抱きしめてもらえるとわかっていた。
わざと拗ねた振りをするとそのとおりになり、にんまりしながら目を閉じた。
マーティンは局部から出血がおさまらず、タオルを当てると、
がーごー寝ているニックを起こさないように、服を着て、ニックの家を出た。
流しのタクシーをやっとのことで拾うと、市立病院のERに向かった。
トムが医局の中から出てきて近寄ってくる。
「やぁ、マーティン、今日は何だ?」
「外傷です、早く見て欲しい」
「処置室3号へおいで」
パンツをトランクスごと脱いで病院着に着替える。
トムのなめるような目線が痛い。
「なんだよ、その血染めのタオルは。まだやってるのか、ラフプレイ?」
「思いがけず、そうなっちゃったんだ、僕はもうやりたくないんだよ」
「早くベッドに横になって立てひざしろ」
局部をまじまじと見られて、恥ずかしくて目をあけていられない。
妙齢の看護師にガーゼを持ってこさせるトム。
マーティンは恥ずかしさで顔を手で覆った。
「止血用の軟膏を塗るからな。処方箋も出しとくから、ナプキンに塗っておけ」
軟膏を指に取られてアナル周辺に塗られる。
「うぅ、あん、あーん」
「おい、お前、感じすぎだぞ」
トムは目じりにシワを寄せて笑った。
「ごめんなさい」
「またおいで。家でもいいから」
「はい、ドクター」
マーティンはナプキンの違和感に歩きにくそうにしながら、
タクシーを拾ってアパートに戻った。
ドアマンのジョンが「テイラー様がお待ちです」と耳打ちした。
まずいよ、こんな時にダニーに会うなんて!
部屋のドアを開けると、ダニーがソファーで熟睡していた。
明かりで目を覚ますダニー。
「ボン、おかえり、遅かったな」
「うん、ちょっとね」
「なんや、その歩き方!」
ダニーは笑ったが、次の瞬間「お前、もしかして?」と複雑な表情になった。
抱き締められ、パンツを脱がされる。
「ナプキン当ててんのか?誰にやられた?」
「ニック・・・」
「ホロウェイの奴、今度こそ我慢できへん!俺、会いに行く!」
「ダニー、いいんだよ、僕も悪かったんだから」
マーティンはダニーを止めるのに必死になった。
今のダニーがニックと会ったら、どっちかが、または両方が大怪我しそうだ。
内部監査にあったばかりのダニーに問題を起こして欲しくない。
「お前はもうベッドで寝とき。俺、今日はどうにかなりそや、帰る」
ダニーはマーティンのアパートを後にした。
怒りが収まらない。郵便ポストを蹴飛ばして、タクシーを拾い、ブルックリンに帰った。
ウィスキーを飲みながら、インドカレーのデリバリーを待つ。
ホロウェイ、俺はもう怒った。許さへんで!今度会ったら、どつきまわしてやる!
ダニーの心はニックへの怒りで真っ赤に燃えていた。
そや、電話したろ!
「うぅん、ホロウェイ」
「テイラーや。お前とそろそろ会わんとな」
「何だよ、夜中に。俺は眠いんだ」
「お前にマーティンを抱かせたくない、金輪際な」
「馬鹿言え、あいつが俺に惹かれて来るんだ。出来るもんなら止めてみろ」
ガチャン。切りおったわ。ダニーも携帯を部屋の向こう側にぶん投げた。
ダニーはマーティンのためにチョコチップマフィンを買ってから出勤した。
デスクで先に食べているとボスとマーティンが来た。
ボスはマーティンの肩をポンとたたいてからオフィスに入る。機嫌が良さそうだ。
「マーティン、おはよう。それ食べ」
「僕に?ありがと」
マーティンは最初にチョコチップだけむしると口に入れた。
「ねぇ、今日はダニーと一緒に帰ってもいい?」
「ん、ええよ。そうや、ちょっと来い」
ダニーは席を立つとトイレに行った。マーティンも少し遅れて入る。
中の個室をくまなくチェックすると、マーティンを抱きしめた。
ぎゅっとしがみつくマーティンにそっとキスする。
「ダニィ、寂しかったよ」
「知ってる、オレもや」
二人はもう一度キスをしてからトイレを出た。
マーティンはスチュワートにランチに誘われた。
気を遣ったダニーは断わるマーティンに行くように薦め、一人でランチを食べた。
昼休みが終わって戻ってきたマーティンを見て、サマンサが笑い出した。
「ん?サマンサ、どうしたの?」
「鏡見なさいよ、大変なことになってるわよ」
「え?」
差し出された鏡を見ると唇が真っ赤に腫れていた。キスして吸いすぎたのがバレバレだ。
わー何だよ、これ!恥ずかしいよ・・・マーティンは顔が赤くなった。
「昼休みにそんなことしてるなんて・・いけないんだー」
からかうサマンサにあれこれ言い訳しながら席に着く。
「ち、違うよっ、ハラペーニョが辛かったから・・」
「どうだか!ねぇ、ダニー?」
「さあな、オレにはようわからん。今日は暑いなぁ、ほんま暑いわ」
ダニーはちらっと見ると仕事に戻った。マーティンは耳まで赤くなっている。
帰る頃にはマーティンの唇もほとんど目立たなくなった。
二人はグランドセントラルのオイスターバーで食事をしてから帰った。
アパートのドアを閉めるなり、ダニーがマーティンを壁に押しつけた。
「マーティン」
ダニーはしつこく舌を絡め、むさぼるように唇を吸う。
マーティンも目を見つめながらキスに応えた。
二人の手は自然とお互いの服を脱がせる。
慌しくパンツとトランクスを同時に下ろすと、二人とも大きく勃起していた。
ダニーははだけたシャツの隙間から乳首に触れ、舌で乳輪をなぞる。
わざとペニスを擦り付けあうと、先端に甘く疼きが走った。
「ぁっ・・・んっ」
「こんなとこで声出したら人に聞かれるで」
ダニーは、喘ぐマーティンの口をキスで塞ぎながらペニスをさらに擦りつけた。
マーティンは跪くとダニーのペニスを咥えて夢中でフェラチオした。
ぴちゃぴちゃと卑猥な音が響く。唾液と先走りでぬるぬるにさせると後ろを向いた。
「僕、我慢できないよ」
壁に手を着いた状態で誘われ、ダニーはペニスをあてがうとゆっくり腰を進めた。
「ぅっ・・ぁぁ・・」
ダニーは腰を掴むと中を掻き回す様に動かした。マーティンのアナルがぐいぐい締めつけてくる。
「あぁっ!んっんぁ!」
大きな声を出され、ダニーは思わず手で口を塞いだ。
そのままぐっと奥まで突き入れ、抜き差しをくり返す。
背中を仰け反らせて悶え狂うマーティン。
塞がれた口からは呻き声が漏れ、いつもと違った乱れ様にダニーも興奮した。
「マーティン、オレあかんわ・・出てまう!」
頷いたマーティンがびくんと痙攣して果てると、ダニーも何度も腰を打ちつけて中に射精した。
二人が果てた後、コツコツと住人の足音が通り過ぎていった。
「・・僕らの声、聞こえたかな」
「わからん」
「いつもよりドキドキしちゃった」
ダニーはペニスを抜くとマーティンを抱きしめた。
マーティンの唇はまた赤くなっている。今度はそっといたわるようにキスをした。
ダニーが支局に出勤すると、マーティンが机の上を小さなブラシで掃いていた。
「おはよ」
「おはよう」
「お前、何やってん?」
「僕の机、食べこぼしが多くて虫が湧くって、清掃係の人に言われちゃったんだ。だからお掃除」
思わず噴き出すダニー。
「何だよ!人が真面目にやってんのに!」
ダニーはちょいちょいと指で合図してトイレに向かった。
誰もいないのを確認して、後から入って来たマーティンに確かめる。
「傷の具合は?」
「もう血も止まったし大丈夫だよ。お願いだから、ニックと会ったりしないでね」
「何でや?」
「ダニーが心配だからだよ。一般人殴ったら停職処分になるかも・・」
「あいつが一般人か?お前をあれだけ傷つけて。俺、昨日、眠れんかったわ」
「ごめんね・・・とにかく、僕は大丈夫だから、ほっといてね」
マーティンはそれだけ言うとトイレから出た。
ダニーが止まってくれるといいんだけど。
マーティンが席で見ていると、ダニーが憮然とした顔でトイレから出てきた。
怒りが収まっていない印だ。やばいなー。
ランチタイムに外に出て、マーティンはニックに電話した。
「うぅぅん、ホロウェイ」寝ていたようだ。
「僕、マーティン」
「よう、どうした。俺が恋しいか?」
「あのさ、ダニーが会おうって言っても会わないでね」
「何だって?俺がテイラーに会う理由があるかよ?」
「とにかく会わないでね、それじゃあ」
マーティンは念押しして、電話を切った。
ダニーにもメールした。「今晩、捜査会議希望」ダニーから承諾メールをもらいほっとするマーティン。
とにかく二人の衝突だけは避けたい。
ダニーを誘ってソーホーのタイ料理「ピープー」で食事をする。
パッタイやソムタム、ヤムウンセンに空芯菜の炒めを頼んで、メコンウィスキーで堪能する。
「お前さぁ、こんな辛い料理食って、悪いんじゃないか、その、なんだ、ケツの穴に」
ダニーが聞きにくそうに尋ねた。
「忘れてたよ。でも大丈夫。慣れてるから」
そう言ってマーティンは後悔した。ダニーの顔色が変わったからだ。
「慣れてる・・ね。そやろうな」
「そんな意味で言ったんじゃないよ」
今のダニーは弾薬庫一杯のダイナマイトのようだ。火を近付けると一気に引火する。
「早く食べようよ、冷めちゃうよ」マーティンはダニーをせかした。
チェックを手早く済ませてタクシーを呼ぶ。
「今日、俺んち来るか?」
「いいの?」
「あぁ、ええで」
二人でブルックリンに戻った。
ダニーは帰ってジャケットを脱ぐやいなや、キッチンからウィスキーを持ち出して飲み始める。
「お前もどうや?」
「僕、水でいい。ダニー飲みすぎだよ」
「大丈夫や」
マーティンはダニーを無視してシャワーした。
バスローブを着て、「じゃあ、僕、ベッドにいるからね」とダニーに言う。
「あぁ、俺も飲み終えたら行くわ」
ダニーは夜中過ぎまでベッドに来なかった。
ダニーが歯を磨いてベッドに入った時、マーティンは深い寝息を立てていた。
ぷにぷにしたマーティンの頬に優しくキスをする。
「うぅん」マーティンがダニーの方を向いた。
可愛い顔して!俺が守ってやらんと、こいつはだめなんや。
ダニーはそんなマーティンを抱き締めて、眠りについた。
ダニーとマーティンがジムで泳いでいるとアーロンが入ってきた。
「よう、アーロン。久しぶりやな」
「本当、久しぶりだね。マーティンとは朝のジョギングで一緒になるよね」
「・・まあね」
「二人とも全然来ないからやめちゃったのかと思ってたよ」
「いや、仕事が忙しかっただけや」
「とにかくまた会えてうれしいよ。それじゃ」
アーロンは隣のレーンで泳ぎ始めた。
「あいつ、めっちゃ早いな。かっこええわ」
ダニーはアーロンのクロールに見とれた。大きくて的確なストロークが美しい。
「あんなヤツ、僕らには関係ないよ!」
マーティンはアーロンを無視して、わざとなのか背泳ぎを始めた。
ダニーも一緒にプカプカ浮かぶ。天井が高くて開放感が気持ちいい。
アーロンの立てる波が時折体を揺するがほとんど気にならない。
不意に体が沈みそうになり、ダニーは慌てて足を着けた。
浮かんでいるうちにうとうとしていたらしい。
あれ、マーティンは?あいつ、どこに行きよったんやろ?
辺りを見回すと、レーンの端でアーロンと何か言い争っている。
ダニーに見られているのに気づいたマーティンは、アーロンを突き飛ばすとプールから出た。
「なぁ、どうしたん?またケンカ?」
ダニーはアーロンに尋ねたが、何でもないと言われた。
アーロンは気まずそうに泳ぎ始めた。何かを隠しているようだ。
二人の様子が腑に落ちないまま、ダニーはマーティンを追いかけた。
マーティンはロッカールームでぼんやりしている。
「マーティン、どうした?」
ダニーの声にびくっとするマーティン。ますます怪しい。
「お前、あいつと何かあったんか?」
「何でもない、心配しないで」
本当のことなんて言えないよ、ダニーに嫌われちゃう・・・・
マーティンは無理に微笑むが、うまく笑うことが出来ない。
「マーティン帰ろ、シャワーは家でいいやん。帰って布団団子でもしような」
「布団団子って・・・」
「あれ、お前の得意技やろ」
ダニーはマーティンの髪をくしゃっとするとさっさと着替え始めた。
シャワーの後、二人はベッドに入ってゴロゴロした。
ダニーは後ろから腕を回すとマーティンのトランクスを引っ張って中を覗き込む。
「ねぇ、恥ずかしいよ」
「たまには普通の状態のチンチンも見たいんや」
「バカ!」
照れくさいマーティンは布団をかぶって丸くなった。
ダニーも布団にもぐりこむと手当たり次第にくすぐる。
「明日さ、ジョギング行くのやめようかな・・・」
「なんで?」
「・・アーロンと一緒になるのが嫌なんだよ」
「お前な、まだ引きずってんの?子供やなぁ」
ダニーはマーティンのおでこにデコピンした。
「ねぇ、ダニーも一緒に走ろうよ」
「オレはええわ。嫌やったら走るのやめとけ」
ダニーはマーティンをぐっと抱き寄せた。
マーティンはダニーの胸にもたれながら明日のことをまだ迷っていた。
DCの本部からXファイル課のジョン・ドゲットがNYにやってきた。
連続殺人犯を追っているらしい。ダニーは伝説の捜査官と言葉を交わしたくて、
ドゲットのデスクに張り付いた。
「俺、貴方を尊敬してるんです。ダニー・テイラーって言います」
「君がダウンタウン・テイラーか」
「俺をご存知で?」
「あぁ、荒っぽい捜査が好みのようだな」
「恐縮です。何か困ったことがあったら呼んでください。俺、すぐ来ますから」
「ああ、ありがとう」
ドゲットはうわさで聞いたとおり、海兵隊仕込みの規律正しい人間だった。
かっこええなぁ。ダニーは思わずぽーっとなっていた。
サマンサがダニーの目の前で書類を振る。
「ダニー、目がハート!」
「ほっといてくれ!」
ダニーは顔を赤くすると、PCを急いで操作し、仕事をしているふりをした。
ボスがダニーを呼んだ。
「DCのドゲット捜査官を知ってるか?」
「さっき挨拶しましたけど?」
「お前に聞き込みを手伝ってもらいたいそうだ。こっちの事件はサムに任せるから、行って来い。」
「了解っす!」
うっそやろー、あのジョン・ドゲットと捜査が出来るなんて、夢みたいや!
ドゲットに連れられて外出するダニーの後姿を、じっとマーティンは見つめていた。
支局の車を運転するダニー。
「俺は土地勘がないから、よろしく頼むよ、ダウンタウン・テイラー」「了解っす」
「まず、バス・ターミナルへ行ってくれ」「はい!」
ボスを隣りに乗せる時より緊張する。
バス・ターミナルの後もブロンクス、ブルックリンと安宿が集まった場所のホテルで聞き込みを行う。
結果、残念ながらドゲットが追っている殺人犯は、ブルックリンのモーテルをチェックアウトした後だった。
モーテルの主人にラガーディア空港までのタクシーの値段を尋ねていた。
もうNYにはいないだろう。
「支局に戻ろう」ドゲットはきっぱりと言った。
二人が戻ると、マーティン以外はもう帰った後だった。
「ドゲット捜査官、今晩は、どうされるので?」ダニーが尋ねる。
「振り出しに戻ったから、とりあえずここに泊まって明日DCに戻るよ」
「じゃあ、食事でもどうです?」
「あぁ、有難いな。一人で食うのも飽きたところだ」
二人で話していると、マーティンが寄ってきた。
「初めまして、ドゲット捜査官、僕、マーティン・フィッツジェラルドです」
「あぁ、副長官のご子息か」「はい」
ダニーが「今、飯食う話してたんや、お前もどや?」とマーティンを誘う。
ドゲットも頷いている。
「はい、喜んで!」
3人でミッドタウンの「ベン・ベンソンズ」でステーキを食べる。
カベルネ・ソーヴィニオンが進むうち、ドゲット捜査官の口も滑らかになってきた。
ダニーと二人で捜査手順の談義を戦わせている。
マーティンは、すぐに誰とでも打ち解けられるダニーが羨ましくて仕方がなかった。
食事が終わり、「会えて嬉しかったよ、二人とも。失踪者捜索がんばってくれ」と
ドゲット捜査官は、タクシーを拾ってホリデイ・インに向かった。
いつまでもタクシーを見送るダニー。
マーティンがダニーのお尻をきゅっとつねった。
「いて!何やのん?」
「そんなにドゲット捜査官がいいなら、一緒についていけばよかったじゃん!」
「あほ!ただ尊敬しているだけや。その他の感情はないわ」
「嘘だ、ダニーの顔に書いてあるよ!」
「お前、考えすぎ!ほな、お前ん家に帰ろ」
二人はタクシーに乗ったが、お互いそっぽを向いて座った。
翌朝、マーティンが起きてもぞもぞしているとダニーも目を覚ました。
「おはよう」
「ん・・おはよ・・やっぱ今日も走るん?」
「うん。ダニーはもう少し寝なよ」
「いいや、オレも行く」
ダニーは眠くてくっつきそうな目をこすると、気合を入れてベッドから出た。
セントラルパークまでの道のりを走っていると、途中でアーロンと一緒になった。
「やあ、おはよう。今日はダニーも一緒なんだ?」
「ああ、オレら一緒に住んでるから」
マーティンは思わずこけそうになった。アーロンも驚いている。
「へぇ、そうなんだ。知らなかった・・」
「みんなには内緒やねん。なぁ、マーティン」
「う、うん・・」
「ほな、またな。おい、ベーグル買うて帰るぞ」
ダニーはマーティンを呼ぶとアーロンに手を振って別れた。
「ダニー?」
「ごめんな、あいつがゲイやってこと忘れてて。お前になんかされたらオレ嫌や」
マーティンは黙って首を振った。嬉しくて自然とにんまりしてしまう。
「何にやけてんねん!」
「だって嬉しいんだもん」
「いつも言うてるやろ、お前はオレのんやって」
「ん、ありがと」
「そやそや、ベーグルはお前の奢りやからな」
「僕、お金持ってないよ」
マーティンはきょとんとして立ち止まった。
「え?オレもや・・・帰ろ」
「ベーグル買いたかったなぁ」
「あほ、金持ってないんやからしゃあないやん」
ダニーはがっかりするマーティンを促した。
アパートに帰ってシャワーを浴びながら二人はキスをする。
「アーロン、僕らが付き合ってると思ったかもしれないね」
「いいや、大丈夫や。オレもお前もヘテロやって思てるから」
「ん・・・」
「とにかくあの筋肉バカには要注意や。お前のこと好きみたいやからな」
ダニーはマーティンにキスするとバスルームから出た。
でも、僕はゲイかバイだってバレてるんだよ・・・・マーティンは後ろめたくて顔を伏せた。
支局に着いたが、久しぶりに走ったせいかダニーはもうくたくただった。
ふくらはぎがパンパンに張っていて足が重い。
デスクにうつぶせになっていると、にやにやしたサマンサが話しかけてきた。
「ダニー、夜遊び?」
「ちゃうちゃう、ジョギングしたんや。ちょっと張り切りすぎたわ」
「シャキッとしなさい、男でしょ!」
サマンサはダニーの肩をバシッと叩くと行ってしまった。
マーティンが心配そうに見ている。ダニーは心配をかけないように平気な振りを装った。
「お前いい加減に機嫌直し」
「やだ!ダニーの浮気者!僕、寝るからね」
マーティンはシャワーもせずに、しゃかしゃか歯を乱暴に磨くとベッドに入ってしまった。
何やねん、あいつ!
