【Witout A Trace】ダニーテイラー萌え【小説】VOL.6
1 :
fusianasan:
1月からスーパーチャンネルでの放映中の海外ドラマ「FBI失踪者を追え」
4月5日(水)午後10:00〜 NHK BS-2でシーズン2の放映が決定!
ダウンタウン出身ダニー・テイラーを元にしたエロネタ小説のスレ
現在、書き手1と書き手2にて創作中。
新しい書き手の参加も大歓迎です。
ダニー・テイラー役、Enrique Murciano HP
http://www.imdb.com/name/nm0006663/ [約束]
・荒らしと叩きは相手にしないようにしてください
・アンチを見つけてもスルーしてください
・このドラマの他の関連板に感想などを書くのは控えてください
2 :
fusianasan:2006/02/11(土) 00:07:55
1時間ほどしてダニーは解放され、優しくベッドまで手を引かれて連れて来られた。
「暴れたんだね」
ダニーの手首の傷にそっとキスすると、アランは包帯を持ってきて、手当てをする。
「さぁ、寝ようか」
ダニーは胸がどきどきしてなかなか眠りにつけなかった。
あんなんなら、セックスで折檻される方がまだマシや。
隣りのアランを見ると、すでに寝息を立てている。
まったく、俺の親代わりも、父ちゃんと変わらんやないか。
ダニーは釈然としない気持ちを抱いたまま、アランに背を向けて、眠ろうと目をつむった。
5 :
書き手1:2006/02/12(日) 00:33:37
翌朝、ダニーはくしゃみをたて続けに3つほどして目が覚めた。
アランが驚いて目を覚ました。
「ハニー、風邪かな。どれ。」
額にアランの冷たい手が当たる。
「少し熱があるようだ。休むかい?」
「いや、マーティンいないだけで、仕事溜まり放題やから、俺行くわ」
「抗生物質の処方箋を書いておこう」
アランは飛び起き、バスローブを羽織ると、カウンセリングルームへと消えた。
6 :
書き手1:2006/02/12(日) 00:34:19
ダニーはシャワーを軽く浴びて、スーツに着替える。アランと朝食を食べる気にはなれなかった。
アランが処方箋を持って出てきた。
「俺、もう行くわ」「送ろう」「いや、今日はいい」
ダニーは処方箋を受け取ると、足早にアランのアパートを去った。
近くのデリでベーグルサンドとコーヒーを買って、支局に出勤する。
7 :
書き手1:2006/02/12(日) 00:35:12
サマンサが寄ってきた。
「今日はお手製の朝ご飯じゃないのね」
「ああ」不機嫌そうに答えるダニー。
「手首どうしたの?」
「あ、ちょっとひねった」「ふーん」
ダニーはだまってベーグルサンドにがっついた。
PCを立ち上げると、メールが入っていた。
多くは支局の通達だが、アランからのものがあった。何やろ。
8 :
書き手1:2006/02/12(日) 00:36:12
「昨日はやりすぎた。許してくれるかい?A」
アランも悪いと思ってんのや。俺の方がアランを裏切りかけたのにな。
ダニーは急ぎ返信を打つ。
「もちろん。今晩8時よろしく。D」
へくしょーん!へくしょーん!!
ダニーのくしゃみが静かな支局にこだまする。ボスが出勤してきた。
「何だ、ダニーも風邪か?おたふく風邪じゃないだろうな?」
「いや、ただの風邪やと思います」
「しっかりしてくれよ。全くうちの男どもは・・」
不機嫌そうにオフィスに入るボス。
9 :
書き手1:2006/02/12(日) 00:37:21
ミーティングの最中もダニーのくしゃみと鼻をかむ音が妙にうるさい。
ボスも気をそがれて、ミーティングを途中で切り上げた。
「お前、集中できないからもう帰れ!」ボスの不機嫌は絶好調だ。
「ええ、いいんすか?」
「明日、倍の仕事を用意してやろう」
「はぁ、ありがたいこって」
ダニーはアランからもらった処方箋をドラッグストアに持って行き、抗生物質を受け取ると、
アッパーウェストエンドのアランの家に直行した。
10 :
書き手1:2006/02/12(日) 00:37:55
朝よりかなり熱っぽい。合鍵で入り、パジャマに着替えると、薬を飲んで、ベッドに直行した。
きれいにメイクされたベッドはアランの匂いがした。
ダニーはいつの間にか、眠りについていた。
いよいよマーティンの退院の日が訪れた。
どうにか間に合ってニックも同時に退院する。
看護師から私物を受け取ると、私服に着替える。
「ニック、これからどうする?」
「俺の家に来るか?」
「自分の家が心配だからとりあえず、家に帰るよ」
「夜、来てくれるよな」
「うん、必ず行くよ」
「お姫様、俺たちやったな!」
二人は別々のタクシーに乗り、それぞれの家に戻った。
12 :
書き手1:2006/02/13(月) 00:39:06
マーティンは、ミネラルウォーターやオレンジジュースの配達を頼んで、
汚れ物をランドリーボックスに入れた。
久しぶりの我が家は冷たく寂しい限りだ。ニックに電話する。
「はい?」「ニック、僕、もう時間が空いちゃった」
「俺もだ。グローサリーの配達があるから家にいないといけない」「僕も同じ」
「じゃあ、やっぱり再会は夕食時間かな?タクシーで来いよ」「うん、わかった」
マーティンはグローサリーの配達が届くやいなや、外出着に着替え、タクシーを呼んだ。
久しぶりのニックのステューディオだ。
13 :
書き手1:2006/02/13(月) 00:40:49
ニックは作品の整理をしていた様子だった。
「こんばんわ」
「やぁ、ソファーに座れよ。何か飲むか?」
「水でいい」「そんないい子だったかな。ワインを開けるよ」「うん」
ニックがシャルドネを持ってくる。
「ありがと」「お前、明日、仕事に行く?」
「うん、クビになっちゃうもん」「そうか。分かったよ、今日は退院祝いで外食しないか?」
「うん、いいね」二人は、イタリアンの「バブート」に繰り出した。
14 :
書き手1:2006/02/13(月) 00:48:01
スプマンテを頼んで乾杯する。
すずきのカルパッチョ、ムール貝のワイン蒸しの前菜に続いて
シーザーサラダとミックスグリルで食事を取る。
ミックスグリルの時点で、二人はカベルネ・ソーヴィニオンに代え、グラスを重ね続けた。
「ねぇ、ニックはもうクリーンなんだよね」
「ああ、この2週間、生涯一番辛かったぜ」
15 :
書き手1:2006/02/13(月) 00:49:36
「うん。こんな僕だけど、ニックはいいの?」
「何だよう。それは、重たい質問だな。
俺がお前を追ってクリニックに入った事実は、クレジットされないのか?」
「すごく、嬉しかったよ。涙が出た」
「じゃあ、いいじゃないか。俺はマーティンと一緒にいたいんだ。
俺がどんなにダメな人間でも、お前は捨てないよな?」
「うん。だいたいニックがダメな人間なのか分からないしさ」
「俺たち、まだお互いを知らないよな」「うん」
「これから幾らでも時間があるさ。知り合おうぜ」
ニックはえくぼを浮かべて、乾杯を促す。
マーティンもこの上ない幸せに包まれて乾杯のグラスを重ねた。
16 :
書き手1:2006/02/13(月) 00:50:42
「お前、保護者に連絡しなくてもいいのか?」
「保護者?」「テイラーだよ」
「・・いいよ。どうせ職場で会うしさ。それよりニックと一緒にいたいよ」
「そんな事言って、俺、もう我慢出来ない」
「僕をどうにでもしてよ、ニック」
マーティンは濡れた目でニックを見つめた。
ニックははにかんだ微笑でえくぼを浮かべ、マーティンの手を握った。
「じゃあ、帰ろう」
17 :
書き手1:2006/02/13(月) 00:51:54
アパートのドアを閉めるやいなや、二人はお互いの服を剥ぎ取るように脱がし合い、
中二階のベッドルームへとわれ先にと上がった。
マーティンがベッドに横たわり、ニックを誘う。
「がう〜!」猛獣のマネをしてニックはマーティンに飛び掛った。
伸ばし放題のヒゲが首筋、胸、そして頬に当たる。
「ニックぅ、くすぐったいよ!」
「我慢しろよ、可愛い子ちゃん」
「僕、男だよぅ。早く僕に入れて」
18 :
書き手1:2006/02/13(月) 00:53:10
ニックはマーティンをベッドにはりつけ状態にして、固くなったペニスを太ももに押し付ける。
「へぇ〜、男ねぇ。欲しくてうずうずしてるくせに」
マーティンは答える代わりに両足をニックの身体に絡めた。
自ら腰を浮かしてニックを誘う。
「たまらないぜ、マーティン。お前って本当に可愛いよ」
ニックはローションに手を伸ばし、マーティンのアヌスと自らのペニスを十分に湿らせ、
ゆるゆるとマーティンの中に入った。
19 :
書き手1:2006/02/13(月) 00:54:03
「うわ〜、ミシミシするよ、ニックぅ」マーティンの目が潤んでいる。
「いいか、マーティン」「うぅふん、もっと動いて!」
ニックは我慢しきれず、思う様マーティンの中で暴れた挙句、中に自分を放った。
マーティンもニックの痙攣を感じ取り、ニックの腹に向かって放出した。
二人は荒い息をしながらベッドに横たわった。
「ニック、大好きだよ」
マーティンはニックの手に自分の手を絡めてそうつぶやいた。
風邪も治り、ダニーが支局に出勤すると、マーティンの姿があった。
サマンサと談笑している。
「よ、ボン、久しぶりやな」
ダニーはクリニックでの最後の会話があたかもなかったように、
マーティンに接した。
「ダニー、迷惑かけたね。今日からがんばって仕事するからね」
「ああ、頼むで」
ダニーはスタバのコーヒーをすすりながら、席についた。ぎこちない会話だ。
その後も二人は会話を交わすことなく、午前中が過ぎた。
21 :
書き手1:2006/02/13(月) 23:50:21
マーティンがトイレに立ったのを見届け、ダニーは追いかけた。
誰もいないのを確認して、ダニーが話しかける。
「お前、いつ退院したん?」「昨日だよ」
「電話してくれれば迎えに行ったのに」
「大丈夫だよ、もう子供じゃないんだから」
マーティンはそれだけ言うと、手を洗い、トイレから出て行った。
あまりのそっけなさにダニーもとりつくしまがない。
22 :
書き手1:2006/02/13(月) 23:51:48
ボスが気を遣い、マーティンに命じる。
「副長官に連絡しておけよ」「あ、はい」
マーティンはメールの整理に忙しく一日を終えた。
事件もなく平穏な一日だったので、サマンサもヴィヴィアンも定時で帰っていった。
ダニーが小声でマーティンに尋ねる。
「今日、夕飯でも食うか?」
「ううん、僕、寄るところがあるから」
相変わらずそっけない。
PCの電源を落とすとマーティンはそそくさと帰って行った。
23 :
書き手1:2006/02/13(月) 23:52:55
後を追いかけるダニー。マーティンが、タクシーを拾って、西の方向に向かうのを見送った。
やっぱりホロウェイの所に行くんやな。ダニーは拳を固めて見送った。
ダニーは、ブルーバーに寄りこみ、カウンターでマンハッタンをあおった。
携帯が震える。マーティン?急いで出るダニー。
「おい、テイラー、聞いてるか?もうマーティンはお前のところには帰らないってさ」
ニックだった。
24 :
書き手1:2006/02/13(月) 23:53:43
「何やて!マーティン出せや、ホロウェイ!」
「今、シャワー中だから無理ってもんだ。あいつのセックス最高だな、じゃあな」
ダニーは思わずグラスを持つ手に力を入れ、グラスを割ってしまった。
手から血をだらだら流すダニー。
「大丈夫ですか?お客様?」バーテンダーがタオルを持ってくる。
タオルを受け取り、手を拭くと、現金を置いてバーを立ち去る。
25 :
書き手1:2006/02/13(月) 23:54:49
アルゴンキン・ホテルを出てぶらぶらしていると、携帯が震えた。
「はい、テイラー」「アランだ、どこにいるんだ?」
「アルゴンキン」「迎えに行こうか」「ん」
ダニーはもうどうでもいい気持ちになっていた。
手からはまだ血が流れ出ている。アランのボルボが横付けされる。
「おい、手、どうした?」「グラスで切った・・」
「まったく、この子は・・。早く帰ろうな」「ん」
26 :
書き手1:2006/02/13(月) 23:55:48
家に連れ帰り、右手の手当てをするアラン。
「どうした、捜査で何かあったのかい?」優しい物言いだ。
「ううん、マーティンが復帰した・・」「ほう?」アランの片方の眉が上がる。
「俺に何にも言わないで、あいつ退院しとった。今はホロウェイのところや」
「そうか、それは傷つくな」ダニーはぼんやり座っていた。
27 :
書き手1:2006/02/13(月) 23:56:52
「またすきっ腹で飲んだんだろう。リゾットがあるから食べなさい」反応がない。
アランはスーパーボウルの録画をTVに映し出しながら、
チーズとズッキーニのリゾットに火を入れた。
のろのろと、ワインセラーからボトルを出そうとするダニー。
「おい、まだ飲むのかい?」
「ええやろ、俺の勝手やん」
アランはそっとしておくことにした。
ダニーが話したければ、話してくれるだろう。
28 :
書き手1:2006/02/13(月) 23:57:41
ソファーに腰掛けてぼーっと画面を眺めるダニーの前に、リゾットの皿を置く。
だまってリゾットに口をつけるダニー。
「書斎にいるから、用があったら呼ぶんだよ」「・・・」
アランは書斎とリビングのドアを開けっぱなしにして、ダニーの様子を伺うことにした。
ダニーはリゾットを食べながら涙を流していた。
ダニーはブルックリンに帰る気持ちにもなれず、
リゾットを食べた後、ワインを1本空けて、歯を磨いていた。
アランが眼鏡をかけたまま書斎から出て来る。
「今日は帰らないのかい?」「ん、泊めてくれる?」
「ああ、もちろんさ。それじゃホットバスを入れようか」「ん」
アランがバスルームにこもって湯を張っている。
ダニーの好きなラベンダーのアロマオイルとバスジェルを混ぜた。
30 :
書き手1:2006/02/15(水) 00:05:36
ダニーに一人で入るように促すと、言うとおりにした。全く手ごたえがない。
アランはダニーの精神状態が心配になった。
今まで何かと面倒を見てきたマーティンの独り立ちを目のあたりにして、
ショックは大きかろう。抗うつ剤でも処方しようか。迷うところだ。
彼のプライドも加味してよく考えよう。
アランは、ベッドルームに行き、電気ブランケットにスウィッチを入れた。
31 :
書き手1:2006/02/15(水) 00:07:21
ダニーがバスローブをはおって、ベッドに入ってきた。
「もう寝なさい。僕もバスに入ったらすぐ来るからね」「ん」
アランはからすの行水で出てくると、ベッドルームに急いだ。
ダニーは布団を頭からかぶって寝ているようだ。
隣りに滑り込むと、ダニーの身体が小刻みに震えているのが分かった。
静かに、ダニーを抱きしめる。
ダニーはアランの胸に顔をうずめて、静かに涙を流した。
32 :
書き手1:2006/02/15(水) 00:08:32
「いいんだよ、泣けるだけ泣きなさい。前にも言ったろう。涙は心を浄化させるんだ」
「アラン、俺、ごめん・・・」
「もう何も言うな。明日はまた新しい一日だ、心機一転だよ」「ん」
ダニーは泣きつかれて、アランの胸に顔をうずめたまま、寝息を立て始めた。
アランも複雑な思いを胸にダニーを抱きしめたまま、眠りに入った。
33 :
書き手1:2006/02/15(水) 00:09:50
翌朝、アランは朝食のサンドウィッチを持たせて、フェデラルプラザの角まで送っていった。
「今日も何かあったら家においで」アランが優しい声をかける。
「ん、分かった。ありがと」ダニーは無表情のまま車を降りた。
支局に出勤すると、まだ誰も来ていない。
コーヒーをマグに注いで、デスクで朝食を食べる。
すると、疲れた顔をしてマーティンがやってきた。
34 :
書き手1:2006/02/15(水) 00:10:55
「おはよう、マーティン」「おはよう、ダニー」言葉が続かない。
マーティンは支局の食堂に朝ご飯を買いに出かけた。
昨日は家に帰ったんやろか。
ダニーが訝しげに見ているとマーティンが「僕の顔に何かついてる?」と
例によってそっけない反応をしてきた。
「いや、お前、元気かなー思ってな。退院祝いしないとな」
ダニーは話をそらした。
35 :
書き手1:2006/02/15(水) 00:11:57
「退院祝いなんていいよ」
「ホロウェイも出てきたんやろ」
マーティンは顔を上げて、ダニーを見つめる。
「うん、一緒にね。二人で退院祝いしたからさ、いいよ」
「それなら、ホロウェイも一緒に食事はどうや。俺もアラン連れてくるから」
マーティンはしばらく考え込んでいたが、「それならいいよ。場所と日にち設定してよ」と言って、
コーヒーを入れに立ち上がった。
36 :
fusianasan:2006/02/15(水) 10:02:31
書き手1さん、マーティンの心はニックに行ってしまったのでしょうか。ダニーの
落ち込み方を見てると、あなたにはアランがいるからいいじゃないって言いたくな
りました。やっぱりダニーはアランと幸せになって欲しい。でも、ダニーはマーテ
ィンとの愛も捨てがたいのでしょうね。今後の展開も期待しています。
「え、僕も行くのかい?」
アランにマーティンとニックとの夕食の話をしたら、思いっきり嫌な顔をされた。
こんな事はめったにない。
「お願いだから、つきあって!」
ダニーは頭をぺこぺこ下げてアランに懇願した。
「ハニーのお願いだから聞くけれど、気が進まないな」
「ありがと、アラン!大好きや!!」
「全く調子がいいんだからなー」
アランは複雑な思いでダニーの懇願を許した。
38 :
書き手1:2006/02/16(木) 00:14:39
ダニーの心の中のかなりの部分にマーティンが居座っているのは確かだ。
生死を共にした仲間であり、恋人なのだから当たり前だろうが、
自分の存在が、マーティン以上になって欲しいと願ってやまないアランにとって、
今の状態は苦痛だった。
二人は、リトル・ブッダのデリバリーでインド料理を食べながら、
「イングリッシュ・ペーシェント」のDVDを見ていた。
39 :
書き手1:2006/02/16(木) 00:15:39
三角関係を叙情的に描く大作は、アランの心にもダニーの心にも響くものがありすぎ、
二人とも寡黙になった。
「コメディーの方が良かったな」
「ん、心が重たくなった」
「ブランデーでも飲もうか?」「ああ」
アランはルイ13世の栓を抜くと、イータラのブランデーグラスに注いだ。
豊穣な香りに包まれて、二人の夜はふけていった。
40 :
書き手1:2006/02/16(木) 00:16:31
4人の食事会の夜がやってきた。
ダニーはヴィレッジの「らん」の個室を予約した。
ニックが知らないであろうしゃぶしゃぶで、驚かせたかった。
アランのボルボに続いて、ニックのアウディーがヴァレット・パーキングに並んだ。
「後ろにホロウェイがいるよ」
ダニーが振り向くとニックとマーティンが談笑していた。
あんなマーティンの笑顔、久しぶりだ。
41 :
書き手1:2006/02/16(木) 00:17:27
4人は同時に車を降り、キーを預けて、店の入り口に向かった。
フロアマネージャーが、ニックの顔を見て驚いている。
「俺、そっくりさんだから」
それだけ言うと、ニックはレイバンをかけて顔を隠した。
個室に通され、レイバンを外す。
「個室か、助かるよ。外野がうるさい食事は嫌いなんでね」
「ニックはどこに行くにもサングラスが離せないんだよ」
マーティンが補足する。
42 :
書き手1:2006/02/16(木) 00:18:57
ダニーが、食事の説明をする。神戸牛の刺身としゃぶしゃぶのフルコースだ。
「日本じゃアメリカ牛が食えないのに、俺たちはこうして日本の高級牛を食ってるわけか。皮肉だな」
ニックが突然時事ねたを話し始めた。
「写真家でも新聞は読むんやね」ダニーが皮肉っぽく言った。
「ダニー、失礼だよ!」マーティンがダニーをにらむ。
「これでも大学の第二専攻は経済学でね」
ニックはニヤと笑いながら受け流した。
アランが見る限り、ニックの方が一枚上手だ。
43 :
書き手1:2006/02/16(木) 00:19:44
口に入れるとほろほろ溶ける刺身を堪能した後、しゃぶしゃぶが始まった。
「NYでもこんないい肉のしゃぶしゃぶが食べられるなんて知らなかった」
ニックが驚いている。
「ふん、お前、この料理知ってんの?」ダニーが興味本位で尋ねる。
「ああ、モデルの仕事で東京に2ヶ月ほど出稼ぎしてたからな。
それより、お二人さん、同棲してるって本当か?」ニックが逆に尋ねた。
44 :
書き手1:2006/02/16(木) 00:20:41
ダニーが答えるより早くアランが口を挟む。
「正式にはしていないが、しているも同然かな」
マーティンは明らかにショックを受けているようだった。ダニーも驚いた。
ホロウェイとアランがタッグを組んだのかよ!
「俺、風邪引いたりしてたから、ちょっと厄介になったんや」
マーティンに言い訳口調で説明するダニー。
アランが目を丸くして驚いているのにダニーは気が付かない。
45 :
書き手1:2006/02/16(木) 00:21:28
食事とワインが一通り終わり、4人はまたそれぞれペアに分かれた。
ボルボに乗るとアランが「ダニー、今日のは酷いぞ。いくら僕でも、我慢の程がある」と言い出した。
「ブルックリンに送るから、一人で頭を冷やせ」
それだけ言うと、アランはエンジンを吹かした。
46 :
書き手1:2006/02/16(木) 00:22:48
>>36 さん
いつもありがとうございます。
アランに甘やかされすぎて幸せに麻痺しているダニーです。
アランも欲しいし、マーティンも欲しい、わがまま状態なので、
とんでもないしっぺ返しが待っていました。
これからも、よろしくお願いします。
ダニーが目を覚ますと、隣には誰もいなかった。
二人ともどこ行ったんやろ?
ねぼけまなこを擦りながらもぞもぞとベッドから這い出る。
他の部屋も見て回ったもののどこにもいない。
もしやと思い屋上に出ると、ライムを埋め込まれた雪だるまの横で二人がキスをしていた。
48 :
書き手2:2006/02/17(金) 00:33:29
ダニーは気づかれないようにベッドに戻り、もう一度布団を被った。
実際に目の前でキスシーンを見てしまうとやはり穏やかではいられない。
あほ、オレはあいつらが寝てるとこも見てるのに・・・・
自分に言い聞かせるように一人ごちる。
49 :
書き手2:2006/02/17(金) 00:34:01
誰かがベッドルームに入ってきたので急いで目を閉じた。
ダニーは頬にキスをされたが、そのまま狸寝入りを続ける。
体をまさぐられ、それでも知らん顔をしていると、トランクスに手を入れられペニスをしごかれた。
「本当は起きてるんだろ?」
なっ、トロイ!!?慌てて目を開けるとニヤニヤしたスチュワートが目の前にいた。
50 :
書き手2:2006/02/17(金) 00:34:32
「さっき見てたろ?逃げなくてもいいのに」
ダニーは黙ったままそっぽを向いた。
スチュワートはダニーにさっとキスをした。唇に軽く触れるだけのキスだ。
驚いたダニーは何かを言おうとしたが、あまりに突然で声が出ない。
「間接キスさ。本物ならバスルームにいるぞ」
それだけ言い残すとベッドルームから出て行った。
51 :
書き手2:2006/02/17(金) 00:35:04
ダニーはただ呆然とベッドに寝転んで天井を見上げていた。
キスされた唇にそっと触れ、触れた左手を見つめる。
「ダニー、早く起きないと遅刻するよ」
マーティンが入ってきてダニーを急かした。
「ああ、今起きようと思てたんや」
ダニーは横をすり抜けるとシャワーを浴びに行った。
52 :
書き手2:2006/02/17(金) 00:35:35
着替えながらスチュワートを盗み見るが、平然とネクタイを結んでいる。
ダニーはよそ見ばかりしていたので、結び目がぐちゃぐちゃになってしまった。
「何やってんだ、貸してみろ」
手早くネクタイを結び直され、ダニーは照れくさくて視線をあわさないようにした。
「よし、完璧!どうだ?」
「・・・ありがとう」ダニーは礼を言うと鏡でチェックした。確かに完璧だ。
53 :
書き手2:2006/02/17(金) 00:36:08
ダニーだけ昨夜と同じ服なので、支局でサマンサにさんざんからかわれた。
毎日着替えを持ち歩けとまで言われ、ヴィヴィアンも失笑している。
「マーティンを見習いなさい、いつもきちんとしてるわよ」
「そやな、オレもお坊ちゃんを見習おか」
ダニーはヘラヘラしながら受け流し、居心地が悪いマーティンは席を立った。
54 :
書き手2:2006/02/17(金) 00:36:40
トイレに行くとボスが手を洗っていた。
「マーティン、熱帯魚は元気か?」
「ええ、けど何匹か死んじゃいました・・・」
「あんな初心者用の魚なのに?お前、何かやったんじゃないのか?」
「さあ、自分ではよくわからなくて・・」
「しょうがないやつだ、また教えてやろう」
ボスはマーティンの肩をポンと叩くとトイレから出た。
55 :
書き手2:2006/02/17(金) 00:37:11
ダニーは、仕事が終わるとぶらぶらと地下鉄の駅へと歩いた。
まっすぐ帰りたいような帰りたくないような、よくわからない心境だ。
カフェで食事を済ませたが、まだ帰る気になれない。
ホテル・エリゼーの前を通りかかったダニーは、いつしかマリーの部屋をノックしていた。
「ダニー!さ、入って」
いそいそと手を引っ張られ、ベッドルームに入ると目を見張った。
56 :
書き手2:2006/02/17(金) 00:37:45
フィリップが、苦しそうに叫び声を上げる男に圧し掛かっている。
「彼はスタニック、フランス系アメリカ人なんだって」
「ふうん、えらいもがいてるけど?」
「そりゃストレートなんだもの、痛くて当然でしょ。私たちも始めましょう」
マリーはダニーの服を脱がせ、怪しく微笑みながらベッドに押し倒した。
57 :
書き手2:2006/02/17(金) 00:38:17
ダニーはスタニックの叫び声を聞きながらマリーとセックスした。
妻を抱かれているフィリップは、時折ダニーにウィンクしてくる。
コイツら、ほんまもんの変態や・・・ダニーは激しい嫌悪感を感じたが、
無我夢中でマリーの体にむしゃぶりつき、思う存分果てた。
二人のセックスが終わり、まどろむ頃にはスタニックの悲鳴は収まっていた。
それどころか甘い吐息すら漏らしている。
58 :
書き手2:2006/02/17(金) 00:38:50
ダニーはスタニックの変化に驚き、フィリップの腰使いに見とれた。
スタニックは射精するとぐったりした。完全に放心状態だ。
「彼、もうストレートじゃないかもね」
マリーが煙草に火をつけながらダニーにささやく。
ダニーは勧められた煙草を断り、着替え始めた。
ネクタイを結びながら今朝のスチュワートを思い出す。
あいつ、オレにキスしやがった・・・今朝の感覚が唇によみがえる。
マリーと、まだ行為を続けているフィリップに別れを告げホテルを後にした。
ダニーは浮かぬ顔で支局に出勤し、静かに仕事を終えた。
「どうしたの、ダニー、さえない顔しちゃって」
サマンサが冗談半分で聞いてくる。
「うん、俺、さえないやろ。人生の危機や」
珍しく真顔で答えるダニーの様子に、「よければ、話聞くけど?」と夕食に誘ってくれた。
マーティンはいつもと同様、そそくさと帰っていった後だ。
60 :
書き手1:2006/02/17(金) 01:29:09
「カッツ・デリカテッセン」に寄り込み、ビールとパストラミサンド、
シーザーサラダで話し込む。
「それで、ダニー、何があったの?」
サンドウィッチをほおばりながら、サマンサが尋ねる。
「俺さ、あの、いわゆる二股かけてんのな」ダニーが言いにくそうに告白する。
「ありゃー、ひどい男!ダニーの彼女でなくて良かったわ」
サマンサがさもありなんという顔でビールを飲む。
61 :
書き手1:2006/02/17(金) 01:30:07
「それが、一方に新しい男が出来て、俺から離れていきそうやねん」
「それが嫌なの?」
「うん、出来ればつなぎとめておきたい思うてな」
サマンサは呆れた顔をした。
「全く、男って勝手なんだから。それでもう一方はどうなのよ?」
「一応俺のそばにいてくれてるけど、昨日、大喧嘩した」
「ふうん、で、ダニーはどっちが好きなの?」サマンサが核心に迫った。
62 :
書き手1:2006/02/17(金) 01:31:17
「分からん。一人は年上やし、俺の面倒みてくれる。
もう一人は同い年やけど面倒みたいタイプやねん」
「要するに、二人とも欲しいんだ。一夫多妻制じゃあるまいし、そんなうまい話ないわよ。」
サマンサはサラダを摘まみながら説教する。
「去ろうとしてる彼女に対する貴方の気持ちは未練よ。未練と愛情は違うわよ。
よーく考えると分かるって」
ビールをサマンサはあおった。
63 :
書き手1:2006/02/17(金) 01:32:19
「私もジャックに感じてるのが、未練なのか愛情なのか、だんだん分かってきたの」
「ふうん、そんなもんかな」
「ダニーはすぐ熱くなるから、一回冷静に考えるべきよ。
相手の二人も可愛そうじゃない。特に大喧嘩した相手がね」
「そやな、俺、すげー失礼な事やってもうた」
「じゃあ、決まりね。その人に謝りなさい!早い方がいいわ。
今晩電話か訪問して許しを請うのよ」
64 :
書き手1:2006/02/17(金) 01:34:18
「はい、ドクター・スペード。恋愛指南をありがとな」
ダニーは勘定書きを持った。
「人の事だと何でも言えるのよね」
二人はデリの前で別れた。
ダニーは、アップルパイを買って、アランのアパートへタクシーを飛ばした。
インターフォンを押す。「はい?」「アラン、俺。入れてくれるかな」
がちゃっとセキュリティーロックがはずれた。ダニーは覚悟を決めて
アランのアパートに入っていった。
ダニーはアパートに帰るとシャワーを浴び、
散々迷ったもののスチュワートに電話した。
「あ、テイラーやけど」
「ああ、何か用か?」
あまりに普通の対応でいささか拍子抜けする。
66 :
書き手2:2006/02/18(土) 00:59:00
「今朝のことやけど、その・・オレに・・・」
言葉が継げないダニーはしどろもどろになってしまった。
「ん?ああ、キスのことか。別に意味はないぜ。
君がオレたちのキスに拗ねてたから間接キスしただけさ。それだけだ」
「うん・・」
「何だ、気にしてたのか。悪かったよ、また三人で会おう、それじゃ」
電話を切った後も、ダニーはしばらく携帯を見つめていた。
67 :
書き手2:2006/02/18(土) 00:59:32
マーティンはボスの家で熱帯魚のレクチャーを受けていた。
自分の熱帯魚の死因がエサのやり過ぎだと判明しホッとする。
「これでもう大丈夫だね。死んだの見るとかわいそうで、どうしようかと思ってたんだ」
「そうだな、私も魚ちゃんにもしものことがあったらどうにかなりそうだ」
ボスは愛しそうに水槽を眺めた。
68 :
書き手2:2006/02/18(土) 01:00:04
「ねぇ、いつから飼ってるの?」
「別居してからだ。魚ちゃんは私の唯一の心の友だ」
「・・・そう」
マーティンは頷くとボスと並んで水槽を眺めた。
69 :
書き手2:2006/02/18(土) 01:00:36
突然インターフォンが鳴り、二人は顔を見合わせた。
ボスが出たものの、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「妻だ。何の用だ、まったく!」
マーティンは慌ててジャケットを羽織り、ブリーフケースをつかんだ。
やばい、逃げるったって間に合わないよ・・・
70 :
書き手2:2006/02/18(土) 01:01:06
ボスは仏頂面のまま玄関のドアを開けた。マーティンの心臓はバクバクしている。
「マリア、フィッツジェラルド副長官のご子息だ。マーティン、妻のマリアだ」
「こんばんは。いつもボスにはお世話になっています」
ボスの妻も少し笑顔を作って挨拶したが、作り笑いが張り付いたようにしか見えない。
マーティンはなんとか握手を交わしたものの、背中を冷たい汗が伝う。
「ボス、いろいろと参考になりました。ありがとうございました。今夜はこれで失礼します」
マーティンがドアを閉めるなり、二人の罵り合いがはじまった。
71 :
書き手2:2006/02/18(土) 01:01:38
怖い・・・やっぱ女はだめだ、怖いよ。ボス、なんであんなのと結婚したんだろ?
マーティンはタクシーを拾おうとしたが、今夜に限ってなかなかつかまらない。
ここからグラマシーに近いことを思い出し、スチュワートに電話した。
「あ、僕だけど。今から行ってもいい?」
「ああ、どこにいるんだ?」
「ボスんちの前なんだけど、タクシーがつかまらなくてさ、走ってくよ」
「バカだなぁ、迎えに行くからじっとしてろ」
マーティンは言われたとおりアパートの前で佇んでいた。
72 :
書き手2:2006/02/18(土) 01:02:10
五分ほどしてスチュワートが迎えに来た。
「すっげー早かったろ?マジでオカマ掘るかと思ったぜ」
「危ないじゃん、そんなに急がなくてもいいのに」
「どこに送ればいい?アッパーイースト?ブルックリン?」
「ん?スチューんちでいいよ」
「そっか、じゃあ帰るとしよう」
スチュワートは嬉しそうに手をつなぐと車を走らせた。
73 :
書き手2:2006/02/18(土) 01:02:41
マーティンはベッドに入ると、ボスの妻の話をした。
「僕は一生結婚しないけどさ、スチューは?」
「オレも予定なし。結婚したら女は変わるもんなのさ」
「そうかもね、女は怖いや」
「嫌なら答えなくてもいいけど、君はなんで女嫌いなんだ?」
胸に寄りかかるマーティンに尋ねる。
74 :
書き手2:2006/02/18(土) 01:03:11
マーティンは迷ったものの、いたずらされた過去を話した。
黙って聞いていたスチュワートはうつむくマーティンを力強く抱きしめる。
「そんなババア、どうせなら孕ましてやりゃよかったな」
冗談めかして言ったものの、怒りと不憫さが交錯していた。
「オレはずっとそばにいる、忘れないでくれ」
怯えたように打ち震えるマーティンにやさしくキスをすると目を閉じた。
アランはドアを開けて待っていてくれた。しかし素振りはそっけない。
「何の用だい?」「これ、土産」アップルパイを渡す。
だまって受け取るアラン。「入っていい?」「ああ、どうぞ」
アランはブランデーを飲んでいる様子だった。アルコールと葉巻の匂いがする。
「邪魔やった?」「いや、久しぶりに一人の時間を満喫したよ」
ダニーはコートとジャケットを着たままで、アランに抱きついた。
76 :
書き手1:2006/02/18(土) 01:21:34
「ごめん!アラン、俺、アランにすげー失礼な事してしもうた。許して欲しい」
「反省したんだね?もうマーティンには心を揺さぶられないか?」
「まだ、分からない。俺、何だか分からない。でも、俺、アランと一緒に住んでみたいと初めて思った」
「ほう、著しい方向転換だな」アランはブランデーをあおった。
「とりあえず、今日は泊まっていくだろう。着替えたらどうだい?」
「うん、ありがと、アラン」
ダニーはパジャマの上にガウンをはおり、クローゼットから出てきた。
77 :
書き手1:2006/02/18(土) 01:22:59
「君が住むとなると、このアパートは手狭だな。
隣りが空いているから、借り増ししようか」
アランは即決の男だ。明日には大家に交渉するに違いない。
とんとん拍子に進む話に驚きながら、ダニーはアランが許してくれた事に感謝した。
「俺、ブルックリンのアパート、キープしたいねんけど、いい?
ビューローに知られたくないよって」
「ああ、私書箱代わりに使いなさい。電話は転送サービスに頼めばいいさ。
僕は明日の朝が早いからもう寝るが、まだ起きてるかい?」
「うん、シャワーして寝るわ」
78 :
書き手1:2006/02/18(土) 01:24:33
アランは歯を磨くと、ベッドルームに去った。
ダニーは熱いシャワーを浴びながら、自分のこの決断をマーティンがどう受け止めるか、
心の中で自問していた。自分自身の気持ちすら、分からない。
何しろ、11歳で家庭が崩壊してから、誰かと近しく同居したことなどないのだから。
79 :
書き手1:2006/02/18(土) 01:26:04
翌日、ダニーは簡単な荷作りをすると、スーツケースに当面の洋服を詰め、
ギターケースと共にマスタングでアランのアパートを訪れた。
キッチンからいい匂いがする。
「ハニー、お帰り。荷物はそれだけかい?
クローゼットをもっと空けたから入ると思うが・・」
「ありがと、とりあえずや。今日の夕飯は何?」
「子羊のすね肉のポトフとバーニャカウダだ。
バーニャカウダのソースを手伝ってくれるかい?」「うん」
ダニーはコートとジャケットを重ねて脱ぐと、腕まくりしてキッチンに立った。
80 :
書き手1:2006/02/18(土) 01:27:21
アンチョビ、にんにく、くるみ、オリーブオイルを入れてミキサーにかける。
出来上がったソースを小さなソースパンに移して火を通す。
子羊のポトフがいい香りを放っている。
「アランって、ほんまプロのシェフやな」
「君こそ、ハニー」アランはダニーに優しくキスをした。
「子羊だから今日はフルボディーの赤でも飲むか」
「うん、何でも」
ダニーはアランの料理の腕前に心酔していた。
自分も料理には自信があったが、アランには負ける。
81 :
書き手1:2006/02/18(土) 01:28:31
アランは出来上がった料理をダイニングに並べる。
ダニーも部屋着に着替えてきて、席につく。
「いただきまーす!」「乾杯!」
前と変わらない食卓だ。家庭の香りがする。
ダニーは深呼吸して、家庭の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
82 :
書き手1:2006/02/18(土) 01:29:32
赤ワインで楽しく食事を終えた二人は、
トリノオリンピックの男子ハーフパイプの録画を見ていた。
「この競技は十八番やな。見てて安心するわ」
「今年はメダルが少ないからなぁ」
ダニーはアランの太ももに頭を乗せ、ごろごろした。
83 :
書き手1:2006/02/18(土) 01:30:42
「何だい?飽きたのかい?そうだ、週末は、久しぶりにショッピングに行かないか?
バーニーズから改装記念パーティーの招待状が来てるんだ」
「うん、アランの言うとおりにする」
「素直すぎて怖いくらいだな。じゃあ、そろそろ寝ようか」
「うん」
二人は手をつないでシャワールームへと去っていった。
ダニーは仕事でポカをしてボスにこってりしぼられた。
むしゃくしゃしながらモンキーバーに寄り、ドライ・マンハッタンをオーダーした。
グラスを差し出したバーテンダーにハッとする。
フィリップに掘られていたスタニックだった。
85 :
書き手2:2006/02/18(土) 23:52:43
「この前はどうも」
「ああ。ここのバーテンダーやったんや?」
「ええ」
ダニーは一口飲んで黙り込んだ。
「もうすぐ上がるんだけど、できたら相談に乗っていただけませんか?」
「へ?オレ?」
「ええ、バルカンご夫妻は帰国されましたから」
スタニックは不安そうにダニーを見上げた。
86 :
書き手2:2006/02/18(土) 23:53:13
「バルカン?ああ、あいつらな」
こいつ、バイになりました、どうしましょうとか言うんちゃう?
ダニーは断ろうとしたが、真剣な眼差しに負けて頷いてしまった。
さすがに職場では話にくい内容なので、場所を移す。
スタニックはホテルの近くのアパートに案内した。
87 :
書き手2:2006/02/18(土) 23:53:44
こざっぱりした部屋はよく片付いていて、ダニーは安心してソファに座った。
「狭くて申し訳ないんですけど・・・」
スタニックが遠慮がちに横に座った。
「で、相談てなに?」
「実はフィリップのことが忘れられなくて、彼女と寝てもなにか物足りないんです」
「フィリップなぁ、すごいテクニシャンやったもんな」
ダニーも思い出して股間が疼いた。
88 :
書き手2:2006/02/18(土) 23:54:14
「オレはバイになったんでしょうか?」
「さあ、わからんけど・・・」
「あなたはバイですか?」
「ああ」
ダニーはスタニックのすがるような視線から目を逸らした。
89 :
書き手2:2006/02/18(土) 23:54:46
「まあ別にバイでもいいんちゃう?結構いてるみたいやで」
ダニーはスタニックの肩をポンとたたいた。
「そうでしょうか?」
「ああ、誰かと試して見たらええかもな」
「誰かって・・・」
スタニックはダニーの手を必死につかんだ。
90 :
書き手2:2006/02/18(土) 23:55:18
「ちょっ、ちょっと待て!オレはあかんで」
ダニーはつかまれた手を離そうとした。
「お願いです、オレの一生がかかってるんです!」
スタニックは顔面蒼白で、思いつめているのが見てとれた。
「わかった、わかったから手離せ」
ダニーはとうとう了承してしまった。
91 :
書き手2:2006/02/18(土) 23:56:00
コンドームやオイルを準備している間に、スタニックにシャワーを浴びさせる。
ダニーもシャワーを浴び、ベッドで待っているスタニックの体に触れた。
マーティンとはまた違った肌の白さは蝋人形を思わせる。
これがゲルマン系の肌の色なんかな?