ダニーは、冷蔵庫を探って、シャルドネが冷えているのを見つけると、一人で飲み始めた。
ドゲット捜査官のネコのような目に見つめられた時、確かに俺は惹かれてた。
それも猛烈に肉体的に惹かれていた。
あの逞しい身体に組みしかれたいと思ってしまったのだ。
マーティンはこういう事になるとやけに鋭い。
ダニーは、シャルドネを飲み続けて、一本開けると、シャワーして、マーティンの隣に横たわった。
マーティンはダニーと反対方向を向いて丸くなって眠っていた。
ダニーは背中からマーティンを抱き締めたが、ゆっくりと手を払われた。
「起きてんのか?」
「うん、眠れない」
「なぁ、もうええやろ。ドゲット捜査官は明日はDCやで、もう会う事もないやろ」
マーティンはがばっと寝返りを打つと、ダニーをきつく抱き締めた。
「ねえ、僕だけのダニーになってよ。もう僕、疲れちゃったよ」
「また、その話か、今度ゆっくりしような、早く寝よ、明日も早いで」
マーティンはきつい目でダニーを見つめていたが、諦めたようで、また背中を向けてしまった。
ボンもこうなったら頑固やからなぁ。
ダニーは頭をぽりぽりかいて、静かに目をつむった。
朝、目が覚めると、マーティンの姿がなかった。
キッチンもバスルームも捜したがいない。
いつも通勤で使っているバックパックが無くなっている。
あいつ先に行ったんや!相当怒ってんな。どうすりゃええんや。浮気もしてへんのに。
ダニーはシャワーをして、地下鉄で出勤した。
スターバックスでチキン・アボカドサンドとダブルエスプレッソを買ってオフィスに着く。
マーティンは、自分の席でマフィンをがっついていた。
「おはよう」
完全に無視された。二人背中を向けて朝食を終える。ボスがダニーを呼んだ。
「ドゲット捜査官から電話があったぞ。随分サービスしたらしいな。お礼を言っていた」
「そうすか」
「お前、誘われてもXファイル課へは行くなよ、あそこは呪われた課だからな」
「・・・」
ダニーは複雑な思いで席に戻った。
あんなに優秀な捜査官なのに問題の課に所属とは、ついてない人や。
さぁ、今日から失踪者捜索に全力尽くすで!
ダニーは早速出勤してきたサマンサから捜査の進行状況を聞いた。
「ねぇ、ドゲット捜査官ってどんな人だった?」サマンサが尋ねる。
「どうって優秀な捜査官やった。大人やし、尊敬できる」
「ダニーは年上に弱いからね、ふふふ」
サマンサが意味深な笑みを浮かべて席に戻っていった。
マーティンがガタンと椅子を鳴らしてトイレに立った。
まだ、怒ってるんや、ボン。どないしよ。
ダニーは途方に暮れた。
書き手1さん
ゲストキャラでドゲット捜査官登場に感激!!
好きなんです、ドゲット?
×「..ドゲット?」
○「..ドゲットv(ハートマーク)」
ハートマークを出したかったのに「?」が出てしまった…orz
マーティンは、帰ってからずっとダニーのふくらはぎをマッサージしている。
ダニーは気持ちよさそうに呻いていたが、そのうち眠ってしまった。
ごめんね、僕のために・・・
マーティンは申し訳なくて泣きそうになった。
足の指も一本ずつマッサージし終わると、灯りを消してベッドから出た。
イーライズでタンドリーチキンやラビオリ、ダニーの好きなオマール海老のスープを買い、
静かに部屋に戻ると、リビングでダニーが誰かと携帯で話していた。
「今日は無理や、ごめん・・・」
マーティンがいるのに気づかず、ダニーは謝っている。
一体、誰に謝ってるんだろう?マーティンは気になって仕方ない。
電話を切ったダニーは大きく息を吐いたが、マーティンに気づいて固まった。
「あ・・帰ってたん?」
「ん、ただいま。さっきの誰?」
「スタニック」
「また?彼とはどういう知り合いなの?」
「オレの連れや。ただそれだけ」
「どうして謝ってたのさ?」
「飲みに誘われたんやけど断わったから」
「ふうん」
マーティンは怪しむようにダニーを見つめる。
「なんやったらオレの携帯見てもええで」
「いい、それより今度その人に紹介してくれる?」
「スタニックに?それはええけど・・」
「嫌ならいいよ。男じゃなくて女かもしれないしね」
「わかった、今度紹介するわ。携帯に電話してもええで、ほんまに男やから」
ダニーは携帯をマーティンに渡した。
ほんまに電話したらどうしよう?ダニーは内心びくびくしている。
マーティンは本当に電話した。ダニーはドキドキしながら成り行きを見守る。
「はい」
「・・あ、間違えました。すみません」
マーティンは、男の声がしたのに安心して電話を切った。
「ほらな、男やったやろ?」
「ん、ごめんなさい」
ダニーの携帯を返すとマーティンはうな垂れた。
「いいんや。腹減ったな、お前は?」
「僕も。デリで適当に買ってきたから食べようよ」
マーティンがカートンを開けようとすると、ダニーがベランダで食べようと提案した。
二人はいそいそと料理を運び、ハイネケンで乾杯する。
「アーロンのアパートってどれやろ?」
「あれだよ、あそこの36階」
「ふうん、かなり近いな。あの筋肉バカ、ここを見張ってたりして?」
「嫌なこと言わないでよ、気持ち悪い!」
「マーティン、キスしよか?あいつが見てたら驚くで」
ダニーは言いながらマーティンを抱き寄せてキスをした。
「本当に見てたらどうするのさ?」
「オレらのこと、あいつに教える手間が省けていいやん」
ダニーはにんまりしながらほっぺにもキスする。
「ここでセックスするのも悪くないな」
「バカ!」
本気にしたマーティンは慌ててダニーから離れた。
「嘘や、嘘。ボンは何でも信じるからかわいいわ」
「ダニーは何するかわかんないからね」
二人は、アーロンのアパートに見せ付けるように、もう一度キスを交わした。
マーティンは全く話をせず、さっさと帰ってしまった。
ダニーは書類整理で30分経って支局を出た。
まっすぐその足で、マーティンのアパートに向かう。
ドアマンのジョンが挨拶をするが、耳元で「ホロウェイ様がお越しでして・・」と言いにくそうに告げられた。
「そか、ありがとな、ジョン」
何や、あいつ!昨日は俺にぞっこんぽかったのに、もうホロウェイと会ってんのか!
マーティンのあほ!
ダニーは、気分がくさくさして家に帰る気がしない。思わずアランに電話した。
「元気だったかい?ハニー」懐かしいアランの声や。
「ううん、それほどでもない。これから、寄ってもええか?」
「ああ、おいで。ちょうど夕食を作っているところだ」
ダニーはタクシーでアッパーウェストサイドに回り、久しぶりに合鍵で、アランのアパートに入った。
「こんばんは」「おかえり、ハニー」
アランがキッチンから出てきて、ダニーをぎゅっと抱き締める。
シャネルのエゴイストの香り。思わず身体が反応してしまう。
「おいおい、食事をしようじゃないか」
気がついたアランに笑われて、ダニーは顔を赤くした。
「今日は何?」「ナスとミートソースのドリアにハーブサラダだ。いいかい?」
「もちろん!」「着替えておいで」「うん」
アランが用意してくれたアディダスの上下に着替えてダイニングに座る。
アランがメルローの栓を開けている。
「乾杯!」グラスを重ねる二人。
「それで、何か悩みでも?」アランの瞳が精神科医のそれに変わった。
「うん、先週、内部監査受けてん。俺が例の事件のトラウマから、
犯人に対して過剰防衛で射殺する癖がついてないかって話や。
聞くだけで腹が立ったわ。俺の人種の事も言われたし。」
「災難だな。例の事件のトラウマはそう簡単には消えないが、君は被害者を救出してるんだろう?
自信を持てよ」
「うーん、そやねんけどな、あとホロウェイを一発殴りたいし・・」
アランは大笑いした。
「何だ、ちょっと会わないうちにドラマチックな展開だな!」
「マーティンとひどいセックスしてんねん、あいつ」
「ほぅ?」アランは目を上げた。ニックは自分の患者だ。
どうして元の路線に戻ったのか訝った。そういえば、最近アポイントも取ってこない。
「人の恋路を邪魔するな。マーティンは何て言ってる?」
「俺がホロウェイを殴ったら停職処分受けるって心配してる」
「それなら、ほっておけよ」
「うーん、それがええんかなー。それはそうと、アラン、このドリアうまい!
イタリアンとちょい違う気がするで」
「あーギリシャ風の味付けだ。気に入ってくれてよかったよ。一人の食事はわびしいからね」
「俺も、一人の食事がわびしい、アラン」
ダニーはつぶらな瞳でアランを見つめた。
「どうだ、また一緒に過ごさないか?住まなくてもいいから」
「ええの?」
「ああ、大歓迎だよ、お前がいなくて寂しかった」
「俺も寂しかったで、アラン」
二人はダイニングをはさんで、立ち上がってキスを交わした。
[お願い]
他の関連スレッドに本スレッドのURLを貼らないでください。
>>647 さん
いつも感想ありがとうございます。
今回の特別ゲスト、気に入っていただけたようで嬉しいです。
665 :
fusianasan:2006/05/13(土) 10:36:58
書き手1さん、やっぱりアランが出てくるとダニーは幸せそうです。
しばらく出番が無かったのでもう出ないのかと淋しく思ってました。
ダニーが幸せだと読んでいる私も幸せ気分になれるので、時々でも
いいですからアランの出演を期待したいです。
書き手2さん、ダニーとマーティンの関係が以前に戻った様になって
いて嬉しいです。周りを取り巻く色んな人がいるけど、やはり二人の
絡みが一番落ち着く気がします。幽霊が出そうな部屋でも同居するの
も面白そうですね。(笑)
ダニーは、マーティンが眠ったのを確認するとアパートを出た。
スタニックは押し付けがましくない。ダニーはそこが気に入っている。
ミッドタウンのスタニックのアパートに着き、インターフォンを鳴らすとすぐに開けてくれた。
「ダニー、やっぱり来てくれたんだ!」
スタニックはぎゅっと抱きついた。ダニーも戸惑いながら同じように抱きしめる。
「今日は話があって来たんや」
ダニーはソファに座るなり切り出した。
「悪いけど、お前とはもう会われへん」
「えっ・・・・」
「さっきの電話聞かれててな、怪しまれてるんや」
スタニックはしばらく黙っていたが、マーティンのことを話した。
「ダニーの彼、また違う人と来てた。それでも許せるの?」
「・・オレにとってあいつは特別やねん。それにな、オレかてほんまは浮気してばっかりや。
お前とも寝てるし、女とも浮気してる。オレのほうがあいつより酷いんや」
泣きそうなスタニックは唇を噛みしめた。
「・・・ダニーが遊びだってことはわかってる。遊びでもいいから抱いてよ!」
必死にしがみつかれ、困ったダニーはため息をついた。
思いつめたような目で見つめられ、どうすることもできない。
「お前な、ほんまに遊びでもかまへんの?他に誰か探したほうが」
最後まで言い終わらないうちにキスされた。ダニーは渋々舌を絡ませたが、
乱暴に抱くことであきらめさせようと考え、キスをやめるとペニスを突き出した。
「おい、咥えろ」
スタニックは驚いていたが、ぎこちなくフェラチオし始めた。
「もっと舌を使え、裏筋も舐めろ」
ダニーは容赦なく頭を押さえつけて腰を動かした。涙目のスタニックはじっと耐えている。
かわいそうになったダニーは、口からペニスを抜くと思いっきり抱きしめた。
「ごめん、ごめんな・・オレなんかやめとけ!」
「嫌だ!お願いだよ、ダニーの邪魔はしないから・・・」
「なぁ、オレのことなんか好きになっても不幸になるだけやで・・・」
「それでもいい」
「そや、女とはどうなった?まだ付き合うてるんか?」
「ううん、あれからすぐに別れた」
あかんわ、こいつ、完全にゲイになってしもてる・・・
「なぁ、たまには女と寝てみ、また感覚が戻るかもしれんやろ」
スタニックは首を振るとダニーにしがみついた。
なんか、女と別れるより難しいな・・・
一途に思っていてくれているのがわかるだけに、何も言葉が思い浮かばない。
ダニーはしがみつくスタニックの背中を抱いたまま途方にくれた。
蝋人形のような顔色は、ショックで青白くなっている。
「もう寝るか?顔色悪いで」
スタニックは黙ったまま微動だにしない。
「オレも一緒に寝るから、な?」
ダニーはベッドに連れて行くと布団をかけてやった。
「・・帰るの?」
「いいや、窮屈やから服脱ぐわ」
ダニーはワイシャツもパンツも脱ぎ捨てた。靴下も丸めて放り投げる。
Tシャツとトランクスだけになるとベッドに入った。
「オレ、今日は泊まるから」
スタニックは安心したのか、頼りない笑顔を浮かべた。
「ほら、寝るで。おやすみ」
ダニーはしっかりと手をつなぐと灯りを消した。
お互いに眠っていないのが息遣いでわかる。
つないだ手に力を込めると同じように返ってきた。
「寝れんの?」
「うん、ダニーも?」
「ああ」
「・・遊びでも性欲の処理でもいい、ダニーの好きなようにしてもかまわない、だから・・何でもするから・・」
「あほっ、そんなん言うな!」
スタニックは小刻みに震えている。ダニーは思わず抱きしめていた。
そこまで言わせた自分自身が心底情けなかった。
ダニーの携帯が鳴った。マーティンからだ。
あいつ、何で起きるねん!放置していたが、携帯はいつまでも鳴り続ける。
「ごめん、オレ出るわ」
ダニーは断わって携帯に出た。
「ダニー、どこにいるの?」
「スタニックと飲んでるんや。どうした?」
「トイレに起きたらいないんだもん。・・ねぇ、本当にスタニックって人と一緒?」
「ああ、二人で飲んでる。今日はスタニックんちに泊めてもらうわ」
マーティンはスタニックと話したいと言い出した。
ダニーは携帯をスタニックに差し出した。「・・お前と話したいって」
「えっ、オレと?・・・はい、何か?」
「あ、あの・・ごめんなさい、もういいです」
マーティンは何を言えばいいのかわからずパニクった。
「えっと、ダニーに代わるね。ダニー、もういいって・・」
「ん?なんやねん、お前。オレが言うたとおり男やったやろ?」
ダニーは携帯を切るとスタニックに謝った。
「あいつ、オレが他の男と寝てるって知らんねん」
「そうか、それでオレのことも疑わないんだ」
「ああ、オレの浮気相手は女だけやって思てるから」
「・・本当に朝まで一緒にいてくれる?」
「おう、朝ごはんまで一緒や。さ、寝よう」
くそっ、今日は別れ話しにきたのに、オレは何やってるんや・・・
ダニーは目を閉じたもののなかなか眠れなかった。
>>665 感想ありがとうございます。
ダニーもマーティンもお互いに秘密を抱えたままですが、
愛し合っているのは確かですもんね。喜んでいただけてよかったです。
ダニーはアランの大きなベッドで目を覚ました。
アランは隣りでゆっくりとした寝息を立てている。
そや、朝めし作ったろ。
シャワーを浴びた後、久しぶりにアランのキッチンに立つ。
いつも同様綺麗に整頓された気持ちのいいキッチンだ。
冷蔵庫から卵とベーコン、チーズを出して、オムレツの準備をする。
コーヒー豆を挽き、コーヒーメーカーを仕立てる。
アランが目を擦りながら起きていた。
「ハニー、おはよう。朝食かい?」
「うん、シャワーでもして待っててな」
「楽しみだ」
こんな些細な会話も楽しい。バスローブを羽織ってアランが出てきた。
キッチンに立っているダニーを後ろから抱き締め、キスを交わす。
「美味そうだ」
「ダニー特製オムレツやねん、待っててな」
トースターの食パンも焼けた。二人の土曜日の朝が始まる。
「うん、美味い」
「ありがと、アラン」
「今日はビルのアトリエに行く日だよ、覚えてるかい?」
「あ、そやったな、スーツ楽しみになってきたわ」
二人は1時ごろビルのアトリエに出向いた。ビルとアシスタントが待っていた。
「二人ともさえないかっこねぇ、あたしが変身させてあげる」
ビルの毒舌に思わず苦笑する二人。
ダニーは茶系、アランは紺系のジャケットに袖を通し、パンツを身につける。
「うん、いい感じだわ。二人のイメージにぴったり。ねぇ、あんたたち、ビジネスラインの広告ページに出ない?」
ダニーは途端に困った顔になった。
「俺、仕事柄無理やねん」
「あら、そうなの?アランは?」
「僕も遠慮するよ、モデルに着せろよ」
「なんかモデルだと違うのよね、ビジネスの香りがしないのよ。
あんたたちみたいな本物のビジネスマンが欲しいわ。残念!」
仮縫いは1時間で済んだ。
二人は遅めのランチを食べにチャイナタウンに出かけた。
「グレート・ニューヨーク・ヌードルタウン」でピータン入りお粥と魚入りお粥、
中国野菜のオイスターソース炒めと焼きソバを頼んだ。
アランは、ピータンを嫌がるダニーに無理やりひとかけら食べさせた。
「うーん、あれ、思ってたよりえぐくない。美味いわ」
二人はお粥と取替えっこして食べた。
「これからどうする?」
「俺、いったんブルックリンに帰るわ。また夜、会える?」
「もちろんだよ」
アランはダニーを送ってブルックリンに車を回した。
緑色のジャガーがやけに目立つ。
「それじゃ、また今晩な」
「迎えに来るよ、8時でいいかい?」「うん」
二人は車の中で軽くキスを交わすと、別れた。
ダニーは部屋に入って驚いた。マーティンがソファーで転寝していたからだ。
「おい、ボン、起きろ」
「あ、ダニーお帰り」目に涙を溜めている。
「どうした?」
「僕、どうにかなりそうだよ!」
そういうとセーターを脱いでシャツのボタンをはずす。
上半身に残る噛み跡。
「ホロウェイやろ、俺、昨日お前んちに行ったんやで」「え?」
「お前もはっきりせいよ、俺なのかホロウェイなのか。そんなセックス、俺には出来へん、ごめんな」
「ダニー・・・」
「俺にはお前の考えてる事が分からへんのや。俺がいいって言っておきながら、
すぐにホロウェイと寝るお前がな」
マーティンはうつむくと、服を調え、「じゃあ、帰るよ」とつぶやいた。
「あぁ、今日は話す気になれへん」ダニーはマーティンを帰した。
あいつ、何やねん、俺とホロウェイを競わせるつもりやろか。
ダニーは全く理解が出来なかった。
>>665 さん
いつも感想ありがとうございます。
自分もダニーが幸せそうなのが一番好きです。
アランとは今日のストーリーの通りになりました。
また感想をお願いします。
ダニーが目を覚ますと、スタニックの姿はなかった。
おなかを掻きながらベッドルームを出ると、コーヒーの香りが漂っていた。
「おはよう、アレルギーある?」
「え、いや、ないけど・・」
いきなり尋ねられ、きょとんとするダニー。
「よかった、朝食が出来るまでにシャワーどうぞ」
ダニーは言われるままバスルームへ行った。
置いてあったバスローブを着てキッチンへ行くと、スタニックがオレンジを搾っていた。
テーブルには、生ハムとアーティチョークのバゲットサンドとルッコラのサラダが並べてある。
「おー、めっちゃうまそうやん」
「味は保証できないけどね」
スタニックはてきぱきオレンジジュースとカフェオレを置いた。
「オレ、こんなん作ってもらうの初めてや」
ダニーは早速がっつき、おいしいを連発した。
スタニックは照れくさそうにはにかんでいる。
バゲットサンドを食べ終わると、ブリオッシュでバニラアイスを挟んだものが出てきた。
かじるとほんのりラム酒の風味がする。
マーティンに作ってやりたくなったダニーは、悪いとは思いつつレシピを聞いた。
スタニックは着替えるダニーをじっと見つめている。
「ん?どうした?」
「もう会えないの?」
「あ・・いや・・その・・・」
寂しそうな顔を見たダニーは言葉に詰まった。
オレ、根性ないわ、はっきりよう言わん・・・
「ごめん、遅れそうや」
わざとらしく時計を見ると立ち上がったが、このまま何も言わずに行くのも気が引けた。
スタニックの様子を見ていると、もう会えないなんて言えない。それに嫌いなわけではない。
「なぁ、オレ・・また来るわ」
「本当?」
「ああ、約束や」
スタニックは驚いていたが、すぐに笑顔になった。
ダニーはそっと抱きしめるとアパートを出た。
支局に着くと、マーティンがこそっと目くばせした。ダニーは少し遅れてトイレに入る。
「飲み会どうだった?」
「別に、普通」
「僕、ダニーが着替えに帰ってくると思ってた」
「ほんまはオレもそうしようと思てたんやけどな、ヒゲ剃る間もなかったから」
ダニーはわざとらしく頬に触れた。伸びたヒゲがチクチクする。
「ほら、触ってみ」
マーティンの手を引っ張ってほっぺに触らせ、後ろめたさを隠すためにキスをすると先に出た。
ダニーはアランの家から出勤した。地下鉄の駅でマーティンに出会う。
「おはようさん」「おはよう」
マーティンは、すたすたと先を歩いて行く。
「おい、スタバでコーヒー買わへんか?」
追いかけてダニーが声をかける。
「うん、いいけど・・」マーティンはしぶしぶ従った。二人で行列に並ぶ。
ダニーはダブルエスプレッソ、マーティンはドーナッツとキャラメルマキアートを買った。
「この前はごめんな」
「え?」
「俺も言いすぎた」
そこまで話すと支局のビルに着いてしまった。
マーティンはダニーの横顔をずっと見ていた。
席につき、ダニーはブリーフケースの中から、ジップロックを取り出す。
アランお手製のピタサンドだ。紙ナフキンに小さな字で「愛してる A」と書いてあった。
思わずにんまりするダニー。
マーティンはそんなダニーを見ながら、ドーナッツにがっついた。
「マーティン、シュガーパウダーが落ちてる!」
サマンサが気が付いて、ティッシュを投げてよこす。
「ありがとう」僕って子供みたいだ。
マーティンはダニーの言葉の真意が知りたくて、夕飯に誘った。
トイレに立つと、ダニーが中で携帯で話していた。
「今日、飯食うことになったから、うん、分かった、じゃあ」
マーティンが後ろにいるのを見てぎょっとするダニー。
「アラン?」「そや」言葉短く返事する。
「また一緒に住むの?」
「まだ分からん」
「そうなんだ」
人が入ってきたので、ダニーは携帯をしまってトイレから出た。
またダニーが遠くに行っちゃうよ。マーティンは心の中で嘆いた。
仕事を終えて、二人はミッドタウンの「ブルー・フィン」に出かけた。
前菜のシーフードプラターをシェアし、ダニーはロブスターサラダを、
マーティンはカニのクロケットを頼んだ。
シャブリを飲みながら、ダニーが改めて言った。
「家にいてた時、冷たい事言うてごめんな。俺もイライラしててん」
「僕こそごめんなさい。あんな傷見せる事なかったんだよね」
「お前さ、あんなんしてて、身体、大丈夫なん?」
「致死量まで出血しないし、大丈夫だよ」自嘲的に笑うマーティン。
「何であんなんやってるんや。断れるやろ」
「ニック、お兄さんがハワイから戻ってきてから、ヘンなんだよね。
ずっとふさぎこんでる。だから一緒にいるんだ」
「お前、何でそんなんに付き合うてるねん。突き放せ」
「それは出来ないよ。ニックは僕だけだって言ってくれてるもん」
ダニーは押し黙った。
「専門家の助けを求めるんがいいんやないの?よう分からんけど。トム以外のな」
「ダニーはいいよね。アランがいつも一緒にいるから」
「一度、別れたの知ってるやん」
「でもまた一緒でしょ」
「まぁな」
「ダニーにとっては運命の人なのかもしれないね」
マーティンは淋しそうに言った。
「分からん、さぁワイン飲もうや」
「うん」二人は改めて乾杯した。
「俺にとっては、お前かて大切なんや。それ分かってくれるか?