そんなことを思いながら丹念に舌を這わせた。
92 :
書き手2:2006/02/18(土) 23:56:32
「どうや?気持ち悪くないか?」
「ええ、前ならゲーって思ったでしょうね」
スタニックはくすくす笑いながら勃起したペニスを恥ずかしそうに手で覆った。
「ほな、オレはもうええやろ。帰るわ」
「そんな!まだわからないですよ、お願いします」
「しゃあないなぁ・・・」
93 :
書き手2:2006/02/18(土) 23:57:03
ダニーはスタニックのアナルにオイルを垂らすと、指にコンドームをはめてそっと入れた。
んっ!と硬直する体・・・ゆっくりアナルをほぐすように動かす。
中を探るように動かすとスタニックは背中を仰け反らせて悶えた。
「ええか?入れるで」
ダニーの問いかけに待ちきれないように何度も頷く。
94 :
書き手2:2006/02/18(土) 23:57:35
ダニーは新しいコンドームを着け、念のためにもう一枚被せる。
そっと押し当てて挿入するが、きつくてなかなか前に進まない。
「痛くないか?」
「少し・・・あうっ・・よくなってきた・・・」
ダニーは馴染ませてから少しずつ動かした。
95 :
書き手2:2006/02/18(土) 23:58:05
きつく締まったアナルはペニスに絡みつき、
やさしく動かすうちに自分が先にイキそうになってくる。
ダニーは腰に添えた手に力が入る。
「おい、オレのほうがイキそうや・・・」
「待って、あっああー」
スタニックはガクガク震えながら射精した。
ダニーも大きく動かすと果てた。
96 :
書き手2:2006/02/18(土) 23:58:37
オレ、コンドーム二枚もしてるのに早すぎや・・・
ゆっくり抜くとコンドームをティッシュで掴んで外す。
「フィリップよりヘタやけど、どうやった?」
「よかった・・・やっぱりバイになったみたい。どうしよう・・・」
「まあ、べっぴんのマリーにフラフラついて行ったんが運の尽きやな」
ダニーはしょんぼりするスタニックを促して一緒にシャワーを浴びた。
97 :
書き手2:2006/02/18(土) 23:59:16
服を着るとアパートを出た。
もっといてほしそうだったが頼りにされても困る。
マーティンのアパートがすぐ近くだが、浮気の帰りに行くわけにはいかない。
タクシーを拾い、行き先を告げるとぼんやり外を眺める。
モンキーバーもベメルマンズバーも行きにくくなってしもたな。
フルートでだけは浮気せんようにしとこ。行くとこあらへんようになってしまう。
ダニーはネクタイを緩めながらそんなことばかり考えていた。
土曜日、ダニーとアランはバーニーズ・ニューヨークの改装記念パーティの会場にいた。
アランと顔見知りのコンシェルジェがシャンパングラスを持ってきてくれる。
「ありがとう。ジェリー、世話になるね」
「ショア様にもテイラー様にもお勧めのクルーズラインが入荷していますので、お楽しみに」
さすが如才ない人あしらいだ。
カナッペを摘まみながら、グッチ、プラダ、ジル・サンダー、アルマーニのコレクションを見て回る。
99 :
書き手1:2006/02/19(日) 00:13:28
「春は誰のが着たい?」アランがダニーに尋ねる。
「俺、誰のでもいい。よく分からんもん」ダニーが困った顔をする。
「それじゃ、ハニーによく似合うグッチから選ぼうか」
ジェリーがダニーのジャストサイズの春物のTシャツとコットンセーター、
コットンパンツを持ってくる。
「いいじゃないか。着てみろよ」
アランはソファーに腰掛けてダニーの試着を待っていた。
ダニーが恥ずかしそうに試着室から現われる。
すべてダニーの浅黒い顔色を明るく映し出す色合いで似合っていた。
「この3点を包んでくれ」アランは即決だ。
「次はスーツだな」アルマーニ・コレツィオーニのシリーズから
保守的なダークスーツを選ぶ。
「これなら職場でも浮かないだろう」次から次へとカードを切るアラン。
アランは、同じくアルマーニのセーターとパンツを買った。
「アラン、それだけでええの?」
「僕は家で仕事だからね。リラックス出来る服装でいいんだよ」
「俺、どうやってお礼したらいいんやろ」
「身体で返してくれればいいさ」アランは声をたてて笑った。
ジェリーがコンパクトに箱詰めしてくれた洋服を持って、二人は家に戻った。
ダニーは買ってもらった洋服を丁寧にクローゼットにしまうと、アランに尋ねる。
「隣り、借り増ししたん?」
「今、家賃を交渉中だよ。内装工事も必要になるからね」
アランは前向きだった。
「アラン、俺、まだ自信ないねん。人と暮らしたことが少ないから。
トライアル・ベースでだめかな?」
「うーん、ハニーがそう言うなら、少し時間をあけようか。
でも隣りの物件は押さえるからね。」
アランは、ダニーが自分の意のままになるものと確信していた。
ダニーは、ディナーにチャイナタウンを提案した。
「久しぶりだな、いいね。点心でも摘まもう」
アランのボルボで「ジン・フォン・レストラン」に直行する。長蛇の列だ。
並んでいる顔ぶれに、ニックとマーティンの姿があった。
「よ、お二人さん!」ニックがレイバンをかけた姿で寄ってきた。
「よければ4人で食わないか。その方が、沢山食えるしな」
アランが「ああ、いいよ。いいだろ、ハニー」とダニーの顔を見る。
ダニーは内心どきどきしながら、「ああ、もちろん」と答えた。
ちょうど4人のテーブルが空き、案内される。
カートで運ばれてくる蒸篭の中を確かめては、慎重に選ぶダニーに比べて、
ニックは次から次へと料理を選んでいた。
鳥の足やとさか、豚の耳、蛇のから揚げなど、ダニーの不得意なものばかりだった。
アランがダニーのために豚のスペアリブや水餃子、蒸し鶏を選んでくれた。
4人で紹興酒のボトルを開け、乾杯を繰り返す。
はたから見ると、仲のいい友達同士のようなテーブルだ。
アランが何気なく「僕たち、一緒に住むことに決めたよ」と宣言した。
マーティンは顔色を失った。
「ほう、そうか、じゃあ、俺たちも考えるかな、なぁマーティン?」
ニックは自信満々でマーティンをこずいた。
「そうだね、ニック」マーティンはそう言うのがやっとだった。
ダニーはマーティンの反応を見ながら、黙って蒸し鶏を食べていた。
107 :
fusianasan:2006/02/19(日) 02:24:14
書き手1さん;
まだ迷ってるようだけど、ダニーがアランと同棲する決意したのに
驚きました。もうマーティンは見限ったのかな。
マーティンもあてつけみたいにニックと付き合ってるけど、どうなるのか。
今後の展開に注目しています。
・本スレで宣伝するのは控えてください
読んでいただいている方へ
いつも読んでいただきありがとうございます。
恐れ入りますが、本スレにこちらのURLや感想を書くのはご遠慮ください。
ダニーがアパートへ帰ると、リビングでマーティンが新聞を握りしめて笑い転げていた。
「ただいま。どうしたん?」
あまりの笑いように、浮気のことを一瞬忘れるぐらいだ。
「おかえりー。あのさ、イギリスでハムの原材料ラベルに犬の糞って書いてあったんだって。
添加物として犬の糞が記載されてたんだ・・くくっ・・あっはっはー」
マーティンはまたもや笑い出す。
「食べようとして気づいたって!食べた後なら嫌だよねー。
でさ、従業員のいたずらだってわかったんだけど、そいつ解雇されたってさ」
「ほんまに?」
ダニーは冗談かと思い新聞を見たが、事実だとわかり吹き出した。
マーティンと一緒にゲラゲラ笑う。
「ダニー、おなか空いてない?ピザがあるよ」
ひとしきり笑った後でマーティンがピザのカートンを指差した。
律儀に半分残してある。サラダに至っては手もつけていない。
「ありがとう、食べるわ。冷めてるから温めよか」
ダニーはうがいと手洗いを済ませるとオーブンに放り込んだ。
「今日のボス、すっげー怖かったよね。ちょっとびびった」
「うん、ポカしたオレが悪いんやけどな。むしゃくしゃするから帰りにバーに寄ってきた」
ダニーはどこに行っていたのか聞かれる前に先手を打つ。
「あんまり飲んじゃダメだよ。心配になるから」
マーティンはさりげなくチリワインを取り上げた。
「ん、気をつけるわ」
自分の体を心配する様子に余計に後ろめたさが増した。
ベッドに入ると甘えるようにマーティンが抱きついてきた。
硬く勃起したペニスが太ももに当たっていて痛いぐらいだ。
「ねぇ、ダニィ」
誘われてもダニーには今夜の二回目をする余裕はない。
「ごめんな、今日は疲れてるんや。おやすみ」
ダニーはほっぺにキスをすると目を閉じた。
マーティンはしばらくダニーの足に股間を擦りつけていたが、そのうち眠ってしまった。
ダニーは規則的な寝息が聞こえだすと目を開けた。
あどけない寝顔にそっと詫びる。
あー、オレ何してんねん!もどかしさに自分自身が嫌になる。
もう一度キスをすると、今度こそ眠るために目を閉じた。
マーティンがニックの家に行くと、ニックが荷作りしている最中だった。
「ニック、どっか行くの?」マーティンがびっくりして尋ねる。
「ああ、明日からLAへロケだ。グラビア撮影」
カメラをいくつも丁寧にケースにしまう。
「え、いつ帰ってくるの?」
「うまくいって、1週間ってとこかな。寂しいか?お姫様」
ニックがニヤっと笑う。
「大丈夫だよ、1週間ぐらい」マーティンが強がりを言う。
「不安そうな顔して。俺が浮気するかと疑ってそうだな」図星だった。
「うん、前に付き合ってたのが浮気性だったから・・・」「テイラーか?」
「うん」「俺はテイラーと違うぜ。お前が何より大切さ。毎日電話入れるから」
「今日はどうする?」「デリバリーでタイか何か食わないか?」
マーティンはコートとジャケットを脱いで、ネクタイを緩めた。
ニックが「バンコク・キッチン」に注文した後、冷蔵庫からビールを出した。
「ソファーで待ってな。あそこはデリバリーが早いんだ。」
15分で食事は届いた。
ヤムウンセン、トムヤムクン、鳥のミンチのバジル炒めとパッタイだ。
「ニックってタイにも行ったことあるの?」
マーティンがヤムウンセンの烏賊をほおばりながら聞いた。
「あぁ、東京に行ってただろう?帰りにプーケットとバンコクに寄ってきた。楽しかったぜ。ガキどもが可愛いんだ」
ニックは思い出し笑いをした。マーティンが不快な顔をする。
「何カ国行ったの?」「あとはミラノとパリとロンドンだ。いい思い出はないな」
ニックの表情が翳った。
「もっとビール飲むだろう?」
「うん。でも明日出発なら早く帰るね」
「気にしなくていいぜ。お前の方が朝早いもん」
「泊まってってもいいの?」
「ああそのつもりだよ」
「ありがとう。僕を大切にしてくれて」
「何言ってんだ。早く食って、ベッドに行こうや」
ニックは潔癖症のダニーと違って、食事後すぐにベッドに誘う。
それが心地よくなってきたマーティンだった。
思う存分ニックに愛撫してもらう。
特にニックの体臭を胸いっぱいに吸うと、ダニーと一緒にいないことを実感できる。
決別の準備だった。
ニックがマーティンをうつ伏せにして、ローションを塗りたくる。
「お前って、根っからのゲイなのか?」
「うん、女はだめなんだよ」マーティンが俯く。
「顔上げろよ、恥じることないぜ。俺が可愛がってやる」
そういうと静かに指を入れてきた。
マーティンの身体が硬直する。
「可愛いな。本当に食べたいくらいだ」
ニックはマーティンのアナルを思う様むさぼって、マーティンを悶えさせた。
「もう、だめだよ、入れてよ、ニックぅ」
ニックはニヤと笑うと、ペニスをあてがい一気に挿入した。
腰をグラインドさせ、マーティンを一層悶えさせる。
「うぅ、はぁ、もういっちゃうよ。ニック、助けて!」
「イケよ。お前のイク顔が見たいぜ」
マーティンは我慢しきれず、思いっきり射精した。
それに満足してニックも腰の動きを早め、マーティンの中に果てた。
タオルを渡すニック。
「それじゃ、眠ろう」ニックはすぐに寝息を立てた。
ニックの整った顔を見ながら、本当に浮気しないのか、
マーティンは半信半疑だった。
>>107 さん
まだまだアランとダニーの同棲には難関がありそうです。
ニックは本気でマーティンが好きなのだかまだ不明です。
色々考えて見ますね。
ダニーがマーティンのアパートに行くとスチュワートがいた。
「やあ、テイラー捜査官。君に会うのは久しぶりだな」
苦痛に顔を歪めながら氷で足首を押さえている。
「ああ、その足どうしたん?」
「スカッシュでくじいたのさ。オレももう年かな・・・」
氷をジャラジャラいわせながら当てる角度を変え、情けなそうに笑った。
「マーティンは?」
「オレの代わりにドラッグストアに行ってる。自分の処方箋は自分では書けないから」
「ふうん、なんかオレにできることある?」
「トイレに行きたいんだ、肩を貸してくれると助かるんだが・・・」
「ええよ、つかまり」
ダニーは体を支えて起こし、トイレに連れていった。
スチュワートが用を足す間、ついつい目線が股間に集中してしまう。
「お前、オレのペニスに興味があるのか?」
「えっ、いや、そんなんちゃうけど・・・」
ニヤニヤしながら尋ねられ、慌てて否定する。
「そんなんちゃうけど?って、じゃあなんなのか聞きたいもんだ」
「・・でかいからあいつの括約筋が心配になっただけや」
ダニーはぼそっと答えた。
「心配ないさ、その辺はちゃんとしてるから」
「でないとオレも困るからな」
「露骨なこと言うなよ、マーティンがかわいそうだろ」
「うるさい、変態トロイ」
二人はリビングに戻ると熱帯魚の水槽を見つめた。
「随分減ったよなぁ、もっといたと思うんだけど」
「うん、半分は死んでるみたいやな」
「オレは生き物は苦手なんだ。目が怖い」
「オレも生き物はあかん。死んだらきしょいもん」
二人は顔を見合わせた。
「オレたちって、たまに共通点があるよな。不思議だ」
話しているとマーティンが帰ってきた。
「ただいま、薬買ってきたよ。あ、ダニー来てたんだ」
「ん、さっき来たとこなんや」
マーティンは薬を渡した。「あのさ・・言いにくいんだけど・・・」
「どうした?」
「前のバンパーを擦っちゃって・・・ごめんなさい、弁償します」
マーティンは叱られると思ってうつむいた。嫌われるのが怖い。
「そっか、ケガしなかったか?」
「ん、僕は平気だけど、左の角が・・その・」
「ケガしてないなら別にいい。薬、ありがとう」
へ?それで終わり?ダニーは呆気に取られた。何、こいつ、めっちゃ寛大やん・・・
「ごめんね、ちゃんと弁償するから」
「弁償なんかいいって、それより水を頼む」
マーティンは水を取りに行き、ダニーはスチュワートを訝しげに見ていた。
「テイラー捜査官、そのバカ面はやめたほうがいい。不愉快だ」
「これは失礼・・・お前ってやさしいんやな」
「そうでもない。マーティンにだけ特別なんだ。あ、サンキュ、マーティン」
スチュワートは水をもらうとイブプロフェンを4錠流し込んだ。
「ねぇ、病院に行かなくても平気?」
「ああ、オレの所見では腱に異常はないみたいだ」
「よかったー」
マーティンはようやく胸をなでおろした。
「なぁ、メシ食ったん?オレ、ディナーに誘いにきたんやった」
「まだ。そういえばおなか減ったな」
「出かけられへんし、グラタンがあったやろ。あれにしよか」
ダニーはキッチンへいった。冷蔵庫をチェックし、材料を探す。
グラタンをオーブンに入れている間に、手早くアンチョビのパスタを作る。
出来上がった料理をリビングへ運び、三人は食べ始めた。
マーティンもスチュワートもパクパクがっついている。
「ズッキーニがあったらオムレツしたんやけどな」
「あーなんか食いたくなってきた、あれマジでうまい」
グラタンで舌を火傷したのか、スチュワートがベーと舌を出した。
「僕も何か作れたらいいんだけど。ダニー、前みたいに教えてね」
「ええけど、お前は何しでかすかわからんから怖いねん。サラダ専門でええやろ」
「嫌だ!他のも作りたい!」
「またそのうちな」
ダニーはマーティンのほっぺをぺちぺち叩いた。
朝起きると、スチュワートが足を試すように動かしていた。
「おはよう、痛いんか?」
「あ、うん・・少し痛むんだ。運転出来るかわからない」
「ほな、オレが送ったるわ。帰りも迎えに行くで?」
「それじゃ頼もうかな・・案外いいとこあるじゃん」
「お前な、素直に礼言うとけ!」
ダニーはくすくす笑うスチュワートの肩に軽くパンチした。
ダニーが着替えているとマーティンがスチュワートにネクタイを結んでもらっていた。
何気なく見ていると、自分も手招きされきょとんとする。
「早く来いって、ほら」
わけが分からずそばに行くとダニーのネクタイを結んでくれた。
「なぁトロイ、なんでオレまで?」
「してほしそうな顔してたからさ、よだれが出てたぜ」
「あほっ、そんな顔してへん!」
「冗談だよ、バーカ!」
じゃれあう二人に、マーティンが遅れるよと言いながら促す。
三人はダニーの車でミッドタウンへ向け出発した。
ニックがLAに旅立った日、仕事が終わって、マーティンはダニーのアパートに行った。
合鍵で中に入る。案の定、主のいないアパートは空疎で虚ろだった。
ギターもウクレレもなくなっている。
マーティンはなす術もなく、冷蔵庫を開けるとビールを取り出して、一口飲んだ。
エアコンを入れて、ピザの出前を頼む。
ソファーに寝転びながら、ダニーの好きな「グラストンベリー・ジャム」のライブDVDをかけた。
ペパロニピザを摘まんで、すっかり疲れてしまったマーティンは
閑散としたクローゼットから自分のパジャマを出すと、
ダニーのベッドに寝転がった。ダニーの枯れ草みたいな体臭がする。
「ダニィ・・」
思わず右手がペニスに届く。一人だけの寂しいセックスだ。
ティッシュにザーメンを包んでベッドの下に散らす。
虚しさに涙を流しながらそのままマーティンは眠りについた。
夜中、ダニーがアパートに入ると、部屋の中にピザの香りがした。
「うん?」不法住居者かと思い、思わず拳銃に手が伸びる。
べッドルームのドアが少し開いている。ベッドがこんもり盛り上がっている。
ダニーは静かに近寄り、布団をはいだ。
「FBI!動くな!」
「ダニィ・・」
「なんだよ、マーティンか?何してる?」
「寝ちゃった・・」
ダニーはベッドの下に散っているティッシュペーパーに気が付いた。
「お前、一人でオナってたん?エロイやっちゃなー」
気が抜けたのかダニーは拳銃をしまって、ベッドに腰掛けた。
「僕を軽蔑する?」
「そんなんあらへんで」
ダニーはマーティンの前髪をくしゃっとした。
「ダニー、僕、寂しいよ」
ダニーは複雑な表情を見せた。
「お前にはホロウェイがいるやん」
「今、出張中。浮気してるかもしれない」
「何で家に来たん?」
「本当にアランと同棲してるか確かめに・・」マーティンはまた泣き出した。ダニーはキッチンからコントレックスを持ってきた。
「これでも飲み」「うん」
ダニーは深呼吸して、話し出した。
確かにアランのところにいるが、トライアルなんだと。
「俺、人と暮らした経験少ないやん。お前とも暮らせへんかったし。
自分でもチャレンジなんよ。今日はここで寝るから、お前も泊まってき」
「うん」
ダニーはシャワーを浴びにバスルームに引っ込んだ。
マーティンはただただ悲しくて涙を流すばかりだった。
携帯が震える。「はい」
「マーティンか、俺。LAは暖かいぜ。お前も連れてくれば良かった。
また明日電話するから、いい子でいろよ」
ニックだった。ニックなりに気を遣ってくれている。
一方ここにはダニーがいる。マーティンの心は二つに裂かれそうだった。
ダニーがシャワーを終えた様子だった。電話の声がする。
「あ、俺。今日ブルックリンに泊まるから。うん、俺も愛してる」
・・・俺も愛してる・・・そんな言葉をかけてもらっていた頃があったと
マーティンは思い出していた。ダニーがベッドに入ってくる。
マーティンは急いで寝たふりをした。
ダニーは静かにマーティンの額にキスすると、手をとってつないだ。
ダニーは仕事が終わると、クリニックへスチュワートを迎えに行った。
マーティンは残業で居残りだ。
中に入ると、受付にジェニファーがいた。
「やあ、ジェニファー。ドクター・バートンは?」
「こんばんは、テイラー捜査官。まだ診察中なんだけど、もうすぐ終わるんじゃないかしら」
「ほな待ってる間、オレと話でもしいひん?」
ダニーはお得意の流し目でウィンクした。
お大事にと言いながら、スチュワートが患者と出てきた。
ジェニファーとヘラヘラ話しているダニーに少し驚いたように目を留める。
「おいおい、既婚者くどいてどうするんだ?」
「ええっ、ジェニファーって結婚してたん?」
苦笑しながら頷くジェニファーにあからさまに肩を落とす。
「残念だったな。じゃあ、後は頼む。また来週!」
スチュワートは白衣を脱ぐとジェニファーに渡した。
車に乗るなりダニーは腕にパンチされた。
「痛っ!なんや、急に!」
「浮気しかけた罰さ。マーティンは?」
「まだ支局や。そろそろ終わってるかもしれん」
ダニーは携帯を取り出すとマーティンに電話した。
「終わったって。よし、行こう」
スチュワートは勝手にCDを漁り、COLDPLAYのParachutesをかけた。
「X&Yよりこっちのほうがいいと思わないか?」
「うん、オレはFIX YOUは好きやけどな」
「あ、オレも。けどさ、Troubleが一番いい」
「マジで?オレもや。お前と一緒やなんて嫌やわ」
「バーカ、オレだって嫌だ」
話すうちに路上に突っ立っているマーティンが見えてきた。
「寒かったよー、ボスに夕食誘われたから逃げてきちゃった」
マーティンは後ろに乗ると手を伸ばしてダニーとスチュワートのほっぺに触れた。
「うわっ、冷たっ!」
マーティンは驚く二人にケタケタ笑う。
「やめろや!ぶつけるやろ」
ダニーに怒られ、しゅんとしながら手を離した。
「足はどう?まだ痛む?」
「少し痛いけど、歩けないことはない。ほとんど平気さ」
「ん、早く治るといいね」
「テイラー捜査官、寿司はどうだ?嫌いか?」
「いいや、大丈夫や」
「よかった、今から食いにいこう。オレの奢りだ」
三人はミッドタウンの寿司レストランに入った。
食事を終え、帰りにフェアウェイに買物に寄る。
ダニーはせっつかれてズッキーニをカートに入れた。
「これって今夜も泊まるってこと?」
「いいじゃないか、オレは怪我人なんだぜ。なぁ、マーティン?」
果物を物色していたマーティンは、嬉しいような困ったようなはにかんだ表情で頷いた。
「そうだ!アイスとポテトチップスも買わなきゃな」
二人は野菜売り場にダニーを置いてお菓子を選びに行ってしまった。
ダニーがスパイスを選んでいると、スナックの袋を抱えた二人が探しに来た。
「そんなん体に悪いで、返してき」
「オーガニックマークが付いてるから平気さ。一度に食べるわけじゃないし」
「お前はそうでもコイツは違う。夜中に食べるんやから」
「一度に食べないって誓うよ。いいでしょ?」
コイツの誓いは当てにならんと思いながらもダニーは渋々許可した。
アパートに着くと、スチュワートはTVRからガーメントバッグを取り出す。
マーティンが擦ったバンパーのことには一切触れない。
何事もなかったかのように車から離れる。
自分ならそういうわけにはいくまい・・・傷を心配する姿が目に浮かぶ。
調子の外れた闊歩で前を行くスチュワートにダニーは少し憧れた。
マーティンが魅かれる気持ちが理解できたと同時に、自分も魅かれているのに気づいた。
なんでオレが・・・そんなわけない!オレは・・・オレは違う!
それだけは認めたくない。
「お前、着替えなんか持ち歩くなよな。いやらしい」
ダニーは考えを打ち消すようにからかったが、自分の心に戸惑いを感じていた。
ニックがいない間、ダニーはアランに断って、マーティンと一緒に夕飯を食べるようにした。
この間の涙が忘れられないからだ。そんな生活が3日続いたある日、
アランが二人を食事に招きたいと言った。
マーティンにおずおず尋ねる。
「今日、アランがディナー作ってくれるって言うてるんやけど、お前どうする?」
マーティンは一瞬戸惑ったが「うん、有難くご相伴に預かるよ」と答えた。
二人でタクシーに乗り込む。
「お前、大丈夫か?」ダニーがマーティンを気遣って尋ねる。
「大丈夫さ、友達カップルに招待されたって事でしょ?」マーティンは強がった。
アランの部屋のドアを開けると、いい香りが充満していた。
「ただいま」「こんばんは」
二人はコートとジャケットを脱いで、キッチンのアランに挨拶する。
「ようこそ、マーティン。カベルネが開いてるから、勝手にやってくれ」
「はい」ダニーがイータラのグラスにワインを注いだ。
「今日は、何?」ダニーが尋ねる。
「ジャガイモのポタージュとオッソブッコだが、いいかな?」
「最高!」ダニーがアランにキスした。マーティンは思わず目を背ける。
慣れなければいけない光景なのにも関わらず、マーティンの心の中は嫉妬の炎が燃え盛っていた。
僕ってまだダニーが好きなんだ。
マーティンの携帯が震える。
「お姫様、俺だ。あさってには帰れるぞ。今日はこれから打ち上げだから、先に寝てろよ」
ニックだった。
「うん、待ってるね」
それだけ言ったマーティンだったが、ダニーにすぐさま「ホロウェイか?」と返された。
「うん。あさって帰ってくるって」「よかったな」
それだけ言うとダニーはワインをあおった。
二人の様子を観察するアラン。この二人は切れていない。アランは確信した。
どうしたら、この二人が別れられよう。
アランはSIGUR ROSのTAKKのCDをかけて、ダイニングに料理を運んだ。
「これ、すごくいい曲」マーティンが尋ねる。
「アイスランドのバンドだよ。CDタイトルはアイスランド語でありがとうの意味なんだ。
愛が溢れてくるような旋律だよなぁ」アランが解説した。
ダニーがCDに合わせてメロディーを口ずさんだ。
「俺、キューバ系なのに、アランと付き合うようになって、いろんな音楽聞くようになったわ」
「君はどんな音楽でも好きだろう」「うん、まあな」ダニーが照れている。
マーティンは二人の息の合い方に心を動かされていた。
どうしてこんなに違う二人が、息ぴったりなんだろう。
アランが何事か察して、「デザートはどうだい?アイスクリームにエスプレッソをかけてみたいんだが・・」と申し出る。
「はい、頂きます」
マーティンは、ワインを飲みきって、リクエストする。
「いかにもボンが好きそうなデザートやな」ダニーが大笑いしている。
アランがエスプレッソを入れている間、リビングでアランのCDコレクションを二人で見ていた。
「ダニー、今、幸せ?」マーティンが尋ねる。
「うん?あぁ、幸せやな。俺に家庭が出来たって感じや」
「僕だとだめだったんだよね」マーティンは瞳を伏せる。
「タイミングやろ、まだ分からんやん」
ダニーはささやき声で言うとマーティンの肩を抱いて、あやすように動かした。
「うん、そうだよね」マーティンは目をつむってダニーに身体を任せた。
「ダニー、ダニーってば!」
マーティンに体を揺すられハッとする。
「あ、ごめん。ぼーっとしてた」
「最近おかしいよ。どうかしたの?」
マーティンが心配そうに見つめている。
何でもない、ダニーは髪をくしゃっとするとキスをした。
本当はスチュワートのことを考えていた。
あいつのことが気になるやなんて・・・オレ、どうかしてる。
あほか、あいつの顔なんか見とうない!
ダニーは意識から締め出そうと努力するが、
グリーンの瞳とにやけた顔が目の前をちらつく。
それはマーティンとセックスしている間も消えることはなかった。
疲れて先に眠ってしまったマーティンの頬に触れる。
今までと変わりなく愛している。それは間違いない。
だが、スチュワートに甘えるマーティンが羨ましいのも事実だ。
特にネクタイを結んでもらっている時と、肩を抱かれている時・・・・
自分もされたくてたまらなくなる。
ダニーは自分で自分がわからなくなっていた。
翌日、仕事が終わるとダニーはグラマシーのフルートへ行った。
もしかしたら偶然会えるかもと思ったが、空振りに終わる。
ほろ酔い気分のままチェックを済ませると、スチュワートのアパートへ行った。
思い切ってインターフォンを鳴らす。
「はい」
「オレ・・テイラー」
ロックが解除され中に入った。
「お前っていつも突然来るよな。携帯の番号知ってるだろ」
「すまん、近くを通りかかったから」
「別にかまわないけど。うがいと手洗いしろよ」
スチュワートは上半身裸のままだ。鍛えられた体に思わず釘付けになる。
「風呂に入るところだったんだ」
ダニーの視線に気づいたスチュワートが答えた。
TVを見ていると、チャコールグレーのバスローブに身を包んだスチュワートが出てきた。
「バスルーム空いたから、泊まるなら入れよ」
「ああ、サンキュ」
ダニーは言われるままバスルームへ行った。
マリンソープのバブルバスに浸かり、オレは何してるんやと一人ごちる。
乱暴に体を洗うと風呂から出た。
着替えにマーティンのパジャマとトランクスが出してあった。
ヘンな柄だったが、嫌々着る。恥ずかしくて見るに堪えない。
ベッドルームにスチュワートが入ってきた。
「そのパジャマ、マーティンのほうがかわいいな」
「ん、あいつらしい柄やからな」
「オレはもう寝るぜ。今日は疲れたんだ、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
灯りを消すとダニーも横に寝転んだ。
横を見るとスチュワートの広い背中がすぐそこだ。
ダニーはドキドキして眠れそうにない。
自分の鼓動がやかましいぐらい耳に響く。
そっと背中に触れると寝返りを打たれ、慌てて退いた。
ダニーはしばらくじっと寝顔を見つめていた。
「く、くくっ、あーもうダメだー」
スチュワートがいきなり笑い出した。
ぎょっとしたダニーは硬直したまま動けない。
「何見てるんだ?寝首でも掻こうってか?」
「違うわ、お前こそ狸寝入りするなや」
ダニーは咄嗟にごまかした。
「今度こそ本当に寝るからな、おやすみ」
スチュワートはダニーに背中を向けると目を閉じた。
ダニーも反対側を向くと目を閉じる。
眠れなくて何度も寝返りを打つうちに真夜中になってしまった。
「ぅぅん・・マーティン、眠れないのか?」
寝ぼけたスチュワートにダニーは抱きしめられた。
どさくさに紛れて大きな手に自分の手を重ねる。
はっきりと自分の気持ちを確信していた。
ニックがNYに戻ってきた。マーティンは朝からニヤニヤしている。
マーティンがトイレに立ったのを見てダニーが後を追う。
「今日やな」ダニーが声をかける。
「うん、僕の面倒みてくれてありがとう、ダニー」
「お前、へこんでたもんな」「もうそんな事ないよ」
マーティンはダニーの肩をポンと叩き、出て行った。
仕事が終わると、マーティンは飛ぶように帰って行った。
「ふーん、坊やはデート?」ヴィヴィアンが勢いに驚いている。
マーティンはタクシーを飛ばし、ニックの家へと向かった。
ニックが鍵を開けて待っていてくれる。
ドアが開くやいなや、マーティンはニックに抱きついた。「ニック!」
「おいおい、お客さんがいるんだぜ」
マーティンははっとして身体を離した。
ブルーネットの美女がソファーで微笑んでいる。
「俺のエージェントのナタリーだ」
ナタリーが立ち上がって、マーティンに手を差し伸べる。
マーティンは握手した。
「はじめまして、貴方が例の匿名さんね。お熱い抱擁、ごちそうさま」
ナタリーは妖艶な笑みを浮かべ「それじゃ、ニック、また来週話し合いましょう」と言って帰って行った。
「ニック、ごめん、僕・・」
マーティンは叱られて小さくなる子供のように身をすくめた。
「気にすることないって。俺のセクシュアリティーも俺だからな。
ナタリーは宣伝になるネタだったら使うよ」ニックは声を立てて笑った。
マーティンはニックの自由奔放さをうらやましく思った。
僕なんて親にもカミングアウト出来ないのに・・。
「よう、何してた?」ニックがビールを勧めながら、マーティンに尋ねる。
「えーとね、仕事してた」ニックはゲラゲラ笑った。
「そりゃそうだろう。ミスターFBI。そのほかは?」
「特に何もないや」
「じゃあ、今日からまた色々楽しいことしようぜ。まずは食事だ。
LAは大味でつまらない。寿司食いに行こう」
ニックのアウディーでリトル・ジャパンの鮨やに出向く。
「へい、いらっしゃい!」大将の声が響く日本的な鮨やだった。
ニックはカウンターに腰掛けて「オコノミ、クダサイ」と言った。
「ニック、日本語できるの?」
「少しだけな。今日は大将にまかせて出たものを食うんだぞ」「うん」
マーティンの食べた事のあるネタの他に、フカヒレや馬刺しや海ブドウが出てきて、
マーティンは目を向いた。
「すごいね。寿司って何でもネタになるんだ。すごく美味しい!」
「それにヘルシーだしな。お前少し太らないか?」
ニックはマーティンの腹をつっついた。
「やめてよう!少しだけ太ったけど、大丈夫だよ」
「俺の被写体でい続けろよな」
ニックはマーティンの身体を舐めるように見た。
「え、また僕の写真撮るの?」「ああ、お前さえよければ」
マーティンは思い出したように言った。
「そうだ、あの写真、家に送られてきたんだよ」
「え?あのポートレートかよ?」
「うん。二人でクリニックに入っている間にさ。差出人欄が空欄なんだよ、
不思議じゃない?」
「あの支払い小切手も弁護士事務所からだったしな。」
ニックもしばらく考えていた。
「お前のファンかな?」
「そんなのいないよ!」マーティンは顔を赤らめた。
「でも住所知られてるって不安だよ」
「じゃあ、俺が調べとく」ニックは日本酒を飲みながらマーティンに誓った。
マーティンは安心したように、ニックの肩に頭をもたれかけた。
ダニーが目を覚ますとスチュワートの腕の中だった。
首の辺りに寝息がかかり、腰のあたりに朝立ちしたペニスが当たっていて
ダニーの心拍数は急激に跳ね上がる。
トイレに行きたかったが、それよりもこのままこうしていたかった。
「うぅ〜ん・・・」
スチュワートが目を覚ます気配がしたので慌てて目を閉じた。
スチュワートはダニーを抱きしめているのに気づき驚いた。
そっとダニーの寝顔を見るがまだ眠っている。
マーティンと間違えたのかな。こっそり腕を外そうとするがしっかり掴まれている。
こいつもオレのことを間違えてるのか・・・苦笑しながら指を一本ずつ退けていった。
ダニーは何かされるのではと期待していたが、丁寧に指をはがされがっかりした。
ベッドに一人残されると天井を見つめ、がっかりした自分に愕然とする。
オレ、マーティンからあいつを取り上げようなんて思ってない、
だってマーティンのこと愛してるんやから・・・・
堂々巡りをしていると、スチュワートが戻ってきたのでまた目を閉じた。
「テイラー捜査官、起きろ、朝だぞ」
ダニーはうっすら目を開けた。グリーンの瞳に覗き込まれている。
「ん・・・おはよう」
「おはよう、よく眠れたか?」
ダニーは頷くと体を起こした。
「寝癖でボサボサだぞ、シャワー浴びて来い。あとでアパートまで送ろうか?」
「いや、直接行くからええわ」
「そっか、じゃあウィッチクラフトで何か食おう」
ダニーはのろのろと立ち上がり、シャワーを浴びに行った。
支局の下で降ろしてもらい、礼を言っていると見つけたマーティンが走ってきた。
「おはよう、昨日一緒だったの?」
屈託のない笑顔に胸が痛む。
「ん、飲みすぎてな」
「マーティン、今夜出かけないか?いいだろ、テイラー捜査官?」
ダニーは許可を求められ、頷いた。
「それじゃ、18時にな。キスしたいけど夜までお預けだ」
スチュワートはにんまりしながらウィンクすると行ってしまった。
仕事も手につかないぐらい二人のことが気になる。
うっかりマグカップをひっくり返しかけた。
あかんあかん、気持ち切り替えやな!
ダニーはトイレに立つと冷水で顔をばしゃばしゃ洗った。
鏡に映る自分の顔をじっと見つめる。
「ダニー、今夜空いてるか?」
個室から出てきたボスが横に立っていた。
今夜はマーティンもデートやし・・・ダニーは自暴自棄になっていた。
「ええ、いいっすよ」
「そうか、それじゃ終わり次第地下駐車場だ」
ボスは嬉しそうに手を洗うとトイレから出て行った。
仕事が終わると、ダニーは地下に降りた。
待っているとすぐにボスが現われ、車に乗り込む。
「ボス、今日はどこに行くんすか?」
「ピーター・ルーガーだ、マーティンは用があるってさ。あいつも運がないな」
ボスは財布をチェックして現金を数えはじめた。
「ボス?」ダニーは呆気に取られて見ている。
「ん?あそこはカードが使えないからな。ま、お前と二人なら十分だ」
ボスはいそいそと車を出した。
食事を終えた二人はダニーのアパートに帰ってきた。
「今日のお前は様子がおかしいな。仕事にポカはなかったが」
「そうっすか?」
「ああ。心ここにあらずというか、悩み事でもあるのか?」
「・・・いえ」
ダニーはネクタイを外すとソファの上に放り投げた。
ボスはダニーの肩を抱き寄せた。
無抵抗のダニーのほっぺにキスをして首筋に舌を這わせる。
「どうしたんだ?おとなしいお前なんて抱きがいがないぞ」
「・・・・・・・・」
ボスはバスルームへ行くとお湯を張りはじめた。
整然と並んでいるバスジェルの中からイランイランを選ぶ。
スパイシーな香りが湯気と共に立ち上った。
「ダニー、来い」
ボスは服を脱ぐとダニーを連れて風呂に入った。
先にバスタブに浸かると後ろから抱きかかえるように座らせる。
「あ〜、やっぱり清潔な風呂は気持ちいいな」
ボスはダニーの乳首を弄びながら口笛を吹いた。
「ボス、またメイド雇いはったら?」
「そのうちな。いてもいなくてもどうでもよくなったんだ」
「けど、この前お邪魔したときゴミ屋敷みたいになってましたよ」
「失敬な!ゴミ屋敷ではない。まだ虫は湧いてないぞ」
「虫が湧いたら住まれへんやん・・・オレ、もう行かへん」
ボスは乳首をギュッとつねり、耳を噛んだ。
ベッドに入るとダニーはボスにもたれかかるように寝転んだ。
いつもなら嫌だが、今夜は一緒にいてくれるのがありがたい。
「ボス、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
ボスも寄り添うダニーにすっかり気をよくしている。
子供をあやすように背中をポンポンとするうちに、いつしか眠りに落ちていた。
ニックは、支払い小切手の名前を手がかりに、クライスラービルの弁護士事務所を突き止めた。
受付嬢に極上の笑みを浮かべて、署名者がギルバート・オニール弁護士であることを聞き出した。
「あの、オニール弁護士を呼びましょうか?」受付嬢が顔を赤らめて尋ねる。
「ああ、そうしてくれる?」ギルのアシスタントの女性が呼びに来た。
「もしかして、貴方は俳優の・・・」
「いえ、それは兄の方でして。フォトグラファーのニック・ホロウェイと言います。」
「どうぞこちらへ」
応接室に通される。アシスタントがコーヒーを運んできた。
運ぶ手がぶるぶる震えている。ニックは思わずニヤっと笑った。
ギルが応接室に入ってくる。ニックを見ると、目を見張った。
「いやあ、本当にお兄様と良く似ておられますね。ホロウェイさん。それで、どんなご用件でしょうか?」
「この小切手を振り出された理由を伺いたくて来ました。」
ギルは一瞥すると、「あぁ、これはクライアントからの依頼によるもので、詳細は明らかに出来ないんです」
と丁重に対応する。
「私の作品にこれだけ支払ってくださった奇特な方のお名前だけでも、ぜひ伺いたい。」
ニックは立ち上がると、ギルの後ろに回り、頬に触りながら、顔を自分の方に向けさせた。
「ホロウェイさん、何を・・・」
「オニール弁護士、いや、ギルバート、あんたは俺とキスしたいはずだ。
今すぐにね。その代わりにクライアントの名前を教えてくれる」
まるで催眠術のようだった。ギルは静かに目を閉じ、ニックの唇が触れるのを待った。
ギルは口を割った。
クライスラービルを出るニックの顔には微笑みが浮かんでいた。
アラン・ショアか、こいつは面白いゲームだ。
ダニーとアランの生活も2週目に入った。
ダニーはアランの新しい顔を知ることが出来た。
夜中までネットに掲示板を開いて、無料相談を受け付けていること。
メールでの相談にも応じていること。
以前は、ちゃらんぽらんな金持ちドクターだと思っていたが、その像は変わりつつあった。
今夜も、書斎にこもって掲示板の書き込みに応対しているアランに、ダニーはココアを持っていった。
「温まるで」「ああ、ハニー、ありがとう。やれやれだな」
「今、誰とチャットしてんの?」
「自殺したいという14歳の少女だよ。この1時間、ずっと止めているんだがね」
アランは眼鏡を取ると眉間をマッサージした。
「じゃあ、俺、そろそろ寝るわ」
「すまないね。おやすみ」
ダニーは一人ベッドに入った。隣りにフラミンゴのダニーを置いた。
ダニーが気が付くと、アランが隣りで寝息を立てていた。
薄い目の下の皮膚がくまでおおわれている。
さっきの女の子は自殺をとどまったんやろか。
ダニーはアランの頬に手でそっと触れた。
天邪鬼で時には辛い目に遭わせられるが、それでもアランを愛していると実感したダニーだった。
202 :
fusianasan:2006/02/24(金) 11:31:00
書き手1さん、ダニーとアランの同棲が始まって、ダニーが幸せそうにしてるのがうれしいです。
マーティンもニックにラブラブだけど、ニックのこれからの行動が気になります。それにしても
ニックって誰もが魅了されてしまう妖しい魅力がある人なので、ダニーの身が心配です。
書き手2さん、ダニーがスチュワートを好きになるなんて、予想だにしませんでした。
でも、ダニーの恋は報われないものとなるのは悲しいですが、スチュワートに恋するドキドキ感
がすごくいいですね。読んでいて楽しくなりました。今後の展開を楽しみにしています。
>>202 ご感想ありがとうございます。
ダニーの恋の行方はわかりませんが、楽しんでいただけて嬉しいです。
ダニーは帰りにマーティンのアパートに行った。
マーティンはTVを見ながらアイスクリームを食べている。
「ただいま」
「おかえりー、アイス食べる?」
「いや、いらん」
「ね、ちょっとあーんして」
マーティンはダニーの口にアイスクリームを入れた。
「おいしい?」
「・・・まずい」
「やっぱり?スチューがさ、ゲロの風味がするって言うんだ」
「これ食べたことないわ、何味なん?」
「ストロベリーチーズケーキ味。新製品だよ」
「あかん、ほんまにゲロの味がする。きしょい、ほかせ」
ダニーは口直しに水を飲んだ。
水槽を見ると、熱帯魚の種類が変わっていた。
「魚、前のと違うやん。なんで?」
「みんな死んじゃったんだ、だから・・・」
「まさかお前、死んだん食べてへんやろな?」
「そんなの食べるわけないじゃん、バカ!」
マーティンは拗ねてしまった。泣きそうな顔をしている。
しまったと思ったがもう遅い。
「ごめんな、機嫌直して」
ダニーは手の甲にキスをして上目遣いに見つめる。
マーティンはこくんと頷き、ダニーに抱きついた。
柔らかい髪がうなじに触れてくすぐったい。
キスをすると舌を絡めながらソファに押し倒す。
「マーティン、オレが欲しいか?」
真剣に見つめられたマーティンは、返事をする代わりにキスをせがんだ。
ダニーはキスをしながら体をまさぐり、硬くなった乳首を口に含んだ。
マーティンは微かに喘ぎながらダニーの髪を撫でる。
「・・・ベッドに行こか」
ダニーは手をつなぐとベッドルームへ連れて行き、やさしくキスをした。
甘えるマーティンを抱きしめ、全裸にするとすでにペニスは大きくなっている。
ダニーは自分も服を脱ぎ捨て、勃起したペニスを重ね合わせた。
腕の内側を愛撫していると、小さなキスマークを見つけた。
ひっそりとした存在にスチュワートを感じる。
ダニーは同じ場所に上からキスマークをつけた。
これも間接キスになるんやろか?自然と興奮度が増す。
マーティンにフェラチオさせながらアナルにローションを塗った。
指で何度もアナルを嬲り、耐え切れなくなったマーティンがペニスから口を離す。
「ダニィ、早く入れて・・・」
ダニーは四つんばいにさせると、後ろからゆっくり挿入した。
シーツをぎゅっと掴むマーティンの手を見ながら挿入をくり返す。
背骨を下から上へと舐め上げながら奥まで入れ、肩を噛む。
肩甲骨がぐっと盛り上がり、マーティンが感じているのがわかった。
ダニーはそのまま容赦なく突き上げ、喘ぎ声を聞きながら体を支配した。
「ああっー!」
何の前触れもなくマーティンはいきなり射精した。
快楽と羞恥に小刻みに震える体が愛しい。
汗ばんだ背中に手を置き動きを止めると、アナルがひくついているのがよくわかる。
ダニーはスプーンポジションに体位を変えると、腕枕をしながら抱きしめそっと動く。
マーティンが指を舐めている。指の間を這う舌がくすぐったい。
「マーティン、イクで・・・んっくっ・・あぁっ!」
荒い息を吐きながら、ダニーは愛しているとささやいた。
マーティンは手を強く握って応える。
ダニーがペニスを抜こうとすると、マーティンが止めた。
「このまま眠りたいよ」
「あほ、小さくなるから恥ずかしいわ」
「いいの!寝ている間に大きくなるんだから」
「途中で抜けると思うで。それに落ち着いて寝られへんやろ」
ダニーは引き抜くとほっぺにキスをした。髪をくしゃっとしながら抱きしめる。
甘えるマーティンに、やはり大切な存在だと再確認した。
アランは午後一番の予約者の名前を見て驚いた。
「ニック・ホロウェイ?あいつがまた何で?」
急いでダニーに電話をかける。
喧嘩っぱやいダニーが何か騒ぎを起こしたかもしれない。
「ホロウェイ?この前アランも一緒にチャイナタウンで会うたやん。あれきりやで」
拍子抜けする返事だった。ええいままよ、とにかく会ってみよう。
午後3時に、ニックがやってきた。
「ここが、ドクターの仕事場か。それらしいな。アッパーウェストサイドでご開業とは、いいご身分だ」
カウンセリングルームの中を見回すニック。
「それで、今日は僕に何の用だい?悩み事相談でもあるまい」
ソファーに座るよう促して尋ねる。
「15万ドルのお礼を言っていないし。今後のこともあるし」
ニックは右頬にえくぼを浮かべて笑った。
「15万ドル?さて何の事やら」アランがシラをきる。
「オニールに聞いたぜ。それにしても何故、マーティンなんだよ?あんたはテイラーだろうが」
アランは不快な顔をした。匿名が何でばれるんだ。ギルの奴!
「あれは、ダニーへの借りを返したものだ。君には関係ない」
ニックは目を見張った。
「何だよ、テイラーも知ってるのか。つまらない。
テイラーが知らなかったら、ドクターとチーム組もうと思っていたのにな」
「君とチームを組む可能性はいずれにしてもないと思うが」
「そうかあ?テイラーの奴、まだマーティンに未練たらたらだぜ。あんたそれでもいいのかよ?」
「果報は寝て待てだ。僕は気が長い方なんでね」
「まぁ、何かあったら、連絡くれよ。マーティンとテイラーを引き離す話だったら、
いつでも乗るぜ」
ニックは名刺をテーブルに置くとウィンクをして出て行った。
マーティンとダニーを引き離す?あの子達の絆は、想像以上に固い。
ニックと手を組んだからと言って、修羅場を迎えるのがオチだ。
フンっ!アランは名刺をデスクの引き出しにしまうと、次の患者の準備をした。
夜、ダニーがぐったりした様子で帰って来た。
「ただいま」「おかえり、疲れた顔して」
「もう、くたくたやん。副長官がDCから来はってな、支局かき回してんねん」
「それは、それは。マローン捜査官も大変だな」
「マーティンなんか顔を紅くしたり青くしたり大変やわ」
ダニーが着替えようとしているので、アランは声をかけた。
「今日は外食でもいいかな?」
「うん、それじゃ、スーツ脱ぐわ」
ダニーはプラダのモヘヤのセーターとカシミヤのスラックスに着替えた。
二人は久しぶりに「ローザ・メキシカーノ」に赴いた。
名物のざくろのマルガリータで乾杯し、山盛りのワカモーレを摘まんだ後、
ビーフファヒータで胃を満たした。
「やっぱり、メキシカンはうまいわ」ダニーは大喜びだ。
ワインを1本空けホロ酔い加減でアパートに戻る。
ダニーが置いていった携帯に着信があった。ボスからだ。
「ダニー、どこにいる!緊急指令、これから支局へ来い!」
あちゃー、1時間も前や!