お前が心配でたまらん。ホロウェイを殴り倒したい気分は変わらん」
「うん、分かるように努力するよ」マーティンは、ダニーの目を見ず答えた。
マーティンは、ニックとベッドでピザを食べていた。
ダニーだったら絶対に許さないんだよな。
ぼっと考えていると、ニックがマーティンの腕を噛んだ。
「痛いよ!」
「好きなくせに」ニックがニヤリと笑う。
今日もまた暴力的なセックスをしてしまった。
ニックにお願いしてローションだけは使ってもらったが、それでも局部が痛む。
「ニックさぁ、前は僕を抱き締めるだけだったのに、どうしたの?」
「・・俺にも分からない。お前を見てると、俺のもんだって印をつけたくなるんだよな、テイラーがいるからかな」
ニックは、ぽつんとつぶやくように言った。
「ニックには僕だけ?」
マーティンが覗き込むように尋ねる。
「あ?あぁ、お前だけだよ、昔の俺とは違うんだ」
「何だか嬉しいな、僕」
マーティンはニックに抱きついた。
マーティンは自分だけを見てくれる人物が欲しいのだ。
ウソでもいいからそう言って欲しいのだ。
「そうだ、俺、車買い替えたんだぜ、今度はフェラーリだ。」
「え、すげー!」
「今度運転させてやるよ」
マーティンは苦笑いした。
「僕、運転だめだから、いいよ」
「お前、仕事で運転してるんだろう?」
「それがさ、サマンサって同僚がいるんだけど、運転させてくれないんだよね」
「お前、バカにされてんじゃねえの?ガツンと言ってやれよ、って言っても、お前には無理だろうな」
「うん、ガツンなんてとても言えない」
今度はニックがマーティンを抱き締めた。
「そういう優しいお前が好きだよ、マーティン。お前がいないと、俺だめだ」
二人はピザをサイドテーブルに置いて、ディープキスを始めた。
ニックがマーティンの股間をさぐるとすでに半立ちの状態だ。
「さっきイカせてやったのに、いやらしい奴だな」
「だって・・」
「自分で立たせてみろよ、見ててやるから」
ニックはブランケットをはぎとって、マーティンの全裸をさらした。
マーティンは起き上がり、右手をペニスにあてがうと前後動を始めた。
「あぁ、うっ、うっ」
すっかり起き上がったペニスの先はぬらぬらと光っている。
「さぁ、イケよ」
マーティンは手の動きを早めた。ぬちゃぬちゃといやらしい音を立てている。
「あん、あ、出ちゃう!」
マーティンは急いでタオルで股間を覆った。
それを払いのけて、ニックが舌で精液を舐め取る。
ニックがそんな事をするのは初めてだ。
温かい口に咥えられて、マーティンはまた甘い吐息をもらす。
「もう、出ないよ」
ニックはマーティンにディープキスする。自分の精液の苦い味がする。
「次は俺の番だ」
マーティンを四つんばいにさせると、ローションをまた塗布して、ニックはずぶっと挿入した。
ニックは、すぐに動きを早めて、ため息とともに果てた。
「お前の体は最高だよ!」
ニックはマーティンの背中からころがり落ちると、天井を向いて満足そうにつぶやいた。
ダニーがボードに張られていた写真を剥がしていると、サマンサが近寄ってきた。
今日は失踪者を無事に保護することが出来、二人とも気楽に軽口を叩ける。
「ねぇ、マーティンって付き合ってる人いる?」
「おいおい、ジェフリーからマーティン坊やに乗り換えるんかいな?」
ダニーは冗談めかして聞いたが、内心警戒している。
「違うわよ。この前マーティンと裁判所に行った時、私の友達が気に入ったらしくて。
マーティンがフリーならセッティングしてほしいって頼まれたの」
「あいつなぁ、あんなやさしそうなボンボンの振りしてるけど、中身はトロイやで」
ダニーはにんまりと卑猥な笑みを浮かべた。
「マジで?嘘でしょ?!!」
「ほんまや、泣かした女は数知れず。大体な、あのトロイの連れやねんで?二人で何やってると思う?」
「あちゃー、そういうことか・・それじゃ紹介するのやめとくわ。あとで恨まれそうだもの」
「それがええわ。その子がかわいそうや」
二人が話していると、聞き込みに行っていたマーティンが戻ってきた。
もぐもぐとソフトプリッツェルをかじっている。
「ねぇ、二人で何話てるの?」
「お前の女遊びの話」
「えっ、僕の?」
「聞いたわよ、まったく!人は見かけによらないわね!」
サマンサはマーティンに一瞥をくれると、コーヒーを取りに席を立った。
「なんかさ、サム、怒ってなかった?」
「サムな、お前がトロイと一緒に女ひっかけてヤリまくってるって思てんねん」
「えーっ、僕とスチューが!なんで?」
「サムがお前のこと連れに紹介したいって言うから、オレが説明したんや。ちょこっと脚色したんをな」
唖然とするマーティンにダニーは続ける。
「トロイとしょっちゅう一緒なんも疑われたら困るやろ。あいつの女癖が悪くてよかったな」
「・・まあね、ありがと」
マーティンは苦笑しながら頷いた。
帰り支度をしていると、マーティンの携帯が鳴った。スチュワートからだ。
「あ、スチュー。うん、空いてるよ。痛てっ!」
急に腕にパンチされ、マーティンは振り向いた。
「女性にお酒をかけられないように気をつけるのね」
サマンサは冷たく言い放つと、不敵な笑みを浮かべて帰っていった。
女ってなんであんなに怖いんだろ?マーティンはサムが去った方向に目を凝らした。
「・・ごめん、何でもない、サムがちょっとね。ん、いいよ。下で待ってる」
マーティンは電話を切るとダニーと目が合った。
「トロイとメシ?」
ダニーはさりげなく聞いた。マーティンがどぎまぎしているのが手に取るようにわかる。
「ううん、その前にスカッシュ。スチューが新しいラケット買ったんだって」
「ふうん、そうか。ほな、また明日」
ダニーが先にオフィスを出ると、下でスチュワートに会った。
「今日はスカッシュだけどお前も来るか?オレのラケット使うといい」
「いいや、オレは行かへん。今日は疲れたから」
ダニーは断わると、そのまま足早に地下鉄の駅まで歩いた。
マーティンは家に戻ると頭を抱えてソファーに座った。
確かにニックとも寝ている自分に、ダニーを責める資格はないとは分かってる。
でも、ダニーが一番好きなんだ。それは1年前から変わらない。
どうしたら、ダニーに分かってもらえるのだろう。
僕は料理も出来ないし、口下手だし、友達も少ない。
そんな僕が頼れるのはダニーだけなんだよ。
これを口に出せたらどんなに楽か。
マーティンは、ウィスキーを棚から出すと、ストレートであおった。
ダニーがアランと一緒にいると思うと、胸をかきむしりたい程嫉妬してしまう。
でも、アランはダニーをとても大きな気持ちで包容している。
そんなアランと競っても勝ち目はない。
もう何度となくシミュレーションした結果だ。
僕は僕なりの愛し方でしかダニーとは接しられない。
マーティンは自分の限界を感じて、ウィスキーをまたあおった。
ニックは自分を必要だって言ってくれる。
僕もその期待に答えたい。だって僕を必要としてるって言うんだもん。
僕ってどっちつかずだ。
喉を焼くようなウィスキーでぼんやりし始めた頭で、マーティンは考えていた。
ダニーはアランの家でくつろいでいた。
リトル・ジャパンの炉辺焼き屋で焼き鳥や焼き魚を日本酒と一緒に堪能して、眠くなっていた。
「今日は泊まっていくかい?」
「ええのん?」
「もちろんさ、明日は土曜日だし。さぁ、着替えておいで」
「ありがとな、アラン」
ダニーは眠い目をこすりながら、パジャマに着替えて、歯を磨き、ベッドルームに向かっていった。
アランは、ネット相談を終え、シャワーをしてベッドに入った。
ダニーは小さなイビキをかいて眠っている。
昼間は強面のFBI捜査官のくせに、寝ている時はこんなに無防備だ。
ダニーをきゅっと抱き締めると、抱き締め返してきた。
ベッドサイドテーブルに置いてあるダニーの携帯が震えている。
着信を見るとマーティンからだった。
ダニーを起こさないようにアランはベッドから出て、リビングで電話に出た。
「ダニー!」
「すまないね、アランだ」
アランはマーティンに思い知らせるために明言した。
「そうなんだ、おやすみなさい」
マーティンはウィスキーで朦朧とする頭で、着替えもせず、ベッドに丸くなってブランケットをかぶった。
ダニーが遠くに行っちゃった・・・
翌朝、ダニーは自分のイビキで目を覚ました。
リビングに行くとコーヒーのいい香りがする。
「今日はベーグルサンドにしたよ」
アランがキッチンから声をかける。
「ありがと、俺いつの間にか寝てたわ」
「疲れてるようだね、またスパにでも行こうか」
「うん、それもええなー」「それじゃあ予約しよう、はい!」
カッテージチーズとサーモンをはさんだベーグルサンドが渡される。
「今日はデイルもはさんでみた。口にあうといいんだが」
「アランの作るもんは、みんな口にあうで」
ダニーはにんまりして、サンドウィッチにがっついた。
二人は同棲していた時と同じ濃密な時間を共有していた。
ダニーが信号待ちをしていると、ボスの車が横に停まった。
窓を開けて手招きしている。ダニーは仕方なく横に乗った。
「ボス、今日は疲れてるんで早く帰りたいんすけど」
「何をカリカリしてるんだ?」
「いえ、ただ疲れてるだけっす」
「まあいい、メシだけでも付き合え」
ボスは車を走らせると、ホテル・エリゼーの前で車を停めた。
ここって!まさかモンキバーやないやろな?
ダニーの嫌な予感は的中し、ボスはダニーを伴ってモンキーバーに入った。
あいにくテーブル席が空いてなくて、二人はカウンターに案内される。
ダニーに気づいたスタニックが、一瞬嬉しそうな笑みを浮かべた。
「おい、あのバーテンダーと知り合いか?」
目ざとく気づいたボスが尋ねた。
「さあ?この前ここに聞き込みに来たから覚えてたんちゃいますか?」
ダニーは無関心を装って答えた。
ボスがトイレに立つと、ダニーはお代わりを口実にスタニックを呼んだ。
「この前はありがとう。おいしかったわ」
「ううん、あんなのでよかったらいつでも作るよ。あの人、ダニーのボス?」
「そう、怖いねん。オレらのこと気づかれたらまずいんや」
ボスが戻ってくるのが見えたスタニックは、素早くドライ・マンハッタンのグラスを差し出すとグラス磨きに戻った。
「お代わりか?おい、私にももう一杯頼む」
ボスはスタニックがダイキリを作る間じっと見つめ続けた。
スタニックは動じず淡々とカクテルを作る。おかげでダニーは安心していられた。
ボスはチェックを済ませると、車のキーをダニーに渡した。
車に乗るなり、ボスがベルトを外したのにギョッとする。
「まさかとは思いますけど、こんなとこで何かやらせる気やないでしょうね?」
「それもいいな。あー、食いすぎた。苦しい」
ボスはおなかを擦りながら呻いている。
「あのねぇ、あんなに食べたら胃にもたれるの当たり前やないですか!」
「うるさい、黙って運転しろ」
「はいはい」
ダニーはグリニッチ・ビレッジまで車を走らせた。
メイドの働きで、ボスのアパートは見違えるようにきれいになっていた。
ボスは熱帯魚にただいまを言うと、ダニーに水を持ってこさせソファにどかっとひっくり返った。
「先にシャワーを浴びて来い」
「いや、オレは帰るんで結構です」
「いいから、早く行け」
あー、早よ帰りたいのに・・・ダニーは渋々言われたとおりにした。
ダニーが体を拭いていると、入れ替わりにボスがバスルームに入ってきた。
「ベッドで待ってろ。お前と寝るのが楽しみだ」
「・・・了解っす」
ダニーは全裸のままベッドに座っていたが、退屈しのぎにクローゼットの鏡に全身を映してみた。
鏡に映った体を見ていると、前よりも少し筋肉がついたのがわかって嬉しくなる。
オレもなかなかやるやん!ジムも効果ありやな!
「ダニー、何やってんだ?」
「え・・いえ」
いぶかしそうにしげしげと見つめられ、慌ててごまかした。
ボスはダニーにペニスを咥えさせたが、半勃ち程度で完全には大きくならない。
「もういい、やめろ。歳は取りたくないもんだ」
不機嫌なままベッドに寝転がると、ダニーのペニスに手を伸ばした。
さんざん嬲られ、先走りの垂れたペニスを意地悪く弄ぶ。
いつになったら終わるんや?ダニーはイキそうでイカしてもらえない。
あかん、頭がどうにかなりそうや・・・・
業を煮やしたダニーはローションのボトルを手に取った。
自分のペニスに塗りたくるとボスの手を引っ張る。
抵抗しそうになるボスにキスをして黙らせると、ベッドに座って背面座位でボスに挿入した。
「うぅっ!」
「ボス、前見て・・ほら、オレら鏡に映ってる」
ダニーが耳元でささやくと、ボスは慌てて鏡から目をそらした。
「あかんて、感じてるとこ見てほしいんや」
耳を甘噛みしながらボスのペニスに手をやると、さっきまでが嘘のように勃起していた。
「あぁっ、私をどうする気だ・・んっ・ぅぅ・・」
「イカしてあげたいだけですよ。大丈夫や、心配ない」
「やめろっ、やめてくれっ!」
「ほんまにやめてもいいんすか?中がめちゃめちゃひくついてますよ?」
ダニーが腰を動かすたびにボスは声を上げて仰け反る。
「ああっ!イクっ・・イキそうだ・・うぅっ!」
ボスは自分で腰を振りながらペニスを扱くと射精した。腹に飛んだ大量の精液が鏡に映っている。
「ボス、すごい締めつけや・・オレもイクで!」
ダニーはボスの体を抱きしめて突き上げ、そのまま中に射精した。
フォーシーズンズのスパのカップルルームを予約したアランとダニーは、午後3時に出かけた。
前回とは別のエステティシャンだが、妙齢で美人の二人が担当してくれる。
ダニーはすぐさま身を固くした。なかなか慣れないもんやな。
アランは我が物顔で、すぐさま紙ショーツを持って、花びらが浮かんでいるジャグジーに入った。
ダニーも遅れをとらないように、急いで全裸になって、ジャグジーに身を沈める。
ダニーの担当のジェニーが部屋の外から呼んでいる。
ダニーは紙ショーツを履くと、ジェニーの待つ個室に入った。
次にアランがケリーに呼ばれて同じ個室に入ってきた。
並んだベッドの上でミネラルパックが始まる。
ダニーは背中にミネラルの泥を塗ってもらうだけで、局部がむくむくしてきた。
「テイラー様、あおむけにお願いします」
「え?あおむけにならなきゃならんの?」
「はい」
ダニーは紙ショーツでテントを張りながら、仰向けになった。
クスっ!ジェニーが笑ったような気がした。
アランは仰向けになっていたが、局部は変化していない。
俺ってやっぱり女と寝たいんかな。
ダニーはパックしてもらいながら、ぼんやり考えていた。
ミネラルパックの後、2時間たっぷりのオイル・マッサージが終わり、二人はシャワーをして着替えた。
「ハニー、反応してただろう。女と寝たいかい?」
アランが帰りのジャガーの中でダニーに尋ねた。
「身体が自然に反応してしもうた。寝たいかは分からん。俺、アランとしか寝ていないし」
シングルズ・バーでのナンパやミゲルやエリックの事を隠して、ウソがすらすらと出てくる。
「僕もお前としか寝てないから、どうなんだろう。前は二人とも女と寝ていたのになあ」
アランは苦笑いした。
「試してみるかい?」急にアランが言い出した。
「何やて?」ダニーは驚く。
アパートに着いて、アランは書斎で誰かに電話をかけていた。
さっきの言葉は本気やろか?ダニーは訝った。
「ダニー、今晩は食事の後、ミッドタウンの「ハドソン」に泊まろう」
「うん、ええけど・・・」
ハドソンといえばデザイナーホテルで業界人に人気の場所だ。
「パーク&スカイテラス」で、シーフードのディナーをシャンパンと一緒に食べ、ラウンジに場所を移す。
アランはファイナンシャルタイムズを右腕にはさんで持っている。
「はぁい、貴方がアランね、こちらがダニー?」
ブルーネットの美女が話しかけてきた。
「君がレイチェルだね?」アランが念を押す。
「そう、レイチェルです。今晩は楽しみましょう!」
アランは、チェックインを済ますために席を立った。
レイチェルと残されるダニー。レイチェルがダニーを上から下まで眺める。
「貴方、まさか女性が初めてのわけないわよね?」
レイチェルがクスクスっと笑った。
「あぁ、ちゃうちゃう。ただこんなん、久しぶりなだけや」
ダニーは所在なげにモヒートをあおった。
ドラマは見た事ないけど、小説楽しませてもらってます。
お二人の文才に拍手!
ダニーは果てた後ベッドに寝転がった。足が痺れてジンジンする。
ボスも放心状態のまま天井を見つめている。
「ボス、大丈夫?」
「ああ。頭の中が真っ白になっただけだ」
「よかった、ぼんやりしてるから頭の血管切れたんか思てびっくりしたわ」
「私はまだそこまで歳ではない。お前の膝上死なんてごめんだ」
「いいや、ボスは重たいからその前にオレの足が死ぬわ」
ダニーは痺れた足をあてつけがましく擦った。
シャワーを浴びて着替えるとダニーは大欠伸をした。
「ほな、オレはこれで」
「帰るのか?泊まればいいのに」
「いえ・・そうや、この前の獣姦DVDってまだあります?」
ボスはニヤリと薄笑いを浮かべた。キャビネットを開けるとDVDを取り出す。
ダニーが覗き込むとエロDVDが所狭しと並んでいた。
「うわー、めっちゃある!きしょい、変態や!」
ダニーは思わずまじまじとボスを見た。
「うるさい!お前こそ、マーティンが知ったら泣くぞ」
「オレがこんなん借りたなんてあいつには内緒ですよ」
「ああ、これもよかったぞ。残念ながらゲイのはないな。あいつは持ってるのか?」
「知らんがな。そんなん聞いたらかわいそうやん」
ダニーは借りたDVDをブリーフケースにしまった。
アパートに帰ってパジャマに着替えると、早速借りてきたDVDを再生する。
獣姦のあとで、ボスお薦めの『夜のサーカス・テントの裏側』を見た。
今夜はマーティンがいいひんから今のうちや、ボスのセンス最高!
画面を食い入るように眺め、結合部分に目を凝らす。
さっきボスとしたばかりなのに、ペニスはまたむくむくと反応している。
少しでも長く楽しみたくて、左手でペニスを扱いて果てた。
朝起きると、足が筋肉痛になっていた。歩くたびに太腿がピリピリする。
ダニーはボスと背面座位をしたことを後悔したがどうしようもない。
地下鉄の揺れと振動から解放されると、カフェで朝食を食べて出勤した。
エレベーターを降りるとボスと一緒になった。
「見たか?」
「ええ、最高っす」
ボスは満足そうにニヤリとすると自分のオフィスへ入っていった。
ダニーはミーティングの間、無意識にサマンサを見ていた。
あのおっさんにハマったってことは、サムもエロいんかな?
素っ裸の二人が絡み合う淫らな映像が頭をよぎる。
うひゃー、ちょっときしょい、あかんわ・・・
ダニーの視線に気づいたサマンサが訝しそうに軽く睨んだ。
ハッとわれに返りミーティングに集中したが、一度浮かんだイメージはすっかり定着してしまった。
勤務が終わって足を引きずりながらアパートへ帰ると、マーティンが来ていた。
「ただいま」
「・・おかえり」
いつもなら抱きついてくるのに、今日は様子がおかしい。
リビングのテーブルの上に重ねて置いてあるDVDを見て、
ダニーは見られたことに気がついた。
「ちゃうねん、これはボスが忘れていったんや。オレのやない」
ダニーは嘘をつくとマーティンを抱き寄せた。
「そっか、獣姦だもんね。よかった、ダニーがおかしくなったのかと思っちゃった」
マーティンはホッとしたのかあどけなく笑った。
ごめんな、マーティン・・ダニーは髪をくしゃっとするとほっぺにキスをした。
>>737 ご感想ありがとうございます。
ドラマを見ていないとのことですが、見ていない方にも楽しんでいただけて嬉しいです。
アランは最上階のスイートを予約していた。3人でエレベーターに乗る。
同乗したカップルが胡散臭そうな顔をして、こっちを見ている。
「見せモンちゃうで」思わず一言言うダニー。アランが笑い出す。
部屋のドアを開けると、ミッドタウンの高層ビル街が見渡せる180度の景観だ。
「素敵な眺めね!それで、どっちからするの?それとも一緒に?」
レイチェルはビジネスライクだ。ダニーは救いを求めるようにアランの顔を見た。
「僕たち、シャワーを浴びるからその間、シャンパンを飲んでいてくれ」
アランはダニーを誘って、広いバスルームに入った。
「俺、アランが本気とは思わんかった」
「余興だよ、余興」
アランはダニーの服を脱がせると、シャワーブースに押し込んだ。
自分も脱いで入ってくる。二人でシャワーを浴びているうちに、ついディープキスしてしまう。
ダニーのペニスはすぐに反応した。
「相変わらず、元気がいいな」アランが笑う。
アランのペニスも半立ちの状態だ。
「それじゃ、行こうか」
二人はバスローブを着て、部屋に戻る。
レイチェルはすでに下着姿でシャンパングラスを傾けていた。
モデルのように細いが胸とヒップは魅惑的なカーブを描いている。
ダニーが買う娼婦とは全く違う上品で知的な雰囲気を持っている。
アランはシャンパンをグラスに注ぐとダニーに渡しながら、キスをした。
「ねぇ、二人だけで楽しむために私を呼んだんじゃないんでしょ」
レイチェルが呆れて言った。
ダニーは「アラン、先にどうぞ、俺、見てる」とやっと言った。
アランが、サイドテーブルにグラスを置くと、レイチェルの下着を脱がせて愛撫を始めた。
俺のアランが女抱いてる。
目の前で繰り広げられている媚態に目が釘付けになった。
アランが胸の愛撫を終え、コンドームを装着すると、レイチェルの両足を持ち上げて挿入した。
動き出すとレイチェルは大げさに声を上げた。アランの顔も上気している。
ダニーは自分のペニスがこちんこちんに固くなっているのに気が付いた。
めちゃ興奮してる、俺。
アランはそのまま動きを早めると、うぅっと唸ってレイチェルから離れた。
次はダニーの番だ。ダニーはグラスを置くとベッドにヒザ立ちになった。
コンドームをつけ、レイチェルを四つんばいにさせると、すぐに挿入した。
胸をまさぐり、乱暴に腰をグラインドさせる。レイチェルは絶叫した。
も、俺、もたへん、だめや!ダニーは身体を震わせるとすぐに果てた。
アランは、ダニーの後ろに横たわると、ダニーを自分の方に向かせ、
今イったばかりのペニスからコンドームをはずして、口に含んだ。
レイチェルが静かにバスルームに消えた。
ダニーとアランは69の体勢をとり、ペニスを愛撫しあった。
二人のペニスに変化が起こる。お互いのプレイを見た後の高揚感が二人を支配していた。
レイチェルがバスルームから出てきた時、ダニーがアランに挿入している最中だった。
レイチェルが服を着ている間に、ダニーはアランの中に精を放った。
「二人で愛し合っている方が良いみたいね。それじゃお支払いお願い」
アランはだるそうに立ち上がると、サイフから700ドル出した。
「サンキュー。お幸せにね。二人とも素敵だったわ」
レイチェルは部屋を去った。
アランはまたベッドに戻り、ダニーにディープキスを施した。
「どうだった?」アランがダニーに尋ねる。
「俺、アランとの方が興奮した」
「僕もだ。どうやら僕たちには、もう女は不要かも知れないな」
二人は大きなベッドに横になり、満ち足りて眠りについた。
>>737 さん
ご感想ありがとうございます。ドラマをご覧ではないとのこと、
機会がありましたら、ぜひドラマの方もご視聴ください。
ここで活躍しているダニーとマーティンのビジュアルが目の前に!
マーティンがデリの帰りに歩いていると、横にアーロンが並んだ。
「やあ、ゼイバースでスモークサーモン買ってただろ?僕もだ」
「だから?」
「見かけたから追いかけてきたんだ。そんなに怒らないで」
マーティンは無視して歩き続ける。
「ダニーと一緒に住んでるとは驚いたよ。彼、おもしろいよね」
「お前には関係ないだろ」
マーティンは素っ気ない。
「君の本当の性癖知ったらルームシェアをやめたくなるんじゃない?」
マーティンは立ち止まるとアーロンを睨みつけた。
アーロンはマーティンを見つめたままニヤニヤしている。
「それはどういう意味だ?」
「さあ?続きは僕んちで話し合わない?何なら君のアパートでもいいけど」
「ふざけんなっ!話すことなんて何もない!」
マーティンは言い捨てるとアパートまで思いっきり走った。
部屋に入るとダニーがリビングでTVを見ていた。
ぜーぜー息を切らしているマーティンに驚いている。
「おう、おかえり。どうした?」
「何でもない、走って帰ってきただけ。あの・・早くドラゴンロールが食べたくて」
「お前なぁ、そんなんで急いでどうすんねん!」
ダニーは可笑しくてマーティンにデコピンする。
「あのさ・・本当はね、アーロンがいたから走ってきたんだよ」
「あんなん、ほっといたらええのに。お前はオレが守ったる」
マーティンは照れ笑いを浮かべてキスをねだるように目を閉じた。
「ねぇ、このままベッドに行ってもいい?」
「けどお前、ドラゴンロール食べるんやろ?」
「ううん、後でいい。先にダニーを食べたい」
「あほ、お前がオレに食べられるんや」
二人はじゃれあいながらベッドに飛び込んだ。
ベッドの上でせわしなく服を脱ぎ捨てて肌を重ねる。マーティンは少し汗臭い。
自分でも気づいて恥ずかしそうにしているが、ダニーはかまわず舌を這わせた。
「ねぇ、やっぱり僕、シャワー浴びたいよ」
「このままでいいやん。気にすんな」
「でもさ、汚いじゃない。きっとしょっぱいよ。だから・・んっ!」
ダニーはキスをしながらペニスを擦り合わせた。
アナルにローションを垂らし、ペニスの先っぽだけを挿入して
しばらく弄んでいると、マーティンが動きを合わせるように腰をくねらせてくる。
「ぅっ・んぁ・・あぁっ!」
マーティンが感じているのに、ダニーは奥まで入れてもすぐに抜くそぶりを見せる。
「ぁぅっ・・やだっ、抜かないでよ・・バカッ!」
にんまりしたダニーは、しがみつくマーティンの腕を押さえつけた。
ダニーは、マーティンの腕の内側にキスマークを見つけた。
時々スチュワートがつける小さなキスマークだ。
ダニーは上からキスマークをつけると、激しく抜き差しをくり返した。
マーティンのペニスははちきれそうだ。アナルもぐいぐい締めつけてくる。
「だめだっ・・ああっ!あーっ!」
マーティンは全身をガクガクさせながら精液をぶちまけた。
ダニーはしばらく楽しむとひくつくアナルに射精した。
抱き合ってキスしていると、どちらともなくおなかが鳴った。
ダニーは、おなかについたマーティンの精液を指ですくうとおいしそうに舐めた。
マーティンが小声で抗議するが、さらに見せつけるように指を舐める。
「お前の味がする。今日のは濃いなぁ、溜まってたん?」
「もうっ、やめてよ!顔が熱くなってきたじゃない!」
「お前はすぐに溜まりよるからなぁ」
真っ赤になったマーティンに、ダニーはにやにやしながらキスをした。
ダニーが支局に出勤すると、マーティンがすでに来ていたが、机につっぷして眠っている。
「おい、おはよ、起きろ、マーティン!」
ダニーが身体を揺り動かすと「ニック、もう出来ないよ・・」とマーティンは寝言を言ってまた寝始めた。
こいつ、朝からエロい夢見てんのや、最悪やん!
ダニーが無視していると、サマンサが出勤してきて、マーティンの背中をバーンと叩いた。
「はっ!」
「何がはっ!よ、マーティン、夜遊びのしすぎ?」
サマンサはプンと怒って、コーヒーを取りに行ってしまった。
「ダニー、僕、寝てたんだね?」
「あぁ、おまけにエロい寝言言うてたで。サムはそれ聞いて怒ってんのや」
「うそ!最悪だ!」
マーティンはサマンサを追って、コーヒーメーカーの場所に飛んでいった。
何がニック、もう出来ないよや、あんな奴のどこがええんや!
ダニーは朝から面白くなかった。
ボスがミーティングを召集する。チームはミーティングデスクに向かった。
ミーティングが終わるとボスが「ダニー、ちょっと来い」と呼んだ。
「はい?」ボスのオフィスに入る。
「今朝、DCのドゲット捜査官からお前の異動見込みのメールが届いた。お前、そんな話したのか?」
「いえ、全くしてないっす。俺をXファイル課にですか?」
「あぁ、そのようだ。断るが、問題ないな」
「はい、俺はMPUが性に合ってますよって、ここにいさせてください」
「わかった、以上だ」ボスは満足そうに笑った。
ダニーは、ボスのオフィスをにんまりしながら出た。
あのドゲット捜査官じきじきに俺をご指名やて!ひゃっほう!
朝の不快感が消えて、晴れ晴れとした顔で席に戻る。
マーティンが心配そうに眺めていた。
「捜査会議?」早速マーティンはメールを打った。
「了解」口笛を吹きながら返事を打つダニーだった。
二人は仕事を終えると、時間差で地下鉄の駅で待ち合わせ、
マーティンの家に近い「ジャクソン・ホール」に寄った。
特大のチーズバーガーとオニオンフライを頼み、ミラーで乾杯する。
「ねぇ、ダニー、どうしてそんなに機嫌がいいの?」マーティンが尋ねた。
「俺な、ドゲット捜査官に呼ばれてんねん」
「え!Xファイル課に!」
「そやねん」
「それで、行っちゃうの?」
マーティンの顔がみるみる心配顔に変わる。
「ああ、俺、DCに行くことにした」
「うそだよ!」マーティンは今にも泣きそうだ。
「あぁ、うそや!俺はどこにも行かへん」
「ダニーのいじわる!嫌いだ!」
ダニーは快活に笑い、オニオンフライをマーティンに食べさせた。
「ねぇ、今日さ、家に泊まらない?」マーティンはおずおずと尋ねた。
「あぁ?お前、週末、ニックと一緒で疲れてんやろ、無理せんでええよ」
マーティンははっと息を飲んだ。寝言を聞いていたのはダニーだったんだ!
「ごめんなさい。もっとよく考えてから誘うべきだったね」
マーティンはうつむきながらビールを飲んだ。
帰り支度をしているとマーティンの携帯が鳴った。
「はい、フィッツジェラルド」
「あ、オレ。今夜さ、食事に行かないか?よかったらテイラー捜査官も一緒に」
「ダニーも?ちょっと待ってて、聞いてみる」
マーティンが尋ねるとダニーは面倒くさそうに行くと答えた。
「じゃあさ、すぐに行くから下で待っててくれ」
電話を切った後、二人は支局の下で待っていた。
「ねぇ、またハマー借りたのかな?」
「さあな。けど、ハマーやったらオレが運転したい」
「もしも僕がハマー買ったら嬉しい?」
「お前が?そんなんやめとけ、自分で乗りにくいのに意味ないやん」
「僕もそろそろ車買おうかな」
二人が話しているとタクシーが停まった。スチュワートが手を振っている。
「スチュー、車壊れたの?」
「いいや、今から行くとこには乗っていけないんだ。盗まれるからな」
「盗まれるて、どこに行くねん?」
「クイーンズさ」
クイーンズ?マーティンはともかく、ダニーにもまったく見当がつかない。
スチュワートは行き先を告げると、二人の質問には答えず他の話を始めた。
おんぼろの建物の前で三人はタクシーを降りた。
消えそうな文字をどうにか読むとチャイニーズレストランらしい。
「あの、トロイ先生?正気なので?」
「ああ。見た目はあれだけど、ここはうまいんだぜ」
ダニーもマーティンもまじまじと建物を見つめる中、
スチュワートは半信半疑の二人を連れて中に入った。
中もぼろかったが、客は結構入っている。ほとんどがアジア系だ。
スチュワートは海老ワンタンと蟹の唐揚げと上海焼きそばを頼んだ。
マーティンが料理を追加しようとすると、スチュワートに足を蹴られた。
オーダーを取ると、中国人のおばさんは行ってしまった。
「痛いなぁ、何するんだよ。蛤の蒸したのと花巻きが食べたかったのに」
「他のはやめとけ」
「どうして?」
「不味いから」
ダニーは口を動かさないで小声でさりげなく話す様子に吹き出した。
運ばれてきた料理は素材の味がして、いつも食べているのとは少し違う。
「ん?これ、すっげーおいしい」
「ほんまや、ぼろっちいのにな」
「ダニー、失礼だよ。聞こえちゃう」
「気に入ってよかった。ここはオレが子供の時から来てるんだ」
スチュワートは嬉しそうに青島ビールを飲んだ。
マーティンは早速上海焼きそばを追加した。
「ここに来る時はタクシーが鉄則なんだ。路駐なんかしてみろ、食ってる間に盗まれる」
「盗まれたことあるの?」
「オレはないけど、昔オヤジがタイヤを盗まれたんだ。あの時はびっくりしたな。
家族全員バカみたいに口開けてさ、しばらくぼけっと立ってたよ」
スチュワートは懐かしそうにククっと笑い、少し幸せそうな笑顔にダニーは気づいた。
あの飲んだくれオヤジにもまともな時があったんや、こいつもかわいそうやな・・・・
「うん?テイラー、どうかしたか?」
「いいや、なんでもない」
ダニーはごまかすと蟹にがっついた。
マーティンは、乱れたYシャツ姿で目を覚ました。下はトランクスだ。
頭が割れるように痛い。ベッドサイドテーブルにウィスキーの入ったグラスが置いてあった。
あ、僕、酔いつぶれちゃったんだ。
洗面台にアスピリンを取りに行きミネラルウォーターで流し込む。もう午後の2時だった。
あぁ、まずい!無断欠勤だ!
携帯を見ると、支局から3度、ダニーから5度の着信記録があった。
ダニーの携帯にかけてみる。「お前!何やってんのや!」
二日酔いの頭にガンガンする声で怒られる。
「ごめんなさい、寝坊して・・」
「今から来れるか?」
「今日は、休みたい」
「分かった、ボスに電話しとき。しっかりせいよ」
ボスの携帯に電話する。
「すみません、腹痛がひどくて休んでしまいました」
「バカもん!連絡をよこすのが規則だぞ!頭を冷やせ!」
ボスの怒鳴り声で余計に頭痛がひどくなり、パジャマに着替えてベッドに戻る。
778 :
fusianasan:2006/05/24(水) 00:22:33
こ、ここは一体???
どっからこんなストーリーが???
びっくりを通り越して、思わず感心しちゃいましたよ
またマーティンは眠りに入った。夜になり、空腹で目が覚めた。
独りで食べるのが淋しいが、ダニーには会いたくなかった。
会ったら今日の事を怒られるに決まってる。
十分に情けないのに、これ以上情けなくなりたくなかった。ニックに電話する。
「おー、どうしてる、お姫様?」
「これからご飯食べない?」
「いいな、こっち来るか?」
「うん、じゃあ、待ってて」
タクシーでミートパッキングエリアへ行く。
ニックは仕事中だった。
「よう、よく来たな」
「新しい作品?」
「いや、古い作品の整理だ。写真集の話が来たから、年代別に並べてた」
「ふーん、前は風景写真も撮ってたんだ」
「あぁ、全然芽が出なかったけどな」
「ニックも苦労したんだね」
「お前より4つ年上だぜ、色々あったさ。さぁ、今晩は何食う?」
「何か新しいもんが食べたい」
「じゃあ、コリアンタウンに行くか?」
ニックの新しいメタリックブルーのフェラーリに乗り、
「チョ・ダン・ゴル」でチゲ鍋や、スケソウ鱈の甘辛焼き、
キムチサラダと石焼ユッケビビンバを食べる。
マーティンは初めて飲む韓国焼酎ですっかり出来上がってしまった。
帰りの車の中で、すぐにイビキをかいて寝てしまうマーティン。
「全くガキだからな、ボンボンは」ニックは苦笑した。
ニックはマーティンを軽々と抱き上げると、ステューディオに入り、ベッドに運んだ。
がーごーイビキをかいているマーティン。
これじゃ、セックスも出来ねーじゃないかよ。
ニックはミネラルウォーターを冷蔵庫から出すと、サイドテーブルにおいて、
下に降り、仕事の続きを始めた。
マーティンの携帯の音がする。
着信を見るとダニー・テイラーと出ている。
「おぅ、テイラー、何か用か?」
「ホロウェイか!お前、また暴力ふるってるんやないやろな」
「ご挨拶だな。お姫様はぐーすかおやすみだ。俺、仕事中だから、切るぜ」
ガチャン。ダニーはブルックリンのアパートのベランダからマンハッタンのビル群を見つめた後、
マーティンが心配でたまらない気持ちを抱いて、ベッドに入った。
>>778 さん
はじめまして。ひっそりと書き手2さんと共に続けているスレッドです。
完全なスピンオフで書いています。
前にドラマを見たことがないと書いた者です。
今日はじめて見ました。
小説を最初に読んでいたので楽しめました。
面白さも2倍です。
マーティンのアパートに帰った後、マーティンとスチュワートは熱心にゴルフ中継を見ている。
ひっかけただの、嫌われただの、よくわからないダニーは退屈で仕方ない。
「なぁ、まだこれ見るん?」
「いま17番だからもう少しで終わるよ。うわーっ、ミケルソンが目玉だ!」
「目玉って?」
「バンカーにボールがめり込むことさ。ほら、目玉みたいだろ」
「ほんまや」
スチュワートが説明してくれたが、興味が沸くわけでもない。
ダニーはベランダに出て外を眺めた。頬を撫でる風が心地よい。
ぼーっとしていると突然後ろから手で目隠しされた。
「だーれだ?」
スチュワートの声がして思わずドキッとする。トロイのあほ、何考えてるんや!