「ダニー、どうした?」
「ボスから呼び出し、ちょっと支局へ行くわ」
「送るよ」「ありがと」
ダニーは仕度をし、アランのボルボに乗った。
>>202 さん
いつも感想をありがとうございます。
ニック、何しろルックスがLOSTのソーヤーですから(爆)
何でもありキャラになりそうです。
これからもよろしくお願いします。
ダニーの気持ちは日増しに大きくなる。
マーティンを裏切るわけにはいかない。
かといってスチュワートへの気持ちを抑えることもできない。
ジレンマに陥り、重圧に押し潰されそうになっていた。
自然と酒の量が増え、連日バー通いを続けていた。
ダニーがグラマシーのフルートにいくと、路肩にダークブルーのTVRが駐車されていた。
はやる心を抑えながら入り、カウンターにいるスチュワートの肩を叩く。
「トロイ、お前も来てたんか?」
「やあ、こっちで会うなんて珍しいな」
「ん、オレはドライ・マンハッタンとカプレーゼ、それとアンチョビのピザ」
ダニーは隣に座るとオーダーした。
「よかったらどうぞ。今日のスカンピはいまいちだ」
生春巻きをかじりながら料理を勧め、ダニーにこっそりささやく。
「あ、うん、もらうわ」
ダニーはグリッシーニの生ハム巻きに手を伸ばした。
「マーティンも来ればいいのに。今度は連れて来いよな」
「ああ」
生返事をしながら、ギムレットのおかわりを頼むスチュワートを横目で見る。
「この前な、アブサン飲んだらお前の瞳のこと思い出したんや」
「ああ、オレのはいい色だろ。アブサンも味はいけすかないけど、色はいい」
スチュワートはニヤっとすると乾杯するようにグラスを掲げる。
セクシーな仕草にダニーは生唾を飲み込んだ。
咽喉が上下したのが自分でもわかる。
慌てたダニーは三杯目のドライ・マンハッタンを一気に飲んだ。
少しくらっとしたが、そんなことは気にしていられない。
「お前、大丈夫か?急にどうした?」
「いや、別に・・・」
「なんだか目がトロンとしてるぞ」
スチュワートは心配そうに覗き込む。
じっと見つめられ、ダニーは余計にうろたえた。何か言おうにも言葉が出ない。
「おい、チェックを頼む」
スチュワートはダニーの分もチェックを済ませると車に乗せた。
「近いからオレんちでいいよな」
ダニーの返事を待つこともなく車を走らせる。
酔いが回ったダニーはシートにもたれかかった。
アパートに着くと、ベッドに寝かせられ服を脱がされる。
シャツを脱がされたとき、冷たい指がじかに触れ思わず勃起した。
気づかれませんようにと祈ったが、隠すのも恥ずかしい。
「おいおい、オレはマーティンじゃないぜ」
スチュワートは苦笑いしながら手早くパジャマを着せる。
ボタンを留めているとき、ダニーは思い切ってキスをした。
「んっ・・んん、バカっ!オレはスチュワート、お前の呼び方だとトロイだ」
ダニーを引き離すと布団をかぶせてベッドルームから出て行った。
オレ、最悪・・・どうしよ・・・・・もう合わす顔がない・・・
落ち込んだダニーは布団に顔を埋めた。
コトンと音がして、ダニーは顔を上げた。うとうとしていたらしい。
「ごめん、起こしたみたいだ。水、置いとくから」
「・・・ありがとう」
掠れた声で礼を言い、ペットボトルを開けようとするが手に力が入らない。
「あーあ、ほら貸してみろ」
スチュワートはキャップを開けて差し出した。
ダニーはさっきのキスが恥ずかしくて顔を上げることが出来ない。
「しょうがないなぁ、お前って案外世話が焼けるのな」
なかなか飲まないダニーを抱き寄せると、そっと水を飲ませる。
「また飲みたくなったらここに置いとくから。少し横になってろ」
スチュワートは布団でしっかりくるむと出て行った。
少し酔いが冷めたダニーはなす術もなく横たわっていた。
ダニーがオフィスに駆けつけると、ボスが一人、不機嫌そうな顔をしていた。
「すんません!遅くなりまして・・」
「全く、携帯を持たないとは、捜査官として失格だ!うん?いい身なりだな。デートか?」
「・・・はい、すんませんでした」
「まあいい、みんな捜査に出たから、お前は電話番してろ」
「事件は何すか?」
「オフラ・ハザー、アラブのホテル王の令嬢が失踪した。詳しくはファイルを読め。
私はオフィスにいる」
あちゃー、最悪や。前に起きたサウジ・アラビアの医師の事件以来、
ボスも副長官もアラブ系の事件にことさら、気を遣っている。
そんな時、初動捜査に参加出来ないなんて・・・。俺の出世はまた遠のいたな〜。
ヴィヴィアンから電話が入る。
「ダニー、デートしてたんでしょ?」
「そんなところで・・」
「ボスに報告して。部屋のPCに証拠あり。メールをマーティンが転送しますって」
「了解!」
マーティン、活躍してんねんな。あいつに水開けられるのは特に辛い。
「ボス、ヴィヴィアンから電話で、今メールを転送するそうっす」
ボスは眠りこけていた。
「ヴィヴィアン、ボス、寝てはるから、メールは俺宛にってマーティンに言うて」
メールが転送されてくる。どうやら、大学卒業後、祖国に帰るのを苦にしていたらしい。
友達宛のメールに悩みが書き連ねられていた。
ダニーはホワイトボードのタイムラインに丁寧にデータを書き込んでいった。
その後は誰からも連絡がなく、朝を迎えた。
ダニーはいつしか自分の机につっぷして寝ていた。
「ダニー、おはよう!」マーティンの声に焦って目を覚ます。
「すごくお洒落してるね」「まぁな」
ボスがダニーを呼んでいる。
「お前は帰って仮眠を取れ。午後1時にまた来い」「はい」
ダニーは、アッパーウェストサイドに戻って、シャワーをすると、すぐベッドに入った。
音でアランがカウンセリングルームからやって来る。
「おかえり、ハニー」
「ちょっと眠るわ。12時に起こして」
「ああ、ランチを作っておくよ」「ん」
ダニーが目をつむると、アランが優しく瞼に唇をつけた。
ダニーはランチバッグを持って、1時に出勤した。
ヴィヴィアンが「彼女のお手製?」と冷やかす。
ヘラヘラとダニーが応対しているのをマーティンはじっと見ていた。
中を覗くとダニーの大好きなパンパーニックルのベーグルの中にジューシーなビーフパテとオニオン、
レタス、トマト、卵焼きがはさんであった。
ペーパータオルの袋に「愛してる A」と手書きが添えられている。
ニヤニヤ笑いするダニー。
「やだ〜、ダニー、よだれ出してる!」サマンサが笑っている。
「それで、アラブのお嬢様はどないしたん?」
「彼女ならさっき無事で保護されたわよ。LAで」
「LA?」
「ショービズ界の恋人に助けを求めたみたい。今、LA支局で取調べ中」
「何や、優秀な捜査官の出番はなしになったんか」
ダニーは肩をガックリ落とすアクションをして、チームを笑わせた。
ボスがオフィスで副長官と話しているのが見えた。
マーティンがメールを送ってくる。
「今日、副長官とディナー。よろしく」
あちゃー、昨日の事言われるな。ダニーは覚悟して身を引き締めた。
マーティンはダニーの携帯に電話した。
「はい」
「あれっ、スチュー?ごめん、間違えたみたいだ」
慌てて切ろうとするマーティンに、スチュワートは笑いそうになる。
「待てよ、これはテイラー捜査官の携帯。間違ってないぜ」
「ん?どうしてスチューが出るの?」
「フルートで偶然会ったんだけど、あいつ酔いつぶれちゃってさ。オレのベッドで横になってるよ」
また一緒にいるの?マーティンは少しムッとした。
黙り込むマーティンにスチュワートは話しかける。
「君が思ってることを当てようか?」
「・・・じゃあ言ってみなよ」
「オレたちが怪しいと思ってる、違うか?」
「・・・・・・」
「やっぱり!君のことなら何でもお見通しさ。そんなことするわけないだろ、バカ」
「だって、僕よりダニーのほうが魅力があるんだもん」
「くくっ、嫉妬するなんてかわいいな」
スチュワートはくすくす笑っている。
「そんなに心配なら迎えに行ってやろうか?」
「・・・いい」
「よくない、オレが会いたいんだから。15分で行くよ、待ってろ」
返事も聞かないまま電話を切ると、スチュワートはアパートを出た。
マーティンのアパートに着くと、すでに下に降りて待っていた。
「寒いから部屋で待ってればいいのに」
黙ったままのマーティンの手をギュッと握る。
「明日、ジャン・ジョルジュで食事しないか?」
「嫌だ!」
「嫌か・・・困ったな。あっ、後ろめたいから誘ってるわけじゃないぞ」
「ん、わかってる。僕、あの店嫌いなんだ」
「そっか、それじゃ・・君んちでドラゴンアレイは?」
「食べる」
「普通、逆なんじゃないのか?」
「・・・あそこは父のお気に入りだから行きたくないんだよ」
「そっか。そういえばさ、副長官はゴルフの約束覚えてるのかな?」
「行かなくてもいいよ。あんなのと行っても気が滅入るだけさ」
マーティンは無意識につないだ手に力を込めた。
「オレが一緒なら平気だろ?ミラクルショットの連発で副長官の度肝を抜く!」
スチュワートが強く握り返すとマーティンは黙ったまま渋々頷いた。
「君と寝てるって知ったら暗殺されそうだ」
「笑いごとじゃないよ、本当にやりかねないんだから」
「なら気をつけよう。君といるとエンドルフィンが過剰に分泌されるからやばいんだ」
ウィンクすると、マーティンの手を自分の股間に当てる。
「あのさ、僕のエンドルフィンもたっぷり出てるみたい」
マーティンはやんちゃな表情を浮かべるとペニスを刺激した。
スチュワートは急いでクリニックに行き、車を停めた。
マーティンを連れて診察室に入り、しっかりと鍵を掛ける。
「もう我慢できない!マーティン!」
診察用のベッドに押し倒すとキスをしながらベルトを外す。
マーティンも自分で服を脱ぎながらむしゃぶりついた。
スチュワートは医薬品のキャビネットからワセリンを取り出すと
アナルにしっかりと塗りこみ慌しく挿入した。
カチカチに勃起したペニスは、滑らかな動きで出入りをくり返す。
キスで口を塞いで、喘ぎ声を漏らせないようにされたせいか、
マーティンの頬は紅潮し、背中に回した手にも力が入る。
秘密めいたセックスに二人の神経は昂ぶり、いつもより早く射精した。
帰りにクリスピー・クリーム・ドーナツに寄り、ドーナツを一緒に選んだ。
『シナモン・アップル』・・・スチュワートが好きな種類を知り、頭の中にメモる。
ドーナツも1つおまけしてもらい、マーティンは幸せを感じていた。
じっと見ていると穏やかに視線を返され、ダニーとのことを勘ぐった自分が恥ずかしくなる。
「帰るぞ、マーティン」
「あ、うん」
マーティンは闊歩するスチュワートの後に続いて店を出た。
ディナーの場所は、支局からほど近い「バー・アメリケーン」だった。
新鮮なシーフードが食べられるマンハッタンでも有数のレストランだ。
早速今日の魚介のコーナーで、副長官がエイとなまずを選んでいる。
うげー、どっちも得意やないなー。
ダニーが苦虫を噛みつぶした顔をしているのを見つけて、マーティンが笑った。
「ここのシェフの料理ならダニーでも食べられるよ」
副長官、ボスに続いて、マーティン、ダニーが席に通される。
「やれやれ、アラブ関係の事件はやっかいだな」
副長官がナフキンを広げながらつぶやく。
「まったくで」ボスも思わず同意だ。
前回は、自分が人身御供になるところだった。
まだ副長官とボスの間には、わだかまりが残っている。
「父さん、何にします?」珍しくマーティンが口を開いた。
「あぁ、そうだな。シャサーニュ・モンラッシェでも飲もうか」
オイスターの盛り合わせ、サーモン・タルタルの次に副長官が選んだメインディッシュが来た。
エイもなまずも調理されてみれば、ただの魚だ。
ダニーは緊張した肩を降ろして、バター味のソテーを味わった。
「うまい!」
「ダニー、口に出して、言ってもらえるとうれしいよ。
マーティンはあまり感情を表現しなくてね」副長官はマーティンを一瞥した。
「そんな、父さん、僕だって、料理の品評くらいしますよ」
前とは違って、よどみなく父親と会話するマーティン。
ボスも目を丸くして見ている。ダニーはショックを隠しきれなかった。
俺といた時と違ってマーティン、自信に満ち溢れてるわ。ホロウェイと俺のどこが違うんや!
デザートのオーダーの時間になり、ダニーとボスはアイリッシュ・コーヒーを選んだ。
親子は例によって一番こってりしているチョコレートファッジ・サンデーを仲良く頼んでいる。
「ダニー、ところで昨日は携帯を持っていなかったとか、ジャックから聞いたが、君としたことがどうしたんだね?」
副長官の口から突然ナイフのようなセリフが飛び出した。
「あー、そのですね」ダニーが口ごもっているとマーティンが助け舟を出す。
「ダニー、引越しの最中で忙しいんですよ」
「とにかく連絡だけは取れるようにしておけよ」「はい、了解です」
マーティンに助けられて、見せる顔のないダニーだった。
ディナー後、ボスは副長官をフォー・シーズンズに送っていった。残された二人。
「これから、一杯飲みにいかへん?」「いいよ」
断られると思っていたダニーは、マーティンの快諾に驚いた。
アルゴンキンのブルー・バーに寄り込む。
ダニーの顔なじみのバーテンダーが、「今日もマンハッタンですか?」と尋ねる。
するとマーティンがすかさず頼む。
「いえ、シャンパンください。そうだな。ヴーヴ・クリコをボトルで」
「お前、一杯だけじゃないんか?」「いいじゃん、飲もうよ」
フルコースを食べたというのに、マーティンはキャビアのカナッペも頼み、じっくり飲むつもりの様子だった。
「何かあったん?」
「ダニーの新生活がうまくいってるみたいでさ、うらやましいんだよね、僕」
マーティンはシャンパンをぐいっと一気飲みした。
「お前かて、ホロウェイが帰ってきたら、毎日犬みたいに家にまっしぐらやんか」
ダニーも負けずにシャンパングラスを空ける。
「ニックってまだ分からないんだよね。ゲイかバイかも知らないし・・」
ダニーが呆れる。「お前たち、ちゃんと会話してんの?」
「うーん、会話するより、他のことしてるから・・」
マーティンが耳を紅くして答えた。
「はいはい、ご馳走さん。そんなにホロウェイはええんか?」
「そんなの言えないよ!」
マーティンは顔全体を紅く染めてシャンパンをあおった。
「ボンに不安があるなら、直接聞いてみりゃええやん。何なら俺が聞いたろか?」
「いいよぅ、ダニーが出てくると、またこじれるから・・」
「何や、俺はトラブルメーカーか!」マーティンが笑い崩れた。
ダニーにとってはデジャヴーのような光景だ。
それも別の男の話をして、盛り上がるとは。
ダニーは時の移り変わりを実感していた。
ダニーは、甘ったるいレモンクリームの香りに気分が悪くなった。
胃をさすりながら横向きになる。
「マーティン、入ろう」
スチュワートの声がして甘ったるい香りは消えた。
マーティン?ん?・・・何のことやろ?・・・・
夢うつつのダニーは、再び眠りの世界に戻った。
マーティンはバスタブの中でスチュワートの足に挟まれていた。
「本当に酔いつぶれてたんだね」
「ん?ああ、テイラー捜査官か、そう言ったろ?」
「ん、ごめんね」
「バカ、心配することなんかないんだぞ」
スチュワートは足でギュッと締め付ける。
「僕はあんまり愛されたことがないからさ、不安なんだよ」
「マーティン、もっとこっちに来い」
「いいよ・・・恥ずかしいよ」
「いいから!」
強引に抱き寄せるとグリーンの瞳で見つめられる。
「愛してるんだ。こんな感情は初めてかもしれない」
「スチュー・・・」
「君にはオレがいる。安心しろ」
やさしくキスされながらこみ上げる涙をこらえた。
ダニーが目を覚ますと、隣に寝転んでいたマーティンと目が合った。
マーティン!思わずがばっと起き上がる。
「おはよう」
「おはよう。あれ、ここは?」
「スチューのアパートだよ。酔ってたから覚えてないんだね」
マーティンはダニーの頬にそっと触れた。
「お前はいつ来たん?」
「22時ごろかな。そうだ、ドーナツがあるよ」
ダニーは甘ったるい香りの正体を知り失笑した。
「あのさ・・・・いや、何でもない」
「何?言いかけたんやったら言えや、気になるやん」
「僕さ、ダニーとスチューが浮気してるって思ったんだ、ごめん」
突然のことにダニーは驚いたが、顔には出さない。
「僕と会ったこと後悔してない?」
「それはどういう意味?」
「僕と寝なきゃ男となんか寝なかったでしょ?」
「そうやな・・けど後悔なんかしてないで。オレ、ボンのこと好きやもん」
「ありがとう。ごめんね、ヘンなこと聞いて」
マーティンは謝ると弱々しい笑顔を浮かべてシャワーを浴びに行った。
あかん、トロイのことが好きやなんて、口が裂けても言われへん・・・
ダニーは自分の気持ちを押し殺すことにした。
同じベッドで眠るスチュワートを見つめ、大きくため息をつく。
なんでこんなことになってしもたんやろ・・・・
こんなヤツ、大っ嫌いやったのに・・・・
ダニーはスチュワートのほっぺを突付いた。
「ぅぅん・・ぁ」
気持ちを伝えられないもどかしさを晴らすように鼻をつまむ。
息苦しさに跳ね起きたスチュワートはダニーの手をつかんだ。
「ぐはぁ・・苦しい・・お前、何かしただろ!」
「いいや、知らんで」
「嘘つけ!すっげー苦しかった。息が止まるかと思ったぜ」
「そやそや、無呼吸症候群ちゃう?」
しらばっくれるダニーにスチュワートは馬乗りになる。
ダニーは朝立ちしたペニスを押し付けられ、性的興奮を覚えていた。
とぼけるたびにぐいぐい押してくる感覚がたまらない。
わざと挑発するようなことを言い、楽しんでいるうちにとうとうイキそうになった。
このままやったらやばい、マーティンも戻ってきそうやのに・・・
「ごめん、オレが悪かった」
ダニーは謝り、ようやく解放された。
スチュワートが部屋を出たすきにペニスをしごく。
あっけなく果てたダニーは布団で精液を拭った。
ダークグレーのカバーに付着した精液の染みが嫌らしい。
オレは変態か!満足げに眺めながら一人ごちた。
271 :
fusianasan:2006/02/28(火) 02:17:44
書き手1さん;
アランとダニー、甘甘の新婚生活ですね。見ていてほほえましいです。
このまま幸せが続くといいのですが。マーティンとニックが安定してない
感じがしています。マーティン、ダニーのところに戻りそう。
書き手2さん;
スチュワートとダニー、てっきりベッドインするかと思ったら、
マーティンが間に入ってきましたね。ダニーの乙女のような恋心が
新鮮で、毎日楽しいです。
お二方とも、毎日で大変でしょうが、できるだけ長くこのスレを続けて
下さいませ。応援しています。
アランは、ビジネスウィークから目を上げ、浮かない顔をしているダニーを見つめた。「ハニー、何だか悩み事でもあるようだね、
どうした?」ダニーはアランに膝枕してもらい、もぞもぞしていたが、
ガバっと起き上がった。
「ねぇ、アラン、俺って人に対する影響力少なくない?」
「何だ、ヤブから棒に。そんな事ないよ。僕がいい例だ。君のお陰で、心の隙間が埋まった」
そっとダニーを抱き寄せる。
「へぇ、そうなん?」ダニーは嬉しそうな顔をしてアランを見つめ返す。
「何だ、マーティンの事かい?」
「うーん、そうやねん。」
アランはまたかと思いはしたものの、静かに耳を傾ける。
「マーティンな、親父さんとの会話がスムーズに出来るようになってん」
「いい事じゃないか?ははぁ、君はその変化がホロウェイ効果だと思ってるのかな?」
「もう、アランには隠し事出来へんなぁ」ダニーは頭を掻いた。
「同じ人物でも、相手によっては違う化学反応が生まれるじゃないか。
たとえば君とは恋に落ちたけれど、マーティンには惚れなかった僕とか」
「俺、ずっとボンのそばにいたのに、全然いい影響を及ぼせなかったと思って、悔しいねん。
それがあんなホロウェイみたいな、すかたん野郎がひょいっと出てきて、マーティンが変わった」
アランは苦笑した。
「まぁなー、ホロウェイがすかたんかどうかは知らないが、マーティンと相性が良かっただけなんじゃないか?」
アランは、ホロウェイはかなりの曲者だと理解していた。
自分に似ているかもしれない。
ダニーが肩にもたれかかってきたので、そのまま髪の毛をいじりながら、頭を撫でた。
「君は、この後もマーティンの人生にかかわりたいって思ってるのか?」
静かな声だが重みのある質問だった。ダニーは身を固くする。
「うーん、分からへん。俺、どうしていいか分からへんのや。アラン、助けて」
アランの胸にむしゃぶりついて、ダニーは涙を流した。
アランはなす術もないまま、ただダニーの背中をあやすように叩いた。
「感情がそれ以上高ぶる前に、もう今日は寝よう」
アランはダニーの手をひっぱって、ベッドルームへと移動した。
ベッドの中でも静かに涙するダニー。アランはそっと抱き寄せた。
「ね、俺を抱いて!めちゃくちゃにして!」「ダニー・・・」
「忘れたいんや。お願いや、頼む!」
アランはマンゴー・ローションを取り出し、ダニーの胸と腹にたらした。
「何?」
アランは静かにローションを舐めながら、ダニーの性感帯を刺激する。
「うぅぅん、ふぅ、はー」ダニーが目をつむって悶える。
「ねぇ、入れて!早く、俺に入れて!」
アランは請われるまま、自分の屹立したペニスにローションを塗りたくり、
ダニーの菊口に押し当てた。ダニーのアナルは、待っているかのように蠢いている。
「いくぞ」「うん!」アランが一気に攻め立てた。
ダニーはアランの背中に爪をたて、ぎゅっと抱きしめる。
刺激的なダニーの様子にアランは我慢できず腰を思わず振りたてた。
「あぁ、いい、俺、イキそうや!」
「早くおいで、一緒に行こう!」
アランがあーっと悲鳴を上げるのとほぼ同時にダニーは果てた。
ダニーの痙攣を感じて、アランはやっと自分を解放した。
>>271 さん
マーティン同様、ダニーもまだ不安定です。
また色々な展開を考えてみます。
ダニーがオフィスに行くと、マーティンとサマンサが話をしていた。
「おはよう、楽しそうやな」
「あ、ダニー、昨日サムのデート現場に出くわしたんだよ」
「そう、スケートしてたらマーティンたちにぶつかりそうになって」
なんや、マーティンもデートやったんか・・・ダニーは少し嫉妬した。
「ダニー、サムの彼、ゴールドマン・サックスだって。お給料もイケてる」
「ふうん、サムもええのん見つけよったな」
「そうだ、言うの忘れてたけど、スチュワートが前より綺麗になったって言ってたよ」
「それ本当?やっぱりドクター・バートンは見る目があるわ」
サマンサはにんまりと照れ笑いを浮かべた。
「あなたたちなんて、毎日会ってても気づかないんですものねー」
「オレは知ってたで。言わなんだだけや」
ぺちゃくちゃしゃべっているとボスの咳払いが聞こえた。
三人はそそくさと散ってミーティング用の席に着いた。
ボスは不機嫌なままオフィスで書類に目を通している。
昼休みになっても出てくる気配もなかった。
ダニーはマーティンを誘ってカフェに行った。
「今日はボスにつかまらんように帰らんとな。おっさん、要注意や」
「ん、聞かれたのはまずかったね。けどさ、勝ち目ないよ」
マーティンは言いながらシュリンプサンドにがっついた。
「だって独身でゴールドマン・サックスだよ?話もおもしろかったしさ」
「おまけにルックスもや。それに、いつまでも束縛するわけにもいかんやろし」
「ボス、またごはん食べなくなっちゃうかも。僕、何か買ってくよ」
マーティンはチキンサンドとカーリーポテトのテイクアウトを頼んだ。
「お前ってほんまやさしいな」
ダニーが呆れたように見つめる。マーティンは少し赤くなった。
ダニーは仕事が終わると足早にオフィスを出た。
ぼやぼやしていると、いらついているボスに変態プレイをさせられかねない。
夕食の材料を買って帰ると、アスパラのキッシュとスズキをオーブンに入れ、
ゴロゴロしながら焼き上がりを待つ。
TVを見ているうちに、いつの間にかうとうとしてしまっていた。
インターフォンが鳴り、ダニーはソファから飛び起きた。
「ケホッ・・はい」
「バートンです」
トロイ?ウソやろ?!!ダニーはパニックになりかけたが、ロックを開錠する。
高鳴る胸の鼓動に翻弄されていた。
ドアを開けるとスチュワートが立っていた。
「こんばんは。入ってもいいかな?」
「あ、ああ。どうぞ」
「なんかいい匂いがする。オレも食べてもいい?」
「ええよ。今日はどうしたん?」
「ハルシオンに行ったんだけど、昔捨てた女が来ててさ、それでメシを食い損ねた」
「お前が捨てた女ってかなりいてるんやろな。もうすぐやから、フラスカティでも開けといて」
ダニーがキッシュとスズキの焼き上がりを見ていると、スチュワートがキッチンに入ってきた。
「見学してもいいだろ?」
返事も聞かずにワイン片手にダニーの手元をじっと見ている。
「そのバゲットは?ガーリックトーストか?」
「いいや、ブルスケッタにしようかなと思てるんやけど」
「いいね。おっと、そのサラダのやつ、オレにやらせてくれよ」
スチュワートはサラダスピナーを嬉しそうに何度も押した。
マーティンみたいや、ダニーはくすっと笑った。
食事をしながらいろんな話をし、ダニーは楽しい時間を過ごしていた。
初デートのような初々しさが新鮮に感じられる。
ほろ酔いのせいか、いっそ告白しようかと思ったが、
会話の端々にマーティンのことが出てくるたび出鼻を挫かれた。
マーティンのことがどうしても引っ掛かる。
言うのやめよう・・・ダニーは気持ちを悟られないように振る舞った。
ただいまと声がして、マーティンが入ってきた。
食事をするスチュワートを見てびっくりしている。
「スチュー!どうして?」
「おかえり。ディナーに行ったら昔の女がいてさ、そのまま店を出たんだ。
ついでだからテイラー捜査官に何か食わしてもらおうと思ってさ」
「そっかぁ、ダニーの料理は最高だよね」
ダニーは正直に女のことを話すスチュワートと、すんなり受け止めるマーティンに驚いた。
マーティンにキッシュを取り分ける間、こっそり様子を窺うが普段と変わらない。
オレが女の話をしたら動揺するのに・・・信頼の厚さにショックを受けた。
「なぁ、オレが昔の女に会ってそのまま帰ったって言うたら、お前信じるか?」
ダニーは思わず問いかけた。
マーティンはフォークを持つ手を止めた。
「・・・・信じる、信じるよ」
少し空いた間に、本心から信じていないことがわかる。
スチュワートは下を向いて唇を噛みしめている。笑いをこらえているようだ。
「トロイ、笑うな!一応信じるって言うてくれたんやから!」
ダニーは苦笑いしながら二本目のフラスカティを開けた。
ぐったりして寝てしまったダニーをベッドに残し、アランはバスローブを羽織って、
カウンセリングルームへと移動した。机の引き出しからニック・ホロウェイの名刺を捜す。
「もしもし、ホロウェイか?ショアだが、明日、話をしよう。午後2時にオフィスに来てくれないか?」
アランはベッドルームに戻り、手足をこすりながら、ベッドの中に戻った。
「うぅーん」ダニーがアランの方に寝返りを打つ。
アランはじっと無防備な寝顔を見ながら、ダニーを静かに抱きしめた。
翌日、ダニーはアランの作ったバゲットサンドを持たされて出勤した。
ヴィヴィアンがまたくすくす笑っている。
「あんたの今度の彼女、随分家庭的なんだね」「そやねん」
照れ笑いしながら席につくダニー。
マーティンがホットドッグを片手に席につく。
「お前、朝からホットドッグかいな。太るで」思わず口にするダニー。
「僕には、ダニーみたいに世話焼きの彼女がいないからね!」
コーヒーを注ぎに行ってしまった。
「おやおや、坊や、生理かしらね」サマンサがくくくっと笑った。
「ミーティングを始めるぞ!」ボスの声が響いた。
チームは居住まいを正して、ミーティングデスクについた。
午後2時になり、ニックがアランのオフィスに現われた。
「時間厳守なんだな、意外だ」
「そりゃ、山の手のドクターのたっての頼みとあらば、朝も早く起きるさ」
ニックはどさっとカメラケースをソファーにおいて、席についた。
「それで、昨日は夜中に何を考え付いたんだ?」
「マーティンとダニーはシャム双生児みたいだ。お互いが補完し合って生きているともいえる。
そんな二人を引き離せる策があるというのか?」
「ほう、俺の申し出を真剣に考えてくれたってのか?光栄だね」
ニックはニヤっと笑った。
「どうせドクターは3時から次の診療だろ?時間が足りなさ過ぎる。
今度、夕食でも食いながら話し合わないか?俺の方から日にちは知らせる。
こう見えても、最近売れっ子でね」
ニックはウィンクをして、カメラケースを持ち上げると、カウンセリングルームを後にした。
アランは相手に指図される不愉快さを押し殺して、ニックの後姿を見送った。
酔っぱらったスチュワートは泊まることになり、シャワーを浴びている。
けたたましくインターフォンが鳴り、二人は顔を見合わせた。
「ねぇ、この鳴らし方ってボスなんじゃない?」
ダニーが恐る恐る出ると、案の定ボスだった。
「私だ!早く開けろ!」
「あ、あの、ちょっと手が離せないんで、少しお待ちください・・・」
ダニーは目を剥いて手で首を切るしぐさをした。
「どうしよう、スチューがいるのに・・・ボスがヘンなこと言ったら僕は・・・あ痛っ!」
マーティンは慌てふためき、テーブルで足の小指をぶつけて呻いた。
「大丈夫か?オレ、家まで送ってくるわ」
「ダニィ・・・」
「心配ない、トロイと先に寝とき」
ダニーはおでこにキスをすると部屋を出た。
下まで降りると酔ったボスがエントランスにへたり込んでいた。
「ボス、家まで送りますわ」
「うん?誰か来てるのか?」
「ええ、ちょっと女連れ込んでるんすよ。マーティンには黙っててください」
「帰ったら家財道具がなくなってるんじゃないのか?」
「いえ、素性知ってますから平気ですって。さ、行きましょう」
ダニーはめちゃめちゃに路駐しているボスの車に乗った。
「おいっ、サマンサの家に行け!」
「そんなん、あかんて!セクハラや」
ダニーが運転していると、太腿の上をねちっこく触られた。
股間の辺りを執拗に触られ、ダニーは手を掴んだ。
「ちょっとちょっと、危ないやん。ほら、じっとして」
酒とオヤジ臭で気分が悪い。ダニーは少し窓を開けた。
「帰ったぞ!」ボスは大声を張り上げる。ダニーは慌てて口を塞いだ。
部屋の中は以前よりもいっそう荒れていた。
酒の空き瓶がテーブルを占領している。
すえた臭気がこもる中で、悠々と熱帯魚が泳ぐ水槽は場違いなほど健全に見えた。
「はい、魚ちゃんにおやすみ言うて寝ましょう」
やっとの思いでボスをベッドに寝かせると、ダニーは静かにアパートを出た。
『星は光ぬ』を口ずさみながらタクシーを拾い、ブルックリンへ戻った。
部屋の中は薄暗く、二人とも眠っているようだ。
ダニーはシャワーを浴びると冷蔵庫から水を取り出した。ボトルのまま水を飲む。
「ダニィ、ごめんね」
いつのまにかマーティンが突っ立っていた。
「なんや、起きてたんか。先に寝ときって言うたやろ」
「ううん、ダニーが帰るまでは寝られないよ」
あほやなぁ、けどめちゃかわいい。ダニーはそっと抱きしめるとキスをした。
「トロイは?」
「寝てる。今夜はかなり飲んだもんね。あのさ・・・」
「なに?」
「ん、僕はダニーのことを信じてるよ。嘘つかれてたって信じるよ」
「マーティン・・・ありがとうな」
マーティンの髪をくしゃっとすると、手をつないでベッドルームへ行った。
ベッドの端で、スチュワートが軽くいびきをかきながら眠っていた。
オレにはボンがいてる、それでいいやんか・・・
マーティンを裏切れない、裏切ることなどできない。
ダニーは気持ちを封印することに決めた、
「よし、寝よう。おやすみ」
真ん中にマーティンを寝かせ、反対側にそっと横たわる。
きつきつのベッドで三人は身を寄せ合うように眠りについた。
ダニーはブルックリンに戻ってスーツを3着運んできた。
自分の好きなサルサのCDも数枚持って。アランはまだ診療中のようだった。
キッチンに何も残っていないのを確認して、「リトル・ブッダ」のデリバリーを頼む。
タンドリーチキン、シシカバブ、ヨーグルトサラダとサグマトン、レンズ豆カレー、サフランライス、ナンだ。
デリバリーが届き、オーブンでタンドリーチキンとシシカバブを温める用意をしながら、
ビールを開けて飲んでいた。
いつしかうたたねしていたようだ。目をあけると、アランのアップが目に入った。
「うわぁー!」
「何だよ、驚いたのかい?」
「すごいアップやったから」
「襲ってないから安心しなさい。夕食の用意ありがとう。
インド料理、ちょうど食べたかったところだ」
アランは料理を温めて、ダイニングに並べていた。
「ありがと」
「君こそ。お疲れ様」二人はクアーズで乾杯し、早速チキンにとりかかった。
お互いの一日を報告しあう。日課のようになっていた。
食後、ダニーはサルサのCDをかけながら、エスクワイアを読んでいた。
アランはネットの相談タイムで、書斎にこもっている。
これが俺が望んでいた幸せなんかなー。
一抹の疑問をかかえながら、ギターを弾き始めた。
アランが書斎から出てきた。
「今日はもう寝るよ。ハニーはどうする?」
「俺も」「シャワー浴びてくるね」「ん」
ダニーは先にパジャマに着替えてベッドに入った。
アランは前夜にダニーにつけられた背中の引っかき傷に湯をあてて
「痛たたた!」と身をすくめた。
あのヒスパニックの情熱を自分だけのものに出来たら、どんなに幸せか。
ニックが登場してからというもの、一層、ダニーへの執着心が生まれているのは確かだ。
マーティン、君をどうしよう。
マーティンは仕事が終わるとニックのステューディオに直行した。
インターフォンを鳴らす。「誰?」聞いたことのない若い男の声だ。
「僕、マーティン、開けてくれる?」
「マーティンって誰だよ、ニック!」
「開けろ、俺の友達だ」
ガチャ。セキュリティーが解除される。
ドアを開けると、ティーンエイジァーの男の子が上半身裸で立っていた。
「あんた、マーティンっていうの?ニックの恋人?」
上から下までじろじろ見られる。
「入れてくれるかな」下手に出るマーティン。
「ふーん、スーツかよ。ニック!趣味悪くね?」
「おい、俺の恋人だぞ、言葉をつつしめ」「はーい!」
ニックがバスルームから現われた。
「マーティン、驚いただろ、ごめんな」マーティンは面を食らっていた。
「紹介しよう、アンドリューだ。俺の息子」マーティンは一瞬言葉を失った。
「え、ニック、息子がいたの?」
「あぁ、俺が18の時のな。こいつ、今年からコロンビア大に通うんだよ。それでNY見学に来たって寸法さ」
マーティンは、突然の事に大きなショックを覚えていた。
夜中、ダニーの携帯が震えた。起きないダニーの代わりにアランが画面を見る。
「M・フィッツジェラルド」マーティンからか。
アランは着信履歴を消して、また眠りに入った。
ダニーがオフィスに出勤すると、マーティンにちょいちょいと指で呼ばれた。
朝食の袋を机に置き、トイレに入る。
マーティンは誰もいないのを確認して、ダニーに詰め寄った。
「昨日、電話に出なかったね」
「電話?何のこと?」「いいよ、どうせアランといい事してたんでしょ」
「お前、感じ悪いな、一体何やねん?」
「今日、夕食付き合ってくれない?」
「ええで」
「じゃあ、グランドセントラルのオイスターバーに7時だよ」
それだけしゃべるとマーティンは出て行った。
電話?一体何のこと?ダニーは携帯を見たが着信履歴は残っていなかった。
アランに今日は夕食を外で取ると伝えると、「マーティンかな?」という返事が返ってきた。
「そやねん。悩み事あるみたいやから、ガス抜いてやらんと」
「分かった。あまり遅くなるなよ」何か夫婦みたいやな。ヘンな感じや。
仕事が終わり、マーティンが先に席を立つのを確認して、ダニーは10分の時間差をつけてオフィスを出た。
マーティンはテーブル席の方を予約していた。
先にテーブルについてシャブリを頼んでいる。
「オイスタープレート頼んだけど、いい?」
こうやって見るといつものマーティンだが、一体何があったんだろう。
ロブスタービスクとメインにメカジキのステーキとヒラメのソテーを頼む。
「それで、どないしたん?」
「それがさ、ニックに息子がいたんだよ」
「へぇ、あのホロウェイが親父か。いくつ位?」「18歳」
「そりゃまた、若い時のガキやな」
「でも、何だかヘンなんだよね。父さんとか呼ばないでニックって呼ぶし、やたらニックに触るしさ」
「お前、騙されてるんじゃないんか?本当は遊び相手の一人だったりして」
マーティンはテーブルにつっぷした。
「おいおい!」ダニーは周りの目を気にして、マーティンの上半身を起こした。
「そうでしょ。いくらぼんやりの僕だってそれ位疑ってるよ!」
そういうと、シャブリを一気に飲み干した。
その後もマーティンはワインを飲む速度を増し、一人でボトルの2/3を飲み終えてしまった。
「もう一本!」
「おいおい、飲み過ぎたらあかんで」
「今日はダニーが一緒だから大丈夫」
メインディッシュが終わっても、チーズプレートを頼んで、マーティンはワインを飲み続ける。
ダニーも沈んだ顔のマーティンに付き合って、ワインを空けた。
「ほな、帰ろう」
マーティンを促して立たせると、マーティンの体がぐらっとかしいだ。
「おい、大丈夫か?」
「ちょっと、飲み過ぎちゃったかな、あはは」
一人けたけた笑うマーティン。こりゃ、だめや。
ダニーはタクシーを拾い、マーティンをアパートに送った。
まだ俺持ってたんや、合鍵。部屋に入る。
眠そうにしているマーティンをソファーに降ろして、キッチンから水を持ってくる。
ダニーの腕をがしっと握り締めるマーティン。
「何やの、マーティン?」
「今日、泊まっていってよ」「え?」
「今日、泊まっていってよ」蒼い目に涙をいっぱい溜めている。
マーティンは、みるみるうちにダニーの目の前で服を脱ぎ、トランクス一枚になった。
「マーティン!寒いやろ!」
「温めてよ、僕のこと」
それだけ言うと、ベッドルームへすたすたと向かっていった。
ダニーも後をついて、ベッドルームへと消えた。
三人は目覚まし時計の音で起こされた。
全員、一度は目を開けたものの、またすぐに眠ってしまう。
スチュワートはなんとか目を覚まし、あどけなく眠る二人を見つめた。
「起きろ、寝ぼすけ!」
マーティンのほっぺにキスして起こす。
「ん・・・あともう少し・・・」
マーティンは布団にもぐりこんだ。
仕方なく目覚まし時計をセットし直し、先にシャワーを浴びに行った。
ダニーは二度目の目覚ましの音で目を覚ました。
もぐっているマーティンを揺り起こす。
「マーティン、もう起きやな遅れるで」
マーティンはいくら起こしても布団から出ようとしない。
痺れを切らしたダニーは、布団をはぐ強硬手段に出た。
バスルームへ行くとスチュワートが出てきたところだった。
全裸のままおはようと言われ、ダニーはどぎまぎしながら返事を返す。
「バスルーム、先に借りたぜ」
「ああ」
ダニーは裸を見られるのが恥ずかしい。勃起しているので余計に見られたくない。
ささっとパジャマを脱ぐと急いでドアを閉めた。
「あれ?ここにあったバナナ知らん?」
「あ、さっき、オレが食った」
「お前かよ!オレ、昨日から食べるの楽しみにしてたのに」
「ごめん、今度買ってやるよ。お前ってバナナ好きなんだな、猿みたい」
「うるさい、バナナは体にいいんや!」
「わかったわかった、今日買うからさ。そうだ、ジュースバーでもいいぞ」
スチュワートは、なだめるようにダニーの頭をよしよしした。
ダニーは頭をなでられて動揺した。
ふと見上げるとにんまりした表情がまぶしい。
「なんだよ、疑ってるのか?絶対買うからさ、約束する」
スチュワートは指をクロスさせた。
あかんあかん、こんなん何でもない!心を静めるように自分に言い聞かせる。
「おはよう〜、ふぁ〜あ」
寝ぼけたままマーティンがキッチンに入ってきた。
頭をなでられているダニーを見てケタケタ笑っている。
「ねぇ、朝から何やってんのさ?」
「オレがバナナ食べちゃったからさ、なだめてるんだ」
「あほ、人を子供扱いするな。それより早よシャワー浴びてき」
ダニーはのんびりしているマーティンを促した。
マーティンがバスルームから出てくると、スチュワートはもういなかった。
「もう行っちゃったの?」
「ああ、今日はおえらいさんの視察があるんやて」
「ふうん、この前の理事長とか来るのかな」
こいつ、最近鋭いな・・・ダニーは少し舌を巻いた。
ダニーがマーティンのアパートへ行くと、ガレージにTVRが停まっていた。
トロイや!ダニーは急いでエレベーターに乗る。
部屋に入ると二人の姿はなかった。
もしかして・・・足音を立てないようにベッドルームのドアをそっと開けた。
生暖かく湿った空気がセックスの最中だと物語る。
ドキドキしながら覗くと、薄暗い部屋の中で
マーティンが四つんばいにしたスチュワートに挿入していた。
ええっー・・・・マーティンが?!!嘘やろ!
ダニーは目の前の光景が信じられない。
突かれるたび女のように喘ぐスチュワートにも衝撃を受けた。
オレもヤリたい!廊下に服を脱ぎ捨てるとマーティンの後ろに回った。
「え、ちょっダニー!」
いきなり全裸で入ってきたダニーに二人は驚いた。
マーティンはともかく、スチュワートは羞恥心で顔が赤くなる。
ダニーは手早くローションのボトルを取ると、自分とマーティンの局部に垂らした。
ペニスをしごくように塗り広げると、アナルにそっとあてがう。
括約筋の微かな抵抗を感じながら挿入した。
マーティンは後ろからも前からも責められ、快感で頭の中が痺れていた。
後ろを責められるとペニスが硬度を増し、その反動でスチュワートの締め付けもきつくなる。
「ダメだ、出ちゃう・・・」
それを聞いたダニーは余計に激しく揺さぶる。
マーティンは射精してしまい、スチュワートの背中にぐったりと覆いかぶさった。
射精した後もダニーは動きは止めない。
自分が動くとスチュワートの喘ぎ声が漏れてくる。
直接スチュワートと交わっているような錯覚に陥り、興奮しきっていた。
「ああっ、テイラー捜査官、オレもイキそう・・・うっ・・あ・・」
スチュワートはびくんと仰け反るとシーツに精液を飛ばした。
何度も体が小刻みに痙攣している。
ダニーは満足感に満たされながらマーティンの中に射精した。
ゆっくりペニスを引き抜くと、ダニーはベッドに寝転んだ。
汗ばんだ肌がシーツにくっついているが気にしない。
マーティンの湿った髪をくしゃっとしながらごめんと謝る。
マーティンは何も言わずにうなずくと、ダニーの手首にキスをした。
次にスチュワートを見ると、恥ずかしそうに視線を逸らされた。
無理もない、あんなとこ恥ずかしいもん・・・ダニーは天井を見上げながらにやっとした。
ダニーがシャワーを浴びているとマーティンが入ってきた。
「マーティン、ごめんな」
「ううん、謝らなくてもいいよ。すごく気持ちよかったよ」
いたずらっぽい表情を浮かべながらダニーにキスをする。
「オレ、お前は入れてへんって思てた。びっくりしたわ」
「ん、スチューがどうしてもって言うからさ・・・」
「ふうん、あいつってよっぽどお前が好きなんやな」
ダニーは少し嫉妬しながらマーティンの耳を噛んだ。
ベッドルームへ着替えに行くと、ベッドの上でスチュワートがぼんやりしていた。
「なぁ、お前もシャワー浴びれば?」
「・・・ああ」
返事はするものの、天井を見つめたまま動こうとしない。
ダニーはドキドキしながら横にそっと寝転んだ。
「大丈夫か?」
「ああ、なんでもない。それよりお前、飛び入りかよ」
ニヤニヤしながらダニーを見つめる。いつものスチュワートに戻っていた。
スチュワートがシャワーを浴びに行った後、ダニーはこっそりシーツに飛んだ精液を舐めた。
湿ったシーツの上を舌でなぞり、匂いをかぐ。
スチュワートの精液は塩素のような匂いがして、自分のと似ている気がする。
ダニーは自分のペニスをこすりつけた。
さっき出したばかりなのに、またむくむくと勃起しかける。
このままシーツを持って帰りたい衝動に駆られていた。
ダニーは鳥のさえずりで目が覚めた。
目の前にマーティンの顔があってびっくりする。二人とも全裸だ。
ペニスをみると射精の跡が残っていた。
まずい!俺、マーティンと寝てもた!
呆然としていると、マーティンも目を覚ました。
「うーん、あれ、ダニー!どうしてここにいるの?」
マーティンは何も覚えていないらしい。
「えっとな、お前、オイスターバーで酔いつぶれたんや。それで、送ってきた」
「迷惑かけたんだ、ごめんね。ありがとう」マーティンの蒼い瞳がまぶしい。
「先にシャワー借りるで」
「うん、僕、もう少し寝る」「そか」
ダニーは熱いシャワーを浴びて、気分を落ち着かせた。
ベッドルームに戻り、脱ぎ散らかした服を身につけて、部屋を出ようとする。
「ダニー、愛してる」
「え?」「・・・・」
どうやら寝言らしい。お前はホロウェイやないんかい!それだから、俺はやっとアランのとこに行けたのに。
ダニーは静かにアパートを後にした。
混乱した頭をすっきりさせるため、早朝のセントラルパークを突っ切る。
もうすぐアランのアパートだ。
初めての朝帰り。さすがにバツが悪い。
音を立てないように鍵を開け、パジャマに着替えて、ベッドに入る。
「うぅぅん、ダニー、戻ったのか?」
アランが目を覚まし、ダニーを見つめる。
「うん、ごめん。昨日は・・・」
「まぁいい、もっと寝よう。今日は土曜日だ」
アランにもっと叱責されるかと思っていたダニーは肩透かしをくらった。
後ろを向いたアランの広い背中を見ながら、ごめんなさいを何度も何度も心の中で繰り返した。
昼近く目が覚めると、アランの姿がなかった。
リビングに行くと、CNNをつけながら、ニューヨーク・タイムズを読んでいるアランがいた。
「おはよう、アラン・・」
「お目覚めかい、眠り姫。コーヒー入っているからどうぞ」
「ありがと」
ダニーはパジャマを脱いでアディダスの上下に着替えると、マグカップいっぱいにコーヒーを満たした。
アランの空いたマグにも注ぐ。
「それで、どうしたんだい、昨日は?」アランの砂色の瞳がダニーを射る。
「マーティンが酔いつぶれて、家に送ってった。そのまま俺もバタンキューやった」
「そんなところだろうと思ったよ。でも心配した」
アランはダニーをぎゅっと抱きしめた。ダニーもアランの背に手を回す。
アランに負けない位の力でぎゅっとアランを抱きしめた。
「さぁ、昼はどうする?買い物がてら、カフェで何か食べようか?」
「うん、腹へった」
二人は「シタレラ」に出かけ、デリでランチを買って、カフェでグラスシャンパン片手に食べた。
「今晩は、俺が食事作るな。毎日作ってもらって悪いから」ダニーが申し出た。
久しぶりにブラジル料理が食べたくなっていた。
フェイジョアーダ用の黒豆と豚肉を仕入れ、スペアリブも買った。
アランは、素材から料理を推理し、チリワインのカベルネを選んでいた。
「もうー!アラン、俺が作るもん分かったん?」
「ああ、あれは美味かった」
「ほんま、精神科医と暮らすの嫌いや!」
アランは声をたてて笑って、ショッピングカートをダニーから奪うと、レジへと進んだ。
きっとまたお仕置きですね(>_<)
352 :
fusianasan:2006/03/05(日) 02:06:27
ダニーのお仕置きプレイ萌え!