「やめろや、トロイ!」
「ハズレ、僕でしたー」
マーティンがケタケタ笑いながら手を離した。スチュワートもくすくす笑っている。
からかわれたダニーはおもしろくない。ふくれっつらでリビングへ戻った。
「それじゃオレはそろそろ帰るよ」
スチュワートはマーティンをぎゅっと抱きしめた。おでこにそっとキスをする。
ダニーがじっと見ているとスチュワートと目が合った。
「何見てんだ?」
「あほか、お前がオレの前でキスしてるんやろ」
「それは失礼」
スチュワートはもう一度マーティンにねちっこくキスをしていたが、
ニヤッとするといきなりマーティンをソファに押し倒した。
パンツとトランクスを強引に下ろすと、ペニスがカチンカチンに勃起していた。
マーティンは慌ててワイシャツで隠したが、シャツの上からでも勃起しているのが丸わかりだ。
「お前、いきなり何すんねん!」
「見ろよ、こんなに期待されてるのに抱いてやらないとかわいそうだ」
マーティンは耳まで真っ赤になってうつむいている。
スチュワートは自分も下だけ脱ぐと数回扱いてペニスを立たせた。
「お前も立ってるんだろ?すっげーもっこりしてるぞ」
にやけたスチュワートに指摘され、ダニーは股間を押さえた。
スチュワートはマーティンを抱きかかえるとベッドに連れて行った。
そっと寝かせるとローションをアナルに塗り込み指をもぐりこませる。
キスをしながらゆっくりと中をいじくられ、マーティンは我慢できずに喘ぎ声を漏らした。
「っぁん・・やだよ・・」
肌蹴たシャツから見える肌は上気してピンクに染まっている。
興奮したダニーは、急いでマーティンの口にペニスを咥えさせた。
マーティンは一生懸命舌を這わす。
スチュワートは背中が仰け反るポイントを指で執拗に擦った。
「んっ・・っ・あぁっ・・」
マーティンは、ダニーのペニスから口を離すと自分から腰を振り、
スチュワートは指を抜くとペニスを挿入した。
肩に持ち上げられた両足の間で、だらしなく緩めたネクタイが所在なさそうに揺れている。
マーティンのアナルはくちゅくちゅと卑猥な音を立てた。
「あぁっ・・僕・・恥ずかしいよ・・・」
「ローションの音だから平気さ。ほら、ここはどうだ?」
スチュワートが角度を変えて動かすとマーティンはたまらず射精した。
ダニーも今すぐスチュワートに入れて欲しくなったが、そんなことをするわけにはいかない。
イク瞬間が近いのか、スチュワートは苦しそうな表情を浮かべている。
声を上げながらマーティンの両肩を掴むと、激しく何度か突き上げ倒れ込んだ。
スチュワートが離れると、マーティンはダニーのペニスを咥えた。
「んっ、やめって。オレはいいんや」
「ううん、ダニーにも気持ちよくなってほしい」
マーティンは口に含んだ亀頭をねちっこく舐めた。ダニーはそれだけでイキそうになる。
「入れて、僕の中にいっぱい出して」
マーティンに促され、ダニーは正常位で挿入すると夢中でキスをして唇を吸った。
スチュワートの精液とローションでぬちゃぬちゃした粘膜が絡みついてくる。
「あぁっ・・もうイキそうや・・オレ、あかん!うっあっああー!」
体が熱くなり、ダニーは腰を振るとあっけなく射精してしまった。
ダニーは恥ずかしそうにキスをするとペニスを抜いた。
「ん?うわー、出てきた!」
マーティンが慌ててバスルームへ体を洗いに行った。
部屋の中は湿った熱気と三人の精液の匂いが充満している。
スチュワートは窓を開けるとダニーの横に寝転んだ。
二人は何も言わずにキスを交わす。
いちゃついているとマーティンの足音が聞こえたのでお互いにぱっと離れた。
ダニーはマーティンにキスすると、入れ替わりにシャワーを浴びに行った。
「なぁ、やっぱりオレも今夜は泊まる。いいかな?」
「いいに決まってるじゃない。何遠慮してんのさ」
「サンキュ、明日はオレも地下鉄で出勤か・・」
「どうかしたの?」
「地下鉄なんて久しぶりだからさ、乗り方がちょっと不安なんだ」
「えー、わかんないの?僕が教えてあげるよ、心配しないで」
マーティンはお兄さんぶってスチュワートを子ども扱いするとほっぺにキスをした。
>>778 はじめまして。稚拙な文章ですが、楽しんでいただけると幸いです。
>>785 ドラマをご覧になられたのですね。面白さも二倍だなんてとても嬉しいです。
ダニーは支局に出勤すると、先に来ていたマーティンを誘って、トイレに入った。
誰もいないのを確認して、シャツをまくった。
お腹にも背中にも噛み傷がいくつもある。
「お前、まだこんなんしてんのか!」
「ごめん、僕、止められなくなっちゃって・・」
「俺とはそんなんしないで出来たやん、もう一度やろか?」
「僕、自分が怖い。ダニーと出来なかったら?」
「分かったわ、今日やろか?」膳は急げや。
ダニーはそれだけ言うとトイレから出て行った。
個室に入って服を整えるマーティン。自分が心底情けなかった。
トイレから出るとサマンサが「マーティン、ボスがお呼び」と囁いた。
ボスのオフィスに入る。
「全く、お前は優等生のはずだろうが!このところ、ダニーに水をあけられているぞ。
お前もDCからお呼びがかかる位活躍してみろ。まずはたるんだ根性を引き締めることだ!」
「はい、ボス・・」
思わずうなだれるマーティン。
優秀な兄さんを持った弟の気持ちってこういうんだろうか。
マーティンは恨めしそうに電話でしゃべっているダニーを見た。
ダニーは視線に気が付いてウィンクを返してくる。
僕の気も知らないで!
特に大きな事件もなく、定時で三々五々と帰るチーム。
マーティンとダニーはタクシーに同乗して、マーティンのアパートに帰った。
「テイラー様、ご機嫌よろしゅう」ドアマンのジョンは如才ない。
奴はマーティンの男出入りを全部知ってるんやろな。
ぼんやりダニーは考えた。
マーティンは部屋に着くと、ビールを冷蔵庫から出し、ダニーに渡した。
「ピザでいい?」
「ええよ」マーティンが電話でオーダーした。
ダニーはジャケットを脱ぎ、ネクタイをはずしてソファーでくつろいでいた。
ピザのデリバリーが届き、箱のままマーティンが持ってくる。
「お前、情緒ないなぁ」
ダニーは仕方がないという顔をして、キッチンから取り皿を持ってきて、マーティンに渡す。
「ごめんなさい・・」
「まぁ、ええやん、俺のエゴや、さぁ食お」
ジェノペーゼとマリナーラのハーフ&ハーフだ。
ダニーは、リラックスして、ビールをちびちびやりながら、ピザをがっついている。
マーティンは珍しく食欲が進まなかった。
「ボン、どないしたん?腹でもこわしてんのん?」
「ううん、へーき。たださ・・」
「何やのん?」
「ダニーが僕を抱いてくれるのって、こういう機会しかないんだって思ってさ」
ダニーも思わず口をつぐんだ。
「そういうつもりやない、ただ・・」
「アランがいるからでしょ、いいんだよ。もう。ただ、ちょっぴり寂しいよ、僕」
マーティンはビール瓶をテーブルに置いて、ウィスキーを持ってきた。
「飲む?」
「いや、俺はいい」
マーティンはグラスにウィスキーを注いでストレートであおった。
「お前、最近、飲み過ぎやないか?」
「ほっといてよ、僕はへーきだから!」
マーティンは、グラスとウィスキーのボトルを持って立ち上がった。
「それじゃ、ベッドにいるからさ、食べ終わったら来てよ」
「マーティン・・」
マーティンを追ってベッドルームに入ると、マーティンはベッドに腰掛けて肩を小刻みに震わせて泣いていた。
「そんなに寂しいんか、マーティン?」
「あぁ、そうだよ!誰もダニーの代わりなんか出来ないの、知ってる?
それなのに、他の男と危ないセックスしてさ、心の穴がふさがるのを待ってるんだよ!」
マーティンはYシャツを脱いだ。傷だらけの身体が震えている。
「もう、そんなん、やめ、マーティン。俺・・お前のそばにいるから」
ダニーはマーティンの身体を力いっぱい抱き締めた。
ダニーがジムに行くと、アーロンが黙々と泳いでいた。
プールサイドから見ていると、気づいたアーロンが手を振ってきた。
ダニーも手を振り返してプールに入る。
「やあ、今日は一人?」
「うん。オレ、ちょっと筋肉ついてきたからはまってんねん」
アーロンは何気にダニーの腕に触れた。
「本当だ。筋肉がつき始めるとおもしろいよね」
うわー、オレ筋肉バカに褒めてもうた!
ダニーはアーロンに褒められてうれしくなった。
二人は並んで泳ぎ始めた。アーロンはダニーに合わせてゆっくり泳ぐ。
「アーロン、オレは適当でええから勝手に泳ぎ」
「僕はいいから。もう少し水をかくときの腕の角度を変えるといいよ。ほら、こうするんだ」
ダニーはクロールをレクチャーしてもらい、フォームが格段によくなった。
こいつ、別に怪しくないやん。むしろ親切やし・・・
ダニーにはマーティンが毛嫌いする理由がわからなかった。
アーロンはジムの後でダニーを飲みに誘った。
お気に入りの店に連れて行くと言われ、着いた先はモンキーバーだった。
あちゃー、またここかよ・・・オレもここは好きやけど、スタニックがいてるからなぁ・・・
「どうかした?」
「いいや、オレもここはたまに来るねん」
二人はカウンターに座ってそれぞれオーダーした。
スタニックはダニーをちらっと見るとカクテルを作って差し出す。ダニーは申し訳なくて心の中で詫びた。
世間話をしているとダニーの携帯が鳴った。マーティンからだ。
ダニーは「ちょっと失礼」と断わって席を外した。
「あ、オレや。今、アーロンと飲んでるねん」
「アーロンと?なんであんなヤツと一緒にいるんだよ!」
マーティンの憤慨する声が響く。
「大丈夫やって、先に寝とき」
「嫌だ、早く帰ってきてよ!ダニーが帰るまで絶対に起きて待ってるから」
「わかったわかった。ほな、ええ子にして待っててな」
「ダニーのバカ!」
マーティンは怒って切ってしまった。
カウンターに戻ると、アーロンがスタニックに楽しそうに話しかけていた。
こいつら、なかなかお似合いやん。スタニックもうれしそうやし。
「大丈夫?」
「ああ、うん。大したことないけど、そろそろ帰るわ」
「それじゃ送ってくよ」
「ええって。タクシーで帰るから」
「何言ってんの、アッパーイーストのご近所さんなんだからさ、遠慮しないで」
アーロンはチェックを頼んだ。ダニーの分もチェックを済ませる。
ダニーはスタニックと目が合い、電話すると口パクで伝え、アーロンとバーを出た。
ほろ酔いのダニーは、アーロンのBMWが東74丁目に差し掛かった頃、ハッとした。
家まで送ってもろたらマーティンのアパートがバレるやん!
あかんあかん、そんなん絶対あかんわ。あいつが怒りよる・・・・
「ごめん、アーロン、オレ急用思い出した」
「え?それじゃ、えーっと、そこまで送ろうか?」
「いいんや、今日はありがとう。先に帰って」
ダニーは信号待ちで車を降りると、素早く路地裏に姿を消した。
真夜中に空腹で目が覚めたダニーは、リビングに置きっぱなしにしていたピザをオーブンに入れた。
目をこすりながらマーティンも起きてくる。
「お前も腹減ったろ」
「うん、たくさん運動したしね」
恥ずかしそうな顔でダニーを見つめるマーティン。
ダニーはキッチンの足元に並んでいるウィスキーの空瓶に気が付いた。
「お前さ、前からこんなにウィスキー飲んでたん?」
「え?それほどでもないけど・・」
「明らかに飲み過ぎやん。ストレートは特にいかん。胃の穴だってまたすぐに開いてまうで」
「独りで夕飯食べる時つい飲んじゃうんだよ」
マーティンはフレスコボトルにウィスキーを入れて、支局のトイレでも飲んでいた。
これは、絶対ダニーに知られてはならない。
ピザが温まったので二人でがっつく。マーティンの顔から自然と笑みがこぼれる。
こんなボンの笑顔久しぶりやな。ダニーはじっと見ていた。
「見ないでよ、恥ずかしいよ」
ピザを平らげ、ダニーは歯を磨きにバスルームへ消えた。
マーティンはウィスキーをまたあおって、戸棚にしまった。
マーティンも入れ替わりに歯を磨き、顔を冷水で洗った。
ベッドでは、ダニーが横たわりマーティンを待っていた。
「待っててくれたの?」
「あぁ、俺がここにいるってお前が分かるようにな」
「ダニー、愛してる」
言葉が返せないダニー。
「さぁ、寝ような。明日は事件があるかもしれんし」
「うん」マーティンはダニーの胸に頬をすりつけた。
「おやすみダニー」
「おやすみマーティン」
二人は子供のように寄り添って眠った。
ジリジリジリ!目覚まし時計で二人は目を覚ます。
お互いのペニスが触れ合っていて思わず顔を見合わせて笑った。
「もう一戦する時間はないで!」
「わかってます!」
二人は一緒にシャワーを浴びて、出勤の準備をした。
ダニーは昨日と同じスーツだ。
「僕のネクタイする?」
「お前のは幅が広すぎ。俺は狭いんのが好きなんや」
支局に出勤すると、案の定、サマンサにキっとにらまれた。
「テイラー捜査官、夜の捜査もお盛んなようで!」
「お年頃やから!」
ダニーはコーヒーを取りに行った。
女って何でこんなに怖いんだろう。自分の彼でもないのに。
マーティンは思わず脅えた。
ダニーはPCを立ち上げ、メールをチェックすると、アランからのメッセージが入っていた。
「夜のアポイントはいかが?A」
ダニーの心がチクと痛んだ。ごめん、アラン。俺、またマーティンと寝てしもうた。
「了解@8時」それだけ打って、仕事に没頭した。
マーティンも張り切って仕事に励んでいる。
あいつ、そんなに俺のこと、思うていたんや。
俺、ニックの事が好きなんと思うてた。目が節穴やった。
ダニーの視線に気が付いて、マーティンが笑った。晴れやかな笑顔だった。
ダニーがマーティンのアパートに帰ると、ムッとしたマーティンが待っていた。
「ただいま、マーティン」
「なんであいつと飲みになんか行ったのさ!」
「ジムで会うて、ようわからんけど話の流れで・・」
「断わればいいじゃない!」
「あいつな、オレにクロールのアドバイスしてくれたんや。ちょっとのことで全然ちゃうなぁ」
「はぁ?バカじゃないの!」
マーティンは怒って布団にもぐりこんだ。いつもの布団団子状態だ。
ダニーはやれやれと服を脱ぎ、パジャマを着るとベッドに寝転んだ。
「なぁ、おい・・・熱いやろ?蒸れるで」
揺さぶったがマーティンは布団から出て来ない。
ダニーは強引に布団に入るとマーティンを抱きしめた。
「あいつ、そんなに悪い奴やないと思うで。親切やし」
マーティンが何か言ったが、くぐもっていて何を言っているのかわからない。
「それにな、他の男とも親しそうやったし、お前のことなんかもう気にしてへんわ」
ダニーはあやすようにポンポンと背中を叩くと、欠伸をして目を閉じた。
ダニーのバカ、あいつはずるくて最低なんだよ!
どうしてわからないんだ!
僕はあいつにあんなことされたのに・・・
思い出すと自然に泣けてくる。マーティンは布団の中で悔し涙を流した。
規則正しく聞こえてくるダニーの寝息が余計に悲しかった。
マーティンは目を閉じたが、腹が立って眠れない。
ダニーがアーロンのことを褒めたのも気に入らないし、隣で能天気に眠っているのもムカつく。
眠るダニーの足を乱暴にどけてベッドから出るとキッチンへ行った。
ベーグルを解凍すると、ピーナツバターと蜂蜜をたっぷり塗る。
手がベトベトになったが、そんなことはどうでもよかった。
僕のことを守ってくれるって言ったのに!お前はオレのっていつも言うくせに!何だよ、ダニー!
ベランダでベーグルをかじりながらもうたくさんだと思い、アーロンのアパートを睨みつけた。
翌日、ダニーはいろいろと話しかけたが、マーティンは素っ気ない。
ランチに誘おうとしたが、さっさとどこかへ行ってしまった。
ぶらぶらとカフェに行く途中で、スタニックに電話する約束を思い出し、直接アパートへ行ってみた。
インターフォンを押すと、スタニックはいそいそと招き入れてくれた。
「ダニー!来てくれるなんて思わなかった」
「ん、昼休みやからあんまりおられへんけどな」
「ううん、少しでもすごく嬉しいよ」
スタニックはダニーに抱きついた。ソファでキスをして甘えるようにもたれる。
「ダニーはマクフィーさんとも付き合ってるの?」
「誰やそれ?」
「え?昨日一緒に飲んでたでしょ」
「アーロンか?あいつマクフィーっていうんや、知らなんだ。オレら、ジムで一緒なだけやから」
「そう、やさしくていい人だよ。シルバーステイン不動産と契約したんだって、チップもたくさんくれたんだ」
やっぱりこの二人ええ感じやん・・ダニーはふんふんと頷いた。
スタニックは、マーティンがアーロンと一緒に来てたことを言おうかと思ったが、
告げ口するのに気が引け、胸にしまい込んだ。言ったらダニーが傷つく。
「お前、あいつと付き合うたらどうや?あいつやったらお前と合うんちゃう?」
「え・・・」
スタニックはダニーの体を離した。
何かぼそっと言うと傷ついた表情を浮かべてうつむいている。
ダニーは聞き返したが、スタニックは何も言わなかった。
こてんぱんに傷ついた表情を目の当たりにし、ダニーは慌てて謝った。
「ごめんな、オレが悪かった。オレってお前のこと傷つけてばっかりや、ほんま最低やな」
スタニックは黙って首を振った。ダニーは静かに抱き寄せる。
「おっと、もう行かなあかんわ。なぁ、スタニック、今度デートしよか?」
「本当に?」
「ああ、約束や。一日じゅう一緒やで」
ダニーは指をクロスして約束した後で苦笑した。オレ、すっかりトロイの癖が移ってる・・・
キスをして別れると、ホットドッグを買って支局に戻った。
「ダニー、飲みに行かない?」
仕事が終わって、マーティンは軽口で誘った。
「ごめん、今日は先約があんねん」
マーティンははっとした顔をした。
「そう、そうだよね。それじゃ、またね」
去っていく後姿が寂しそうだ。ごめんな、ボン。
「マーティン、すごく寂しそうだったわね」
見ていたサマンサが口をはさむ。
「先約ありなんやから、仕方ないやん」
「全く、モテ男は大変だ!ねぇ、まだ二股かけてるの?」
サマンサが少しいじわるそうな顔で尋ねる。
「うん?あぁ、あれな、硬直状態やねん」
「いつかは神様に罰せられるわよ。それじゃお先!」
サム、言わんといてくれ!俺かて分かってるねん、そやけどな、やめられへんのや。
ダニーは机の上を整理して支局を出た。
地下鉄で西72丁目まで上がって、まっすぐアランのアパートに向かった。
合鍵で部屋に入るとリビングから笑い声がしていた。トムだ。
「ただいま!」わざと大声を出すダニー。
「ハニー、おかえり!」
「やぁ、ダニー、久しぶりだな!」
二人はフットボールを見ながらビールを飲んでいた。
「なんでトムがおんねん?」
喧嘩腰のダニーにアランが苦笑する。
「たまたま、ゼイバースで会ったから食事に誘ったんだよ。」
「心配するな、もう寝てないから。なぁ、アラン?」
「あぁ、ハニー、心配は無用なんだよ」
二人で口裏を合わせたように答えるのが余計に怪しい。ダニーは訝った。
「それじゃ、食事にしよう」
ダイニングに、大なべからアイスバインが取り出された。
皮付きの茹でたポテト、ニンジン、インゲンと山盛りのマスタード。
「ビアホールみたいやな!」ダニーは目を見張った。
「ドイツビールも山ほどあるよ」
どうやら二人で買って来たようだ。思わず嫉妬するダニー。
食事が終わって、キッチンで片付けしているアランに、ダニーは小声で尋ねた。
「今日、泊まってもええ?」
「ああもちろんさ。トムは帰るし」
「当たり前や!一緒には泊まられへんもん!」
トムはフットボールの続きを見ていたが、雰囲気を察したのか、「それじゃそろそろ帰るよ。夜勤だし」と言ってくれた。
「また、いつでも来てくれよ」アランが誘う。
「あぁ、お前の大事なダニーが許してくれるならな」
トムはダニーにウィンクして出て行った。
「アラン、会いたかったで!」
ダニーはアランに抱きついて、キスをした。
「僕もだよ、ハニー、元気にしてたかい?」「うん」
「浮気はしなかったかい?」「うん」
アラン、ごめん。ウソや。俺、浮気した。
「アランは?」
「もちろんしてないさ。今日、泊まってくれるなんてうれしいよ。さぁ、バスにお湯を張ってきてくれないか?」「うん!」
ダニーは、いそいそとバスルームに消えた。
ダニーの携帯が鳴っている。
着信表示を見ると「マーティン・フィッツジェラルド」と出ている。
「ダニー、マーティンから電話だよ!」
バスルームから走り出てくるダニー。ベランダで話をする。
「どうしたん?」
「今、アランのとこ?」
「そや」
「やっぱり僕らとらめらの?」
「そんなんやない。昨日お前といたやんか。もう少し時間をくれないか?」
「嫌だお、うーん」ガチャガチャガチャーン。
「マーティン!マーティン!」
携帯は切れていないが応答がない。ダニーはジャケットを着た。
「ハニー、どうした?」
「マーティンが電話に出えへんのや。嫌な予感がする」
「じゃあ、僕も行こう」
二人は、アランのジャガーに乗って、イーストサイドのマーティンのアパートに向かった。
合鍵で入ると、マーティンがリビングで倒れていた。
ダニーはマーティンのアパートに行ったが、マーティンはまだ帰っていない。
何度か携帯にも電話したが、留守電になっていた。
あいつ、トロイのとこかな?けど、なんでオレが怒られなあかんねん!