「君のブラジル料理は絶品だな」
アランがフェイジョアーダの皿をパンで綺麗にさらうと、お腹をさすって言った。
「スペアリブもちょうどいい焼き具合だった」
「名シェフにお褒めの言葉を頂いて光栄や」
ダニーは鼻高々だった。
二人でチリのカベルネの後、カリフォルニアのカベルネも空けて、心地よい酔いに身を任せた。
ダニーがキッチンを片つけている間、アランは書斎にこもって、ニックにメールを送っていた。
画像つきのメールだ。ホロウェイがこれに乗ってくれるといいのだが。
葉巻に火をつけながら、アランは一人ごちた。
ダニーが書斎を覗いた。
「アラン、ブランデー飲む?」
「ああ、ありがとう」
ダニーはかいがいしくルイ13世をイータラのグラスに注いで書斎に持ってきた。
「今日も掲示板やんの?」
「土日も、もがいているカキコミが多いんだが、さすがに疲れた。今日はドクター・フリーもおやすみだ」
ダニーはアランのグラスから一口ブランデーをすすり、
「俺、風呂入りたい」とアランを見つめた。
「じゃあ、一緒に入ろう」
ダニーが嬉しそうに湯を張りに行く。
あの調子では、浮気したとは思えない。
アランは訝りながら、PCの電源を落とした。
ダニーはアランの好きなカルダモンのオイルとバスジェルを垂らし、
勢いよく泡立てた。アランが驚いた顔をして入ってくる。
「これは、すごいな!」
「アランの好きな香りやで!」
ダニーはアランの服を脱がしながら、自分も急いで脱いでバスタブにつかった。
アランの腰をはさんで、性急にキスをする。
「おいおい!」
「アラン、会いたかった!」
「昨日一日だけだろう?離れてたのは」
「でも、アランは俺の家族や!」
ダニーは、マーティンと寝てしまった昨日を消し去りたくて、アランの体に自分の体を摺り寄せた。
マーティンの寝言も忘れたかった。
やっと手に入れたこの幸せを手放したくない気持ちがダニーを突き動かしていた。
アランはダニーを立たせ、ペニスを口に咥えた。
「あぁ、はぁ、うぅん」
ダニーは目をつむって耐えたが、快楽がぞわぞわと体の下から這い上がってくる。
ぴんと立ったのを見届けて、アランは自分のアヌスにダニーを押し当てた。
「アラン?」「今日は君が入れてくれ」
アランはバスタブのふちに手をついて、腰を突き出した。
ダニーはゆるゆると挿入した。
括約筋の抵抗に合い、なかなか中まで入れられない。
入り口付近を出し入れしていると、アランが息を上げて「もっと、力入れて、入れてくれ」と懇願した。
「いいの?」「ああ」
ダニーはずずっと奥までペニスを押し入れ、静かに動かし始める。
みしみしとアランのアナルが裂ける痙攣が走った。
「アラン?」「続けてくれ!お願いだから・・・」
アランの懇願に負けてダニーはさらに押し進んだ。
処女のような締め付けに合い、ダニーは音を上げた。
「アラン、俺、もうだめやー、イクー」
痙攣と共にアランの中に精を注ぎこんだ。
アランも一瞬遅れてバスタブに向かって果てた。
二人とも荒い息のままバスタブに沈んだ。アランの局部が出血している。
「アラン、血、出てる」
「あぁ大丈夫だよ、手当てするから。君は本当にすごいよ。さあ、出ようか」
「うん」
ダニーが先にベッドで待っていると、アランがトランクスをはいてやってきた。
「見ないでくれよ。ナプキンあててるから」
アランが恥ずかしそうな顔をして、ダニーにキスをした。
久しぶりの激しいセックスに二人とも満足しきって眠りに落ちた。
月曜日になり、支局では、ダニーのサーモン&チーズのベーグルにまた皆の視線が集まっていた。
「ねぇダニー、同棲してるの?」
ぶしつけなサマンサの質問に、ダニーはへらへらと答える。
「いや、してへんけど?」
「ふうん、私、それ位つくさないから男に見限られるのかな」
ダニーは恥ずかしそうにベーグルをかじっていた。
マーティンは、相変わらず支局の食堂でピザを買ってやってきた。
「あんた、ダニー見習って、もっと健康的なもん食べなさい。生活習慣病になるよ」
ヴィヴィアンに言われて、苦笑するマーティン。
さて、ボスのミーティングの始まりだ。
今日はCBSのアンカーマンの妻が失踪したという。
またあわただしい一日になった。
その頃、アランはニックからのメールの返信を読んでいた。
メールだけではよく分からないので、ステューディオで打ち合わせしたいという。
アランは今晩、出向くことに決めた。ダニーの携帯に電話をする。
「僕だが、今日、学会の友人と食事することになった。遅くならないようにするから」
「俺も適当に食事して帰るわ」
今まで、こんな電話をした事のないダニーは、はにかんだ。
俺の家族。ダニーは自分がにやけているのに気がつき、失踪者の捜査に集中した。
アランは今日最後の患者のカウンセリングを終え、夜7時にミートパッキングディストリクトのニックのステューディオを訪れていた。
「よう、ドクター、バーボンでも飲むか?」
ニックはTシャツにジーンズという夏のようないでたちで現われた。
「ああ、頂こう」「ニック、誰?」
中二階のベッドルームからアンドリューが顔を覗かせた。
「ドクター・ショア、仕事仲間だよ」
アンドリューは全裸で階段を降りてきた。
「ドクター、失礼、シャワーしたいんだよ」
アランは度肝を抜かれた。
ニックに似ている面差しの上に、未成年の中性的な怪しい魅力をかねそなえている。
「ドクター、どうかしたか?」
ニックはアランの動揺を見透かしたようにニヤニヤ笑っている。
「ごっほん、何でもない。あれが君の息子か?」
「早耳だな。ああ、アンドリューだ。綺麗な子だろう?」
アランは自分の息子に綺麗という形容詞を使うニックに違和感を覚えた。
アランはバーボンを一杯だけ飲んだというのに、体がかしぐのを感じた。
「お前、何か入れたか?」
「あぁ、あんたの事をもっとよく知りたくてな」アランは意識を失った。
目をさますと、アランは全裸で、ニックのベッドに横たわっていた。
まだ体がだるくて思うように動かせない。
ニックが傍らでバーボンを飲んでいた。
「目が覚めたか。まだ体が弛緩しているだろう。俺はあんたの体にも興味があってね。
俺を踏みにじってきたエリートの香りぷんぷんのあんただ。
どんな味がするか楽しみだ」
そういうと、ニックは圧倒的な力でアランを羽交い絞めにし、唇を求めた。
やめて欲しくとも、体が動かない。
「ホロウェイ、やめろ・・」
「あんたのここはそう言ってないぜ」
アランの局部は固くなりつつあった。
ニックは容赦なくアランのペニスを咥え、玉を口の中でころがす。
「うぅぅ」「あんたはテイラーとやる時、入れてるだろう?今日は入れてやろう」
「あぁ、それだけはやめてくれ」
「そういわれると、俺の心に血がたぎるな」
ニックはココナッツオイルをアランの局部に塗りたくり、自分のみなぎるペニスにも塗った。
「いくぞ」後ろ向きにされ膝を立てされられる。
「やめてくれ!」
「もう遅い」ニックはアランのアナルに自分のシンボルを押し込んだ。
「あぁー!」
「うわぁ、締まるぜ、ドクター、いいケツだ」
ニックは容赦なく突き進んで、アランのアナルを思う存分味わった。
アランの口にもう一本のペニスがあてがわれた。
目をあけるとアンドリューが立っていた。
「ドクター、俺もイカせてよ」
ぐいぐい口の中にペニスを押し込まれる。
「うぐぐぐ・・」
アランは後ろからの刺激に思わず口を大きくあけ、アンドリューのペニスを咥える形になった。
次の瞬間、アランの身体が弛緩した。
ニックもアンドリューもそんなアランの身体を道具のように扱い、二人同時に精を放った。
二人がシャワーを浴びている間、ダニーはテニスを見ていた。
シャラポワを見ながらにんまりしていると、出てきたマーティンが抱きついてきた。
「うわっ!あー、びっくりした」
「ね、僕とどっちがかわいい?」
「・・シャラポワ」
ダニーが言い終わらないうちに、マーティンが首筋にキスマークをつけた。
「あほっ、こんなとこにつけたらやばいやろ!」
「バカ、知らないよ!」
ダニーが確認すると、見えそうなところにくっきりとキスマークがついていた。
「あちゃー・・・お前にもつけたる!」
追いかけっこをしていると、スチュワートが全裸のまま出てきた。
「騒々しいな。何やってんだ?」
「なんでもない」
ダニーのキスマークを見つけたスチュワートはにやっとした。
「マーティン、オレにもつけて」
マーティンはおずおずと首筋に口づけする。
小さくつけられたキスマークをそっとなぞるスチュワート。
ダニーは思わず目をそらした。これ以上見ているのは辛い。
引き止める二人をやんわりと断り、アパートを出た。
ダニーは帰りにモンキーバーへ寄った。
嬉しそうなスタニックに、ドライ・マンハッタンとアブサンをオーダーする。
アブサンのグラスを相手に乾杯し、グリーンの液体を見ながらゆっくり飲み干す。
何も言わないうちに二杯目のドライ・マンハッタンが差し出された。
「うん?何これ?」
「この前のお礼です」
スタニックは素早くウィンクした。
あ、こいつ、アメリのニノに似てる。ダニーは軽く頷くとグラスに口を付けた。
アメリを思い出したせいか、急にクレームブリュレが食べたくなった。
表面をばりばりと思いっきり崩したい、そんな気分だ。
カフェはもう閉まっている。思い立ったダニーはチェックを頼んだ。
カードといっしょにコースターを返される。
コースターには携帯番号が書いてあった。
スタニックの期待に満ちた目が自分を見つめている。
ダニーはポケットにしまうとバーを出た。
酔った頭でぼんやりと考えながら、オーブンの中のクレームブリュレを眺める。
オレはマーティンとどれぐらい過ごしてるんやろ?
1年=365日=8760時間=525600分=31536000秒・・・・・
半分は言いすぎやろか?けど職場も同じやし。
となると・・・えーっと・・・目まぐるしく計算するうちにそのまま眠ってしまった。
オーブンのタイマーが鳴り、ダニーははっと目を覚ました。
大きなあくびをしながらクレームブリュレの粗熱を取る。
今夜はもう眠い、続きは明日や。冷蔵庫に入れるとベッドに直行した。
だが、いざベッドに入ると寂しさがこみ上げてくる。
スチュワートとの間接的なセックスや、精液の匂いを思い出すと手は自然とペニスに伸びた。
マーティンのことも思い出し、自然と手の動きは早くなる。
ダニーは出した精液をシーツに擦ると目を閉じた。
早めに出勤したダニーは、すでに来ていたサマンサにキスマークのことを指摘された。
サマンサはうろたえるダニーを容赦なくからかう。
せっかくマーティンにと持ってきたクレームブリュレも自分で食べるしかない。
甘いの苦手やねんと言いながら、わざと表面をパリパリ割る。
「そうや!マーティン、食べるか?」
ダニーは何気なく勧めた。マーティンがもらおうとすると、サマンサが止める。
「ダメよ、ダニーの彼女に悪いでしょ」
「あ、うん・・」
「ええねん、マーティン食べ」
ダニーはスプーンとクレームブリュレを渡した。
サマンサはじとっと二人を見るとどこかへ行ってしまった。
「女は妙に身内意識があるな。オレの彼女に悪いって言われてもなぁ・・・」
「ん、作ったのはダニーなのにね」
マーティンはくすくす笑いながらスプーンをせっせと運ぶ。
「そやそや、サムにバンドエイドもらおうと思てたのにどっか行きよった」
「あ、僕持ってるよ。待ってて」
マーティンはデスクからバンドエイドを取り出した。
ダニーはキスマークの上からしっかりとバンドエイドを貼った。
アランが目が覚めると、もう夜が明けていた。
両隣りにニックとアンドリューが眠っている。
痛む局部をかばいながら、立ち上がると、
ベッドの下に落ちている衣服を集めて、身につけた。
ニックがまぶしそうな顔で目を覚ます。
「お目覚めか、ドクター。昨日は楽しかったよ」
「何とでも言え」
プライドを踏みにじられたアランは、ステューディオを後にした。
何よりもニックの企みに気が付かなかった自分のうかつさが悔しかった。
アパートに帰り、すぐにシャワーをする。身体が汚されたようで、涙が出た。
そこへ、ダニーが用を足しにやってきた。
「あ、アラン、帰ったんや」
アランは出血している局部を隠すようにダニーの方を向いた。
「すまない。飲み過ぎた」
「ふーん、そうなんか」
まだねぼけまなこのダニーは、すたすたベッドに戻って行った。
アランもパジャマに着替えて、ベッドに入る。
ダニーのあどけない寝顔にすまないと頭を下げる。
アランが目覚ましで起きると、ダニーはもう出かけた後だった。
午前の診療まであと30分だ。ダニーが目覚ましを合わせてくれていた。
歯を磨き、コーヒーを入れて飲む。昨日の出来事が嘘のようだった。
PCを立ち上げてメールをチェックするとニックからのものがあった。
「最悪だ」アランは頭をかかえた。
自分とニック親子とのプレイの様子の画像が貼られていた。
これだけはダニーに知られてはならない。
直情型のヒスパニックがこれを知ったら、どんな暴走をするか想像がつかない。
いずれにしても誰かが大怪我を負うことになろう。
ニックはともかく、ダニーに何かがないように、未然に防ぐのが肝要だ。
ニックに「希望額を明記すべし」とだけ書いてメールを返した。
夜になり、ダニーがくたくたになって戻ってきた。
「おかえり」何事もなかったように接するアラン。
「もう、寒いのに外で聞き込みばっかりで凍えたわ。シャワーする」
ダニーはぱっぱと服を脱ぎ、バスルームへ消えた。
アランはニース風鶏の赤ワイン煮込みとミモザサラダを並べて、ダニーが出てくるのを待っていた。
ほかほかになってシャワーから出てくるダニー。
髪の毛が立ち、頬が紅潮している姿が愛らしい。
「今日、大丈夫やった?」「うん?」
「二日酔い!」
ダニーは昨日アランが飲み過ぎで帰れなかった事を疑っていないようだった。
「ああ、頭痛はしたが、仕事には支障がなかったよ、心配かけたね」
「俺もこないだ、ばかやっちゃったから」
「おあいこかい?」
「うん、そんなとこで」
「よし、今日はピノ・ノアールを飲もう」「賛成!」
ダニーはクローゼットでアディダスに着替えて出てきた。
股間のふくらみが、アランにはまぶしかった。
「アラン、何見てんの?」ダニーがきょとんとして聞いた。
「いや、君はまだ痩せすぎだと思ってね」
アランは話をはぐらかせた。
昼休み、マーティンがデスクでホットドッグを食べているとボスが急いでやってきた。
「マーティン、ちょっと来い」
ボスのオフィスに入ると、小声で父の急病を知らされた。
「え・・・・」
「だから早くDCへ行け。重篤な状態らしい。それと他言は無用だ」
「・・父が重篤?」
マーティンはぼさっと突っ立ったままボスの顔を見つめた。
「さっきからそう言ってるだろう。早く行け!」
「どうしても行かなきゃダメかな・・・」
「バカッ!何言ってんだ、お前の親父だろう」
「ええ、まあ」
マーティンは突然のことに思考回路が停止している。
ボスはマーティンを連れて地下まで降り、ラガーディア空港まで車を走らせた。
やっとのことで支局に戻ると、ダニーが訝しげな表情を浮かべていたが
事情を説明する訳にもいかない。淡々と指示を出し、仕事に戻った。
「ボス、ちょっといいっすか?」
勤務が終わるなりダニーが入ってきた。
「何だ?」
「マーティンがまだ戻ってないんすけど、何かあったので?」
「あいつは二、三日は戻らん。DCへ行った」
「へ?何でまたDCに?」
「事情は言えんが、とにかくそういうことだ」
ダニーは腑に落ちないままボスのオフィスを出た。
ダニーはマーティンの携帯に電話したが電源が切られていた。
暇つぶしに隠していたコースターを取り出すと、スタニックの携帯に電話してみる。
「あ、オレ・・えーっとダニーやけど」
「ダニー?」
スタニックは誰だかわからない様子だ。
「ドライ・マンハッタンのダニー・・分かる?その、マリーと寝てた」
「ああ!ごめん、名前聞いてなかったよね。ダニーか、うん、覚えた」
スタニックはうれしそうにダニーと復唱した。
「そっちはスタニックでええの?マリーがそう呼んでたけど」
「そう、スタニック・ジェラード。この前はありがとう、電話くれるなんてうれしいよ」
「ああ。今夜は休みなん?」
「いや、風邪っぽかったから休んだんだ。もうなんともない」
「それはよかったな。えー・・ほな、オレはこれで」
「あのっ・・また会えるかな?」
ダニーは迷ったが、今度バーに行く約束をして電話を切った。
携帯を肌身離さず持っていたが、マーティンからは何の連絡もなかった。
あいつ、DCで嫌な思いしてへんやろか・・・マーティンのことが心配でたまらない。
何度も寝返りを打ちながらベッドの中でもぞもぞしていた。
三時を過ぎたころ、ようやくうとうとしてきたが、
浅くまどろみながらあっという間に朝を迎えてしまった。
マーティンがいないだけで、何となくユニットが寂しく感じられる。
「マーティンがいないと静かだと思わない?ガランとしてるっていうか・・」
「そうだね、あの子もここに馴染んだってことよ」
ダニーだけではなく、サマンサもヴィヴィアンもポツンと空いたままのデスクを気にしていた。
仕事のほうも、人手が足りない分忙しかった。
ダニーは残業が終わると支局を出た。
必死に探していた失踪者は、業務用のゴミ箱の中で凍死していた。
空虚な一日を過ごし、心身ともにクタクタだ。
重い足取りで歩いていると携帯が鳴り、ダニーは相手も確かめずに慌てて出た。
「はい、テイラー」
「あ、オレ。マーティンの携帯がつながらないんだ。事件なのかな?」
「何や、トロイか。マーティンやったらDCや」
「DC?出張で?」
「いや、オレもようわからんねん。まったく連絡つかんのや」
「そうか・・・わかった、ありがとう」
スチュワートは電話を切りかけたが、食事は済んだかと聞いてきた。
ダニーは一緒に食べたかったが、済ませたと嘘をついて電話を切った。
マーティンは、仕事が終わるとニックの部屋へ向かった。
アンドリューが来て以来、ニックとの間に壁が出来たようで、マーティンはイライラしていた。
「また、あんたか」
不機嫌そうにドアを開けるアンドリュー。
「ニックは?」
「今、出かけてる。美人エージェントと一緒だぜ、あんた妬けないの?」
マーティンは怒りで顔が紅潮するのを感じたが、相手は子供だ。
「じゃあ、また来る。ニックに僕が来たって言っといて」
「自分で携帯に電話しろよ、じゃあな」
口数の減らない子供だ。
やっぱりニックはバイなのかな。女とニックのペニスを共有するのは、気持ち悪い。
マーティンは、近くのクラブ「APT」に寄りこみ、ドライ・マンハッタンを飲んでいた。
「マーティン?」聞き覚えのある声がする。
「やっぱり、マーティンだ。覚えてる?僕、ケン」
愛嬌のあるアルカイック・スマイルで近寄ってくる。
「ああ、覚えてるよ。今日は一人?」
「うん、久しぶりに一人で飲みたくなっちゃってさ。一人で飲んでると色んな人に会うんだよね。
この間はダニーに会ったし」
「え、ダニーに?」
「うん、寂しそうにしてたよ。何かあったの?」
ケンは興味津々でマーティンに聞いた。
「うーん、僕ら別れたっていうか、僕、新しく付き合う人が出来てさ」
「もしかして、ホロウェイって人じゃない?」
「え?」
「僕だって、ニューヨーカー位読むよ。写真、貴方だってすぐに分かった。恋人にしかあんなポーズ見せられないよね」
ケンは思い出したようにマーティンの身体を上から下まで見回した。
「やめてくれよ。あれは、間違いだったんだから」
「いいじゃん、いい身体してるんだしさ。それにホロウェイってすごくかっこいい」
マーティンはあからさまに言われて、顔を紅くした。
「何か食べに行かない?僕、お腹すいちゃった」
ケンに言われるままに、リトル・ジャパンまでタクシーを飛ばした。
そうだ、ニックに連れていってもらった寿司屋がある!
マーティンは日本通ぶろうと、こじんまりとしたカウンターだけの寿司屋「花」ののれんをくぐった。
「ニック!」カウンターの一番奥で、ニックがナタリーと寿司を摘まんでいた。
日本酒も相当いっているらしい。
「よう、マーティン!」
顔色一つ変えないニック。
マーティンは出ようかと迷ったが、ケンを前面に追いやって、
「やぁ」とだけ挨拶して、
カウンターのもう片端に座った。
「オコノミ、オネガイシマス」
「へぇ、日本語できるの?」
「アリガト、コニチワ位だけどね」
マーティンはつとめてケンと仲よさ気に振舞った。
ケンが一生懸命話しているが、言葉が頭の上を通り過ぎる。
奥の事が気になって仕方がない。
目が合うと、ニックだけでなくナタリーもウィンクしてくる。
二人が身体を重ねているイメージが浮かんでは消える。
マーティンは酔いも合わさって、気持ちが悪くなっていった。
「マーティン、頭揺れてるよ。そろそろ帰ろうよ」
ケンが「花」から連れ出してくれた。
「僕が介抱してあげるね」
ケンはニヤっと笑うと、ミッドタウンの自分のアパートにタクシーを寄せた。
「家に着いたよ」ケンは大きなマーティンの身体を運びながら、声をかけた。
「うん?僕、家帰るよ!」
マーティンが気がついて、飛びのくが、足元がふらついている。
「帰ってもいいけど、後にした方がいいよ。危なくて帰せないよ」
マーティンをソファーに座らせると、ケンは六甲の水をグラスに入れて持ってきた。
「はい、お水ね。僕、着替えるから」
ぼーっとしているマーティンをおいて、ケンはクローゼットに消えた。
「はぁー、美味しい水・・」
マーティンは一気に飲んでむせてしまい、Yシャツとパンツの前を濡らしてしまった。
「あーあ、これじゃ帰れないじゃん。僕のTシャツ着たら?」
ケンがかいがいしくタオルとTシャツを持ってくる。
もたもたしているマーティンの服を脱がせ、タオルで身体を拭く。
乳首の辺りを念入りに拭いていると、マーティンの局部がむくむく動くのが分かった。
「ふーん、そうなんだ。マーティン、それじゃ僕とする?」
マーティンはケンに手を引かれるままにベッドルームに入った。
オリエンタル調のサイドランプがモダンだ。
マーティンはベッドに投げ出された。
すぐにケンがマーティンの身体にまとわりつく。
Tシャツをまくり上げ、左右の乳首にキスを繰り返す。
「だめ・・だよう」
マーティンが鼻にかかった声で何かを言う前に、ケンはマーティンの中に中指を入れた。
指を付け根まで入れ激しく動かす。ひだの奥が小さな痙攣を始めた。
「マーティン、欲しい?」
こっくりと首を縦に動かしたのを確かめ、マーティンの身体を後ろ向きにした。
サイドテーブルのグリーン・ティー・ローションを自分とマーティンに十分に塗布すると、
ケンはマーティンの身体に身を沈めた。
と、途端に、マーティンが激しく咳き込み始めた。
「?どうしたの?」咳が止み、ヒーっという細い声と共に、マーティンが気を失った。
おろおろするケン。「やば、呼吸してない!」
ケンは飛び起き、携帯でアランのメモリーを押した。
「アラン、僕、ケン!マーティンが大変!すぐに僕のアパートに来て!」
アランがダニーとケンのアパートに着く頃、ケンはマーティンの喉につまった吐しゃ物を吐き出させ、
へばっていた。ケンがドアを開ける前にダニーがアパートのドアを蹴破り、血相を変えて中に入る。
「マーティン!マーティン!起きろ、こら!」
アランがダニーを止める。
「動かすな、ダニー!ERに行こう。ケン、お前も洋服着て来い!」
ダニーはバスローブを着せ、マーティンをおぶった。4人を乗せたボルボは市立病院に向かった。
携帯でトムに知らせる。
「悪いね、これから行くから。呼吸閉塞だ。何分間かは分からない」
アランが冷静に話をしている間、ダニーがケンを締め上げていた。
「お前、マーティンに何した!」
「普通にセックスしてただけだよう。急にマーティンが呼吸しなくなっちゃって。
でもものの2分もたってないと思う。僕、吐き出させたから」
「マーティンに何かあったら、お前の事しばいたるからな。覚悟せいよ!」
ERの入り口でトムが待っていてくれた。
「また、こいつか。そろいもそろって、常連さんだな」
3人は処置室の外で待たされた。
ダニーは、マーティンの携帯に電話したが、一向につながらない。
アッパーイーストサイドのアパートへ行ってみたが、マーティンがいるはずもない。
あいつ、いつになったら帰ってくるんや・・・・
マーティンのすかたん、電話ぐらいして来い・・・・
熱帯魚にエサをやりながら、寂しさのあまり泣きそうになる。
暗闇の中、いつまでもライトアップされた水槽を眺めていた。
帰りにスチュワートのアパートにより、インターフォンを鳴らした。
「はい」
「オレ、テイラー」
エントランスが開錠され、ダニーは中に入った。
エレベーターを降りると、スチュワートがドアを開けて待っていてくれた。
「やあ、テイラー捜査官。今帰りか?」
「ああ、悪いけど今夜泊めてくれ」
「いいけど、マーティンから連絡は?」
ダニーは黙って首を振った。
うがいと手洗いを済ませると、スチュワートがピザのカートンを差し出した。
「食べるか?半分残ってるぞ。自分で温め直すか?」
「このままでええ。ありがと」
ダニーはしょんぼりしたまま冷めたピザをかじった。
「そんな顔するなよ。マローン捜査官は居場所を知ってるんだろ?」
「・・・うん」
「失踪したわけじゃない。すぐに帰ってくるさ」
スチュワートはダニーの肩にそっと手を置いた。
「・・・お前は心配しいひんの?」
「バカ、オレだって心配だし、寂しいさ。そんなの当たり前だろ!」
スチュワートは乱暴にハイネケンのボトルを置いた。
「ごめん」
ダニーは謝ると、それっきり黙りこくったままピザを口に押し込んだ。
風呂から出るとマーティンのパジャマを借り、ベッドに入った。
バカバカしいアメコミパジャマが愛しく思える。
ダニーはうっかり嗚咽を漏らし、恥ずかしさのあまり慌てて布団にもぐりこんだ。
「なぁ、泣いてるのか?」
いいやと答えようとしたが、きまりが悪くてスチュワートの問いかけを無視する。
ダニーはそのままぎゅっと抱きしめられた。
突然のことに心臓がバクバクして戸惑いを隠せない。
「トロイ・・・・」
「もう何も言うな」
腕の中は暖かくて居心地がいい。ダニーはしがみつくように腕を伸ばした。
胸に顔を埋めるうちに、いつしか穏やかな眠りが訪れていた。
421 :
fusianasan:2006/03/10(金) 01:32:05
書き手2さんにじらされてます。
うー、早くスチュワートとダニーのベッドシーンが見たいっす。
そういう展開になりませんでしょうか?
422 :
fusianasan:2006/03/10(金) 02:25:05
ダニーとマーティンがセックスしてない昨今
寂しいです。
翌朝、ダニーはスチュワートの腕の中で目を覚ました。
昨夜と同じようにしっかりと抱きしめられている。
眠っているのをいいことに、スチュワートの体に身を委ねた。
見事に鍛えられた体に比べると、自分の貧相な体が恥ずかしい。
胸やおなかの辺りをさわっているとスチュワートが目を覚ました。
「ぅ〜ん・・・おはよう」
「おはよう」
「なんかくすぐったいけど、人の体で何やってんだ」
「ごめんごめん、筋肉の付き具合が気になって」
ダニーはごまかすと手をのけた。
「お前もジムに行けよ。もう少し筋肉つけたほうがいいんじゃないか?」
「そやな、オレもそう思う」
二人は起き上がると真っ先に携帯の着信履歴をチェックし、お互いを見て苦笑した。
「なぁ、なんでオレのこと抱きしめたん?」
身支度をしながら、ダニーは思い切って聞いた。
「泣いてるみたいだったからさ、慰めになるかと思って」
「ふ〜ん、オレはまた性欲の処理に使われるんかと思った」
「バカ、そんなわけないだろ!」
「お前もいいとこあるやん」
「今頃気づいたのかよ。オレはやさしくて腕のいいバートン先生だぜ」
スチュワートはいつものにやけ顔でネクタイを結んだ。
「トロイ、ついでにオレのも結んで」
思い切りついでにネクタイも頼んでみる。
しょうがないなと言いながら、スチュワートはダニーの前に立った。
ダニーは目を合わせないように部屋の隅を見つめる。
いきなりぐいっと顎を持ち上げられ、驚いてスチュワートを見上げた。
「ここ、血が出てる。ひげ剃るときに切ったんだな」
そのままペロっと血を舐められ、思わず喉がゴクリと上下した。
あいつ、オレの血舐めよった・・・・あまりのことに呆然として頭が働かない。
ぐずぐずするダニーを尻目に、スチュワートは身支度を済ませた。
「おい、ウィッチクラフトで朝メシだから早くしろよ」
「ああ」
やっとのことで声を絞り出し、ダニーは身支度を済ませた。
支局まで送ってもらい、礼を言って車を降りる。
「なぁ、一人で辛いなら今夜も泊まりに来てもいいぞ」
「サンキュ、けどオレは平気や」
「そうか、じゃあまたな」
去っていくTVRを見送りながら、自分に平気だと言い聞かせた。
それよりも今はマーティンがいないことのほうが重大だった。
昼休みに、ようやくマーティンから連絡があった。
「あ、僕だけど」
「マーティン!お前何してたんや、携帯もつながらんし心配してたんやで」
「ん、父の具合が悪くて・・あっ、これは内緒にしててね、言うのまずいから」
「ああ。それで副長官は?」
「冠状動脈パイパス手術を受けたから、すぐによくなるだろうって」
「そっか、よかったな。いつ帰れるんや?」
「わからないけど、意識が戻ったら帰れると思う」
「あんまり無理するなよ。お前が倒れたら困るから」
向こうでフィッツジェラルドさんと呼ぶ声が聞こえた。
「あ、呼ばれてる。じゃあ、また落ち着いたら連絡するよ」
「マーティン、オレ寂しい。早く会いたい」
「ん、僕も。ねぇ、いつもの言ってくれる?」
「好きや・・・いや、愛してる」
マーティンは照れくさそうに笑うと電話を切った。
マーティンは昏睡状態の父の手をそっと握った。
力のない、がっしりした大きな手を包み込み、意識のない蒼白な顔を見つめる。
「・・・父さん、僕はその・・僕はゲイです・・・」
マーティンは今まで言えずにいたことを打ち明けた。
父の返事はもちろんないが、言ったことで心の重荷が軽くなったような気がする。
早くダニーに会いたい、スチューにも会いたい。
それに、ボスやみんなにも・・・とにかく一刻も早くNYに帰りたかった。
1時間して、トムが処置室から現われた。
「気管と胃の洗浄、脳の検査、一応考えられる限りはやってみたが、本人の目が覚めない。
長くかかるかもしれないから、皆、とりあえず帰ったらどうだ?」
ダニーは「俺、残る!」と宣言した。
アランは仕方がないという顔をし、「じゃあ、ケンを送って、帰るよ。ハニー。何かあったら電話くれ」とケンを連れて病院を去った。
待合室で仮眠を取る。背中がマーティンの吐しゃ物で汚れているのも気にならなかった。
見かねて看護婦がタオルとTシャツを持ってきてくれた。
「ありがとう」「いいのよ。お友達?」
「親友やねん」「すぐ目が覚めるわよ」
励ましてくれる。いつのまにかうとうとしていたようだ。
トムに突然起こされた。
「ダニー、マーティンの目が覚めたよ」
「え?ほんまですか?」
「こっちへおいで」
鼻にチューブを注入されているマーティンがいた。
「お前―、心配したで!」
「なん・・でダニーがいるの?」
「ケンに呼ばれたんや。ここはおなじみのER。」
「僕・・バカやっちゃったよ」
「ああ、ようわかってる。今度やったらお仕置きや」
そう言いながら、ダニーは自分の頬に涙が伝わるのを感じた。
トムが後ろで咳払いする。
「あ、トム、ありがとうございました」
「ダニー、ちょっと・・・」処置室の外へ呼ばれる。
「マーティン、ひどい胃炎だよ。胃に穴が開いている。今度、内視鏡検査するように言っておいてくれ。」
「はい」
「それと、人の恋路だとは思うが、ダニー、アランとマーティンを二股かけるような事はやめてくれ。アランもああ見えて繊細なんだ」
トムは今にもダニーを殴りそうな様相で言った。
「もしかして、トム、アランの事・・・」
「あぁ、でも、報われない気持ちだから。君にはアランを幸せにして欲しい」
トムはそれだけ言って去っていった。
図星を指されて、ぐうの音も出ないダニーだった。
俺がフラフラしてるから、マーティンがああなったんやろか?
アランにどんな顔見せればええんや。
アッパーウェストサイドまでのタクシーの中、ダニーは頭を抱えて悩んだ。
アパートに戻ると、ケンがソファーで寝ていた。
ベッドルームに入るとアランが目を覚ました。
「どうだった?マーティンは目を覚ましたかい?」
「うん、話した。あいつ胃に穴が開いてるらしい。」
「ストレス性かな。今度、レイモンドに胃カメラで見てもらうか」
「アラン優しいんやね」
「僕だって医者のはしくれだ」
「あ、そうか。俺、シャワーしてくる」
ダニーはアランの思いがけない言葉にまた涙が出た。
こんなに理解のある大人で自分を愛してくれる人間にこの先めぐり会えるだろうか。
あ、Tシャツ、看護婦さんに返さんとあかんな。名前は・・・ケリーやった。
ダニーは自分の汚れたシャツと一緒にランドリーに放りこんだ。
ベッドに入り、生えかけた髭でアランに頬ずりする。
「うぅん、こら!悪い子だ!」
アランにぎゅっと抱きしめられ、ダニーは安心して眠りに落ちた。
ダニーは昼休みに外出し、マーティンを見舞いに行った。
鼻のチューブは取れたが、相変わらず、顔色が悪い。
「お前、身体にいいもの食ってる?」
ダニーが聞くと、「毎食、外食だからわからないや」との返事。
「それだから、胃に穴が開いてるんや。来週、検査しいや。俺が連れてきたる」とだけ言って病室を出た。
看護婦のケリーを捜して、洗濯したTシャツとタオルを返す。
「あら、こんなのいいのに。」
「面倒みてもらったから」
ダニーはバラを一輪挿して渡した。ぽっと顔を赤らめるケリー。
「ありがとう。テイラーさん。お友達、大事じゃなくて良かったですね」
それだけいうとケリーは去っていった。白衣がまぶしい。
マーティンのところに戻り「明日は出られるか?」と聞いた。
「うん」マーティンも真面目な顔で答える。
「じゃあ、ボスに言うとくわ。食中毒やったって」
「ありがとう、ダニー」
「気にせんといて」ダニーは病室を去った。
医局にいるトムと目が合った。ダニーは手をふるとそのまま支局に帰った。
トムがアランの事好きやなんて、思いもしなんだ。
アランは気がついていないのだろうか。精神科医なのに・・・。
午後は、CBSのアンカーマンの奥さんの事件の事後処理に追われた。
身代金を受け取りにきたアマチュア誘拐犯の逮捕は、サマンサとヴィヴィアンの手で片付いていた。
ダニーは書類整理の担当になった。サマンサは頬を上気させて、手柄を事務方スタッフに話している。
俺もしゃんとせにゃあかんな。ダニーは改めて自分のポジションを考えた。
へこんで、アランのアパートに帰る。
アランは、ダニーの大好きなムール貝のワイン蒸しを鍋いっぱい作ってくれていた。
アイオリソースもあって、ダニーは大喜びだ。
「アラン、美味そう!」
「早く着替えておいで。シャブリをあけとくから」「うん!」
ダニーはアディダスの部屋着を着て、ダイニングに現われた。
グラスで乾杯する。ムール貝を食べながら、アランに尋ねた。
「なぁ、トムとはいつから知り合いなん?」
「お互いにインターンの頃だから、かれこれ20年近くになるなあ」
「トムってゲイ?」「どうだろう、結婚してないから、ゲイかもしれないな」
「ふーん」
「どうした?トムが気になるのかい?」
ダニーは首をぶるぶる横に振った。
「俺の好きなんはアランや。トムはいらん!」
アランは大笑いした。
「いい子だ。ワイン蒸しのソースでリゾットを作ってあげよう」
アランはキッチンに向かった。
こんな幸せ、他に味わえない。
ダニーは満足しきった顔でアランの後ろ姿を見つめていた。
よかった、マーティンと話せて!
久々に聞いたマーティンの声はダニーを勇気づけた。
そうや、トロイに教えたろ・・・早速、携帯を取り出した。
「テイラーやけど、マーティンから連絡あったで」
「ああ、オレの留守電にも入ってた」
「留守電?」
「ああ、さっきまで診察中で出られなかったのさ。くそっ、もう少しだったのに・・・」
「まあ、元気出せや」
心底悔しそうな声に、吹き出しそうになりながらも励ました。
「お前だって昨日は泣いてたくせに!」
「あほ、あれは嘘泣きや」
「いいや、泣いてたね、それも『 しくしく 』泣いてた」
「ちゃうわ!」
「いいじゃないか、なかなかかわいかったぞ」
ダニーはからかわれて赤くなる。耳の辺りが熱い。
「やっぱり今日も泊まりに行く。かまへん?」
「ああ。それじゃ・・えーっと、18時に迎えに行くよ。下で待ってろ」
「わかった、18時な。ほな、また」
ダニーは携帯をしまうと猛然と仕事に取り掛かった。
勤務は終わったが、約束の時間までまだ少しある。
デスクの整理をしながら時間をつぶした。
ダニーを見つけたボスが寄って来た。
「ダニー、今夜空いてるか?」
「いえ、約束があるので」
「そうか、マーティンがいないと寂しいだろ、慰めてやろうと思ったんだが」
「どうも。ボスのお心遣いに感謝します」
ダニーはブリーフケースを持つと席を立った。
下で待っているとスチュワートが迎えに来た。
「お待たせ、泣き虫テイラー」
「あほ、泣いてへんって言うてるやろ」
ダニーは照れ隠しに肩に軽くパンチする。
「さあ、どうだか。叩くのが証拠ってとこだな」
おもしろそうにくくっと笑うと車は走り出した。
アッパーイーストの寿司屋で食事を済ませ、帰りにマーティンのアパートへ寄った。
熱帯魚にエサをやり、ダニーの着替えを取り出す。
「なぁ、マーティンの親父ってどう思う?」
スチュワートが水槽をコツコツ叩きながら聞いてきた。
「副長官やし、捜査も優秀や。オレは尊敬してる」
「そうだが・・・あの男には感情がない、よくあんなのからマーティンが生まれたな」
ダニーも深く頷く。確かに考えられないほど純粋だ。
スチュワートは何かを言いかけたが、話を打ち切ると部屋を出た。
アパートに着くと、ダニーは植物の水やりを手伝った。
植物のせいか、なんとなく空気が濃厚な気がする。
スチュワートはもくもくと葉っぱや土の状態を調べている。
「トロイ、なんでこんなに置いてるん?」
「ん?好きだから、それだけさ」
ヘンなヤツ、ダニーは言われた分の水やりをするとバスルームを借りた。
バブルバスに浸かりながら鼻歌を歌っているとスチュワートが入ってきた。
慌ててペニスを見ないように目をそらす。
「星は光ぬか、オペラが好きなんてうらやましいな。オレなんか生き地獄だぜ」
「いや、オレも好きなんはトスカと魔笛ぐらいやから」
「ババアとオペラに行ってみろ、まるで見世物になったような気がする」
「お前、理事長といつまで続けるんや?」
「ババアが死ぬまでさ。さっさとくたばれ!」
スチュワートは乱暴に体を洗った。
「お前はどうなんだ?女と寝てるんだろ?」
「たまにな」
「けどさ、お前のいいところは男とは浮気しないところだな」
ダニーは曖昧な笑顔で頷いた。ジョシュやスタニックと寝たことが頭をよぎる。
目をあわすと見透かされそうで怖い。
「ほな、お先に」何気ない素振りを装いながらバスルームを出た。
ダニーは先にベッドに入った。ここのベッドにもすっかり馴染んでいる。
携帯をいじっているとスチュワートが入ってきた。
「今夜も泣いてる?」
にやにやしながら問いかけられ、ダニーはいたずらのつもりで俯いた。
「マジかよ、泣くなって」
ダニーはぐすぐす鼻をすすりながら思いっきり抱きついた。
スチュワートは慰めるように背中をやさしく擦った。
ダニーのペニスは反応して勃起してしまった。
スチュワートのペニスもいつのまにか勃起している。
パジャマの薄い布越しにお互いのペニスの感触が伝わってくる。
「おやすみ」
気まずくなったスチュワートはそっと体を離すと背を向けた。
ダニーは何も言わずにじっとしていたが、ぎゅっと背中にしがみついた。
「テイラー?」
「オレ、お前のことが好きや。なんかわからんけど、すごい気になる」
とうとう言うてしもた!ダニーは口から心臓が出てきそうなほどドキドキしている。
肝心のスチュワートの反応より、自分の鼓動で押し潰されそうだ。
「・・・マーティンは?」
スチュワートは振り向かない。
「あいつのことは愛してる。けど、オレ・・・お前も気になる」
「オレは・・そんなこと思いもしなかったから・・・」
背中越しに戸惑いが伝わってくる。時間が止まったように感じられた。
ダニーもスチュワートもそのまま黙りこくっていた。
お互いの息遣いしか聞こえない。
ダニーは緊張で手のひらにじっとりと汗をかいている。
どうしよう、めちゃめちゃ気まずい・・・・
頼むから何か言うてくれ・・・祈るような気持ちで広い背中を見つめる。
不意にスチュワートが振り向いた。
ぼやけた月明かりの中、グリーンの瞳が真剣に自分を見つめている。
ダニーは覚悟を決めて見つめ返した。
「気持ちはうれしいけど、オレには応えられない・・・すまない」
ダニーは大きく息を吐くと頷いた。「・・・わかった」
今度は自分が背を向ける。必死に落ち着けと言い聞かせていた。
眠れないまま、時間だけが過ぎていく。
スチュワートが起きているのか眠っているのかもわからない。
怖くて後ろを振り向くことができずにいた。
ダニーはこっそりベッドから出ると、コートを着て屋上に出た。
デッキチェアに座り、真夜中のマンハッタンと夜空を見上げる。
航空障害灯の赤い点滅を見ているうちに、涙で視界がぼやけた。
すっかり冷え切った体をこすりながらベッドに戻る。
ガタガタ震えていると後ろからぎゅっと抱きしめられ、バカと呟く声が聞こえた。
スチュワートの温もりでいつのまにか震えも止まった。
「さ、もう寝よう。今度こそおやすみ」
「・・・ああ」
ダニーは抱きしめられたままの状況にどぎまぎしながら目を閉じた。
翌朝、ダニーはすっかり寝過ごした。
休日なので問題はないが、迷惑をかけているようで心苦しい。
ようやくベッドから出ると、スチュワートが紙袋をガサガサさせていた。
「おはよう、適当に買ってきたんだけどどれにする?」
「オレはどれでもいい」
視線が合う前に目を逸らす。相手が普通の態度なのにぎこちなくなってしまう。
「ほら、バナナミルク。お前のお気に入り」
目の前に置かれたジュースにおずおずと手を伸ばした。
そっと差し出されたシナモンベーグルも口に運ぶ。
「・・・オレ、食べたら帰る」
「ん?ああ、うん」
二人は静かに食事を続けた。
ダニーはアパートに帰るとベッドに直行した。
何もする気がしない。溜まった洗濯物もどうでもよかった。
マーティンにも合わす顔がない。
オレはどうしたらいいんや・・・・答えを求めても何も分からない。
後悔だけが浮かんでは消えていった。
ダニーは、マーティンの退院を手伝うため、アランのボルボを借りた。
マーティンが病院の入り口できょろきょろしている。
「マーティン!こっちや!」
マーティンが駆けてきた。
「マスタング捜しちゃった!」
ダニーは恥ずかしそうに笑った。
「アパートに帰るやろ?」
「うん、お願いします」
マーティンは助手席に乗り込むと、ダニーの右手に左手を重ねた。
「?」「本当にごめんね。僕がばかやっちゃったのに、ついててくれて」
「何言うてんのや。俺とお前の仲やろが」マーティンは嬉しそうに笑った。
久しぶりに間近で見るマーティンの笑顔だった。
「何見てるの?」
マーティンがきょとんとして尋ねた。
「お前の笑顔、めちゃ可愛いな」
ダニーはそれだけ言うとエンジンをかけた。
アパートに着くと、ドアマンのジョンが声をかけてきた。
「テイラー様、お久しぶりで」
「ジョン、元気やったか?」
「ありがとうございます」
マーティンは足取りもしっかりとアパートに入った。
「グローサリー買うやろ、俺が買うてきてやろうか?」
「ううん、デリバリー頼むからいいよ。ありがと、ダニー。もう家に帰りたいでしょ?」
マーティンは遠慮がちに聞いた。
「そんな事ないで、お前んちに泊まってもええんやから」
「本当に?」マーティンの顔が輝いた。
「あぁ、お前の食生活も心配やしな」
「僕、ダニーのアスパラガスとチーズのオムレツが食べたいよ」
「よっしゃ、作ったろ」
冷蔵庫を開けて驚いた、卵はおろかミルクもオレンジジュースもない。
クラブソーダとビールと白ワインが入っているだけだ。
「お前、こんなんじゃ、だめやないかい!俺、ひとっ走り、イーライズに行って、適当に買うてくるから」
ダニーは出て行った。
マーティンはおろおろしていたが、パジャマに着替えて、ベッドに入って寝てしまった。
ダニーが戻ってくると、部屋は静かだ。
ベッドルームを見ると、マーティンが布団をかぶって眠っている。
規則的に布団が上下しているのを見て、安心し、オムレツをやめて、キッシュを作ることにする。
これなら温めても美味しいだろう。
調理を終えて、ダニーは、「仕事、無理すんなよ。D」というメモをベッドサイドに残し、
アランの待つ家に戻った。
アランの部屋に入ると、驚いた事にトムが来ていた。
アランとリビングで談笑している。ビールを飲んでいるようだが、必要以上に
身体が近いような気がした。
「やぁ、ハニー、マーティンは元気だったかい?」
ダニーは二人の親密な空気に圧倒された。
「うん、トムのおかげや。トム、こんちわ」
「やぁ、ダニー、お邪魔しているよ」
トムは人懐っこい笑顔でウィンクした。白髪交じりの頭の印象もあって、
どこか、ジョージ・クルーニーに似ている事に気が付いた。
「俺、あと一つ用事あるから出かけてくる。車借りていい?」
「?どこへ行く?」
「ケンの家。ドア蹴破っちまったから」
アランは声を出して笑った。
「そうだな、あれは家宅捜査以上の迫力だった。ケンによろしく」
「うん」ダニーはトムを一瞥すると、また車で、ミッドタウンに出かけた。
473 :
fusianasan:2006/03/13(月) 02:58:52
書き手2さん;
ダニーとスチュワートが結ばれなくて肩透かしを食らいました。
それだけ、マーティンの存在が大きいんですね。
フラれたダニーがとても心配です。
>>473 散々迷ったのですが、肩透かしな結果になってしまいました。
申し訳ないですね。
日曜日も一日中ベッドで過ごし、冴えない休日が終わった。
スタニックからの着信が二度あったが、誰とも話したくなかった。
暗闇で聞くCOLDPLAYとウォッカだけが慰めだ。
不思議と涙は出ない。それほどまでに落ち込んでいた。
支局でエスプレッソを飲みながらため息をつく。
何も食べていないのにおなかも空かない。
・・・・これって失恋やんな?
ダニーはうつ寸前のボスの境遇が身に沁みたが、理解したくない。
不機嫌なまま仕事に取り掛かった。
仕事が終わるとボスに呼ばれた。
「今日はえらく荒れてたな、どうしたんだ?」
「何でもないっす」
「マーティンがいないせいか?」
ボスはダニーの顔を覗き込んだ。
メガネの奥の目が哀れんでいるように見える。自分が惨めに思えた。
やさしくされるのも鬱陶しくて、ほっといてほしい。
「いえ、失礼します」
ダニーはそれだけ言うとボスのオフィスから出た。
帰りにフルートへ行きかけて、ふと足を止めた。
もしもあいつに出くわしたら・・・・オレはそんなに強くない・・・
回れ右をすると地下鉄の駅へ歩き始めた。
ホテル・エリゼーの近くを通りかかり、スタニックのことを思い出した。
おそらく勤務中だろうと思ったが、携帯に電話してみるとスタニックが出た。
「あ、ダニーやけど」
「ダニー!昨日電話したんだよ」
「知ってる。ごめんな、忙しくて」
「ううん、今日は空いてる?」
「まあな」
「じゃあさ、今から来ない?」
ダニーは迷ったが行くことにした。以前の記憶を頼りにアパートへ向かう。
インターフォンを鳴らすと、スタニックが中に入れてくれた。
「急に悪いな」
「いいんだ、気にしないで」
食事を断ると、ラム酒をかけたアイスクリームを出してくれた。
「これ、うまいな」
「そう?気に入ってよかった」
スタニックはうれしそうに隣に座った。
「あっ、目の下に隈ができてるよ。大丈夫?」
心配そうに頬をなでられ、ダニーは思わずキスをした。
夢中で押し倒してハッと我に返り、慌てて謝って立ち上がる。
驚いたスタニックに引き止められたが、もう一度謝ると逃げるようにアパートを出た。
オレ、何してるんや・・・
こんなことしたって何の解決にもならへんのに・・・・
好きでもない相手にキスをしたことで、ダニーはますますへこんだ。
自分が情けなくて無力に思える。
やり切れぬ矛盾を抱えたまま、とぼとぼと歩き続けた。
ケンのアパートに行き、インターフォンを押す。
「はい?」
「俺、ダニー」
「入って!」セキュリティーが解除される。
14階のケンの部屋に行くと、ドアは修理されていた。
「いらっしゃい!」Tシャツに短パンのケンが出てきた。汗だくだ。
「お前、何してたん?」
「ワークアウト、まぁ、入ってよ」
ケンはうれしそうだ。
「こないだは、ドア壊して、その、ごめんな」ダニーはまず素直に謝った。
「いいよ、僕がマーティンのヤケ酒止めなかったのがいけないんだし、
その・・・そんなマーティンと寝ちゃったし」
「お前、ほんま懲りない奴な、ギルとはその後どうなん?」
「穏やかなものだよ。だから、ついつまみ食いしたくなっちゃうんだよね」
ケンは、目をくるりとさせて、笑った。
「マーティンのヤケ酒って何や?」ダニーは尋ねた。
「ほら、ニック・ホロウェイって知ってるでしょ?」
「ああ、あいつが何か?」
「マーティンと行った寿司屋で、女の人と一緒にいたんだよね。すごい親密そうでさ。
マーティン、ショック受けたみたいで」
「荒れたか?」
「ううん、ただぼーっと日本酒ばかり飲んでたよ。完全に悪酔い。いつかの誰かさんみたいにね」
ダニーを見つめて、ふふふっと笑う。
ダニーも、心の中は、アパートに二人でいるトムとアランが気になって仕方がなかった。
「そうかー。で、ドアの修理代、俺、弁償するわ。幾らなん?」
小切手帳をジャケットから出す。
「いいよ、今度、またどっかで奢ってくれればさ」ケンは丁重に断った。
「それのがよっぽど怖いわ」
「まあ、そう言わないで、遊んでよ」
ケンがダニーに近ついてきた。
身体から汗とフレグランスが混じった魅惑的な香りがする。
「おい、ストップ!」
今にも抱きつこうとしていたケンを牽制すると、「俺、帰るわ」とダニーは飛び出した。
急いでアッパーウェストサイドに戻る。
「ただいまー!」と部屋に入ると、アランとトムはサッカーのプレミアリーグの試合を見ていた。
まだ、いたんか、トム。思わず、むっとするダニー。
「お帰り!」
二人が飲んだビールの空き瓶がテーブルに並んでいた。
1ダース位あるんちゃうか?二人は大画面の前で、ゲームに夢中だった。
ダニーも冷蔵庫からビールを出して、ソファーに座る。
トムを挟む形になってしまった。
今まで白衣姿だったのでさほど気にならなかったが、私服を改めて見ると、
厚い胸板や逞しい太ももが目に入る。
それに比べて自分の肉体がどんなに貧弱か。
ダニーは劣等感に打ちひしがれた。
ダニーは二人にビールを運んできながら、アランに熱烈なキスをした。
「ん?ハニー、どうした?寂しいのかい?」アランが笑いながら聞く。
「俺が邪魔かな?」トムが見上げる。
「トム、晩御飯食う約束だろ?帰るなよ」アランはトムを引き止めた。
約束て、俺には一言も相談せんと、アランの奴!
ダニーはジェラシーで、気分がむかむかしていた。
491 :
fusianasan:2006/03/14(火) 10:03:53
書き手1さん、トムも参戦ですか。ダニーはますます嫉妬の嵐ですね。
でも面白くなってきました。それで結局マーティンもアランも失う事
になったら悲しいです。あとニックがアランにどう出るのかが楽しみ
です。
書き手2さん、本当にスチュワートはダニーの事をなんとも思って無
いのでしょうか。ダニーの苦悩が堪らない。これからのダニーの幸せ
を祈りたいです。今後の展開を期待します。
>>491 スチュワートはマーティンに真剣なので、ダニーの告白にはかなり驚いたと思います。
予想もしてなかったでしょうから。
一週間後の午後、ようやくマーティンが出勤してきた。
空港から直接来たせいか疲れてよれよれだが、戻ってこられて嬉しそうだ。
「えっと・・ただいま、ご迷惑をおかけしました」
みんなに歓迎されて照れくさそうにしている。
ダニーもおかえりと声を掛け、ポンと肩を叩いた。
仕事が終わると、二人はマーティンのアパートに直行した。
玄関のドアを閉めた途端、マーティンが抱きつく。
「ダニィ、会いたかったよ」
「オレもや」
話をするのももどかしい。夢中でキスを交わした。
落ち着いたところでDCでの様子を聞く。
「副長官の容態は?」
「うん、術後の造影写真も見てきたけど、もう大丈夫。
薬は一生飲まなきゃならないけど、タバコ以外は普通の生活を送れるって」
「そうか、よかった。お前、えらかったな」
ダニーはよしよしと頭を撫でて髪をくしゃっとした。
「それよりさ、カミングアウトしてきた」
「えーっ、カミングアウト!マジで?」
「ん、僕はゲイですって言ってやったんだ」
誇らしげなマーティンにダニーは慌てた。
「お前・・・まさか、オレのことまで」
「ううん、言わないよ。カミングアウトはしたけどさ、父さんが意識不明だったんだよね」
マーティンはやんちゃな顔でダニーのほっぺにキスをした。
ダニーはホッと胸をなで下ろすと、あほと言いながらデコピンをした。
マーティンはうれしそうにケタケタ笑っている。
屈託のない笑顔が懐かしい。
「あっ、僕の魚!」
マーティンは慌てて水槽の前に飛んで行った。
「よかったー、死んでない!すっかり忘れてたよ」
「当たり前や、オレが世話してたんやから」
マーティンは礼を言うと、ぴとっと水槽に手をくっつけて魚にただいまを言った。
ピザのデリバリーを待ちながらソファでごろごろする。
インターフォンが鳴り、ダニーが出た。
「はい」
「あ・・・バートンです」
げげっ、トロイや!入りといいながら開錠するが、パニック寸前だ。
スチュワートとは告白して以来会っていない。
「マーティン、トロイや。開けたり」
ダニーは飲み物を用意するふりをしてマーティンを促した。
マーティンがドアを開けると、スチュワートが立っていた。
「やあ、マーティン。おかえり、元気だったか?」
「ん、ただいま、スチュー」
ハグとキスを交わし、手をつないでリビングまで引っ張って行く。
ダニーは、おうとだけ言葉を交わし、キッチンへ逃げ込んだ。
冷蔵庫を漁っているとスチュワートが入ってきた。
「久しぶり」
「ああ、うん・・・」
「オレのドクター・ペッパーあるかな?」
「あるで、後で持って行くわ」
ダニーは冷蔵庫から顔を上げずに答えた。
「オレのこと、避けてる?」
「いいや」
「じゃ、出て来いよ」
ダニーは嫌々顔を上げた。
見つめられているのはわかっていたが、目を合わせないようにした。
ピザが届き、三人は食べ始めた。
マーティンは堰を切ったようにDCの話や、カミングアウトの話をした。
スチュワートは楽しそうに話を聞いて笑っている。
二人が会話する中、ダニーだけは上の空だ。
「ねー!ねー、ダニーってば!どうしたのさ?」
「え・・・ごめん、聞いてなかった」
「あのさ、今夜は泊まってくれる?」
ダニーは思わずスチュワートを見た。端正な甘い笑顔にドキッとする。
「泊まってやれよ、久しぶりなんだし」
「ああ、そやな。で・・お前は?」
「オレ?オレは帰るよ」
ダニーは安心して頷きながらクラブソーダを注いだ。
「ねー、スチューも泊まれば?」
マーティンの何気ない一言に二人は固まった。緊迫した空気が流れる。
あちゃー、このあほ、ぼんやりすかたん、余計なこと言うなや!
ダニーはそれでもスチュワートの反応が気になる。
「オレは・・・」
口ごもるスチュワートを制し、マーティンは勝手に泊まると決めてしまった。
ダニーとスチュワートは一瞬顔を見合わせたが、すぐさま視線を逸らした。
>>491 さん
トム、最初はあっさり系の人を想定していたのですが、いつのまにか
ERのダグになってしまいました。ジョジクルが本気出したら、
ダニーやばしですよね。アランvsニックもまた次の手を考えます。
506 :
fusianasan:2006/03/14(火) 23:50:22
マーティンは携帯の着信履歴を確認した。ニックからの連絡はない。
もう、僕、飽きられちゃったのかな。
寂しくなったが、勇気を奮ってニックに電話した。
「はい、ホロウェイ」
「僕、マーティンです」
「お前、どこに雲隠れしてたんだよ!家に来いよ!」
「え、いいの?」
「もちろん、待ってるぜ」
ニックのいつもと変わらぬ声を聞き安堵するマーティン。
スーツをガーメントバッグに詰めて、タクシーに乗る。
ニックのアパートに着くと、ニックが入り口で待っていた。
「車の音がしたからな、入れよ」
何事もなかったかのようなニックの様子に面くらうマーティンだった。
「あれ、アンドリューは?」
「近くのクラブに遊びに出かけた。あいつ、お前にいじわるしただろう?」
「いじわるってほどじゃないけど・・・」
「ごめんな。俺の恋人を仮想敵国に想定して、毒を吐き出すんだよな、悪い癖なんだ」
ニックはギュっとマーティンを抱きしめた。懐かしいニックの匂いがする。
「僕ね、急性アル中で、病院にいたんだよ」
「はぁ〜?お前、まだそんなガキっぽい事してんのかよ。大丈夫か?」
「胃に穴があいてるんだって」
「ったく、線が細いんだよな、お前。それで食事制限とかあるのか?」
「まだ精密検査行ってないから」マーティンは恥ずかしそうな顔をした。
「じゃあ、今日はチャイナタウン行っても、お粥だけ食ってな」
そういうと、ニックはマーティンの手を握って、地下の駐車場へ行き、アウディーに乗った。
「中華、食べるの?」
「お前はお粥だけな」
ふふふんと鼻で笑いながら、チャイナタウンに車を飛ばす。
ヴィレッジの「ヤムチャ」は長蛇の行列だったが、奥のVIP席に通される。
「どうしたの、この席?」マーティンが尋ねる。
「ナタリーの計らいさ。俺はいつもここに通されることになった」
ニックは別にニコリともしない。
「何だかニックがどんどんビッグになるみたい、僕、怖いよ」
マーティンは不安をそのまま口にした。
「お前のポートレートのお陰だよ。俺の人生を変えてくれた」
ニックは人目もはばからず、マーティンの頬にキスをした。
「ちょ、ちょっと!」
「慣れろよ、俺と一緒にいると、これからパパラッツィについて回られるぜ」
「わー、ビューローにいられなくなっちゃう!」マーティンは慌てた。
料理はお粥なぞ冗談で、鳩のグリルを前菜に、フカヒレの姿煮、
北京ダック、白菜のクリーム煮、あわびの炒飯と続いた。
「すごいご馳走だね」
「ああ、俺、パリで個展を開くことになってさ、モデルで芽が出なかったリベンジだ」
「え、じゃあ、また出張するの?」
「今度はつきっきりじゃないぜ、オープニングとクロージングのときだけだ。お前も来ない?」
「無理だよ!」
「週末にパーティー組むからさ。チケットも用意するし。
お前なしだと、俺、何しでかすか、怖いんだよ」
「うーん、分かった。有給休暇取れるか試してみるね」
マーティンはニックとのパリ旅行を実現させてみようと考えていた。
516 :
B.C.:2006/03/15(水) 19:52:03
書き手1さん、書き手2さんへ
vol.5から読みはじめた者です。
ダニーとマーティン以外の登場人物紹介をして頂けないでしょうか?
■名前
■性別
■職業
■ストーリーでの位置etc.
ぜひよろしくお願いしますm(_ _)m
>>516 いつも読んでいただきありがとうございます。
近日中に人物紹介を載せておきますね。
ダニーはバスタブに湯を溜めながら上がる水位を眺めている。
思いがけずスチュワートと一夜を共にすることになり、動揺していた。
もしもマーティンとトロイがセックスしたら?オレはそんなん見たくない。
物憂げに考え込んでいると、スチュワートが入ってきた。
自分の歯ブラシを取り出すと、丁寧に歯を磨いている。
ダニーは振り向かずにバスタブを見つめ続ける。
「なんかさ、とんでもないことになったな」
不意に話しかけられ、ダニーはただ頷いた。
「あいつ、あんなにはしゃいじゃって。よっぽどDCが辛かったんだろうな」
「うん・・・風呂の湯、溜まったから呼んでくるわ」
話をするのも辛いダニーは、横をすり抜けるとマーティンを呼びに行った。
マーティンはベッドの中でもしゃべり続ける。
「マーティン、もう黙れ。やかましいて寝られへん」
「あ、ごめん。僕、話し相手がいないから、普通に話すの久しぶりなんだよ」
「いいひんことないやろ、お母さんやマーガレットは?」
「ああ、あの二人ね・・・全然ダメ、話にならない」
「なあ、マーガレットって?」
「僕んちのメイド。母の腰巾着」
マーティンはぶすっと答えた。
スチュワートはくすくす笑いながら抱き寄せるとキスをした。
「おかえり、フィッツジェラルド捜査官」
「ただいま。ね、ダニーとスチューはどうしてた?何かあった?」
マーティンの質問にダニーは躊躇した。スチュワートの答えが怖い。
「いつもどおりさ。君がいない以外は何も変化なし」
「そっか、ダニーは?」
「オレは・・・オレも何もなかったわ」
何も変化なしか・・・・チクッと胸が痛んだ。
話し疲れたマーティンはすやすや眠ってしまった。
スチュワートはベッドから抜け出るとダニーの肩を叩いた。
手招きされ、一緒にリビングへ行く。
「何?」
「オレがいると眠れないだろうから帰るよ。悪いけど、戸締りしてくれる?」
「それはかまへんけど・・・」
スチュワートは着替え始めた。目のやり場に困ったダニーは水槽の前に佇む。
熱帯魚を見ているふりをしながら、水槽に映る裸体を眺めていた。
がっしりした肩や、割れた腹筋に思わずペニスが反応する。
「それじゃ、おやすみ」
「ん、おやすみ。気つけて帰り」
スチュワートはドアを開けかけて立ち止まった。
「以前、お前のこと大嫌いだって言っただろ?あれは取り消すよ」
「えっ・・あ・・トロイ!」
呆然とするダニーを残し、スチュワートは帰っていった。
>>516 読んでいただいて感謝です。
サブキャラ名鑑、私も欲しいところですw
近日中に少しずつUPしますので、お待ちくださいませ。
トムと食事は、アランお得意の子羊のすね肉のポトフとバーニャカウダ、
ワインはオーストラリアのペンフォールズの赤だった。
「さすがに、アランの食事は美味いよな。いつ食っても関心する」
「インターンの頃は金がなくて自炊してたもんな」「ああ」
二人は思い出話で盛り上がっていた。
一人黙々と子羊を口に運ぶダニー。
ふん、20年前の話なんかしやがって、おじん!
「トムも料理するので?」
「いやあ、俺はスクランブルドエッグ止まりさ。いつもアランの家に食いに行ってた」
そういって目を細めて笑う。
「それも砂糖と塩を間違って入れたりしてな」
アランが声を上げて笑った。
ダニーはワインを自分で注ぐと、ぐっと飲んだ。
「そや、マーティンの事やけど、内視鏡検査、早い方がええんよね?」
「ああ、俺が予約入れといた。今週木曜日の10時に来てもらえないかな?」
トムがダニーの顔を見た。
「うん?じゃあ、奴に連絡せにゃー。失礼」
ダニーはマーティンの携帯に電話した。
「はい、マーティンの携帯」ニックの声だ。
あいつ、またホロウェイと一緒かい!
ダニーはこっちもあっちもうまく行かず、むしゃくしゃした。
「テイラーやけど、マーティンおらへん?」
「今、シャワーだ。伝言あるか?」
「木曜日の10時に胃カメラ予約やって伝えて。俺が病院に送ったるって」
「病院には俺が連れてくよ。ありがとさん」ガチャ
ダイニングに戻るとアランが顔をうかがっていた。
「ハニー、何怒ってる?」
「マーティンに電話したら、ホロウェイが出やがった」
トムが尋ねる。「ホロウェイって誰だ?」
「マーティンの新しい彼だ。ほら、LOSTってドラマやってるだろ、
あれに出てる俳優の弟でね、本人はフォトグラファーやってる」
「あぁ、ニューヨーカーで読んだかも。かなりいい男だったよな」
すかさずダニーがいじわるそうに尋ねる。
「ふうん、トムの好みなので?」
「いやー俺は年下趣味はないよ。同年代でないと、無理なんだ」
挑むようにダニーを見返す。
ダニーは命を何度も救われたのを忘れて、トムを心底嫌な奴だと思った。
何で、アラン、今日に限って奴を招待したんやろ?
食事が終わり、アランが後片付けを始める。
ダニーがすくっと立ち上がってヘルプする。
それをうらやましそうに目で追うトムだった。
気分を変えようとトイレに立つ。
顔を洗って、ふと目を上げると、ダニーが後ろに立っていた。
「トム、どうしてこんなんするんや?」「こんなんて?」
「わざわざ、仲いいところ見せつけるなんて、大人のあんたのやるような事やない」
「君こそどうだ。二人の間で揺れ動いているんだろう?俺にチャンスが到来したかと思ってるよ」
「それって・・・」
「そうだ、宣戦布告だよ。テイラー君」
トムはポンポンとダニーの肩を叩いてトイレから出て行った。
533 :
B.C.:2006/03/16(木) 04:06:37
ダニー・テイラー (男)
料理や家事が得意で何でもそつなくこなす。趣味はウクレレ。
気持ち悪いものが苦手で、特に虫は大の苦手。
食べ物の好き嫌いが多く偏食で、副長官との食事には毎回ドキドキ。
副長官の前でもおもしろおかしく話せるため、気に入られている。
性的嗜好はバイで、時々娼婦を買ったり、女と浮気する。
過去に何度か女と真剣に付き合うが、結局マーティンを選ぶ。
恋敵のスチュワートとは過去に本気で殴りあったが、次第に惹かれ告白したが振られたばかり。
マーティン・フィッツジェラルド (男)
幼少時に看護師(女性)から性的虐待を受けてゲイに。
ダニーが大好きだったが、航空身体検査でスチュワートと出会いどちらも選べなくなる。
見かねた二人が協定を結び、今のところうまくやっている。
字が汚く、スチュワートに教えてもらっている。よく食べ好き嫌いなし。
特技はスカッシュ。3rd classの航空ライセンス所有だが、車は苦手で縦列駐車ができない。
親との関係は劣悪。父のお気に入りのダニーを妬むことも。
ぼんやりしているが、ダニーにストーカーする根性もあり。
スチュワート・バートン (男)
仕事熱心な勤務医。NIP/TUCKのクリスチャン・トロイに似ているので、ダニーはトロイと呼ぶ。
クリニックのアン・ヒラード理事長の愛人。事故で死んだ兄のエドワードに劣等感あり。
飲んだくれで無職の父親のため、毎月実家に送金している。妹のエミリーとは仲良し。
今までは遊び人だったが、マーティンと出会い本気で好きになる。
その本気さはジョンズ・ホプキンス大学の終身在職権を放棄するほど。
CDCの仕事でベトナムへ行き、失踪事件に巻き込まれたが、ダニーのユニットに救出される。
ボス/ジャック・マローン (男)
マーティンがゲイだと知り、副長官(マーティン父)にダニーとの仲を話すと脅して二人と関係を結ぶ。
自身はバイ。かなりの変態で色情狂。獣姦DVDなど好みは多彩。
ダニーもマーティンもたまに餌食にされるが、まともな時もあり。
特にマーティンにはパパと呼ばせて可愛がることも。
サマンサに新しい男が出来てうつ病になりかけ?心の友は熱帯魚。
娘にくさいと言われ、オヤジ臭に悩む一面も。
ヴィクター・フィッツジェラルド副長官 (男)
言わずと知れたマーティンの父。時々ワシントンDCから来ては息子を叱咤激励。
威圧的な態度に息子が萎縮しているのにまるで気づかないが、
溺愛しているらしく、人前でマーティンをあの子と呼ぶ。
とにかく高慢ちきでジャックにも煙たがられているが、たまに一緒にゴルフに行く。
ダニーの話を聞くのがお気に入り。息子と同じくチョコレートに目がない。
NYでは高級娼婦と遊んだりもする。常宿はフォーシーズンズ。
最近、冠状動脈バイパス手術を受けた。
スタニック・ジェラード (男)
ホテル・エリゼーのモンキーバーのバーテンダー。
フランス系アメリカ人で、アメリのニノに似ている。
ダニーの浮気相手のマリーと寝て、後ろから夫のフィリップに掘られバイになる。
マリーとフィリップ夫妻は既にフランスに帰国してしまい、
ダニーしか相談相手がいないため、時々相手をしてほしいと思っている。
アン・ヒラード (女)
パリセイドメディカルクリニックの理事長でスチュワートの愛人。死ぬまで囲う気でいる。
60歳をとっくに過ぎているがSEXに貪欲。一応べっぴん。
オペラ好きでスチュワートを連れ回す。
抵抗されるとスチュワートの死んだ兄を持ち出し、何かと比べる。
ジェニファー (女)
クリニックのドクター・アシスタント。ダニーとはたまにバーで話す間柄。
ダニーは狙っていたが、既婚者と知り撃沈。
ドクター・マーキンソン (男)
たまにしか出てこないが、スチュワートの代理のドクター。
あまり腕がよくないため、サマンサに喚かれたことも・・・。
ジェフリー (男)
サマンサの彼氏。ゴールドマン・サックスに勤務。
ベン・アフレック似のイケメン。話がおもしろい。
ジョシュ (男)
ダニーの浮気相手。バーで出会い、一度だけ寝たのみ。
コロラド州デンバー在住で、不動産投資会社勤務。
>>533 こんな感じです。よろしくお願いいたします。
ダニーはベッドに戻ると、さっき言われた言葉を反芻してみた。
トロイ、少なくともオレのこと大嫌いじゃなくなったんや。
安堵した気持ちでにっこりすると、それだけで気が楽になったように思える。
横ではマーティンがぐっすり眠っている。
そやそや、オレは一人やない。マーティンも帰ってきたんやし。
孤独から解放されたダニーは、マーティンにもたれて目を閉じた。
翌朝、マーティンのキスで目が覚めた。
「おはよう、ダニィ」
「ううん・・・もう朝?」
「ん、まだ少し早いけどね」
言いながらマーティンはダニーの体をまさぐる。
お目当てのパーツに触れるとそっとしごき始めた。
「おいおい、ちょっと待てって。おしっこしたい、漏れそうや」
「じゃ、僕も着いて行く!」
ダニーがおしっこするのをじっと眺めながら
ぼさぼさの髪を指でいたずらし、耳を愛撫する。
ダニーがくすぐったさに首を竦めるが、マーティンは止めずに続けた。
もつれ合うようにベッドに飛び込むと、二人はキスを交わした。
舌を絡めたまま、せっかちにお互いのパジャマのボタンを外し素肌を重ねる。
しっとりした滑らかな肌に手を這わせると、二人ともペニスが最大限に勃起しているのがわかった。
「マーティン、好きにしてええで」
ダニーはローションのボトルを渡した。
「僕はダニィのが欲しい」マーティンはボトルを返した。
ダニーはマーティンのアナルと自分のペニスにローションを垂らした。
ピーチの甘ったるい香りに包まれながら、ペニスをアナルに押し当てる。
久しぶりのせいか、括約筋が邪魔をしてなかなか進まない。
「マーティン、力抜いて」
ダニーはキスをしながら指をからめた。
何度も抜き差しをくり返しながら、奥までぐっぽり収めた。
ひくつくアナルが心地よい。少しずつ大きく動くとマーティンが手を握り締めた。
「あぁっ・・そこ、そこすごくいい・・・」
「ん、オレも・・すごい締め付けや・・」
ダニーは小刻みに動かすのを止め、本能のまま突き動かした。
マーティンは大きく喘ぐと射精して濃厚な精液をぶちまけた。
ダニーも我慢することなく中で果てた。
じっとしたまま、容赦なく目を見つめる。
「はぁはぁ・・ダニィ?」
荒い息を吐きながら、きょとんとしたマーティンを見つめ続ける。
青い目が次第に不安そうな影を帯びてきた。
困ったようなマーティンの髪をくしゃっとする。
「何だよ、バカダニィ!」
「いや、かわいいなって思って」
ダニーはニヤっとするとキスをした。帰ってきてくれてありがとう、心の中でそっと呟いた。
ベッドに入ってもダニーは目が冴えて眠れなかった。
バタンバタン寝返りを打つので、アランも目が覚めてしまう。
「ハニー、眠れないのかい?」
「うん」
「ホロウェイの事かな?」
「それもあるけど、トムの事。」
「トムが何か?」
「なぁ、トムがアランの事、好きやったらどうする?」
アランは声をあげて笑った。
「今までキスすらした事ないんだぞ。あり得ないさ。
バカだな、そんな事気にするなんて。こっちへおいで」
ダニーはアランにぴったりとくっついた。
アランはギュっと抱きしめてキスしてくれる。
「安心しておやすみ。僕はどこにも行かないよ」
「うん」
ダニーはやっと安心して、眠りについた。
翌朝、支局へ出勤するとマーティンの姿がなかった。
「サマンサ、マーティンは?」
「胃の検査受けるって電話があったわよ」
ホロウェイめ、ほんまに連れて行く気や。
「俺、聞き込み行ってきます」
ダニーはタクシーで市立病院まで行き、内科待合室でマーティンを待つ。
10時10分前になり、マーティンが走ってきた。息を切らせている。
「お前!10分前やで!」
「遅くなっちゃった!これから受けてくるね。初めてだから怖いな。」
「お前、夜9時までに全部食ったか。朝から何も食ってないか」
「それぐらい知ってるよ!」
「フィッツジェラルドさん、内科診察室へどうぞ」
ダニーは検査が終わるまで待とうとしていた。
するとサングラスをかけたニックが現われた。
「やあ、テイラー、何でお前ここにいるんだよ」
「お前がほんまに連れてきよるか信用できんかったから」
「ふふん、俺だって約束が何たるか位知ってるぜ。お前、もういいから帰れよ」
ニックはしっしっと手でダニーを追い払うまねをした。
「お前!」
殴りかかりそうになったが、自制し、ダニーは手を下ろした。
そこへ、トムがやってきた。
「やぁ、今日がマーティンの胃カメラだったね。
あー、貴方がホロウェイさんですか。ERドクターのトーマス・モナハンです」
ニックはにっこり笑って握手する。
「先日は、マーティンがお世話になったそうで・・」
「医者の務めですからね、飲み過ぎにはご注意ください。」
「ダニー、まだ1時間はかかるから支局に戻った方がいいんじゃないか?」
トムに促されて、仕方なくダニーは支局に戻った。
マーティンは昼過ぎにふらふらしながら現われた。
ボスに呼び止められる。
「辛いんなら、早退してもいいぞ。今日は事件がないからな」
「はぁ、じゃあ、そうさせてもらいます」
マーティンが席にも着かず帰ろうとするのを見取って、ダニーが近寄る。
「お前、一人で家に帰れるか?」
「うん、大丈夫。のどが傷ついたみたいで痛くてさ。あと止血剤のドリンクもらった。家に帰るね」
猫背で帰るマーティンの後姿が小さく見えた。まるで自分から去っていくようだった。
アラン・ショア(男・45歳)
元ERドクターで現在は精神分析医として個人開業中。
冷静沈着かつ天邪鬼な策士。
ダニーとマーティンとは彼らが事件で重傷を負い、ERに運び
こられた時に処置したのが出会い。最初はゲーム感覚で付き合って
いたが次第にダニーの虜になり今は熱愛中。
ダニーと同じヒスパニック系の恋人(男)に裏切られた経験が
トラウマとなっており時折症状に苦しめられる。
独占欲が強く、ダニーを度々お仕置きプレイで泣かせる。
ダニーのために殺し屋に依頼して人を殺した経験あり。
ダニーの失踪事件を解決する等、彼の命を何度も救っている。
ダニーにとっては親代わり以上の存在。
性癖はバイ。時々、女性と浮気をする。
姉ジャネットに頭が上がらない。
「ザ・プラクティス」のアラン・ショアがイメージ
ニック・ホロウェイ(男・36歳)
プロのフォトグラファー。元強度の薬物依存症。
双子の兄(ジョシュ・ホロウェイ)の影の存在で生きてきたが、
マーティンの写真で脚光を浴び、セレブ街道まっしぐら。
ひねくれモノの性格。
マーティンと出会い薬物から足を洗い、現在クリーン。
ダニーを徹底的に敵視し、マーティンを奪おうと画策中。
アランを盗撮ネタでゆすっている最中。
性癖はバイ。セックス依存症。
息子(アンドリュー・18歳)あり。
「LOST」のソーヤーがイメージ
トム(トーマス)・モナハン(男・44歳)
ERドクターでアランの元同僚かつ一番の親友
最近、20年来アランを想い続けてきたことが発覚、ダニーを
苦しめる。
性癖はバイ。
「ER」のダグラス・ロスがイメージ。
ギル(ギルバート)・オニール(男・43歳)
NYきっての大手弁護士事務所のシニアパートナー
アランの親友かつ財産管理人・担当弁護士
結婚していたが、ゲイをカミングアウトしたバツいち。
現在はアシスタントのケン・ヤマギシと交際中。
ケン(ケンイチ)・ヤマギシ(男・28歳?)
インターポール・NY支局の捜査官
東京出身。イエール大学ローススクール卒。
囮捜査でギル・オニールの事務所で弁護士として研修中。
ギルとは本気半分で交際中。ダニー、アラン、マーティンとも
寝ようとする緩い貞操観念の持ち主。
英語の他、フランス語、オランダ語が堪能。
ジュリアン・ヤング(男・40歳)
フリーのエディターでアランの友人
業界コネを利用してCOLDPLAYの楽屋裏へダニーとアランを
招待するなど、イキな計らいをしてくれるサービス精神旺盛なゲイ。
ビル・トレバー(男・?)
NY、パリ、ミラノのコレクションで活躍するファッションデザイナーで、アランの友人
ダニーを度々専属モデルに勧誘して断られている。
典型的なおねえキャラ。
ジャネット・ショア(女・46歳)
マサチューセッツ州地方検事
アラン・ショアの姉。見かけは一卵性双生児のようにそっくり。
アランが恋愛の失敗から薬物中毒になった過去を知り、ダニーに
裏切ったらFBIを辞職させると脅す鬼姉
>>533 さん
あぼーんしている以下のキャラは割愛しました。
・ピーター・ウェイス(バーンズ)
・ジム・バーンズ
・ジェイムズ・ダーシー
ダニーはジュースバーに行き、並んでいるスチュワートを見つけた。
どうするべきか悩んだが、そのまま並び続ける。
気づかれませんように・・・でも気づきますように・・・
祈るような気持ちで人影からこっそり眺める。
フィートグラスを頼んでいるのが聞こえ、ダニーはふふっと忍び笑いをもらした。
あいつ、ほんまに健康オタクや、あんなもん原液で飲むやなんて!
スチュワートが窓際の席に着いたのを目の端で捉えていた。
いつものバナナミルクを受け取り、自分も窓際の席に着いた。
ダニーは気づいていないふりをしながらジュースを飲む。
「やあ、テイラー捜査官。またバナナミルクか?」
声を掛けられたダニーは、驚いたようにスチュワートを見た。内心うれしさが爆発した。
「トロイか、オレはバナナミルクって決めてるんや。そっちは?」
「グラスフィート。すごく体にいいぞ」
スチュワートは手の中のショットグラスを弄びながら答えた。
「ほな、早よ飲めや」
なかなか飲もうとしないので、からかい半分にけしかける。
「バーカ、これは飲む前に心の準備がいるんだ」
「そんなんたったの一口やん。あっという間や」
ダニーに呷られ、スチュワートは一気にグラスフィートを口に入れた。
「んぐっ・・・」
まずさに顔を歪め苦しそうな表情を浮かべると、バナナミルクをひったくった。
「あっ、それ、オレの!」
スチュワートはバナナミルクを飲み干して、一息ついた。
「ごめん、つい・・あー・・ダメだ・・苦くてさ」
ペーパーナプキンで口を拭うと、申し訳なさそうに謝る。
「待っててくれ、買ってくるから」
そう言うと席を立った。
ダニーは、もう一度並んで順番を待つスチュワートを見つめた。
後ろのオヤジとグラスフィートの話をしているようだ。
ダニーに見られているのに気づくと、照れ笑いを浮かべた。
スチュワートの傲慢さの中に見え隠れする繊細さが好きだった。
「はい、待望のバナナミルク」
「サンキュ!ん?お前、まだ飲む気?」
スチュワートもバナナミルクを手にしていた。
「まだ口ん中が苦いんだ。家畜になった気分だ」
「家畜て!でもあれって草やろ?きしょいわ」
ダニーは笑いながらゆっくりと飲んだ。このままずっと話していたかったが、
楽しい時間は瞬く間に過ぎ、二人はジュースバーの前で別れた。
支局に戻っても自然と頬がにやけてくる。
「ちょっとダニー、しっかりしてよ!」
目ざとくサマンサが注意する。
「え?ああ、うん、ごめんごめん」
幸いマーティンはボスに呼ばれて席を外していた。
あかんあかん、ボンに気づかれたらやばい・・・
ダニーはPCに向き合うと、気を引き締めて仕事に取り掛かった。
「マーティン、思ったよりヴィクターの回復が早くてよかったな。退院できてよかった」
「ええ、まあ」
「お前が戻ってきてくれてうれしいよ」
「・・はい、ありがとうございます」
「今夜はお前と過ごしたい。かまわないだろう?」
「え・・あの・・でも・・・」
「勤務が終わったら地下で待ってろ」
ボスはそれだけ言うと書類に戻った。
「あのっ・・ボス、僕と二人でですか?」
卑猥な笑みを浮かべたままジロっと見据える。
「ああ、今夜が楽しみだな。仕事に戻れ」
マーティンは不安そうにオフィスを出たが、また引き返した。
「何だ?まだ何か用なのか?」
「今日は疲れてて・・その・・」
もごもご口ごもるマーティンに、ボスは苛立ちを隠せない。
「もういい、わかった。早く行け!」舌打ちすると追い出した。
あー、危なかった・・・マーティンはへなへなと廊下の壁に寄りかかった。
断りひとつ入れるのにも一苦労な自分が恨めしい。
デスクに戻るとキャビネットからチョコバーを取り出した。
「マーティン、ええもん食べてるな」
「食べる?」
「いらん」
マーティンの携帯が鳴った。ダニーは自分のデスクに戻ると聞き耳を立てる。
どうやらスチュワートと約束をしているらしい。また胸がチクッと痛んだ。
ダニーは勤務を終えると、「ホールフーズマート」で牛乳やチキン、卵を買って、
マーティンのアパートを訪れた。部屋は静まり返っており、ベッドルームを覗くと、
マーティンがふとんにくるまって眠っていた。
キッチンに戻ると、レタスとトマトとチキンを小さく切り、鍋の中に入れ、スープを作った。
具沢山のスープだ。目が覚めてきたら、卵いれよう。
ダニーはマーティンのDVDの中から「スティルス」を選んで見ていた。
女性スティルスパイロットの健康的な色気に思わず、でれっとしていると、
後ろからどつかれた。「うわあー!」前へつんのめるダニー。
起きると、マーティンがコントローラーでDVDを消して、立っていた。
「何や、起きたんかい!」
「もう、よだれ出そうな顔してるんだから」
「そんな事あらへん」
「うそですよ!」
マーティンがダニーめがけて突進してくる。
二人でしばらくじゅうたんの上でじゃれ合った。
「ははは」「へへへ」「こんなん久しぶりやな」「うん!」
嬉しそうに顔を見合わせて笑った。
「そや、スープ作ったから、食べ」
「え、ありがと。でもスープだけ?」
「お前、胃に穴あいてんのやで、養生せにゃあかんやろ」
マーティンはぷうっと膨れた。ニックとつきあっても、子供っぽいところは変わってないのな。
ダニーは、思わずにやにや笑った。
「何笑ってんの?」マーティンはきょとんとした顔をしている。
「ボンはやっぱりボンやな思うてな」
「またどつくよ!」
ダニーはスープに仕上げのとき卵を入れて、ダイニングに出した。
「俺も食おう」二人だけの食事。一体、いつ以来だろう。
「ねぇ、ピザ頼んじゃダメ?こんなんじゃ足りないよう。」
マーティンが音を上げた。
「じゃ、このスープにライス入れたるわ。それで我慢しい」
ダニーは、そう思って買っておいたライスを入れて雑炊にした。
「ねぇ、ビールもシャンパンもいけないんだって」
マーティンは困ったように言った。
「お前、ホロウェイにもちゃんと言うとけよ。食事制限の事」
思わずニックの名前を口に出すダニー。
「うん、でもしばらく会わないと思うし」
思いがけない言葉がマーティンから出る。
「何で?」
「パリで個展開くんだって。準備で忙しいみたいだよ」
「そうか・・・じゃ、その間、俺がお前の栄養士になったろか?」
「本当?僕、自炊出来ないじゃん、すごく困ってたんだよね。いいの?その、アランは?」
「3人で食うてもええやん。そうしな」
マーティンは複雑な気持ちだったが、ダニーと会える喜びに「分かった」と言った。
580 :
fusianasan:2006/03/18(土) 06:25:10
書き手1さん、書き手2さん
人物紹介ありがとうございました。
私も新参者なので、相関図がよくわからなくて・・・
これからも、連載がんばってください。
581 :
B.C.:2006/03/18(土) 07:26:52
書き手2さん、書き手1さんへ
人物紹介ありがとうございました^^
今まで以上にお二方の作品を楽しむことができます。
春からの第2シーズン放送楽しみですね♪
連載がんばってください。応援しております(^^)
582 :
fusianasan:2006/03/18(土) 22:44:04
http://agj.jp/zv ↑とりあえずやってみたけど、
最近よくある騙しじゃないみたい。
会った事は無いけど、約束はしてる。
先週の金曜会うはずだったけど残業で延期・・・
アドレス交換して続いてるメル友は2人いるよ。
大丈夫なんじゃないかな?
他に大丈夫そうなサイトないですか?
ダニーは、もやもやした気持ちを抱えたままマーティンを見送った。
二人はこのままスカッシュに行くらしい。
帰りにデリで夕食を買い、少し食べただけでゴミ箱に突っ込んだ。
そうや!久しぶりに女でも買いに行こう!
思い立つと、車のキーとゴミ箱を手に下に降りた。
ごみ捨てをしていると、エントランスの外にいたボスと出くわした。
「ダニー、ディナーに行かないか?」
「いえ、オレは出かけるんで結構です」
「マーティンのところか?」
ダニーは不愉快そうに首を振った。
「はは〜ん、あいつは医者のところか、なるほど」
ボスはおもしろそうな表情を浮かべた。
「お前もかわいそうになぁ、一人だと辛いだろう」
「そんなん、いいですって」
ボスを無視すると自分の車に乗り込む。
ボスもすかさず後を追って車に乗った。
結局ボスもいっしょに行くことになり、ふて腐れたままブロンクスへ向かった。
「ボス、別々の女を買うんですよね?」
「いいや、今夜は3Pにしよう。私のモノは怪しいんでな」
「オレはどっちか言うたら女二人と3Pしたいねん」
「くくっ、お前も変態だな。貪欲でいい」
ボスはダニーの股間をまさぐりながらにやついた。
オレが変態やったらボスは有害な性的倒錯者やで!ダニーは心の中でつっこんだ。
ダニーはブロンクスの通りで一人の女に目を留めた。
「ボス、あの子は?シャラポワに似ててべっぴんや」
「いや、ロシア人はダメだ。サービスが悪いからな」
オレやったらあの子で決まりやのに・・・諦めて他の女を物色する。
「よし、右端のヒスパニック。あれがいい」
ボスは勝手に決めると、素早く値段の交渉を済ませた。
安モーテルの一室で、並んで立つと交互にペニスを咥えさせる。
ボスの直感は的中し、情熱的にフェラチオをする女にダニーは満足した。
顔はそこそこだが、上目遣いに見つめられると悪い気はしない。
そろそろ入れたくなったダニーは、女をベッドに押し倒した。
ボスはフェラチオさせたまま、女の足首を掴んでいる。
両足全開の淫らなポーズにそそられ、欲情してペニスを突っ込んだ。
ボスは二人の結合部分をにやけながら眺め、ダニーの動きにあわせて腰を振る。
苦しそうに女が喘ぐが容赦はしない。
女の内腿がひくひくと痙攣し、ダニーは絶頂が近いのを知ると動きを早めた。
膣の中までひくひくしてペニスに絡みついてくる。
存分に中の感触を味わいながら射精した。
ボスはダニーがペニスを抜くと、すかさず自分のペニスを挿入した。
イッた直後の膣の中の蠢きを楽しみながら嬲る。
ダニーはコンドームを取ると、さっきのボスのように女の両足を抱え上げる。
さらにクリトリスに手を伸ばすと女は半狂乱になり身を捩じらせた。
ボスはしばらく楽しんでいたが、ペニスを抜くと横たわった。
女はしばらく呆然としていた。ダニーは女にスペイン語で話しかける。
「すごいよかったって言うてますわ」
「そうか、お前もなかなかのテクニシャンだな」
ボスは使ったコンドームをティッシュに丸め込みながらニヤニヤした。
「いや、ボスには敵わないっす」
女は200ドルをもらうとふらふらとモーテルを出た。
「さてと・・ダニー、ちょっと後ろを向け」
ボスは躊躇するダニーのアナルにローションを垂らした。
半勃ち程度のペニスをアナルに押し当てる。
手を添えながら挿入するとゆっくり腰を使い始めた。徐々に硬くなるのがわかる。
「あぁっ・・ボス・・さっきイってなかったので?」
「ああ、私はお前の体がいい。くっ・・んっ久々にイキそうだ・・ああっ!」
ダニーのペニスをしごきながらボスは中に射精した。
チャイナタウンで飲茶を食べて帰ると、すっかり遅くなってしまった。
ボスが泊まりたいと言い出し、渋々了承する。
ダニーがバスタブに浸かっているとボスが入ってきた。
タオルを湯につけて膨らませ、風船だなどと言っている。
ダニーはタオルの風船をギュッと押しつぶした。無数の気泡が出てくる。
ボス、娘とこんなんしてたんやろか?おっさんもオレも寂しいんかな・・・・
「ボス、もう一回作って」
「よしよし、今度はもっと大きいのを作るぞ」
張り切るボスが少しだけかわいく思えた。
ダニーはアランとバブルバスを楽しんでいる最中、マーティンの栄養士を引き受けた件を話した。
「え、ハニー、家で食べるって事か!」
さすがのアランも目を丸くする。
「相手は病人で自炊が出来ない奴やで、人助けだと思って、な、ええやろ?
俺があいつんち行って作ってもええし」
「全くなあ。君は時には残酷な子だ」
「うん?何で?」
アランの言っている意味が分からないダニーだった。
翌日から早速、ダニーは夕飯を3人で食べる事にした。
アランのご機嫌もとろうと、チャイナタウンの「ディムサム・ゴー・ゴー」へ行き、
ヘルシーな広州料理を堪能した。
アランだけ紹興酒をグラスでぐいぐい飲んでいる。
ダニーとマーティンはプーアール茶で我慢し、フカヒレ焼売や、ショウロンポウ、
ハタの蒸し煮、ホタテのクリーム煮、ネギそばを次から次へと平らげた。
「お前、食べる量も加減せいよ」
「だって、お腹すいてたら、デリバリーで取っちゃいそうなんだもん」
「最悪な、お前、自分の身体やで」
二人の兄弟のようなやり取りを肴にアランはさらに紹興酒を飲んだ。
アランの足取りがおぼつかないのを見て、ダニーはボルボを運転し、
マーティンを送って、アパートに戻った。アランに肩を貸し、部屋に入る。
「なぁ、アラン、風呂入る?」
「いや、寝る」
コントレックスを持ってくると、ごくごく喉を鳴らして飲んでいる。
こんなアランを見た事がないダニーには驚きだった。たかが食事やん。ちゃうのかな?
ダニーは、アランの服を脱がせて、パジャマを着せた。
すたすたとベッドルームに行ってしまうアラン。
俺、アランにひどい事してんのかな?
ダニーはブランデーをグラスに注いで、ベランダで夜空を見ながら一人ごちた。
翌朝、アランはダニーより早く目が覚めた。
ベッドに入った記憶がない。隣りでぐっすり寝ているダニーを見つめる。
この子が着替えさせてくれたのか。大人気ない事をしたものだ。僕ともあろう者が。
最近、この子の事になると、我を忘れそうになる。
そうだ、今日は手料理でマーティンを歓待してやろう。
そして自分とダニーの絆の深さを思い知らせてやろう。
ダニーは昼過ぎまで眠っていた。ピタピタと頬を叩いて起こす。
「ハニー、ランチの時間だよ」「え!」
驚いて飛び起きるダニー。
「俺、すっかり眠りこけたわ、ごめん!」
「昨日はすまなかったね」
「俺こそ」
二人はキスをした。
「これで帳消しや!」
「ああ、シャワーしておいで。昼はゴルゴンゾーラチーズのペンネだがいいかい?」
「最高!」
ダニーは、シャワーにすっ飛んで行った。
さぁ、ランチが終わったら、今晩の買い物だ。
アランは気分も新たに、鼻歌を歌いながら、キッチンに戻った。
603 :
fusianasan:2006/03/19(日) 04:15:04
書き手1さん、書き手2さん、人物名鑑GJ!
最初から読んでいる者ですが、初レスです。懐かしい名前(ピーターとか)
も上がっていて、嬉しくなりました。これからも、ダニー、マーティン
だけでなく、サブキャラさんたちの活躍も楽しみにしています。
604 :
fusianasan:2006/03/19(日) 20:43:38
605 :
fusianasan:2006/03/19(日) 22:28:54
agj.jp/zv
↑とりあえずやってみたけど
最近よくある騙しじゃないみたい。
会った事は無いけど、約束はしてる。
先週の金曜会うはずだったけど残業で延期・・・
アドレス交換して続いてるメル友は2人いるよ。
大丈夫なんじゃないかな?
他に大丈夫そうなサイトないですか?
ココ試してみるならコピペしてアドレスバーに貼り付けて下さい。
リンクしちゃうと男性増えすぎてアポ率低くなりそうなんで
面倒ですけどすいません。
agj.jp/zv
>>603 いつも読んでいただきありがとうございます。
人物図鑑がお役に立てたようで嬉しいです。
マーティンは黙ってダニーのアパートへ来た。
近頃のダニーはほんの少しよそよそしい気がする。
どこがどうとは説明できないものの、不信感が拭えないのも事実だった。
また女がいるのかも?自分も他の男と寝ている手前、何も言う権利はない。
勝手だとはわかっているが、それでも気になる。
いつもどおり整頓された部屋に入ると、テーブルの上に新聞紙を乗せたボウルが置いてあった。
何だろう?そっと新聞を持ち上げると、中にあさりが入っていた。
貝殻の中からうにゃ〜と伸びた体に思わず見とれる。
お風呂に入っているようでかわいい。
突っついたりして遊んでいるとダニーが帰ってきた。
「あ、おかえり」
「ただいま。あっお前、悪さしたらあかんで、いじめるなよ」
「これ、何するの?」
「何って、これはオレのペットや」
「えーっ、ペット?!!」
「そうや、アンソニーっていうねん。みんなアンソニーや」
ダニーはマーティンからボウルを取り上げた。
ダニーがキッチンで何かを作っている間、横目でボウルを見ながらTVを見る。
これ取りに来ないけど、本当にペットなの?
でも、そんなのあり得ない。大体、エサは何食べるのさ?
マーティンは訝りながらまたあさりを突っついた。
「・・アンソニー」
こっそり呼ぶとダニーがくすくす笑っていた。
「お前、あほやろ。それ、早よ貸せ」
「僕は知ってたさ、ダニーをからかっただけ!」
マーティンはボウルを持ったまま一緒にキッチンに行った。
「アンソニーはどうなるの?」
「ボンゴレ・ビアンコに生まれ変わるんや」
ダニーは殻をこすり合わせて洗うと、フライパンに入れて白ワインを掛けた。
ボンゴレ・ビアンコ、チキンと野菜のグリルが完成し、二人はテーブルに着いた。
ロッソよりおいしいと言いながら、がっつくマーティン。
ダニーはきんきんに冷やしたソアベを開けた。
「ダニーって赤はあんまり飲まないね」
「う〜ん、そやな。オレは肉より魚のほうが好きやからかな」
ダニーはマーティンのお皿に野菜を取り分けた。
「お前には野菜が必要や、これも食べ。ちょっとはトロイを見習い」
マーティンは嫌そうにパプリカを突き刺しながら口を尖らせた。
バスルームで、二人はいちゃついた。
マーティンはバスタブの縁に座ったダニーのペニスを咥える。
口の中でどんどん大きくなるにつれ、肩に触れた手が抱き寄せるように体を掴む。
「マーティン、もう出そう・・先っぽのとこ強く吸って・・・んっ!」
いつもと変わらないダニーの様子に、自分の不安は杞憂であったと思った。
出した精液が少ないことを知るまでは・・・・
拗ねてバスルームから飛び出したマーティンをダニーは追いかけた。
「急にどうしたん?なぁ、おい?」
「だって・・だって、ダニーが・・・もういいよ!」
「ほなもう勝手にせい!どあほがっ!」
ムカついたダニーは、バスルームに戻るともう一度バスタブに浸かった。
風呂から出てベッドルームに行くと、マーティンの姿はなかった。
また団子になっているのかと思ったが、布団は平らなままだ。
あいつ、何を怒ってるんや?