オレは何もしてへんのに・・・
マーティンのデスクにはジキル&ハイドクラブで撮った二人の写真や、
BBQの時に三人で撮った写真が飾られている。
写真を見ているうちにむしゃくしゃした気持ちはどこかへ行ってしまった。
ダニーはメモを残して部屋を出ると、自分のアパートへ帰った。
夕食を簡単に済ませると、バスタブにベルガモットのバスジェルを入れた。
いつもより多めに入れてモコモコした泡の海に浸かる。
「あー、しんど・・」
独り言を言いながら、ふくらはぎや足の指の間を念入りにマッサージする。
マーティンのことや、スタニックとのデートのことを考えているうちに眠くなってきた。
あかん、今日は早よ寝よ・・・大きな欠伸をすると風呂から出た。
目を閉じたものの、なかなか眠れずに寝返りばかりうっている。
体は疲れているのに妙に目が冴えて眠れない。
ベッドに入ってからすでに二時間も経っていた。
あかんわ、もうあれしかないか・・・
気が進まないままリビングへ行き、隠していたDVDを取り出すと
画面を食い入るように見つめ、したくもない性欲の処理をした。
イッた後の気だるさの中でぼんやりしているとマーティンが入ってきた。
「ただいま。あっ!」
精液のべっとりついたペニスを隠すダニーと、画面に映るエロ画像に固まるマーティン。
ダニーは慌ててリモコンを探すが、その間も痴態と嬌声は流れ続ける。
マーティンは目のやり場に困ってうろたえている。顔が真っ赤だ。
ようやくTVを消したが、ダニーはどう言えばいいのかわからない。
あちゃー、えらいとこ見られてもた・・・やばいなぁ、どうしよ・・・
「あ・・・おかえり、遅かったな」
やっとのことでそれだけ言えた。マーティンは小さな声でただいまを言う。
ぎくしゃくした空気が漂い、お互いにきまりが悪い。
「あの、僕・・シャワー浴びるね」
マーティンは逃げるようにバスルームへ消えた。
ダニーはパジャマを脱ぐと自分もバスルームに行った。
マーティンの体を後ろから抱きしめると、微かに抵抗されたが構わず腕を回す。
「マーティン、どこに行ってたん?」
「ベメルマンズバー」
「オレ、アパートでお前のこと待ってたんやで。寂しかった」
「ダニー・・・」
ダニーはそっと唇を吸った。こじ開けるように舌を入れて中を味わう。
二人はほとばしるシャワーの中で長いキスを交わした。
全裸のままベッドに入ってくっつくと、勃起したマーティンのペニスが太腿に当たっている。
ダニーのはさっきイッたばかりなので半勃ち程度だ。
ダニーはローションのボトルをマーティンに渡すと背を向けた。
待っていても何もしないので振り向くと、マーティンはちょっと困った目をして戸惑っている。
「どうした?したくないんか?」
「ん、僕はいいよ。ダニーがしたいときに一緒にしたいから」
マーティンは、ボトルをサイドテーブルに置くとダニーの脇の下に顔を埋めた。
「マーティン、明日はちょっとだけ早起きしよ」
ダニーは目覚まし時計に手を伸ばした。いつもより一時間早く設定する。
「どうして?」
「お前なぁ、そんなん聞かんでもわかるやろ。セックスするに決まってるやん」
「ダニーのスケベ!エロいよー」
「あほ、お前にはかなわんわ。さ、寝るで、もっとこっち来い」
二人はくすくす笑いながら抱き合って目を閉じた。
アランがマーティンに駆け寄って、閉じた目を開かせて診る。
傍らにはウィスキーのボトルが倒れて、中身が床に流れ出ていた。
「急性アルコール中毒だ。ERに行かないと」「また?」
「ダニー、悪いがマーティンをおぶってくれないか。トムに電話する」「うん」
正体を失ったマーティンは、いつもの2倍位重く感じられた。思わずよろめくダニー。
こいつ、何でこうなんねん!
ジャガーは市立病院目指して発進した。
「マーティン!マーティン!」
返事はない。完全に気絶している。ERの入り口で苦笑いしているトムが待っていた。
「またマーティンか?おい、ダニー、こいつに酒の飲み方を教えてやれよ」
「そんなんええから、早う診てやって!」
ストレッチャーに乗せられ、処置室に入っていくマーティン。
トムが処置室から出てきた。
「いつもの急性アルコール中毒だ。胃の洗浄はしたが、超音波で見ると、また胃が相当荒れてるな。
こいつ、自分の健康を真剣に考えているのか?」
「そんなん本人に聞いてくれ」ダニーはぶすっと答える。
「それじゃあ、重篤ではないな?」アランが尋ねる。
「あぁ、点滴して一晩寝ればお終いだ。二人とも帰れよ。
夜勤が明けるから、俺がマーティンの家に送るよ」
「頼む」「ああ」
ダニーは心配顔で処置室の中に入った。青白い顔で眠っているマーティン。
お前、そんなに辛いねんか。俺がいないとだめなんか。
アランが「そろそろ帰ろう」とダニーの肩を押した。
二人でアランのアパートに戻る。
「バスがすっかり冷めてしもうたな」
「シャワーにしようか」「うん」
二人してシャワーブースに入ってお互いにシャワーをかける。
身体をシャワージェルで洗いっこしているうちに、ダニーの身体が変化し始めた。
俺、こんな時でも反応してまう。恥ずかしさで顔が赤くなるのが分かる。
アランが跪いて、ダニーを咥えた。
「うぅ、ん、はぁあん、ん」ダニーが甘い吐息を漏らす。
「ベッドに行こうか?」「うん」
二人はバスタオルを腰に巻いて、ベッドに入った。
マーティンがあんな事になったので、とてもセックスする気にはなれない。
ダニーの大きくなったペニスをアランが咥え、根元から亀頭の先まで舌を動かすと、ダニーはほどなく果てた。
「アランは?」
「僕はいいよ。早く眠ろう」
?アラン、もしかしてトムと寝てたんか?
ダニーの頭の中は、様々な情報で混乱していた。
「どうした?眠れないのかい?」
「うん、神経が立ってしもうた」
「それじゃあ、ブランデーでも飲もうか」
バスローブを引っ掛けて、リビングのソファーに座る。
「マーティン、前からあんなに飲んでいたか?」
アランが尋ねる。精神分析医の顔だ。
「いや、でも、この前家に寄ったら、ウィスキーの空瓶が沢山ころがってた。」
「やばいな。アル中になりかけているんじゃないか?支局では飲んでいないだろうね」
「分からん。年中一緒にいるわけやないし」
「彼は根っからの寂しがりやだ。ダニー、君がいないと悪くなる一方かもしれない」
「うーん、でも俺にはアランがいてるから」
「医者として、個人として、辛い選択だな。ちょっと時間をくれ。何か考えよう」
アランはぐいっとブランデーを飲み干すと、「ベッドにいるからね」と言ってベッドルームに去った。
そやねん。アラン、マーティンは俺がいないとダメみたいやねん。
俺、どうすりゃええんや!
ダニーが目覚ましの音で起きると、隣にマーティンの姿はなかった。
あいつ、トイレか?目を擦りながらベッドルームを出ると女の喘ぎ声が聞こえてきた。
慌ててリビングへ行くと、真っ赤になったマーティンが昨夜のDVDを見ていた。
「お前、そんなもん見て何してんねん?」
マーティンはびくっとしながらダニーを見た。
「こういうのってあんまり見たことないからさ・・・」
しどろもどろに答えながらうつむくマーティン。
ダニーは横に座るとそっとマーティンの股間に手をやった。
ペニスはまったく勃起していない。
「すごいな、全然反応してへん。興奮しいひんの?」
「・・僕は女はダメだから」
ダニーはマーティンを抱き寄せるとほっぺにキスをした。
「ほら、昨日の続きするんやろ?ベッドに行くで」
乱暴にTVを消すとマーティンの手を引っ張ってベッドに連れて行った。
ダニーはマーティンを寝かせるとディープキスをした。
ただそれだけなのにマーティンのペニスはすでに勃起している。
わざとペニスが当たるように体を密着させて舌を絡めた。
乳首も舐めると瞬時に硬くなる。ヒゲでチクチクさせると、感じたマーティンが体を仰け反らせた。
「マーティン、もっと感じさせたるからな」
ダニーは言いながらローションを手に取るとアナルに指を滑らせた。
「うっ・・ぁぁ・・ぁ」
腕の中でマーティンが切なく喘いだ。
ダニーがキスで口を塞いだままねちっこく中を弄くると、喘ぎ声がだんだん大きくなる。
「オレのが欲しいか?」
マーティンは肩で息をしながらこくんと頷く。目が潤んでいるのがかわいい。
ダニーはアナルにペニスを押し当てると少しずつ挿入した。
焦らすようにわざとゆっくり腰を打ちつける。
マーティンは遅い動きがもどかしくて自分から腰を擦りつけたが、
ダニーは動かせないように体を押さえつけ、キスをしたままやさしく律動を続けた。
マーティンの体は焦らされて敏感になっている。ペニスもアナルもひくひくしていた。
ダニーは自分もイキそうになってきた。一転して動きを早める。
「だめっ!僕、もう出ちゃう!んっあっああー!」
「オレもイクで!マーティン・・あぁっ!」
二人は見つめあったまま果てた。お互いの体が何度も痙攣する。
ダニーはキスをするとマーティンの胸にぐったりともたれた。
頭の中が真っ白で、胸の鼓動が限界に近いぐらい脈打っている。
「うわー、八時過ぎてるよ!」
マーティンが目覚まし時計を見て叫んだ。
「やばい、遅刻や!」
二人はバタバタとバスルームへ駆け込む。
体だけ洗うとヒゲも剃らずに飛び出したが、案の定遅刻してしまった。
二人とも弛んでいるとボスに叱られた。
順番にしおらしく謝り、訳知り顔のサマンサの嫌味を受け流すと、二人はこっそり視線を交わしてにんまりした。
マーティンは点滴につながれたまま目が覚めた。
うん?僕、どこにいるの?
「目が覚めたね。お坊ちゃま」
声の方に目を向けると、トムが目じりにシワを寄せて笑っていた。
「僕、またお世話になったの?誰が連れてきたの?」
「ダニーとアランだよ。二人には感謝しろよ。全く、何回運ばれたら気が済むんだ。
君には回数券でも用意しようかな」
トムは呆れ顔で言った。
「ごめんなさい・・」
トムは看護師に命じて点滴をはずさせ、マーティンに着替えるように言った。シャツがウィスキー臭い。
「俺、もう非番だから家まで送ってやるよ」
「ありがとう・・・」マーティンはそれしか言えなかった。
アパートの中までトムが付き添ってくれる。
「トム、ありがと。本当にごめんなさい。」
「お前、このウィスキーの空き瓶は何だよ?アル中か?」
「わかんない」
「職場では飲んでないだろうな?」
「・・飲んでません」
「職場で飲むようになったら、AAのミーティングに通え!」
トムはそれだけ言うと帰っていった。
留守電が点滅している。再生するとダニーの声が出てきた。
「マーティン、家に帰ったら電話くれ。何時でもええからな」
もう一つはニックだった。
「お姫様、今度はどこに雲隠れだよ。お前に死ぬほど会いたい。電話くれ」
マーティンは少し迷ったが、ダニーに電話をかけた。
「家に戻ったんやな?これから行くわ」
ダニーは返事も待たずに電話を切った。
15分後、合鍵で入ってくるダニー。アランも一緒だ。
「あ、昨日はありがとうございました」アランにお礼を言うマーティン。
「床に倒れていたのを見た時はぞっとしたぞ、マーティン。ダニーは顔面蒼白だった」
アランが笑顔で言う。
「全くや、お前、どれ位ウィスキー飲んだん?」
「よく覚えてない・・」
「しばらくはウィスキー厳禁にしなさい。君が職場でも飲んでいるようなら、違うアドバイスになるが・・」
アランの目が光った。
「職場では飲んでないです・・」子供のように小声で答えるマーティン。
誰にも言えないよ、フレスコボトル持ち歩いてるなんて。
その時、ブザーが鳴った。のろのろとインターフォンに近寄るマーティン。
「はい?」
「お前、いたのか、早く開けろよ!」ニックの声だ。
「ニック?」
セキュリティーを解除してニックを上げる。
「何だよ、昼間っからパーティーか?俺も呼べよ」
ニックはマーティンを抱き締めると、素早くキスをした。
「何で電話くれないんだよ」
「ごめん・・」
「こいつ、病院に泊まったからや」ダニーが口をはさんだ。
「え?」驚くニック。
「また僕やっちゃったよ。酒飲み過ぎて倒れた」マーティンが白状した。
「お前なぁ、ガキじゃないんだから考えろよ、それに・・」
ニックが続けようとするのをアランがさえぎった。
「まぁまぁ、言いたい事があるのは分かるが、まだ退院したてなんだから、そのあたりで勘弁してやれよ」
ニックは言い足りなさそうな顔をしていたが、黙った。
ダニーが「お前、なんで乱暴にしか抱いてやれないんや。俺、一発殴ってもええか?」とニックに挑んだ。
「何だ?やる気かよ!」ニックも負けてはいない。
「二人とも、やめろ」アランが止めに入る。
「もしもーし!」3人ははっとして、ソファーに座っているマーティンを見た。
「僕はここだよ!3人とも僕をおいてきぼりで話しないでよ。
僕がばかやっちゃっただけでしょ。それはごめんなさい。もう大丈夫だから、みんな今日は帰って」
3人は顔を見合わせた。
「ささ、早く帰って!」
マーティンは3人をアパートから追い出し、ため息をついた。
書き手1さんへ
マーティンの悲しさは読んでいてつらいです…(ノд-。)
書き手2さんへ
マーティンとうとう観てしまいましたね、獣姦DVD(^^;
二人はミッドタウンの寿司田でディナーを済ませた後、ぶらぶらと歩いていたが
カラオケボックスを見つけたダニーがマーティンを誘った。
「行こう、おもしろいで」
「嫌だよ、みんなの前で歌なんて歌いたくない」
「あほか、バーのカラオケナイトとちゃうで、個室で歌うんや」
「個室?けどさ・・」
渋るマーティンに構わず、ダニーは中に入った。
部屋に入ると、ダニーは早速本を手に取って選曲を始めたが、
カラオケボックスが初めてのマーティンはきょろきょろしている。
やっぱ最初はCOLDPLAYかOasisやろ。どっちにしよ?迷うなぁ・・
「オレが先に歌うから、お前もなんか選び」
「・・ん、わかったよ」
マーティンは気乗りしない様子でパラパラとページを捲った。
ダニーはCOLDPLAYのClocksを歌い始めた。
マーティンは手を止めてダニーの歌に聴き入った。
ダニーの後なんて僕の下手なのが余計に目立っちゃう・・・
「次はお前やで」
「僕はまだ選んでないんだよ、お先にどうぞ」
「そうか?ほな次もオレ」
マーティンは自分が歌うよりダニーが歌うのを聴いていたかった。
ダニーが立て続けに三曲歌い終わっても、マーティンはまだ選曲していない。
「お前な、オレと二人っきりなんやから恥ずかしくなんかないやろ」
「恥ずかしいよ、だって僕下手だもん」
「一回歌ってみ、すぐに慣れるから」
「嫌だ!」
「それやったらオレと一緒に歌うか?」
「もっと嫌だ!」
「なんでやねん!オレが歌っている間に曲入れとかな、もう一緒に帰らへんからな」
ダニーはデコピンするとTroubleを歌い始めた。
「はい、マーティン」
ダニーは意地悪な表情を浮かべてマイクを渡した。
散々悩んだ末にマーティンは、リチャード・マークスのNow and Foreverを歌った。
「お前全然下手ちゃうやん、上手いで」
「あーそれ以上言わないで。僕はもういいから、ダニー歌いなよ」
マーティンは恥ずかしくて眩暈がしそうだ。
ダニーがビリー・ジョエルやレナード・コーエンを歌っている間、ソファに身を沈めていた。
「よし、最後はFix Youやな」
ダニーはマーティンのお気に入りを選び、目を見つめながら歌った。
「バカ!」
マーティンはそうは言うもののまんざらではない。
ジュースを飲みながら自然とにんまりしてしまう。
単純なヤツ、そこがいいんやけど・・・
ダニーは歌いながらマーティンのにやけたほっぺをペチペチ叩いた。
チェックを済ませて帰ろうとすると、下手くそなリサ・ローブが聞こえてきた。
ダニーは笑いを堪えながらマーティンのわき腹をつつく。
「すごい人がいてはるなぁ・・悪酔いしそうや」
マーティンは何も言わずに頷いた。僕だってあれぐらい下手かもしれない・・・
「おもしろかったな、お前の歌も聴けたし。言うほどおかしくないやん」
「恥ずかしいから言わないで」
赤くなったマーティンは、タクシーを拾う振りをしてダニーから離れた。
ダニーはあまり眠れず月曜日の朝を迎えた。
だるい身体に鞭打ってシャワーを浴びて出勤する。
携帯を見ても着信表示がなかった。
マーティン、どうしてんやろ。
スタバでブルーベリーマフィンとカフェラテを買って席につく。
「あら、最近、彼女は朝食作ってくれないの?」サマンサが尋ねる。
「色々あんねん」ダニーは軽く流して、マフィンを割って口に運ぶ。
そこへ顔色の悪いマーティンが出勤してきた。
「おはよ」「おはよう、ダニー」
食欲がないのか、食べてきたのか、コーヒーだけを持ってきているマーティン。
「お前、マフィン食う?」
「いらない、ありがと」
本当に具合が悪そうだ。ボスの定例ミーティングが始まった。
マーティンは生気がなく、ぼんやりとしている。
「マーティン、体調が悪いのか?」ボスが見咎めて尋ねる。
「いえ、そんな事ありません」きっぱり答えるが、さっきよりさらに具合が悪そうに見えた。
ミーティングが終わり、すぐさまマーティンはトイレに入った。後を追ってダニーもトイレに入る。
誰もいないのを確認して、マーティンの入った個室をノックする。
「マーティン、俺や。開けろや」
「僕、用足してるからだめ」
「開けろ!蹴破るで!」
ガチャ。鍵が開いた。ウィスキーの匂いがする。
「お前、ジャケットに何隠してる!」
ダニーはマーティンともみ合い、フレスコボトルを見つけて、取り上げる。
「お前、朝からこんなん飲んでんのか!地獄見るで。俺とAAミーティングに行こ」
「嫌だ!」
「俺かて昔はアル中や。ほんまに辛いんやで。俺が教えたるから、アルコール抜こう!」
「考えさせて・・」
マーティンはトイレから駆け出た。
幸い事件は起こらず、チームは書類整理に追われた。
ダニーがメールを打つ。「捜査会議?」マーティンは画面を見つめている。
「不可」見事に拒絶されたダニーは落ち込んだ。
定時が近くなった頃、地下の書庫から戻ってきたダニーのメールボックスにマーティンからのメールが届いていた。
「捜査会議希望」マーティンを見ると、青白い顔でPC画面を眺めている。
「OK@拙宅」タクシーでブルックリンに向かう。
「お前、大丈夫か?」
「具合悪い。飲んでないから・・」
それだけ言うとダニーの肩にもたれかけた。
アパートに入り、マーティンはリビングのソファーにくずれるように座る。
「ほら、水飲み」
「他のが飲みたいよ」
「だめやて!今から夕飯作るから待っとけ」
ダニーは冷凍庫からラザニアを出すとオーブンに入れた。
レタスやアンディーブを適当にちぎってサラダを作る。
マーティンはぼんやりCNNを見ていた。
「用意できたで。こっち来い」「うん」
ダイニングに座るが、マーティンは手をつけようとしない。
「お前な、アルコールで生きていくなんて出来へんのやで。さぁ食べ」
少しずつ口に運ぶマーティン。
「お前、本当は酒抜きしたいんやろ?俺が手伝ったるから、二人してがんばろ」
「本当にそうしてくれる?」マーティンはやっと顔を上げた。
「あぁ、約束や」
「ダニー、愛してる」
「あぁ、俺も」
二人は見つめ合った。
>>862 さん
いつも感想ありがとうございます。
書いている自分も悲しくなりました。
マーティンにはダニーが必要なんですよね。
878 :
fusianasan:2006/05/30(火) 02:45:06
書き手1さん::
ダニーがやっとマーティンの元に帰ってきましたね。
アランとダニーも好きだけれど、マーティンが可愛そう過ぎました。
嬉しいです。
書き手2さん::
スチュワートも嫌いじゃないけど、やっぱりマーティンはダニーといる時の
方が幸せそうです。すごくお似合いです。
「おはよう・・あれ、おかしいな」
朝起きると、ダニーの声が少ししゃがれていた。
いつもよりハスキーな声になっている。どうやらカラオケで歌いすぎたらしい。
「ねぇ、大丈夫?痛い?」
「いいや、イガイガするけど平気や」
ダニーは心配そうに覗き込むマーティンの髪をくしゃっとした。
「なんかさ、いつもよりエッチな声だね」
「そうか?」
「ん、ざらざらしてていい。ダニーだけどダニーじゃないみたい」
マーティンはほっぺにキスをしてダニーに抱きついた。
ダニーは耳を甘噛みしながら、マーティン愛してるでと囁く。自分の声なのに他人のような感じがした。
マーティンは期待に満ちた目を向けると、お互いのパジャマのボタンを外した。
「えっ、今するん?」
驚くダニーの体を組み敷くマーティン。露になった下半身は既に勃起している。
マーティンはダニーのトランクスを引き下ろすと、口に含んで吸い上げながら舌を這わせた。
たちまちむず痒いような快感がダニーを襲う。
マーティンは亀頭の先端をしつこく舐め回すと唇を離した。
とろとろと先走りの粘液が溢れている。
「ぅぅっ・ぁっ・・・」
ローションを塗るために先っぽに指が触れた時、ダニーは思わず声を上げた。
マーティンはダニーのペニスにゆっくりと腰を下ろす。
「んっあぁっ!ダニィっ!」
奥までぐっぽり入れた後、擦りつけるように腰を上下させる。
「んっあんっ・・いいっ・・・」
「マーティン・・あぁっ・・」
しなやかな動きに内壁が絡みついてきて、ダニーは我慢できずに下からも突き上げた。
「あぁっ、気持ちいいよ、もっと・・・んっ・もっとして・・」
ダニーに突き上げられながら、マーティンは自分のペニスを扱いた。
アナルが収縮してダニーのペニスを強く締め上げる。
「もうだめだ!あぁっ・・イッイクっ!」
射精したマーティンの精液がダニーのおなかに飛んだ。
「うぅっ・・お前の中、めっちゃきつい・・・出すで・・くっ・・んっ!」
ダニーは腰を掴んで激しく突き上げると中に射精した。
まどろんでいた二人は今日も遅刻してしまい、ミーティングの後でボスのオフィスに呼ばれた。
「二人してまた遅刻とはどういうことだ!ダニー、説明してみろ!」
「すんません、寝てる間に風邪引いたみたいで」
「マーティンは?」
「すみません、うっかり寝過ごしました」
「お前たち、仕事を何だと思ってるんだ!自覚しろ!」
「はい、以後気をつけます」
二人はようやくボスから解放された。
ダニーがデスクに戻ると、のど飴が置いてあった。
きょろきょろしているとヴィヴィアンと目が合う。
「これ、ヴィヴが?」
「ええ、舐めると楽になるからね。その声もいいけど早く治しなよ」
「ありがとう、助かるわ」
ダニーは早速一つ口に入れると仕事に取り掛かった。
>>878 ご感想ありがとうございます。
やっぱりダニーとマーティンが一番しっくりきますね。
ダニーはネット検索で、アッパーイーストエンドで行われているAAミーティングを捜した。
二人で通うのにはミッドタウンが適当だが、誰かに見られたらまずい。
毎週水曜日か、よっしゃ、早速今週からマーティン連れて行こ。
ダニーはスケジュール帳にストリートアドレスと時間を書き入れた。
マーティンはベッドで寝汗をかいていた。ダニーはそっとタオルで顔の汗をふいてやった。
はっと起きるマーティン。焦点の合わない目でダニーを見つめると「ジュリエール!」と叫んで、ダニーに拳を打ちつけた。
「な、何や、マーティン、俺や、ダニーや!」
「ん・・・」
「悪い夢見たんねんな。寝とき」
マーティンは寝返りを打つと寝入った。
ジュリエールって誰や?