ダニーには思い当たることがない。ため息を吐くとパジャマに着替えた。
「ホールフーズマート」は、日曜日の午後とあって、混み合っていた。
アランが作った買い物メモどおりにカートに品物を入れていく二人。
すると、ダニーの肩を叩く人物がいた。またサマンサだ!
「こんにちは!お二人さん、新婚カップルみたい」
「やぁサマンサ、久しぶりだね」アランは落ち着いたものだ。
「今日、家にマーティンとダニーを招くものだから、ダニーに買い物を手伝ってもらってるんだよ」
「へぇー、ホームパーティー?」
「良ければ、君もどうだい?」
アランから思いがけない言葉が出た。
「うわぁ楽しそう。だけど、今日、私も例の彼氏のために食事作ってあげなきゃいけないから。
ふふふ、また誘ってくださいね」
サマンサは上機嫌で離れていった。
「例の彼氏ってボスの事かな?」ダニーが尋ねる。
アランもふふふと笑って、「さぁ、次は鮮魚売り場だよ」とカートを押して進んでしまった。
最後にワインセクションに行って、コッポラのダイアモンドシリーズからシャルドネと
メルロー、ジンファンデルを選ぶ。
マーティンには7時半に家に来るように言ってある。
アランは、家に帰るとすぐさまキッチンにこもり、支度を始めた。
「なぁ、そんなに力まなくても、普通の食事でええんちゃう?」
ダニーが尋ねる。
「せっかくの日曜日だろう。僕も作りたいメニューがあってね」
アランは取り合わない。アランが作った買い物リストからは、
ダニーは想像がつかなかった。何やろう、今日のディナー。
俺も楽しみやわ。
「ダニーは今日かけるCDを選んでくれないか。そうだな、COLDPLAYは絶対に入れてくれ」
「ふうん、そう?分かった」
JAMES BLUNTやDANIEL POWTERなど比較的メローなラブソングばかりをチョイスした。
7時20分になり、ブザーが鳴る。
「ハニー、出てくれ」「はい」「ダニー、僕」
マーティンだ。開錠するとほどなくドアがノックされる。
マーティンが寒そうに鼻を赤くして現われた。
やっぱり可愛いな、こいつ。思わず、キスしそうになる。
「寒かったやろ。ワインなら飲めるな?」
「うん、じゃあ、少しだけ」
マーティンはソファーにちょこんと腰掛けた。
何度も来た事がある部屋なのに、ダニーがすっかり場に溶け込んでいるのがショックだった。
CDをかけながら、ダニーとマーティンはテレビでWBCの録画を見ていた。
「なんでこんなにアメリカ弱いんかな」
「全くだよ!メキシコに負けるなんて!」
「さぁ、お待たせ!」
アランの声に、二人はグラスを持ちながらダイニングに移動した。
テーブル狭しと並んでいる料理の数々。見たこともないものばかりだ。
「今日は、ヤリイカと海苔のサラダ、鯛とハマチのサシミ、牛スジの煮込み、
サヨリとカブの蒸し物、それでも腹がすいていたら、日本のヌードルがあるよ」
「すっげー、こんなの見たことないよ!」
マーティンばかりでなく、ダニーも度肝を抜かれていた。
「ダニー、思い出のCOLDPLAYをかけてくれないか」
「うん」ジャケットにメンバーのサイン入りのCDをダイニングに持ってきた。
「ほら、マーティン、見てみい!サイン入りやで」
「うそ!なんで?」
アランが話を引き継ぐ。
「コネで楽屋に入れてもらったんだよ。ダニーなんかコチコチに固まってたな」
「だって、クリス・マーティンと話せたんやで!」
マーティンは思い出していた。一緒に過ごそうと電話したのに、断られた日の事を。
ヤリイカを口に入れる。
「すっげー、柔らかいし、甘い!これ、本当にイカ?」
「ああ、今日は日本流のクッキングだ。油も香辛料も少ないよ。胃にはいいだろう」
続くサシミも牛スジの煮込みも油ぎらぎらのマーティン好きの料理とは全く違う洗練されたものだった。
メインのサヨリの蒸し物に至っては、今までのシーフードの印象をくつがえす料理だった。
「ウドンは食べるかい?」
「俺はもうだめや!」ダニーはお腹をさすりながら断った。
「僕、頂きます」マーティンはすっかりアランの料理に魅せられていた。
そして、自分の自炊能力のなさ加減を痛感していた。
ダニーがワインを飲んでいる間、マーティンはかけウドンを食べ終えた。
アランが片付けに立ち上がると、ダニーもすくっと立ち上がる。
あうんの呼吸だ。まるで夫婦みたい。
マーティンはキッチンで洗い物をする二人をため息交じりに見ていた。
「ハニー、マーティンのところに行ってあげなさい。一人で退屈しているよ」
アランがダニーにキスをする。マーティンは目をそらした。
僕の居場所なんてここにはないよ!
「マーティン、コーヒーはだめやろ、何飲む?ミルクか?」
「僕、まだワイン飲みたい」
「お前、ええんか?明日仕事やで」
「うん、あと寝るだけだしさ」
そう言うと自分でボトルを抱えて、リビングに移動し、一人で酒盛りを始めた。
「おいおい、飲み過ぎんなよ。またER行きはゴメンやからな!」
アランは皿を洗いながら、満足げな笑みを浮かべていた。
>>603 さん
応援ありがとうございます。
サブキャラを上手に動かしていけたらいいなと思っています。
629 :
B.C.:2006/03/20(月) 02:19:15
630 :
fusianasan:2006/03/20(月) 05:38:26
>>629 最初のは再生できなかったけど、二番めのは楽しめました。
シーズン2以降の映像もあるけど、こうやってPVみたいにすると
わからないし。
あのサイトは有名ですよね。ファンフィクはここのスレより激しいのも
あるし。万国共通、ダニー&マーティンは不滅ですね!
631 :
fusianasan:2006/03/20(月) 06:33:24
自分は再生できました。音楽入りだと、二人のラブストーリーみたい。
すごくロマンチックな気分になれました。自宅?で独り言言ってる
ダニーに萌え。早くあのエピを日本で見たいです。
632 :
fusianasan:2006/03/20(月) 12:27:09
支局で会っても、マーティンはそっけないままだった。
挨拶を交わした後は、知らん顔でむしゃむしゃとマフィンにがっついている。
ダニーは気にはなったものの、何も言わずに新聞を広げた。
ふと顔を上げると、マーティンがじとーっとこっちを見ている。
「なぁ、言いたいことあるんやったら言うてみ」
「何もないよ」
「ほなこっち見るな」
「僕がどこを見ようと関係ないじゃない」
ダニーは新聞をデスクに叩きつけると席を立った。
トイレで顔をばしゃばしゃ洗って顔を上げると、後ろにマーティンが立っていた。
「今度は何の用や?」
「別に」
「鬱陶しいな、向こう行け!」
「行かない!」
お互いに睨み合っているとボスが急ぎ足で入ってきた。
漏れそうなのか、おはようと言いながらファスナーを下ろす。
二人はボスに挨拶だけするとそそくさとトイレを出た。
ダニーは勤務が終わるとマーティンを探したが、すでに帰ってしまっていた。
結局何を怒っているのかわからないままだ。
帰りにホテル・エリゼーのモンキーバーへ行った。
きびきびと働いているスタニックの前に座る。
「この前はごめんな。オレ、気が動転してて」
「いいんですよ、気にしてませんから」
スタニックはこの前のことを快く許してくれた。
ダニーは一息つくとドライ・マンハッタンを頼んだ。
ラム酒のアイスクリームの話をしていると、少し離れた席に男が座った。
「マーティン!」
ダニーは驚いてこけそうになった。
マーティンはギムレットをオーダーすると、ぶすっとキャンドルを見つめている。
いらついたときの癖で炎に指を近づけた。
ダニーはマーティンの横に移動した。
「お前のこと、誘おう思て探したんやで。でも先に帰ったみたいやったから」
「そう」
不機嫌なマーティンは、差し出されたギムレットを啜るとスタニックにも一瞥をくれた。
不穏な空気が漂い、スタニックは早々に前から姿を消した。
端のほうで黙々とグラスを磨いている。
あいつにまた悪いことしたな・・・ダニーは申し訳なさでいっぱいになった。
「ここで何か食べるか?」
「いらない」
「ほな、他のとこに行こう」
ダニーはチェックを頼んだ。スタニックはそつなくカードを返す。
「また来るわ」
スタニックは恭しくお辞儀をしたが、少し悲しそうだった。
ダニーはタクシーに乗るとマーティンのアパートに帰った。
「ほな、話してもらおか。何を怒ってるんや?」
「何でもないよ!それよりどこかでディナー食べるんじゃなかったの?」
「そんなぶすっとした顔のもんと食ってもおいしないやろ。早よ言えや」
「僕の目をまっすぐ見られる?」
「見れる、なんぼでも見れるで」
ダニーは青い目をじっと見つめた。
「浮気しといてよくそんな風に見られるもんだ!」
「浮気?何のことや?」
「とぼけないで!嘘ついたってわかってるんだ!」
女買うたん見られた?それかスタニックのこと?
どっちやろ?ダニーの頭はめまぐるしく動く。
「ほらね、やっぱり浮気したんだ!」
躊躇したダニーにマーティンは吼えた。
「ちゃうちゃう、お前の勘違いや」
ダニーはキスをしようとしたが顔を背けられてしまった。
頑なに背けた表情から、こてんぱんに傷ついたのが見て取れる。
体を押さえつけて強引にキスをし、目を見つめた。
「何でそう思うん?言うてくれなわからん、な、そやろ?」
「・・・最近ダニーの態度がよそよそしいし、昨日の精液も少なかった」
ただの勘か、事実は分かってないわけや、よかった・・・
「なんや、そんなことか。一人でしただけや、お前もたまにするやろ」
「じゃ、よそよそしいのはどうなのさ?」
「そんなつもりはないけど・・・」
「絶対にヘンだよ」
「・・そう思われたんなら、妬いてたんちゃうかな・・・お前とトロイに」
ダニーは思わず本音を漏らした。
ぼんやり王子はハッとすると俯いた。
「ごめん・・・僕」
マーティンはそれ以上言葉をつなげずにいる。
「ええっと浮気疑惑も晴れたし、メシ食いに行こう。そやそや、お前の奢りでな」
ダニーは髪をくしゃっとするとほっぺにキスをした。
月曜日、マーティンが昨日のディナーのお礼をいつかしたいと言ってきた。
それを聞いていたサマンサが口を挟む。
「ねぇ、アランの手料理って美味しい?」
「もう、プロも真っ青だよ!ダニーも上手だけど、アランの方が上手いと思う」とマーティンが言った。
「へぇ〜、嫉妬しちゃう。今度習いに行こうかな〜」
ダニーは慌てた。同棲がばれてまう。
「俺も前に習いたいって言うたら、断られたわ。教えるほどの腕はないって本人は言うてる」
「そうなんだ。残念!」
ダニーはランチボックスを持たされていた。
昨日残ったウドンを使ってアランがチキンバジルサラダを作ってくれたのだ。
サマンサがくすくす笑っている。
「何やねん!」ダニーが怒る。
「私も専属シェフが欲しいな。じゃランチ行ってくるね」
マーティンは一瞥をくれたが、だまって外へ出て行った。
ビルを出るやいなや、マーティンはニックに電話をかけた。
「ホロウェイ」
「ニック、僕、マーティン」
「おー、何してる?」
「仕事だよ」
「俺も。今、デザイナーとパリの会場の打ち合わせ」
「今晩、会えない?」
「ちょっと待て」後ろでしゃべる声がする。
「8時なら終わりそうだ」
「家に行ってもいい?」ニックの家に行くことにした。
昨日、寂しくて寂しくて、ベッドの中で涙してしまったマーティンだった。
慰めてくれる暖かい胸が欲しかった。
仕事が定時に終わり、ダニーが「今日はどっか外食しよか?」と誘ってきた。
もう哀れみは受けたくない。何より仲睦まじいダニーとアランをもう見たくない。
マーティンは「ううん、今日はニックと食事なんだ」と胸を張って言った。
「そうなん?会えないんじゃなかったんか?」ダニーは驚いて尋ねる。
「ううん、時間作ってくれたんだ。だから、またね」
ダニーにはマーティンが虚勢を張っているように見えて仕方がなかった。
まぁええわ。俺も帰ろ!ダニーは地下鉄の駅に急いだ。
マーティンはニックの家に近いクラブ「APT」で時間をつぶす事にし、
1階のカウンターでドライ・マティーニを飲んでから、ニックの家に行った。
例によって不機嫌そうにアンドリューが鍵を開ける。
まだいたのか、このガキ! マーティンが苦い顔をしているとニックが奥から出てきた。
久しぶりの再会に思わず、マーティンは駆け寄り抱きついた。
キスを交わす。「おいおい、もうベッドに押し倒す気かよ!」
ニックがえくぼを見せて笑っている。
「会いたかったもん!」
マーティンはニックの逞しい身体を抱きしめながら、頬ずりした。
「胃にいいもん食ってるか?」
「おかげさまで、我慢してる」
「今日は、イタリアンに行くつもりなんだが大丈夫かな」
ニックなりに気を遣っている。
「うん、大丈夫!」
ニックは革ジャンをはおるとアンドリューに一声かけた。
「食事してくるな。お前はデリバリーか何か食ってな」
無言で抵抗を示すアンドリューだったが、お構いなしにニックはマーティンを連れて出かけた。
「アンドリュー、いいの?」
「ああ、俺たち互いに干渉しないのさ」
今日のリストランテは「イル・コーティエ」だ。
相変わらずサングラスを外せないニック。
アンティパスト・ミストと甘エビのリングイネ、ロブスターのラビオリを頼む。
ソアヴェクラシコで乾杯する。
「いつパリに行くの?」
「来週末だ。休み取れるか?」
マーティンは無理やりでも取ろうと決めた。
「うん!」
二人はアッパーイーストの寿司屋に行った。
マーティンは日本酒を飲みながら機嫌よく食べている。
オレが妬いてた相手はトロイやない、マーティンや。
ダニーは横目で見ながら食事中も考えていた。
ま、しゃあないけどな・・・・考えを振り払うように日本酒を呷る。
あさりの酒蒸しを頼むと、マーティンがアンソニーだねと嬉しそうに言った。
ダニーは一瞬何のことかわからなかったが、思い出してニヤリとする。
「お前、何でもよう覚えてるなぁ。恐ろしいわ」
「ん、ダニーのことならね」
「あほやなぁ、その能力を仕事に生かせっちゅーねん」
ケタケタ笑うと二人は杯をカチンと合わせた。
アパートに帰ると二人ともソファにどさっと倒れこんだ。
ダニーは酔ってトロンとした目をしている。
「ダニー、吐かないでよ」
「吐くか、あほ!吐くか、ボケ!」
毒づきながら服を脱ぎ散らかす。
シャツの隙間からのぞく浅黒い肌が頼りなく見えた。
「そういえばさ、ジムに通う約束覚えてる?」
「ああ、そんなこともあったなぁ・・・うん、覚えてるで」
「じゃあさ、来週から行こうよ」
「う〜ん、もうどうでもいいんやけどな」
「だめだよ、鍛えるって約束したじゃない。ほら、ここ、サムにも負けてるよ」
マーティンは二の腕を掴んで挑発した。
強引に約束させたマーティンはダニーの体をいじくり始めた。
腕や胸、腹筋や足をさわりまくる。
「マーティン、もうやめ。こそばいわ」
「どこもかしこもたるんでる。マジでやばいよ」
「全部やない、ここ見てみ」
ダニーはマーティンの手をぐいっと股間に持っていった。
「わっ、訂正するよ、ここだけは別だったね」
「当たり前や、オレはダニー・テイラーやで」
ダニーは誇らしげに勃起したペニスを取り出した。
どす黒い亀頭が卑猥な艶を放っている。
マーティンは思わず口に入れた。
裏筋を舐めたり亀頭を吸ったりしているうちに、ダニーは足をガクガクさせ
そのまま頭を押さえつけると射精した。
マーティンは味わいながら精液を飲み込み、自分も服を脱いだ。
ダニーに後ろを向かせるとローションを塗って挿入する。
イッてぐったりとした体を押さえつけ、肩を掴んで揺さぶるとすごく締まる。
「ダニィ、いいよ、すごく気持ちいい・・・」
耳元でささやいて首筋を軽く噛むと、ダニーが満足そうに手を握った。
イキそうになるにつれ、マーティンも手に力がこもる。
「あぁっ・・もうイク・・」
マーティンは中に出すとダニーの背中に倒れこんだ。
セックスの後の気だるい疲れが心地よい。
バスルームから出ると、髪も乾かさずにベッドにもぐりこんだ。
「明日の朝が楽しみやな」
「ん、きっと爆発したみたいな頭になってるよ」
「お前はそのまま支局に行き。オレの命令や」
「嫌だよ、バカダニィ」
ダニーはニヤニヤしながらマーティンの湿った髪をくしゃくしゃにした。
アランはニックから不可思議なメールを受け取っていた。
「15万ドルの作品をもう一度世に出したい。パリでの展示を承諾してもらえたら、
先般のデータを渡す」あのマーティンのポートレートの事か。
もうマーティンに送付したというのに、所有権を一応認めているわけだ。
ふん、悪い条件じゃないな。アランにとっては渡りに船だった。
「承諾。契約書作成の上貴殿に送付するので署名されたし」
早速、ギルに電話を入れた。
「今日、空いている時間あるか?」
「ちょうどランチならOKだ」ミッドタウンでランチミーティングとなった。
ギルが内容を聞いて、「お前たち何やってんだ?」と呆れ顔で聞いた。
「それじゃあ、そのパリの展示会のみの展示を許可する代償に
データの受け渡しを承諾させる契約書を作ればいいんだな。
明日にはホロウェイに届けさせるよ。それにしてもデータって何だ?」
「それはお前にも言えないよ・・。いつも急な仕事で済まないね」
「それで、ダニーとはうまく行ってるのか?」
「まぁ、まだ暮らし始めて1ヶ月経ってないからなぁ。色々あるさ」アランは苦笑した。
「うらやましいよ。僕とケンはどうなる事やら」ギルも苦笑した。
ギルはケンがマーティンを誘惑した事を知らないのだ。
「またホームパーティーでも開こうか?」
「ああ、ありがたいな」そう言ってギルは去っていった。
アランもワイルドライスサラダを食べ終え、午後の診療のため自宅に戻った。
アランはこんなに簡単にホロウェイが自分の隠し玉を手放すとは思えなかった。
油断がならない奴だが、マーティンの相手をしてくれているのは有難い。
やはり休戦協定を結ぶべきだろうか。
夜になり、ダニーがヘトヘトに疲れて帰ってきた。
右目が眼底出血で真っ赤だ。
「ハニーどうした?」
「もう俺、パソコン作業嫌や!目がしょぼしょぼする」
アランが目薬をさしてやる。
「うわー染みる!」
「我慢しなさい。ウサギ君!」
ダニーは着替えにクローゼットに行った。
「今日はラムチョップだがいいかな?」
「うん。肉が食いたい」
アランは声をあげて笑った。
やっぱり典型的なアメリカ家庭料理が、ダニーは好きなのだ。
マッシュドポテトとインゲン豆のソテーをダイニングに並べ、
ラム肉を焼き始めた。
ワインはダニーが好きなモンダヴィのカベルネ・ソーヴィニオンに決めた。
食事が終わって、二人は一緒にバスにつかり、ベッドに直行した。
セックスがない日が続いているが、二人はそれでも満足だった。
おやすみのディープキスをして、抱き合って眠る。
こんな平穏な日々がいつまで続くだろう。
二人とも心の中でそれぞれ問うていた。
666 :
fusianasan:2006/03/22(水) 15:17:45
667 :
fusianasan:2006/03/22(水) 20:48:27
マーティンは聞き込みの帰りにクリニックに寄った。
ジェニファーにはいつ会ってもぎこちなくなってしまう。
美人だけど気が強そうでいただけない。一番苦手なタイプだ。
「あの、ドクター・バートンいますか?」
「少々お待ちください」
ジェニファーは内線で来客を告げると、診察室へどうぞと言った。
「やあ、マーティン。オレに会いに来たのか?」
「ん、近くまで来たから一緒にランチでもどうかと思って」
「ごめん、今からスタテン島に行くんだ」
「どうしてそんなとこに行くのさ?」
「母に呼ばれたんだ。今日中には帰るよ」
「ふうん、わかった」
「一緒に行くか?君んちと違ってろくでもない親だから恥ずかしいけど」
「僕?いい、行かない。・・・あのさ、その・・なんて紹介するの?」
「う〜ん、オレの恋人かな」
「えっ!」
驚いて絶句するマーティンに、スチュワートは笑い転げる。
「嘘だよ、バカ!けどさ、何なら恋人として紹介してもかまわないぜ」
「そんなの困るよ」
困ったように見上げるとすかさずキスされた。舌がほっぺの内側をくすぐる。
「んんっ・・ぅぅん」
マーティンは抗えずにされるがままだ。
突然ドアをノックする音が響き、二人はすばやく離れた。
入ってきたジェニファーは、頬が紅潮したマーティンをチラッと見た。
焦ったマーティンは俯いて余計に赤くなる。
「ドクター・マーキンソンが急病で来られないそうです。どうします?」
「そうか、じゃあオレが診るよ。マーティン、ランチに行こう」
スチュワートは白衣を脱いでジェニファーに押し付けた。
「もうっ!また押し付けて!」
「そう怒るなよ、一時間で戻るから」
あの二人、どういう関係かしら?
じゃれあうように出て行く二人を、ジェニファーは訝りながら見送った。
近くのあまり混んでないカフェに入り、オーダーを済ませる。
「ねぇ、スタテン島はどうするの?」
「終わってから行くよ。今日中には帰ってこられるさ」
「スチューの家がスタテン島にあるなんて知らなかったよ」
「そりゃそうさ、教えてないんだから。そうだ、遅れるって母に電話しとかないとな」
おかしそうに笑うと携帯を取り出した。
マーティンは母親と親しそうに話す様子を興味深そうに見つめた。
「帰ったら電話するよ、約束だ」
スチュワートはいつものように両手の指をクロスさせた。
少し遅くなったマーティンは急いで支局に戻る。
デスクの上に紙袋が置いてあり、中にターキーサンドが入っていた。
ダニーだよね?そっと窺うとにっこりしながら、早く食べろとジェスチャーしている。
さっきもターキーサンドを食べたばかりだったが、食べないわけにいかない。
マーティンは無理してがっついた。
このところ、ディナーが外食続きでダニーは訝っていた。
アラン、主夫役が嫌になったんとちゃうかなあ。
「ローザ・メキシカーノ」でざくろのマルガリータを飲みながら、
アランに尋ねる。
「なぁ、最近、外食多いやん。いつもアランの奢りで俺、気になってるんやけど」
「何をだい?」
「その・・・食費とか・・」
「バカだな、気にするな、これでも株の運用が好調でね。
外食が増えたのは、患者が急増したからなんだよ」
アランが初めて口にした。
「へぇ、そうなん?」
「ほら、この前、TVのモーニング・ショーに出演しただろう?
あれから新患が急増してね、もうさばききれない。今、2ヶ月待ちだよ」
「へぇ〜!アラン、すごい売れっ子やん!」
ダニーは嬉しくなった。人に自慢したい気持ちだ。
「ドクター・フリーの相談室は続けんの?」
「ああ、あれだけは続けたいな。僕のカウンセリング費用を払えない人も救いたいからね」
ダニーは志の高いアランの発言を聞き、一層、大切な人だと感じた。
「なぁ、新患でべっぴんとかおるやろ?どうなん?その・・身体使った治療方法とか・・」
ダニーは気になる事をついに口にした。
前は、自分にもセックス治療を施したアランだ。
二人の間のセックスが減っているのがずっと気になっていた。
「一日に20人も見ていて、そんな気になると思うか?」
「そやな、ごめん」ダニーは上目使いでマルガリータをすすった。
でも俺、欲求不満やねん。浮気しそうや!ダニーは心の中で叫んでいた。
エンチラーダスとソフトタコス、ジャンバラヤが続々と並ぶ。
「今日は、家に帰ったら、その、久しぶりに・・・しようか?」
アランが口に出した。
「え!じゃ、俺、超特急で食う!」
「ははは!」アランが大笑いした。
言葉通り、口いっぱいにタコスをほおばるダニーを見て、アランはさらに大笑いした。
料理を早々に平らげ、徒歩で家に帰る。
「アラーン、ベッド行こ!」
ダニーはポイポイと衣服を脱ぎ捨て、ベッドルームに向かった。
引き出しからマンゴー・ローションを出す。
アランがベッドルームに入ると、ダニーはすでに自分でペニスに手を添え、屹立させていた。
「そんなに欲しいのかい?」
「うん、すごくすごく欲しい」
ダニーの浅黒い裸体がまぶしかった。
アランも衣服を脱ぎ、ダニーの隣りに横たわる。
ダニーがすかさず布団にもぐり、アランの半立ちのペニスを口に含んだ。
亀頭をぐるっと舐めまわし、ぐいと奥まで咥える。
「あぁ」アランが甘いため息をついた。
自分が気持ちよく高まり、屹立したのを見て、
アランはローションを自分のペニスとダニーのアヌスに塗りたくった。
「今日は僕が入れるよ」
「うん、早う来て。俺、もうイキそうや」
アランはダニーの身体を引き上げ、はりつけの形にして、両足を大きく開き持ち上げた。
浅黒いアヌスが蠢いている。力の限り身を沈めた。ダニーの中は熱くひくついていた。
「うぁー、僕もイキそうだよ!」
ダニーの内ももがピリピリ痙攣を始める。両方の足が弓形を描く。
「一緒にいこ!」ダニーが目を半眼にして夢ごこちの顔を見せる。
「あぁ、食べたいくらい可愛いよ、ダニー!」
そう言うとアランは果てた。ダニーの体の上におおいかぶさる。
アランの熱い精液の流れを身体の中で感じて、
ダニーも「わぁー!」と叫んで、アランの胸に向かって射精した。
【お願い】
・このスレッドのURLを他の板の関連スレッドにコピペするのはやめてください。
二人はマーティンのアパートで『さまよう魂たち』を見ていた。
ダニーはマーティンに怖い映画を見せるのが好きだ。
ぎゅっとしがみついてきたり、びびって顔を覆ったりするのを見るのがおもしろい。
トランクスに手を入れてペニスをしごくとすぐに大きくなった。
「かわいいな、お前。怖いのに勃起しよった」
「やめてよ、怖いのは関係ないじゃない」
嫌がるマーティンをふざけて後ろから抱きしめながらDVDを見る。
「こんなFBI捜査官いないよね、バカにしてるよ!」
マーティンは本気で怒っている。何度見ても同じところで怒り出すのが笑える。
「そんな怒るなって。お前、サイコー!」
くすくす笑いながら体をくっつけていると、マーティンの携帯が鳴った。
「ちょっと、ごめん」
スチュワートからなので席をはずそうとしたが、ダニーは抱きしめたままだ。
「はい」
「あ、オレ。今着いたとこ。どこにいる?」
「家だけどさ、ダニーもいるよ」
「そっか・・渡したいものがあるんだ。行ってもいいか聞いてくれるかな?」
マーティンがダニーに聞くと頷いた。
「いいって」
「それじゃすぐに行くから」
渡したいもの?二人はよくわからないまま画面に戻った。
しばらくするとインターフォンが鳴り、スチュワートが来た。
「やあ、邪魔して悪いな。すぐに帰るから」
スチュワートはダニーに謝った。ダニーは内心まんざらでもない。
「スチュー、おかえり。どうだった?」
「ああ、大したことない。これ、母から」
スチュワートは恥ずかしそうに紙袋を差し出した。少し重い。
「何これ?」
「いいから、開けてみて」
マーティンが開けると、中にアップルパイが入っていた。
まだほんのりと温かくて、甘酸っぱい香りがする。
「わー、おいしそう!食べてもいい?」
「ああ、もちろん。みんなで食べよう」
ダニーに切り分けてもらい、三人はテーブルに着いた。
「うまい!クルミ入りやん。これ、お前のおかんが作ったん?」
「ああ。新しい友達が出来たって話したらさ、急に作り出して参ったよ・・・」
「友達ー?!!」
ダニーもマーティンも思わず吹き出した。
「うるさいっ!からかうなら食うな!フェリーから捨てりゃよかった」
「捨てるて、ひどい息子やな。おかんが聞いたら泣きよるで」
二人はスチュワートをからかいながらアップルパイを食べた。
スチュワートが帰った後、二人はベッドでもたれ合っている。
「やさしいお母さんだよね、スチューのママ」
「そやな」
「僕の母は料理なんかほとんどしなかった・・・」
マーティンがポツンと呟いた。
寂しそうにぼんやりしながらダニーのパジャマの裾をギュッと掴んでいる。
死んでしまっていないのと、いても心が通い合わないのとではどっちがマシやろ?
死んでるほうがまだ諦めがつくかもしれん。
「マーティン・・・」
ダニーは壊れ物を扱うようにやさしく抱きしめた。
「オレが特製のブラウニー焼いたる。オレのはピスタチオが入ってるんや」
マーティンはダニーの思いやりがうれしくて胸に顔をうずめた。
ダニーが出勤すると、マーティンがボスの部屋から出てきたところに出くわした。
「おはよう、朝から呼び出されたか?」
「ううん、僕、有給休暇を取りたいんで、相談してたんだ」
マーティンはそれだけ言うと、デスクのPCに向かった。
有給休暇?そんなん、俺、取った事ないわ。こいつ、大事な用でもあるんやろか?
横目でマーティンを見ながらダニーもPCのスウィッチを入れ、
メールチェックから仕事を始めた。
育児ノイローゼの母親失踪の事件を、チームは追っていた。
自分も一児の母親のヴィヴィアンが精力的に動いている。
ダニーは気持ちを引き締めた。
この前のニュースキャスターの妻の誘拐事件は、ヴィヴィアンとサマンサが解決していた。
ベテランのヴィヴィアンはともかく、サマンサには遅れを取りたくなかった。
ダニーはマーティンと一緒に失踪者の夫に会いに出かけた。
車の中で、それとなくマーティンに尋ねる。
「お前、休暇とれたん?」
「仕事次第かなぁ」マーティンも難しい顔をしている。
「何か用があって?」
「ちょっとパリまで行って来ようかと思ってさ」
「え?パリってテキサス州の?」
「違うよ、フランスのパリだよ。ニックの海外初の展示会があるんだ」
マーティンは前を向いたまま答える。
ダニーは自分でも驚くほどのショックを覚えた。
ホロウェイと一緒なんて許されへん!
聞き込みでは収穫が無かったが、クレジットカードが旅行会社で使われたのをヴィヴィアンが見つけ、
ラガーディア空港に二人は向かった。
購入した航空券の便のゲートで、無事に発見する。
実家に向かう途中だったらしい。ほとんど放心状態だった。
マーティンは安堵した。これで来週、事件がなければパリに行けるよ、僕!
ダニーは複雑な気持ちで支局に車を走らせた。
不謹慎だが事件が長期化すればよかったのにと思っている自分がいた。
アランには言われへんわ、こんな気持ち。
支局に戻ると、ボスが「ご苦労。今日は残業なしだな」と二人の肩をぽんぽん叩く。
ダニーは事件解決を言い訳に、マーティンをディナーに誘った。
ウェスト・ヴィレッジの「コーナー・ビストロ」で名物のビストロ・バーガーを食べながら、
グラスの赤ワインで喉を潤す。
「やっぱり、ここのバーガーは特別だね!」
久しぶりに好きな料理が食べられて、マーティンはご機嫌だった。
一方のダニーは、いつ自分の不快感を話そうか、タイミングを計っていた。
マーティンがバーガーを食べ終わり、デザートメニューを見ている時、意を決して話し出した。
「マーティン、行くなよ、パリ」
「え?どうして?」
「そのな、俺がな、嫌だから・・・」
マーティンは一瞬目を輝かせたように見えたが、次の瞬間、氷のような言葉を投げつけた。
「じゃあ、ダニー、アランと別れてよ」
「・・・・」
「何か言ってよ、ダニー!僕を選ぶって言ってよ!」
ダニーは、ワイングラスを握ったまま下を向き、つぶやくような声で答えた。
「今は、できひんのや、ごめん」
マーティンの執拗な詰問が続く。
「前は99%僕を想ってくれて、あとの1%の余裕が欲しいって言ってたじゃないか。
それなのに何でアランと暮らし始めたんだよ!」
「それは・・お前も知ってるやろ、PTSDの治療のためだって」
「もう信じないよ。ダニーの事、信じられないよ。僕はニックとパリに行く。
止められるもんなら、止めてみろ!」
マーティンは50ドル札を取り出すと丸めて、ダニーめがけて投げつけ、席を立った。
ダニーは心の底から打ちひしがれて店を出た。すると後ろから声がした。
「おい待ちなよ、おかま野郎!」
振り向くと、4人の酔っ払った白人が近寄ってきた。周りをとり囲まれる。
「なんやて、もういっぺん、言うてみろ!」ダニーはにらみながら応戦する。
「何度でも言ってやるさ、おかま野郎!俺らのシマで痴話喧嘩なんかすんじゃねえよ!」
4人がダニーに一斉に殴りかかる。
後ろから羽交い絞めにされ、顔と胴体に強烈なパンチを幾つも食らう。
騒動に気がついた店の従業員が出てきた。
4人は蜘蛛の子を散らすように走り去った。
「大丈夫ですか?」
ダニーはよろよろと立ち上がり、手を振ると「ああ」とだけ言って、くず折れた。
ダニーは早起きして、約束どおりブラウニーを焼いた。
オーブンから取り出すともう一度ベッドに戻る。
ぐっすり眠るマーティンのほっぺにキスをすると眠りについた。
やがて目覚まし時計が鳴り、手探りでアラームを止めようとするが見つからない。
ケタケタ笑う声に目を開けると、マーティンが目覚まし時計を徐々に移動させていた。
「おはよう、ダニィ。目覚ましはここだよ」
「しょうもないいたずらしよって!もうお前には何もやらん!」
ダニーは拗ねたふりをして様子を窺う。
「ごめん、ごめんね。もうしないよ」
困ったように顔を覗き込まれる。
かわいいヤツ、ダニーは思わず押し倒してキスをした。
マーティンはベッドルームから出ると甘い香りに気づいた。
急いでキッチンへ行くとブラウニーが置いてあった。
「あーっ、本当にブラウニー焼いてくれたんだ!」
振り返ってダニーに抱きつく。
「ああ、約束したからな。それ食べていこう」
「ん、ありがと」
二人はカフェオレと一緒に食べ始めた。
おいしいを連発するマーティンに、ダニーの頬は緩む。
あいつ、昔のオレみたいや、ブラウニーぐらいいつでも焼いたるで。
にんまりしながら残った分をラップに包んで冷蔵庫に入れる。
「どわっ、時間がない!遅刻や!」
のんびり食べているうちに、もう家を出る時間になっている。
二人は慌てて支度するとアパートを飛び出した。
遅刻すれすれで支局に着き、早速仕事に取り掛かる。
全速力で走ったダニーはもうすでに疲れていた。
オレ、マジでやばい。もっと体力つけやな年寄りみたいや。
こっそりマーティンを見ると張り切って仕事している。
ダニーはジムに通うことに決めた。
ランチの時、マーティンに本気でジムに行くと告げた。
「いいね、いつから?」
「それはまだ決めてないんやけど」
「じゃあさ、今日から行こう。早いほうがいいよ」
「ええっ、今日から?」
マーティンは勝手に決めてしまった。
ダニーはプールを二往復すると疲れて動けなくなった。
プールサイドからばしゃばしゃ泳ぐマーティンを見つめた。
クロールからターンしてバタフライを泳いでいる。
あいつ、何往復するつもりや?
見られているのに気づいたマーティンが手を振った。苦笑しながら力なく振り返す。
マーティンに手招きされ、もう一度プールに入った。
「ダニー、競争しよう」
「そんなんお前が勝つに決まってるやろ」
「僕は一往復半するからさ、ダニーは一往復でいいよ」
「オレ、ものすごいハンディやな」
「ん、負けたらディナーを奢るんだ、いい?」
「ええよ、やろう!」
二人は並んで立つとせーので飛び込んだ。
さすがに負けることはないだろうと思っていたが、マーティンは随分前にいる。
ターンして戻ってきてすれ違うとき、ニヤリとしたのが見えた。
まだまだ大丈夫や、このままやったら勝てる。
ダニーも必死にクロールしながら追いかけたが、腕も足も何もかもヘトヘトだ。
何とか逃げ切ったがもう食事をする気力もない。
「負けちゃったよ、勝てそうだったのに。あー、おなか空いた!」
屈託なく笑うマーティンに、ダニーは呆れてため息をついた。
二人は近くのビストロに入った。
「お前とトロイ、いつもこんなんしてるんか?」
「ん、そう。スカッシュではイーブンだけど、泳ぎは僕のが強い」
得意げなマーティンに、ダニーは子供っぽい二人を思いくすっと笑った。
がっつくマーティンと違って、ダニーはラビオリとシーフードマリネを持て余している。
「オレはええから、これも食べ」
「サンキュ、ダニー」
泳ぎ疲れたダニーは、眠くて目がトロンとしていた。
チームはボスからダニーが暴漢に襲われ怪我を負った旨を伝えられた。
マーティンは顔から血の気がひくのを感じた。
僕が帰った後、何があったんだろう。
「マーティン、どうかしたか?」
ボスが訝った顔でマーティンを見つめる。
「いえ、びっくりしたもので」ととっさに答えた。
仕事を終えて、すぐにマーティンはダニーの携帯に電話をかけた。
電源が入っていない。仕方なくアランの携帯を鳴らす。
「マーティンですけど、ダニーは?」
「今は寝ているよ。後でかけさせようか?」
「いえ、これから家に行っても構いませんか?」
「ああ、ダニーが寝ていてもよければね」
地下鉄で行くのがもどかしく、フェデラルプラザ前からタクシーに乗る。
アランのアパートに着くと、ダニーがダイニングでジュースを飲んでいた。
胸にまかれているバストバンドに驚くマーティン。
「マーティン、来てくれたんか」頬の腫れが引かず、まだ明瞭にしゃべれない。
「一体何があったんだよ、ダニー!」
「ボスに言ったとおりや。暴漢に襲われてな、多勢に無勢やった。
4対1やからこてんぱんにやられたわ。肋骨3本ガタガタや」
ダニーは自嘲的に答えた。
ショックで身を固くして立ち尽くすマーティンに、アランはダイニングチェアーを勧めた。
「ジュースよりアルコールの方がいいかな?これから夕食なんだが、君さえよければ一緒に食べないか?」
アランさえここにいなければ、ダニーのそばに寄れるのに!もっと詳しく話が聞けるのに!
マーティンはいら立った。
「いえ、様子を見に寄っただけなので、失礼します。ダニー、月曜日は出られる?」
「あぁ、行くわ。電話番位務まるやろ」また自嘲的になるダニー。
「それじゃ、オフィスでね。アラン、帰ります」
アパートから出たものの、まっすぐ家に帰る気がしない。
ふとダニーのアパートに寄りたくなった。タクシーでブルックリンに向かう。
主のいない生気のない部屋に入り、電気をつけた。
冷蔵庫から白ワインを見つけ、飲み始める。
そうだ、何か食べよう。
ダニーが冷蔵庫に貼っているデリバリーメニューから、NYピザを見つけ、オーダーした。
沈黙が寂しさを増長させる。TVをつけて見るとはなしに画面を眺めていた。
ダニーに何があったんだろう。こんな気持ちじゃパリになんか行けないよ。
でも、ダニーのそばには必ずアランがいる。
気持ちが振り子のように行ったり来たりを繰り返していた。
ピザを食べ終わり、白ワインを1本空けたマーティンはここから去れなくなっていた。
ダニーとの思い出が沢山ある部屋。
シャワーを浴び、整頓された棚からバスタオルとバスローブを出す。
マーティン用にダニーが買ってくれたクローゼットからパジャマを取り出すと、
ベッドルームに向かった。
ベッドの上にちょこんと置かれたフラミンゴのぬいぐるみが目に入った。
抱き上げてみると、首からアランという名札をたらしている。
ここにもアランがいる!
マーティンは思わず、フラミンゴの首を引きちぎり、放り投げた。
そして、ダニーの残り香がかすかにするベッドと布団にくるまれて、天井をじっと眺めていた。
ダニーは外回りの最中、立て続けにくしゃみを5連発した。
あぁ、寒い寒い。泳いだせいやろか?・・・ぞくっとしながらココアを啜る。
体のだるさに耐え切れなくなったダニーは、スチュワートのクリニックに予約を入れた。
もう定時を過ぎている。支局には戻らず、タクシーでクリニックに向かう。
「テイラー捜査官、診察室へどうぞ」
ジェニファーが心配そうにしてくれたのが嬉しくて、少しにんまりしながら診察室に入った。
カルテを見ながら顔を上げたスチュワートは、患者がダニーだと気づいた。
「お前かよ、どうしたんだ?」
至近距離で話すのが恥ずかしくて、ダニーはうつむき加減に答える。
「体がだるいんや。なんか熱もあるし・・・」
「どれ、診てみよう」
診察ごとにたびたび洗うためか、赤みを帯びたしっとり冷たい手に触れられ
ひんやりした感触に皮膚が敏感に反応するのがわかる。
体中の神経細胞が目覚めたように興奮が駆け巡った。
「お前、いやらしいな。何ドキドキしてるんだよ、これは診察だぜ?」
「あほ、そんなんちゃうわ!」
「ほら」
スチュワートは首に掛けていた聴診器を渡した。
ダニーは言われなくても自分の鼓動が早いことはわかっている。
それでも苦笑いを浮かべたまま聴診器を胸に当てた。
「ほんまや、ドキドキしてるわ」
「テイラー、このスケベ!」
スチュワートはニヤっとすると診察を続けた。
はい、口開けてと言いながら口の中を覗きこむ。
膝が触れたのと、息がかかるほど接近した恥ずかしさで、ダニーは硬直した。
「軽い風邪だ、たいしたことない。暖かくして寝てりゃ治るさ。一応、処方箋書くからちょっと待ってて」
ダニーはワイシャツのボタンを留めながら礼を言った。
スチュワートは内線でジェニファーを呼んだ。
「ジェニファー、あと何人いる?」
「今日はあと二人で終わりです」
「そう、ありがとう。お前さ、待合室で待ってろよ。オレが送ってやるから」
「ええの?」
「ああ、すぐ終わるからさ」
ダニーは待合室のイスにぐったりと横たわった。
冷たい手が額に触れ、はっと目を覚ます。
待っている間に眠ってしまっていた。
「帰ろうか。歩ける?」
「・・・ん、なんとか」
ダニーはふらふらと立ち上がった。さっきよりも体が重い。
スチュワートは体を支えながら車に乗せた。
ブルックリンのアパートに着くと、部屋まで送ってくれた。
オレンジジュースを飲ませてベッドに寝かせた後、服を脱がされる。
「えっ、あっ・・ちょっ・・トロイ」
「黙ってじっとしてろ」
ダニーはパジャマを着せてもらったが、裸を見られ頬が紅潮した。
「そうそう、薬置いとくからさ、さっきの処方箋は捨てとけよ」
そう言うと、ポケットから薬を取り出しサイドテーブルに置いた。
「他に何かほしいものあるか?」
「オレ・・トロイにキスされたら熱が下がると思う」
「えっ・・・・」
驚いたスチュワートは口がポカンと開いたままだ。
「あー、ごめん。今のは嘘や、嘘!」
ダニーは慌てて取り消すと布団をかぶった。
スチュワートは迷ったものの、ジャケットを脱ぐと隣に横たわった。
「足を貸せ」
「・・・・・・」
「いいから貸せって!」
自分の足の間にダニーの足を挟むとギュッと抱きしめる。
ぼーっとしているとやさしくキスされ、ダニーの意識は吹っ飛んだ。
遠慮がちに絡められる舌の動きに何も考えられない。
おずおずと体に腕を回すとそのまま抱きついた。
土曜日の昼下がり、ダニーはアランに連れられて自分のアパートを訪れた。
郵便物のチェックや様々な請求書の支払いを済ますためだ。
アランの家でも出来るはずなのになぜかここに来ないと、
支払い小切手を振り出す作業が出来ない。
もう何年間もここで繰り返してきたからだろうか。
「ガスやろ、水道、電気・・」一つ一つ声を出して確認するダニー。
声を出してしまうのがダニーの癖だ。
アランはいつもその作業をする姿を見ると、愛おしさがこみあげてくる。
「電話と携帯と家賃!これで終わりや」
ダニーが急に静かになる。小切手を切り始めた証拠だ。
「ランドリーやろうか?」
アランはダイニングテーブルで真剣に小切手にサインするダニーに声をかけた。
「うん、シーツとピローケース洗いたいから、取ってきてくれへん?」
アランは、ベッドルームに入って驚いた。
寝乱れた布団がまくれかえっているし、床にはフラミンゴの首と離れた胴体がころがっている。
アランは、もしやと思い、布団をまくり上げた。
シーツの数箇所にカビカビに渇いた精液の痕跡が残っている。
マーティンか。あいつ、マーキングのつもりか?
フラミンゴのアランの残骸を拾い上げ、ダイニングに戻る。
「ダニー、やられたよ」
「うん?何が?」
目を上げて、アランが手にぶらさげているピンクの布のかたまりに注目する。
「それってまさかフラミンゴのアラン?」
「ああ、猟奇的な事件が起こったようだ。CSIにでも来てもらいたいもんだ」
ダニーはすぐにマーティンの仕業と分かったが何も言わなかった。
俺が怒らせてしまったマーティン。
見舞いに来てくれたのに、ろくに話が出来へんかった。
「俺が縫って直すわ」
ダニーが紙バッグを持ってきて広げる。
フラミンゴを底に横たわらせるアラン。
ベッドルームに戻ってシーツとピローケースをバスルームに運ぶ。
「ダニー、洗剤はどこだい?」
ダニーが痛そうに歩いてくる。
「ええよ、俺やるもん。アラン、自分ちで洗濯なんかした事ないくせに」
アランは、あの汚れたシーツをダニーに見せたくなかった。
急いで、洗濯機の中に汚れ物を突っ込む。
「じゃあ、コーヒーでも入れようか。何かおやつを買って来よう」
「うん、ありがと」
アパートから数ブロック歩いただけで、賑やかな街に出られる。
アランはベーカリーでベリータルトとレモンタルトを買って部屋に戻った。
コーヒーのいい香りが部屋の中いっぱいに広がっていた。
ダニーは、請求書に「PAID」のスタンプをぺったんぺったん押していた。
ダニーに買って来たものを見せると、嬉しそうな顔をする。
「これ、半分こしいへん?」
綺麗に半分にして、皿に盛るダニー。
この幸せも欲しいし、マーティンとも一緒にいたい。
俺ってなんて欲張りな男なんやろ。最低やわ。喧嘩は天罰かも知れん。
ダニーは半分ずつのタルトを食べながら、ぼーっと考えていた。
「ハニー、大丈夫か?」アランの声で我に返る。
「ごめん、考え事してた」
「今日はここに泊まろうか?」
アランが気を遣っているのが分かる。
「ううん、アランんとこ帰ろう。ベッドがここは狭いし」
ダニーは一人でなら、ここにいたかった。
マーティンに電話したい。出来れば会って話したい。
そんな強い気持ちが胸の中を渦巻いていた。
スチュワートはゆっくりとキスをした後、腕枕をして抱きしめた。
ダニーは、目の前の規則正しく上下する喉仏を見つめたまま固まっている。
オレ、トロイとディープキスした!思わず手に力が入る。
「どうした?苦しいのか?」
心配そうに問いかけるグリーンの瞳に声も出ない。
「あ、薬飲んでなかったな。水、取ってくるよ」
腕枕をはずされそうになったダニーは慌てた。
「いらん、このままでいいんや」
スチュワートは呆れたように怪訝な表情を浮かべたが、フッと笑った。
「わかった、薬飲んだらまた腕枕してやるよ」
そう言い残すと、キッチンへ水を取りに行った。
「ほら、水。早く飲め」
錠剤と水を渡され、おとなしく薬を飲む。
「疲れてるみたいだから、眠れば治るさ」
「・・・ん、そやな」
さっきのディープキスが頭をよぎり、目を合わせるのも恥ずかしい。
「それじゃ、えーっと・・さっきの続きしようか」
スチュワートはベッドに入るとそっと抱き寄せた。
ダニーは期待していたが、今度は残念ながらキスはしてくれなかった。
こんなチャンスは二度とないかもしれん、厚い胸板に思いっきり甘えた。
ドクドクと脈打つ鼓動もはっきり聞こえる。
背中に回された腕にぎゅっと抱きしめられ、夢を見ているような気分だ。
薬のせいかものすごく眠い。ダニーは眠りたくなかったが睡魔には抗えなかった。
「トロイ・・・」
「ん?」
「・・おやすみ」
「ああ、おやすみ」
スチュワートは、ダニーが眠ったのを確認するとベッドから出た。
何も食べていないのでおなかがグーグー鳴っている。
冷蔵庫を開けると食材はあるものの、料理が出来ないので意味がない。
あー、腹減った。このバナナもらおう・・・早速、一本もいで食べる。
りんごもあったが病人用に取って置いた。
他にはすぐに食べられそうなものはない。
帰ろうと思い、ベッドルームへ様子を見に行った。
スチュワートはしばらく眠るダニーを見つめていた。
コイツ、オレのことが好きなんだよな・・・いったい、オレのどこがいいんだ?
自分ではまったく見当もつかない。
やれやれと首を振ると静かにドアを閉めた。
このまま帰るのもなんだか気が引け、リビングでミリオンバンブーをいじっていたが
またおなかが鳴り始めたのを機にアパートを出た。
ぐっすり眠るダニーは、スチュワートとセックスしている夢を見ていた。
腕枕されたままキスをされ、そのままパジャマを脱がされる。
細長い指が全身を愛撫して、正常位で挿入された自分が女みたいに喘いでいる夢だ。
はっと目が覚めるともう朝だった。
夢だと分かっていたが、リアルな内容に笑みがこぼれる。
あれっ、昨日のキスも夢か?自分の記憶に自信が持てない。
もやもやしながら天井を見上げていた。
日曜日、アランはずっと書斎にこもりきりで、ネットでの相談に対応していた。
ダニーは、ベッドでまどろんでは起き、またまどろむのを繰り返していた。
昼になり、アランがベッドルームにやって来る。
「ハニー、昼何か食べるだろう?」
ダニーがぼんやりと起きる。
「外行く?」
「痛くないか?」
「アランが家にこもりきりやと、もやしになりそうや」
近くのカフェでランチを取る。
NYにも少しずつ春の訪れが感じられた。
セントラルパークの枝に花をつけた樹木がそれを告げていた。
「今晩は俺がディナー用意するから、期待しといてな」
ダニーがペスカトーレを食べながらアランに話しかける。
「無理するなよ。気分転換になるし、僕が作るから」とダニーを気遣う。
こうやって甘やかされて、俺、アランもマーティンも選べなくなってん。
「俺の面倒みてるお返しさして」
ダニーは言い張って、夕食を作る役を手にした。
買い物を手伝うと固持するアランを追い払い、マスタングでホールフーズマートまで出かける。
駐車場に停めるやいなやマーティンに電話をかけた。
「ダニー、どうしたの?」
びっくり声のマーティンが答える。
「俺な、お前に謝りたくて・・その、パリ旅行な、気をつけて」
「・・・」
電話口の向こうからは何も聞こえない。
「信じてくれへんやろうけど、お前の事大切に思ってる。本当はもっと沢山話したいんやけど、ごめん」
電話を切るダニー。携帯をしまい売り場へと急いだ。
マーティンは、ニックの前だというのに流れる涙が止まらなかった。
ニックは静かにティッシュをマーティンに渡した。
ニックとパリ行きの打ち合わせをしていたのに、頭の中はダニーでいっぱいだった。
その本人から電話があり、旅行承諾の返事をもらうとは。
いまだにダニーに言われた言葉が耳に響いていた。
「またテイラーか・・・お前さ、俺とパリに行きたくないんならいいんだぜ。
俺もこの先どれだけお前といられるか分からないし」
ニックがマーティンの青い目を見ながら言った。
「それ、どういう意味?」
「もしパリの個展が成功したら、引っ越すかもしれない」「え?」
「ヨーロッパは俺を足蹴にした場所さ。今の俺の実力で見返してやりたいんだよ」
「急に・・そんなの嫌だよ!」
マーティンはニックに抱きついた。
「お前だって急に転属が発令されたりするんだろ?人との係わり合いなんてそんなもんさ」
マーティンはニックの心を推し量っていた。
どうして、今、こんな事言うんだろう。
「嫌だよ、僕、ニックとパリに行きたい!もっとニックの事知りたいよ!」
マーティンを抱きしめながら、ニックはにやりと笑った。
「それじゃ決まりだ。二人でパリの奴らを蹴散らそうぜ」
マーティンは耳元で囁かれ、こっくり頷いた。
ダニーの気持ち、よく分かったよ。僕、ニックを選ぶ事にする。
ダニーは丸二日悩んだものの、キスの真偽は謎のままだ。
これ以上悩んでも埒が明かない。本人に会って反応を確かめたくなった。
不意打ちが一番や、顔見たらわかるはずや。
昼休みに予約を入れずにクリニックに行くと、ジェニファーがダニーを見て手を挙げた。
「テイラー捜査官、元気そうでよかった。もう平気?」
「ああ、ありがとう。すっかり元気になったからトロイに礼言いに来たんや」
「トロイって!」
ジェニファーはくすっと笑った。
「トロイ先生ならもうすぐ出てくるわ。お呼びしましょうか?」
「いや、驚かしたいから内緒で頼むわ」
ダニーはウィンクすると待合室のソファに座った。
少し待つとスチュワートが出てきた。
ジェニファーと予約の確認をしている声が聞こえる。
ダニーは新聞をたたむと、後ろから声を掛けた。
「ドクター・バートン」
「はい」
振り向いたスチュワートは一瞬驚いたように見えた。
「やあ、君か。体の具合はどうだ?」
「もうなんともない」
「よかったな、今日はどうしたんだ?」
「この前の礼を言いに来ただけや」
「そんなのいいのに。仕事だからな」
ダニーは目を見つめるが、スチュワートは普段と変わらない。
おかしいなぁ、さっきは反応があったと思たんやけど・・・・
ますます自分の記憶があやふやに思えてきた。
「ちょっと話があるんやけど。その・・内密に」
「ああ、それじゃ診察室で聞こう」
ダニーは後について診察室に入った。
「何だよ、内密な話って」
「お前・・オレとキスしたよな?」
「あ?何を寝ぼけたこと言ってるんだ?」
「え・・・・」
「熱にうかされて夢でも見たんだろう」
スチュワートはニヤリとした。口の端があがってセクシーに見える。
「興味本位なんだが、どんなキス?」
おもしろそうにグリーンの瞳に見つめられ、ダニーは赤くなった。
「・・・ディープキス、その・・舌絡めるやつ」
「今ドキドキしてるだろ?」
「いいや、してない」
「どうだか!本当かどうか胸に聞いてみたいな」
スチュワートはニヤニヤしながらターコイズブルーの聴診器をちらつかせる。
「してへん!」
ダニーは腕にパンチをするとそのままクリニックを出た。
あのキスが夢だと知りショックだった。さらに愚かなことにそれを本人に訊いたことも・・・・
テイラー、最高!おもしろいヤツ!案外、可愛げがあるじゃないか。
スチュワートはダニーが慌てて飛び出した後、診察室でくすくす笑っていた。
マーティンが好きなのはあいつのああいうところ?
そんなことを考えていると携帯が鳴った。マーティンからだ。
「スチュー、今いい?」
「ああ。君のことを考えていたところだ」
「僕の?もうっ、またそんなこと言ってるよー」
マーティンはケタケタ笑っている。二人は今夜会う約束をして電話を切った。
月曜日、ダニーはアランにフェデラルプラザの1ブロック前まで送ってもらい、出勤した。
真っ先にボスに報告する。
「すんません、ボス。ご迷惑かけまして」
「あぁ、今後は大人の振る舞いをする事だ。いつまでも許させると思うな」
「はい、了解っす」
しょげて席に戻ると、サマンサが出勤していた。赤黒く腫れたダニーの顔に驚く。
「ダニー、傷、大丈夫?」
「ああ、また男の勲章が増えたで」
ダニーはおどけて笑った。
マーティンが出勤してきた。ダニーと目を合わそうともしない。
当たり前やな。俺、あいつを傷つけたのやから。
何も事件がなく静かに一日が終わった。
ダニーがマーティンにそれとなく尋ねた。
「飲みにいかへん?」
「僕、忙しいから。それにダニーもそんな姿でバーとか行けないじゃない」
マーティンはPCの電源を落とすとさっさと席を立った。
追いかけようとするダニーだったが、諦めた。
携帯を取り出しアランに電話をかける。
「あぁ、俺。これから帰る」
外出から戻ってきたサマンサが聞いていた。
「ダニーったら、カエルコールしてる!今度の彼女って独占欲強いんだ!」
「そんなんやないって!お先!」
ダニーはアランのアパートに戻った。
アランはまだ診察中らしい。
ソファーを見ると、フラミンゴのアランがちゃんとした姿をして寄りかかっていた。
首が綺麗に縫われているが、手に取ってよく見ると、フランケンシュタインのようだ。
「酷い目に遭わせてごめんな。俺が優柔不断なばっかりにな。どっちにも決められへんのや」
フラミンゴに話しかけていると、アランがカウンセリングルームから出てきた。
「やぁ、留守電、今聞いたよ、おかえり、ハニー」
ダニーは聞かれていないかドキドキした。
唇に優しいキスをくれるアランの様子だと聞かれていないようだ。
「フラミンゴ直したんやね」
「あぁ、メリッサが見つけて、私が縫いますって言ってくれたんだ。
こういう時、メイドは役立つね」
ダニーはいつものアランの口調にほっとした。
「今日、外食せいへん?」
二人は3ブロック歩き「オール・ステイト・カフェ」に寄った。
色々な州の名物料理が揃った店だ。
シーザーズサラダとなまずのフライ、ニューオリンズ名物のガンボをメインに選び、
ミラービールで乾杯する。
「本当は鎮痛剤を飲んでいる君には勧められないんだけどな」アランは苦笑している。
目じりの小じわが彼ももう若くない事を告げていた。
アラン、俺より一回り年上やもんな。ダニーはぼーっと考えていた。
「ハニー、最近考え事している事が多いけど、悩み事でもあるのかい?」
アランは、ダニーがマーティンと自分との狭間で悩んでいる事を重々承知の上で尋ねた。
「最近、仕事がうまくいかへんのや」
ダニーはごまかした。
「スランプか。それはそれは。とりあえず傷を治す事だよ。
そうしたら君の好きな外回りが出来るだろう?」
アランも分かっていないふりをして、ダニーを激励した。
768 :
fusianasan:2006/03/28(火) 09:10:25
書き手1さん
とうとうダニーとマーティンが別れてしまうのでしょうか?
やっぱり二人には一緒になってほしい。
書き手2さん
スチュワート、ダニーに告白されてマンザラではない感じがします。
この三角関係、見ていて微笑ましいです。
二人はスカッシュから戻るとベッドルームに直行した。
お互いの服を脱がせながらベッドに飛び込む。
「わー!」
むにゅっとした感触に、マーティンが叫び声を上げた。
「痛たたた・・・何や、人が寝てんのに!」
Tシャツ姿のダニーが不機嫌そうに体を起こした。顔にシーツの跡がついている。
「ダニーいたんだ・・ごめん、気がつかなかったよ」
「いきなり飛び込むな!お前は犬か!」
ダニーはそこで初めてスチュワートがいるのに気づき狼狽した。
二人のシャツは肌蹴られて乳首が見え、下はトランクスしか身に着けていない。
見事に勃起したテントを目の当たりにし、なんともいえない気まずい沈黙が流れた。
「・・・やあ」
「お、おう」
しどろもどろなまま、ぎこちなく言葉を交わした。
「あ、オレ帰るから、続きやって」
二人をあまり見ないように自分の服をかき集める。
「ダニー・・・」
困ったマーティンは唇を噛んだ。
「オレたち、タルト買ってきたんだ。一緒にどうだ?」
スチュワートが誘った。ダニーが黙っているとマーティンにも誘われ、仕方なく頷いた。
マーティンが紅茶を入れている間、ダニーは熱帯魚にエサをやっていた。
「なぁ、夢の感想は?」
いきなり背後から尋ねられ、ドキッとしながら振り返る。
「とにかく驚いた」
「なるほど。で、したのはキスだけ?」
「・・いや、最後までしてた」
オレ、なんでこんなこと正直に言うてるんや・・・何もかも見透かすような目が怖い。
「お前がそんなんしいひんってわかってるのに、オレはあほや」
自嘲気味につぶやくと手を洗いに行った。
元気がないダニーを、マーティンは時折心配そうに覗きこむ。
凹んでいるのは僕らが寝ようとしてたところを見たからだ、僕って最低・・・・
自分を責めながらタルトを食べていると、うっかりフォークを落としてしまった。
新しいのを取りにキッチンへ行くとスチュワートがついてきた。
「また罪悪感か?」
「えっ・・あ、うん・・ちょっとね・・・」
「あいつ、今夜泊めてやれよ」
「それじゃスチューはどうするのさ?」
「オレ?もちろん泊まるよ。あいつがいても別にかまわないさ」
スチュワートはほっぺにキスをするとジュースを持って先に戻った。
ダニーがバスタブに浸かっていると、マーティンが入ってきた。
横で歯磨きをしながら17年ゼミの話をしている。
こいつ、なんでセミの話やねん?ダニーは思わず笑ってしまった。
マーティンはなぜ笑われているのかわからず、きょとんとしている。
少し気が楽になったダニーは、泡を洗い流すとバスローブを着た。
「ごめんな、お前のデートの邪魔して」
「ううん、僕もごめん。嫌な思いさせたよね」
二人はそっとキスを交わした。
マーティンはきつきつのベッドの中で困惑していた。
くっついて寝るため、両方の足に二人のペニスが当たっている。
「あのさ、今夜は何もしないよね?」
問いかけられた二人は顔を見合わせた。同時にニヤっとすると体を押さえつける。
「わー、なんだよ!」
マーティンはパジャマもトランクスも剥ぎ取られてしまった。勃起したペニスを手で隠す。
スチュワートにマゾだとからかわれ、耳まで赤くなった。
全裸のマーティンを前に、自分たちも服を脱ぐ。
ダニーは首筋を愛撫し、スチュワートはお臍のあたりをくすぐるように舐めた。
両方の乳首を同時に舐められ、マーティンのペニスは先っぽがぬらぬらしている。
アナルはもう入れてほしくてひくひくしているが、二人はわざと他のところを責める。
「・・もうだめ、我慢できないよ」
喘ぐマーティンを見て、ダニーもスチュワートも股間がむずむずしていた。
オレが先や、だって、あいつの大きすぎるもん。
ダニーは四つんばいにさせるとローションを垂らした。
わざとペニスを滑らせて、焦らしながら嬲る。
「んっ・・ぁん・・もー、ダニーの意地悪!」
可哀そうになりひくつくアナルに押し当てると、ぐいぐい蠢き中に呑みこまれた。
「あぁっ、ダニー!」
マーティンは自分から腰を擦りつけた。
スチュワートはマーティンの口にペニスを突き出した。
フェラチオさせながらダニーを見ると、自分を見ているのに気づいた。
マーティンは前も後ろも塞がれて、セックスに夢中だ。
スチュワートは手を伸ばすとダニーの頬に手を添え、ゆっくりとキスをした。
「っ!・・・・」
驚いたダニーは唖然として腰の動きを止めた。
スチュワートは慌てて唇を離すと、振り向かないようマーティンの頭に手を置いた。
ダニーが再び動き出すと、スチュワートはもう一度キスをした。
目を見つめたまま、お互いの舌を絡め合う。
スチュワートとセックスしているような感覚に、ダニーは知らず知らず動きを早めた。
オレ、もうイキそう。我慢できひん・・・・
その時マーティンが射精して動き、ダニーも思わず中に射精した。
ダニーはベッドに横たわりながら、交わる二人を眺めている。
今度はほんまにあいつとディープキスした。
それもあいつからキスしてきよった・・・信じられへん。
絶頂が近いのか、スチュワートは苦しそうな表情を浮かべている。
「マーティン、出すぞ・・・うっ・・」
射精したスチュワートは、荒い息を吐きながらマーティンを抱きしめた。
二人はそのままキスをしている。見ているのが辛いダニーはシャワーを浴びに行った。
マーティンはシャルル・ド・ゴール空港にいた。
ユナイテッド航空の直行便を降りたところだ。
とうとうダニーと話せないままで来ちゃった。
パリ市内までのシャトルバスに乗り込み、流れる外の風景をじっと眺めていた。
ニックが指定したホテル「クリヨン・フォーシーズンズ」はマドレーヌ寺院に程近いパリの中心部にあった。
フロントでチェックインする。
「フィッツジェラルド様、ホロウェイ様から承っております」
フランス語訛りの甘ったるい英語でフロントマンが手続きをしてくれる。
ベルボーイにイニシャル入りのLLビーンのキャリーケースを運ばせ、
案内係がスイートルームまで案内する。
チャイムを鳴らすと、中からナタリーが現われた。
「着いたのね、ニックがお待ちかねよ」
いつもの誘惑するような笑みを浮かべる。
甘い女性の香水の香りにマーティンは思わずむせた。
「よう、来たか、マーティン、待ってたぜ!」
ニックがぎゅっと抱き締めてくれる。懐かしいニックの香りに包まれた。
「今晩は、クラブを借り切ったオープニングパーティーだからな。お前を連れてくぞ」
マーティンは面食らった。
「う、うん、分かったよ」
「腹減ってるか?一階のカフェが結構いけるんだ。何か食おうぜ」
ニックは部屋にナタリーを残して出た。
「ナタリーはいいの?」
「ああ、まだ仕事があるのさ」
二人はカフェに入る。
窓側の席を用意される。テーブルにはキャンドルライト。恋人用の席みたいだ。
「俺が適当に頼むけど、いいか?」
「うん、任せるよ」
ニックは慣れた口ぶりで、ピストゥ・スープとシーフード・プラターにシャブリを頼んだ。
「よく知ってるんだね」
マーティンは驚いていた。
「昔、パリでモデルの仕事してたからな」
「いつ頃?」
「高校卒業後すぐだ。俺、これでもキャットウォークうまいんだぜ」
ニックは片頬で笑った。
「それより、お前、いつまでいられるんだ?」
「明日まで。あさってのフライトで戻らないと」
ニックがマーティンの手を握った。
「来てくれないかと思ってたぜ。ありがとな」
「あらためて言われると恥ずかしいよ」
マーティンは照れ笑いをした。
「お前を薬中にまでした俺なのに、一緒にいてくれてるもんな。
本音を言うとさ、最初は世間知らずのボンボンをからかってるつもりだったんだ。それが・・・」
「それが?」マーティンはきょとんとした顔で聞いていた。
「俺、どうやらお前がいないとだめらしい」
例のえくぼを見せてニックが照れくさそうに笑う。
ニックの急な告白にマーティンの心臓は早鐘のように鼓動した。
「で、でも、こっちに住むかもしれないんでしょ?」
マーティンは上目使いでニックを見る。
「・・・お前がいないんじゃ、パリも虚しいよ」
苦笑いを浮かべながら、ニックがつぶやいた。
>>768 さん
感想ありがとうございます。
ダニーとマーティンは不滅ですwが、紆余曲折の真っ最中。
少しの間ご辛抱くださると嬉しいです。
「なぁ、なんであんなことしたん?」
マーティンがシャワーを浴びている間、ダニーは思い切って聞いた。
「わからない」
「わからんて、そんな・・・」
「本当はさ、お前とキスするのは二度目なんだ」
「え?」
「熱が出た日、あの時キスした。あれは夢じゃない、現実だ」
「だって、お前、昼間は違うって・・」
「あれは、からかったのさ」
ダニーは黙ってベッドに寝転んだ。スチュワートも横に寝転ぶ。
「傷つけたなら謝るよ。すまない」
「・・傷ついたわけやない、ショックやっただけや」
「同じことだ。もうしない、約束するよ」
スチュワートは指をクロスさせた。
「ねぇ、何の約束?」
マーティンが入ってきて横に座った。
「トロイがな、オレらの前でオナニーするんやて」
「バカッ!そんなことするか!」
「今日はもうできひんけど、明日見せてくれるって」
「へー、スチューのオナニーっておもしろそう。なんかさー、ボトルの栓抜くみたいだ」
本気にしたマーティンはケタケタ笑っている。
「マーティン、オレの見たいか?」
「ん、見たい!」
「・・・途中で笑うなよ」
スチュワートは苦笑しながら見せると約束した。
とんでもないことになったとダニーをじとっと見つめる。
ダニーはニヤニヤしながら見つめ返した。
「そうだ、テイラー捜査官にもやってもらおう」
「オレ?そんなん嫌や」
「いいじゃない、見たいよ」
スチュワートの提案にマーティンははしゃぐ。
「オレはしいひんって言うてるやろ!」
「じゃ、オレもしない」
マーティンは口を尖らせた。ダニーも本当はスチュワートのオナニーが見たい。
「わかった、オレもやるわ。ボンのためや、しゃあない」
マーティンはやったーと言いながらダニーに抱きついた。
翌朝、ダニーが朝食を作っていると、いつのまにかスチュワートが立っていた。
「わっ!びっくりしたー」
「ちょっといいか?」
「何?」
「お前の気持ちを弄ぶようなことをして本当に悪かった」
「うん、てっきりオレに気があるって思った」
あちゃー、オレ何言うてるんや・・・ダニーは言った後で後悔した。
「あ・・いや・・・」
スチュワートが戸惑っているのが伝わってくる。
「テイラー・・オレたち、もう会わないほうがよくないか?」
「え・・・」
「オレはあれ以上はできないし、その・・キスだってもうするつもりはないんだ」
「・・・お前がしたいようにしたらいいやん」
ダニーはそのまま後ろを向いた。
頭の中が真っ白で、それ以上何も考えられなかった。
オフィスでも仕事に集中できず、ポカばかりしてしまい、
ボスに呼ばれてこってりしぼられた。
昨日は天国みたいやったのに、今日は生き地獄や・・・・
こてんぱんに打ちのめされてデスクに戻る。大声で叫びたい気分だ。
「ダニー、具合でも悪いの?」
「いいや、なんでもない。なんでもないんや」
マーティンに本当の理由など言えるわけがない。傷ついた顔すら見せられない苛立ちがつのった。
「ボス、マーティンは?」
朝、姿が見えないマーティンを捜して思わず、ダニーがボスのオフィスに顔を出す。
「あぁ、言ってなかったな、今日から4日間休暇だ」
「へぇ、そうすか、どうも」
あいつ、ほんまに行きよった。俺に何も言わずに行きよった。
ダニーはPCの画面を見つめながら、呆然としていた。
たった4日やないかい!ダニーは首をブルブルと横に振ると、猛然と仕事に没入した。
「ダニー、すごい勢い、どうしたんだろ?」
後ろでサマンサがヴィヴィアンと話している。
「お坊ちゃまがいない間に点数稼ごうとしてるんじゃないの?」
何の事件もなく、一日が終わる。ダニーが帰ろうと仕度していると携帯が鳴った。
マーティン!
期待虚しくアランからだった。
「ハニー、残業ありか?」
「ううん、今終わったとこや」
「じゃあ、迎えに行くよ」
ダニーは、今日まっすぐ帰りたくなかった。
もっと言えば、アランと会わずどこかのバーでむしゃくしゃする胸の中をすっきりさせたかった。
フェデラルプラザ正面にアランは車を停めていた。
上半身が自由に動かせないダニーはゆっくりと助手席に乗り込んだ。
「・・・だが、おい、ハニー、聞いてるかい?」
「あ、ごめん。仕事の事考えてた」
「今日はキューバ料理にしようと思ってるんだが、いいかな?」
「ほんま?最高や!」
ノリータの「カフェ・ハバナ」に着く。
ブラックビーンの炊き込みご飯とトルティーヤサンドにグリルド・コーン、
それにコロナビールで食欲を満たす。
「よう見つけたな、こんな小さい店」
40席程の店内は、ダニーと同じエスニックの地元客で一杯だ。
アラン一人が浮いて見える。
「だてに長くNYに住んでないさ」
アランの砂色の瞳がダニーを射る。あかん、心の中を見透かされそうや。
「で、仕事はまだスランプなのかい?」
「あぁ、今日からマーティンが休暇やし、忙しいんやけど、ぱっとしいへんな」
「休暇?」アランの片方の眉が上がった。
「あぁ、あいつ、ニックとパリに行きよった」
この子が落ち込んでいるのはそのせいか。アランは合点がいった。
「ほう、ハネムーンのつもりかな?」
アランの言葉がグサリと胸を突き刺す。
「さぁ、何やろね」コロナをぐいっと飲み干す。
「俺、もっと強いもん飲みたいわ、バーに行こ!」
ソーホーの「エンニャ」へと向かう。
ダニーお気に入りのスパニッシュ・バーだ。
カヴァでぐでんぐでんに酔っ払ったダニーに肩を貸して、アランは家路に着く。
「マーティン、俺のこと嫌いなんや!マーティンのアホ!」
「はいはい。さぁ家だよ。入りなさい」
「アランはどう思う?マーティン、俺の事嫌いになったんかな?」
怒っていたと思ったら今度は泣き声だ。僕に聞くなよ、アランは苦笑した。
「あー、腹が立つ!あいつ、今度会ったらどついたる!うぅ、気持ち悪・・」
そう言うとダニーはトイレにこもり、30分出てこなかった。
アランは水とタオルを用意し、じっと待ち続けた。
ダニーは仕事が終わるとさっさと席を立った。
「ダニー、待ってよ、僕も一緒に・・・」
マーティンの言葉を無視して一人でエレベーターに乗り込む。
マーティンが慌てて追いかけてきたが、目の前で扉を閉めた。
驚いた顔の残像が目の前をちらついたが、今日は関係ない。
支局を出ると猛然と歩き出した。
むちゃくちゃに暴れたい、何もかも忘れたい。
ダニーはジムに行くと、いつかのマーティンのようにがむしゃらに泳いだ。
何往復もするうちに足がつりそうになるが、かまわず続ける。
もうやめようと思った時、とうとう足がつって溺れてしまった。
近くを泳いでいた男性が慌てて助けてくれた。
「大丈夫ですか?」
ゴボゴボと水を飲んで咽せ、返事をしたくても返事ができない。
水を吐き出すと息が楽になり、ようやく声が出た。
「ええ、どうも。助かりました・・・」
ほかの人たちも何事かと自分のほうを見ている。
あー、オレ恥ずかしい、最悪や・・・こんなところで溺れた屈辱で真っ赤になった。
「本当に平気?今日はもう泳がないほうがいい」
心配そうに覗き込まれ、ダニーは逃げ出したくなった。
「そうっすね。今日はもうやめときますわ。ありがとうございました」
ダニーは丁重に礼を言うとそそくさと立ち去った。
スチームサウナで体を温めていると、さっき助けてくれた男が入ってきた。
「あ、さっきはどうも」
「いえ、当然のことですから。足がつるとパニくりますよね」
「ええ、ほんまに死ぬかと思いました」
男はダニーの横に座ると、以前足がつった経験を話し出した。
自分はアーロンだと名乗り、ダニーも名乗って握手を交わした。
マーティンはダニーにエレベーターの扉を閉められ、ショックを受けていた。
ふらふらと支局を出て地下鉄の駅まで歩いていると携帯が鳴った。
「・・はい」
「マーティン、横見て」
マーティンが道路を見るとスチュワートが手を振っていた。
「そんなにぼんやり歩いていると引ったくりに遭うぞ」
「ん、そうだね」
マーティンは車に乗った後もしょげている。
「仕事?テイラー?」
「・・・テイラー」
スチュワートはマーティンの手をそっとつなぐと、ダニーの様子を聞きだした。
オレのせいだ、あいつとキスなんかしたから・・・・
あいつに謝らないと。けど、なんて言えばいいんだ?
思いつかないままマーティンのアパートに着き、誘いを断ってスチュワートは帰っていった。
ダニーはアーロンとジュースバーにいた。
バナナミルクを飲んでいると携帯が鳴った。トロイと出ているが無視する。
何や、あいつ!あいつの声なんか聞きとうない!
乱暴に携帯をポケットに戻すダニーを見て、アーロンは肩を竦めた。
「携帯って便利だけど、融通がきかないから困るな」
「ほんまほんま」
あいつ、なんでオレにキスなんかしたんや!それやのに、もう会わへんとかいうてるし!
ダニーの頭の中は、またスチュワートでいっぱいになっていた。
また携帯が鳴り出したが、ダニーは電源を切ってしまった。
パリ。ニックのパーティーはホテルの裏手にあるクラブ「ブッダ・バー」で夜11時から始まった。
アジア風のインテリアと不似合いなワールド・ミュージックが耳をつんざく。
マリファナとたばこ、人いきれが混じって濃密な空気がよどんでいる。
ニックが入っていくと、カメラのフラッシュの嵐だ。マーティンは思わず後ずさりする。
「おい、マーティン、胸張れ!」
ニックに言われ、顔を上げるマーティン。
VIPラウンジに陣取り、次から次へとインタビュアーの取材を受けるニック。
マーティンは心細くなった。何だか居場所がないよ。ダニー、僕、変なところに来ちゃった。
マーティンがぼんやりしていると、突然、マーティンに向けてフラッシュがたかれた。
「な、何?」
「君が今回の個展の目玉だよね」流暢な英語だ。
「僕、ジュリエール。ニューヨーカー読んだよ」
「え、見たの?」
「君がここに入ってきてすぐに分かった。ニックの秘蔵っ子、いや恋人かな?」
ジュリエールはにっと笑った。
マーティンの頬がかっと火照る。
困ったようにニックを見るが、まだまだ取材陣の山だ。
「ジュリエール、英語が上手だね」マーティンはやっとそれだけ言えた。
「あぁ、留学してたから。で、君の名前は?」
「マーティン」
「もう少し、静かなところで話せないかな、マーティン」
時差ぼけでぼうっとした頭には、確かにここの音楽はうるさすぎた。
「う、うん、分かった」
マーティンはニックにちょっと外に出ると仕草で示した。
うなずくニック。クラブの裏口から外へ出る。
「あぁ、耳が死にそうだった」
そう言ってジュリエールの方を向いた瞬間、マーティンの顔に布が押し当てられた。
クロロフォルム・・
思う間もなくマーティンの意識は漆黒の闇に包まれた。
ニックがマーティンの不在に気がついたのは、それから1時間後だった。
ホテルに先に帰ったかな?
ニックは気に留めず、そのままパーティーの主役として午前2時まで場を盛り上げていた。
最後のゲストがやっと去り、午前3時過ぎにホテルに戻ったが、部屋にはマーティンの姿がない。
フロントにメッセージを確認したが、何も残されていなかった。
ナタリーの部屋に電話する。
「マーティンがいない」
「あの子、パリジャンと出て行ったのを見たわよ。どっかでお楽しみなんじゃないの?」
部屋に戻ってきた形跡はない。が、どう考えてもあのマーティンが火遊びをするとは思えない。
それもパリ到着1日目だ。ニックは胸騒ぎを覚えた。
ダニーの携帯に電話が入った。番号欄には「通知不可能」とある。どっからや?
「はい、テイラー」
「俺、ホロウェイ」
「何や、今パリやろ?」
「マーティンがいなくなった」
「え、何やて?いつ?」
「あー、今から12時間前だ」
「間違いないんか?」「あぁ」
ダニーは頭が真っ白になった。
しかし、プロらしく次々に質問を浴びせ、大体の事情をつかんだ。
ニックの連絡先を聞き、電話を切る。
ボスのオフィスに飛んで入る。
「ボス、大変な事が起きました。マーティンが行方不明です」
「何だって?」
ボスも顔色を変える。ボスにあらましを説明する。
「パリ支局に連絡だ、私とサマンサが現地へ飛ぶ」
「待ってください!俺の方が適任っす。マーティンが行きそうな所に勘が働きますよって」
「お前、肋骨がまだ治っていないだろう」
「行かせてください!」
ボスはしばし考えていたが、ダニーの勢いに圧倒された。
「よし、分かった。それではすぐに支度しろ」
「了解っす!」
ダニーは家に戻り、ガーメントバッグにとりあえずの物を詰めていた。
ばたばたする音を聞きつけ、アランがやってきた。
「ハニー、どうしたんだい?」
「俺、これからパリに行く。マーティンが失踪した」
「はぁ?どういうことだ?」
「分からんから行くんや」
「ハニー、怪我しているのに、行くのか?」
「ああ、俺、行く」
それだけ言うと、ダニーは出て行った。
アランは呆然とダニーを見送った。
ボスと共にシャルル・ド・ゴール空港に降り立つ。
タクシーで取り急ぎニックの泊まる「クリヨン」に急ぐ。
スイートの大きなソファーでニックが頭を抱えて座っていた。
周りにはFBIパリ支局の捜査官2名が座っている。
「俺が悪かったんだ。疲れているあいつをパーティーに引っ張り出して」
初めて見せるニックの弱気な姿にダニーは驚いた。
「ホロウェイさん、NY支局のマローンです。これからテイラーと私が担当します」
パリの捜査官と意見交換をし、マーティンが最後に目撃されたクラブの裏口に行く。
ダニーが落ちていた布を採取する。
「クロロフォルムですわ。あいつ誘拐されたんや」
パスポートは部屋のセーフティーボックスに入れてあった。
一体何が目的だろう。マーティンの身元を知っている者の犯行か?
一同に緊張が走る。
マーティン、マーティン、待ってろ!俺が絶対に見つけ出したる!
週末、マーティンはスチュワートの実家にディナーに招かれた。
スタテン島フェリーに乗ったときからすでに緊張して手が震えている。
「マーティン、大丈夫だ。気を使うような家族じゃない」
「けどさ・・・僕、うまく話せないかもしれない」
「心配ないって。母しかいないんだ、適当でいい」
スチュワートはマーティンの肩をポンとたたいた。
普通のアパートの前に駐車し、マーティンは緊張した面持ちで後に続いた。
スチュワートの母は温かく迎えてくれた。
「マーティン、母のシーラ。母さん、オレの友達のマーティン」
「あ、はじめまして、マーティン・フィッツジェラルドです。本日はお招きありがとうございます」
「ようこそ、マーティン。スチュワートがいつもお世話になっています。今日はゆっくりしていってね」
スチュワートと同じグリーンの目をしたきれいな顔立ちだが、先入観のためか薄幸な雰囲気がした。
ディナーが始まり、マーティンはテーブルに着いた。
自分がさっき渡した花がテーブルに飾られている。細やかな気配りが嬉しかった。
料理はどれもおいしかったが、初めて食べたポテトとアーティチョークのグラタンがすっかり気に入った。
「あれっ、めずらしく野菜を食べてるのか?」
「ん、すごくおいしくて」
「ありがとう、遠慮しないでたくさん食べて」
「はい」
アップルパイのお礼を言ったり、スチュワートの妹一家の近況を聞くうちに
マーティンもすっかり溶け込んでいた。
突然、玄関のドアが乱暴な音をたてて閉まり、荒々しい足音とともにくたびれた男が入ってきた。
以前会ったことがあるスチュワートの父だ。今夜はひどく酔っている。
「久しぶりだな、スチュワート。そっちは・・・」
マーティンは挨拶しようと立ち上がった。
「これはこれはFBI捜査官。こんなところでお会いするとはね」
「こんばんは、バートンさん。お邪魔しています」
「もういいだろ。マーティン、ほっといて座れよ」
苛ついたスチュワートが促した。
「またオレをバカにしやがって!捜査官、あんたの親父は何をやっている?」
単刀直入に聞かれ、マーティンは正直に答えた。
「僕の父はFBIにいます」
「ほう、部署も同じの直属の上司か?」
「いえ・・そういうわけでは・・・」
「うるさいな、マーティンの親父さんはFBIの副長官だよ!あんたとは違う」
「聞いたか、シーラ?副長官だとよ。そりゃたいしたもんだ。
スチュワート、お前にもお偉いさんの知り合いが出来たってわけだ」
「いいから黙れよ!」
「へっ、それでお前も偉くなったつもりか?え?スチュー」
卑屈な笑いを浮かべると、スチュワートを挑発するように嘲笑った。
「あなた、お客様の前でそんな態度はやめてください」
妻に窘められたスチュワートの父は、余計に声を上げてバカ笑いした。
「マーティン、帰ろう。反吐が出そうだ」
気分を害したスチュワートは席を立った。あたふたとマーティンも追いかける。
「スチュー、金を置いていけ!」
後ろから追いかけてくる喚き声から一刻も早く逃れたかった。
「ごめんなさいね、マーティン。こんなことになってしまって・・」
スチュワートの母は申し訳なさそうに謝った。今にも泣き出しそうだ。
「いえ、僕は・・・。あのっ、どれも本当においしかったです」
「ありがとう、お会いできてうれしかったわ。これ、おうちで食べてね」
お菓子の入った紙袋を渡すと、二人にハグをして名残惜しそうにドアを閉めた。
スチュワートはごめんと謝ったきり何も言わない。
フェリーの中でもアパートに着いてからも押し黙っていた。
マーティンはどう声を掛けていいのかわからず、ただ横でじっとしている。
ずっと沈黙が続き、一人になりたいのかと思って立ち上がろうとすると腕を掴まれた。
「スチュワート?」
「どこにも行かないでくれ、頼むから・・・」
ぎゅっと抱きしめられ、マーティンも背中に手を回すと同じくらい強く抱きしめた。
スチュー泣いてるよ・・・・知らないうちに自分も涙がぽろぽろこぼれ落ちた。
マーティンは目を覚ました。手を後ろ手に縛られ、椅子にくくりつけられている。
「ご主人様、目が覚めたようです」ジュリエールの声だ。
「僕に何をした?」自分の声が耳にこだまする。
ジュリエールが嬉しそうに微笑む。
「身体検査。予想していた通り、君の後ろは随分開発されてるじゃないか。
相手はニック・ホロウェイだけじゃないね。
ご主人様に所有されている印を前と後ろにつけさせてもらったよ」
「僕をどうする気だ!」
「ご主人様が君のポートレートをいたく気に入ってね。買おうとしたらもう売約済みだった。
だから本人を連れてくるのが一番だと思ったわけさ。さぁ、君に天国に上ったような想いをさせてあげるよ」
そう言うと、ジュリエールは注射器を取り出し、マーティンの腕に刺した。
「何だよ、これ!」
「エンジェル・ダスト」
「やめろ!」マーティンの声は虚しく響いた。
広い部屋はマーティンの椅子以外、調度品が何もなかった。
ご主人様と呼ばれる人物はカーテンの奥にいるらしい。
ジュリエールは、ヘロインが効いてきたのを確かめ、マーティンの拘束をはずす。
マーティンはぐったり椅子から崩れ落ちた。
次に目が覚めると、全裸にされ、巨大なベッドに一人だけ寝かされていた。
ジュリエールが全裸で現われた。
腰にバンドで巨大なディルドーを装着している。
マーティンは昔の記憶が蘇った。ザンジバル・・・。
自分のペニスを見て驚いた。ダイアモンドのピアスが装着されている。
身体を動かしたいが、だるくて四肢が動かない。
「ふふ。そこだけじゃないよ。後ろには24金のリングをつけさせてもらった。
それじゃあ、ゲームを始めよう」
「やめろ・・僕に触るな」
「威勢だけはいいんだな。楽しみだ」
マーティンは気がついた。自分の局部にヌルヌルしたものが塗られている。
「媚薬だよ。そのうちこれなしじゃいられなくなる」
ジュリエールがディルドーを撫でながら言う。
「うぅ・・」マーティンは身体の芯からほてってくるのを感じた。
アナルの中で、虫が蠢いているようだ。
「あぁー」マーティンの口から思わず甘いため息が出る。
「そろそろ始めるよ」
ジュリエールはマーティンの身体を裏返しにすると、ひざを立たせ、局部がじっくり見られるようにした。
「ふふ、入り口がひくついている。君も欲しいんだろ?」
前戯なしで、突然、大きな物体がマーティンの身体を貫いた。
「ああー!痛いー!」
「まだまだ、これからだ」
ジュリエールはマーティンの腰をつかむと、大きくグラインドさせるように動かした。
「やめてくれ!あぁ!だめだー!」
マーティンは悲鳴とともに果てた。
ジュリエールは止めようとしない。
ひとしきり突っつき回した後、ディルドーをはずし、自らのペニスでマーティンを一突きした。
ディルドーにたがわぬ巨大なペニスの攻撃に、マーティンはまた自分のペニスが立ち上がるのを感じた。
「もう、やめて、お願いだから!」
ジュリエールは嘆願を聞いてさらに力を込め、マーティンを打ち据えた。
「もう、僕、だめー!」
マーティンは射精しながら失神した。
ダニーはいつものように週末の大掃除をしたが、今回は特に念入りだ。
体を動かしていないと、またスチュワートのことを考えてしまう。
何度も携帯に電話がかかってきたが、すべて無視した。
もう会わないほうがいいとまで言われ、気持ちのやり場がなかった。
マーティンのぐちゃぐちゃのクローゼットを整理していると、二人の様子が浮かんでくる。
切なくなったダニーは、クローゼットの扉を閉めるとアパートを出た。
久々に自然史博物館へ行き、ローズ宇宙センターのプラネタリウムを見た。
ここに来ると嫌なことを忘れられる。
ギフトショップでフリーズドライの宇宙食を見つけ、
すっかり忘れていたマーティンをここに連れて行く約束を思い出した。
ここからマーティンのアパートは近い。
あいつ、今からきいひんかな?
携帯に電話してみたが留守電になっている。メッセージを残して電話を切った。
しばらく博物館をうろうろしていたが、電話はかかってこない。
マーティン、たぶんトロイと一緒なんやろ・・・仕方なく諦めて博物館を出たが、
車に乗った途端に携帯が鳴り、マーティンだと思ったダニーは慌てて出た。
「マーティン、オレや」
「・・マーティン?いや、あの、ダニーだよね?」
「そっちは?」
「スタニックだよ。もう電話しないほうがいい?」
「いや、そんなことないで。ごめんな」
ダニーは内心がっかりしたが、なんとか取り繕った。
待ち合わせしたカフェに行くと、スタニックはすでに待っていた。
奥のテーブルで、ひっそりとカプチーノを啜りながら本を読んでいる。
蝋人形のような肌色がうっすらピンクがかって見えた。
「お待たせ」
「あ、ダニー!早かったね」
口に泡をつけたまま、うれしそうに本を閉じる仕草がかわいい。
ダニーがここと泡を指し示すと、恥ずかしそうに口を拭った。
エスプレッソをオーダーして、砂糖を二つ入れる。
「甘いのが好きなんだね」
「ああ、うん、エスプレッソの場合だけや。今日は休みか?」
「うん、たまには休まないとヴァンパイアみたいな生活してるから」
「そやな、日に干したらんとあかんわ、カビが生えるやろ。そや、ドライブしよか?」
スタニックは喜び、二人は飲み終わるとカフェを出た。
ダニーの車に乗ると、スタニックがフラットアイアンビルを見たいと言い出した。
グラマシーには行きたくなかったが、言えずに車を走らせる。
いろいろと話しこむうちに、目的地に到着した。
「アイロンだ!すごい!前から見てみたかったんだ」
ダニーは、フラットアイアンビルに感動したスタニックを何気なく急かし、グラマシーから離れた。
ハドソン・リバー沿いをドライブして、ビストロで食事をしてからアパートに送った。
誘いを断りきれずに中に入ると、いきなり抱きつかれた。
「ダニー、今夜は一緒にいたい。抱いて」
「ごめんな、オレ、あかんねん。浮気できひん」
「ダニーの彼、この前バーに来た人だよね?確か、マーティンだっけ?」
「うん」
「・・あの人、他の人とも付き合ってる。この前違う人と来ていちゃついてたよ」
「うん、それも知ってる」
「だったらどうして!どうしてさ!」
スタニックは熱のこもった目でダニーを見つめた。
「それでもいいんや」
「バカだよ!」
胸に顔をうずめて小刻みに震えるスタニックの体をそっと抱きしめる。
自分のと同じような薄っぺらな体が頼りない。ダニーはほっぺにキスをした。
「・・ダニー?」
見上げるスタニックに頷くとベッドルームに行き、そっと押し倒した。
シトラスの香りがするパリッとしたシーツは、丁寧な暮らしぶりを窺わせる。
ゆっくり服を脱がせると滑らかな肌に舌を這わせた。
蝋人形のようなゲルマン系の肌は、吸いつくように敏感に反応した。
アナルにローションを垂らして適当に指で嬲り、
スチュワートを忘れるために何度も突き上げた。
スタニックが泣きそうになっているのに気づいて動きを止める。
「ごめん、痛かったか?」
「ううん、ダニーのがすごくいいから」
ダニーは素直な言い方がいじらしくて、キスをしながら腰を振った。
スタニックは大きく仰け反ると射精し、ダニーはひくつくアナルを楽しんでから果てた。
うとうとしていると携帯が鳴った。マーティンからだ。
「悪いけど、電話に出るから黙っててな。音立てたらあかんで」
スタニックに頼んでから電話に出た。
「ダニー、僕。メッセージ聞いたよ」
「そうか、今日はもう遅いからまた今度行こな」
「ん、絶対に連れて行ってね、約束だよ」
スタニックが乳首にいたずらしているのがくすぐったい。ダニーはぐっと手を掴んだ。
「マーティン、今運転中やねん。後で行くわ」
「ごめん・・・僕、今夜は帰れないと思う」
「なんでや?」
「スチューがね、へこんでてさ、地獄の釜で焼かれてるみたいなんだ」
「ん?なんやそれ、ようわからん例えやな。どうしたんや?」
「理由は言えないけどさ・・ごめんね、また明日」
電話を切ったあと、ダニーは大きくため息をついた。
地獄の釜って何のことや?オレも今すぐあいつらに会いたい・・・・
ぼんやりするダニーにスタニックはもたれかかる。
「そんなに好きなんだ?」
「ああ」
スタニックがいきなりダニーにキスをした。自分も好きだとすがりつく。
「お前のこと嫌いやない。けどな、オレあかんねん。ほんまにごめんな」
胸にしがみつかれて困ったダニーは、あやすように背中を抱きながらやんわりなだめた。
失踪から4日後、パリから遠く離れたマルセイユ港のゴミ箱の中で、マーティンは発見された。
アメリカ大使館からの知らせで、急いでマルセイユに急行する。
折りしもフランス全土に広がるストライキのせいで交通手段がない。
パリ支局に依頼して、ヘリコプターを用意してもらう。
収容されている病院でマーティンの姿を見て、ボスとダニーは息をのんだ。
無精ひげで目はうつろ、身体を前後に揺らしてベッドに座っている。
一足先に来ていた大使館員が「名前とFBIとだけ言った他は何もしゃべりません」と説明する。
ダニーが駆け寄って、マーティンの腕をまくってみる。
ヘロインの注射のあとが青アザになっていた。
この4日間、どこでどんな目に遭うてたんやろ。
ダニーは、周りに人がいるのも構わず、涙を流した。
「ごめん、マーティン。ごめんな、お前を救えんかった!」
そう言うとマーティンの身体を抱きしめた。
するとマーティンは突然「うわー!」と叫んで、ダニーを突き飛ばした。
「マーティン・・」呆然とするダニー。
ボスは処置をした医師から検査の結果を聞いていた。
ボスの顔が青ざめた。処置室に戻り「長居は無用だ、ダニー、マーティンを連れて帰ろう」とだけ言う。
ダニーとボスがマーティンの身体を支え、車に乗せた。
ダニーは「クリヨン」に戻り、ニックにマーティン発見を告げた。
「俺も会いたい」
ニックが真剣な顔でダニーに懇願する。
「今は無理や、NYに戻ってからにしてくれへんか」
ダニーはマーティンの荷作りをすると、パリ支局にいるボスとマーティンに合流した。
NY直行便の中で、マーティンは昏々と眠っていた。
目の下にはくっきりクマが浮き出て、無精ひげと相まって、病人そのものだ。
ダニーはマーティンの手をずっと握り締めていた。
JFK空港には、ヴィヴィアンとサマンサが迎えに来ていた。
車椅子で出てきたマーティンの姿にぎょっとする。
「ボス・・・」ヴィヴィアンの言葉を制し、ボスは車にマーティンを乗せる。
「これから病院に行く。ダニー、お前も来てくれ。ヴィヴ、サム、済まないがタクシーで支局に戻ってくれ」
市立病院に着くと、トムが神妙な面持ちで入り口に立っていた。
ERの一番奥の処置室に通される。
マーティンの車椅子を押して、ダニーも一緒に入室する。
「ドクター・オニール、極度の心身衰弱と栄養失調、その他に気になる外傷があります」
ボスが冷静さを装って説明している。
「全身に鞭の跡、局部へのピアスが2箇所。前と後ろです」
「な、何?」
ダニーも顔色を失った。
「とにかく診察しましょう。お二人はもうお帰りください。何かありましたら、電話します」
トムも緊張した面持ちでマーティンの方に向かった。
ダニーは叫び出したい気持ちだった。
俺のマーティン、俺のマーティン!!