ダニーは、マーティンに殴られた右ほおを冷やしにキッチンに向かった。
また腫れそうやな。
案の定、朝になると右ほおが赤く腫れ上がっていた。
「ダニー、ほっぺたどうしたの?」
マーティンは何も覚えていないらしい。
「どっかにぶつけたみたいや」
「ダニーにしては珍しいね!」
マーティンは晴れやかな顔でシャワーを浴びに行った。
順調に行くとええねんけどな。
支局に出勤すると、ダニーはすぐにボスに見咎められた。
「おい、また喧嘩か?」
「いえ、寝てる間にどっかにぶつけたようです」
「そんな事あり得るのか?まぁいい。資格審査にかからないように気をつけろ」
「了解っす」
ダニーはマーティンと夕食の約束を取り付け、仕事に励んだ。
明日はいよいよ最初のAAミーティングだ。
奴のヘンなプライドが捨てられるか、それが鍵やな。
ダニーは自分の昔を思い出していた。
マーティンは2リットルのペットボトルのミネラルウォーターを机に置いて、がぶがぶ飲んでいた。
「マーティン、ダイエット?」サマンサにちゃちゃを入れられる。
「そんなようなもん」FBIロゴのマグに口をつけながら答えるマーティン。
昨日よりは随分具合が良さそうだ。ダニーは少し安心した。
しかし油断は出来ない。トイレに行く時は必ずついていった。
「もう!大丈夫だよ。一人でおしっこさせてよ!」
「それならええねんけどな」
「もうボトル持ってませんから!」
仕事が終わって、「イーライズ」でデリご飯を買い、マーティンの家で食べる。
ダニーはアパート中の戸棚という戸棚を開けて、アルコールを捜した。
出てきた瓶の中身を全部シンクに流す。欲しそうに見ているマーティン。
「お前、見るなや。辛いやろ」
「僕の友達だった液体が、さよならって言ってる」
「お前の友達は俺や、なぁ、分かったやろ」
ダニーはマーティンをぎゅっと抱き締めた。
「今日、泊まってくれる?」
「あぁ、もちろんや」
「すごく嬉しいよ」
「いい子にしてたら、もっと長く泊まってやってもええで」
「本当?」
「だから、明日はAAミーティングに行こうな」
「え?明日?」
「第一歩や。自分を認めろ、な?」
「分かったよ」
二人は、一緒にバスに入り、ベッドに向かった。
>>878 さん
感想ありがとうございます。
今までほっておいた罪滅ぼしのように尽くすダニーを書いてみました。
二人がいちゃついているとインターフォンが鳴った。何度も何度もしつこく鳴らしている。
「これってボスちゃう?」
「そうかも・・」
マーティンは躊躇しながら出た。
「はい?」
「私だ!」
やっぱり!マーティンは渋々エントランスのロックを開錠した。
「なぁ、悪いけどオレ帰るわ」
「えーっ、そんなの困るよ!」
「ごめんな」
ダニーはキスをして部屋を出ると、こそこそと非常階段から逃げ出した。
マーティンが恨みがましくダニーを見送った直後、仏頂面のボスが来た。
「一緒に帰ろうと思ってお前のことを探したんだぞ。待ってろって言ってあっただろ」
「ごめんなさい。僕、うっかりしてて」
「まあいい。腹か減った、何か食いに行こう」
マーティンはダニーと夕食を済ませていたので、外食はやめてイーライズに買物に行くとアーロンがいた。
目が合うとウィンクされ、慌てて目を逸らす。
「どうした、マーティン?」
「いえ・・」
「何でもいいから早く買え。お前、ターキー好きだろう。これは?」
「ん、そうだね」
マーティンはアーロンが見ているのでぎこちなくなってしまう。
「おい、ジェニファーなんとかの、CIAの男みたいなのがお前のことじっと見てるぞ」
ボスがアーロンの視線に気づいてマーティンにこそっと囁いた。
「もう帰ろうよ」
「アイスは買わないのか?」
「うちにあるからいい。ねぇ、早く!」
マーティンに急かされ、ボスはよくわからないままチェックを済ませた。
ボスはデリで買ったカリフォルニアロールにがっついている。
「さっきのヤツ、かっこよかったな。お前に気があるみたいだったぞ」
「・・知ってる。僕、あいつにレイプされたんだよ」
「あいつか!やさしそうな顔してるのにな・・。お前ももう忘れろ」
「ん、僕だって本当はそうしたいけどね・・」
マーティンはうなだれたまま呟いた。悲しそうにチョコアイスを口に運ぶ。
「お前にはダニーもドクター・バートンもいるじゃないか、マーティン」
「ん、ボスもいるしね」
「お前はやっぱりかわいいな。いい子だ、こっちに来い」
すっかり機嫌がよくなったボスは、マーティンを抱きしめると背中をよしよしした。
マーティンが心配していたオヤジ臭もなく、アザロの香りがする。
「ねぇ、また太ったんじゃない?おなかが出っ張ってるみたいだ」
マーティンはボスのおなかに手をやった。ぽてんとしたところを撫で回す。
ボスは腹部を撫で回されるうちに勃起してきた。
こんなに硬くなるのは久しぶりだ。急いでトランクスを下ろす。
黒光りしているペニスをマーティンの口に近づけると、
マーティンは一瞬きょとんとしたが、おずおずと口に含んで舌を這わせた。
「ああ、いいぞ・・気持ちいい・・・」
痺れるような快感に包まれ、夢見心地なボスはマーティンの舌遣いに呻く。
「そろそろ出そうだ・・・出すぞっ・・うっ!」
ボスは十分堪能すると、マーティンの頭を押さえつけて口の中に射精した。
マーティンは急いでティッシュに精液を吐き出した。
今すぐうがいがしたくてたまらない。ボスのエグイ味が口中に絡みついている。
「あのさ、僕、お湯を溜めてくるね」
バスルームに行くとお湯を出しながらうがいをした。
ボスの精液はダメだ、味も匂いも気持ち悪すぎるよ・・・・
ようやく口の中が元に戻り、ホッとしながらリビングへ戻った。
マーティンは、ベッドに入るとダニーとスチュワートが恋しくなった。
ダニーはどうしてるかな?スチューにも早く会いたいよ・・・
「ねぇ、明日は自分のうちに帰るよね?」
「さあな、それはお前次第だ」
「え?冗談でしょ?」
「お前に連日遅刻されちゃ困るんだよ、ヴィクターがうるさいからな。近々来るだろ、あいつ・・
それにだ、私はあいつとゴルフなんて本当は行きたくないんだ。お前もだろ?」
「ん、僕だって行きたくないよ」
二人はお互いに顔を見合わせると、小さく息を吐いて灯りを消した。
マーティンは固くなっていた。初めてのAAミーティングだ。
ダニーがそばにいてくれるとはいえ、こんなに大勢の人の前で自分の恥部を話すのに勇気が出なかった。「今日初めての方がいます。どうぞ」
コーディネーターに促されて、マーティンは壇上に上がった。
「初めまして。僕の名前はマーティン。ゲイでアルコール中毒です。・・・」
ダニーは椅子からころげ落ちそうになった。自分の性癖までカミングアウトするとは思っていなかった。
「僕がアルコールにすがったのは、恋人とうまくいかなくなったからでした。
アルコールが僕の唯一の友達になってしまったんです。でも今日から立ち直ります。
よろしくお願いします」
皆の拍手を受けてマーティンは照れくさそうに席に戻ってきた。
ミーティングが終わり、二人は、近くのダイナーで食事をとった。
「お前、偉かったで。俺、最初のミーティング、よう話せんかったもん」
「ありがと。ダニーがいたからさ、何だか勇気が湧いてきたんだ」
「なんでゲイのことも話したん?」
「丸裸の自分にならなきゃいけないって気がついたから・・」
「お前ってほんまに偉いわ」
クラブソーダ二つと、ダニーはチキンバジルのピタサンド、マーティンはチーズバーガーを頼む。
「今日、ダニーの家に泊まってもいい?」
「ああ、ええで」
「独りでいると、飲んじゃいそうなんだよ」
「分かるわ。ちょっと待っててな」
ダニーが席を立つと外で電話をしている。きっとアランだろう。
マーティンはダニーの姿をじとっと見つめていた。
戻ってきてダニーは視線に気がつき、ふと尋ねた。
「お前、ニックとはどうなってるん?」
「ニックは僕を必要だって言ってくれるよ。でもダニーとは違うんだ」
マーティンは思わずダニーの手を握る。
「そか。でもニックにも症状とかもろもろ話せよ。あいつお前が行方不明になった時、
えらい心配してた。あれはウソやないと思う。あいつはあいつで、お前を愛してるんや」
「ダニーの方は大丈夫なの?」
「分からん。アラン、ああ見えて、すごく嫉妬深いねん。どうなるやろな」
「ごめんね、僕のために」
「何言うてんのや。お前の事大切に思う気持ちはずっと変わってないねんで。俺を信用せいよ」
「うん、わかった。でも本当にごめん。こんなことになって・・」
二人は食事を終えると、ブルックリンに戻った。
シャワーを一緒に浴びて、ディープキスを繰り返す。
マーティンの息が上がってきた。
「ダニー、欲しいよ」
「あぁ、分かった。ベッドに行こうな」
二人は全裸のままベッドルームに駆けて行き、ベッドにダイブした。
マーティンが勃起したダニーのペニスを咥える。
絶妙の舌の動きにダニーが思わず「ストップ、俺、もうイキそうや」と言い、ローションを手にとった。
マーティンのアナルの中に塗りこむ。指の動きに敏感に反応するマーティン。
「あぁ、そこ、だめだよ、もうイっちゃいそう!」
「まだまだ!」
「早く入れて!」
ダニーはもったいぶりながら自分のペニスにもローションを塗りたくり、ゆるゆるとマーティンの中に入った。
「もっと動いて!」マーティンが悲鳴に近い声を上げる。
ダニーは色々な角度で摩擦が多くなるように突きまわった。
「あぁん、わぅ、うぅん、そこ、そこ!」
マーティンが我慢しきれず、自分で腰を動かし始めた。
「動くと、俺、もたへん!あぁ!」
ダニーはひくつくマーティンの中で果てた。
マーティンもダニーの痙攣を感じると、シーツにどっと射精した。
ダニーはマーティンのアパートから脱出すると、携帯を取り出しスチュワートに電話した。
「はい、トロイ」
「トロイて・・テイラーやけど、今話せる?」
「ああ、わざわざお前専用の出方してやったのに。ん?風邪引いたのか?声がヘンだぞ」
「ちゃうちゃう、カラオケのせいや。けどセクシーやろ?」
「バカだな、そんなになるまで歌うなよ」
「マーティンが歌わへんからしゃあないやん。今から行ってもええ?」
「来てもいいけど、仕事が残ってるからあまり相手はできないぞ」
「別にかまへん。ほなすぐ行くわ」
ダニーはタクシーを拾うとグラマシーへ向かった。
アパートに着くと、ダニーはうがいをさせられた。
「オレが診てやろう。はい、大きく口開けて」
ダニーは言われるまま口を開ける。
「声帯が炎症を起こしてるな・・うん、ただの急性声帯炎だ。一週間は大声も酒も禁止。わかったな?」
「はい、先生」
「それに、セックスで喘ぐのも禁止だぞ。お前はうるさいからな」
「えー、そんなん困るわ。せっかくええ声になったのに・・マーティンも気に入ってんねん」
「おとなしくして早く治せば済むことだろ。もしどうしてもって言うなら黙ってしろよ」
スチュワートは呆れたようにダニーを見つめ、やれやれと首を振った。
「まだ仕事するん?」
「ああ、症例研究レポートの締め切りが近くてさ。DVDでも何でも勝手に使っていいから」
スチュワートは首をゴキゴキ回しながら仕事部屋に入ってしまった。
一人残されたダニーはおとなしくTVを見ていたが、退屈しのぎに冷蔵庫を開けた。
何か作ろうかと思ったが、冷蔵庫には飲み物しか入っていない。
水のボトルを手に取ると、音を立てないようにそっと仕事部屋に入った。
スチュワートのPCには病状の画像が映っていて、次々とグロ画像がスライドされる。
真剣に仕事をしているせいか、ダニーが後ろで見ているのに気づかない。
「何それ、ベロ?」
「わっ、いたのか!ああ、これは川崎病特有のイチゴ状の舌なんだ」
「うわー、きしょいな。死ぬん?」
「場合によってはな。原因がわからないからどうしようもない。早く究明されるといいんだけど」
スチュワートはPCを閉じるとダニーに向き合った。
「終わり?」
「いいや、お前がいると気が散ってできない」
「あ、ごめん。オレ、向こう行くわ」
「いいんだ、オレも疲れたし。そろそろ寝ようか、甘えんぼのテイラー捜査官」
「ちゃうわ!」
言い返すダニーの口に食べかけのチョコバーが突っ込まれた。
おいしい?と聞かれもぐもぐしながら頷く。
「よかったな、テイラー」
スチュワートはくすくす笑いながらバスルームへ行ってしまった。
ダニーは歯を磨くとベッドに入った。
目覚ましをセットしてごろごろしていると、素っ裸のままスチュワートがベッドに入ってきた。
「お前なぁ、オレにセックスすんなって言うたくせに誘ってるやん」
「何言ってんだよ、バカ。オレはただ暑いだけだ」
「なんか理不尽やわ」
ダニーが背を向けると、後ろから手が伸びてきて体を弄った。
シャツの隙間から入ってきた指が乳首を転がし始めている。
振り向くとキスで口を塞がれた。舌がくすぐるように口の中を舐めまわす。
見つめあったまま二人はキスを交わした。
スチュワートの硬くなったペニスが太腿に当たっている。
ダニーは自分もむくむくと勃起するのを感じた。
トランクスを下ろそうとしたが、ペニスに引っかかってなかなか脱げない。
「うん?あれ?」
「お前、可笑しすぎ!」
スチュワートは吹き出しそうになりながらダニーのトランクスを脱がせたものの、堪えきれずに笑い出した。
ようやく続きをしようとするが、ペニスに触れるとスイッチが入ったようにまた笑い出す。
「笑うな、トロイ!オレがするから後ろ向け!」
ダニーはローションを手に取るとスチュワートのアナルに指を入れた。
「うっ・・んんっ!ひぁっ!や、やめろよっ!」
スチュワートは恥ずかしそうに声を漏らした。
「ほんまはいいんやろ?」
ダニーは耳元でささやくと、嬲るように指を出し入れさせて首筋を愛撫した。
指が馴染んだころ、四つんばいにさせてペニスを挿入する。
ダニーが柔らかな粘膜を蹂躙するたびにスチュワートは声を上げて身体を反らせた。
体をよじって快感に悶える様子に、ダニーのペニスは自然と硬度を増していく。
「あぁっ、イクっ!ダメだ・・くっあっああー!」
シーツをぎゅっと掴んだ手が蒼白になり、背中をびくんとさせてスチュワートは絶頂に達した。
「トロイ・・オレもイキそうっ!んっ・・出すで!」
イカせたのに満足したダニーは、数回腰を打ちつけると中に射精して倒れ込んだ。
アランは覚悟していた事がついに始まったと確信した。
ダニーがマーティンのそばに戻ったと。
電話では酒抜きの手助けだと言っていたが、それだけではないのは明白だ。
いても立ってもいられず、思わずニックに電話をかけた。
「おぅ、ドクター、どうした?」
「マーティンとダニーのよりが戻った」
「・・そうだろうと思ってたよ。あいつ、俺の電話にコールバックしないんだ。それでどうする?」
「むげに引き離す自由は僕らにはないし、不可能だろう。静観するしかないのかもな」
「おい、それでいいのかよ?」
「良くはないさ、今もイライラが高じてつい君に電話してしまった」
「とにかく情報ありがとさん。俺は絶対マーティンをこっちに振り向かせて見せるぜ」
相変わらずな男だ。アランはそう簡単にはいかないことが分かっていた。
とにかくダニーに会いたかった。彼のセクシーな微笑みやハイパーな元気が恋しかった。
真夜中なのにダニーの携帯に電話をかける。ガチャガチャ
「はい、テイラー」
「起こしてしまったかな?」
「アラン?どないしたん?もう真夜中やで」
「君の声が聞きたくなってね。今、一人かい?」
「・・マーティンが泊まりに来てる。奴の酒の監視や」
「そうか、起こしてすまなかったね。近々会えるかな」
「もちろんや。俺もアランに会いたいで。寂しい」
「僕もだよ、じゃあ都合がよくなったら電話をくれ」
「うん、おやすみ」
「おやすみ」
ダニーの声でマーティンが目を覚ました。
「アラン?」
「そうや、お前は気にせんでええ。寝とき」
「気にしないなんて出来ないよ。僕、邪魔者だよね」
「そんなんないねんで。お前は、自分の事だけ考えとけばええんや。さ、寝よう」
マーティンは眠ろうと努力したが、ダニーの言葉が信じきれず、なかなか寝付けなかった。
目覚ましで目が覚める二人。
マーティンは布団の下で丸くなって眠りをむさぼろうとする。
「マーティン!遅刻するで!ボス、怖いで〜!」
それでも起きないので、布団をひっぺがす。
「うぅん・・!」
「おい、シャワーするで!」
半分眠りながら、ダニーに連れられて、マーティンはバスルームに入る。
身体を洗ってもらって、やっと目が覚める。
「ほら、着替え!行くで!」
二人は焦って地下鉄に乗り込み、ギリギリで支局に滑り込む。
「お二人さん、夜の合同捜査?」またサマンサの嫌味が始まった。
最近、彼女はとみにイライラしている。
「たまたまや、なぁ、ボン?」
「うん?僕知らないよ」
サマンサもボスが奥さんと同居しはったから、うっぷんが溜まってんのやな。可愛そうに。
ダニーは思わずサマンサを見つめてしまい、睨まれた。
マーティンの携帯が鳴った。
「はい、フィッツジェラルド。あ、元気だよ。うん、会おうよ、それじゃ今晩ね」
どうやらニックのようだ。ダニーは心配そうにマーティンの顔を見ていた。
ダニーとスチュワートがウィッチクラフトに行くと、マーティンとボスが仲良く朝食を食べていた。
朝から照り焼きチキンサンドにがっついている二人を見て、ダニーもスチュワートも凍りつく。
あちゃー、どうしよ・・この場合先に声かけたほうがええやろな・・・
ダニーはスチュワートに目配せすると、二人に声をかけた。
「ボス、おはようございます。おはよう、マーティン」
「あっダニー!スチューも!おはよう、すっごい偶然だね」
ボスは二人の顔を交互に見たが、次の瞬間には普通に挨拶を交わしていた。
「マローン捜査官、ここ、いいですか?」
「ええ、もちろん。どうぞ、ご遠慮なく」
ボスは愛想よく席を勧めた。マーティンは嬉しそうににこにこしている。
「ねぇ、またフルートで会ったの?」
マーティンの問いかけに、バナナミルクを飲みながらダニーは頷いた。
「そうやねん。そしたらトロイが咽喉見てくれてな、何やったっけ?声帯炎?」
「急性声帯炎、一週間は大声と酒は禁止」
「そうそう、それ。ボス、大声は禁止ですって」
「ああ、聞こえた。お前は終日デスクワークでもしてろ」
「うぇー・・冗談やない、オレなら平気や」
慌てて目をむいたダニーに、マーティンとスチュワートはけたけた笑った。
「マーティンはマローン捜査官と仕事してたのか?」
「うん、そう」
後ろめたいマーティンは返事だけしてチキンサンドにがっつく。
スチュワートとボスの視線がチラっと交錯した。
やばい、ボスがいらんこと言いそうや。何か話しやな、何か話題はと・・・
焦ったダニーはワールドカップのことを話題にし、急いで話をすり替えた。
三人とも楽しみにしているらしく、サッカーの話で盛り上がっている。
ダニーはほっとしてベジサンドに手を伸ばした。
ウィッチクラフトでスチュワートと別れ、三人はダニーの運転で支局へ向かった。
「ダニー、昨夜と同じ格好だが?」
「ちょっと酔うてたんで、ドクター・バートンに泊めてもらったんすよ」
「ほう、あいつはお前の恋敵なのに?」
「僕ら、時々三人で遊ぶんだよ。とってもうまくいってるんだ」
マーティンが無邪気に口を挟んだ。
「一体どんなことをして遊ぶんだ?乱交パーティーか?」
ボスは怪訝そうにマーティンを見る。マーティンはたちまち耳まで赤くなった。
これでは乱交パーティーだと告白しているも同然だ。
「えっと・・その・・BBQとかさ、いろいろ・・」
「最近の若いヤツらは何を考えてるのか、さっぱりわからん」
あほか、ボスには負けるって!とことん変態やねんから・・・ダニーは心の中で毒づいた。
ダニーは、マーティンがニックと会うのが面白くなかった。
そや、俺もアランに会おう!
アランの携帯に電話をかけるが、診療中の時間帯なので留守電になっていた。
「俺やけど、今晩、会いにいってもええかな。返事待ってます」
伝言を残して、仕事を始めた。昼休みにアランから電話があった。
「真夜中のラブコールの効果かな?もちろん、待ってるよ。早く仕事を片付けておいで」
「うん、待っててな」
電話を終えて、ピタサンドをかじっていると、サマンサが寄ってきた。
「彼女と約束?」
「そやけど?」
「ねぇ、どうしたら二人と同時に付き合えるわけ?」
「声が大きいで、やめてくれ」ダニーはささやき声で答えた。
仕事が珍しく定時に終わった。マーティンがいそいそ席を立って帰り支度を始める。
ダニーもPCの電源を落として、机の上を整理する。
「あーあ、今日も男子はデートか!」
サマンサのため息交じりの言葉を背中で聞きながら、二人は「お先!」と支局を出た。
エレベーターでマーティンが尋ねる。
「アランに会うの?」
「そや、お前はホロウェイやろ?」
「うん・・・」
「酒、飲むな」
「分かってるよ」
二人は1階で別れた。アランの家に着くと、キッチンからいい匂いがしていた。
アランの手料理や!
「やぁ、早かったね」アランがエプロンをして立っていた。珍しく眼鏡をかけている。
めちゃセクシーやん!
ダニーは思わずぽっとなった。
「何眺めてるんだ、着替えてきなさい」
アランの用意してくれた部屋着に着替えて、キッチンに立つ。
後ろからアランを抱き締めて首筋にキスをした。
「はは、僕は今晩の食卓には乗らないぞ。子羊の香草焼きとアンティチョークと夏野菜のマリネだ。どうかな?」
「うわー、最高!」
ダイニングにはダニーの大好きなモンダヴィのカベルネ・ソーヴィニオンがすでに置かれている。
料理が次々と運ばれ、二人はワインで再会を乾杯した。
二人は近況報告をしあった。ダニーの方は、マーティンをAAミーティングに連れ出した事を伝えた。
「やったな!マーティンはプライドが高いから、無理だと思っていたが」
「あいつ、ゲイだってカミングアウトもしたんねんで。偉いわ」
「ほぅ!そいつはすごいな。予想より早く離脱出来るかもしれないね。そうしたら、ダニーはどうする?」
アランの砂色の瞳がまっすぐにダニーを捉える。
「俺?元の生活に戻るだけや」
「本当かい?」
「うん、俺にとっちゃ、ここは家庭なんや。アランは家族やし。俺の思い込みかもしれんけど・・」
「ハニー、嬉しいよ」アランは立ち上がって、ダニーの頬に優しくキスをした。
「今日、泊まってもええ?」
「あぁ、君のスーツは全部クリーニング済みだ」
「ありがと、アラン」
「家族だろ?」
「うん、家族や」
ダニーはにんまりした。アランもその微笑みを見て、自然と顔がほころんだ。
真夜中、ダニーは喉が渇いて、ベッドを抜け出した。
携帯をチェックしたが着信履歴はなかった。
マーティン、どうしたんのやろな。
キッチンでコントレックスを飲んでいると、アランが起きてきた。
「眠れないのかい?」
「ううん、喉が渇いただけ」
「よかった」
アランはまたベッドルームに戻った。気い遣ってくれてんのや。
ダニーはベッドに入り、アランの身体に腕を回した。ぎゅっと抱き締める。
「おいおい、眠る時間だぞ。それに一晩に二回は出来ない」
アランが照れくさそうに笑った。
「それじゃ、こうしててもええ?」
ダニーはアランの胸に顔をうずめた。柔らかい胸毛の匂いを胸いっぱいに吸い込む。
「お前が匂いフェチだったとはね」
「アランの匂い大好きや!」
ダニーは幸せそうな顔で、眠りについた。
ダニーは仕事を終えるとまっすぐアパートに帰った。
二転三転する失踪者の捜索で極度の緊張を強いられ疲れていた。
夕食を作る気にもなれず、届いたピザを食べた後はただぼんやりしている。
TVをつけるとスクリームをやっていた。ちょうど始まったところだ。
マーティンが買い置きしているレイズのポテトチップスを取り出し、
ソファでごろごろしながら食べていると電話が鳴った。
「・・はい、テイラー」
「僕、マーティン」
「お前か、どうしたん?」
「ん、TVでスクリームやってるよって教えたくて。この映画好きでしょ」
「知ってる、お前のポテチ食べながら見てたとこや」
ダニーはポテチの袋をガサガサ言わせた。
「ずるいよ、僕はお菓子もアイスもないのにさ」
「今日は我慢しとき。あれ?アイスは買い置きがあったやろ?」
「それがさ、ボスが全部食べちゃって・・」
「やっぱり今日は我慢やな。お前のポテチ、サイコー!」
ダニーはからかいながらさらに袋をガサガサした。
「ダニーのバカ!すっげー意地悪だ」
「ごめんごめん」
「ひどいよ」
「なぁ、持っていったろか?他にもお前のお菓子いっぱいあるし」
「本当?」
「ああ、ほんまや。すぐ行くから待っててな」
ダニーは手早く着替えると、適当にお菓子を持ってアパートを出た。
道路は空いていて、すぐにマーティンのアパートに着いた。
「ただいま。ほら、お土産や」
「サンキュ、ダニィ。いっしょに続きを見ようよ」
マーティンはダニーの手を引っ張ってソファに座らせた。
テーブルにはボウルと箸が用意されている。
「ん?何で箸なんか置いてるんや?」
ダニーはコーラを取って来たマーティンに尋ねた。
「ポテチは手がギトギトするからお箸で食べるといいんだって」
「はぁ?」
「スチューがいつもそうやってる。お箸の練習にもなるからって」
マーティンはポテトチップスとキャラメルポップコーンをそれぞれボウルに入れ、ダニーに箸を渡した。
マーティンは左手に持った箸でポップコーンを摘まむ。
ダニーを見つめながら口に入れると、得意気に箸をパカパカさせた。
ダニーも真似してポテトチップスを箸で摘まむ
「どう?」
「まあ確かに手は汚れんわな。そやけど箸て、トロイっておかしいんとちゃう?」
「いいじゃない、おかげで僕はお箸をうまく使えるようになったんだしさ」
二人はお菓子を食べながらスクリームの続きを見た。
マーティンは残虐シーンになると、いつものように顔を背けてダニーにくっついた。
「ボン、もう大丈夫やで」
ダニーに言われて画面を見た瞬間、どわーと声を上げてしがみつくマーティン。
「どこが大丈夫だよ、全然大丈夫じゃない!」
「だってお前の反応が見たかったんやもん。あー、可笑しい!」
「僕は本当に怖いんだよ。こういうのにあんまり免疫ないんだから」
「ごめんな。ほら、チューしたるからこっち見てみ」
おずおずと顔を上げたマーティンに、ダニーはやさしくキスをして肩を抱き寄せた。
翌朝、目覚まし時計で目覚めると、アランはもうベッドにいなかった。
シャワーを浴びてリビングに行くと、キッチンでアランが朝食を用意していた。
「支局で食べるかい?」
「うん、そうするわ」
ジップロックにバケットサンドを入れてくれる。
中身は生ハムとチーズとレタスだ。
コーヒーマグを渡され、香りを楽しむダニー。
「さぁ、支度しなさい」
「うん、わかった」
アルマーニ・コレツィオーニのスーツをおろして、着てみる。
「うわ!男前だな」アランは嬉しそうだ。
ダニーはアランに軽くキスを交わすと、「それじゃ行ってくるで」と、アパートを出た。
支局で、ヴィヴィアンに新しいスーツとサンドウィッチに気がつかれ、散々からかわれた。
マーティンが出勤してきた。心なしか目の下のくまが濃く見える。
「おはよ」
「おはよう、ダニー」
静かにマーティンは席に座り、仕事の準備に入った。
ダニーはマーティンをランチに外に誘い出し、昨晩の事を尋ねる。
「お前、飲まなかったか?」
「うん、ニックに経緯を話したらさ、クラブソーダに付き合ってくれた」
とりあえず、ほっとするダニー。
「お前、思ったより意志が固いねんな」
「うーん、薬物中毒のクリニックにも入ったしさ、我慢を覚えた感じかな」
アランの言うとおり離脱は意外と簡単かも知れない。
マーティンが離脱したら、元の生活に戻る、俺?
本当にそう出来るだろうか?こいつを置いて?
ダニーがマーティンの顔を見つめていると「何かついてる?」とマーティンが口元をナフキンで拭いた。
「いや、お前、可愛いよな」ダニーは誤魔化した。
「今日、夕飯食べない?」
唐突にマーティンが誘ってきた。
「ああ、そうしよか?」
「ダニーの家で食べたいな」
「じゃ、デリで何か買って帰ろ」
午後は、ダニーが聞き込み、マーティンが通話記録調査で時間が過ぎた。
仕事が終わり、時差をつけて支局を出る。
電車でブルックリンに戻り、ダニーはインド料理のデリでサグマトンとレンズ豆のカレー、
サフランライスとタンドリーチキン、サモサを買った。
マーティンが先にアパートに着いて、クラブソーダを飲んでいた。
「喉渇くか?」
「うん、何か飲んでないといられない感じ」
「今日はインド料理にしたで」
「サンキュー」
ダニーは丁寧に皿に買って来たものを出して、ダイニングに並べた。
「どうしてカートンから食べないの?」不思議そうな顔のマーティン。
「そんなん、味気ないやん。早う食おう」
「頂きます!」
マーティンはがつがつ食べ始めた。食欲が戻ってきたのは良い兆候だ。
あっと言う間に夕食が終わった。
「一緒にバスに入ろうよ」マーティンはバスルームに消えた。
何や、機嫌がええなぁ。気味悪いで。
二人で狭いバスタブに重なるように入る。
ダニーの半立ちのペニスがマーティンの割れ目に触れている。
「ダニー、昨日、アランと寝たんでしょ」
「うん?そんなんどうでもいいやん」ダニーは答えをしぶった。
「寝たんでしょ?」マーティンがじとっとした目でダニーを振り返る。
「そんなに知りたいか?ああ、寝た。お前かてホロウェイとヤったんやろ?」
「・・うん。でも見て!もう、暴力的なセックスは卒業したんだよ!」
「良かったやん」ダニーは複雑な気持ちで答えた。だから機嫌がええんかな?
「うん、ニックすごく優しかった。別人みたいだった。でも、ダニーとは違うんだ」
マーティンは独り言のようにつぶやいた。
ダニーはマーティンの股間を探るとすでに目一杯勃起していた。
「お前、エッチやな!ごめんな、俺、今日は疲れてるからだめや」
「いいよ。ダニーがしたい時にしたいから」
二人はバスローブを羽織って、ベッドに寝転んだ。
お互いの身体にキスしたり愛撫したりを繰り返したが、結局セックスはしないで眠りについた。
「そろそろ寝よか」
ダニーが親指でマーティンの下唇をなぞった。
「もう見ないの?」
「オレもお前も何回も見てるやん。けど、お前が見たいならオレも付き合うで」
「んーとね、やっばり最後まで見る」
「そやな。今からが怖いで、もっとこっち来とき」
ダニーはマーティンを抱えるように座ると後ろから手を回した。
スクリームが終わると、スティーヴン・キングのITが始まった。
二人はあくびをしながらもそのまま見続ける。
完全にびびったマーティンはダニーの体から手が離せない。
怖いを連発するマーティンに、ダニーは笑いそうになった。
おいおい、このピエロの正体ってしょうもない蜘蛛やねんで・・・
大丈夫やと言い聞かせながらダニーは笑いを堪え続けた。
ITが終わると二人はシャワーを浴びにバスルームに行った。
蛇口に触れるのさえびびるマーティン。
「お前なぁ、血なんか出ーへんて。正体もしょぼい蜘蛛やったし、そんなにびびるなよ」
「・・ダニーはさ、あのピエロが怖くないの?」
「全然。あんなもん、マクドに行ったらいてるやん」
「僕、子供の時にマクドナルドのピエロ見て泣いたよ。それ思い出しちゃった」
ダニーはおかしくてけたけた笑った。
「お前ってほんまかわいいな。オレらが子供の時に会うてたら、お前のこといじめたかもしれへん。
いや、絶対にいじめるわ、間違いない。トロイもいじめるんちゃうかな」
マーティンは黙ってうつむいた。
「まあ今はこうして一緒にいてるんやからいいやん」
ダニーは口を尖らせたマーティンにデコピンすると抱きしめてキスをした。
ベッドに入って部屋を真っ暗にすると、マーティンがしがみついてきた。
息苦しいぐらいに密着していてダニーは暑い。
「なぁ、暑いんやけど・・・」
「あ、ごめん」
マーティンは少しだけ体を離したが、しばらくするとまたくっついてくる。
もうええ加減にしてほしいわ・・・ダニーは思ったものの口にはしない。
「お前は今度からホラー禁止。わかったな?」
「ん、そうする」
マーティンはしおらしく頷くとダニーの腕枕に身を委ねた。
「明日の朝、バーガーキングに行こか?」
「ん、いいよ」
ダニーは汗ばんだ髪をくしゃっとするとゆっくりパジャマを脱がせた。
「ダニー?」
言いかける唇をキスで塞ぎ、自分もボタンを外しながらシャツをはだける。
ダニーはマーティンの胸を撫で回した。時折乳首に触れるとピクンと反応する。
すっかり硬くなった乳首にくすっと笑うと、ダニーはトランクスの上からペニスをなぞった。
半立ち程度だったペニスが触れるたびに硬くなる。
「フィッツィー、びびっててもここは別なので?」
「ダニーがエッチな触り方するからだよ。それにフィッツィーなんて呼ばないで」
マーティンはダニーを組み伏せると黙らせるためにキスした。
ぬるついたペニスを押し当てるように腰を擦りつけると、ダニーのペニスもこちこちに屹立している。
「んっ・・はっ・ぁぁ」
マーティンは吐息を漏らしながらキスを繰り返した。ダニーも貪るように舌を絡める。
ローションをダニーのアナルに垂らすと、マーティンは一気に挿入した。
「あぁっ!」
ダニーは声を上げると仰け反った。
マーティンのペニスは的確にダニーが感じるところを突く。
「いいの?声出してもいいよ」
言いながら前立腺を擦られ、ダニーは我慢できずに声を上げて悶え狂った。
「くあっ・・んんっ!あぁっ・・やめっ!」
「やめない!こんなに感じてるじゃない」
マーティンに何度も突き上げられ、ダニーは全身をひくつかせながら射精した。
「あぁっダニー!僕もイキそう・・んっ・・あっああー」
射精して覆いかぶさってきたマーティンを、ダニーは抱きしめる。
二人は抱き合ったままキスをした。
翌日、昼過ぎまで二人はベッドの中で過ごした。
ダニーがうとうとしていると、マーティンが揺り動かした。
「ねぇ、お腹すかない?ランチにしようよ」
「う?うぅん、じゃそうしよか?」
ダニーは眠い目をこすりながら、シャワーをしにバスルームに入った。
マーティンが入ってくる。
「二人じゃ狭いやん。お前んちと違うんやから」
そういうダニーの口はマーティンのそれで覆われた。
「マーティン・・」
「ダニー、欲しいよ、すごく!」
マーティンは頭から濡れるのも構わず、跪いてダニーのペニスを咥えた。
「う、んん、はぁー、気持ちええわー」
ダニーは思わずため息を漏らした。
マーティンは亀頭から裏筋へと舌をはわせて、十分に湿らせた後、喉の奥までペニスを飲み込んだ。
「うわー、そんなんされると、我慢できへん・・」
マーティンは素早くシャワージェルを自分の後ろに塗りこむと、壁に手をつけて、後ろを向いた。
「ねぇ、早く来て!」
ダニーは、前戯の余裕なく、マーティンの中にずぶっと自分をめり込ませた。
「あぁ、やっぱり、ダニーだよ!」
マーティンは、狂ったように腰を振り始めた。
「お、お前、もう出てまう、俺にも動かさせ」
ダニーはマーティンの腰を両手でつかむと、自分のリズムに合わせて前後させ始めた。
「あぁ、ダニー、いい、すごい大きいよ!」
「あぁ、お前の中、きつ過ぎや、俺、もうだめ、あー!」
ダニーはあっけなく果てた。ダニーが背中で身体を震わせるとマーティンもすぐに射精した。
二人は、互いの身体を洗いっこして、またベッドに戻った。
「お前、ランチよりエッチが欲しかったんちゃうの?」
ダニーが呆れた顔で尋ねると、「うん。ふふふ」とマーティンはいたずらっ子の顔をして笑った。
あかん、こいつ、めちゃエロくなってるわ。ホロウェイの仕業か?
ダニーはちょっと不快な気持ちになった。
「俺、疲れてランチ作れへん。お前、なんかデリバリー頼み」
「じゃ、ピザにするね!」
マーティンは腰にタオルを巻いて電話をかけにキッチンに向かった。
ダニーの携帯が震えた。アランだ。
「アラン、こんにちは」
「その挨拶じゃまだベッドの中だな。マーティンも一緒かい?」
「奴はピザボーイに電話かけてる」
「様子はどうだ?」
「まだ禁酒続いてる。結構やるで、あいつ」
「そうか。今日は会えそうにないね」
「ごめん・・」
「いいんだよ。それじゃまた」
アラン、前みたいに嫉妬しなくなったんやろか。
静かなのが一方では恐ろしい気がした。また折檻されるのはたまらない。
「ダニー、クラブソーダが無くなっちゃった!」
キッチンでマーティンが騒いでいる。
「はいはい、今、行くからな」
ダニーはベッドから這い出て、ジャージの上下に着替えた。
「そのへんで買うてくるわ」
ダニーが出かけると、マーティンはダニーの携帯をチェックした。
着信:アラン・ショア。
やっぱり僕じゃ、ダニーは物足りないのかな。セックスあんなに頑張ったのに。
もう元には戻れないのかな。
マーティンは窓からマンハッタンを見渡してため息をついた。
972 :
fusianasan:2006/06/05(月) 10:14:02
書き手1さん、ダニーを巡るアランとマーティンの争奪戦はどうなって行くので
しょうか。ダニーは結局どちらからも離れられないんですね。アランは親の様で
マーティンは兄弟の様な存在だからでしょうね。二人に愛されているダニーを見
られて嬉しいです。
書き手2さん、スチュワートの久々の登場に喜んでます。ダニーはスチュワート
といる時もすごく幸せそうなので、マーティンは二人の関係に気付かないでいて
欲しいと思いました。今のままの三人の関係が好きです。
>>972 ご感想ありがとうございます。
マーティンはとろいから二人の関係に気づかないとは思いますけどね。
バレないでそれぞれの関係を続けられればいいなと思います。
>>972 さん
いつも感想ありがとうございます。
ダニーをめぐる二人の男のかけひき、どうなるでしょう。
ダニーは愛情に飢えた欲張りさんなので、両方とも手放せないと思います。
ume
ume
ume
ume
ume
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