〔お願い〕
・本スレのURLを他の関連スレに貼らないでください。
ダニーは、そのままスタニックのアパートに泊まった。
静かに眠っているスタニックの頬をそっと撫でる。
こっそり帰ろうとするとスタニックが目を覚ました。
「・・ダニー?」
「あ、えーっと、トイレや。寝とき」
どうしよ、帰れん・・・ため息混じりにトイレで用を足す。
仕方なくもう一度ベッドに戻った。
「昨夜はわがまま言ってごめん。困らせたね」
スタニックはうつぶせに寝たまま謝った。しおらしい表情が胸を打つ。
「いいんや、謝ることなんかない。オレのほうこそ配慮が足りんかった」
「じゃあ、おあいこだ」
スタニックは寂しそうに微笑むとダニーを見つめた。
「・・・二度と会わないなんて言わないでね」
ダニーは困ったが、真剣な表情から目をそらせず頷いた。
結局、日曜日の深夜になってもマーティンから連絡はなかった。
ダニーはバスルームから出ると、頭をごしごし乱暴に拭きながらTVを眺めた。
退屈なTV番組を見る気にもなれず、虚しさを抱えたままベッドに入る。
トロイに何があったんや?またあのおばはんか?それにスタニックのことも気になる。
考えるのにも疲れ、いつものように灯りを消して真っ暗にすると目を閉じた。
支局でベーグルサンドを食べていると、息を切らしたマーティンが入ってきた。
「はぁっはぁっ・・おはよう・・」
「おはよう。お前、大丈夫か?」
マーティンは頷くとデスクに置いた紙袋を開き、中からマフィンを取り出した。
「あれ?これ、クランベリーだ。チョコじゃない」
真剣な顔でつぶやいている。サマンサが思わず吹きだした。
「クランベリーもおいしいわよ。はじけててかわいいし」
「ん、でも酸っぱいんだよね、これ」
「マーティン、オレのと換えたろか?」
「ダニー、それ手をつけてるじゃないの。マーティンはそんなの食べないって!」
サマンサが呆れてダニーを止めた。
あちゃー、危ないとこやった。あかんあかん、うっかりしてた。
コミカルに目を剥いたダニーを見て、マーティンはこっそり笑った。
二人は勤務が終わると食事をして帰った。
会えなかった週末を埋めるように、抱き合うと長いキスをする。
ダニーは、申し訳なさそうに謝るマーティンの右目のまぶたにキスをした。
マーティンはここにキスされるのが好きだ。愛されていると実感できる。
「ダニィ、こっちもして」
とびっきりのかわいい顔で甘えられて本当は嬉しいのに、
しゃあないなぁと面倒そうに左のまぶたにもそっとキスをした。
「汗くさい」
「え?何?」
「お前、めっちゃ汗くさい!」
「えー・・・朝、支局まで走ったせいかなぁ?」
マーティンは恥ずかしそうにうつむいた。
「そんなん気にすんな、とにかく風呂入ろう」
ダニーは髪をくしゃっとすると、お湯を張りに行った。
ダニーはバブルバスに浸かりながら、マーティンの乳首をもてあそんでいる。
スチュワートに抱かれている体だと思うと急に憎らしくなり、ぎゅっと抓った。
「痛いっ!僕はマゾじゃないよ!」
「ごめん、ちょっと手が滑った」
よほど痛かったのか、マーティンは乳首を擦っている。
ダニーは嫉妬して意地悪したことを反省した。
マーティンが水を飲んでいるとダニーの携帯が鳴った。
ダニーは歯磨きをしている。手にとって見ると着信表示にスタニックとある。
「あ、オレの携帯?」
「ん、スタニックだって」
戻ってきたダニーに手渡すが、ダニーは携帯を無視するとマーティンのグラスを取った。
「出ないの?」
「ああ」
「スタニックって変わった名前だね」
「そやな、フランス人のクオーターやて」
「・・女の人?」
男の名前だろうとは思ったが、マーティンは恐る恐る訊ねる。
「いや、男。オレの連れや」
ダニーは事も無げに言うと水を飲み干した。
ダニーが男と浮気しているとは夢にも思わないマーティンは、
電話の相手が男だと知り、安心していた。
ダニーに浮気の気配はないが、本当はクリニックのジェニファーと怪しいと思っている。
「どうしたん?」
「ううん、なんでもない。あのさ、くっついて寝てもいい?」
「あかん。お前の体、熱いもん」
がっかりしたマーティンの耳元で、ダニーは嘘やとささやく。
二人はせーのでベッドルームまで競争し、同時にベッドにダイビングした。
マーティンの全身に刻まれた鞭の跡、局部の裂傷は少しずつ回復しつつあった。
幸い薬物中毒にUターンする事はないようだ。
しかし、心に深く刻まれた傷が癒えるのは当分先のように思われた。
ダニーは胸が張り裂けそうだった。
タイムマシーンがあったら、時間をパリに行く前に戻したい!俺、死ぬ気で止めたのに。
退院が決まった日、ダニーはアランにおずおず告げた。
「アラン、俺、マーティンの世話したい。マーティンちに泊まってもええか?」
アランはじっと考えた。この子とマーティンの絆を断ち切る事はやっぱり無理なのか?
それならば、そこに自分が介在する場所を作ろう。
「それよりいい考えがある。空き部屋にレンタルベッドを入れよう。
僕だって外科のライセンスを持った医者だよ。一通りの手当ては出来る」
「そんな・・・ええの?」ダニーは驚いた。
「もちろんだとも」
ダニーは一瞬逡巡したものの、アランの本心を知るよしもなく、申し出を受け入れた。
ダニーはボルボでマーティンを迎えに行く。
マーティンは塞ぎこんだままだった。
「ダニィ・・・どこ行くの?」
「うちや。これから毎日、俺が看病したる。もうお前をこんな目に合わせへんからな」
「・・・アラン、一緒でしょ」
「アランは医者やで。信用しい」
「僕、嫌だ。家に帰る」
「お前、一人じゃ何も出来へんやろ。人の好意に甘えろや」
話しているうちにアランのアパートに着いた。
「ええか?」ダニーが念を押す。
マーティンは諦めたように「もう、どうでもいいよ」とだけ言った。
マーティンの身体を支え、ダニーがアパートに戻った。
「部屋の用意は出来ているよ」アランがなごやかに言った。
憔悴しきったマーティンの姿をじっと眺めている。
「ん、じゃあベッドに運ぶわ、俺」
「僕がやろう」アランがダニーに変わってマーティンの身体を支えて歩かせる。
「僕、死んだ方が良かった」ぽつんとマーティンがつぶやいた。
これは相当なショックを受けたな。PTSDの方が厄介だ。
アランは「何を言う。大好きなダニーが悲しむよ。ゆっくり養生する事だ。存分に甘えてくれ」と
マーティンの背中をさすりながら言い聞かせた。
荷物を置いたダニーが追いかける。
部屋は豪華なホテルの一室のようだった。
ベッドサイドにはTVやDVDプレーヤー、CDプレーヤー、雑誌が置いてある。
窓辺には観葉植物が飾られていた。
「足りないものがあったら言ってくれ、マーティン」
「僕、眠りたい」
「あぁそうだね。水はいるかい?」
「いいです」ダニーはマーティンの着替えを手伝った。
身体中の傷にさすがのアランも息を飲む。
マーティンはベッドに入り、身体を丸くして布団にくるまった。
ダニーは、ベッドサイドテーブルにミネラル・ウォーターを入れた水差しとコップを置いた。
布団の上から抱きしめてキスをする。
「マーティン、ごめんな、ごめんな。もう絶対にこんな事起きへんようにしたる。俺がお前を守る」
泣きながら謝罪の言葉を繰り返すダニーの後ろ姿を静かに見つめるアランだった。
マーティンが帰り支度をしているとボスが話しかけてきた。
「マーティン、すぐに行くから地下で待ってろ」
不安そうにマーティンはボスの顔をちらっと見やる。
「心配ない、いいな?」
「・・はい」
僕、ダニーを待ってたんだけどな・・・・
仕方なくブリーフケースを掴むとエレベーターに乗った。
待っているとすぐにボスが来た。
いつになく機嫌がいい。マーティンは余計に不安になった。
「ボス、どこに行くんですか?」
「着くまでのお楽しみだ。今日はいいところに連れて行ってやる」
ふふんと鼻歌を歌うボス。これ以上怖ろしいことはない。
マーティンはびくびくしながら窓の外を眺めた。
「さあ、着いたぞ。行こうか」
ボスはマーティンを促した。
ふと見ると入り口にミイラが立っている。
ジキル&ハイドクラブ?何だろう?
「この前、子供たちと来たんだが、お前が喜ぶと思って」
「ええ、こんなの初めてです」
ボスは嬉しそうにマーティンを連れて中に入った。
お化け屋敷のようなレストランに、マーティンは驚きながらも楽しんだ。
リブロースとカーリーポテトを運んできたフランケンや、
合間の変身ショーに歓声を上げる。
「ボス、ここって最高!」
「そうか、よかったな」
ボスは満足そうに試験管ビールを飲んだ。
二人が帰ろうとすると、モンスターと記念撮影をしているカップルがいた。
マーティンも今度はダニーとデジカメ持参で来ようと思い、
撮影風景を眺めていたが、カップルがサマンサとジェフリーだと気づき慌てた。
ボスが気づきませんように・・・祈るような気持ちで横をすり抜ける。
「マーティンじゃない!あら、ボス?」
気づいたサマンサが声を掛けてきた。
ジェフリーを紹介されたボスは、表面上は穏やかさを保っている。
サマンサ・・・なんで声なんか掛けるんだよ!地雷踏んだの、わからない?
マーティンはジェフリーと挨拶を交わしながら心の中で毒づいた。
サマンサの得意満面な笑みが残忍さを帯びている。仕返しとしか思えない。
「それでは、我々はこれで。どうぞごゆっくり」
ボスは握手を交わして後ろを向いた途端、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「何だ、あの脂下がった男は!まったく、いけすかん!」
ボスは乱暴に車線変更をしながら速度を上げた。
「ねー、ちょっと危ないよ。落ち着いて」
「うるさいっ!」
尋常ではない運転に、マーティンは気が気でない。
自然と右足があるはずもないブレーキを探していた。
目の前に前車が迫ってきた。
このままじゃ事故っちゃう・・・思わずボスの股間に手をやった。
「マーティン?」
「あのさ、ゆっくり帰ろうよ。ね?」
「そうだな」
ボスはにんまりしながら速度を落とした。
無事にアパートに着くなり、ボスはマーティンをベッドに押し倒した。
しばらくいたぶっていたが、自分のモノが勃起しないのに業を煮やしている。
ハラハラしながら様子を見ていたマーティンは、アナルに強い痒みを感じて声を上げた。
「わー痒いよっ!何塗ったの?」
「お前のお気に入りの媚薬だ。まあ、楽しめ!」
ボスは中指を浅く挿入するとニヤニヤしながら出し入れをくり返した。
マーティンの携帯が鳴り、ボスは出ろと命令した。
相手はスチュワートだ。ボスとの関係を絶対に知られたくない。
「僕、出たくありません」
ボスは携帯を取り上げると、勝手に出て黙ったままマーティンに突き出した。
「マーティン?あれ、おかしいな」
スチュワートの声が聞こえてくる。ボスは話すように合図した。
「スチュー・・・」
ボスは満足そうにほくそ笑むと、嬲るように中指を動かした。
「んっ・・ああ、うん、聞い・てるよ・・」
「どうしたんだ?様子がおかしいぞ」
「ううんっ・な、何でもないよ・・ひっぁん」
「マーティン?」
「んっんん・・・ああっ!」
とうとうマーティンは精液をぶちまけた。
スチュワートはそのまま黙って電話を切ってしまった。
「ボス、ひどいよ!バカっ!」
スチューに嫌われた・・・もうダメだ・・マーティンは泣きながらバスルームに走っていった。
2週間が立ち、マーティンは自分のアパートに戻っていった。
ダニーは昨日までマーティンがいた部屋に入った。
ベッドもTVも全て無くなってがらんとしている。何より、マーティンの不在が悲しかった。
気がつくとアランが後ろに立っていた。
「寂しいかい?」
「うん」ダニーは素直に頷いた。
「それじゃ、マーティンのアパートに行っておいでよ」
「ええの?」「ああ」
ダニーはさっさと着替えると、マスタングでマーティンのアパートへ向かった。
ドアマンのジョンに軽く挨拶し、合鍵で部屋に入る。
リビングには誰もいなかった。
食事にでも行ったんやろか?
ダニーがバスルームへ向かおうとした時、ベッドルームからマーティンのうなる声が聞こえてきた。
「マーティン!」
ドアを開けると、ベッドの中でニックがマーティンを抱きしめていた。二人とも裸だ。
「テイラー!」
「マーティン、大丈夫か!」
「テイラー、お願いだから今はそっとしておいてくれ」
ニックにそう言われ、すごすごと家路に着く。
「ハニー、早いね、マーティンは?」アランが尋ねる。
「ニックが・・ベッドでマーティン抱きしめてた」
そう言うと、思わず涙が両方の目から溢れる。
アランはそんなダニーを優しく抱きしめた。
「さぁ、今日は気分を変えて外食しよう」
ダニーはアランに連れられて、トラットリア「ポモドーロ」に行った。
ダニーがメニューを見ようとしないので、アランが適当にオーダーする。
ワインが運ばれてくると、ダニーはたて続けに3杯飲み干した。
「おい、ピッチが早すぎるぞ」
「だまって飲ませてくれへん?俺、めちゃ落ち込んでるねん」
この子の素直さは時に残酷だ。アランは苦笑いした。
ダニーは気がついていない。
前菜のトリッパ(牛の胃袋)と豆のトマト煮込みとパルマ生ハムの盛り合わせが来ると、
アランが綺麗に取り分ける。ダニーはワインをぐいぐい飲み続けている。
カポナータソースのリングイネに続き、ズッパディ・ペッシェ(魚介鍋)が来る頃には、
ダニーはすっかり出来上がっていた。
「ダニー、食べられるかい?」
「あぁ、食うで、食うとも!マーティンの分まで食ってやる!」
ムール貝や鯛、オマール海老を皿一杯に盛り、むしゃむしゃ食べている。
今日はまた荒れるかな、アランはダニーの様子をじっと観察していた。
デザートのアフォガートが来る頃になって、ダニーは落ち着いてきた。
むしろ神経がぐるぐる回りすぎてがっくり憔悴した様子だ。
「さぁ、帰ろう」「ん」
アランの肩を借りる形で家路に着く。
部屋に入ると、ダニーは着替えもせずベッドに直行した。
「ほら、パジャマだよ」アランが丁寧に服を脱がせて着替えさせる。
ダニーはそんなアランに抱きついた。
「アラン、俺、胸が苦しい」
「そうか、抱きしめてもいいかい?」
ダニーは返事をする代わりにアランにキスを求めた。
久しぶりにアランとダニーはお互いの身体をむさぼりあった。
アランは、ダニーが誰を心に描いていたか分かっている。
それだからこそ、身体のあちこちに自分の印を残したアランだった。
ダニーが出勤した後、アランはトムに電話をかけた。
「アランか、夜勤明けで今寝てたんだぜ」
「すまない、実はフィッツジェラルドの件なんだが」
「お前でも手に負えないか」
「色々入り組んでてね」
「また催眠療法するか?」
「彼のトラウマの根っこを暴いていいものか迷っている」
「じゃあ今晩飯でも食いながら話すか」「ああ、有難い」
アランはトムとディナーの約束をして電話を切った。ダニーに電話する。
「今晩はトムと外食する事にしたから、申し訳ないがよろしく」
トムとやて?!ダニーはトムの告白を思い出していた。
20年も一人の人を思っていられるやろか。
ダニーはむしゃくしゃして乱暴にPCのキーボードを叩いた。
突然、かかえていた事件に進展があり、ボスとダニーは現場に直行した。
誘拐犯が今にも失踪者を拳銃で撃ち殺そうとしている現場に出くわし、ダニーが引き金を引いた。
誘拐犯は病院に搬送されたが死亡した。
失踪者は無事に戻ったものの、人一人の命を手にかけてしまった後味の悪さで、ダニーは早退した。
アランの家に帰る気にならず、思わず足はブルックリンのアパートに向いた。
鍵を開けると、中がほのかに温かい。
「??」ダニーが見渡すとソファーでマーティンが眠っていた。
周りにはピザの空き箱やアイスクリームのカップが転がっている。
「マーティン、マーティン、起きろや」
「うん?あ、ダニー、おかえり」
マーティンが、まぶしそうにダニーを見上げる。
「お前、いつからここにいたん?」
「夕方かなぁ」
「そうか、今日は、ここで飯食うか?」
「うん・・・僕、泊まってもいい?」
ダニーは驚いた。こいつ、ホロウェイといたんとちゃうん?
「もちろんや。俺、腕によりをかけて料理作ったる」「うん」
マーティンはまた目を閉じた。
マーティンが俺んとこにいる!
ダニーは事件を忘れて、買い物に出かけた。
旬のたけのことホタルイカ、クレソンと鴨肉を買ってくる。
たけのことホタルイカはパスタとあえてアラビアータにし、鴨肉とクレソンはソテーにした。
ダイニングに料理を並べて、マーティンを起こしに行く。
がつがつと食べてくれるマーティンが嬉しい。
「お前、食欲もどったんやな」
「このミニチュアのイカ美味しいね!」
「この季節だけのもんや」ダニーは威張って答える。
「僕、来週からオフィスに出るよ」
「お前がいないと忙しくて大変や」
ダニーは自然と笑みがこぼれるのを我慢できなかった。
「お前、ニックと、その・・・」
「ニックは僕の事、見ていてくれるから」
それだけ言って、マーティンはきっと唇をかみ締めた。
俺かて、お前の事、見てるのに!
ダニーは今すぐにでもマーティンを抱きしめたかった。が
突き飛ばされた思い出が、今も心の中のしこりになっていた。
ダニーがフルートで飲んでいると、スチュワートが入ってきた。
カウンターにいるダニーを見つけてひどく驚いている。
会うのは二週間ぶりだが、ダニーは今ではもう落ち着きを取り戻していた。
なんや、あいつ・・あれ以来会うてないからって、あんなに驚くことないのに。
「どうも、ドクター・バートン」
「お前、さっきまでマーティンと一緒にいなかったか?」
「いいや、オレは一時間前からここや」
スチュワートは怪訝な顔でダニーを詰問した。
「マーティンは?」
「さあ?オレは知らん。携帯に電話してみ」
「もうしたさ!」
スチュワートは不愉快そうにウォッカを飲んだ。
「どうしたん?」
「あいつが浮気してるなんて思わなかった!」
「浮気って・・あいつはそんなん絶対にしいひん」
ダニーはきっぱりと言い切った。
「さっき電話したらセックスしてたぜ。オレはお前と寝てるんだとばかり・・・」
くそっ!といいながら乱暴にグラスを置く。
「本人に確かめてみって。絶対にありえへん」
スチュワートはダニーの目をじっと見つめた。まだ半信半疑だ。
「ほんまに浮気やったら電話になんか出るわけないやん」
「・・・そうだな、それもそうだ」
ダニーの説明に納得したのか、ようやく落ち着きを取り戻した。
マーティン、ボスにやられてたんや・・・
ボスは鬼畜やからなぁ、機嫌でも損ねたんや・・それしか考えられへん。
こっそりスチュワートを見ると、さっきの怒りがすっかり消えていた。
「ドクター・バートン、オレはもう帰るわ」
「よそよそしい呼び方だな。トロイでいいのに」
「・・ほな、トロイ。オレもな、一応遠慮したんや」
「バーカ、遠慮なんてお前らしくないぞ。拍子抜けするだろ」
二人は拳をコツンと合わせて笑った。ダニーはチェックを済ませてバーを出た。
ダニーは、タクシーを拾うとマーティンのアパートに行った。
真っ暗で静まり返ったリビングに、水槽だけが明るく浮かんでいる。
ベッドルームの灯りをつけると、ベッドの上でマーティンがいつものように団子になっていた。
「マーティン、オレや」
「ダニィ・・・」
布団から顔を出したものの、しくしく泣きながら鼻をすすり、涙でぐしゃぐしゃだ。
「トロイに浮気してるって思われたんやろ?もう大丈夫や」
「え?どうして知ってるの?」
「さっきフルートで会うた。あいつに聞かれたらオナニーしてたって言うんや」
「そんなの信じるわけないよ」
「いいや、信じる。オレがそう仕向けといた」
ダニーはいたずらっぽい笑顔を浮かべると、やさしく涙を舐めた。
マーティンはこらえきれずに声を上げて泣いた。
「僕は・・僕はダニーにひどいことしてるのに・・・それなのに・・」
泣きすぎて、しゃっくりみたいなひくひくした音が止まらない。
胸にしがみついて泣かれ、ダニーのシャツは涙で濡れている。
「おいおい、お前の気持ちはわかったから。な、もう泣くな」
ダニーはぎゅっと強く抱きしめた。
抱きしめてあやしていると、マーティンの携帯が鳴った。スチュワートからだ。
「オレがいてるって言うなよ。わかったな」
マーティンは頷くと恐る恐る電話に出た。
「・・はい」
「オレ、その・・スチュワート」
「うん、さっきはごめんね。ヘンなとこ聞かせちゃって・・・」
二人が普通に話しているのを確認したダニーは、マーティンの肩にそっと触れるとアパートを出た。
帰りに買ってきたグレープフルーツをむいていると携帯が鳴った。
トロイと表示されている。急いで果汁でべとべとの手を拭って電話に出た。
「あ、オレ」
「おう、どうした?」
「やっぱりお前の言ったとおりだったよ。浮気じゃなかった」
「そうか、よかったな」
「ああ、ありがとう。えっと・・おやすみ」
ダニーは電話を切りながら、爪が伸びているのに気づいた。
「明日爪切ろ」
誰に言うわけでもなく宣言すると、またグレープフルーツに戻った。
アランはトムとミッドタウンの「バー・アメリケーン」でディナーを取っていた。
ひとしきりマーティンの症状の話をした後、それぞれの近況報告を始めた。
「お前、まだ独身主義を貫いているのかい?」
アランがワインを飲みながら尋ねる。
「あぁ、貧乏暇なしでね。恋愛が入る余裕がない」
「僕は毎日がローラー・コースターだよ」アランが苦笑した。
「うん、ダニーがマーティンといるところを見るとな、俺ですら、何が起こっているかわかるよ」
「・・・ダニーこそ本物だと思いたいんだが、無理なんだろうか」
アランがじっとトムを見つめる。トムは返事が出来ず、目をそらした。
「辛気臭いから、バーでも行くか?」トムが誘う。
「お前、明日の勤務は?」アランが気を遣う。
「幸いオフだ」
「じゃあ、ブルーバーにでも行こう!」
二人はアルゴンキンホテルに場所を移し、スコッチを飲み始めた。
二人でボトルを一本空け、いい気持ちになったところで、トムが囁いた。
「今日、お前の所に泊まってもいいかな?」
「うん?もちろん。何だかインターン時代みたいだな」
二人は肩を組んでタクシーに乗り込んだ。
アランのアパートに着くと中は真っ暗だった。
「おや、ダニーはまだかな?」
アランがそう言った瞬間、トムがアランの顔を自分の方に向けて、キスをした。
「おい!酔いすぎじゃないのか?」
面食らうアランをソファーに押し倒し、トムはアランのシャツのボタンをはずし始めた。
「アラン、俺・・・お前の事、会った時から好きだった」
「え?」
アランは抗うのを止めてトムの顔をじっと見た。
20年前、メディカルスクール出たての頃の瞳がそこにあった。
「お願いだ。一度だけでいい。思いを遂げさせてくれ!」
アランは一瞬考えたが、ゆっくり頷くとベッドルームへの道を示した。
二人は、服を脱ぎ散らかしながら、ベッドに入った。
アランを裸にすると、トムは自分の衣服を全て剥ぎ取った。
ダニーとは違う筋肉質の逞しい裸体があった。
「トム、一度だけだよな」アランが確かめるように言った。
「もう、何も言うな、俺のものになってくれ」
トムはベッドサイドにあったローションを自分のペニスとアランの局部に塗りたくり、
正常位で、アランの中に入っていった。
「あぁ・・」
「うぅ、お前、狭いな、すごい、俺いきそうだ」
「僕もだ、トム、早く動いてくれ」
トムはアランの両足を持ち上げると腰を打ちつけた。
「あぁ、はぁ、はぁ」アランの息が上がっていく。
「うぅ、もうダメだ、我慢出来ない!」
トムは速度を早め、アランの中に放った。
アランもトムが痙攣するのを感じ、トムの腹めがけて射精した。
トムはアランの胸に身体をあずけ、そのまま寝入った。
アランは、トムの身体を横に避け、ぼんやりする頭で今の出来事を反芻しながら、目を静かに閉じた。
ダニーが早朝、着替えるためアランのアパートに戻ると、シャワーを浴びて出てきたトムに出くわした。
上半身裸のトムは、思った以上に逞しく引き締まった身体をしていた。
「トム、一体、その姿何や!」
すでにダニーの心は戦闘モードだ。
「夜勤明けにしこたま飲んだんで、泊まらせてもらったよ」
トムはそれだけ言うとベッドルームに戻っていった。
いつも起きているはずのアランがいない。
ダニーは、釈然としない気持ちのまま、着替えて、オフィスに出勤した。
922 :
fusianasan:2006/04/05(水) 11:27:51
書き手1さん、アランはトムに取られてしまうのでしょうか。ダニーの気持ちが
揺らいでいるから、結局どちらも失いかねないですね。でも、アランとトムって
結構お似合いな気もするのでダニーはどうなるのでしょう。
書き手2さん、ダニーは二人とも好きなのに、仲を取り持つなんて健気な気持ち
に萌えました。やっぱりマーティンはスチュワートが1番なんでしょうか。ダニ
ーの笑顔が見たいです。
ダニーはグレープフルーツの薄皮をすべて取り、手を洗いにいった。
切らずにこうやって薄皮と種を取り除いてから食べるのが好きだ。
リビングへ戻ろうとするとインターフォンが鳴った。
誰やねん、今頃!ぶつくさ言いながら出た。
「はいはい、どちらさまなので?」
「バートン」
「トロイ?お前、何しに来たんや?」
「いいから開けろ」
ダニーは言われるままロックを解除した。
玄関のドアを開けると、照れくさそうなスチュワートが立っていた。
黙ったまま中に入り、うがいと手洗いを済ませる。
「お前、オレに会うの嫌なんやろ?」
ダニーはわざと素っ気ない言い方をした。
「オレ、きちんと謝りたくて・・・ごめん、本当に悪かった」
「ああ、わかった。もういいんや。食うか?」
グレープフルーツを勧めたが、まじまじと見ている。
「何だこれ?グレープフルーツ?」
「そうや」
「よくもまあ、こんなちまちまと・・普通は半分に切るだけだろ?」
スチュワートは呆れたようにダニーを見つめる。
「このほうがおいしいんや。ほら、食ってみ」
ダニーはフォークにさすとそっと口に入れてやった。
スチュワートも一つ摘むとダニーの口に入れた。
おいしい?と問われ、ダニーは言われるままこくんと頷いた。
何や、このシチュエーションは・・・動揺したダニーはいたたまれない。
「オレはまたむくから、お前それ食べ」
持っていたフォークを押しつけると、キッチンへ行こうとした。
「待てよ、一緒に食べよう」
スチュワートはダニーを座らせると交互にフォークを口に運んだ。
食べ終わったら帰るのかと思ったが、帰る気配もない。
「オレ、歯磨いたら寝るんやけど」
「いいね、そうしよう」
へ?こいつ、泊まる気?なんで?
ダニーにはスチュワートが何をしたいのかわからない。
理解できないまま歯を磨いてベッドに入った。
ダニーはなるべく気にしないようにして目を閉じた。
同じベッドでまた一緒に眠れるだけでもうれしい。
ふとスチュワートが動く気配がして、次の瞬間、唇を塞がれていた。
「んっ!」
生温かい舌が自分の口の中を占領している。
オレ、キスされてる・・・硬直したまま動けなかったが、だんだん腹が立ってきた。
「あほっ、やめろや!またオレをおちょくる気か!」
ダニーは突き飛ばすと胸元をつかんだ。
「違う、そうじゃない・・」
「ほななんや?お前が会わんほうがええって言うたんやろ!」
悔し涙で視界がぼやけてきたが、泣いてるなんて思われたくない。
乱暴に手を放すと背中を向けた。
「会わないって言ったのは・・お前を好きだと認めたくなかったから・・・好きになるのが怖かったんだ」
「え・・・・」
ダニーは呆然としたまま振り向いた。
「さっきの冷静なお前を見てわかった、オレはお前が好きなんだって」
グリーンの瞳が真剣に自分を見つめていた。
「トロイ・・・」
まだ何が起こったのかよくわからない。
二人は見つめあったまま動けず、時間だけが過ぎていった。
>>922 マーティンが一番好きなのはやっぱりダニーじゃないですかね?
ダニーもマーティンのことを大切にしてるし、いい関係が続くといいですね。
オフィスに着いたダニー、PCを立ち上げていると、
「ダニー、昨日はお手柄だったね」ヴィヴィアンに声をかけられた。
「ありがとう」とだけ答え、席につく。
気分が落ち着かないので、地下の射撃練習場で小一時間練習をして、席に戻った。
昨日の報告書を上げなければならない。ダニーはPCに向かった。
トム、ほんまにアランとは何にもなかったんやろか。
なんでベッドルーム覗かへんかったんや、俺。ぼけとるわ!
頭の中で同じ思いがぐるぐる回っていた。
やっとの事で報告書を上げると、定刻になっていた。
ダニーはわざと電話せずにアランのアパートに戻った。
「ハニー、お帰り、お疲れさん」
いつもと変わらぬアランの様子にほっとする。
「今日の晩飯は何?」
「ミートローフとアンディーブのサラダだけど、いいかな?」
「最高!」
ダニーは着替えると、アランの手伝いにキッチンに立った。
「俺、サラダ、作るわ」
「悪いね」
ダニーはアンディーブとルッコラを手で適当にちぎると、
バルサミコ酢とオリーブオイルのお手製ドレッシングを振りかけた。
ミートローフのいい匂いがする。
いつもと変わらぬ二人の食事だ。
ダニーが昨日、犯人を射殺した事を告白した。
家に帰れず、ブルックリンで一夜を過ごしたことも。
「辛かったろう」
アランが立ち上がり、ダニーの額にキスをする。
「もう慣れた、とは言い切れへんな」
ダニーはジンファンデルを一気に空けた。
「今日はロミロミ・マッサージをやってあげよう」
アランはそう言うと、グリルの中に黒い石を幾つか入れた。
「ありがとう、アラン」
ダニーは聞き出したい質問で頭が一杯だった。
昨日、トムと何かあったん?トムと寝たん?
「トム、昨日、泊まったんやね」
ダニーの突然の問いかけにアランの動きが止まった。
「ああ、トムの奴、夜勤明けに飲み過ぎて、熟睡していたよ」
アランのポーカーフェイスはいつも通りだった。
冗談めかして、ついに尋ねる。
「なぁ、トムとは何にもないんよね?」
「もちろん。奴は親友、それだけだ」
「ほんま?」「あぁ」
「ほんまにほんま?」
アランは苦笑しながら「しつこい子だな。何かあったら一体どうするんだ?」と聞いた。
「トムをしばく」
ダニーは拳を固めてアランに見せた。
この子ならやりかねない。絶対に知られてはならない。
ダニーのそばに寄り、優しく額にキスをした。ダニーが唇のキスをねだる。
ロミロミはやめだな・・・
アランはダニーと手をつないでベッドルームに向かいながらそう思った。
ダニーの胸をかばいながら、穏やかな抜き差しを繰り返すアラン。
ダニーは枕を腰の下に置き、挿入しやすくしていた。
「あぁ、アラン、俺、アランを愛してる・・」
ため息交じりの告白に、アランは動きを早めた。
「僕もだよ、ダニー、愛してる」
二人はそのまま同時に果てた。
>>922 さん
感想ありがとうございます。
うん、トムとアランが意外にしっくり来ているので驚いています。
が、ダニー&マーティン不滅論で、進めていきたいと思っていますよ。
今はダニーの試練の時。どっちつかずの功罪ですね。
トロイがオレのことを好きに?嘘やろ?
だが、目の前にいるスチュワートの真剣なまなざしは嘘ではなさそうだ。
ダニーは自分からキスをした。唇に触れるだけの軽いキスだ。
唇を離そうとすると頬に手が添えられ、舌が入ってきた。
そっと目を開けると、目を閉じたスチュワートが見えた。
自分も目を閉じて、思う存分キスを味わう。
二人は体を離すとどさっとベッドに寝転んだ。
何も言わないまま、もう一度引寄せられるようにキスをする。
もどかしいくらい長いキスをしたあと、お互いのシャツのボタンを外した。
ダニーの薄っぺらな胸に、鍛えられた胸が重なり合い、
柔らかな胸毛が触れて、全身がぞわっとした感覚に包まれた。
ダニーは体中を這い回る冷たく細長い指に翻弄されていた。
スチュワートは次々と敏感な部分を探り当てる。
「んんっ・・んっ」
こらえきれずに声を上げると、スチュワートはうれしそうにニヤリとした。
ダニーはたちまち真っ赤になる。
トランクスを脱がされ、ローションを垂らすと、とうとうアナルに指が入ってきた。
細長い指は容赦なく中で動き、ダニーはもう息も絶え絶えだ。
硬いものがあてがわれ、少しずつ中に入ってきた。痛みにうっと呻く。
「力抜いて、痛みが楽になるから」
マーティンのよりきついな・・・スチュワートはゆっくりと挿入した。
時間をかけて慣らしていくと、ようやく中に入った。
痛みを感じさせないように馴染ませてからやさしく動く。
「まだ痛い?」
「ちょっと」
ダニーは初体験のようにガチガチに緊張している。
スチュワートはキスをしながらダニーの緊張を解きほぐした。
抜き差しをくり返すうちに、ダニーは喘ぎ声を上げた。
スチュワートはダニーに合わせてゆっくりと腰を動かす。
「イキそうや・・・」
「ああ・・オレも」
苦しそうなダニーは、びくんと仰け反ると射精した。
スチュワートは最後まで激しく動かさず、壊れ物を扱うようにやさしく動くと中に出した。
大きな体が荒い息を吐きながら覆いかぶさり、ダニーは重たさに喘いだ。
スチュワートはダニーを押しつぶさないように横に寝転んだ。
ダニーは顔を合わせるのが恥ずかしくて横を向いたが、
後ろから耳を甘噛みされて感じてしまい、うっかり声を漏らした。
スチュワートはくすっと笑うと羽交い絞めにするように抱きしめた。
翌朝、ダニーが目覚めるとスチュワートの腕の中だった。
もぞもぞ動く気配にスチュワートも目を覚ます。
「ん・・おはよう・・」
ダニーはあわてて目を閉じた。狸寝入りしているとキスをされる。
「バカ、起きてるって知ってるぞ」
目を開けると少し眠そうなグリーンの瞳と目が合った。
二人はもう一度キスをしたが、胸がチクッと痛んだ。マーティンのことだ。
お互いに何も言わなかったが、マーティンのことを考えていた。
「シャワー浴びてくる」
「ああ」
ダニーはマーティンのことが話題になるのを恐れてベッドから出た。
残されたスチュワートは、以前マーティンが不貞行為だといって泣いたことを思い出していた。
翌朝、ダニーは「ほな行ってくる」と明るい表情で出て行った。
トムの件は納得してくれたんだろうか。
それにしても、あのトムが自分を想っていただなんて、なぜ気がつかなかったんだろう。
アランは自分の目が節穴だったのを呪った。
精神分析医だからこそ親しい友達の心理分析はご法度だというものの、
失態は失態だ。
だが、マーティンの件での唯一の相談相手でもある。
今後、今までと変わらぬ関係でいられるだろうか。
アランはため息をついた。
ダニーはランチタイムにオフィスを抜けて、市立病院に直行した。
受付でドクター・オニールを呼び出す。白衣姿のトムが現れた。
「来ると思ってたよ、ダニー」
トムが目じりに笑いジワを見せて微笑んだ。
「ちょっと話せへんか?」
「あぁ、じゃあ向かいのダイナーに行こう」二人は窓際の席に陣取る。
「それで、何が聞きたい?」
パストラミサンドを食べながらトムがダニーを見つめる。
「その・・あの・・アランと何かあったん?」
「やっぱりな。俺は熟睡していた。アランが俺の身体を弄んだかどうかは不明だ。これでいいか?」
「ほんま?」
「あぁ、アランの心の中は君で一杯だ。俺に入る隙間はないよ」
ダニーはふぅーっと安心のため息をつく。
「お前こそ、マーティンはどうするんだよ?」
「あいつにはニックがおるから・・・」
「諦められるのか?」
「わからへん・・」
「それなら話は別だ。お前がよそ見している間に、俺がアランを奪っても、恨むなよ」
そう言って、トムは笑いながら去っていった。
ダニーは、コーヒーを飲みながら、じっと考えていた。
あのトムの余裕は何やねん。
やっぱりマーティンとアランを俺が決められへんから、いけないんや。
ダニーは唇をかみ締めた。
その日は何事もなく一日を終えた。気持ちは最悪だ。
家に帰ると、アランが電話している最中だった。
「うん、考えさせてくれ。分かってくれよ、じゃあ切るぞ」
「ただいま、アラン」
「やぁおかえり」
「電話、何もめてるん?」
「あぁ、ちょっと難しい患者がいてね、僕には無理なんだ」
アランは話を断ち切り、キッチンに立った。
「今日は海老と貝柱のサラダとサーモンステーキだ」「うまそー!」
二人はダイニングで乾杯した。
「バストバンドも取れたし、肋骨も修復できて良かったな」
「うん、あれ、きつかったわ。もう二度と御免や。エッチも思うように出来へんかったし」
ダニーは顔を赤らめた。
「もうケンカに巻き込まれない事だな」
「うん・・でも売られたケンカはなぁ別やで」
これが、僕の大好きなダニーだ。
この細い身体の中で、魂が炎のように燃えている。
この炎を全て自分のものに出来る日は、一体来るんだろうか。
アランはシャルドネを飲みながら考えていた。
956 :
fusianasan:2006/04/07(金) 03:07:14
誘導されて、初めて来ました。
WATの世界がこんなに広がっているとは思いませんでした。
3時間かけて読んでいます。
これからも書き手1さん、書き手2さん、連載を続けてください。
もちろん、ダニーは関西弁でお願いします。
957 :
fusianasan:2006/04/07(金) 14:31:28
書き手2さん、昨晩のお話凄く良かったので、またどうしても書き込みしたくなって
書いてます。マーティンの事もあるけど、とにかくダニーの願いが叶って自分の事の
様に嬉しくて、ダニーに笑顔をと言っておきながらこちらが笑顔になってます。あり
がとうございました。
>>956 はじめまして。ご感想ありがとうございます。
ダニーの関西弁、承知しました。
>>957 いつも読んでいただきありがとうごさいます。
マーティンのことが気になりますが、とりあえずはよかったのかなと。
まだどうなるやらわかりませんが、喜んでいただけて光栄です。
ダニーがバスローブを着ていると、スチュワートが入ってきた。
「いいかな?」
「ん、オレはもう済んだから」
気恥ずかしくてそそくさとバスルームから出る。
そのまましばらく磨りガラス越しに映る裸体を見ていた。
キュッと音がしてシャワーの音が止んだ。
ダニーはあわててベッドルームへ入ると着替えを取り出した。
「お前、ずっと見てたろ?風邪引くぞ」
呆れたように笑うと腰に巻いたバスタオルを取る。
ダニーはペニスを見ないように横を向いた。
黙ってネクタイを渡すと、仕方ないなというように結んでくれた。
なんだかマーティンになったような気持ちだ。
「マーティンのことだけどさ、このこと話すべきかな」
「え・・あいつに言うん?」
「いや、どうしようかと思ってさ。オレはマーティンのことは真剣なんだ。
あっ、誤解するなよ、お前のことも遊びで寝たわけじゃないぜ」
疑ったダニーが試しに目を閉じると、スチュワートはそっとキスをしてくれた。
二人とも釈然としなかったが、相談してマーティンには言わないことに決めた。
支局に行くとマーティンが腫れぼったい目に目薬をさしていた。
「あ、おはよう。昨日はありがとう」
「うん」
ダニーは言葉少なに答えると、デスクにブリーフケースを置いた。
マーティンは何も知らずに自分を信じている。疑いさえもたないかもしれない。
今になって自分のしたことが恐ろしくなった。
「ダニー、これ見て!」
サマンサが出勤するなり写真を差し出した。
サマンサと例のベン・アフレックがモンスターと写っている。
「なんやこれ!」
「昨日ね、ジェフリーとジキル&ハイドクラブへ行ったの。すごくおもしろかったわよ」
「ふうん」
サマンサは辺りを見回すと小声になった。
「それがね、ボスとマーティンが来てたわよ。二人で。
やっぱりボスも、副長官の息子ともなると一緒に食事したりするのかしらね」
「オレもたまにメシぐらい行くけどな。ボス、どんな反応やったん?」
サマンサはフフンと傲慢な笑みを浮かべた。
「もうびっくり仰天って感じ。まあ、ジェフリーには普通に接してたけどね」
このあほ、お前のせいで昨日は大変やったんや・・・・
ダニーはサマンサに写真を返した。楽しそうにデスクに飾る様子をじとっと見つめる。
トイレから戻ってきたマーティンも、恨めしそうに写真を眺めていた。
サマンサは来たばかりのヴィヴィアンにも写真を見せてのろけている。
ダニーは、サマンサへの怒りをぐっと抑えているマーティンを正視できずに目を逸らした。
オレがトロイと寝たことを知ったら、こいつ死ぬんちゃうやろか・・・それか銃とか乱射しそうや・・
後ろめたさと罪悪感に苛まれながらも、またスチュワートに会いたいと思っていた。
支局に出勤すると、マーティンが来ていた。
サマンサとヴィヴィアンに囲まれて、笑顔で話している。
「おう、来たか!」
「ダニー、おはよう!久しぶりだね!」
「お前の分のペーパーワーク、俺やったんやから、奢れよ」
「うん、何でも言ってよ」
マーティンがそう答えるとサマンサも一口かんだ。
「私もやったんだから、一緒に奢って!」
「はいはい、お二人様ですね。ヴィヴィアンは?」
「私はいいよ、家で旦那とレジーと食べるわ」
今日は若手3人で街に繰り出す事にした。
マーティンの携帯が鳴る。
「うん、今オフィスだよ。出勤出来たよ。大丈夫だって。うん今日は同僚と食べる、じゃあね」
話を聞いていたサマンサがすかさずチェックを入れる。
「マーティンにも彼女出来たの?」
「まぁね」マーティンの頬が赤くなる。
「なんだ、うちのボーイズ、もう売約済みなんだ!」
ダニーはニックからの電話だとすぐに分かり、横目でマーティンを見ていた。
マーティンの内線が鳴る。
「はい?あぁ、通してください」
マーティンは大忙しだ。やって来たのはケンだった。
マーティンはすぐ応接室に通した。
「ケン、何の用なの?」
「もう傷は大丈夫?」
「・・あぁ、まあね」
「実はパリの事件で事情聴取したいんだよ」
「え?」
「去年から20代から30代の男性の誘拐事件が多発していてね、
必ず、マルセイユで見つかるんだ。何名かは死亡している。
マーティン、協力してもらえない?」
マーティンは沈み込んだ。もう思い出したくない屈辱にまみれた4日間なのだ。
実際、記憶が失われている部分が多かった。
「断っちゃだめ?」
「次の犠牲者を出さないためにも協力して欲しい。僕の携帯番号知ってるよね。待ってるから」
それだけ言うとケンは出て行った。
心に封印した4日間をまた掘り起こされるのは御免だ。
ダニーが応接室に入ってくる。
「ケン、何やて?」
「あ、また飲みに行こうってお誘い」
ダニーはケンの表情がいつになく真剣だったのが気になっていた。
仕事がらみに違いない。
俺にもウソつくのか、マーティン!俺は、お前にとってそんな存在になってんのか!
帰りにサマンサ、ダニー、マーティンはユニオンスクウェアの「BLTフィッシュ」に出かけた。
たらふくシーフードを堪能して店の前で3人別れる。
レディーファーストでタクシーにサマンサを乗せた後、二人は顔を見合わせた。
「これからどうする?」ダニーはマーティンとの溝を埋めたかった。
「僕、ニックんとこに寄るから、ここでバイバイ」
手を振られて、タクシーに乗り込むマーティンを見送る。
ダニーはまっすぐ帰る気になれず、「エルシド・タパス」に寄った。
モヒートを頼み、タバコに火をつける。
隣りに男が寄ってきた。
「モヒート?キューバの人?」声をかけられる。
「両親はキューバや。俺はマイアミ出身」
「僕も。ミゲル、よろしく」
ダニーと同じ黒髪、茶色の瞳の青年だった。
二人でテキーラの飲み比べをして、したたか酔っ払ったダニーは、言われるがままに、
ミゲルが住むアパートを訪れた。
部屋に入り、ダニーは大きなベッドに飛び込んだ。
気がつくと、ミゲルがダニーの裸の乳首にキスをしていた。
「お、おい?」「FBIのバッジと拳銃はベッドサイドだよ。僕に手錠かけてよ」
「俺、そんな気なかった・・」
「そんなの言わせないよ。だってここがこんなになってる」
ダニーのペニスは先走りの液でヌラヌラ光っていた。
「僕、怪しい奴じゃないよ。ねぇ、ダニーっていうんでしょ。楽しもうよ」
ミゲルはボディーオイルを自分の後ろとダニーの屹立したペニスに塗りこみ、
ダニーの上に座り込んだ。ロデオのように上下左右に動き回る。
ダニーは摩擦で、もうイキそうだ。
「ミゲル・・俺、我慢できへん」
「きてよ、ダニー、僕の中に!」
ダニーはその通りミゲルの中ではぜた。
のろのろと洋服を着て、帰ろうとするダニーにミゲルは名刺を渡した。
大手証券会社「リーマン・ブラザーズ」の名刺だ。
「電話待ってるね、ダニー、楽しかった。」
ダニーは最低の気持ちで、タクシーを拾い、アッパーウェストエンドに戻った。
浮気の痕跡を全て消してしまいたい!
熱いシャワーを浴びていると、アランが書斎からやってきた。
「遅かったね」
「ごめん、連絡しないで」
「ベッドで待ってるよ」
「うん、すぐ行く」
ダニーは最低の気持ちのままバスローブを羽織った。
>>956 さん
書き手2さんも同意の通り、ダニーは関西弁でいきますよ〜!